説明

高強度溶融亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法

【課題】 本発明は、高強度溶融亜鉛めっき鋼板において、還元焼鈍炉のみの設備であっても、不めっきが生じ易いとされるSi,Mn,Alを比較的多く含有する鋼板を素地とした場合であっても、不めっきが生じず、しかも高張力で且つ加工性や表面性状にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に提供する。
【解決手段】 鋼板中のSi,Mn,Alを含有した場合でもNiを添加させることにより鋼板表層の一部に酸化物が形成することによって酸化物の形成していない部分でSi,Mn,Alの表面濃化が抑制されることで良好なめっき性を確保し、さらにMo,Cu,Sn添加でNiの効果を増加させ酸化物生成促進、さらにTRIPにおいてはSi,Alの範囲を厳格に定め、Ni添加でめっき性低下を回避しつつ、Moも添加、バランスさせてオーステナイトを確保する。また、本発明は、TRIPにおいては残留オーステナイト分率を規定してプレス性を向上させ、めっき前の焼鈍条件の水素濃度、露点を規定して酸化物の生成を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用防錆鋼板などに使用される溶融亜鉛めっき鋼板に関するものであり、特に、590MPa〜1080MPa程度の引張り強さを有し、めっき性に悪影響があるとされるSi,Mn,Alが添加された、プレス成形時の張出し成形性に優れた鋼板に関するものである。ここで、めっき性とはめっき外観とめっき密着性の両方をさしている。なお、本発明で対象とする溶融亜鉛めっき鋼板とは、通常の溶融亜鉛めっき鋼板は無論のこと、めっき層付着後に合金化処理のために熱処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含むものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止を目的とした二酸化炭素排出抑制策として、新たな自動車燃費改善目標が設定され、低燃費車優遇税制が導入されるなど、自動車燃費改善の必要性が高まっている。自動車の軽量化は燃費改善手段として有効であり、こうした軽量化の観点から素材の高張力化が強く要求されている。ところが、一般に材料のプレス成形性は強度が上昇するに従って劣化するので、上記部材の軽量化を達成するためには、プレス成形性と高強度性の両特性を満足する鋼板の開発が求められている。成形性の指標値には引張試験における伸びをはじめとしてn値やr値があるが、一体成形によるプレス工程の簡略化が課題となっている昨今では均一伸びに相当するn値の大きいことがなかでも重要になってきている。
【0003】
そして、溶融亜鉛めっき鋼板においても高張力化が必要となるが、高張力化と加工性を両立させる為には、Si,Mn,Al等の元素の添加が必要である。しかしながら、鋼板の成分としてこれらSi,Mn,Alが含有されていると、還元性雰囲気中の焼鈍時にめっき層との濡れ性の悪い酸化物が生成され、これが鋼板表面に濃化して鋼板のめっき性を劣化させるという問題がある。即ち、Si,Mn,Al等の元素は、易酸化性元素という理由から還元性雰囲気中で優先的に酸化されて鋼板表面に濃化し、これがめっき濡れ性を著しく劣化させ、いわゆる不めっき部分を発生させてめっき外観を損なうことになる。
【0004】
そのため、溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造するには、上記の様なSi,Mn,Alなどを含む酸化物の生成を抑制することが不可欠である。こうした観点から、これまでにも様々な技術が提案されており、例えば特開平7−34210号には、酸化・還元式の設備において焼鈍炉の予熱帯にて酸素濃度が0.1〜100%の雰囲気で板温:400〜650℃に加熱してFeを酸化させた後に、通常の還元焼鈍および溶融亜鉛めっき処理を行なう方法が提案されている。しかしながらこの方法においては、その効果が鋼板中のSi含有量に依存することになるので、Si含有量の高い鋼板についてはめっき性が十分であるとは言えない。尚、めっき層を形成した直後であれば、不めっきの生じない状態が得られることもあるが、めっき密着性が十分でないので、めっき層形成後に溶融亜鉛めっき鋼板に種々の加工が施される際に、めっき剥離等の問題が生じることがある。即ち、鋼板の加工性を向上させる為には、Si添加が必須の要件になるのであるが、上記の様な技術ではめっき性を確保するための制約から加工性向上に必要な量を添加することができず、根本的な解決手段にはなり得ないのである。また、この方法では酸化・還元式の設備にしか対応できないため、還元焼鈍のみの設備では用いることができないという問題もある。
【0005】
また、FeやNi等を電気めっきによって鋼板表面に予め形成した状態で、還元焼鈍および溶融めっきを行うことによって不めっきを回避することもできるが、こうした方法であると電気めっき設備が別途必要となって工程が増加する分コストも増大するという別の問題がある。
【0006】
また、特許第3126911公報にはSi,Mnを含有する鋼板において、熱延段階での高温捲取によって鋼板粒界に酸化物を形成させることによって、めっき密着性を向上させる方法が提案されている。しかしながらこの方法では、熱間圧延時に高温捲取になるので、酸化スケール量が増加する結果熱間圧延後の酸洗負荷が増大するため生産性が悪くコストが増大するという問題と、粒界酸化を鋼板表層に形成させるために鋼板表面の性状が悪くなるという点と、粒界酸化部が起点となって疲労強度が低下するという問題がある。
【0007】
また、例えば特開2001−131693号公報には、一回露点が0℃以下の還元性雰囲気で焼鈍後に、表面の酸化物を酸洗除去した後に、再度露点が−20℃以下の還元性雰囲気で焼鈍し溶融めっきを施すという方法が開示されている。しかしながら、この方法では2回焼鈍をしなければならないということで製造コストが増大するという問題がある。また、特開2002−47547号公報には熱間圧延後に黒皮スケールを付着させたまま熱処理を行うことで鋼板表層に内部酸化させるという方法が開示されている。しかしながら、この方法でも黒皮焼鈍という工程を追加しなければならないため製造コストが増大するという問題がある。
【0008】
また、WO00/50658号公報には、Si,Alを含有する鋼にNiを適正量含有させた技術を提案しているが、この方法でも実機にて製造しようとした場合、特に還元焼鈍炉のみの設備ではめっき性にばらつきが出る結果、安定して良好な鋼板が製造できないという問題点が生じた。
【0009】
一方、鋼中に含有する残留オーステナイトの変態誘起塑性を活用した熱延鋼板および冷延鋼板が開発されている。これは高価な合金元素を含まずに0.07〜0.4%程度のCと0.3〜2.0%程度のSiおよび0.2〜2.5%程度のMnのみを基本的な合金元素とし、二相域で焼鈍後300〜450℃内外の温度でベイナイト変態を行うことが特徴の熱処理により残留オーステナイトを金属組織中に含む鋼板であり、例えば、特開平1−230715号公報や特開平2−217425号公報で開示されている。この種の鋼板は連続焼鈍で製造された冷延鋼板ばかりでなく、例えば、特開平1−79345号公報のようにランアウトテーブルでの冷却と巻取温度を制御することにより熱延鋼板でも得られることが開示されている。
【0010】
自動車の高級化を反映して耐食性および外観を向上させることを目的として、自動車部材のめっき化が進んでおり、現在では、車内に装着される特定の部材を除いた多くの部材に、亜鉛めっき鋼板が用いられている。従って、これらの鋼板には、耐食性の観点から溶融亜鉛めっきを施すかあるいは溶融亜鉛めっき後合金化処理した合金化溶融亜鉛めっきを施して使用することが有効であるが、これらの高張力鋼板のうち、Si,Al含有量が高い鋼板の場合には鋼板表面が酸化膜を有しやすいため、溶融亜鉛めっきの際に微小不めっき部が生じたり、合金化後の加工部のめっき性が劣るなどの問題があり、優れた加工部めっき性を有し、かつ耐食性の優れた高Si,Al系の高張力高延性合金化溶融亜鉛めっき鋼板は実用化されていないのが現状である。
