説明

高意匠性塗膜構造及びその塗膜形成方法

【課題】自動車用部材等の塗装において、光輝材として用いた装飾用粒子の表面側と裏面側とにそれぞれ塗膜層を形成し前記装飾用粒子が前記両塗膜層にまたがって配位される塗膜構造にすることで、色彩豊かな外観を与える高意匠性塗膜構造及びその塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に直接または間接的にクリヤー塗料を塗装して形成された内面層と上記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と上記装飾用粒子の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層とを備え、上記装飾用粒子は内面層と外面層とにまたがって配位されており、上記装飾用粒子の内面側は上記内面層の表面側にめり込んでおり、上記装飾用粒子の外面側は上記外面層によって覆われており、塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認されることを特徴とする高意匠性塗膜構造及びその塗膜形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば自動車用部材等の各種工業製品の塗装に適用可能な、意匠性の高い塗膜層を有する塗膜構造及びその塗膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用部材等の各種工業製品においては、近年、消費者の購買意欲を満足させる高い商品力が求められており、その外観の高意匠性は商品の差別化を図り商品力を高める重要な要素の一つである。従来から、自動車用部材等の外観の意匠性を高めるべく、メタリック調や光干渉調の塗膜及びその塗膜形成方法が提案されてきた。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−200519号公報
【特許文献2】特開2009−233574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記メタリック調や光干渉調の塗膜は、自動車用部材等の基材にアルミフレーク顔料やパールマイカ顔料等のパール調顔料等の光輝材を配合した高意匠性塗料を塗装することにより形成されている。
【0005】
上記光輝材は一般的に粒子の大きいものほど光輝性が高く、粒子の大きい光輝材を配合した塗料を基材に塗装することにより意匠性の高い塗膜が形成される。しかしながら、上記光輝材は塗料に配合されて塗装されるため、塗料中での光輝材の安定性や沈降性、塗膜中での光輝材の配向性等を考えると、光輝材の大きさや光輝材の塗料への配合量を調整する必要がある。
【0006】
また、上記アルミフレーク顔料はメタリック調の光輝性を、上記パールマイカ顔料等のパール調顔料はパール調の光輝性を有する光輝材であるが、消費者のさらなる購買意欲を満足させるには、人が美しいと感じる新たな色彩を与える光輝材を用いた意匠性の高い塗膜が望まれる。
【0007】
本願発明はこのことに鑑み、自動車用部材等の各種工業製品の塗装において、光輝材として装飾用粒子を用い、前記装飾用粒子の表面側と裏面側とにそれぞれ塗膜層(内面層及び外面層)を形成し上記装飾用粒子が上記内面層と外面層とにまたがって配位される塗膜構造にすることで、塗装基材に色彩豊かな美しい外観を付与する高意匠性塗膜構造及びその塗膜形成方法を提供することを課題とする。また、上記装飾用粒子が上記内面層と上記外面層とにまたがって配位される塗膜構造を形成する際、塗料用樹脂成分を伴わずに上記装飾用粒子のみを内面層の表面側に吹き付け、さらに上記装飾用粒子の表面側に外面層を形成することで、光輝材の塗料への配合を必要としない塗膜形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、クリヤー塗料を塗装して形成された内面層と、上記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と、上記装飾用粒子の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層とを備え、上記装飾用粒子は、内面層と外面層とにまたがって配位されており、上記装飾用粒子の内面側は、上記内面層の表面側にめり込んでおり、上記装飾用粒子の外面側は、上記外面層によって覆われており、塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認されることを特徴とする高意匠性塗膜構造を提供する。
【0009】
また、本願の請求項2に記載の発明は、基材の表面に直接または間接的に塗装されたベースカラー塗膜層を含むベース塗膜層と、前記ベース塗膜層の表面に形成される中間塗膜層と、前記中間塗膜層の表面に形成される実質的に透明な保護塗膜層の少なくとも3層を有する塗膜構造において、上記中間塗膜層は、上記ベース塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装して形成された内面層と、上記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と、上記装飾用粒子の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層とを備え、上記装飾用粒子は、内面層と外面層とにまたがって配位されており、上記装飾用粒子の内面側は、上記内面層の表面側にめり込んでおり、上記装飾用粒子の外面側は、上記外面層もしくは上記保護塗膜層によって覆われており、塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認されることを特徴とする高意匠性塗膜構造を提供する。
【0010】
また、本願の請求項3に記載の発明は、上記装飾用粒子は、内面層の表面側に吹き付けられたものであり、その差し渡し長さが0.02〜2.5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高意匠性塗膜構造を提供する。
【0011】
また、本願の請求項4に記載の発明は、内面層の表面側に吹き付けられる上記装飾用粒子が宝石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高意匠性塗膜構造を提供する。
【0012】
また、本願の請求項5に記載の発明は、上記保護塗膜層は耐擦傷性クリヤー塗料又はFRP積層用樹脂を塗装して形成されたものであり、上記保護塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装して形成された上塗クリヤー塗膜層を有することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高意匠性塗膜構造を提供する。
【0013】
