説明

高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法及びそのバルブシート

【課題】 温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートを提供する。
【解決手段】 素地形成用原料粉末として、質量%で、C:0.5〜1.5%、Ni:0.1〜3%、Mo:0.5〜3%、Co:3〜8%、Cr:0.2〜3%、Nb:0.1〜3%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金粉末、
硬質分散相形成用原料粉末として、同じく質量%で、Mo:20〜32%、Cr:5〜10%、Si:0.5〜4%、を含有し、残りがCoと不可避不純物からなる組成を有するCo基合金粉末を使用し、上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末を、上記Fe基合金粉末との合量に占める割合で20〜80質量%配合、混合してなる混合粉末のプレス成形体を焼結した製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の構造部材であるバルブシートにかかり、特に高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法及びそのバルブシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関のシリンダーヘッドには排気バルブおよび吸気バルブ用のバルブシートが設けられている。
【0003】
このようなものとして、素地形成用原料粉末として、C:0.5〜1.5%、Ni:0.1〜3%、Mo:0.5〜3%、Co:3〜8%、Cr:0.2〜3%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、および20〜50μmの平均粒径を有するFe基合金粉末、硬質分散相形成用原料粉末として、Mo:20〜32%、Cr:5〜10%、Si:0.5〜4%、を含有し、残りがCoと不可避不純物からなる組成、および20〜50μmの平均粒径を有するCo基合金粉末を使用し、上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末を、上記Fe基合金粉末との合量に占める割合で25〜35質量%配合し、混合してなる混合粉末のプレス成形体を焼結したものが知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−124162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスエンジンやディーゼルエンジン、特に圧縮天然ガス又は液化石油ガスを燃料とするガスエンジンにおいてシリンダー内に吸入される燃料を含んだ空気は、ガソリンエンジに比較して乾燥している。そして、ガソリンエンジでは燃料を含んだ空気の湿度が比較的高いためにバルブシートにおけるシート面においては、燃料に伴う湿気によって潤滑性を発揮できる。これに対してガスエンジンやディーゼルエンジンでは、燃料を含んだ空気は比較的乾燥しているので、バルブシートにおけるシート面は乾燥状態となって潤滑性が低く、この結果シート面の耐久性が低下するおそれがある。特に近年のガスエンジンやディーゼルエンジンでは高出力化および大型化はめざましく、これに伴ない、耐久性に優れたバルブシートが要求されている。
【0005】
このようにバルブシートは高温乾燥条件下での稼働をされるが、上記の従来バルブシートはじめ、その他多くのバルブシートを高温乾燥条件で用いた場合、摩耗進行が促進されるようになり、比較的短時間で使用寿命に至るおそれがある。
【0006】
解決しようとする問題点は、高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートを提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に高温乾燥条件下での実用に際しても、すぐれた耐摩耗性を発揮するバルブシートを開発すべく研究を行なった結果、
(1)硬質分散相形成用原料粉末の量を20〜80質量%、好ましくは40〜60質量%とすると高温乾燥条件下で優れた耐摩性を発揮すること、
(2)素地形成用合金粉末として、Nb(ニオブ(融点2468±10℃))を0.1〜3%添加すると、素地に微細炭化物が分散して耐磨耗性が向上すること、
(3)焼結後熱間又は冷間の鍛造することにより、硬質層の割合が増加しても、素地層と硬質層の密着性が向上し、素地層から硬質層の脱落が防止され、優れた耐摩性を発揮すること、
(4)さらにこれに少なくともシート面に熱間又は冷間の鍛造又は銅或いは銅合金を溶浸させることで、シート面の空孔率を低減せしめて耐久性が向上するようになること。
以上(1)〜(4)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明の請求項1は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、
素地形成用原料粉末として、質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:0.5〜3%、
