説明

高昇華性物質用積層フィルム、これを用いた包装袋、巻回体、及び高昇華性物質用積層フィルムの製造方法

【課題】高昇華性物質に対する耐性、バリア性を有し、内容物保護性に優れ、内容物の包装作業が容易で自動化に対応可能で取扱性に優れ、耐擦傷性に優れ、高い引裂き強度を有する高昇華性物質用フィルムを提供する。
【解決手段】基材層上にヒートシール層と被膜層とが順次積層形成された構成を有し、前記基材層は不織布よりなり、前記ヒートシール層はポリ塩化ビニリデン製延伸フィルムよりなり、前記被膜層はポリ塩化ビニリデンラテックスよりなる高昇華性物質用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高昇華性物質用積層フィルム、これを用いた包装袋、巻回体、及び高昇華性物質用積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヨウ素等、高昇華性物質を取り扱うための包装用フィルムや包装用袋に関する技術提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−290740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術において提案されているヨウ素包装用袋は、例えば、ダンボール、ドラム缶等の、いわゆる外容器に収容される袋(内袋)として使用されるものであるにも関わらず、袋の表面が外容器面との摩擦によって擦傷やピンホールを生じやすいという問題がある。
また、上記従来技術において提案されているヨウ素包装用袋は、引裂き強度が実用上十分ではなく、一旦、クラックや傷等が生じると、容易く破れてしまうという問題がある。
さらには、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルムは、表面がべたつきやすいため、特に製袋工程で寸法ずれやしわ等が発生しやすく、取扱性及び製袋歩留まりが悪いという問題もある。
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、ヨウ素等のいわゆる高昇華性物質に対する実用上十分な耐性やバリア性を有し、かつ物質の包装作業が容易で自動化に対応可能で取扱性に優れ、包装過程や流通過程等、種々の使用環境下での耐擦傷性に優れ、高い引裂き強度を有する、実用的に優れた高昇華性物質用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明においては、基材層上に、ヒートシール層と被膜層とが順次積層形成されており、前記基材層は不織布よりなり、前記ヒートシール層はポリ塩化ビニリデン製延伸フィルムよりなり、前記被膜層はポリ塩化ビニリデンラテックスよりなる高昇華性物質用積層フィルムを提供する。
【0006】
請求項2の発明においては、請求項1に記載の高昇華性物質用積層フィルムをヒートシールして形成された包装袋であって、前記被膜層が内包面、前記基材層が外装面である高昇華性物質用の包装袋を提供する。
【0007】
請求項3の発明においては、請求項1に記載の高昇華性物質用積層フィルムが巻回されている高昇華性物質用積層フィルム巻回体を提供する。
【0008】
請求項4の発明においては、不織布よりなる基材層上に、ポリ塩化ビニリデン製延伸フィルムよりなるヒートシール層を積層する工程と、前記ヒートシール層上に、ポリ塩化ビニリデンラテックスよりなる被膜層を積層する工程と、を有する高昇華性物質用積層フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
ヨウ素等のいわゆる高昇華性物質に対する実用上十分な耐性やバリア性を有し、内容物保護性に優れ、内容物の包装作業が容易で自動化に対応可能で取扱性に優れ、包装過程や流通過程等、種々の使用環境下での耐擦傷性に優れ、高い引裂き強度を有する高昇華性物質用フィルム及び高昇華性物質用包装袋が提供できる。
また、上記性能を有し、かつ巻回してもフィルム間のべたつきがなく、製袋工程において極めて優れた取扱性を発揮し得る高昇華性物質用フィルムの巻回体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
〔高昇華性物質用積層フィルム〕
本実施の形態における高昇華性物質用積層フィルム(以下、単に積層フィルムという場合がある。)は、基材層上にヒートシール層と被膜層とが順次積層形成された構成を有している。基材層は不織布よりなり、前記ヒートシール層はポリ塩化ビニリデン(PVDC)製延伸フィルムよりなり、前記被膜層はポリ塩化ビニリデン(PVDC)ラテックスよりなる。
【0012】
(基材層)
基材層は、積層フィルムの機械的強度、特に引張り強度を担っている層である。また、包装体として使用される際に、例えばファイバードラム等の外装と擦れることにより積層フィルムが破れたり穴が開いたりするのを防止する機能も発揮する。
