説明

高温高分子電解質膜燃料電池における液体電解質損失の低減

【課題】燃料電池の高分子電解質膜における液体電解質の量を制御する方法を提供する。
【解決手段】この方法は、燃料電池の電気化学反応では補充不可能である液体電解質の蒸気によって燃料フローと空気フローの一又は複数を富化する処理を含む。さらにこの方法は、気体透過性アノードと気体透過性カソードの一又は複数経由で、高分子電解質膜を備える燃料電池に、液体電解質の蒸気を届ける処理を含む。これにより、燃料電池のPEM膜からの液体電解質の損失を低減することができ、燃料電池の耐久性の向上につながる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、高温高分子電解質膜(HT−PEM)燃料電池の分野に関し、特にHT−PEMからの液体電解質の損失を低減することにより、HT−PEM燃料電池の耐久性を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の中には高分子電解質膜(PEM)を備えるものがある。PEMは、燃料の電気化学的酸化が起きる場所である燃料電池の触媒付きアノードと、酸素の電気化学的還元が起きる場所である燃料電池の触媒付きカソードの間に配されることがある。これらの反応が起きるためには、一又は複数の荷電種(たとえばイオン)がアノードからカソードへとPEM内を輸送されなければならないと考えられる。よって、PEMはそのような一又は複数の荷電種に対して、充分な伝導性を持っていなければならない。もし、PEMがそのような一又は複数の荷電種に対して充分な伝導性を持っていなければ、望ましくない内部抵抗が生じ、それにより燃料電池の効率が下がるであろう。
【0003】
PEMは、荷電種に対する充分な伝導性に加えて、燃料と酸素に対して実質上不浸透性でなければならない。もしPEMが、燃料と酸素に対して実質上不浸透性でなければ、これらの種の一方又は両方がPEM内を移動して互いに直接反応し、その結果、燃料電池の効率を下げたり、危険を伴う可能性のある燃料・酸素の混合物を形成したりするであろう。
【0004】
HT−PEMの中にはゲル状のものもあり、高分子マトリックスを含んでいて、その中には液体電解質が収着されている。そのようなPEMの一例としてはPBI−PAが挙げられる。PBI−PA膜の中では、リン酸(PA)がポリベンゾイミダゾール(PBI)膜に収着されている。PBI−PA膜は、プロトン(H)がアノードからカソードへとPEM内を伝導される各種燃料電池において利用される。そのような燃料電池の動作性能を維持するためには、PEMのプロトン伝導性と、燃料と酸素に対するPEMの不浸透性を確保しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の分野における従来の考えとしては、燃料電池の作動中には、その中のPBI−PA膜は液体電解質を殆んどもしくは全く損失しないので、長期使用後も高性能が維持できる、というものであった。しかしながら、本願の発明者は、この従来の考えに反し、高温での長期使用によって、燃料電池内のPEMがその膜から液体電解質を損失する場合もあり、そのような液体電解質の損失の結果、プロトンの伝導性が低くなったり、燃料及び/又は酸素の透過性が高くなったりし、やがては反応物質のクロスオーバーにつながる、という認識に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで発明者はこれらの問題に対応するためのいくつかの形態を提供する。一実施形態においては、PEMと面共有接触するように配された気体透過性アノードと気体透過性カソードとを有する燃料電池の、PEMにおける液体電解質の損失を低減する方法を提供する。この方法は、燃料電池の電気化学反応では補充不可能である液体電解質の蒸気によって燃料フローと空気フローの一又は複数を富化する処理を含む。この方法はさらに、気体透過性アノードと気体透過性カソードの一又は複数経由で、PEMを備える燃料電池に、液体電解質の蒸気を届ける処理を含む。この構成によると、濃度の高まった液体電解質蒸気の働きにより、さもなければ膜からの液体電解質の損失を引き起こすであろう駆動力を低減することができる。具体的には、膜の外に存在する富化された燃料フロー及び/又は空気フローは、膜内の液体電解質の濃度に相対的に濃度差を縮小する。さらに、ある一例においては、この蒸気は、膜内に保持されているのと同じ液体電解質の蒸気であるため、膜内の液体電解質の量を正確に制御することができ、膜からの液体電解質の損失を最小限にできる。