Co:3〜8%、
Cr:0.2〜3%、
Nb:0.1〜1.5%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金粉末、
硬質分散相形成用原料粉末として、同じく質量%で、
Mo:20〜32%、
Cr:5〜10%、
Si:0.5〜4%、
を含有し、残りがCoと不可避不純物からなる組成を有するCo基合金粉末を使用し、
上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末を、上記Fe基合金粉末との合量に占める割合で20〜80質量%配合し、混合してなる混合粉末のプレス成形体を、焼結したことを特徴とする有するものである。
【0009】
また、この発明の請求項5は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、金属粉のプレス成形体を焼結して形成するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法において、焼結後の組成が質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:5〜25%
Co:15〜55%、
Cr:0.2〜5%、
Nb:0.1〜1.5%、
Si:0.5〜2.5%
残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金であって、
コバルト基耐摩耗相が面積比において20〜75%分布して、残Fe基焼結合金基体と不可避不純物からなることを特徴を有するものである。
【0010】
さらに、この発明の請求項11は、金属粉のプレス成形体を焼結して形成するFe基焼結合金製バルブシートにおいて、焼結後の組成が質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:5〜25%
Co:15〜55%、
Cr:0.2〜5%、
Nb:0.1〜1.5%、
Si:0.5〜2.5%
残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金であって、
コバルト基耐摩耗相が面積比において20〜75%分布して、残Fe基焼結合金基体と不可避不純物からなることを特徴を有するものである。
【0011】
つぎに、この発明のバルブシートの製造方法において、原料粉末の組成、および配合割合を上記の通りに限定した理由を説明する。
(A) 素地形成用原料粉末
(a) C
C成分は、焼結後も基体素地に原料粉末と同じ含有量で存在し、素地に固溶して、これを強化するほか、素地に分散する炭化物を形成して素地の耐摩耗性を向上させ、さらに硬質分散相にも含有して、これ自体の耐摩耗性を向上させる作用をもつが、その含有量が0.5%未満では上記作用に所望の向上効果が得られず、一方その含有量が1.5%を越えると、相手攻撃性が急激に増大するようになることから、その含有量を0.5〜1.5%と定めた。
【0012】
(b) Ni
Ni成分は、素地に固溶して、これを強化する作用があるが、その含有量が0.1%未満では上記作用に所望の効果が得られず、一方その含有量が3%を越えると強度が低下するようになることから、その含有量を0.1〜3%と定めた。
【0013】
(c) Mo
Mo成分も素地に固溶すると共に、素地に分散する炭化物を形成して、素地の強度および耐摩耗性を向上させる作用があるが、その含有量が0.5%未満では上記作用に所望の向上効果が得られず、一方その含有量が3%を越えると素地強度が低下するようになることから、その含有量を0.5〜3%と定めた。
【0014】
(d) Co
素地形成用原料粉末中のCo成分は、燃焼ガス雰囲気での高温耐食性を向上させるほか、上記拡散移動現象によって硬質分散相との密着性を一段と向上させ、もって高温乾燥条件下での耐摩耗性向上に寄与する作用があるが、素地形成用原料粉末中の含有量が3%未満では、上記作用に所望の効果が得られず、一方素地形成用原料粉末中の含有量が8%を越えると、バルブシート自体の耐摩耗性が低下するようになることから、素地形成用原料粉末中のCo含有量を3〜8%と定めた。
【0015】
(e) Cr
Cr成分は、素地形成用原料粉末中に0.2〜3%含有し、Cr含有量が0.2%未満では、素地の固溶強化および炭化物形成による耐摩耗性向上が不十分となり、一方素地形成用原料粉末中のCr含有量が3%を越えると、高温乾燥条件下での実用に際して、相手攻撃性が急激に増大するようになることから、素地形成用原料粉末中のCr含有量を0.2〜3%と定めた。
【0016】
(f) Nb
Nb成分は、素地形成用粉末中に0.1〜1.5%含有し、素地に分散して耐摩耗性を向上するが、0.1%未満では所望の効果が得られず、1.5%を越えると相手バルブへの攻撃性が増すことから0.1〜1.5%と定めた。
【0017】
(g) Fe
基体硬質分散相中のFe成分は、素地形成用原料粉末からの焼結時の拡散移動により含有するものであり、基体硬質分散相で、これの2相混合相の構成相である高靭性のFe−Co系合金相を形成して、高面圧付加条件下での硬質Mo−Co系合金相による相手攻撃性を緩和する作用があるが、その含有量が20%未満では上記Mo−Co系合金相の割合が多くなり過ぎて、所望の相手攻撃性緩和効果を確保することができず、一方その含有量が30%を越えると基体硬質分散相の硬さが低下し、バルブシートの耐摩耗性低下の原因となることから、基体硬質分散相中のFe含有量を20〜30%と定めた。