また、本願の請求項6に記載の発明は、基材の表面に直接または間接的に少なくともベースカラー塗料を塗装してベース塗膜層を形成する工程を含むベース塗膜形成工程と、前記ベース塗膜層の表面に中間塗膜層を形成する中間塗膜形成工程と、前記中間塗膜層の表面に実質的に透明な保護塗膜層を形成する工程を含む保護塗膜形成工程とを有する塗膜形成方法において、上記中間塗膜形成工程は、上記ベース塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装する内面層形成工程と、上記内面層が未乾燥の状態で、その表面側に多数の装飾用粒子を吹き付けることによって、上記装飾用粒子の内面側を、上記内面層の表面側にめり込ませる粒子吹き付け工程と、上記装飾用粒子が吹き付けられた上記内面層の表面側にクリヤー塗料を塗装する外面層形成工程とを備え、塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認される塗膜を形成することを特徴とする高意匠性塗膜構造の塗膜形成方法を提供する。
【0014】
また、本願の請求項7に記載の発明は、上記粒子吹き付け工程は、塗料用樹脂成分を伴わずに装飾用粒子のみを吹き付けるものであることを特徴とする請求項6に記載の高意匠性塗膜構造の塗膜形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本願の請求項1、2又は5の発明では、基材の表面に直接又は間接的にクリヤー塗料を塗装して形成された内面層と、前記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と、上記内面層の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層からなる中間塗膜層を形成することで、内面層と外面層とにまたがって配位された装飾用粒子の持つ豊かな光輝性により基材に特殊かつ斬新な色彩を与え意匠性の高い塗膜構造を提供することができたものである。
本願の請求項3又は4の発明では、上記請求項1又は2の発明の効果に加え、装飾用粒子の差し渡し長さや素材を特定することにより、本願発明の塗膜構造の高意匠性を最も発現することができたものである。
本願の請求項6又は7の発明では、基材の表面に直接又は間接的に形成されたベース塗膜層の表面に内面層を形成し、前記内面層が未乾燥の状態でその表面側に多数の装飾用粒子を吹き付け、さらに前記装飾用粒子が吹き付けられた上記内面層の表面側に外面層を形成する中間塗膜形成工程を設けることにより、意匠性の高い塗膜構造が形成可能な塗膜形成方法を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明に係る高意匠性塗膜構造の全体を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す高意匠性塗膜構造を形成する塗膜形成方法を示す工程図である。
【図3】高意匠性塗膜構造を示すもので、(A)粒子吹き付け工程終了時、(B)下部外面層形成工程終了時、(C)下部外面層研磨工程終了時、(D)上部外面層形成工程終了時、(E)中間塗膜研磨工程終了時における各塗膜構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態の一例をとりあげて説明する。本願の各請求項並びに明細書における上下表裏内外の表現は、相対的な位置関係を示すにとどまり、絶対的な位置を特定するものではない。
【0018】
本願発明に係る高意匠性塗膜構造1は、図1に示すように、基材11の表面に形成されたベース塗膜層12と、前記ベース塗膜層12の表面に形成された中間塗膜層15と、前記中間塗膜層15の表面に形成された保護塗膜層21と、前記保護塗膜層21の表面に形成された上塗クリヤー塗膜層22とから構成される。前記高意匠性塗膜構造1を形成する塗膜形成方法を示す工程図を図2に示す。
【0019】
また、上記ベース塗膜層12は基材11の表面に形成されたベースカラー塗膜層13と前記ベースカラー塗膜層13の表面に形成されたベースクリヤー塗膜層14から構成されており、上記中間塗膜層15は上記ベース塗膜層12の表面に形成された内面層16と前記内面層16の表面側に配位された多数の装飾用粒子17と、前記装飾用粒子17の表面側に形成された外面層18とから構成されている。また、上塗クリヤー塗膜層22は保護塗膜層21の表面に形成された下部上塗クリヤー塗膜層23と前記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面に形成された上部上塗クリヤー塗膜層24から構成される。
【0020】
さらに、外面層18は上記装飾用粒子17の表面側に形成された下部外面層19と、前記下部外面層19の表面に形成された上部外面層20から構成される。
【0021】
上記基材11には特に制限はなく、例えば、金属及びその合金、樹脂類やFRP等のプラスチック材料、ガラス、木材、繊維材料(紙、布等)の天然又は合成材料等が挙げられる。また、必要に応じて、上記基材11に脱脂洗浄や化成皮膜形成等の素地調整を施し、下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材11とすることもできる。
【0022】
また、本願発明に係る高意匠性塗膜構造1を形成させる塗膜形成方法、すなわち基材への塗料の塗装方法においては特に制限はなく、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装等により塗装することができる。また、塗装は1種類の塗料を1回塗装したのみで終わる場合は少なく、ほとんどの場合は2回以上塗り重ねるが、塗料を塗り重ねる前には、塗膜の密着性や平滑性を確保するために、塗膜を研摩する場合が多い。
【0023】
まず、ベース塗膜層12を形成するベース塗膜形成工程31について説明する。前記ベース塗膜形成工程31は、基材11の表面を研磨し脱脂洗浄を行う基材研磨工程32と、前記基材11の表面にベースカラー塗膜層13を形成するベースカラー塗膜形成工程33と、前記ベースカラー塗膜層13の表面にベースクリヤー塗膜層14を形成するベースクリヤー塗膜形成工程34から構成される。
【0024】
上記ベースカラー塗膜形成工程33においては、基材研磨工程32にて研磨及び脱脂洗浄した基材11の表面に塗料を塗装し、ベースカラー塗膜層13を形成する。
【0025】
上記ベースカラー塗膜層13は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、着色顔料、溶剤等を含有する公知の自動車用エナメル塗料から形成される。前記自動車用エナメル塗料を、以下ベースカラー塗料とする。前記ベースカラー塗膜層13は基材11の下地を隠蔽し本願発明に係る高意匠性塗膜構造1の色相を決定する。なお、上記ベースカラー塗膜層13の色は自由に設定することができ、例えば、後述する装飾用粒子17と同系色でもよいし、また前記装飾用粒子17と補色関係にある色でもよいものとする。