【0011】
しかしながら、例えば、特開平1−230715号公報や特開平2−217425号公報等で開示されている鋼板は0.3〜2.0%のSiを添加し、その特異なベイナイト変態を活用し残留オーステナイトを確保しているため、二相共存温度域で焼鈍後の冷却や300〜450℃内外の温度域での保持をかなり厳格に制御しないと意図する金属組織が得られず、強度や伸びが目標の範囲をはずれる。この熱履歴は工業的には連続焼鈍設備や熱間圧延後のランアウトテーブルと巻取工程において実現されはするが、450〜600℃ではオーステナイトの変態がすみやかに完了するので450〜600℃に滞留する時間を特に短くするような制御が要求され、350〜450℃でも保持する時間によって金属組織が著しく変化するので所期の条件からはずれると陳腐な強度と伸びしか得られない。さらに、450〜600℃に滞留する時間が長いことやめっき性を悪くするSiを合金元素として含むことから溶融めっき設備を通板させてめっき鋼板とはできず、表面耐食性が劣るため広範な工業的利用が妨げられているという問題点がある。
【0012】
上記問題を解決するために、例えば、特開平5−247586号公報や特開平6−145788号公報等では、Si濃度を規制することでめっき性を改善した鋼板が開示されている。この方法ではSiの変わりにAlを添加することで残留オーステナイトを生成されている。しかしながら、AlもSiと同じようにFeよりも酸化しやすいので、鋼板表面にAlやSiが濃化し酸化膜を有しやすく、十分なめっき性を有することができないという問題点がある。また、特開平5−70886号公報にNiを添加することでめっき塗れ性を改善するという方法が開示されている。しかしながら、この方法ではめっき塗れ性を阻害するSiやAlとNiの関係が開示されてはいない。
【0013】
また、例えば、特開平4−333552号公報や特開平4−346644号公報等において高Si系高強度鋼板の合金化溶融めっき方法としてプレNiめっき後急速低温加熱して溶融亜鉛めっき後合金化処理する方法が開示されている。しかしながら、この方法ではNiプレめっきが必要になるので新たな設備が必要になるという問題点がある。また、この方法では最終組織に残留オーステナイトを残存させることができないし、その方法についても言及されていない。
【0014】
また、例えば、特開2002−234129号公報において、Si,Alを含有する鋼板にCu,Ni,Moを添加することで良好な特性が得られる方法が開示されている。これらの方法ではSi,Mnの合計量とCu,Ni,Moの合計量のバランスを適切にすることで良好なめっき性と材質特性が得られるとしている。しかしながら、我々が調査した所によると、Si,Mnを含有した鋼のめっき性はAl量が支配するので、上記特許はSiを含有した場合は必ずしも良好なめっき性を確保できないという問題点がある。また、この方法では得られる特性として引張強度が440〜640MPaと比較的低い強度でしか用いることができないという問題点もある。
【0015】
また、WO00/50658号公報で我々はSi,Alを含有する鋼にNiを適正量含有させた技術を提案しているが、この方法でも合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造しようとした際の合金化温度のばらつきにより得られる材質がばらつくという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術の問題点に着目してなされたものであって、その目的は、還元焼鈍炉のみの設備であっても、不めっきが生じ易いとされるSi,Mn,Alを比較的多く含有する鋼板を素地鋼板とした場合であっても、不めっきが生じず、しかも高張力で且つ加工性や表面性状にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に提供することにある。
【0017】
また、本発明は、引張強度590MPa〜1080MPa程度と高強度までカバー可能で表面耐食性を向上するため溶融めっき設備でも製造可能でかつ、プレス成形性の良好な高強度鋼板の組成と金属組織を有する溶融亜鉛めっき鋼板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の要旨は次のとおりである。
【0019】
(1)重量%で
C:0.03〜0.25%、
Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.5〜2.5%、
P:0.03%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01〜2.0%、
を含有し、Si,Mn,Alの関係が
Si+Al+Mn≧1.0%
を満たし、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、発煙硝酸による溶融亜鉛めっき層の溶解後に走査電子顕微鏡で鋼板表面を観察したときに、鋼板表面の5%以上80%以下が酸化物であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0020】
(2)(1)の組成に更に、
Ni:0.01〜2.0%、
Cr:0.01〜0.5%の1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0021】
(3)鋼板表面の酸化物において、酸化物中のSi,Mn,Alの1種類以上を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0022】
(4)重量%で、更に
Mo:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜1.0%、
Sn:0.01〜0.10%、
V:0.3%未満、
Ti:0.06%未満、
Nb:0.06%未満、
B:0.01%未満、
REM:0.05%未満、
Ca:0.05%未満、
Zr:0.05%未満、
Mg:0.05%未満
の内1種類以上を含有することを特徴とする(2)に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0023】
(5)(4)において、残留オーステナイトを含む高強度溶融亜鉛めっき鋼板の際に、Moのみが添加されている場合には、Si,Al,Niの関係が、
0.4(%)≦Si(%)+Al(%)≦2.0(%)、
Ni(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)、
1/20×Ni(%)≦Mo(%)≦10×Ni(%)、
を満足し、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0024】
(6)(4)において、残留オーステナイトを含む高強度溶融亜鉛めっき鋼板の際に、Moに加え、さらにCuまたはSnが添加されている場合には、2×Ni(%)>Cu(%)+3×Sn(%)、を満足し、かつ、Si,Al,Ni,Cu,Snの関係が、Ni(%)+Cu(%)+3×Sn(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)の関係を満足し、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0025】
(7)(5)または(6)に記載の成分組成を満足する鋼板を750〜900℃の二相共存温度域で10秒〜6分焼鈍した後、2〜200℃/sの冷却速度で350〜500℃まで冷却し、場合によってはさらにその範囲の温度域で10分以下保持した後に、溶融亜鉛めっきを施し、その後に5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却することにより、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であり、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0026】