【0018】
(B) 硬質分散相形成用原料粉末および基体硬質分散相の組成
(a) Mo
硬質分散相形成用原料粉末中のMo成分は、焼結後の基体硬質分散相で、これの2相混合相の構成相である硬質のMo−Co系合金相を形成して、耐摩耗性を向上させる作用があるが、その含有量が20%未満では同じく構成相であるFe−Co系合金相の割合が多くなり過ぎて、所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その含有量が32%を越えると焼結性が低下し、バルブシートに所望の強度を確保することができなくなることから、硬質分散相形成用原料粉末中のMo含有量を20〜32%と定めた。
【0019】
(b) Cr
Cr成分は、硬質分散相形成用原料粉末中に5〜10%含有し、硬質分散相形成用原料粉末中のCr含有量が5%未満では、素地の固溶強化および炭化物形成による耐摩耗性向上効果が不十分となり、一方硬質分散相形成用原料粉末中のCr含有量が10%を越えると高温乾燥条件下での実用に際して、相手攻撃性が急激に増大するようになることから、硬質分散相形成用原料粉末中のCr含有量を5〜10%とし、焼結後の基体素地中のCr含有量が1〜5%となる、この場合硬質分散相におけるCr含有量も1〜5%となるように定めた。
【0020】
(c) Si
硬質分散相形成用原料粉末中のSi成分には、拡散移動して、これのCoおよびCr成分の焼結時の基体素地への拡散移動を促進して、基体素地に対する硬質分散相の密着性を著しく向上させる作用があるが、その含有量が0.5%未満では、CoおよびCr成分の基体素地中への拡散移動が不十分となって、硬質分散相と素地の間にすぐれた密着性を確保することができず、一方その含有量が4%を越えると、基体素地強度が低下するようになることから、硬質分散相形成用原料粉末中の含有量を0.5〜4%と定めた。
【0021】
(d) Co
硬質分散相形成用原料粉末中のCo成分は、焼結後の基体硬質分散相で、これの2相混合相の構成相である硬質のMo−Co系合金相および高靭性のFe−Co系合金相を形成して、耐摩耗性を向上させ、かつ相手攻撃性を緩和する効果を発揮するが、その含有量が15%未満では上記Fe−Co系合金相およびFe−Co系合金相の2相混合組織を有するMo−Fe−Co系合金相の強度が低下し、バルブシートに所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができなくなり、一方その含有量が55%を越えると素地硬質分散相自体の硬さが低下し、この場合もバルブシートに所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができなくなることから、基体硬質分散相のCo含有量を定めた。
【0022】
(C) 硬質分散相形成用原料粉末の配合割合
その配合割合が20質量積%未満では所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その配合割合が80質量%を越えると相手攻撃性が急激に増大するばかりでなく、強度も低下するようになることから、その配合割合を素地形成用原料粉末との合量に占める割合で20〜80質量%、好ましくは40〜60質量%と定めた。
【0023】
(D) 固体潤滑剤
CaF
CaF粉末を、上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末との含有に占める割合で0.5質量%未満では潤滑効果が得られず、6質量%未満を越えると基地強度を低下させることから、上記混合粉末にCaF粉末を、上記混合粉末との含有に占める割合で0.5〜6質量%と定めた。
【発明の効果】
【0024】
請求項1、5の発明によれば、特に上述のように、この発明の方法によれば、高温乾燥下での実用に際して、低い相手攻撃性で、すぐれた耐摩耗性を発揮するバルブシートを製造することができ、内燃機関の大型化および高出力化に十分満足に寄与することができるものである。
【0025】
また、請求項2〜4の発明によれば、それぞれCo基合金粉末はコバルト基耐摩耗材Fe基合金であり、粉末との合量に占める割合で40〜60質量%とすること、混合粉末にCaF粉末含有すること、それぞれいっそう高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮できる。
【0026】
さらに、請求項6の発明によれば、Fe基焼結合金基体、コバルト基耐摩耗相が、それぞれの組成を有することでいっそう高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮できる。
【0027】
さらに、請求項7〜9の発明によれば、シート面の空孔率を低減せしめてシート面におけるバルブとの密閉性及び耐久性を確保することができる。
【0028】
しかも、請求項10の発明によれば、燃料を含む空気の乾燥状態が高いガスエンジンのバルブシートに好的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【実施例1】
【0030】