【0026】
上記ベースカラー塗料の形態は、水を溶剤とする水系塗料、有機溶剤を溶剤とする有機溶剤系塗料または粉体塗料のいずれであってもよい。また、水系塗料及び有機溶剤系塗料においては、1液型もしくは塗装時に硬化剤以外の成分である主剤と硬化剤とを混合して用いる2液型のいずれであってもよい。有機溶剤としては、例えば、トルエンやキシレン等の炭化水素類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。
【0027】
上記ベースカラー塗料の塗料用樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。
【0028】
また、上記塗料用樹脂成分には、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがある。通常工業用途においては熱硬化性樹脂が用いられることが多い。しかしながら、アクリルラッカー塗料等の熱可塑性樹脂を成分とする塗料を用いることもできる。
【0029】
上記ベースカラー塗料の硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
上記ベースカラー塗料の着色顔料は特に制限されず、酸化チタン、酸化亜鉛、黄鉛、カーボンブラック、アゾ顔料等公知の着色顔料が挙げられる。
【0031】
また、上記ベースカラー塗料には、塗膜性能並びに塗料自体の安定性を低下させない範囲において、必要に応じて、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、硬化反応触媒、増粘剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
上記ベースカラー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0033】
上記ベースカラー塗料は所定の温度で乾燥させることができる。また、上記ベースカラー塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥または半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、基材11の表面に上記ベースカラー塗料を塗装してベースカラー塗膜層13を形成後、未乾燥の状態で次工程であるベースクリヤー塗膜形成工程34を行った。
【0034】
上記ベースカラー塗膜層13の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において15〜55μmであることが好ましい。塗膜の隠蔽性や平滑性の観点から、30〜40μmであることがより好ましい。15μm以下では基材11の下地を隠蔽しがたく、55μmを超えると塗膜の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがある。また、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0035】
次に、ベースクリヤー塗膜形成工程34において、ベースカラー塗膜層13の表面にクリヤー塗料を塗装し、ベースクリヤー塗膜層14を形成する。
【0036】
上記ベースクリヤー塗膜層14は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、溶剤等を含有する公知のクリヤー塗料から形成される。
【0037】
上記クリヤー塗料に含有される塗料用樹脂成分、硬化剤、溶剤並びに上記クリヤー塗料の形態は、上記ベースカラー塗料で例示したものと同じものとする。また、必要に応じて、その上記クリヤー塗料の透明性を阻害しない範囲において、着色顔料及び上記ベースカラー塗料で例示した添加剤を適宜配合することができる。上記クリヤー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0038】
上記ベースクリヤー塗料は所定の温度、例えば20〜70℃で乾燥させることができる。また、上記ベースクリヤー塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥もしくは半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、ベースカラー塗膜層13の表面に上記クリヤー塗料を塗装してベースクリヤー塗膜層14を形成後、先に形成したベースカラー塗膜層13とともに60℃で60分間焼き付けた後2日間自然乾燥させ、ベース塗膜層12を形成した。
【0039】
上記ベースクリヤー塗膜層14の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において40〜60μmであることが好ましい。より好ましくは、45〜50μmである。上記範囲を外れると塗膜の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがある。また、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0040】
次に、中間塗膜層15を形成する中間塗膜形成工程35について説明する。前記中間塗膜形成工程35は、ベース塗膜層12の表面を研磨し脱脂洗浄を行うベース塗膜研磨工程36と、前記ベース塗膜層12の表面に内面層16を形成する内面層形成工程37と、前記内面層16の表面に装飾用粒子17を吹き付け前記装飾用粒子17の内面側を上記内面層16の表面側にめり込ませる粒子吹き付け工程38と、上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側に外面層18を形成する外面層形成工程39とから構成される。
【0041】
さらに、上記外面層形成工程39は、上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側に下部外面層19を形成する下部外面層形成工程40と、前記下部外面層19の表面を研磨する下部外面層研磨工程41と、前記下部外面層19の表面に上部外面層20を形成する上部外面層形成工程42とから構成される。
【0042】
上記内面層形成工程37においては、ベース塗膜研磨工程36にて研磨及び脱脂洗浄したベース塗膜層12の表面にクリヤー塗料を塗装し、内面層16を形成する。
【0043】
上記内面層16は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、溶剤等を含有する公知のクリヤー塗料から形成される。
【0044】
上記クリヤー塗料に含有される塗料用樹脂成分、硬化剤、溶剤並びに上記クリヤー塗料の形態は、上記ベースカラー塗料で例示したものと同じものとする。また、必要に応じて、その上記クリヤー塗料の透明性を阻害しない範囲において、着色顔料及び上記ベースカラー塗料で例示した添加剤を適宜配合することができる。上記クリヤー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0045】
