説明

高振動対応抵抗温度センサ

【課題】高振動環境においてRTD検出素子の精度を維持しつつ、高振動環境用に設計された現在のRTD検出素子に比べ、更に高温側の温度範囲まで計測可能な温度センサを提供する。
【解決手段】高振動環境において動作可能な温度センサ(10)であって、温度センサ(10)は、無機絶縁ケーブル(12)の端部に装着されたセンサ容器(14)を備える。センサ容器(14)内において、抵抗温度検出素子(16)が、ケーブル(12)の端部から延びる導電線(22a〜22d)と接続されている。センサ容器(14)には、少なくとも部分的にセラミックス系接着材(38)が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度センサに関するものであって、具体的には、優れた精度及び高い動作温度範囲を有し、高振動環境においても動作可能な温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
工業の処理工程における処理流体の温度は、この流体中に設けられる温度センサ或いはプローブで計測するのが一般的である。このような温度センサには、熱電対または抵抗温度検知素子(RTD検出素子)を用い、温度に相関した電気信号を発生させるようにすることもできる。
【0003】
熱電対は、ゼーベック係数の異なる2種類の金属を利用するものである。熱電対は、熱電対接合部と基準接合部との間の温度差に基づく電圧を発生する。熱電対は、広い動作温度範囲を有しており(一般的に0℃〜1450℃)、出力信号を発生するための電力源を必要としない。また、熱電対は、高振動環境においても動作可能である。但し、熱電対は上記のRTD検出素子に比べると精度が劣っている。
【0004】
抵抗温度検知素子(RTD検出素子)は、金属における電気抵抗の変化により温度を検出するものであって、RTD検出素子の温度が高いほど、電気抵抗が増大する。RTD温度センサの出力信号は、定電流をRTD検出素子に流して発生した電圧を計測することによって得られる。
【0005】
RTD検出素子は、巻線型及び薄膜体型のいずれであってもよい。このRTD検出素子は、温度プローブ内に収容され、工業処理工程用発信器と組み合わせて用いられることにより、この温度プローブに触れた流体の温度を示す伝送出力信号を発生する。これらの巻線型RTD検出素子や薄膜型RTD検出素子には白金を用いるのが一般的であり、約600℃〜650℃までの温度計測を安定して精度よく行うことが可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱電対に比べ、RTD検出素子は高精度である一方で動作温度範囲が狭い。また、RTD検出素子の方が、熱電対よりも高振動環境において損傷や故障が発生しやすい。
このため、高振動環境においてRTD検出素子の精度を維持しつつ、高振動環境用に設計された現在のRTD検出素子に比べ、更に高温側の温度範囲まで計測可能な温度センサが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の温度センサは、導電線を有したケーブルの端部に装着されたセンサ容器を有している。このセンサ容器内に配設されたRTD検出素子は、ケーブルから延びる導電線に接続されている。RTD検出素子は、セラミックス系耐熱接着材によってセンサ容器内に位置決めされている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るRTD温度センサの端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、RTD温度センサ10の端部の断面図であり、このRTD温度センサ10は、高振動環境において動作可能であると共に、高温性能が改善されている。RTD温度センサ10は、無機絶縁ケーブル(MIケーブル)12、容器14及びRTD検出素子16を備えている。
【0010】
MIケーブル12は、RTD温度センサ10の基部側端部(図示せず)から、RTD温度センサ10のもう一方の端部となるセンサ容器14まで延びている。MIケーブル12は、外側筒状部20、導電線22a、22b、22c及び22d、並びに無機絶縁粉末からなる充填材を有している。一実施形態において、外側筒状部20は321ステンレス鋼からなり、導電線22a〜22dはニッケル線であり、無機絶縁充填材24は酸化マグネシウム(MgO)粉末からなる。
【0011】
センサ容器14は、延長筒状部30とエンドキャップ32とを備えている。延長筒状部30の一端部は外側筒状部20の端部に溶接されており、延長筒状部30の他端部にはエンドキャップ32が溶接されることによりセンサ容器14の端部が閉塞されている。一実施形態において、延長筒状部30及びエンドキャップ32は、いずれも316ステンレス鋼で形成されている。また、別の実施形態として、延長筒状部30は316Lステンレス鋼、321ステンレス鋼、或いは316Tiステンレス鋼で形成するようにしてもよい。
【0012】
RTD検出素子16は、センサ容器14内においてエンドキャップ32に近接して配設されている。RTD検出素子16の導電線34a及び34bは、中央方向に延びており、ケーブル12の導電線22a〜22dに接続されている。RTD検出素子16の導電線34aは、レーザ溶接部36aによって導電線22a及び22bの端部に接続されている。また、RTD検出素子16の導電線34bは、レーザ溶接部36bによって導電線22c及び22dの端部に接続されている。一実施形態において、RTD検出素子16には、ヘレウスセンサ社(Heraeus Sensor GmbH)製のHD−421検出素子のような薄膜型RTD検出素子が用いられる。この実施形態では、導電線34a及び34bが白金電線となっている。別の実施形態として、巻線型のRTD検出素子を用いるようにしてもよい。
