説明

高強度チタンシリコンカーバイド基複合材料及びその製造方法

【課題】高い強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多結晶チタンシリコンカーバイドの結晶粒を配向させ、大部分の結晶のc面が一方向に揃った組織のチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織で、その強度が従来の多結晶チタンシリコンカーバイドより大きいことを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料、及びこの複合材料に10〜20体積パーセントの炭化ケイ素ウィスカが分散した組織で、更に、高強度であることを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料、及びチタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末を用いて、上記チタンシリコンカーバイド基複合材料を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度チタンシリコンカーバイド基複合材料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、従来の多結晶チタンシリコンカーバイドの強度を改善し、構造用セラミックスとしての用途を拡げることを可能とする高強度チタンシリコンカーバイド基複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンシリコンカーバイドのバルク材は、チタン、ケイ素、炭素、あるいはチタン、ケイ素、炭化チタン、あるいはチタン、炭化ケイ素、炭素、あるいはチタン、炭化ケイ素、炭化チタンの混合粉末を、常圧焼結又は加圧焼結することにより合成されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
これらの方法により合成されたチタンシリコンカーバイドは、図1に示すように、多結晶で結晶粒の結晶方位がランダムである。この多結晶チタンシリコンカーバイドの4点曲げ強度は、チタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末の加圧焼結により合成された、ち密で、結晶方位がランダムな多結晶のチタンシリコンカーバイドで、260MPa±20MPaである(非特許文献1)。
【0004】
また、チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末の加圧焼結により合成された、ち密で、結晶方位がランダムな多結晶のチタンシリコンカーバイドで、335MPa±15MPa(本発明者ら、未発表データ)であり、これらは、構造用セラミックスである炭化ケイ素(400MPa)、アルミナ(460MPa)、窒化ケイ素(800MPa)、部分安定化ジルコニア(1200MPa)に比較して、低い値となっている。そのため、このことが、構造用セラミックスとしての用途が少ない原因となっている。
【0005】
チタンシリコンカーバイドの結晶は、炭化チタンと同等の結晶格子が2つ連結したものと、ケイ素原子層が結晶のc軸方向に交互に配置した構造である。炭化チタン結晶格子内の原子の結合は強いが、ケイ素原子層と炭化チタン結晶格子の間の結合が弱いため、ここで破断しやすい。そのため、結晶のc面に平行な面が壁開面となる。
【0006】
したがって、結晶のc面に垂直な方向に引張応力が作用するか、c面に平行な方向のせん断応力が作用した場合、結晶は容易に破断する。焼結体が多結晶で、結晶粒の結晶方位がランダムな場合、焼結体に作用する応力が一方向の引張など、単純で一様であっても、引張りや、せん断応力に対して容易に破断する結晶方位の結晶粒が必ず存在するため、クラックは、結合力の弱い壁開面を選びながら進行し、低い強度を示す。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5942455号明細書
【特許文献2】特開2003−020279号公報
【非特許文献1】M.W.Barsoum and T.El−Raghy,Journal of American Ceramic Society,Vol.79, 1996,pp.1953−1956
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来の多結晶チタンシリコンカーバイドが示す低い強度を改善した高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、多結晶チタンシリコンカーバイドの結晶粒を配向させ、炭化チタンが分散した組織とすることにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、従来の結晶粒の結晶方位がランダムな多結晶チタンシリコンカーバイドが示す低い強度を改善した高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)多結晶チタンシリコンカーバイドの結晶粒を配向させて強度を改善したチタンシリコンカーバイド基複合材料であって、結晶のc面が一方向に揃った組織のチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有し、その強度が、通常の多結晶チタンシリコンカーバイドより大きいことを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料。