上記クリヤー塗料は所定の温度、例えば20〜70℃で乾燥させることができる。また、上記クリヤー塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥もしくは半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、上記ベース塗膜層12の表面に上記クリヤー塗料を塗装して内面層16を形成後、未乾燥の状態で直ちに次工程である粒子吹き付け工程38を行った。
【0046】
上記内面層16の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において300〜700μmであることが好ましい。より好ましくは、400〜600μmである。上記範囲を外れると、次工程である粒子吹き付け工程38において吹き付ける上記装飾用粒子17の上記内面層16の表面側へのめり込みが悪くなり、両者の密着性が低下する恐れがある。また、700μmを超えると上記内面層16の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがあるほか、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0047】
次に、粒子吹き付け工程38において、上記内面層16の表面側に多数の装飾用粒子17を吹き付け、前記装飾用粒子17の内面側を上記内面層16の表面側にめり込ませる。
【0048】
上記装飾用粒子17には、宝石を用いる。前記宝石とは、ダイヤモンドやエメラルド等の天然宝石、合成オパール等の合成宝石並びにキュービックジルコニア等の人造宝石を指す。また、上記宝石を着色剤等で着色したもの並びにガラスやプラスチック等を用いて天然宝石を模した模造宝石についても、本願発明における宝石に含まれるものとする。上記宝石は種々の比重を持ち、例えば、合成オパールでは1.90〜2.23、合成エメラルドでは2.60〜2.70、合成アレキサンドライトでは3.71、合成ルビーでは4.01、合成ブルーサファイヤでは4.01、合成スターサファイヤでは4.00であるが、適宜の比重のものを用いることができる。
【0049】
上記装飾用粒子17の差し渡し長さは、0.02〜2.5mmとすることが好ましく、より好ましくは1.0〜1.5mmとなるようにする。差し渡し長さが0.02mmを下回ると上記装飾用粒子17を肉眼で視認しにくく、2.5mmを超えると上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16よりも上層に形成される外面層18、保護塗膜層21、上塗クリヤー塗膜層22の平滑性が不十分となる恐れがある。
【0050】
上記装飾用粒子17の上記内面層16の表面側への吹き付け量には特に制限はなく、形成される中間塗膜層15、保護塗膜層21及び上塗クリヤー塗膜層22が実質的に透明性を有し、その各塗膜層15、21、22を介してベースカラー塗膜層13の色彩を視認できる程度の吹き付け量とする。上記装飾用粒子17の上記基材11一平方メートルあたりに吹き付けられる粒子量を粒子吹き付け量[cc/m2]とすると、上記粒子吹き付け量は10〜500cc/m2に設定することが好ましい。より好ましくは、100〜150cc/m2になるよう設定する。粒子吹き付け量が10cc/m2を下回ると上記装飾用粒子17の光輝性を十分に発現しがたく、500cc/m2を超えると上記内膜層16の表面側で上記装飾用粒子17同士が重なり上記内面層16との密着性が低下する恐れがある。また、上記各塗膜層15、21、22を介してベースカラー塗膜層13の色彩を視認することができなくなる恐れがある。
【0051】
また、上記装飾用粒子17を上記内面層16の表面側に吹き付ける方法としては、エアスプレー(エアガン)を用いる。前記エアスプレーは自動車塗装用や建築塗装用に使われる汎用のエアスプレーであり、そのノズルキャップ口径は上記装飾用粒子17の差し渡し長さに合わせ、1.0〜25.0mmになるよう設定する。より望ましくは、1.5〜25.0mmになるよう設定する。上記ノズルキャップ口径が1.0mmを下回ると上記装飾用粒子17がノズルを通過することができず、25.0mmを超えると粒子を吹き付ける際、差し渡し長さが比較的短い上記装飾用粒子17がノズルキャップ先端からこぼれ、上記装飾用粒子17が上記内面層16の表面側に均一に吹き付けられずにムラが出る恐れがある。また、上記装飾用粒子17を吹き付ける空気圧は、好ましくは、1.0〜6.0kg/m2になるよう設定し、より好ましくは1.5〜4.5kg/m2になるよう設定する。空気圧が1.0kg/m2を下回ると上記装飾用粒子17の上記内面層16の表面側へのめり込みが悪くなる恐れがあり、6.0kg/m2を超えると上記装飾用粒子17が上記内面層16の表面側にめり込まずに跳ね返される恐れがある。エアスプレーの粒子供給方式としては、吸い上げ式、重力式、圧送式のいずれの方式であってもよい。その他、上記装飾用粒子17を上記内面層16の表面側に均一に吹き付けることが可能であれば、上記装飾用粒子17の吹き付け方法はエアスプレーによるものに制限されない。
【0052】
上記内面層16が未乾燥の状態でその表面側に上記装飾用粒子17を吹き付けるが、その際、上記内面層16は上記装飾用粒子17の内面側を固定する接着剤としての役割をなす。
【0053】
上記装飾用粒子17を上記内面層16の表面側に吹き付けた後、上記内面層16を40℃で20分間焼き付け、半乾燥の状態になるまで乾燥させた。図3(A)に粒子吹き付け工程38終了時の高意匠性塗膜構造1の概略断面図を示す。
【0054】
次に、外面層形成工程39において、上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側にクリヤー塗料を塗装して外面層18を形成する。前記外面層形成工程39は、上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側に下部外面層19を形成する下部外面層形成工程40と、前記下部外面層19の表面を研磨する下部外面層研磨工程41と、前記下部外面層19の表面に上部外面層20を形成する上部外面層形成工程42とから構成される。
【0055】
上記外面層18は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、溶剤等を含有する公知のクリヤー塗料から形成される。
【0056】
上記クリヤー塗料に含有される塗料用樹脂成分、硬化剤、溶剤並びに上記クリヤー塗料の形態は、上記ベースカラー塗料で例示したものと同じものとする。また、必要に応じて、その上記クリヤー塗料の透明性を阻害しない範囲において、着色顔料及び上記ベースカラー塗料で例示した添加剤を適宜配合することができる。上記クリヤー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0057】
