説明

高濃度のγアミノ酪酸を含むサワー生地の製造方法と利用法

【課題】 γアミノ酪酸(GABA)を著量に含む飲食品(例えば、サワーブレッドのようなパン類)を製造する方法を提供することを本発明の課題とする。
【解決手段】 中温性乳酸球菌および高温性乳酸桿菌・球菌を配合原材料に添加し、発酵させることによって、本発明の課題が解決された。高温性乳酸球菌としては、Streptococcus thermophilusの細菌および桿菌としては、代表的には、Lactobacillus属の細菌からなる群から選択される細菌が使用され、中温性乳酸球菌としては、代表的には、Lactococcus属の細菌が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製造の分野に関する。より具体的には、本発明は、パン製造のための生地の製造、とくにサワーブレッドの種生地や生地の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界では、安全・安心な食品の流通が一層強く望まれるとともに、人の健康に資する、美味しく、食しやすい食品の出現が望まれている。
【0003】
パンは、欧米における主食であるのみならず、我国においても、米食に次ぐ主食の地位を有する。現在パンは、エネルギー源としてのみならず、嗜好品、健康食品、美容のための食品としても有用である。実際にパンを摂食している消費者は、エネルギー源としてのみならず、健康や美容に関わる栄養素や成分が、食事時に摂取しやすく、かつ、美味しいパンを望んでいる。
【0004】
例えば、パン類では、リッチで柔らかいタイプのものが好まれる傾向にあるが、その一方で、本物志向が望まれている。本物志向の例としては、有機農産物を用いた、クラストが硬い食事用パン類を望む傾向が強まっている。その代表的なパン類としては、北欧や北米で昔から食されてきたサワーブレッド類をあげることができる。
【0005】
サワーブレッドは、酸味のあるパンであり、そして原料によって、ライ麦粉で作るライサワーブレッドと、小麦粉で作るホイートサワーブレッドに大別される。サワーブレッドの生地発酵のスタータには、サワー種と呼ばれる特殊な生地種が用いられる。
【0006】
古典的なサワー種生地の製造法では、生地発酵のスタータ(種)に「サワードウ」と呼ばれる特殊な生地種が用いられていた。サワードウは、家庭あるいはその地域の人々によって毎日植え継がれ、翌日のサワーブレッドを焼くための種(スタータ)としえて更新されていた。このサワードウには、生地発酵(膨化)に必要な酵母菌をはじめとして、酸生成をする乳酸菌も棲みついている。サワー種には、乳酸菌が含まれているが、従来の報告では、サワー種に含まれる乳酸菌は、乳酸桿菌であるLactobacillus属の細菌であることが公知である(非特許文献1)。
【0007】
北米、サンフランシスコではサンフランシスコサワーブレッドがとりわけ有名である。これら、各地域や各家庭に特有のサワードウは、パン作りに適合し、良い香りや味を付与する性質をパンにもたらす、独特の菌の混合物である。これの元となるサワー種(たね)である菌の混合物は、菌の種類等が独特である。これら独特の菌の混合物を用いて、わが国や他の地域の国でサワーブレッドを製造しようとしても、一般に上手く製造できない。この問題は、特定の乳酸菌菌株を用いることによって、克服されている(特許文献1)。
【0008】
しかし、上記のようにサワーブレッドを製造できるかどうかは、サワー種生地の製造に用いる菌に大きく依存する。従来、サワーブレッド生地の製造に使用されていなかった属の菌を使用するなどのように、用いる菌を大幅に変更すると、風味などの性質が大きく変化するばかりでなく、サワーブレッド製造のための発酵自体がうまくいかなくなると考えられていたこともあって、サワー種生地を改変して、より優れたサワー種生地を開発しようとする試みは、成功していなかった。
【0009】
上記に示した本物志向と同様に、近年、機能性食品も注目を集めている。
【0010】
γアミノ酪酸(GABA)は、アミノ酸の一種で脳や脊髄などの中枢神経系に多く存在する神経伝達物質であり、脳の血流を改善し酸素供給量を増加させ脳細胞の代謝機能を促進させる。脳内GABA濃度の低下は、痙攣を誘発させる。さらに、GABAは、血圧降下作用、糖尿予防と糖尿改善作用、腎臓機能の活性化作用、肝機能改善作用、肥満防止作用、更年期障害改善作用、不定愁訴改善作用、睡眠障害改善作用、精神安定鎮静作用、記憶障害改善作用、消臭作用などの種々の機能を有する。そのため、GABAを含む食品は、これらの機能を有する機能性食品としての効果が期待される。
【0011】
GABAは、米胚芽などに含まれているが、十分量の摂取は、日常生活においては、困難である。従って、GABAを十分量含む機能性食品は、上記作用をもたらす食品として有用であると考えられる。
【特許文献1】特許第3066587号公報