【0007】
この他の実施形態として、液体電解質の蒸気で燃料及び/又は空気の流れを富化する燃料電池の例や、一又は複数の燃料電池に、燃料流、空気流、液体電解質の蒸気を取り入れるように構成された関連システムを提供する。この構成によると、燃料電池におけるPEM膜からの液体電解質の損失を低減あるいはくつがえすことができ、燃料電池の耐久性と性能の向上につながる。
【0008】
上記の発明の概要は、以下に詳細な説明を記した概念の中から選択したものを簡単に紹介したものである。よって、請求の範囲に係る主題の、重要あるいは不可欠な特徴を指摘することを意図したものではない。この主題の範囲は、詳細な説明のあとに提示されている請求の範囲によって定義されている。また、請求の範囲に係る主題は、上記あるいは本願に記載の短所を解決するための実現形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本願に係る燃料電池スタックの一例の細部を示す概略図である。
【図2】図2は、本願に係る燃料電池の一例の細部を示す概略図である。
【図3】図3は、本願に係る膜・電極接合体(MEA)の一例の断面の細部を示す概略図である。
【図4】図4は、本願に係るバブラーの一例の断面の細部を示す概略図である。
【図5】図5は、本願に係る燃料電池スタックの別の一例の細部を示す概略図である。
【図6】図6は、本願に係る燃料電池の構成の細部を示す概略図である。
【図7】図7は、本願に係る燃料電池の構成の細部を示す概略図である。
【図7A】図7Aは、本願に係る燃料電池の構成の細部を示す概略図である。
【図8】図8は、本願に係る燃料電池スタックに気体を供給する方法の一例を示した図である。
【図9】図9は、本願に係る燃料電池の高分子電解質膜における液体電解質の損失を低減する方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願の主題について、いくつかの実施形態を例として説明する。2以上の実施形態において、実質上その構成が類似する要素については、共通の呼称を用い、重複を最小限にして説明する。しかしながら、本願の異なる実施形態において呼称が共通であっても、それらの要素が少なくとも部分的に異なる場合もある。また、本願の図面は概略図であることに留意されたい。実施形態を例示する図においては、基本的に縮尺は一定ではない。また、図面の中には、一部の特徴や関係性を理解しやすくするため、意図的に縦横比を崩したものもある。
【0011】
図1は、一例である燃料電池スタック10の細部を示す概略図である。燃料電池スタック10は、燃料電池12A、12B、12Cを含み、これらは電気的に直列又は並列に接続されてよい。図示の実施形態においては、燃料電池が3つ含まれているが、1つ又は2つ含む場合、あるいは4つ以上含む実施形態も、本願と同様である。本願の実施形態においては、各燃料電池は実質上同じものであってもよいし、少なくとも部分的に異なっていてもよい。また、それぞれの燃料電池は、同じ燃料を取り入れ、空気を取り入れ、そして空気中に存在する酸素で、燃料の少なくとも一部の電気化学的酸化を触媒することにより、電圧と電流を生じる構成とすることができる。その燃料は、例えば水素やメタノールとすることができる。
【0012】
燃料電池スタック10は、適当な温度あるいは温度範囲で作動させることができ、その温度範囲には雰囲気以上の温度も含まれる。例えば、燃料電池スタックは120〜180℃の高温で作動する場合もある。雰囲気以上の温度で作動する場合の熱損失を制限するため、燃料電池スタックは断熱材14を備える。この断熱材は例えば、ガラスウール、フォーム状断熱材、あるいはその他の断熱材料で構成することができる。
【0013】