(2)粒子径が5μmより小さい微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有する、前記(1)に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
(3)4点曲げ強度が、室温で平均524MPa、500℃で平均681MPa、800℃で平均635MPaを満たしている、前記(1)又は(2)に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
(4)上記複合材料に10〜20体積パーセントの炭化ケイ素ウィスカが分散した組織を有し、更に高強度であることを特徴とする前記(1)に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
(5)4点曲げ強度が、室温で平均990MPa、500℃で平均996MPa、800℃で平均937MPaを満たしている、前記(4)に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料からなることを特徴とする構造用セラミックス部材。
(7)チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末を、真空又は不活性ガス中で加熱して反応させることにより、チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料を合成した後、これを、粒子径が20μmより小さくなるまで粉砕し、粉砕粉、又は粉砕粉に炭化チタン粉末を混合したものを加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。
(8)チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末を、真空又は不活性ガス中で加熱して反応させることにより、チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料を合成した後、これを、粒子径20μmより小さくなるまで粉砕し、粉砕粉に、炭化ケイ素ウィスカ又は炭化チタン粉末と炭化ケイ素ウィスカを混合し、混合粉を加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。
(9)焼結温度が、1170〜1400℃である、前記(7)又は(8)に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、多結晶チタンシリコンカーバイドの結晶粒を配向させて強度を改善したチタンシリコンカーバイド基複合材料であって、結晶のc面が一方向に揃った組織のチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有し、その強度が、通常の多結晶チタンシリコンカーバイドより大きいことを特徴とするものである。本発明では、粒子径が5μmより小さい、望ましくは1μmより小さい微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有することを好ましい実施の態様としている。
【0011】
また、本発明は、上記チタンシリコンカーバイド基複合材料を製造する方法であって、曲げ強度が、室温で平均524MPa、500℃で平均681MPa、800℃で平均635MPaであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉を加熱して反応させることにより、チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料を合成した後、これを、粒子径が20μm以下になるまで粉砕して、大部分の粒子を、一つの粒子が一つの結晶粒から構成されるようにする。
【0013】
大部分の粒子は、チタンシリコンカーバイド結晶のc面を広い面とする扁平な粒子であり、これを加圧焼結することにより、図2に示すように、大部分の粒子の広い面、すなわち、結晶のc面が加圧軸に垂直な方向に揃った焼結体を作製することができる。
【0014】
壁開面であるc面に垂直な方向に引張応力が作用するか、c面に平行な方向のせん断応力が作用した場合は、焼結体は、容易に破断するが、c面に平行な方向に引張応力が作用した場合は、焼結体は、容易には破断しない。この強度の異方性を利用することにより、特定の方向に対する強度を著しく増加させることができる。
【0015】
チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料の粉砕粉を加圧焼結する際に、高温でチタンシリコンカーバイドの分解反応が生じ、高硬度の炭化チタンが析出する。これを利用して、図3に示すように、大部分の結晶粒が配向してc面が一方向に揃ったチタンシリコンカーバイドに炭化チタン粒子が分散した硬質で高強度の複合材料を合成する。
【0016】