(8)(5)または(6)に記載の成分組成を満足する鋼板を750〜900℃の二相共存温度域で10秒〜6分焼鈍した後、2〜200℃/sの冷却速度で350〜500℃まで冷却し、場合によってはさらにその範囲の温度域で10分以下保持した後に、溶融亜鉛めっきを施し、その後に450〜600℃の範囲の温度域で5秒〜2分保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却することにより、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%含み、かつ、鋼板表面にFe:8〜15%を含む合金化溶融亜鉛めっき層が形成されたものであることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0027】
(9)(1)または(2)に記載の成分組成を満足する鋼板を、溶融亜鉛めっきを施す前に、400℃以上750℃の間の酸素濃度O(ppm)がO≦50ppmであって、かつ750℃以上で30秒以上の間を雰囲気の水素濃度をH(%)、露点をD(℃)、酸素濃度をO(ppm)としたときに、H,D,Oが、
O≦30ppm、
20×exp(0.1×D)≦H≦2000×exp(0.1×D)、
の関係式を満たす処理を施すことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0028】
(10)(2)に記載の成分組成を満足する鋼板を、溶融亜鉛めっきを施す前に、水素濃度H(%)、露点をD(℃)、鋼板のNi濃度をNi(%)が、
3×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}≦H≦2000×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}、
の関係式を満たす雰囲気で750℃以上、30秒以上の処理を施すことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0029】
(11)(1)または(2)に記載の鋼板で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、上記めっき鋼板の断面観察をSEMにて行ったときに、溶融亜鉛めっき直下の母材表層が内部酸化していることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0030】
(12)前記鋼板がさらに加熱合金化されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0031】
(13)記載の鋼板で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、上記めっき鋼板の断面観察をSEMにて行ったときに溶融亜鉛めっき直下の母材表層に観察される酸化物の最大長さが3μm以下でそれぞれの酸化物の間に隙間を有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、590MPa〜1080MPa程度の引張り強さを有するプレス成形性の良好な高強度溶融亜鉛めっき鋼板および該鋼板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明における成分の限定理由は、プレス成形性の良好な高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供するためであり、以下に詳細に説明する。
【0034】
Cはオーステナイト安定化元素であり、二相共存温度域およびベイナイト変態温度域でフェライト中から移動しオーステナイト中に濃化する。その結果、化学的に安定化されたオーステナイトが室温まで冷却後も2〜20%残留し、変態誘起塑性により成形性を良好とする。Cが0.03%未満だと2%以上の残留オーステナイトを確保するのが困難であり、目的を達せられない。また、C濃度が0.25%を超すことは溶接性を悪化させるので避けなければならない。
【0035】
Siはセメンタイトに固溶せず、その析出を抑制することにより350〜600℃におけるオーステナイトからの変態を遅らせる。この間にオーステナイト中へのC濃化が促進されるためオーステナイトの化学的安定性が高まり、変態誘起塑性を起こし、成形性を良好とするのに貢献する残留オーステナイトの確保を可能とする。Siの量が0.05%未満だとその効果が見いだせない。一方Si濃度を高くするとめっき性が悪化するので、2.0%以下にする必要がある。
【0036】
Mnはオーステナイト形成元素であり、また二相共存温度域での焼鈍後350〜600℃に冷却する途上でオーステナイトがパーライトへ分解するのを防ぐので、室温まで冷却した後の金属組織に残留オーステナイトが含まれるようにする。0.5%未満の添加ではパーライトへの分解を抑えるのに工業的な制御ができないほどに冷却速度を大きくする必要があり、適当ではない。一方2.5%を超すとバンド組織が顕著になり特性を劣化させるし、スポット溶接部がナゲット内で破断しやすくなり好ましくない。
【0037】
Alは脱酸材としても用いられると同時に、Siと同じようにセメンタイトに固溶せず、350〜600℃での保持に際してセメンタイトの析出を抑制し、変態の進行を遅らせる。しかしSiよりもフェライト形成能が強いため変態開始は早く、ごく短時間の保持でも二相共存温度域での焼鈍時よりオーステナイト中にCが濃化され、化学的安定性が高まっているので、室温まで冷却後の金属組織に成形性を悪化させるマルテンサイトは僅かしか存在しない。このためSiと共存すると350〜600℃での保持条件による強度や伸びの変化が小さく、高強度で良好なプレス成形性を得やすくなる。そのため、Alは0.01%以上の添加が必要である。また、Siと共に「Si+Al」が0.4%以上になるようにしなければならない。一方、Al濃度が2.0%を超すとAlもSiと同様にめっき性を劣化させるので避けなければならない。また、本発明の酸化物形態によりめっき性を確保するためにはSi,Mnと共に「Si+Al+Mn」が1.0%以上になるようにしなければならない。これは、「Si+Al+Mn」が1.0%未満においては本発明の酸化物構造をとらなくてもめっき性を確保できるためである。
【0038】
本発明においては、鋼板表面に意図的に酸化物を形成させることにより、酸化物の形成していない部分の表層へのSi,Mn,Al濃化を抑制させることで良好なめっき性を確保している。そのため鋼板表層に形成する酸化物の面積率は本発明で重要である。本発明で鋼板表面の酸化物の面積率を5%以上に規定したのは、5%以下では酸化物を形成していない領域においても鋼板表面のSi,Al,Mn濃度が高いために、この濃化したSi,Al,Mnによって良好なめっき性を確保できないためである。つまり、濃化したSi,Al,Mnが溶融亜鉛めっきを阻害する状況になっている。より良好なめっき性を確保するためには15%以上の面積率が望ましい。また、上限は80%以下に規定した。これは、80%を超えて酸化物が形成している状況では、酸化物が形成していない部分が20%未満となってしまうので、その部分のみでは良好なめっき性の確保が難しくなるためである。より良好なめっき性を確保するためには70%以下の面積率が望ましい。また、本発明において酸化物の面積率は、溶融亜鉛めっき層を発煙硝酸によって溶解させた後の鋼板表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて1mm×1mmの視野を観察することによって求めている。
【0039】