燃料電池スタック10の動作温度を制御するため、燃料電池スタックは、断熱材14の内部にヒーター16とクーラー18を備える。ヒーター16は、燃料電池スタックに熱を与えるあらゆる装置で構成することができる。例えばヒーターは、第1の熱交換器内を流れる流体(油、スチーム、エチレングリコールなど)を加熱する回路を備えることとしてもよい。ここで、第1の熱交換器は燃料電池スタックの内部に熱を与える構成となっている。同様に、クーラーは、第2の熱交換器内を流れる流体(油、水、エチレングリコールなど)を冷却する回路を備えることとしてもよい。ここで、第2の熱交換器は燃料電池スタックの内部から熱を奪う構成となっている。図1においては、ヒーターとクーラーを別々の2部材としているが、他の実施形態においては、加熱と冷却を同一の部材が行うこととしてもよい。また、さらに別の実施形態においては、ヒーターが抵抗加熱エレメントを備え、クーラーがペルチェ素子を備える構成としてもよい。さらに、燃料電池スタックの動作温度を閉ループ制御できるよう、ヒーター及び/又はクーラーを温度センサーと温度制御器(図示せず)に機能的に接続してもよい。
【0014】
図2は、一例である燃料電池12Aの細部を示す概略図である。この燃料電池はアノードフロープレート20とカソードフロープレート22を備える。例えば、アノードフロープレートとカソードフロープレートはいずれもグラファイトで形成することができる。アノードフロープレートとカソードフロープレートはそれぞれ、燃料(あるいは空気)を取り入れたり、未使用の燃料(あるいは空気)及び反応生成物質を放出したりするのに使用される、少なくとも一の流路を有することとしてもよい。アノードフロープレートとカソードフロープレートの間には、膜・電極接合体(MEA)24が配されている。
【0015】
簡便性を考慮し、本願図面の内容はすべて概略的に描写されていることに留意されたい。当業者ならば理解できる通り、燃料電池、MEA、フロープレートのさまざまな実施形態においては、細部の構造が図示されているものと異なる場合もある。たとえば、図2に示すフロープレート20、22内の蛇行流路は、いずれかの実施形態において蛇行流路が使用される場合もあるということを表しているが、いかなる実施形態においても流路の細部構造を示すものではないということも考えられる。
【0016】
図3はMEA24の断面をさらに詳細に示すものである。このMEAは触媒付きアノード26と触媒付きカソード28を有する。触媒付きアノードと触媒付きカソードはそれぞれ、例えば炭素繊維紙あるいは炭素繊維布で形成することができ、微細化した触媒的活性を有する金属分散体のようなレドックス触媒を含むこととしてもよい。触媒付きアノードと触媒付きカソードはいずれも、PEM30と面共有接触するように配されている。
【0017】
PEM30は、イオン伝導性高分子及び/又は液体電解質を含む高分子である。液体電解質は、燃料電池の動作中において、触媒付きアノード26と触媒付きカソード28の間を行き来する一又は複数の荷電種に関して、PEMの伝導性を高めると考えられる。例えば液体電解質は、高分子を膨張させたり、一又は複数の荷電種を溶媒和させたりすることによって、PEMの伝導性を高めると考えられる。さらに液体電解質は、(例えば高分子の膨張により)PEMの寸法上の統合性を維持する働きをすることもあり、それによってPEMが割れたり縮んだりすることを防止する。実施形態によっては、高分子繰り返し単位のモル量に相対して著しいモル量の液体電解質をPEMが有することとしてもよい。よって、PEMはゲル状であってもよい。また、実施形態によっては、液体電解質は、PEMに収着される際、著しくイオン化する液体であってもよい。それによって液体電解質は、PEM内で電荷を持つイオンの濃度を維持すると考えられる。例えば液体電解質は、自己イオン化する場合もあるし、PEMの一又は複数の基本成分と化学的に反応してイオンを生じる場合もある。
【0018】
燃料電池によっては、PEM膜に水が収着される場合もある。しかしながら、水はさまざまな燃料電池反応の産物であるので、燃料電池内で各種燃料が酸化される際に、化学量論に基づいた量が形成される。下記はその一例である。

【0019】
ある液体(例えば水)が燃料電池反応の産物である場合、蒸発のためにPEMから失われた液体の少なくとも一部は、燃料電池反応によって補充されることもある。しかしながら、本願に記載の液体電解質など、燃料電池反応の産物ではない液体の場合、このような補充はされない。
【0020】