炭化チタン粒子の分散により、チタンシリコンカーバイドの強度と硬さは増加する。炭化チタン粒子は、析出による分散に加えて、チタンシリコンカーバイドの粉砕粉に炭化チタン粉末を混合して焼結し、分散させることもできる。
【0017】
チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料の粉砕粉又はそれらの粉砕粉に、炭化チタン粉末を混合したものに、炭化ケイ素ウィスカを混合し、これを加圧焼結することにより、大部分の結晶粒が配向してc面が一方向に揃ったチタンシリコンカーバイドに炭化チタン粒子と炭化ケイ素ウィスカが分散した硬質で高強度の複合材料を合成可能である。炭化ケイ素ウィスカの分散により、強度と硬さは、更に増加する。
【0018】
次に、本発明の高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法について説明する。チタン(Ti)、ケイ素(Si)、炭化チタン(TiC)又はチタン(Ti)、炭化ケイ素(SiC)、炭素(C)の粉末を、Ti:Si:TiC=2:2:3のモル比又はTi:SiC:C=3:1:1のモル比で、タービュラミキサなどの混合装置により混合する。
【0019】
混合時間は、用いる混合装置、原料粉末の粒子径、混合粉末量により変化するが、通常、1〜50時間の範囲である。これを、アルミナルツボに入れて、真空炉により1250〜1400℃で2〜3時間加熱する。これによって、チタンシリコンカーバイド又は三ケイ化五チタンをわずかに含むチタンシリコンカーバイド複合材料又は炭化チタンをわずかに含むチタンシリコンカーバイド複合材料を合成する。
【0020】
合成したチタンシリコンカーバイド又は複合材料を、乳鉢等で粗く砕いた後、ボールミルを用いて、粒子径が20μm以下、好ましくは10μm以下になるまで粉砕する。これによって、大部分の粒子が一つの結晶粒から構成されるようになる。
【0021】
この粉末を、カーボン製焼結型に充填し、パルス通電加圧焼結装置等のいわゆるホットプレスにより加圧焼結すると、大部分の結晶粒の結晶のc面が加圧軸に垂直な方向に揃った多結晶チタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織の複合材料が得られる。
【0022】
加圧焼結条件は、カーボン製焼結型の寸法、形状、粉末量によって変化するが、通常、圧力が50MPa、焼結温度が1170〜1400℃、保持時間が10分〜15分である。より硬質の複合材料を合成する場合は、粉砕粉に、炭化チタン粉末を添加し、混合機により混合した粉末を加圧焼結する。添加量は、目的の硬度が得られる量を実験的に決定する。
【0023】
合成したチタンシリコンカーバイド又は複合材料の粉砕粉に、炭化ケイ素ウィスカを10〜20体積%添加し、ボールミリングにより混合する。混合時間は、ボールミル装置、ミリング媒体、粉末充填量、ボールミリング条件により変化するが、回転ボールミル装置を用い、ミリング媒体として直径5mmのセラミックボールを用いた場合、通常、20〜40時間の範囲である。
【0024】
混合粉末を、カーボン製焼結型に充填し、パルス通電加圧焼結装置などにより加圧焼結すると、大部分の結晶粒の結晶のc面が加圧軸に垂直な方向に揃ったチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子と炭化ケイ素ウィスカが分散した組織の複合材料が得られる。加圧焼結条件は、カーボン製焼結型の寸法、形状、粉末量によって変化するが、通常、圧力が50MPa、焼結温度が1170〜1400℃、保持時間が10分〜15分である。
【0025】
本発明により、大部分の結晶のc面が一方向に揃った組織のチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有するチタンシリコンカーバイド基複合材料の場合、曲げ強度は、室温で平均524MPa、500℃で平均681MPa、800℃で平均635MPaを満たしている。
【0026】
また、本発明により、上記複合材料に10〜20体積パーセントの炭化ケイ素ウィスカが分散した組織を有する複合材料の場合、曲げ強度は、室温で平均990MPa、500℃で平均996MPa、800℃で平均937MPaを満たしている。
【0027】
本発明のチタンシリコンカーバイド基複合材料は、従来の多結晶チタンシリコンカーバイドの強度を改善し、高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料としたものであり、しかも、導電性、耐熱衝撃性などの性質を有していることから、従来、利用することが難しかった多結晶チタンシリコンカーバイドを構造用セラミックス部材として使用することを可能とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)従来の多結晶チタンシリコンカーバイドの強度を改善し、構造用セラミックスとして有用な高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料を提供することができる。
(2)上記高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法を提供することができる。