さらに、積層フィルムをヒートシールして後述する包装袋とする際、積層フィルムが熱変形してしまうことを防止する耐熱層としても機能する。
基材層は不織布よりなり、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布等が挙げられる。
特に、ポリエステル素材は耐熱性に優れているため、本実施の形態における積層フィルムを構成する基材層として好ましい。具体的には、本実施の形態における積層フィルムを用いて包装袋を作製するとき、シール温度が高温でヒートシール層が溶融しても基材層は溶融しないため、確実にシール部を形成でき、かつ外観上も良好になる。
不織布の単位坪量当たりの目付け(1m2の不織布の重量をグラムで表したもの)は、10〜100g/m2の範囲が好ましく、20〜70g/m2の範囲がより好ましく、30〜60g/m2の範囲がさらに好ましい。この範囲とすることにより、最終的に得られる積層フィルムにおいて被膜層(PVDCラテックス)のべたつきを効果的に吸収でき、実用上十分な引裂き強度、耐摺性が発揮されるようになる。
なお、不織布の単位坪量当たりの目付けは、不織布を任意の大きさにサンプリングし、所定の測定器で重量を測定しm2換算することにより算出できる。
上記不織布の目付けが大きければ、不織布の厚みも増えるため、引裂き強度、耐摺性の向上効果が得られる。
目付けが10g/m2未満だと、例えばファイバードラム缶等に収容するまでの包装工程で破れたり、破袋したりし、さらには被膜層(PVDCラテックス)のべたつきの吸収が不十分になる。
目付けが100g/m2を超えると、被膜層のべたつき吸収効果、耐摺性は十分に得られるが、積層フィルムにおいて風合いが悪化し、例えばこの積層フィルムで作製した包装用袋にヨウ素等の材料を投入し、さらにこれを外装であるファイバードラム缶等に収容する際、形状追従性が悪く、沿い難くなり、包装作業性が悪化するおそれがある。
基材層の厚さは、上記目付けを考慮して、0.05〜1.00mmが好ましく、0.10〜0.50mmがより好ましく、0.15〜0.3mmがさらに好ましい。
上述したことから、本実施の形態における積層フィルムを構成する基材層として不織布を使用することにより、下記(1)〜(3)の効果が発揮される。
(1)引裂き強度が大きいため、クラックや傷等が入ったとしても簡単には引裂かれずフィルムが破れたりすることがない。
(2)耐摺性、耐擦性に優れており、ダンボール箱やファイバードラム缶等の外装と摩擦磨耗した場合においても破袋が生じにくく、内容物保護性に優れる。
(3)べたつき性が殆どないため、ロール状に巻かれて基材層(表)とシール層(裏)が接触した状態において、後工程(スリット、製袋等)でフィルムを繰り出した時に剥離抵抗が少なく、寸法変動が起こり難く、作業性が良好となる。また、包装用袋の取扱性が良好なものとなる。
【0013】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、ポリ塩化ビニリデン(以下、単にPVDCと言うこともある。)製延伸フィルムにより構成されている。
ヒートシール層を形成するPVDC製延伸フィルムは、PVDCとなる単量体混合物を溶融押出ししてフィルム状にし、延伸したものである。延伸して配向を与えることにより、フィルムが屈曲したり変形したりしてもフィルムにクラックが入りにくくなる効果が得られる。延伸は一軸延伸でもよいが、二軸延伸とすることでよりクラックが入りにくくなるので好ましい。
【0014】
PVDCは、塩化ビニリデン単独の重合体でもよく、また他の単量体との共重合体でもよいが、押し出し加工特性を向上させるためには、共重合体が好ましい。
共重合可能な単量体としては、例えば、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
PVDCにおける塩化ビニリデンの含有量は、高昇華性物質に対する高バリア性を確保するために50質量%以上とするものとし、80〜97質量%が好ましい。
PVDCには、熱安定剤、可塑剤、滑り剤等を必要に応じて添加できる。
【0016】
PVDC製延伸フィルムの製造方法は、公知の方法を適用できる。たとえば、円形ダイよりチューブ状に押出して、空気を圧入して二軸同時に延伸するチューブラ延伸法等を適用できる。
【0017】
ヒートシール層は、上述したPVDC製延伸フィルムを、所定の接着剤により上記基材層状に貼り合わせることにより形成できる。
【0018】
(被膜層)
被膜層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)ラテックスにより構成されている。
PVDCラテックスは、公知の方法により、PVDCを水中に分散、乳化させたものである。
PVDCは、塩化ビニリデン単独の重合体でもよく、他の単量体との共重合体でもよいが、良好な低温ヒートシール性を得るためには、共重合体が好ましい。
共重合可能な単量体としては、例えば、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