液体電解質を備えるPEMの一例としては、ポリベンゾイミダゾール・リン酸(PBI−PA)膜が挙げられる。このPEMは120〜180℃の温度で、燃料電池スタックにおいて使用される場合がある。しかしながら、そのような温度で使用した場合、リン酸のいくらかはPEMから蒸発し、アノードとカソードの流路を通って燃料電池スタックから出て行ってしまうこともある。このようなPA(リン酸)の損失は、少なくとも上記のような理由により、燃料電池スタックの耐久性及び/又は性能の低下につながると考えられる。さらに、PBI−PA膜の液体電解質は、燃料電池の電気化学反応では補充不可能である。つまり、燃料電池の電気化学反応により補充が可能な水とは違うのである。そこで、図4〜8に示した実施形態を提供する。これらの図は、燃料電池内に配されたPEMの液体電解質含有量の制御方法を例示している。より具体的には、液体電解質の過度の損失を防止あるいは低減する方法を例示している。
【0021】
図4は、一又は複数の燃料電池に対し、蒸気で富化した気体流(すなわち、燃料及び/又は空気の流れ)を供給する一形態を例示している。図4はバブラー32の断面の細部を示す概略図である。バブラーは、気体流を取り入れる場所である流入口34と、蒸気で富化した気体流を引き出して一又は複数の燃料電池に与える場所である流出口36とを備える。バブラーは液体電解質40が装填された空洞部38を有する。本実施形態においては、流入口から流入した気体は分散器42を経て液体電解質内へと分散される。分散器42はポリテトラフルオロエチレン、PBI、多孔質グラファイト、などの耐酸性材料を用いて形成することができる。液体電解質の温度において、液体電解質の蒸気でほぼ飽和している気泡は、液体電解質から昇り出る。その後、その飽和している気体はバブラーの流出口から燃料電池スタックに供給される。したがって、バブラーの空洞部は液体電解質蒸気の供給源と流体連通している。また、バブラーの空洞部は、燃料流を導き、かつ液体電解質の蒸気で燃料流を富化する構成としてもよい。実施形態によっては、一つの燃料電池に燃料を供給する燃料流を富化する第1のバブラーと、それと同じかあるいは異なる燃料電池に空気を供給する空気流を富化する第2のバブラーを備えることとしてもよい。
【0022】
液体電解質がリン酸である実施形態においては、バブラー32と、分散器42と、それに関する導管類は、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐酸性かつ耐熱性の材料で形成したり、内側を覆ったりしてもよい。
【0023】
図4の説明を続けると、バブラー32はヒーター44を備えており、ヒーター44は熱交換器であってもよいし、抵抗加熱素子であってもよい。バブラー内の液体電解質の温度を閉ループ制御できるよう、ヒーターを温度センサーと温度制御器(図示せず)に機能的に接続してもよい。さらに、燃料電池に届けられる電解質蒸気の量を調節するために、燃料電池の温度に応じて、ヒーターを調節することとしてもよい。
【0024】
バブラー32から気体流(すなわち、燃料又は空気の流れ)を受け取る構成の燃料電池を考える。バブラー内の液体電解質の温度が、燃料電池の動作温度より低い場合、気体は燃料電池に達した時点で、液体電解質の蒸気で非飽和の状態にあると考えられる。その場合液体電解質は、燃料電池のPEMから蒸発して気体流に入りこむと考えられる。バブラー内の液体電解質の温度が、燃料電池の動作温度より高い場合、気体は燃料電池に達した時点で、液体電解質の蒸気で過飽和の状態にあると考えられる。その場合、気体流からの蒸気は、燃料電池内で凝縮する、及び/又は、(以下の実施例で説明するような)燃料電池内に配された一又は複数の収着構造からの電解質の損失を低減する、と考えられる。さらに、バブラー内の液体電解質の温度が、燃料電池の動作温度と同じである場合、PEMの液体電解質含有量は変化しないと考えられる。
【0025】
図5は、一又は複数の燃料電池に対し、蒸気で富化された気体流(すなわち、燃料又は空気の流れ)を供給する別の一形態を例示している。図5は、一例である燃料電池スタック46を示しており、燃料電池スタック46は燃料流、空気流、液体電解質の蒸気を、一又は複数の燃料電池に取り入れるように構成されている。図示の実施形態においては、燃料電池スタックはマニホールド48を備える。このマニホールド内には収着構造50が配されている。収着構造50は、液体を保持するように構成された高表面積のいかなる構造であってもよいが、さらに液体の蒸気を発するように構成されている。例えば、スポンジ状の構造物、多孔質グラファイト、PBIなどで構成できる。したがって、この収着構造には液体電解質が装填されてもよい。上述のとおり一又は複数の過飽和の気体流によって、あるいはその他のあらゆる適した方法によって、収着構造に液体電解質が装填されることとしてもよい。収着構造50は高表面積を有しているため、マニホールドを通過する気体は、液体電解質の蒸気で富化された状態になると考えられる。収着構造50は断熱材14によって取り囲まれているため、収着構造内の液体電解質は、燃料電池スタックの動作温度に保たれていると考えられる。