Niは本発明では重要な元素であり、Mnと同じようにオーステナイト生成元素であると同時に強度およびめっき性を向上させる。さらにNiにはSiやAlと同じようにセメンタイトに固溶せず、350〜600℃での保持に際してセメンタイトの析出を抑制し、変態の進行を遅らせる。SiやAlを含む鋼板では、連続溶融亜鉛めっきラインでめっき鋼板を製造する場合、SiやAlはFeよりも酸化されやすいために鋼板表面に濃化しSiやAl酸化物を形成し、めっき性を低下させる。そこで、われわれは逆にFeよりも酸化しにくいNiを表面に濃化させることで、SiやAlの酸化物形態を変化させてめっき性の低下を防止することを考えた。我々が実験で調査した結果、Ni,Si,Alの関係を「Ni(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)」以上にすることで良好なめっき性が得られることも知見した。Niが0.01%以上とすることにより、SiやAlの酸化物形態の変化の効果が見られるので、Niを0.01%以上とすることが望ましい。また、Ni濃度を2.0%を超えて高くすると残留オーステナイトの量が20%を超えてしまい伸びが低下すると同時に高コストになるので本発明の範囲外となる。また、好ましくはNi濃度を0.03%以上で「Ni(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)+0.03(%)」とすることでより良好なめっき性を得ることができる。
【0040】
次に、表面酸化物形態に加え、断面の酸化物形態について明確化することを目的に、0.08C−0.6Si−2.0Mn鋼の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造してめっき性が悪い部分と良い部分との間の違を調査した。
【0041】
調査方法として、不めっきがなくめっき外観が良好な部分(○)、1mm以下の大きさの微小不めっきが発生している部分(△)、1mmを超える大きさの不めっきが見られる部分(×)、完全にめっきがついていない部分(××)についてめっき鋼板の断面をSEMにて観察し表面酸化物層の平均長さの関係を調べた。その結果を図1に示す。表面酸化物の長さが2μm以下の場合には不めっきが見られず、3μmでも比較的良好なめっきが出来ているのに対して、表面酸化物の長さが3μmを超えた部分では不めっきが発生しており、さらに、その部分では合金化も進展していなかった。
【0042】
以上の結果から、表面酸化物層の最大長さは3μm以下とする必要がある。さらに、良好なめっき外観を得るためには表面酸化物の最大長さを2μm以下にすることが望ましい。さらに、良好なめっき密着性も両立するためには表面酸化物の最大長さを1μm以下にすることが望ましい。ここで、酸化物の長さの調査としてはめっき鋼板の断面をエッチングせずにSEMにて×40000倍で観察を行い、酸化物隙間間の連続的に存在している部分の長さを酸化物長さとした。一例として上記めっき鋼板において良好なめっき性を確保できた部分の断面写真を図2に示す。図を見ると分かるように、1μm以下の長さの酸化物が断続的に生成していることがわかる。この酸化物の成分をEDXで分析した結果、Si,Mn,Oが見られることから、表面にはSi,Mn系の酸化物が形成されていることが分かった。
【0043】
上述の効果は鋼中にNiまたはCrのいずれか1種を含有させることでより助長される。
【0044】
本発明者らはめっき性を改善させるために、鋼板の表面構造の詳細な検討を行ったところ、溶融亜鉛めっき直下の母材表層が内部酸化するような状態にすると溶融めっき性を飛躍的に向上させることが可能となることを見出した。つまり、鋼板表層に内部酸化物を意図的に生成させることで、鋼板表層のめっき性を阻害させるSi,Mn,Al濃度を減少させることによって、酸化物の形成していない部分でめっき性を確保しようとするものである。
【0045】
MoもNiと並んで本発明で重要な元素である。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は後述するように溶融亜鉛めっき後に450℃〜600℃の範囲に保持することによって製造される。このような温度に保持した際には、それまで残留していたオーステナイトが分解して炭化物を析出する。Moを添加することによって、このオーステナイトからの変態を抑制し最終的なオーステナイト量を確保することが可能となる。このMoの効果をより拡大する手段を検討した結果、Moのみを含有した場合にはその効果が研著に見られることを見出し、Si,Al,Niの関係が、「0.4(%)≦Si(%)+Al(%)≦2.0(%)」、「Ni(%)≧1.5×Si(%)+1/10×Al(%)」、「1/20×Ni(%)≦Mo(%)≦10×Ni(%)」とすることで残留オーステナイトを確保することが可能になる。Moが0.01%以上とすることで、めっき性改善効果が発揮されるので0.01%以上とすることが望ましい。また、Mo濃度を0.5%を超えて高くするとMoがCと析出物を造る結果残留オーステナイトを確保することができなくなる。望ましくはMo濃度を0.05%以上0.35%以下とすることが好ましい。
【0046】
Pは不純物として鋼中に不可避に含有される元素であるがSiやAlやNiと同じようにセメンタイトに固溶せず、350〜600℃での保持に際してセメンタイトの析出を抑制し、変態の進行を遅らせる。しかし、P濃度が0.03%を超えて高くなると鋼板の延性劣化が顕著化すると同時にスポット溶接部がナゲット内で破断しやすくなるので好ましくないことから、本発明ではP濃度を0.03%以下とした。
【0047】
SもPと同様に鋼中に不可避に含有される元素である。S濃度が高くなるとMnSの析出が生じる結果延性を低下させると同時にスポット溶接部がナゲット内で破断しやすくなるので好ましくないので本発明ではS濃度を0.02%以下とした。
【0048】
また、Niと同様にFeよりも酸化しにくいCu,Snも適量を添加した場合にNiと同じようにめっき性を向上させる。Ni,Cu,Snを「2×Ni(%)>Cu(%)+3×Sn(%)」の関係を満たすようにすることで、Cu,Snによるめっき性向上効果が見られる。このときに、Si,Al,Ni,Cu,Snの関係を「Ni(%)+Cu(%)+3×Sn(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)」を満たすようにすることで良好なめっき性が得られる。この効果はCu:1.0%以下、Sn:0.10%以下で研著に見られ、それ以上のCu,Sn添加ではこの効果が飽和する。Cu,Snのめっき性向上効果をより効果的に発揮させるには、Cu:0.01〜1.0%、Sn:0.01〜0.10%のいずれか一種以上を添加して「Ni(%)+Cu(%)+3×Sn(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)+0.03(%)」とすることが望ましい。
【0049】
Cr,V,Ti,Nb,Bは強度を上げる元素、REM,Ca,Zr,Mgは鋼中Sと結びつき介在物を減少させることで良好な伸びを確保する元素であり、Cr:0.01〜0.5%、V:0.3%未満、Ti:0.06%未満、Nb:0.06%未満、B:0.01%未満、REM:0.05%未満、Ca:0.05%未満、Zr:0.05%未満、Mg:0.05%未満のうちの少なくとも1種以上を必要に応じて添加することは本発明の趣旨を損なうことはない。これら元素の効果は上記の上限で飽和するのでそれ以上の添加はコストが高くなる。
【0050】
本発明の鋼板は以上を基本成分とするが、これらの元素およびFe以外になどその他の一般鋼に対して不可避的に混入する元素を含むものであり、これら元素を全体で0.2%以下含んでいても本発明の趣旨を何ら損なうものではない。
【0051】
最終製品としての本発明鋼板の延性は製品中に含まれる残留オーステナイトの体積率に左右される。金属組織に含まれる残留オーステナイトは変形を受けていない時は安定に存在するものの、変形が加えられるとマルテンサイトに変態し、変態誘起塑性を呈するので良好な成形性が高強度で得られる。残留オーステナイトの体積率が2%未満でははっきりとした効果が認められない。一方残留オーステナイトの体積率が20%を超すと極度に厳しい成形を施した場合、プレス成形した状態で多量のマルテンサイトが存在する可能性があり二次加工性や衝撃性において問題を生じることがあるので、本発明では残留オーステナイトの体積率を20%以下とした。組織はその他、フェライト、ベイナイト、マルテンサイトおよび炭化物を含むものである。
【0052】