PVDCの塩化ビニリデン含有量は、高昇華性物質に対するバリア性を確保するために、50質量%以上であることが必要であり、80〜92質量%が好ましい。
PVDCラテックスには、界面活性剤等の乳化剤やアンモニア等のpH調整剤等を必要に応じて添加してもよい。
また、被膜層は、積層フィルムのヒートシール面となるので、積層フィルムの滑り性を向上させるために所定の滑剤を添加してもよく、ブロッキング防止のためにアンチブロッキング剤を添加してもよい。
【0020】
被膜層は、PVDCラテックスを塗布、コーティング、転写、噴霧等することにより薄層を形成し、その後乾燥処理を施すことにより形成できる。また、PVDCラテックスをキャスト法等により薄いフィルム状に成形し、これを未延伸のまま、上述したPVDC延伸フィルムとラミネートして被膜層を形成してもよい。
【0021】
上述したヒートシール層(PVDC延伸フィルム)と、被膜層(PVDCラテックス)の役割について説明する。
ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)は、高昇華性物質に対するバリア性及び耐性を担っている。
PVDCは結晶性が高く、そのままでは脆く屈曲やヒートシールの圧力による変形等によりクラックが入りやすいが、延伸して配向を与えることにより屈曲や変形等をしてもクラックが入らなくなる。
一方、PVDCは結晶性が高いため延伸すると層状に結晶化してしまうので、フィルムの厚み方向に引張る応力に対して雲母状に剥れるように凝集破壊を生じやすい。このため、ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)のみが形成された構成とすると、積層フィルムを包装袋等に利用する際に、実用上十分な強度が得られない。
【0022】
しかし、ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)上に、PVDCラテックスよりなる被膜層を形成すると、上述した凝集破壊の発生を効果的に防止できる。
これは、被膜層を設けることにより、前述の引張り応力がいったん被膜層にかかることで応力の方向にずれが生じ、このずれによりヒートシール層にかかる応力が緩和されて、凝集破壊が生じにくくなるためであると考えられる。
【0023】
また、ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)を設けず、基材層上に直接被膜層(PVDCラテックス)を形成した構成とすると、PVDCの結晶に配向がかかっていないため、全体として脆く、屈曲やヒートシールの圧力による変形等によりクラックが入ってしまう。これにより高昇華性物質を取り扱う際、この物質が浸透して、減量、変質、積層フィルムの剥離や強度低下を引き起こす原因となる。
【0024】
また、被膜層(PVDCラテックス)の膜厚は、ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)にかかる応力を緩和して、本実施の形態における積層フィルムにおいて十分なヒートシール強度を得るために3μm以上20μm以下とするのが好ましい。
また、ヒートシール層(PVDC延伸フィルム)の厚さは、高昇華性物質を取り扱う際、減量、変質、及び積層フィルムの剥離や強度低下を防止するために、10μm以上が好ましく、良好な取り扱い性を確保するために50μm以下とすることが好ましい。
【0025】
(中間層)
本実施の形態における積層フィルムは、基材層とヒートシール層との間に中間層を設けた構成としてもよい。
中間層の材料としては、ポリオレフィン樹脂が好適である。ポリオレフィン樹脂の中間層を設けることにより、積層フィルムを硬くすることなく機械的強度をさらに向上させたり、外装との摩擦による破れ等の防止を図ったりする効果が得られる。
ポリオレフィン樹脂としては、公知のものを使用することができる。例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレンのホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー等のポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー等が挙げられる。
中間層の膜厚は、本実施の形態における積層フィルムの強度を十分に確保するためには10μm以上とすることが好ましく、例えば包装袋用材料として十分な柔らかさ、取扱性を確保するためには100μm以下とすることが好ましい。
中間層は、例えば、ポリオレフィン樹脂フィルムをドライラミネート法により基材層及びヒートシール層と貼り合わせて形成する方法、押出しサンドラミネート法により基材層とヒートシール層を貼り合わせる際に形成する方法(例えば、基材層とヒートシール層の間に溶融したポリエチレンを押出しラミネーションして基材層/中間層(PE)/ヒートシール層に加工する方法)、ポリオレフィン樹脂製フィルムを押出しサンドラミネート法により基材層及びヒートシール層と貼り合わせる方法(ラミネートフィルム全体の厚さを100μm程度に厚く形成するために、例えば、先ず、基材層とポリオレフィンフィルムの間に溶融したポリエチレンを押し出しラミネーションして積層フィルムを作り、この上にさらに溶融ポリを押出しラミネート加工する方法)により形成できる。これらの方法は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