【0013】
センサ容器14の内側にはセラミックス系接着充填材38が充填されている。一実施形態では、セラミックス系接着充填材38を、約450℃まで安定した温度的特性を発揮する二成分耐熱性エポキシのサーモガス2000(Thermoguss 2000)としている。また、もう1つの実施形態では、セラミックス系接着充填材38を、約600℃まで安定した温度的特性を発揮する二成分セラミックス系接着材のセラスティルV336(Cerastil V336)としている。
【0014】
セラミックス系接着充填材38は、電気的絶縁性と所望の最高温度までの安定した性能とを有すると共に、RTD検出素子16とセンサ容器14との間の相対的な変位を防止しなければならない。セラミックス系接着充填材38は、RTD温度センサ10が振動しているときにRTD検出素子16がセンサ容器14に対して移動しないように、センサ容器14内に強固な塊体を形成することにより、このような相対的な変位を防止している。
【0015】
高振動環境では、RTD温度センサ10に対する振動の負荷が、10Hz〜500Hzの周波数領域の加速度で100m/sを超えることがある。場合によっては、この加速度が10Hz〜500Hzの周波数領域にわたり600m/sに達することもある。
【0016】
約450℃までの動作温度については、セラミックス系接着材のサーモガス2000が必要な耐震性を備えると共に極めて優れた熱伝導体となる。セラスティルV336は、より高い動作温度領域(600℃まで)を得ることができるものの、サーモガス2000ほど高い熱伝導性を有していない。しかしながら、セラスティルV336とサーモガス2000とを組み合わせて用いることにより、温度領域の拡大と応答時間の向上を達成することが可能となる。一実施形態では、センサ容器14内の約2/3にセラスティルV336が充填され、約1/3にサーモガス2000が充填されている。この実施形態では、RTD検出素子16に最も近い端部側がサーモガス2000を充填する部分となっている。また、セラミックス系接着材の層を別の組み合わせとすることも可能である。
【0017】
RTD温度センサ10の製造は、MIケーブル12の端部から延びる導電線22a〜22dに導電線34a及び34bをレーザ溶接して行われる。次に、延長筒状部30が、導電線22a〜22d、導電線34a及び34b、並びにRTD検出素子16を覆うようにして設けられ、このとき延長筒状部30の端部がケーブル12の外側筒状部20の端部に当接した状態となる。そして、これら外側筒状部20と延長筒状部30とが、レーザ溶接により突き合わせ接合される。
【0018】
更に、セラミックス系接着充填材38が、延長筒状部30によって形成されたセンサ容器24の内部に導入される。このとき、センサ容器14の開口端部からセラミックス系接着充填材38を導入可能とするため、まだエンドキャップ32は延長筒状部30に接合されていない。エンドキャップ32が延長筒状部30の開口端部に嵌挿されて溶接される前に、セラミックス系接着充填材38を硬化させ固めるようにしてもよい。
【0019】
容器内全体にセラスティルV336が充填されたRTD温度センサ10、及び容器内の2/3にセラスティルV336が充填されると共に容器内の1/3にサーモガス2000が充填されたRTD温度センサ10の試験では、−60℃〜600℃の温度範囲にわたって満足のいく動作が確認された。これらのセンサは、10Hz〜500Hzの周波数領域における600m/sまでの加速度の振動負荷のもとで良好に動作した。
【0020】
容器内全体にサーモガス2000が充填されたRTD温度センサも、10Hz〜500Hzの周波数領域における600m/sまでの加速度の振動負荷のもとで良好に動作した。容器内全体にサーモガス2000が充填されたRTD温度センサは、約450℃まで十分に安定した温度的特性が得られた。
【0021】
好ましい実施形態に基づき本発明を説明したが、当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく形状や詳細構造を変更してもよいことが判るであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機絶縁ケーブルと、
上記無機絶縁ケーブルの端部から延び、端部が閉塞された容器と、
上記容器内の上記閉塞された端部に近接して配設され、上記無機絶縁ケーブルの導電線に電気的に接続された抵抗温度検出素子と、
上記抵抗温度検出素子を取り囲んで上記容器内に充填されたセラミックス系接着材と
を備えることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
上記セラミックス系接着材は、10Hz〜500Hzの周波数領域における少なくとも100m/sまでの加速度の振動による損傷から上記抵抗温度検出素子を保護することを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