本発明においては溶融亜鉛めっきと規定しているが、溶融めっきは溶融亜鉛めっきに限らず、溶融アルミニウムめっきや溶融アルミニウム−亜鉛めっきである5%アルミニウム−亜鉛めっきやいわゆるガルバリウムめっき等の溶融めっきでも構わない。これは本発明の方法を行うことによりSi,Alなどの酸化物に起因するめっき性を劣化させることが抑制される結果、亜鉛に限らずアルミニウムなどの他の溶融金属との濡れ性が改善されるため、同様に不めっきが抑えられるためである。また、合金化溶融亜鉛めっきはFe:8〜15%を含み、残部亜鉛および不可避的不純物からなるものである。めっき層中のFe含有率を8%以上としたのは、8%未満では、化成処理性(リン酸塩処理)塗膜密着性が良好となるためである。また、Fe含有率を15%以下としたのは15%超では、過合金となり加工部のめっき性が劣化するためである。
【0053】
また、亜鉛合金めっき層厚みについては特に制約は設けないが、耐食性の観点から0.1μm以上、加工性の観点からすると15μm以下であることが望ましい。
【0054】
次に、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板および本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0055】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造において冷間圧延後の冷延鋼板の連続焼鈍では、まず〔フェライト+オーステナイト〕の2相組織とするためにAc1変態点以上Ac3変態点以下の温度域に加熱が行われる。このときに加熱温度が650℃未満であると、セメンタイトが再固溶するのに時間がかかり過ぎオーステナイトの存在量もわずかになるので、加熱温度の下限は750℃とした。また、加熱温度が高すぎるとオーステナイトの体積率が大きくなり過ぎてオーステナイト中のC濃度が低下することから、加熱温度の上限は900℃とした。均熱時間としては、短すぎると未溶解炭化物が存在する可能性が高く、オーステナイトの存在量が少なくなる。また、均熱時間を長くすると結晶粒が粗大になる可能性が高くなり強度延性バランスが悪くなる。よって、本発明では保持時間を10秒〜6分の間とした。
【0056】
均熱後は、2〜200℃/sの冷却速度で350〜500℃まで冷却する。これは、二相域に加熱して生成させたオーステナイトをパーライトに変態させることなくベイナイト変態域に持ち越し、引き続く処理により室温では残留オーステナイトとベイナイトとして所定の特性を得ることを目的とする。この時の冷却速度が2℃/s未満では冷却中にオーステナイトの大部分がパーライト変態をしてしまうために残留オーステナイトが確保されない。また、冷却速度が200℃/sを超えると冷却終点温度が幅方向、長手方向でずれが大きくなり均一な鋼板を製造することができなくなる。
【0057】
この後、場合によっては350〜500℃の範囲内で10分以下保持してもよい。この亜鉛めっき前に温度保持をすることでベイナイト変態を進行させCの濃縮した残留オーステナイトを安定化させることができ、より安定して強度、伸びの両立した鋼板を製造できる。2相域からの冷却終点温度が500℃を超える温度になると、その後の温度保持を行うとオーステナイトの炭化物への分解が起こりオーステナイトを残存できなくなる。また、冷却終点温度が350℃未満になるとオーステナイトの大半がマルテンサイトに変態するので、高強度にはなるもののプレス成形性が悪化することと、亜鉛めっき時に鋼板温度を上げる必要があり、熱エネルギーを与える必要があるため非効率になる。保持時間が10分を超えると亜鉛めっき後の加熱で炭化物析出と未変態オーステナイトの消失による強度とプレス成形性両方の劣化になるので保持時間を10分以下とした。
【0058】
本発明の溶融亜鉛めっきを施す前の焼鈍としては、溶融亜鉛めっきを施す前に400℃以上750℃の間の酸素濃度O(ppm)がO≦50ppmであって、かつ、750℃以上で30秒以上の間を雰囲気の水素濃度をH(%)、露点をD(℃)、酸素濃度をO(ppm)としたときに、H,D,Oが
O≦30ppm
20×exp(1.0×D)≦H≦2000×exp(0.1×D)
の関係式を満たすようにすることが望ましい。
【0059】
これは、めっき前に生成する鋼板表面の酸化物生成に温度、時間、雰囲気の影響があるためである。特に、本発明のような酸化物を形成するためには400℃以上750℃の間の昇温途中の段階での酸素濃度が重要になる。昇温段階で生成する酸化物の核が起点となり酸化物が成長していく。その際の酸素濃度が高くなると核生成が促進される結果、断面観察した際の酸化物長さが大きくなり本発明のような3μm以下にすることが困難になる。
【0060】
この際に400℃未満の温度域では酸化物生成がほとんど行われないために特に規定しないが、酸素濃度が100ppm以下にすることが望ましい。また、昇温途中の酸素濃度以外の雰囲気については特に規定しないが、水素濃度1%以上、露点0℃以下にすることが望ましい。また、酸素濃度についても30ppm以下にすることでめっき性はより良好になる。さらに750℃以上で30s以上の焼鈍はめっき性の観点ではなく母材特性上の再結晶の観点から規定した。この温度域での雰囲気では酸素濃度を低くし、雰囲気中の水素濃度が低く、露点が高くなると鋼板表面に生成する。
【0061】
本発明者らが、詳細に調査した結果、上式の関係を満たすような雰囲気で焼鈍させることで表面酸化物の最大長さを30μm以下にできることを見出した。ここで、望ましくは750℃以上で30秒以上の間の露点と水素濃度の関係を「1500×exp{0.1×〔D+20×(1−Ni(%))〕}以下、酸素濃度を20ppm以下にすることで、より容易にめっき性を向上させることが出来る。以上、上記の水素濃度と露点の関係を図3に示す。
【0062】
また、本発明の溶融亜鉛めっきを施す前の焼鈍としては、溶融亜鉛めっきを施す前に750℃以上で30秒以上の間を雰囲気の水素濃度H(%)、露点をD(℃)、鋼中のNi濃度をNi(%)としたときに、HとDとの間が
3×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}≦H
≦2000×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}
の関係式を満たすようにすることが望ましい。これは、めっき前に生成する鋼板表面の酸化物生成に鋼中Ni含有量、温度、時間、雰囲気の影響があるためである。温度を高く、高温での時間を長くすることで酸化物の生成が促進され鋼板表面に酸化物が生成できるようになる。また、雰囲気中の水素濃度が低く、露点が高くなると内部酸化が促進される。さらに、上述したように鋼中にNiを入れることで容易に内部酸化をさせることが出来るようになる。本発明者らが、詳細に調査した結果、上式の関係を満たすような雰囲気で焼鈍させることで内部酸化を形成することを見出した。ここで、望ましくは水素濃度が「800×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}」以下にすることで、より容易に内部酸化を得ることが出来る。
【0063】
また、鋼中にNiを添加した場合、雰囲気中の酸素による酸化が抑制されるので、酸素濃度は特に規定しないが、100ppm以下であることが望ましい。
【0064】
溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合はめっき後、5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却する。ここで亜鉛めっき時にベイナイト変態を進行させ炭化物をほとんど含まないベイナイトとその部分から掃き出されたCが濃化しMn点が室温以下に低下した残留オーステナイト、および二相域加熱中に清浄化が進んだフェライトの混在した組織を現出させ、高強度と成形性を両立させている。そのため、保持後の冷却速度を5℃以下としたり、冷却終点温度が250℃以上とすると冷却中にCの濃化したオーステナイトも炭化物を析出してベイナイトに分解するため、変態誘起塑性により加工性を改善する残留オーステナイトの量が減少してしまうので目的を達し得ない。
【0065】