【非特許文献1】製パンの科学<I> 製パンプロセスの科学、田中康夫 松本博 編、株式会社 光琳、1997年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
通常のパン類に、より十分な栄養と健康を維持するに必要にして十分な成分を含み、さらに、本物志向という消費者の嗜好を満足させつつ、健康や美容によい、美味しいパンと同様の栄養補給が行える、咀嚼しやすく、摂食しやすい、パン関連食品の開発が望まれている。従って、本発明の課題は、これらの要求を満足させる食品(特にサワーブレッドなどのパン類)を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来、サワーブレッド製造のためのサワー種生地中に認められる菌は、乳酸桿菌であるLactobacillus属、および、パン酵母であった。そのため、従来は、サワーブレッドにパン酵母およびLactobacillus属以外の菌が用いられることは、なかった。
【0014】
しかし、驚くべきことに、本発明者らは、サワー種生地の製造において、乳酸桿菌、とりわけ高温性乳酸菌のみではなく、通常のチーズ発酵に使用される中温性乳酸球菌を用いることによって、GABA産生量が顕著に増加することを見出し、上記課題を解決して、本発明を完成させた。
【0015】
さらに、本発明者らは、ライ麦粉および/または粉乳(例えば、ホエイ粉末)を用いることによって、中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の増殖速度が顕著に上昇することを見出して、本発明を完成させた。
【0016】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)サワー生地の製造方法であって、
(a)穀粒粉ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程、を包含する、方法。
(2)前記高温性乳酸菌が、Streptococcus属の細菌、および、Lactobacillus属の細菌からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(3)前記Lactobacillus属の細菌がLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusのJCM1002株である、項目2に記載の方法。
(4)前記Streptococcus属の細菌が、Streptococcus thermophilusのNBRC13957株である、項目2に記載の方法。
(5)前記中温性乳酸球菌が、Lactococcus属の細菌である、項目1に記載の方法。
(6)前記Lactococcus属の細菌が、Lactococcus lactis subsp. cremorisのNBRC13957株である、項目5に記載の方法。
(7)前記Lactococcus属の細菌が、Lactococcus lactis subsp. lactisのNBRC12007株、JCM1158株およびJCM5805株からなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(8)前記培養が23〜30℃で行われる、項目1に記載の方法。
(9)サワーブレッドの製造方法であって、
(a)配合原材料、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程、
を包含する、方法。
(10)項目1に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)において、配合原材料の一部のみを混捏した生地が使用され、そして、該方法は、さらに、以下:
(b)該工程(a)によって得られた菌を分離する工程;および
(c)残りの配合原材料と、該分離した菌とを混合、混捏して、培養する工程、
を包含する、方法。
(11)項目1に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)が、配合原材料の一部のみを含む溶液中で行われ、そして、該方法は、さらに、以下:
(d)残りの配合原材料に、工程(a)の培養溶液を添加、混捏する工程、
を包含する、方法。
(12)項目1に記載の方法であって、ここで、使用する小麦粉総量に対して:
5〜100重量部の、(i)ライ麦粉、(ii)粉乳、または(iii)ライ麦粉および粉乳;
1〜20重量部の、高たん白質食品素材;および
50〜75重量部の、水、
が培養物に添加される、方法。
(13)項目12に記載の方法であって、ここで、20重量部の高たん白質食品素材が培養物に添加される、方法。
(14)項目12に記載の方法であって、ここで、5重量部の高たん白質食品素材が培養物に添加される、方法。
(15)項目12に記載の方法であって、ここで、65重量部の水が培養物に添加される、方法。