(3)上記高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料からなる構造用セラミックス部材を提供することができる。
(4)多結晶チタンシリコンカーバイドの強度を向上させて構造用セラミックスとしての用途を拡大することができる。
(5)チタンシリコンカーバイドにクラックの進展を止めるメカニズムがあるため、上記高強度チタンシリコンカーバイド基複合材料は耐損傷性に優れており、傷に強い長寿命の構造用部材として用途を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。すなわち、本発明は、その技術的思想の範囲である限り、以下の実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【実施例1】
【0030】
チタン粉末(純度99.9%、粒子径45μm以下)、ケイ素粉末(純度99.9%、粒子径10μm以下)、炭化チタン粉末(純度99%、平均粒子径1.72μm)をTi:Si:TiC=2:2:3のモル比で、トータルが200gとなるよう秤量し、タービュラミキサで24時間混合した。
【0031】
これを、アルミナ製容器(蓋付)に入れ、電気炉にて1400℃で2時間真空熱処理した。熱処理後は、若干焼結して固化していたので、陶製乳鉢を用いて、すべての試料が目開き0.71mmの篩を通過するまで砕いた。この粉末を、セラミック製ミル容器に直径10mmのセラミックボールと共に充填し、振動ボールミル装置で20時間粉砕した。
【0032】
粉砕粉末のX線回折ピークを測定したところ、チタンシリコンカーバイドの強いピークと三ケイ化五チタンの弱いピークだけが確認され、三ケイ化五チタンをわずかに含むチタンシリコンカーバイドの粉末であることを確認した。粉砕粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ、大部分が一つの結晶粒からなる扁平な形状の粒子であった。
【0033】
粉末の顕微鏡写真を画像処理ソフトウェアにより処理して、300個の粒子の円相当径を測定したところ、全て10μm以下であった。この粉末約45gを内径50mmの円筒形カーボン製焼結型に充填し、ホットプレスの一種であるパルス通電加圧焼結装置を用いて、真空中で焼結温度1350℃、加圧圧力50MPa、保持時間15分の条件で加圧焼結し、円盤状の焼結体を得た。
【0034】
焼結体の加圧軸に垂直な面を研削して平面とし、この面についてX線回折ピークの測定を行ったところ、チタンシリコンカーバイドの強いピークと炭化チタンの弱いピークだけが確認された。
【0035】
チタンシリコンカーバイドの(104)ピークの強度と炭化チタンの(200)ピークの強度から、計算式(Z.F.Zhang,Z.M.Sun,H.Hashimoto, Mettallurgical and Materials Transactions,33A,2002,pp.3321−3328)を使って算出した炭化チタンの含有量は22体積%であった。
【0036】
チタンシリコンカーバイドのピークは、JCPDSカードに記載されたピークと異なり、(004)、(006)、(008)など、結晶のc面からの回折ピークが強く、最も強いピークとされる(104)の回折ピークよりも(008)の回折ピークが強いことが分かった。
【0037】
したがって、多くの結晶粒のc面が加圧軸に垂直な面に平行な方向に配向していることが分かった。JCPDSカードに記載された(104)と(008)の回折ピーク強度Iの比は、I(008)/I(104)=0.19であるのに対して、当該焼結体では、I(008)/I(104)=2.52であった。
【0038】
この焼結体から、幅4mm、厚み2mm、長さ36mmの4点曲げ試験片を試験片の幅方向が荷重軸方向と一致するように放電加工機により切り出した。切り出した試験片は、研磨し、鏡面に仕上げた。この試験片をJIS規格R1601及びR1604に規定されたセラミックスの室温及び高温曲げ試験法に準拠して、室温、500℃、800℃において、4点曲げ試験を行った。
【0039】
試験数は、1温度水準につき3本とした。図4に示すように、曲げ強度は、室温で、平均524.0MPa、標準偏差140.5MPa、500℃で、平均681.1MPa、標準偏差19.6MPa、800℃で、平均635.1MPa、標準偏差48.3MPaであった。
【0040】
比較のため、チタン粉末(純度99.9%、粒子径38μm以下)、ケイ素粉末(純度99.9%、粒子径10μm以下)、炭化チタン粉末(純度99%、平均粒子径1.72μm)を、Ti:Si:TiC=2:2:3のモル比で、タービュラミキサで24時間混合した粉末を内径50mmの円筒形カーボン製焼結型に充填し、ホットプレスの一種であるパルス通電加圧焼結装置を用いて、真空中で焼結温度1350℃、加圧圧力50MPa、保持時間15分の条件で加圧焼結した。
【0041】
焼結体の加圧軸に垂直な面を研削して平面とし、この面についてX線回折ピークの測定を行ったところ、チタンシリコンカーバイドの強いピークと三ケイ化五チタンの弱いピークだけが確認された。チタンシリコンカーバイドの(104)と(008)の回折ピーク強度Iの比は、I(008)/I(104)=0.29で、JCPDSカードに記載された0.19に近い値であり、結晶粒の配向は、ほとんど無いことが分かった。