また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際には溶融亜鉛めっき後、450℃〜600℃の温度域で5秒〜2分保持し、その後5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却する。ここでは、Feと亜鉛の合金化反応と、組織的な観点からもとまる。本発明鋼ではSiやAlが含まれるためにオーステナイトからベイナイトへの変態が二段階に分離することを活用し、炭化物をほとんど含まないベイナイトとその部分から掃き出されたCが濃化しMn点が室温以下に低下した残留オーステナイト、および二相域加熱中に清浄化が進んだフェライトの混在した組織を現出させ、高強度と成形性を両立させている。保持温度が600℃を超えるとパーライトが生成するために残留オーステナイトが含まれなくなり、また、合金化反応が進みすぎめっき中のFe濃度が15%を越えてしまう。一方、加熱温度が450℃以下になるとめっきの合金化反応速度が遅くなり、めっき中のFe濃度が低くなる。また、保持時間が5秒以下ではベイナイトが十分に生成せず、未変態のオーステナイト中へのC濃化も不充分なため冷却中にマルテンサイトが生成し成形性が劣化すると同時に、めっきの合金化反応が不充分になる。また、保持時間が2分以上になるとめっきの過合金化が生じ成型時にめっき剥離などが生じやすくなる。さらに、保持後の冷却速度を5℃以下としたり、冷却終点温度が250℃以上とするとベイナイト変態がさらに進み、前段の反応でCの濃化したオーステナイトも炭化物を析出してベイナイトに分解するため、変態誘起塑性により加工性を改善する残留オーステナイトの量で減少してしまうので目的を達し得ない。
【0066】
溶融亜鉛めっき温度はめっき浴の融点以上500℃以下が望ましい。500℃以上になるとめっき浴からの蒸気が多大になり操業性が悪化するためである。また、めっき後の保持温度までの加熱速度については特に規定する必要はないが、めっき組織や金属組織の観点から3℃/s以上が望ましい。
【0067】
なお、以上説明した工程における各温度、冷却温度は規定の範囲内であれば一定である必要はなく、その範囲内で変動したとしても最終製品の特性はなんら劣化しないし向上する場合もある。
【0068】
また、めっき性をさらに向上させるために、冷間圧延後のめっき焼鈍前に鋼板にNi,Cu,Co,Feの単独あるいは複合めっきを施してもよい。さらに、めっき性を向上させるために鋼板焼鈍時の雰囲気を調節し、始め鋼板表面を酸化させ、その後還元することによりめっき前の鋼板表面の清浄化を行ってもよい。さらに、めっき性を改善するために焼鈍前に鋼板を酸洗あるいは研削することで鋼板表面の酸化物を取り除いても問題はない。これら処理をすることでめっき性がさらに向上する。
【実施例】
【0069】
実施例1
表1に示す各種鋼板を用い、溶融めっきシミュレータを用いて、昇温速度5℃/s、800℃×100sの焼鈍を水素8%、露点−30℃の雰囲気で行った後に、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬して室温まで空冷して各種溶融亜鉛めっきを得た。ここで、溶融亜鉛めっき浴の組成は亜鉛に0.14%のAlを含有させたものを用いた。また、浸漬時間は4s、浸漬温度は460℃とした。
【0070】
上記のようにして得られた溶融めっき鋼板について、めっき性について目視にて評価した。このときのめっき性の評価は、○:不めっき無し、×:不めっきありとした。また、溶融亜鉛のめっき密着性をOT曲げ後のテープ剥離によって評価し、○:剥離無し、×:剥離ありとした。さらに、鋼板表面の酸化物の面積率は、めっき鋼板のめっき層を発煙硝酸にて溶解した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にて1mm×1mmの範囲内を観察することによって求めた。本測定では、走査型電子顕微鏡の二次電子像で観察した場合に、酸化物層は黒く見えることに着目し、この黒い部分の面積率を酸化物面積率とした。これらの結果を鋼板成分と合わせて表1に示す。
【0071】
本発明で規定する要件を満足する実施例のものでは優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して本発明の要件を満足しない実施例のものでは酸化物の面積率は20%以下となり優れためっき性を得ることができなかった。
【0072】
図4は良好なめっき性を示した条件4のめっき後に発煙硝酸でめっき層を溶解した後に鋼板表面から観察した走査型電子顕微鏡の像の模式図である。また、図5はNi以外ほぼ同じ成分でNiを添加していないことで良好なめっき性を確保できなかった条件10の発煙硝酸でめっき層を溶解した後の走査型電子顕微鏡の像の模式図である。これらの図で黒い部分が酸化物であり、白い部分は酸化物が見られなかった部分である。図5では黒い酸化物がほとんど見られていないのに対して図4では黒い酸化物が鋼板表層に見られていることが分かる。また、EDXを用いた成分分析から条件4の酸化物の成分は、Si,Mnを含む酸化物であることが分かった。電子顕微鏡像から面積率を測定した結果、条件4では酸化物の面積率が40%で良好なめっき性を示したのに対し、条件10では面積率は2%で不めっきが発生し、めっき密着性も悪かった。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例2
表2に成分を示した鋼を表3に記載した条件で熱延、冷延、焼鈍、めっきを行い、その後0.6%で調質圧延することで鋼板を製造した。製造した鋼板は、下記に示す「引っ張り試験」「残留オーステナイト測定試験」「溶接試験」「めっき外観」「めっき性」の試験を行った。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した際には「めっき層中Fe濃度測定」を行った。また、めっき付着量は片面40g/m2になるようにした。
【0075】
「引っ張り試験」はJIS5号引張試験片を採取し、ゲージ厚さ50mm、引張速度10mm/minで常温引っ張り試験を行った。
【0076】
「残留オーステナイト測定試験」は、表層より板厚の1/4内層を化学研磨後、Mo管球を用いたX線回折でα−Feとγ−Feの強度から求める5ピーク法と呼ばれる方法で測定した。
【0077】
「溶接試験」は、溶接電流:10kA、加圧力:220kg、溶接時間:12サイクル、電極径:6mm、電極形状:ドーム型、先端6φ−40Rの溶接条件でスポット溶接を行い、ナゲット径が4√t(t:板厚)を切った時点までの連続打点数を評価した。評価基準は○:連続打点1000点超、△:連続打点500〜1000点、×:連続打点500点未満とした。ここでは、○を合格とし、△・×は不合格とした。
【0078】
「めっき外観」は、めっき鋼板の外観から不めっき発生状況を目視判定し下記の基準に従い評価した。◎:3個/dm2以下、○:4〜10個/dm2、△:11〜15個/dm2、×:16個/dm2以上。ここでは、◎・○を合格とし、△・×は不合格とした。
【0079】
「めっき密着性」は、めっき鋼板の60度V曲げ試験を実施後テープテストを行い、以下の基準に従い評価した。
テープテスト黒化度(%)
評価:◎ … 0〜10
評価:○ … 10〜20未満
評価:△ … 20〜30未満
評価:× … 30以上
(◎と○が合格、△・×は不合格)
【0080】
「めっき層中Fe濃度測定」は、アミン系インヒビターを入れた5%塩酸でめっき層を溶かした後、ICP発光分析法で測定した。
【0081】
性能評価試験結果を表3、表4、表5、表6に示す。本発明である試料1〜14は残留オーステナイトが2〜20%で引張強度が590MPa〜1080MPa程度でありながら良好な全伸びを示してあり、高強度とプレス成形性の良好さを両立していると同時に、めっき性や溶接性も満足した溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。それに対し、試料15はC濃度が低いために、試料16はC濃度が高いために、試料17はSi濃度が高いために、試料18はMn濃度が低いために、試料19はMn濃度が高いために、試料20はAl濃度が高いために、試料21は鋼中SiとAlの関係を満たしていないために、試料22はP濃度が高いために、試料23はS濃度が高いために、試料24はNi濃度が低いために、試料25はNi濃度が高いために、試料26はMo濃度が低いために、試料27はMo濃度が高いために、試料28はNiとMoの関係式を満たしていないために、試料29はSi,AlとNi,Cu,Snの関係を満たしていないために残留オーステナイト量、高強度とプレス成形性の両立、めっき性、溶接性を全ては満足しておらず、本発明の目的を達し得ない。