(16)項目1の方法によって製造されたサワー生地。
(17)γアミノ酪酸を25mg/100g生地 以上含む、項目16に記載のサワー生地。
(18)項目1の方法によって製造されたサワー生地を用いて製造された、パン酵母を含まない、パン類。
(19)γアミノ酪酸を20mg/100g生地 以上含む、項目18に記載のパン類。
(20)サワー生地の製造法であって、以下の工程:
(a)小麦粉、配合原材料、水、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を26℃以下に保ちながら混捏する工程:および
(b)26〜30℃で48時間〜96時間、工程(a)の混捏物を発酵する工程、
を包含し、ここで、該発酵後のサワー生地は、pHが4.0以下であり、滴定酸度が13以上であり、25mg/100g生地 以上のγアミノ酪酸を含む、方法。
(21)項目20に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)が26℃で行われる、方法。
(22)項目20に記載の方法であって、ここで、前記工程(b)が28℃で行われる、方法。
(23)項目20に記載の方法であって、ここで、前記滴定酸度が14以上である、方法。
(24)パン類を製造する方法であって、以下:
(i)項目20に記載の方法によって製造された前記サワー生地;または
(ii)項目20に記載の方法によって製造された前記サワー生地と項目20に記載の配合原材料と同一組成の配合原材料との混合物であって、ここで、該サワー生地の量が、対配合原材料あたり100〜80重量部である、混合物、
を発酵させる工程を包含する、方法。
(25)前記生地原料とパン酵母の混合物の量が、対小麦粉あたり3重量部である、項目24に記載の方法。
(26)項目24に記載の方法によって製造された、γアミノ酪酸を10mg/100gパン 以上含む、パン類。
(27)飲食品の製造方法であって、以下:
(a)以下、(i)項目20に記載の方法によって製造されたサワー生地、(ii)該サワー生地の重量の5倍以下の水、および、(iii)調味素材、果実、野菜、果実乾燥粉末、および野菜乾燥粉末からなる群から選択される材料、を含む混合物をホモゲナイズする工程;ならびに
(b)該ホモゲネートを、加熱、濃縮、またはゲル状にする工程、
を包含する方法であって、該食品は、γアミノ酪酸を10mg/100g以上含む、方法。
(28)項目27に記載の方法によって製造された、食品。
(29)項目1に記載の方法であって、前記混合物が、ライ麦粉および粉乳の少なくとも1つを含有する、方法。
(30)前記粉乳がホエイ粉末である、項目29に記載の方法。
(31)中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物。
(32)中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌を含有する、サワー生地を製造するための組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、多量のGABAを含む食品(例えば、パン類、特にサワーブレッド)を製造するために必要とされる、種生地(例えば、サワー種生地)の製造方法、およびその方法によって製造された種生地が提供される。さらに、そのような種生地を用いて、製造された食品(例えば、パン類)もまた提供される。
【0018】
また、本発明によって、パン類の種生地中の菌の増殖速度を増加するための方法もまた、提供される。
【0019】
さらに、本発明によって、高齢者でも摂食しやすい、十分量のγアミノ酪酸(GABA)を含む酸味のある、美味な、保存性の優れたゲル状食品及びこれらを用いた飲食品(例えば、パン類、特にサワーブレッド)が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0021】
本明細書において使用する場合、用語「乳酸菌」とは、グラム陽性で、胞子を形成しない、炭水化物を分解して対ぶどう糖あたり約50%以上の乳酸を生成することによってエネルギーを獲得する微生物のうち細菌に属するものをいう。
【0022】
本明細書において使用する場合、用語「高温性乳酸菌」とは、桿菌または球菌である乳酸菌であって、37〜43℃に最適生育能を有する細菌をいう。高温性乳酸球菌としては、Streptococcus属の細菌、および桿菌としてはLactobacillus属の細菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において使用する場合、用語「中温性乳酸球菌」とは、球菌の乳酸菌であって、23〜30℃に最適生育能を有する細菌をいう。中温性乳酸球菌としては、Lactococcus属の細菌が挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