つぎに、この発明のバルブシートの製造方法を実施例により具体的に説明する。図1は圧縮天然ガス又は液化石油ガスを燃料とするガスエンジンのバルブシート1を示しており、このバルブシート1は薄い円筒状であって、その軸芯にエンジンヘッドの吸気孔或いは排気孔(いずれも図示せず)に連通する貫通孔2が形成されており、その軸芯方向の一方の面によってバルブ(図示せず)が当接するシート面3が形成されている。
【0031】
バルブシートは、原料粉末を圧縮成形してプレス成形体を成形する圧粉体の成形工程、プレス成形体を焼結する焼結工程、さらに焼結品を熱間又は冷間の鍛造する熱間又は冷間の鍛造工程、さらに或いは焼結品の表面に銅または銅合金を溶浸する溶浸工程からなる。
【0032】
成形工程は、図2に示すように、成形孔11を有するダイス12と、この成形孔11の下部に、成形孔11に嵌合した形状の下パンチ13、及び軸芯にあるコアロッド14を備え、さらに上部に上パンチ15を備えている。そして、成形孔11中に原料粉末16を充填し、上パンチ15を下降させることによって、原料粉末16を所定形状にプレス成形するものである。
【0033】
それぞれ表1、2に示される成分組成をもった素地形成用原料粉末M−1〜M−13、および硬質分散相形成用原料粉末H−1〜H−7を用意し、また、表3に示すように比較法のための素地形成用原料粉末m1〜m5を用意する。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
そしてこれら原料粉末を表4に示される組合せで、かつ同じく下表に示される割合に配合し、ステアリン酸亜鉛:1%を加えてミキサーにて30分間混合し、この混合粉末を600〜800MPaの範囲内の所定の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を500℃に30分間保持して脱脂する。
【0038】
次に焼結工程として、100Pa以下の真空雰囲気中、1130〜1250℃の範囲内の所定温度に1時間保持の条件で焼結して、Fe基焼結合金基体を製造し、本発明法を実施し、例えば外径:42mm×最小内径:34.5mm×厚さ:6.5mmの寸法をもったバルブシートをそれぞれ製造した。
【0039】
そして,この焼結品においては、第1相として、Fe−Ni−Cr−Mo−Co−Nb−Si−CaF2からなるFe基焼結合金基体21に、コバルト基耐摩耗相22が、面積比において20〜75%分布している。該相22の周囲には拡散相が存在する。
【0040】
さらに、上記焼結後、800〜1000℃の温度で、700〜1000MPaの圧力で熱間の鍛造を行うようにした。この熱間の鍛造は,、少なくともシート面3を行なってその空孔23を潰して塞ぐ封孔処理を行なって空孔率を1〜10%に形成する。
【0041】
また、封孔処理としては図3の実施例2に示すようにFe基焼結合金基体に,メタン変性ガス雰囲気中で銅溶浸処理を施したシート面3に銅または銅合金を溶浸して溶浸層24を形成することによって,空孔率を1〜5%に形成するようにしてもよい。
【0042】
【表4】

【0043】
つぎに、この結果得られた各種のバルブシートについて、これを排気量:5000ccのガスエンジンに組み込み、
バルブの材質:ステライト、
シリンダー内圧力:1800MPa、
バルブスプリング荷重:500N、
エンジン回転数:3000r.p.m.、
運転条件:エンジン回転数一定で200時間、
の高面圧付加条件で実機試験を行ない、バルブシートの最大摩耗深さと相手材であるバルブの最大摩耗深さを測定した。これらの測定結果を表5に示した。
【0044】
さらに、鍛造条件によりバルブシートの最大摩耗深さと相手材であるバルブの最大摩耗深さを測定したものを表6、7に示した。
【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
【表7】

【0048】
このような表5、6、7に示される結果から、本発明法で製造された本発明バルブシートは、硬質分散相としてのコバルト基耐摩耗材の素地に対する密着性はきわめて強固なものとなるので、いずれも高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を示し、さらに上記硬質分散相のもつ相手攻撃性の小さいものとなることから、相手材であるバルブの摩耗も小さなものとなるのに対して、素地に対する硬質分散相の密着性が相対的に低いものとなるので、いずれも高温乾燥条件下では摩耗進行が速くなり、さらに上記硬質分散相がきわめて硬質であることから、相手攻撃性も大きなものとなることが明らかである。
【0049】
しかも、少なくともシール面3において鍛造処理や銅溶浸処理によって封孔処理を行なうことによって、シール面3を平滑に形成して、バルブとの密着性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように本発明にかかるバルブシートは、高温乾燥条件下の種々の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1を示す一部を拡大概略断面した概略斜視図である。
【図2】本発明の実施例1を示す成形工程の断面図である。
【図3】本発明の実施例2を示す一部を拡大概略断面した概略斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 バルブシート
3 シール面
21 Fe基焼結合金基体