【0042】
この焼結体についても、同様な方法で4点曲げ試験片を切り出した。切り出した試験片は、研磨し、鏡面に仕上げた。この試験片をJIS規格R1601及びR1604に規定されたセラミックスの室温及び高温曲げ試験法に準拠して、室温、500℃、800℃において、4点曲げ試験を行った。
【0043】
試験数は、1温度水準につき4〜5本とした。図4に示すように、曲げ強度は、室温で、平均334.8MPa、標準偏差15.0MPa、500℃で、平均323.0MPa、標準偏差29.1MPa、800℃で、平均347.1MPa、標準偏差6.6MPaであった。
【0044】
したがって、結晶粒を配向させて大部分の結晶粒の結晶のc面が加圧軸に垂直な方向に揃った多結晶チタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織の複合材料の曲げ強度は、結晶粒が配向していない多結晶チタンシリコンカーバイドに比較して、室温で、524.0MPa÷334.8MPa=1.57倍、500℃で、681.1MPa÷323.0MPa=2.11倍、800℃で、635.1MPa÷347.1MPa=1.83倍と、どれも1.5倍以上となった。
【実施例2】
【0045】
チタン粉末(純度99.9%、粒子径45μm以下)、ケイ素粉末(純度99.9%、粒子径10μm以下)、炭化チタン粉末(純度99%、平均粒子径1.72μm)を、Ti:Si:TiC=2:2:3のモル比で、トータルが200gとなるよう秤量し、タービュラミキサで24時間混合した。これをアルミナ製容器(蓋付)に入れ、電気炉にて1400℃で2時間真空熱処理した。
【0046】
熱処理後は、若干焼結して固化していたので、陶製乳鉢を用いて、すべての試料が目開き0.71mmの篩を通過するまで砕いた。この粉末をセラミックス製ミル容器に直径10mmのセラミックボールと共に充填し、振動ボールミル装置で20時間粉砕した。粉砕粉末のX線回折ピークを測定したところ、三ケイ化五チタンをわずかに含むチタンシリコンカーバイドの粉末であることを確認した。粉砕粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ、全て10μm以下であった。
【0047】
この粉末に、10体積%、15体積%、20体積%となるように、炭化ケイ素ウィスカ(純度99.3%、直径0.3〜0.6μm、長さ5〜15μm)を混合し、セラミック製のミル容器とボール(直径5mm)で、40時間回転ボールミリングを行った。それぞれの混合粉末約45gを内径50mmの円筒形カーボン製焼結型に充填し、ホットプレスの一種であるパルス通電加圧焼結装置を用いて、真空中で焼結温度1350℃、加圧圧力50MPa、保持時間15分の条件で加圧焼結し、円盤状の焼結体を得た。
【0048】
焼結体の加圧軸に垂直な面を研削して平面とし、この面についてX線回折ピークの測定を行ったところ、チタンシリコンカーバイド、炭化ケイ素、炭化チタンのピークが確認された。また、15体積%、20体積%炭化ケイ素ウィスカを混合したものでは、未同定のピークが見られた。
【0049】
チタンシリコンカーバイドの(104)と(008)の回折ピーク強度Iの比は、10体積%炭化ケイ素ウィスカを混合したものでは、I(008)/I(104)=3.52、15体積%では、I(008)/I(104)=3.12、20体積%では、I(008)/I(104)=2.06であり、どれも多くの結晶粒のc面が加圧軸に垂直な面に平行な方向に配向していることが分かった。
【0050】
この焼結体から、幅4mm、厚み2mm、長さ36mmの4点曲げ試験片を、試験片の幅方向が荷重軸方向と一致するように放電加工機により切り出した。切り出した試験片は、研磨し、鏡面に仕上げた。この試験片をJIS規格R1601及びR1604に規定されたセラミックスの室温及び高温曲げ試験法に準拠して、室温、500℃、800℃において、4点曲げ試験を行った。試験数は、1温度水準につき2〜4本とした。
【0051】
図4に示すように、曲げ強度は、どの温度でも15体積%の炭化ケイ素ウィスカを混合した焼結体が最大となり、室温で、平均990.3MPa、標準偏差107.0MPa、500℃で、平均995.9MPa、標準偏差163.6MPa、800℃で、平均936.8MPa、標準偏差103.7MPaであった。
【0052】
したがって、大部分の結晶粒の結晶のc面が加圧軸に垂直な方向に揃ったチタンシリコンカーバイドに、微細な炭化チタン粒子と15体積%の炭化ケイ素ウィスカが分散した組織の複合材料の曲げ強度は、結晶粒が配向していない多結晶チタンシリコンカーバイドに比較して、室温で、990.3MPa÷334.8MPa=2.96倍、500℃で、995.9MPa÷323.0MPa=3.08倍、800℃で、936.8MPa÷347.1MPa=2.70倍と、どれも2.5倍以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上詳述したように、本発明は、従来の多結晶チタンシリコンカーバイドの強度を改善して、アルミナや窒化ケイ素などの構造用セラミックスと比較して、遜色ない強度を持たせたチタンシリコンカーバイド基複合材料及びその製造方法に係るものであり、本発明により、アルミナや窒化ケイ素にはない導電性、耐熱衝撃性など、チタンシリコンカーバイドの多様な性質を活かした新しい構造用セラミックスとしての用途を拡大することができる。