本明細書において使用する場合、用語「サワーブレッド」とは、酸味を有するパンであって、その発酵過程に乳酸菌が関与するものをいう。
【0025】
本明細書において使用する場合、用語「サワー生地」とは、サワーブレッドを製造するための生地をいう。また、本明細書において使用する場合、用語「生地」とは、パン類の発酵に供される材料のみならず、パン類の生地に添加される「種生地」をも含む。本明細書において使用する場合、用語「種生地」とは、パン生地の発酵を行うために添加される種(スタータ)であって、発酵に必要な菌および配合原材料の少なくとも一部を含む生地をいう。
【0026】
本明細書において使用する場合、用語「穀粒粉」とは、穀類植物の可食の粒または種子の全体を粉状にしたものをいう。穀粒粉としては、例えば、小麦粉、ライ麦粉などが挙げられるが、これに限定されない。
【0027】
本明細書において使用する場合、用語「食品素材」とは、食品の製造に使用可能な素材をいう。例えば、パン類の製造の場合は、小麦粉(強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉など)、ライ麦粉、小麦たん白(例えば、グルテン粉末など)、大豆たん白、粉乳(例えば、ホエイたん白粉末、脱脂粉乳、豆乳粉末など)、食塩、イースト、砂糖、モルトエキス、植物油脂、動物油脂、ゴマ等種子類、くるみ、ぶどう等果実やその乾燥品などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書において使用する場合、用語「高たん白質食品素材」とは、食品素材の中でたん白質含量が高いものをいう。パン類の製造における高たん白質食品素材としては、ライ麦粉、および粉乳(例えば、ホエイたん白粉末、脱脂粉乳、豆乳粉末など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書において使用する場合、用語「配合原材料」とは、パン類のような発酵食品の発酵のために使用される原材料の中で、菌(例えば、パン酵母および乳酸菌など)以外のものをいう。
【0030】
本明細書において使用する場合、菌の「分離」とは、菌を用いて培養した培地中の菌、または、菌を用いて発酵した生地中の菌の画分を、菌以外の成分(例えば、培地成分や配合原材料)の画分から分けることをいう。「分離」は、必ずしも、菌を純粋にまで精製することを必要とせず、菌と配合原材料などの混合物中の菌の比率を上昇する作業全てを包含する。
【0031】
本明細書において使用する場合、用語「発酵」とは、配合原材料中の物質の少なくとも一部が、菌によって分解される現象をいう。
【0032】
本明細書において使用する場合、用語「調味素材」とは、生地や最終製品の味覚を変化させる素材をいう。調味素材としては、砂糖、塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明に従って、発酵食品(例えば、パン類、特にサワーブレッド)、および発酵食品の製造に使用される種生地(例えば、サワー種生地)を製造するための方法が提供される。この方法は、配合原材料に中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を添加して、培養する工程を包含する。この培養工程において、配合原材料(例えば、小麦粉および/またはライ麦粉を含む)中の成分が、菌によって発酵される。
【0034】
中温性乳酸球菌としては、Lactococcus属の細菌が挙げられるが、これに限定されない。Lactococcus属の細菌としては、Lactococcus lactis subsp. cremorisおよびLactococcus lactis subsp. lactisが挙げられるが、これに限定されない。Lactococcus lactis subsp. cremorisとしては、NBRC13957株を用いることが可能であるが、他の菌を用いることも可能である。Lactococcus lactis subsp. lactisとしては、NBRC12007株、JCM1158株およびJCM5805株のいずれか、またはこれらの混合物を用いることができるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書において用いる場合、用語「高温性乳酸菌」には、高温性乳酸桿菌および高温性乳酸球菌が包含される。高温性乳酸菌としては、Streptococcus属の細菌、およびLactobacillus属の細菌からなる群から選択される菌が挙げられるが、これに限定されない。Streptococcus属の細菌としては、Streptococcus thermophilusが挙げられるが、これに限定されない。Streptococcus thermophilusとしては、NBRC13957株を用いることができるがこの株に限定されない。Lactobacillus属の細菌としては、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが挙げられるが、これに限定されない。Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusとしては、JCM1002株を用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