【0026】
例示の実施形態においては、収着構造50はマニホールド48の流入口に配されている。この他の実施形態においては、収着構造が、内部マニホールドの他の箇所に(たとえば、バッフルとして)配されることとしてもよい。よって、内部マニホールドは、液体電解質蒸気の供給源と流体連通するよう配された、燃料流を導き、かつ液体電解質の蒸気で燃料流を富化するよう構成された空洞として機能する。この実施形態や他の実施形態において、この空洞は、燃料電池の触媒付きアノード又は触媒付きカソードへの途上で収着構造内を気体が通るように気体を輸送するよう構成されている。また、別の実施形態においては、燃料流の代わりに、あるいは燃料流に加えて、空気流が空洞内を導かれて液体電解質の蒸気で富化されることとしてもよい。
【0027】
図6は、一又は複数の燃料電池に対し、蒸気で富化した気体流(すなわち、燃料又は空気の流れ)を供給するさらに別の一形態を例示している。図6は、一例である燃料電池52の断面を示しており、燃料電池52は、各触媒付き電極(すなわち触媒付きアノード26と触媒付きカソード28)とそれに対応するフロープレート(20と22)の間にそれぞれ配された収着構造54A、54Bを備えている。各収着構造には、液体電解質が装填されてもよい。さらに、各触媒付き電極とそれに対応するフロープレート間に電流が流れるよう、各収着構造が導電性材料を備えることとしてもよい。
【0028】
図7と図7Aは、一又は複数の燃料電池に対し、蒸気で富化した気体流(すなわち、燃料又は空気の流れ)を供給するさらに別の一形態を例示している。図7は、一例であるフロープレート56を示しており、フロープレート56は、燃料電池のアノードフロープレートであってもよいし、カソードフロープレートであってもよい。このフロープレートは、燃料電池の触媒付き電極の表面上方において、気体(すなわち燃料又は空気)を分配するように構成された窪み流路58を有する。このフロープレートはさらに、フロープレートとそれに隣接する触媒付き電極の間に電気的接触を生じるよう構成された隆起領域60を備える。また、このフロープレートはさらに隆起領域の間に挿入された挿入収着構造62を備える。この挿入収着構造は、多孔質グラファイトのような吸収性材料で形成することができる。この挿入収着構造には液体電解質が装填されてもよい。また、この挿入収着構造は、フロープレートの窪み流路と交差しない領域において、触媒付き電極と接触するように構成してもよい。液体電解質が挿入収着構造に収着されている場合、ほぼ平面状である触媒付き電極を上方に収めるため、隆起領域と挿入収着構造とをほぼ同じ高さに構成してもよい。
【0029】
図7において、窪み流路58は燃料電池の電極フロープレート内に形成された空洞として機能する。先に述べた各例と同じく、この空洞は、液体電解質蒸気の供給源と流体連通するよう配され、燃料流又は空気流を導き、かつ燃料流又は空気流を液体電解質の蒸気で富化するように構成されている。
【0030】
図8は、一又は複数の燃料電池に対し、蒸気で富化した気体流を供給するさらに別の一形態を例示している。図8は、一例である燃料電池スタック64の構成を示している。燃料電池スタック64は、供給用マニホールド48A経由で新しい気体フロー(すなわち燃料又は空気の流れ)を取り入れるように構成されている。この燃料電池スタックはさらに、排出用マニホールド48Bを備える。未反応の気体や反応生成物質などを含んだ排出気体フローは、この排出マニホールド48Bを通って燃料電池スタックから放出される。
【0031】
図8に示すように、液体電解質富化ステージ66は、燃料電池スタック64に対して、流体移動可能に結合されている。この液体電解質富化ステージは、断熱材14A、ヒーター16A、及びクーラー18Aを備え、これらは上述の断熱材14、ヒーター16、クーラー18と実質上類似した構成としてもよいが、液体電解質富化ステージに適したサイズと形状で構成される。