例えば、人工衛星などの姿勢制御に使用されるジャイロセンサーは、超高速で回転する円盤の姿勢が変わらないことを利用するもので、回転を安定させるため、円盤に作用する強大な遠心力に対する変形抵抗、すなわち、ヤング率が高く、高強度の材料が必要で、アルミナなどのセラミックスが使用される。本発明による高強度のチタンシリコンカーバイド基複合材料は、ヤング率が高く、高強度で、導電性があるため、電磁誘導によって回転の駆動力を与えることができるなど、従来のセラミックスより好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】結晶粒無配向のチタンシリコンカーバイドの破面の組織を示す走査型電子顕微鏡写真であり、平面状の各結晶粒の壁開面の方向がランダムになっていることから、結晶粒の方位がランダムであることが分かる。
【図2】結晶粒を配向させたチタンシリコンカーバイド−炭化チタン複合材料の破面の組織を示す走査型電子顕微鏡写真であり、壁開面はほとんど見当たらず、結晶粒の層状組織が荷重方向に対して垂直に配向している結晶粒が多いことが分かる。
【図3】結晶粒を配向させたチタンシリコンカーバイド−炭化チタン複合材料の破面の組織を示す走査電子顕微鏡写真であり、チタンシリコンカーバイドの分解によって析出した炭化チタン粒子のサイズがナノオーダーであることが分かる。
【図4】結晶粒無配向のチタンシリコンカーバイド、結晶粒を配向させたチタンシリコンカーバイド−炭化チタン複合材料及び結晶粒を配向させたチタンシリコンカーバイド−炭化チタン−炭化ケイ素ウィスカ複合材料の、室温、500℃、800℃における4点曲げ強度を表わす図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶チタンシリコンカーバイドの結晶粒を配向させて強度を改善したチタンシリコンカーバイド基複合材料であって、結晶のc面が一方向に揃った組織のチタンシリコンカーバイドに微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有し、その強度が、通常の多結晶チタンシリコンカーバイドより大きいことを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料。
【請求項2】
粒子径が5μmより小さい微細な炭化チタン粒子が分散した組織を有する、請求項1に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
【請求項3】
4点曲げ強度が、室温で平均524MPa、500℃で平均681MPa、800℃で平均635MPaを満たしている、請求項1又は2に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
【請求項4】
上記複合材料に10〜20体積パーセントの炭化ケイ素ウィスカが分散した組織を有し、更に高強度であることを特徴とする請求項1に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
【請求項5】
4点曲げ強度が、室温で平均990MPa、500℃で平均996MPa、800℃で平均937MPaを満たしている、請求項4に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料からなることを特徴とする構造用セラミックス部材。
【請求項7】
チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末を、真空又は不活性ガス中で加熱して反応させることにより、チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料を合成した後、これを、粒子径が20μmより小さくなるまで粉砕し、粉砕粉、又は粉砕粉に炭化チタン粉末を混合したものを加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。
【請求項8】
チタン、ケイ素、炭化チタンの混合粉末、又はチタン、炭化ケイ素、炭素の混合粉末を、真空又は不活性ガス中で加熱して反応させることにより、チタンシリコンカーバイド又はチタンシリコンカーバイドを主成分とする複合材料を合成した後、これを、粒子径20μmより小さくなるまで粉砕し、粉砕粉に、炭化ケイ素ウィスカ又は炭化チタン粉末と炭化ケイ素ウィスカを混合し、混合粉を加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。
【請求項9】
焼結温度が、1170〜1400℃である、請求項7又は8に記載のチタンシリコンカーバイド基複合材料の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−162875(P2008−162875A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84(P2007−84)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】