これら菌株は、(独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Centre (NBRC))や(独)理化学研究所バイオリソースセンター(Japan Collection of Microorganisms(JCM))、或いは米国の菌株保存機関、ATCC(American Type Culture Collection) から入手することが出来る。また、当該サワー種生地の大量生産に際しては、デンマークのCHR HANSEN社製(日本代理店、(株)野澤組)や協和ハイフーズ株式会社製の各種チーズ製造用乳酸菌混合菌末を用いることが出来る。
【0037】
本発明において使用される菌または菌の混合物は、粉末状の菌体(例えば、凍結乾燥された菌体)または凍結菌体を、生理食塩水および/または培地にて復水した後に、または融解後に用いてもよい。また、本発明において使用される菌または菌の混合物は、復水せずに用いてもよい。
【0038】
本発明の培養において用いる培地は、例えばMRS培地(DIFCO社製)やYPG培地(ポリペプトン1.0%、酵母エキス1.0%、ぶどう糖2.0%)などである。23〜30℃での培養湿菌体をそのままか、或いは乾燥菌体を復水させて用いることが出来、又、本願に最適な乳酸菌を含むデンマークのCHR HANSEN社製のチーズ製造用乳酸菌菌末は、他の乾燥菌体同様に復水させて後、使用することが出来る。
【0039】
これら菌の混合物を用いた培養工程は、常温(例えば、23〜30℃)で行うことができる。なお、これらの菌に対して、さらにパン酵母を添加しても、しなくてもよい。
【0040】
上記培養方法は、直捏生地法、すなわち、配合原材料の全てを、菌とともに、混捏した生地を用いる方法に用いることができる。また、上記培養方法は、配合原材料の一部と菌とで生地種を作り、発酵させ、そして、この発酵産物を、残りの配合原材料に加えて生地を生成する中種生地法にも用いることができる。さらに、上記培養方法は、配合原材料の一部と菌との混合液(液種)を調製して、この混合液を、残りの配合原材料に添加して生地を生成する液種生地法にも、用いることが可能である。例えば、サワーブレッドの製造方法であって、(a)配合原材料、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程、を包含する方法は、直捏生地法として使用することが可能である。
【0041】
本発明の培養方法を、中種生地法に適用する場合には、配合原材料の一部と菌を混捏した生地を調製して、この生地を発酵させ、その発酵産物を、残りの配合原材料に添加して、さらに発酵させる。各発酵プロセスの温度は、代表的には、常温(例えば、23〜30℃)で行われる。上記中種生地法において、発酵産物を、残りの配合原材料に添加する際には、発酵産物から菌を分離しても、しなくてもよい。例えば、サワーブレッドの製造方法であって:(a)配合原材料の一部、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程;(b)工程(a)によって得られた菌を分離する工程;および、(c)残りの配合原材料と分離した菌とを混合、混捏して、培養する工程、を包含する、方法は、発酵産物から菌を分離する工程を含む中種生地法として使用することが可能である。
【0042】
本発明の培養方法を、液種生地法に適用する場合には、配合原材料の一部と菌を混捏した生地を懸濁液として調製して、この溶液を発酵させ、その発酵溶液を、残りの配合原材料に添加して、さらに発酵させる。各発酵プロセスの温度は、代表的には、常温(例えば、23〜30℃)で行われる。上記中種生地法において、発酵溶液を、残りの配合原材料に添加する際には、発酵溶液から菌を分離しても、しなくてもよい。例えば、サワーブレッドの製造方法であって:(a)配合原材料の一部、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程;(d)残りの配合原材料に、工程(a)の培養溶液を添加、混捏する工程、を包含する、方法、発酵産物から菌を分離する工程を含む液種生地法として使用することが可能である。
【0043】