上記クリヤー塗料は所定温度、例えば20〜70℃の温度で乾燥させることができる。また、上記クリヤー塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥もしくは半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、下部外面層形成工程40にて上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側に上記クリヤー塗料を塗装して下部外面層19を形成後、60℃で90分間以上焼き付けた後1日間自然乾燥させた。前記下部外面層19は図3(B)に示すように、上記内面層16の表面側に吹き付けられた上記装飾用粒子17の表面側を覆うように形成されており、表面には凹凸が見られる。
【0058】
次に、下部外面層研磨工程41にて上記下部外面層19の表面の凹凸が少なくなるよう下部外面層19の表面を研磨した。図3(C)に示すように、研磨された下部外面層19の概略断面は略台形形状となっている。
【0059】
さらに、上部外面層形成工程42にて上記下部外面層19の表面に上記クリヤー塗料を塗装して上部外面層20を形成後、60℃で90分間以焼き付けた後1日間自然乾燥させ、中間塗膜層15を形成した。前記中間塗膜層15の表面には、図3(D)に示すように、なだらかではあるが凹凸が見られる。
【0060】
上記外面層18の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において、下部外面層19では400〜1000μm、上部外面層20では250〜600μmであることが好ましい。より好ましくは、下部外面層19では450〜750μm、上部外面層20では400〜500μmである。上記範囲を外れると塗膜の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがある。また、下部外面層19では1000μmを、上部外面層20では600μmを超えると、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0061】
次に、保護塗膜層21を形成する保護塗膜形成工程43について説明する。前記保護塗膜形成工程43は、中間塗膜層15の表面を研磨する中間塗膜研磨工程44と、前記中間塗膜層15の表面に保護塗膜層21を形成する保護塗膜塗装工程45から構成される。
【0062】
まず、中間塗膜研磨工程44にて、図3(D)に示すような上記中間塗膜層15の表面の凹凸をなくすように、上記中間塗膜層15の表面を研磨した。図3(E)に中間塗膜研磨工程44終了時の高意匠性塗膜構造1の概略断面図を示す。
【0063】
次に、上記保護塗膜塗装工程45において、上記中間塗膜層15の表面に保護塗膜形成塗料を塗装し、保護塗膜層21を形成する。
【0064】
上記保護塗膜層21は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、溶剤等を含有する公知の耐擦傷性クリヤー塗料から形成される。上記保護塗膜層21は耐擦傷性に優れており、高い塗膜硬度から擦過に対する抵抗性を有し、上記保護塗膜層21よりも下層に形成されたベース塗膜層12及び中間塗膜層15を保護する。
【0065】
上記耐擦傷性クリヤー塗料に含有される塗料用樹脂成分、硬化剤、溶剤並びに上記耐擦傷性クリヤー塗料の形態は、上記ベースカラー塗料で例示したものと同じものとする。また、必要に応じて、その上記耐擦傷性クリヤー塗料の透明性を阻害しない範囲において、着色顔料及び上記ベースカラー塗料で例示した添加剤を適宜配合することができる。上記耐擦傷性クリヤー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0066】
また、上記保護塗膜層21は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、添加剤等を含有する公知のFRP積層用樹脂から形成されてもよい。前記FRP積層用樹脂の形態は、水を溶剤とする水系塗料、有機溶剤を溶剤とする有機溶剤系塗料または粉体塗料のいずれであってもよい。また、水系塗料及び有機溶剤系塗料においては、1液型もしくは塗装時に硬化剤以外の成分である主剤と硬化剤とを混合して用いる2液型のいずれであってもよい。上記保護塗膜層21は耐擦傷性に優れており、高い塗膜硬度から擦過に対する抵抗性を有し、上記保護塗膜層21よりも下層に形成されたベース塗膜層12及び中間塗膜層15を保護する。
【0067】
上記FRP積層用樹脂の樹脂成分としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。上記塗料用樹脂成分には、通常工業用途においては熱硬化性樹脂が用いられることが多いが、熱可塑性樹脂を成分としたFRP積層用樹脂を用いることもできる。
【0068】
上記FRP積層用樹脂の硬化剤としては、例えば、ポリアミンや酸無水物等が挙げられる。また、不飽和ポリエステル樹脂の重合に際し、過酸化ベンゾイルやメチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物等が重合開始剤として使用されるが、前記重合開始剤は硬化剤として市販されている。
【0069】
また、上記FRP積層用樹脂においては、必要に応じて、その淡色性を阻害しない範囲において、着色顔料及び体質顔料、分散剤、沈降防止剤、硬化反応触媒、増粘剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0070】
上記FRP積層用樹脂は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0071】
上記耐擦傷性クリヤー塗料もしくはFRP積層用樹脂からなる保護塗膜形成塗料は所定温度、例えば20〜60℃の温度で乾燥させることができる。また、上記保護塗膜形成塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥もしくは半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、上記中間塗膜層15の表面に上記保護塗膜形成塗料を塗装して保護塗膜層21を形成後、40℃で30分間焼き付け、さらに60℃で90分間焼き付けた後1日間自然乾燥させた。
【0072】
上記保護塗膜層21の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において300〜700μmであることが好ましい。より好ましくは、400〜600μmである。300μmを下回ると塗膜の硬度が低下し擦過に対する抵抗性が弱まる恐れがあり、700μmを超えると塗膜の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがあるほか、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0073】