【0082】
また、本発明鋼であっても処理条件の一つに問題があると、試料30〜63のように残留オーステナイト量、高強度とプレス成形性の両立、めっき性、溶接性を全ては満足しておらず、本発明の目的を達し得ない。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
実施例3
表1の条件2の成分の冷延鋼板を使い、溶融めっきシミュレータを用いて、昇温速度5℃/s、800℃×100sの焼鈍を表8に示す雰囲気で行った後に、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬して室温まで空冷して各種溶融亜鉛めっきを得た。ここで、昇温時の水素濃度は4%、露点は−40℃とし、溶融亜鉛めっき浴の組成は亜鉛に0.14%のAlを含有させたものを用いた。また、浸漬時間は4s、浸漬温度は460℃とした。
【0089】
上記のようにして得られた溶融めっき鋼板について、めっき性について目視にて評価した。このときのめっき性の評価は、○:不めっきがなくめっき外観が良好な部分、△:1mm以下の大きさの微小不めっきが発生している部分、×:1mmを超える大きさの不めっきが一部見られる、××:完全にめっきがついていないとし、○、△を合格とした。また、溶融亜鉛のめっき密着性をOT曲げ後のテープ剥離によって評価し、○:剥離無し、△:若干剥離、×:顕著な剥離ありとし、△以上を合格とした。鋼板表面の酸化物の面積率は、めっき鋼板のめっき層を発煙硝酸にて溶解した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にて1mm×1mmの範囲内を観察することによって求めた。本測定では、走査型電子顕微鏡の二次電子像で観察した場合に、酸化物層は黒く見えることに着目し、この黒い部分の面積率を酸化物面積率とした。これらの結果を表8に示す。また、表8には請求項9で露点から得られるめっき性確保の下限の水素濃度、上限の水素濃度も併せて示す。
【0090】
本発明で規定する要件を満足する条件1〜6のものでは、優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して条件7〜10は雰囲気が本発明を満たしていないために酸化物の面積率が本発明の範囲外となり、良好なめっき性を得ることが出来なかった。
【0091】
【表7】

【0092】
本発明で規定する要件を満足する本発明例No.1〜6のものでは鋼板表層酸化物の最大長さが3μm以下であり、優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して、比較例No.7〜10は雰囲気が本発明を満たしていないために3μm以上の酸化物が鋼板表層に生成する結果、良好なめっき性を得ることが出来なかった。
【0093】
実施例4
表1の条件5の成分の冷延鋼板を使い、溶融めっきシミュレータを用いて、昇温速度5℃/s、800℃×100sの焼鈍を表8に示す雰囲気で行った後に、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬して室温まで空冷して各種溶融亜鉛めっきを得た。ここで、溶融亜鉛めっき浴の組成は亜鉛に0.14%のAlを含有させたものを用いた。また、浸漬時間は4s、浸漬温度は460℃とした。
【0094】
上記のようにして得られた溶融めっき鋼板について、めっき性について目視にて評価した。このときのめっき性の評価は、○:不めっき無し、×:不めっきありとした。また、溶融亜鉛のめっき密着性をOT曲げ後のテープ剥離によって評価し、○:剥離無し、×:剥離ありとした。鋼板表面の酸化物の面積率は、めっき鋼板のめっき層を発煙硝酸にて溶解した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にて1mm×1mmの範囲内を観察することによって求めた。本測定では、走査型電子顕微鏡の二次電子像で観察した場合に、酸化物層は黒く見えることに着目し、この黒い部分の面積率を酸化物面積率とした。これらの結果を表10に示す。また、表10には請求項10で鋼中Ni%と露点から得られるめっき性確保の下限の水素濃度、上限の水素濃度も併せて示す。
【0095】
本発明で規定する要件を満足する条件1〜5のものでは優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して条件6〜8は雰囲気が本発明を満たしていないために酸化物の面積率が本発明の範囲外となりその結果良好なめっき性を得ることが出来なかった。
【0096】
【表8】

【0097】
実施例5
表9に示す各種鋼板を用い、溶融めっきシミュレータを用いて、昇温速度5℃/s、800℃×100sの焼鈍を酸素5ppm、水素4%、露点−40℃の雰囲気で行った後に、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬して室温まで空冷して各種溶融亜鉛めっきを得た。ここで、昇温時の雰囲気は800℃保持時と同じ酸素5ppm、水素4%、露点−40℃とし、溶融亜鉛めっき浴の組成は亜鉛に0.14%のAlを含有させたものを用いた。また、浸漬時間は4s、浸漬温度は460℃とした。
【0098】
上記のようにして得られた溶融めっき鋼板について、めっき性について目視にて評価した。このときのめっき性の評価は、○:不めっきがなくめっき外観が良好な部分、△:1mm以下の大きさの微小不めっきが発生している部分、×:1mmを超える大きさの不めっきが一部見られる、××:完全にめっきがついていないとし、○、△を合格とした。また、溶融亜鉛のめっき密着性をOT曲げ後のテープ剥離によって評価し、○:剥離無し、△:若干剥離、×:顕著な剥離ありとし、△以上を合格とした。さらに、鋼板表層の酸化物最大長さの調査としては、めっき鋼板の断面をエッチングせずにSEMにて×40000倍で1mm以上の範囲の観察を行い、酸化物隙間間の連続的に存在している部分の内の最大長さとした。この観察を3箇所について行って判断した。これらの結果を鋼板成分と合わせて表9に示す。
【0099】
【表9】

【0100】
本発明で規定する要件を満足する本発明例No.1〜13のものでは鋼板表層の最大酸化物長さが3μm以下であり、優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して、比較例No.14ではSi含有量が高いために、比較例No.15ではAl濃度が高いために、比較例No.16ではMn濃度が高いために最大酸化物の長さが3μmを超えてしまう結果、良好なめっき性を得ることが出来ない。
【0101】
実施例6
表10に示す各種鋼板を用い、溶融めっきシミュレータを用いて、昇温速度5℃/s、800℃×100sの焼鈍を水素4%、露点−30℃の雰囲気で行った後に、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬して室温まで空冷して各種溶融亜鉛めっきを得た。ここで、溶融亜鉛めっき浴の組成は亜鉛に0.14%のAlを含有させたものを用いた。また、浸漬時間は4s、浸漬温度は460℃とした。
【0102】
上記のようにして得られた溶融めっき鋼板について、めっき性について目視にて評価した。このときのめっき性の評価は、○:不めっき無し、×:不めっきありとした。また、溶融亜鉛のめっき密着性をOT曲げ後のテープ剥離によって評価し、○:剥離無し、×:剥離ありとした。さらに、溶融めっき層直下の内部酸化層の有無は、めっき鋼板の断面研磨後走査型電子顕微鏡(SEM)にて×10000で観察することで行った。内部酸化層の評価は、○:内部酸化層あり、×:内部酸化層なしとした。これらの結果を鋼板成分と合わせて表10に示す。
【0103】