1つの局面において、本発明の培養方法においては、例えば、小麦粉総量に対して:(a)5〜100重量部の、(i)ライ麦粉、(ii)粉乳、または(iii)ライ麦粉および粉乳;(b)1〜20重量部の、高たん白質食品素材;ならびに、(c)50〜75重量部の、水、を培養物に添加して、培養が行われる。高たん白質食品素材としては、例えば、小麦たん白(例えば、グルテン)、大豆たん白、および粉乳(例えば、ホエイたん白粉末、脱脂粉乳、豆乳粉末など)を用いることができるが、これらに限定されない。上記方法においては、好ましくは、20重量部の高たん白質食品素材が培養物に添加される。あるいは、好ましくは、5重量部の高たん白質食品素材が培養物に添加される。また、好ましくは、65重量部の水が培養物に添加される。
【0044】
本発明の培養方法を用いて、生地(例えば、サワー種生地のような種生地)が製造される。本発明の培養方法によって製造された、生地は、例えば、100g生地あたり、10mg以上、好ましくは12mg以上、好ましくは15mg以上、好ましくは17mg以上、より好ましくは20mg以上、なおより好ましくは25mg以上、さらに好ましくは30mg以上のγアミノ酪酸を含む。
【0045】
また、本発明においては、本発明に従って製造された生地を用いて製造されたパン類が提供される。パン類の製造においては、発酵生地が分割・成型され、焼成される。本発明に従って製造されるパン類においては、発酵生地にGABA等の添加物を何ら添加することなく、分割・成型、および焼成が行われる。そのため、本発明に従って製造されるパン類は、消費者の無添加嗜好・本物嗜好を満足させるものである。
【0046】
本発明の別の局面においては、サワー種生地の製造法であって:工程(a)小麦粉、水、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を26℃以下に保ちながら混捏する工程:および、工程(b)26〜30℃で48時間〜96時間、工程(a)の混捏物を発酵する工程を、行う製造方法が提供される。この発酵後のサワー種生地は、pHが4.0以下であり、滴定酸度が13以上であり、25mg/100g生地 以上のγアミノ酪酸を含む。好ましくは、この工程(a)は、26℃で行われる。また、好ましくは、この工程(b)は、28℃で行われる。好ましくは、滴定酸度が14以上である。
【0047】
本発明において、生地pH及び滴定酸度の測定は、例えば、AACC法に従って行うことが可能である。具体的には、パン生地に、その重量の9倍量の蒸留水を加え、2分間、ホモゲナイズして得られた生地懸濁液のpHを生地pHとし、その懸濁液100gをスターラーで撹拌しながら0.1規定のNaOH液で中和滴定し、当該混濁液のpHが6.6になるに要する滴定量(ml)を生地の滴定酸度とする。
【0048】
本発明のさらなる局面においては、パン類を製造する方法が提供され、この方法は、
(i)本発明の上記サワー種生地の製造法によって製造されたサワー生地;または
(ii)本発明の上記サワー種生地の製造法によって製造されたサワー生地と本発明の上記サワー種生地の製造法において使用される配合原材料と同一組成の配合原材料との混合物であって、ここで、サワー生地の量が、対配合原材料あたり100〜80重量部である、混合物、のいずれかを発酵させる工程を包含する。必要に応じて、対粉あたり0.1〜10重量部の、好ましくは3〜5重量部の、パン酵母を添加してもよい。
【0049】
また、上記パン類製造方法においては、生地原料とパン酵母の混合物の量が、好ましくは、対小麦粉あたり3重量部である。この方法によって製造されたパン類は、例えば、100gパン類あたり、10mg以上、好ましくは15mg以上、より好ましくは20mg以上、なおより好ましくは25mg以上、さらに好ましくは30mg以上のγアミノ酪酸(GABA)を含む。
【0050】
本発明の更なる局面において、飲食品の製造方法が提供される。この製造方法においては:
(a)以下、(i)請求項20に記載の方法によって製造されたサワー種生地、(ii)該サワー種生地の重量の5倍以下の水、および、(iii)調味素材、果実、野菜、果実乾燥粉末、および野菜乾燥粉末からなる群から選択される材料、を含む混合物をホモゲナイズする工程;ならびに
(b)該ホモゲネートを、加熱、濃縮、またはゲル状にする工程、
が行われる。従って、パンの摂食がし難い高齢者に対し、より摂取しやすくパン原料を素材とした、美味な、保存性のよいゲル状食品及びこれを用いた飲食品が提供される。
【0051】
本発明のさらなる局面においては、以下のサワー種生地製造方法が提供される:小麦粉及びライ麦粉に食塩を添加し、さらに調製豆乳粉末及び/又はホエイたん白等の粉乳などの、高たん白質食品素材を加えたものに、さらに、前項の乳酸菌湿菌体をそのままか、乾燥菌体、或いは各乳酸菌乾燥菌末の混合物を、小麦粉、ライ麦粉、及び高たん白質素材をそれぞれ15%,食塩0.9%を含む水懸濁液中で復水したもの、又は復水後28℃、24時間培養したものを、適当量の水とともに加えて、26℃以下、6〜9分間混捏し、得られた生地を容器に入れて、30℃、72時間発酵を行わせる。この間、生地中の乳酸菌の一様な生育と、発生した炭酸ガスを除去するために24時間ごとに生地を撹拌する。混捏後、15時間ごろからガスの発生が認められる。72時間後には、十分熟成した高い酸度の、呈味性が優れた、特徴ある香味の美味なサワー種生地が一様に得られる。