前記ドライラミネート法とは、フィルムの表面に接着剤を塗布して乾燥させた後、他のフィルムと圧着して貼り合わせる方法である。接着剤としては2液硬化型ウレタン系接着剤が好ましい。
押出しサンドラミネート法とは、樹脂を溶融し、Tダイより薄膜状に押出して、2枚のフィルムの間に挟んで貼り合わせる方法である。接着と中間層の形成が同時にできるため優れた方法である。この場合も接着剤層は必要であるが、ドライラミネート法に比べて接着剤層を非常に薄くできるため、積層フィルムを柔らかく形成できるという利点を有している。押出しサンドラミネート法の接着剤層としては、2液硬化型ウレタン系接着剤の他、ポリエチレンイミン系接着剤を用いてもよい。
【0026】
〔高昇華性物質用積層フィルムの製造方法〕
本実施の形態における積層フィルムは、基材層とヒートシール層とを所定の接着剤層を介して積層し、その後、被膜層を上述した方法により、ヒートシール層の上層に形成することにより作製できる。
なお、接着剤としては、軟包装用の積層フィルムに一般的に使用されているものが用いられる。具体的には2液硬化型ウレタン系接着剤やエチレン−アクリル酸共重合樹脂等が挙げられる。
また、積層フィルムの製造工程においては、不織布(基材層)とPVDCフィルム(ヒートシール層)とを溶融樹脂により貼り合わせて押出しラミネート加工を行った後に、被膜層を形成することが好ましい。
これにより、ロールに巻かれた状態(不織布と被膜層とが接触した状態)から積層フィルムを繰り出すとき、不織布と被膜層とのブロッキングを防止でき、作業性が良好となる。
なお、被膜層(PVDCラテックス)を塗布形成する前処理として、PVDCフィルム層には、コロナ処理を施すことが好ましい。
【0027】
〔高昇華性物質用積層フィルムから構成される包装袋〕
本実施の形態における包装袋は上述した積層フィルムをヒートシールして形成されたものであり、被膜層が内包面、基材層が外装面となっている。
包装袋は、軟包装用積層フィルムを用いる公知の製袋方法に従って作製できる。
例えば、2枚の積層フィルムの被膜層形成面側を対向させて、貼り合わせる部位を加熱して溶融させながら圧着してヒートシールし、その後、冷却、固化して安定化させる方法が挙げられる。
ヒートシールの加熱、圧着方法としては、バーシール法、熱ローラー法、ベルトシール法、インパルスシール法、高周波シール法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、包装袋の形態については、軟包装用に一般的な公知の形態のいずれであってもよい。具体的には、三方シール袋、ピロー袋、ピローガゼット袋、四隅シールガゼット袋等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本実施の形態における使用方法として、例えば、包装袋の開口部より高昇華性物質(ヨウ素等)を投入した後、開口部をヒートシールして密封された包装体とする方法があるが、これに限定されるものではない。また、必要に応じて、ファイバードラムや段ボール箱、プラスチック製や金属製の通い箱等の外装を用いてもよい。
【0028】
〔高昇華性物質用積層フィルムから構成される巻回体〕
本実施の形態における巻回体は、上述した本実施の形態における積層フィルムが巻回されたものである。
本実施の形態における巻回体は、実用上十分な引裂き強度、引張り強度を有する積層フィルムよりなり、さらには基材層と被膜層との間がべたつかず、実用的な使用工程、例えば包装袋の製造工程において極めて優れた取扱性が発揮される。
【実施例】
【0029】
以下に具体的な実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
後述する実施例及び比較例において適用する各種物性の測定方法について説明する。
(1 引裂き強度)
実施例及び比較例において作製した積層フィルムを長方形(長さ75mm、幅63mm)に切り出して試験片とした。
JIS K 7128−2に準ずる方法に従い、エルメンドルフ引裂き試験機(テスター産業社製、IM―701)を用いて、上記試験片に20mmのスリットを入れて、引裂き強度(mN)を測定した。
(2 引張り強度)
実施例及び比較例において作製した積層フィルムを、測定方向に従って15mm幅に切り出して試験片とした。
JIS K 7127に準ずる方法に従い、引張り試験機(オリエンテック社製、RTC―1210A)を用いて、引張り速度50mm/分の条件で、15mm幅あたりの破断点強度(N/15mm)を測定した。
(3 突刺し強度)