次に、上塗クリヤー塗膜層22を形成する上塗クリヤー塗膜形成工程46について説明する。前記上塗クリヤー塗膜形成工程46は、保護塗膜層21の表面を研磨する保護塗膜研磨工程47と、前記保護塗膜層21の表面に下部上塗クリヤー塗膜層23を形成する下部上塗クリヤー塗膜形成工程48と、前記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面を研磨する下部上塗クリヤー塗膜研磨工程49と、上記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面に上部上塗クリヤー塗膜層24を形成する上部上塗クリヤー塗膜形成工程50とから構成される。
【0074】
上記上塗クリヤー塗膜形成工程46においては、保護塗膜研磨工程47にて研磨した保護塗膜層21の表面にクリヤー塗料を塗装し、上塗クリヤー塗膜層22を形成する。
【0075】
上記上塗りクリヤー塗膜層22は、例えば、成分として塗料用樹脂成分と硬化剤、溶剤等を含有する公知のクリヤー塗料から形成される。
【0076】
上記クリヤー塗料に含有される塗料用樹脂成分、硬化剤、溶剤並びに上記クリヤー塗料の形態は、上記ベースカラー塗料で例示したものと同じものとする。また、必要に応じて、その上記クリヤー塗料の透明性を阻害しない範囲において、着色顔料及び上記ベースカラー塗料で例示した添加剤を適宜配合することができる。上記クリヤー塗料は、前述の成分を所定の方法によって配合し、溶解または分散させることにより調製することができる。
【0077】
上記クリヤー塗料は所定の温度、例えば20〜70℃の温度で乾燥させることができる。また、上記クリヤー塗料は、塗装し、乾燥後に次工程の塗料を塗装することができるが、未乾燥もしくは半乾燥の状態で、次工程の塗料を塗装することもできる。本例では、下部上塗クリヤー塗膜形成工程48にて上記保護塗膜層21の表面に上記クリヤー塗料を塗装して下部上塗クリヤー塗膜層23を形成後、60℃で90分間焼き付けた後1日間自然乾燥させた。
【0078】
さらに、下部上塗クリヤー塗膜研磨工程49にて上記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面を研磨したのち、上部上塗クリヤー塗膜形成工程50にて上記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面に上記クリヤー塗料を塗装して上部上塗クリヤー塗膜層24を形成後、60℃で90分間焼き付けた後1日間自然乾燥させ、上塗クリヤー塗膜層22を形成した。
【0079】
さらに、仕上げ工程51において上記上塗クリヤー塗膜層22の表面を研磨し、本願発明に係る高意匠性塗膜構造1を形成した。
【0080】
上記上塗クリヤー塗膜層22の膜厚には特に制限はなく、塗装の仕様や基材により異なるが、例えば乾燥膜厚において、下部上塗クリヤー塗膜層23、上部上塗クリヤー塗膜層ともにそれぞれ250〜600μmであることが好ましい。より好ましくは、上記両塗膜層23、24ともにそれぞれ400〜500μmである。上記範囲を外れると、塗膜の平滑性が不十分となり美観を損なう恐れがあり、また、塗膜の乾燥に費やす時間が多くなる。
【0081】
本願発明に係る高意匠塗膜構造1においては、装飾用粒子17は内面層16と外面層18とにまたがって配位されているが、上記装飾用粒子17は上記内面層16と上記外面層18とに完全に挟み込まれている必要はなく、上記装飾用粒子17の表面側が上記外面層18から突出していてもよく、また、上記装飾用粒子17の裏面側が上記中間塗膜層15の下層に形成されているベース塗膜層12にめり込んでいてもよい。
【0082】
本願発明に係る塗膜形成方法においては、基材11に塗料を塗装して乾燥する工程を繰り返し行ううちに、塗膜が乾燥しきることからやせが出て、塗膜の表面に細かい凹凸が生じる。特に内面層16よりも上層に形成された外面層18、保護塗膜層21及び上塗クリヤー塗膜層22の表面においては、上記凹凸が顕著に表れる。よって、各研磨工程41、44、47、49、51にて各塗膜層18、21、22の表面を研磨することで、各塗膜層18、21、22の表面の凹凸をできるだけなくし、塗膜同士の密着性及び塗膜の平滑性を確保する。
【0083】
本願発明に係る高意匠性塗膜構造1の実施形態は、図1に示すように、基材11の表面に形成されたベース塗膜層12と、前記ベース塗膜層12の表面に形成された中間塗膜層15と、前記中間塗膜層15の表面に形成された保護塗膜層21と、前記保護塗膜層21の表面に形成された上塗クリヤー塗膜層22とから構成されているが、例えば木材等の基材11においては、基材11の表面に中間塗膜層15のみを形成する塗膜構造であってもよい。また、基材11の表面にベースカラー塗膜層13を形成せずにベースクリヤー塗膜層14を形成し、前記ベースクリヤー塗膜層14の表面に中間塗膜層15を形成し、前記中間塗膜層15の表面に保護塗膜層21を形成し、前記保護塗膜層21の表面に上塗クリヤー塗膜層22を形成する塗膜構造であってもよい。
【0084】
また、本願発明に係る高意匠塗膜構造1における外面層18及び上塗クリヤー塗膜層22は、上部外面層20と下部外面層19、上部上塗クリヤー塗膜層24と下部上塗クリヤー塗膜層23のそれぞれ2層から構成されているが、塗膜強度、塗膜外観の高意匠性並びに塗膜の平滑性を満たす場合に限り、それぞれ2層を1層にしてもよい。さらに、塗膜外観の高意匠性並びに塗膜の平滑性を向上する場合に限り、高意匠性塗膜構造を形成する各塗膜層の層数を増やしてもよい。例えば、外面層18の層数を上部外面層20、下部外面層19の2層から上部外面層20、中部外面層、下部外面層19の3層にする等が挙げられる。
【0085】
本願発明に係る高意匠塗膜構造1における各塗膜層12、15、21、22の形成には、ベースカラー塗料、クリヤー塗料、耐擦傷性クリヤー塗料またはFRP積層用樹脂がそれぞれ使用されている。前記各塗料は、塗料用樹脂成分や硬化剤、溶剤等の塗料を構成する各種成分や前記成分の配合割合が同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0086】
本願発明に係る高意匠性塗膜構造及びその塗膜形成方法は、例えば、各種工業製品の外観において高意匠性を要求される分野、例えば自動車、家庭用電化製品や携帯電話等電気・電子機器、家具等の基材の塗装に適用することができる。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本願発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