22 コバルト基耐摩耗相
23 空孔
24 溶浸層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地形成用原料粉末として、質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:0.5〜3%、
Co:3〜8%、
Cr:0.2〜3%、
Nb:0.1〜1.5%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金粉末、
硬質分散相形成用原料粉末として、同じく質量%で、
Mo:20〜32%、
Cr:5〜10%、
Si:0.5〜4%、
を含有し、残りがCoと不可避不純物からなる組成を有するCo基合金粉末を使用し、
上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末を、上記Fe基合金粉末との合量に占める割合で20〜75質量%配合し、混合してなる混合粉末のプレス成形体を、焼結したことを特徴とする高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項2】
上記Co基合金粉末はコバルト基耐摩耗材であって、
上記焼結後の組成が質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:5〜25%
Co:15〜55%、
Cr:0.2〜5%、
Nb:0.1〜1.5%、
Si:0.5〜2.5%
残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金であることを特徴とする請求項1記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項3】
上記Fe基合金粉末に上記Co基合金粉末を、上記Fe基合金粉末との合量に占める割合で40〜60質量%としたことを特徴とする請求項1記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項4】
上記混合粉末にCaF粉末を、上記混合粉末との含有に占める割合で0.5〜6.0質量%としたことを特徴とする請求項1又は2記載のいずれか1項に記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項5】
金属粉のプレス成形体を焼結して形成するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法において、焼結後の組成が質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:5〜25%
Co:15〜55%、
Cr:0.2〜5%、
Nb:0.1〜1.5%、
Si:0.5〜2.5%
残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金であって、
コバルト基耐摩耗相が面積比において20〜75%分布して、残Fe基焼結合金基体と不可避不純物からなることを特徴とする高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項6】
上記Fe基焼結合金基体が、Fe−Ni−Cr−Mo−Co−Nb−Si−CaF2であり、上記コバルト基耐摩耗相がCo−Mo−Cr−Siであることを特徴とする請求項5記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項7】
焼結後に少なくともシート面に鍛造を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項8】
焼結後に少なくともシート面に銅または銅合金を溶浸することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項9】
上記バルブシートの少なくともシート面の空孔率が1〜10%であることを特徴と
する請求項1〜8のいずれか1項に記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項10】
圧縮天然ガス又は液化石油ガスを燃料とするガスエンジンのバルブシートに用いられることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項11】
金属粉のプレス成形体を焼結して形成するFe基焼結合金製バルブシートにおいて、焼結後の組成が質量%で、
C:0.5〜2.0%、
Ni:0.1〜3%、
Mo:5〜25%
Co:15〜55%、
Cr:0.2〜5%、
Nb:0.1〜1.5%、
Si:0.5〜2.5%
残りがFeと不可避不純物からなる組成を有するFe基合金であって、
コバルト基耐摩耗相が面積比において20〜75%分布して、残Fe基焼結合金基体と不可避不純物からなることを特徴とする高温乾燥条件下ですぐれた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−316745(P2006−316745A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141929(P2005−141929)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】