実施例及び比較例において作製した積層フィルムを、正方形(長さ60mm、幅60mm)に切り出して試験片とした。
引張り試験機(オリエンテック社製、RTC―1210A)を用いて、上記試験片を固定し、試験片の表面(基材層側)、裏面(被膜層側)のそれぞれに、直径1.0mm、先端形状が0.5mmRの針を、50mm/分の速度で突刺し、針が貫通するまでの最大荷重(N)を測定した。
(4 ブロッキング強度)
実施例及び比較例において作製した積層フィルムを、先ず、正方形(長さ120mm、幅120mm)に切り出した。続いて、試験機の大きさに合わせて長さ120mm×30mmにカットして測定用の試験片とした。
油圧加熱成型機(東邦プレス製作所製、T−1S)を用いて、上記正方形試験片を、基材層面と被膜層面とを重ね合わせて、60℃の加熱温度条件下で100kg/cm2で1時間加圧し、積層試験片を作製した。
この積層試験片を、引張り試験機(オリエンテック社製、RTC―1210A)を用いて固定し、引張り速度50mm/分の条件でブロッキング強度を測定した。
(5 べたつき性)
実施例及び比較例において作製した積層フィルムを、正方形(長さ120mm、幅120mm)に切り出して試験片とした。
油圧加熱成型機(東邦プレス製作所製、T−1S)を用いて、上記正方形試験片を、基材層面と被膜層面とを重ね合わせて、60℃の加熱条件下で100kg/cm2で1時間加圧し、積層試験片を作製した。
この積層試験片を手指で剥がして、べたつき性を評価した。
評価方法としては、積層試験片を全面に亘ってスムーズに剥離できたものを、「べたつきなし」0点とした。剥離抵抗が感じられるものを「べたつきあり」1点とした。
(6 耐擦れピンホール)
実施例及び比較例において作製したフィルムを用いて、100mm×50mm(外寸)、シール幅5mmの、試験用三方シール袋を作製した。
次に、袋に水を充填し、袋を折って角部を作った。
摩擦磨耗試験機(テスター産業製、AB−101)を用いて、荷重200gのアーム状の冶具に固定して、速度70rpm/minの条件下で、その部分を(角部)直径110mmの円盤に貼り付けたダンボールと擦り合わせ、ピンホールが開くまでの摩擦回数を測定した。
【0031】
〔実施例〕
基材層として、旭化成せんい社製のポリエステル系スパンボンド不織布(「エルタスE05050(商品名)」、単位坪量当たりの目付けは、50g/m2)を使用した。
ヒートシール層となるPVDCフィルムとして、旭化成ケミカルズ社製「サランUBフィルム(商品名)、厚み25μm」を使用した。
基材層とPVDCフィルムの、それぞれの貼り合せ面側に東洋インキ製造社製2液硬化型ウレタン系接着剤EL−510とCAT−RT80とを規定配合比にて混合したものを、乾燥厚み0.4μmとなるように塗工した。
基材層とPVDCフィルムの間に、旭化成ケミカルズ社製「サンテックLD:L1850K(商品名)」を、厚み20μmとなるように押出し、サンドラミネート法にて貼り合せ、中間層を形成した。
次に、ヒートシール層であるPVDCフィルム(サランUBフィルム)面側に、コロナ処理を施しながら、被膜層となる旭化成ケミカルズ社製PVDCラテックス「L509」を、乾燥厚み6μmとなるように塗工し、乾燥処理を施して、積層フィルムを得た。
【0032】
上述した試験方法1に従って、積層フィルムの引裂き強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
引裂き強度は、フィルム流れ方向(以下MD方向と記載)が3453mN、幅方向(以下TD方向と記載)が4895mNであり、実用上十分な強度を示した。
【0033】
上述した試験方法2に従って、積層フィルムの引張り強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
引張り強度は、MD方向が113N/15mm幅、TD方向が80N/15mm幅であり、実用上十分な強度を示した。
【0034】
上述した試験方法3に従って、積層フィルムの突刺し強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
なお、突刺し強度の評価は、上記試験方法3に示したように、試験片の表面及び裏面のそれぞれに対して行うものであるため、表1においては、測定面及び測定結果をカッコ内に示し、他の試験と区別した。
表側(基材:不織布)が15N、裏側(被膜層:PVDC)が19Nであり、実用上十分な強度を示した。
【0035】
上述した試験方法4に従って、積層フィルムのブロッキング強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
MD方向が0.07N/30mm幅、TD方向が0.08N/30mm幅であり、実用上十分に小さい値であった。
【0036】
上述した試験方法5に従って、積層フィルムのべたつき性を評価した。
評価結果を下記表1に示す。
基材面と被膜層(ビニリデンラテックス層)面とを重ね合わせた試験片を手指で剥がしたところ、試験片の総数10個の内、全ての試験片においてべたつきは感じられなかった。