上記セラミックス系接着材は、10Hz〜500Hzの周波数領域における600m/sまでの加速度の振動による損傷から上記抵抗温度検出素子を保護することを特徴とする請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
約−60℃から少なくとも約450℃までの動作温度範囲を有することを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項5】
約−60℃から少なくとも約600℃までの動作温度範囲を有することを特徴とする請求項4に記載の温度センサ。
【請求項6】
上記セラミックス系接着材は、サーモガス2000(Thermoguss 2000)接着材からなることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項7】
上記セラミックス系接着材は、セラスティルV336(Cerastil V336)接着材からなることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項8】
上記セラミックス系接着材は、上記容器の第1の部分に充填されるセラスティルV336(Cerastil V336)接着材と、上記容器の第2の部分に充填されるサーモガス2000(Thermoguss 2000)接着材とからなることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項9】
上記容器は、上記無機絶縁ケーブルの端部に一端部が連結されたスリーブと、上記スリーブの他端部に接合されたエンドキャップとを備えることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項10】
上記容器はステンレス鋼によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項11】
上記抵抗温度検出素子は、薄膜型抵抗温度検出素子からなることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項12】
ケーブルの端部から延びる導電線に抵抗温度検出素子を接続する工程と、
熱伝導性を有するスリーブの内部に上記抵抗温度検出素子が位置するように上記ケーブルの端部に上記スリーブの一端部を取り付ける工程と、
上記スリーブの開口する他端部を介して導入されるセラミックス系接着材を上記スリーブ内に充填する工程と、
上記スリーブの上記他端部にエンドキャップを装着して上記スリーブ内に上記抵抗温度検出素子及び上記セラミックス系接着材を封入する工程と
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項13】
上記セラミックス系接着材を上記スリーブ内に充填する工程は、
第1のセラミックス系接着材を上記スリーブ内の第1の部分に充填する工程と、
第2のセラミックス系接着材を上記スリーブ内の第2の部分に充填する工程と
を備えることを特徴とする請求項12に記載の温度センサの製造方法。
【請求項14】
上記第1のセラミックス系接着材は、セラスティルV336(Cerastil V336)接着材からなり、
上記第2のセラミックス系接着材は、サーモガス2000(Thermoguss 2000)接着材からなる
ことを特徴とする請求項13に記載の温度センサの製造方法。
【請求項15】
上記セラミックス系接着材は、少なくとも約450℃までの耐熱性を有することを特徴とする請求項12に記載の温度センサの製造方法。
【請求項16】
上記セラミックス系接着材は、サーモガス2000(Thermoguss 2000)接着材からなることを特徴とする請求項15に記載の温度センサの製造方法。
【請求項17】
上記セラミックス系接着材は、少なくとも約600℃までの耐熱性を有することを特徴とする請求項12に記載の温度センサの製造方法。
【請求項18】
上記セラミックス系接着材は、セラスティルV336(Cerastil V336)接着材からなることを特徴とする請求項17に記載の温度センサの製造方法。
【請求項19】
ケーブルと、
上記ケーブルの端部に取り付けられた容器と、
上記容器内に配設され、上記ケーブルと電気的に接続された抵抗温度検出素子と、
上記容器内に充填され、10Hz〜500Hzの周波数領域における少なくとも100m/sの加速度の振動から上記抵抗温度検出素子を保護すると共に、−60℃から少なくとも約450℃の温度範囲にわたり耐熱性を有するセラミックス系接着材と
を備えることを特徴とする温度センサ。
【請求項20】
上記セラミックス系接着材は、少なくとも600℃までの温度範囲にわたり耐熱性を有することを特徴とする請求項19に記載の温度センサ。

【図1】
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【公表番号】特表2011−522261(P2011−522261A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511895(P2011−511895)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/045836
【国際公開番号】WO2009/146447
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(597115727)ローズマウント インコーポレイテッド (240)
【Fターム(参考)】