素地調整(脱脂洗浄及びリン酸亜鉛処理)を施した1m2の自動車用鋼板の表面にサフェーサー(色:ミディアムグレー)を乾燥膜厚40μmとなるように塗装し、50℃で30分間乾燥させた塗板を基材11として用いた。上記サフェーサーとしては、デュポン社製アクリル樹脂系塗料「LE2004」の塗料樹脂成分100重量部あたり、デュポン社製硬化剤「256S」16重量部、デュポン社製シンナー「JAB380」0〜3重量部を配合した。また、上記サフェーサー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数1回で塗装した。
【0089】
ベースカラー塗料として、デュポン社製ポリエステル樹脂系塗料「AB150」100重量部あたり、デュポン社製「AB160」100重量部、デュポン社製塗料用シンナー「JAB385」200重量部、デュポン社製「AM5 JET BLACK」50重量部を配合して、ベースカラー塗料を調製した。上記ベースカラー塗料の色は黒色である。
【0090】
クリヤー塗料として、デュポン社製アクリル樹脂系塗料「G2−4500S」の塗料樹脂成分100重量部あたり、デュポン社製硬化剤「G2−4508S」37重量部、デュポン社製シンナー「JXB387」30重量部を配合して、クリヤー塗料を調製した。
【0091】
耐擦傷性クリヤー塗料として、デュポン社製アクリル樹脂系塗料「3800S」の塗料樹脂成分100重量部あたり、デュポン社製硬化剤「XK205」37重量部を配合して、耐擦傷性クリヤー塗料を調製した。
【0092】
FRP積層用樹脂として、昭和高分子株式会社製不飽和ポリエステル樹脂リゴラック(商標)「1585BQTM」の樹脂成分100重量部あたり、日油株式会社製硬化剤(重合開始剤)パーメックN(商標)1重量部を配合して、FRP積層用樹脂を調製した。
【0093】
装飾用粒子17として、京セラ株式会社製合成オパール「京都オパール」を用いた。前記装飾用粒子17の差し渡し長さは1.0〜1.5mmである。上記装飾用粒子は天然オパール同様、入射光が物質内部の結晶構造や粒子配列により分光され、複数の色の乱反射が生じることにより複数の色彩を示し、豊かな光輝性を付与する。
【0094】
次の手順にて、基材11にベースカラー塗膜層13、ベースクリヤー塗膜層14、内面層16、装飾用粒子17の内面層16の表面側への吹き付け、下部外面層19、上部外面層20、保護塗膜層21、下部上塗クリヤー塗膜層23、上部上塗クリヤー塗膜層24を順次形成して試験片を作成した。以下、実施例A4の試験片の作成について説明する。なお、実施例A1〜A3、A5〜A7は実施例A4と同様に試験片を作成した。各実施例A1〜A7の膜厚[μm]及び粒子吹き付け量[kg/m2]を表1に示す。
【0095】
600番のサンドペーパーで研磨した後脱脂洗浄した上記基材11の表面に調製したベースカラー塗料を乾燥膜厚40μmとなるよう塗装し、ベースカラー塗膜層13を形成した。前記ベースカラー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数4回で塗装した。次に前記ベースカラー塗膜層13の表面に調製したクリヤー塗料を乾燥膜厚50μmとなるよう塗装し、ベースクリヤー塗膜層14を形成した。前記ベースクリヤー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数4回で塗装した。ベースクリヤー塗膜層14形成後、先に形成したベースカラー塗膜層13とともに60℃で60分間焼き付けた後2日間自然乾燥させ、ベース塗膜層12を形成した。
【0096】
次に400番のサンドペーパーで研磨した後脱脂洗浄した上記ベース塗膜層12の表面に、調製したクリヤー塗料を乾燥膜厚500μmとなるよう塗装し、内面層16を形成した。前記クリヤー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数3回で塗装した。次に前記内面層16が未乾燥の状態でその表面側に装飾用粒子17を吹き付け、上記内面層16の表面側に上記装飾用粒子17をめり込ませた。上記内面層16への粒子吹き付け量は、0.4kg/m2とした。上記装飾用粒子17の吹き付けにはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径を15.0mm、空気圧を3.0kg/m2に設定した。上記装飾用粒子17を吹き付けた上記内面層16を40℃で20分間焼き付け、半乾燥の状態とした。さらに、上記装飾用粒子17が吹き付けられた上記内面層16の表面側に、調製したクリヤー塗料を乾燥膜厚500μmとなるよう塗装し、下部外面層19を形成した。前記クリヤー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数6回で塗装した。下部外面層19を形成後、先に形成した上記装飾用粒子17がその表面側に吹き付けられた上記内面層16とともに60℃で90分間以上焼き付けた後1日間自然乾燥させた。さらに、120〜400番のサンドペーパーで研磨した上記下部外面層19の表面に上記クリヤー塗料を乾燥膜厚500μmとなるよう5回塗り重ね、上部外面層20を形成後、60℃で90分間以上焼き付けた後1日間自然乾燥させ、中間塗膜層15を形成した。
【0097】
次に240番のサンドペーパーで研磨した上記中間塗膜層15の表面に、調製した耐擦傷性クリヤー塗料を乾燥膜厚500μmとなるよう塗装し、保護塗膜層21を形成した。前記耐擦傷性クリヤー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数5回で塗装した。上記保護塗膜層21を形成後40℃で30分間焼き付け、さらに60℃で90分間焼き付けた後1日間自然乾燥させた。
【0098】
次に400番のサンドペーパーで研磨した上記保護塗膜層21の表面に、調製したクリヤー塗料を乾燥膜厚500μmとなるよう塗装し、下部上塗クリヤー層23を形成した。前記クリヤー塗装にはエアスプレーを用い、ノズルキャップ口径1.4mm、空気圧3.5kg/m2に設定し、重ね塗り回数5回で塗装した。前記下部上塗クリヤー塗膜23形成後、60℃で90分間焼き付けた後、1日間自然乾燥させた。さらに、乾燥後に400番のサンドペーパーで研磨した上記下部上塗クリヤー塗膜層23の表面に上記クリヤー塗料を乾燥膜厚400μmとなるよう4回塗り重ね、上部上塗クリヤー塗膜層24を形成後、60℃で90分間焼き付けた後1日間自然乾燥させ、上塗クリヤー塗膜層22を形成させた。その後、上塗クリヤー塗膜層22の表面を800〜1500番のサンドペーパーで研磨し、さらにコンパウンドで磨いたものを試験片とした。
【0099】