【0037】
上述した試験方法6に従って、積層フィルムの耐擦れピンホールを測定した。
測定結果を下記表2に示す。
ダンボールと擦ってピンホールが生じるまでの回数は984回であり、実用上十分な耐摺れ性を有していた。
【0038】
〔比較例〕
基材層として、ユニチカ社製二軸延伸ナイロンフィルム「一般タイプ(商品名)、(厚み15μm)」を使用した。
ヒートシール層となるPVDCフィルムとして、旭化成ケミカルズ社製「サランUBフィルム(商品名)」(厚み15μm)を使用した。
基材層とPVDCフィルムの、それぞれの貼り合せ面側に、東洋インキ製造社製2液硬化型ウレタン系接着剤EL−510とCAT−RT80を規定配合比にて混合したものを乾燥厚み0.4μmとなるように塗工した。
基材層とPVDCフィルムの間に、旭化成ケミカルズ社製「サンテックLD:L1850K(商品名)」を、厚み30μmとなるように押出しサンドラミネート法にて貼り合せた。
次に、ヒートシール層であるPVDCフィルム(サランUBフィルム)面側に、コロナ処理を施しながら、被膜層となる旭化成ケミカルズ社製PVDCラテックス「L509」を、乾燥厚み6μmとなるように塗工し、乾燥処理を施して、積層フィルムを得た。
【0039】
上述した試験方法1に従って、積層フィルムの引裂き強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
引裂き強度は、MD方向が392mN、TD方向が323mNであり、非常に小さい強度を示した。
【0040】
上述した試験方法2に従って、積層フィルムの引張り強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
引張り強度は、MD方向が76N/15mm幅、TD方向が72N/15mm幅であり、小さい強度を示した。
【0041】
上述した試験方法3に従って、積層フィルムの突刺し強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
表側(基材側)が10N、裏側(被膜層:PVDC側)が12Nであり、実用上不十分な強度であった。
【0042】
上述した試験方法4に従って、積層フィルムのブロッキング強度を測定した。
測定結果を下記表1に示す。
MD方向が0.13N/30mm幅であり、TD方向が0.12N/30mm幅であり、ブロッキングを生じたため大きい値となり、実用上良好な特性が得られなかった。
【0043】
上述した試験方法5に従って、積層フィルムのべたつき性を評価した。
評価結果を下記表1に示す。
基材面と被膜層(ビニリデンラテックス層)面とを重ね合わせた試験片を手指で剥がしたところ、試験片の総数10個の内、全部においてべたつきが感じられた。
【0044】
上述した試験方法6に従って、積層フィルムの耐擦れピンホールを測定した。
測定結果を下記表2に示す。
ダンボールと擦ってピンホールが生じるまでの回数は497回であり、実用上十分な耐摺れ性が得られなかった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の積層フィルムは、充分なヒートシール強度を有しているため、例えばヨウ素のような高昇華性物質や、浸透性が高く、各種材料を変質させやすい物質、アルコール類、有機溶剤類、化学薬品類を、輸送・保管する包装材料として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上にヒートシール層と被膜層とが順次積層形成されており、
前記基材層は、不織布よりなり、
前記ヒートシール層は、ポリ塩化ビニリデン製延伸フィルムよりなり、
前記被膜層は、ポリ塩化ビニリデンラテックスよりなる高昇華性物質用積層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の高昇華性物質用積層フィルムをヒートシールして形成された包装袋であって、
前記被膜層が内包面、前記基材層が外装面である高昇華性物質用の包装袋。
【請求項3】
請求項1に記載の高昇華性物質用積層フィルムが巻回されている高昇華性物質用積層フィルム巻回体。
【請求項4】
不織布よりなる基材層上に、ポリ塩化ビニリデン製延伸フィルムよりなるヒートシール層を積層する工程と、
前記ヒートシール層上に、ポリ塩化ビニリデンラテックスよりなる被膜層を積層する工程と、を有する高昇華性物質用積層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−120323(P2010−120323A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297633(P2008−297633)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000116828)旭化成パックス株式会社 (31)
【Fターム(参考)】