【0032】
液体電解質富化ステージ66は、排出用マニホールド48Bからの排出気体フローを取り入れ、その排出気体フローを排出口68から放出するように構成されている。さらに液体電解質富化ステージは、供給口70から新しい気体フローを取り入れ、燃料電池スタックの供給用マニホールド48Aにその新しい気体フローを届けるように構成されている。液体電解質富化ステージ内で、排出気体フローと新しい気体フローは、収着構造50Aの互いに向かい合った面に沿って導かれる。収着構造50Aは、液体電解質富化ステージの内部空洞の長さにわたって形成されている。
【0033】
収着構造50Aは、上述の収着構造50とほぼ同様に構成することができるが、液体電解質富化ステージ66の内部空洞に適した形状とサイズで構成される。燃料電池スタック64の作動中は、液体電解質の蒸気が排出気体フローを経て液体電解質富化ステージに入り、収着構造上又は内部で凝縮すると考えられる。この作用によって、新しい気体フローの経路上にある液体電解質富化ステージの内部空洞に液体電解質の蒸気が放出されるため、その新しい気体フローを富化するための液体電解質が即座に装填された状態ができると考えられる。この構成によれば、供給口70から液体電解質富化ステージに供給される、燃料又は空気を含む気体は、液体電解質の蒸気と混ざり合い富化されると考えられる。さらに、流量及び、燃料又は空気の使用条件によっては、液体電解質富化ステージに供給される気体は、液体電解質富化ステージの温度において、液体電解質の蒸気でほぼ飽和すると考えられる。よって、富化あるいは飽和した蒸気が燃料電池スタックに供給される一方で、未使用の気体と反応生成物が排出口68から放出され、排出気体フロー内の液体電解質の少なくとも一部が再利用される。したがって、図8に示した構成によると、燃料又は空気のフローが、燃料電池への途上で収着構造の上を通過し、そして燃料電池から出たあとに再び収着構造の上を通過する。そのため、燃料又は空気のフローに含まれた状態で燃料電池から出た液体電解質の少なくとも一部は、その同じ燃料又は空気のフローに含まれた状態で燃料電池に戻ることになる。この構成によると、液体電解質の少なくとも一部を再利用することができる。
【0034】
上述のとおり、収着構造50Aには、排出気体フローに載って運ばれた蒸気からの液体電解質が装填されてもよいが、収着構造に液体を供給するには他の態様をとることもできる。例えば、液体電解質の蒸気で過飽和状態の新しい気体フローを、供給口70経由で液体電解質富化ステージ66に供給することとしてもよい。あるいは、別の実施形態においては、液体電解質が収着構造に対してウィッキングする(毛細管現象によって吸い上げられる)よう、液体電解質を直接液体電解質富化ステージに添加することとしてもよい。さらに、言うまでもなく、燃料電池スタックの燃料供給源と空気供給源の一方又は両方に2以上の液体電解質富化ステージを接続する実施形態も、本願と同様である。
【0035】
図9は、燃料電池の高分子電解質膜における液体電解質の損失を低減する方法72を一例として示している。この方法は、上述の構成例のうちの一又は複数を利用して実現することができる。まず初めに74において、燃料電池の電気化学反応では補充不可能である液体電解質の蒸気で燃料フローが富化される。
【0036】
この他、空気フローが液体電解質の蒸気で富化される実施形態も、本願と同様である。燃料フローの代わりに空気フローが富化されることとしてもよいし、燃料フローに加えて空気フローが富化されることとしてもよい。液体電解質の蒸気で、空気フローと燃料フローの両方が富化される実施形態においては、燃料フローと空気フローの富化のレベルは異なっていてもよい。
【0037】
液体電解質の蒸気で燃料フロー及び/又は空気フローを富化する処理が、リン酸の蒸気で富化する処理を含むこととしてもよい。特に、燃料及び/又は空気のフローを受け取る高分子電解質膜がPBIをベースとした膜である場合、そのような富化が適していると考えられる。
【0038】
一実施形態においては、液体電解質の蒸気で燃料フロー及び/又は空気フローを富化する処理が、燃料フロー及び/又は空気フローが電解質の装填されたバブラーを通るようにする処理を含むこととしてもよい。さらに、ほぼ飽和した蒸気が燃料電池に供給されるよう、バブラー内の液体電解質を燃料電池の動作温度まで加熱することとしてもよい。また、別の実施形態においては、液体電解質の蒸気で燃料フロー及び/又は空気フローを富化する処理が、燃料フロー及び/又は空気フローが電解質の装填された収着構造の上もしくは内部を通るようにする処理を含むこととしてもよい。