本発明で規定する要件を満足する本発明例1〜11のものでは鋼板表層に内部酸化が見られ優れためっき性が得られていることが分かる。それに対して本発明例12ではSi含有量が高いために、本発明例13ではAl濃度が高いために、本発明例14ではMn濃度が高いために内部酸化層は形成しているものの良好なめっき性を得ることが出来ない。また、本発明例15ではNi濃度が低いために内部酸化層を得ることが出来ず、良好なめっき性を得ることが出来なかった。
【0104】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明での溶融亜鉛めっきのめっき外観と鋼板表層酸化物の大きさとの関係を示した図である。
【図2】良好なめっき外観を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面の一例を示した顕微鏡写真である。
【図3】本発明での溶融亜鉛めっき前の焼鈍時に望ましい雰囲気中の水素と露点の関係を示した図である。
【図4】実施例4における条件4の溶融亜鉛めっき層を発煙硝酸により溶解させた後の鋼板表面の走査型電子顕微鏡写真の模式図である。
【図5】実施例4における条件11(比較例)の溶融亜鉛めっき層を発煙硝酸により溶解させた後の鋼板表面の走査型電子顕微鏡写真の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で
C:0.03〜0.25%、
Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.5〜2.5%、
P:0.03%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01〜2.0%、
を含有し、Si,Mn,Alの関係が
Si+Al+Mn≧1.0%
を満たし、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、発煙硝酸による溶融亜鉛めっき層の溶解後に走査電子顕微鏡で鋼板表面を観察したときに、鋼板表面の5%以上80%以下が酸化物であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1の組成に更に、
Ni:0.01〜2.0%、
Cr:0.01〜0.5%の1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板表面の酸化物において、酸化物中のSi,Mn,Alの1種類以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
重量%で、更に
Mo:0.01〜0.5%、
Cu:0.01〜1.0%、
Sn:0.01〜0.10%、
V:0.3%未満、
Ti:0.06%未満、
Nb:0.06%未満、
B:0.01%未満、
REM:0.05%未満、
Ca:0.05%未満、
Zr:0.05%未満、
Mg:0.05%未満
の内1種類以上を含有することを特徴とする請求項2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
請求項4において、残留オーステナイトを含む高強度溶融亜鉛めっき鋼板の際に、Moのみが添加されている場合には、Si,Al,Niの関係が、
0.4(%)≦Si(%)+Al(%)≦2.0(%)、
Ni(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)、
1/20×Ni(%)≦Mo(%)≦10×Ni(%)、
を満足し、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項4において、残留オーステナイトを含む高強度溶融亜鉛めっき鋼板の際に、Moに加え、さらにCuまたはSnが添加されている場合には、2×Ni(%)>Cu(%)+3×Sn(%)、を満足し、かつ、Si,Al,Ni,Cu,Snの関係が、Ni(%)+Cu(%)+3×Sn(%)≧1/5×Si(%)+1/10×Al(%)の関係を満足し、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項5または6に記載の成分組成を満足する鋼板を750〜900℃の二相共存温度域で10秒〜6分焼鈍した後、2〜200℃/sの冷却速度で350〜500℃まで冷却し、場合によってはさらにその範囲の温度域で10分以下保持した後に、溶融亜鉛めっきを施し、その後に5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却することにより、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%であり、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載の成分組成を満足する鋼板を750〜900℃の二相共存温度域で10秒〜6分焼鈍した後、2〜200℃/sの冷却速度で350〜500℃まで冷却し、場合によってはさらにその範囲の温度域で10分以下保持した後に、溶融亜鉛めっきを施し、その後に450〜600℃の範囲の温度域で5秒〜2分保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却することにより、該鋼板の残留オーステナイトの体積率が2〜20%含み、かつ、鋼板表面にFe:8〜15%を含む合金化溶融亜鉛めっき層が形成されたものであることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の成分組成を満足する鋼板を、溶融亜鉛めっきを施す前に、400℃以上750℃の間の酸素濃度O(ppm)がO≦50ppmであって、かつ750℃以上で30秒以上の間を雰囲気の水素濃度をH(%)、露点をD(℃)、酸素濃度をO(ppm)としたときに、H,D,Oが、
O≦30ppm、
20×exp(0.1×D)≦H≦2000×exp(0.1×D)、
の関係式を満たす処理を施すことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の成分組成を満足する鋼板を、溶融亜鉛めっきを施す前に、水素濃度H(%)、露点をD(℃)、鋼板のNi濃度をNi(%)が、
3×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}≦H≦2000×exp{0.1×(D+20×(1−Ni(%))}、
の関係式を満たす雰囲気で750℃以上、30秒以上の処理を施すことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の鋼板で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、上記めっき鋼板の断面観察をSEMにて行ったときに、溶融亜鉛めっき直下の母材表層が内部酸化していることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項12】
前記鋼板がさらに加熱合金化されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項13】
請求項1に記載の鋼板で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層が形成されたものであって、上記めっき鋼板の断面観察をSEMにて行ったときに溶融亜鉛めっき直下の母材表層に観察される酸化物の最大長さが3μm以下でそれぞれの酸化物の間に隙間を有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−517257(P2006−517257A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500391(P2006−500391)
【出願日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000239
【国際公開番号】WO2004/063410
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】