表1に示すように、ベース塗膜層12よりも上層に形成された中間塗膜層15、保護塗膜層21、上塗クリヤー塗膜層22それぞれの乾燥膜厚[μm]及び装飾用粒子17の粒子吹き付け量[kg/m2]を変化させた試験片(実施例A1〜A7)を用意し、塗膜外観の光輝性並びに塗膜の平滑性について塗膜外観性として評価した。より詳しくは、試験片の外観を目視で観察し、装飾用粒子17の光輝性と試験片全体の光輝性から塗膜外観の光輝性を、試験片の塗膜の凹凸から塗膜の平滑性を総合的に評価し、塗膜外観性を優◎、良○、可△とした。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例A1〜A2の試験片の合計膜厚は、装飾用粒子17の差し渡し長さである1.0〜1.5mmよりも薄く、上記装飾用粒子17は、上記装飾用粒子17が吹き付けられた内面層16よりも上層に形成される外面層18、保護塗膜層21及び上塗クリヤー塗膜層22に覆われてはいるが、試験片全体の表面には凹凸が生じ、試験片全体の塗膜の平滑性は劣る。しかしながら、上記装飾用粒子17及び試験片全体の光輝性は少なからず確保されていることから、塗膜外観性の評価結果は可△となった。
【0102】
実施例A3の試験片の合計膜厚は、上記装飾用粒子17の差し渡し長さである1.0〜1.5mmよりも厚いが、上記中間塗膜層15の膜厚は上記装飾用粒子17の差し渡し長さと比較すると同等もしくは若干薄い。よって、上記装飾用粒子17は、上記装飾用粒子17が吹き付けられた内面層16よりも上層に形成される各塗膜層18、21、22に覆われてはいるが、試験片全体の塗膜の平滑性は実施例A4〜A7と比較すると若干劣る。しかしながら、上記装飾用粒子17の光輝性は良好であり、試験片全体の光輝性も概ね良好であることから、塗膜外観性の評価結果は良○となった。
【0103】
実施例A4〜A7の試験片の合計膜厚は、上記装飾用粒子17の差し渡し長さである1.0〜1.5mmよりも厚く、中間塗膜層15の膜厚は上記装飾用粒子17の差し渡し長さと比較すると同等もしくは厚い。よって、上記装飾用粒子17は上記装飾用粒子17が吹き付けられた内面層16よりも上層に形成される各塗膜層18、21、22に覆われており、試験片全体の塗膜の平滑性は良好である。また、上記装飾用粒子17及び試験片全体の光輝性も良好であることから、塗膜外観性の評価結果は優◎となり、優れた高意匠性塗膜構造が得られる結果となった。
【符号の説明】
【0104】
1 高意匠性塗膜構造
11 基材
12 ベース塗膜層
13 ベースカラー塗膜層
14 ベースクリヤー塗膜層
15 中間塗膜層
16 内面層
17 装飾用粒子
18 外面層
21 保護塗膜層
22 上塗クリヤー塗膜層
31 ベース塗膜形成工程
35 中間塗膜形成工程
37 内面層形成工程
38 粒子吹き付け工程
39 外面層形成工程
43 保護塗膜形成工程
46 上塗クリヤー塗膜形成工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリヤー塗料を塗装して形成された内面層と、
上記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と、
上記装飾用粒子の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層とを備え、
上記装飾用粒子は、内面層と外面層とにまたがって配位されており、
上記装飾用粒子の内面側は、上記内面層の表面側にめり込んでおり、
上記装飾用粒子の外面側は、上記外面層によって覆われており、
塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認されることを特徴とする高意匠性塗膜構造。
【請求項2】
基材の表面に直接または間接的に塗装されたベースカラー塗膜層を含むベース塗膜層と、
前記ベース塗膜層の表面に形成される中間塗膜層と、
前記中間塗膜層の表面に形成される実質的に透明な保護塗膜層の少なくとも3層を有する塗膜構造において、
上記中間塗膜層は、上記ベース塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装して形成された内面層と、
上記内面層の表面側に配位された多数の装飾用粒子と、
上記装飾用粒子の表面側にクリヤー塗料を塗装して形成された外面層とを備え、
上記装飾用粒子は、内面層と外面層とにまたがって配位されており、
上記装飾用粒子の内面側は、上記内面層の表面側にめり込んでおり、
上記装飾用粒子の外面側は、上記外面層もしくは上記保護塗膜層によって覆われており、
塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認されることを特徴とする高意匠性塗膜構造。
【請求項3】
上記装飾用粒子は、内面層の表面側に吹き付けられたものであり、その差し渡し長さが0.02〜2.5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高意匠性塗膜構造。
【請求項4】
上記内面層の表面側に吹き付けられる上記装飾用粒子が宝石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高意匠性塗膜構造。
【請求項5】
上記保護塗膜層は耐擦傷性クリヤー塗料又はFRP積層用樹脂を塗装して形成されたものであり、上記保護塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装して形成された上塗クリヤー塗膜層を有することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高意匠性塗膜構造。
【請求項6】
基材の表面に直接または間接的に少なくともベースカラー塗料を塗装してベース塗膜層を形成する工程を含むベース塗膜形成工程と、
前記ベース塗膜層の表面に中間塗膜層を形成する中間塗膜形成工程と、
前記中間塗膜層の表面に実質的に透明な保護塗膜層を形成する工程を含む保護塗膜形成工程とを有する塗膜形成方法において、
上記中間塗膜形成工程は、上記ベース塗膜層の表面にクリヤー塗料を塗装する内面層形成工程と、
上記内面層が未乾燥の状態で、その表面側に多数の装飾用粒子を吹き付けることによって、上記装飾用粒子の内面側を、上記内面層の表面側にめり込ませる粒子吹き付け工程と、
上記装飾用粒子が吹き付けられた上記内面層の表面側にクリヤー塗料を塗装する外面層形成工程とを備え、
塗膜の表面側から肉眼によって上記装飾用粒子が視認される塗膜を形成することを特徴とする高意匠性塗膜構造の塗膜形成方法。
【請求項7】
上記粒子吹き付け工程は、塗料用樹脂成分を伴わずに装飾用粒子のみを吹き付けるものであることを特徴とする請求項6に記載の高意匠性塗膜構造の塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143349(P2011−143349A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6171(P2010−6171)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(504280953)株式会社ホンダネットナラ (1)
【Fターム(参考)】