【0039】
その後、方法72は、76に進むと、燃料フローが、燃料電池の触媒付きアノードに届けられ、78に進むと、空気フローが、燃料電池の触媒付きカソードに届けられる。実施形態によっては、ステップ76と78を同時に行うこととしてもよい。
【0040】
さらに、方法72は80へと進み、燃料電池の触媒付きアノードと触媒付きカソードの一又は複数経由で、液体電解質の蒸気が燃料電池へと届けられる。実施形態によっては、高分子電解質膜に液体電解質の蒸気が届けられることによって、PEM内のイオン濃度が維持される場合もある。
【0041】
実施形態によっては、燃料フロー及び/又は空気フロー内の蒸気量を、例えば燃料電池の温度などの燃料電池の作動条件や、燃料電池の各箇所における温度のばらつき(例えば液体電解質の蒸気で燃料フロー及び/又は空気フローを富化する箇所と、富化された燃料フロー及び/又は空気フローがPEMと接触する箇所の間の温度差など)に基づいて調節することとしてもよい。
【0042】
実施形態によっては、本願の範囲を逸脱することなしに、ここに記載及び/又は図示した処理ステップの一部を省略することができる。同様に、所望の結果を得るためには、必ずしも提示された順序で処理ステップを行う必要はないが、図示及び記載を簡便にするために提示している。また、具体的にどのような方針をとるかによって、例示した作用、機能、操作の一又は複数を、繰り返し行ったり、同時に行ったりしてもよい。
【0043】
最後になるが、本願に記載した各システムと各方法は本質的に一例であり、これらの具体的な実施形態や例は様々な変形が可能であるため、限定的な意味に解釈されるべきものではない。したがって本願は、ここに開示されている様々なシステムと方法の、新規かつ非自明なコンビネーションとサブコンビネーションのすべて、及びすべての均等物を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と面共有接触するように配された気体透過性アノードと気体透過性カソードを備える燃料電池の、前記高分子電解質膜における液体電解質の損失を低減する方法であって、
前記燃料電池の電気化学反応では補充不可能である前記液体電解質の蒸気によって燃料又は空気のフローを富化する処理と、
前記気体透過性アノード又は気体透過性カソード経由で前記高分子電解質膜を備える燃料電池に前記液体電解質の蒸気を届ける処理と
を含む方法。
【請求項2】
前記液体電解質の蒸気を届ける処理が、前記高分子電解質膜のイオン濃度を維持する処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体電解質の蒸気によって前記燃料又は空気のフローを富化する処理が、リン酸の蒸気を用いて富化する処理を含み、
前記液体電解質の蒸気を届ける処理が、ポリベンゾイミダゾール膜をベースとするMEAに前記蒸気を届ける処理を含み、
届けられる前記蒸気の量は前記燃料電池の温度に応じて調節される
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体電解質の蒸気によって前記燃料又は空気のフローを富化する処理が、該燃料又は空気のフローを前記液体電解質の装填されたバブラーに通すようにする処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バブラー内の液体電解質を前記燃料電池の動作温度まで加熱する処理をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記液体電解質の蒸気によって前記燃料又は空気のフローを富化する処理が、該燃料又は空気のフローを前記液体電解質の装填された収着構造内に通すようにする処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記液体電解質の蒸気によって前記燃料又は空気のフローを富化する処理が、該燃料又は空気のフローを前記液体電解質の装填された収着構造の上を通すようにする処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料又は空気のフローが、前記燃料電池への途上、及び、前記燃料電池から出たあと再び、前記収着構造の上を通過して、該燃料又は空気のフローに含まれた状態で前記燃料電池から出た液体電解質の少なくとも一部が、その燃料又は空気のフローに含まれた状態で前記燃料電池に戻されるようにすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
触媒付きアノードと、
触媒付きカソードと、
前記触媒付きアノード及び触媒付きカソードと面共有接触するように配され、燃料電池の電気化学反応では補充不可能な液体電解質を備える高分子電解質膜と、
前記液体電解質が装填された収着構造と、
前記触媒付きアノード又は触媒付きカソードへの途上で、前記収着構造の上又は内部を通して気体を輸送するように構成された内部空洞と
を備える燃料電池。
【請求項10】
前記液体電解質が酸であることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記高分子電解質膜は、高温運転用のポリベンゾイミダゾールをベースとした膜であり、
前記液体電解質はリン酸である
ことを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記燃料電池は燃料電池スタックに含まれており、
前記収着構造は前記燃料電池スタックの内部マニホールド内に配されている
ことを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記収着構造が、前記燃料電池のアノードフロープレートと触媒付きアノードの間に配されていることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項14】
前記収着構造が、前記燃料電池のカソードフロープレートと触媒付きカソードの間に配されていることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項15】
前記収着構造が導電性を有していることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
前記収着構造が前記燃料電池の電極フロープレート内に形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項17】
前記収着構造が多孔性グラファイトで形成されていることを特徴とする、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項18】
燃料電池に燃料流、空気流、及びリン酸蒸気を取り入れるように構成されたシステムであって、
収着されたリン酸を含み、ゲル状でポリベンゾイミダゾールをベースとした電解質膜を備える前記燃料電池と、
前記リン酸蒸気の供給源と、
前記リン酸蒸気の供給源と流体連通しており、前記燃料流又は空気流を導き、その内部を通る該燃料流又は空気流を前記リン酸蒸気で富化するよう構成された、少なくとも一の空洞と
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項19】
前記空洞が、前記燃料電池の電極フロープレート内に形成されていることを特徴とする、請求項18に記載の燃料電池。
【請求項20】
前記空洞が、前記燃料電池の電極フロープレートの上流側に配されていることを特徴とする、請求項18に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7A】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−532426(P2012−532426A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518581(P2012−518581)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/040454
【国際公開番号】WO2011/002799
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(508143661)クリアエッジ パワー, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】