【0052】
本発明のさらなる局面においては、乳酸菌の生育を促進する方法が提供される。この方法は、本発明の培養方法において、ライ麦粉および粉乳の少なくとも1つを添加することを含む。ライ麦粉および粉乳の添加量としては、例えば、生地100gあたり、1g以上、2g以上、3g以上、4g以上、5g以上、7g以上、10g以上であるが、これらに限定されない。好ましくは、添加される粉乳は、ホエイ粉末である。
【0053】
本発明のさらなる局面においては、中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物が提供される。また、本発明の別の局面においては、中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌を含有する、サワー生地を製造するための組成物が提供される。
【0054】
本発明の方法に従って、炭酸ガスを旺盛に産生させ、同時にγアミノ酪酸(GABA)を著量に蓄積させた、酸味やうまみの組み合わさった特徴ある香味のサワー種生地が得られる。すなわち、これらチーズ製造用乳酸菌株を用いて、健康によい特徴的な香味を有する、美味な、保存性のよいパン等を造ることが出来るサワー種生地を醸成できる。
【0055】
本発明の方法によって製造された飲食品(例えば、サワーブレッドなどのパン類)の特長は、酸味形成において、ライ麦粉及び/又はホエイ等の粉乳を用いることにより、当該乳酸菌の生育を促進し、酸生成を促すとともに、さらに、高たん白質素材を用いることによりサワー種生地中の緩衝能を高めることによって、よりゴク味のある栄養豊かな、香味の優れた美味しい点にある。また、本発明の方法の特徴は、高い酸度の、食品の保存性を高めるサワー種生地を容易に、特別な設備がなくとも調製できるところにある。
【0056】
また、本発明に従って、焼成によりもたらされるパンのクラスト、つまり表皮の固さの咀嚼における困難さを回避すべく、同様サワー種生地に砂糖や乾燥果実粉末等の食品調味素材を添加し、直接、或いは間接的に加熱することにより、柔らかくて、食しやすい、かつγアミノ酪酸(GABA)を有効量含む、新しい食感の、酸味のある、特徴的な香味を有する、美味で健康によい、保存性の高まった食品が提供できる。
【実施例】
【0057】
(比較例1)
従来法と同様に、高温性乳酸菌を用いた培養(発酵)を以下の配合原材料を用いて行った。
【0058】
強力小麦粉 80重量部
薄力小麦粉 20重量部
ライ麦粉 20重量部
調製豆乳粉末 7重量部
高温性乳酸菌懸濁液(YC−180) 20重量部
食塩 2重量部
水道水 50重量部
これらを加えて、26℃以下で6分間混捏し、そして、さらに3分間混捏した後、大型の蓋付プラスチック容器に入れ、28℃のインキュベータに入れ発酵を促した。24時間後に大型スプーンで生地をかき混ぜ、ガス抜きを行った後、再びインキュベータに入れ、発酵を促した。さらに、24時間ごとに同様の操作を行った。
【0059】
以下の表1に示すように、72時間後には、当該生地はpH4.0以下、滴定酸度14以上であって、10mg/100g生地以下のγアミノ酪酸(GABA)を含有するサワー種生地が得られた。乳酸菌の発酵に伴うGABAの増加は、72時間後、僅かに約5mg/100g生地に過ぎなかった。
【0060】
【表1】

YC−180
(1)Lactobacillus derbrueckii subsp. bulgaricus
(2)Streptococcus thermophilus
(3)Lactococcus lactis subsp. lactis。
【0061】
(比較例2)
高温性乳酸菌を用いることなく、中温性乳酸球菌懸濁液のみを用いた培養(発酵)を以下の配合原材料を用いて行った。
【0062】
強力小麦粉 80重量部
薄力小麦粉 20重量部
ライ麦粉 20重量部
調製豆乳粉末 7重量部
中温性乳酸球菌懸濁液(D−1) 20重量部
食塩 2重量部
水道水 50重量部
これらを加えて、26℃、6分間、さらに3分間混捏した後、大型の蓋付プラスチック容器に入れ、28℃のインキュベータに入れ発酵を促した。24時間後に大型スプーンで生地をかき混ぜ、ガス抜きを行った後、再びインキュベータに入れ、発酵を促した。さらに、24時間ごとに同様の操作を行った。
【0063】
表2に示すように、72時間後には、当該生地はpH4.0以下、滴定酸度14以上の、γアミノ酪酸(GABA)の生成がほとんど認められない、乳酸菌の特徴的な香りが感じられるサワー種生地が得られた。この間、40時間発酵を行わせた当該生地を分割・成型し、さらに4時間の発酵後、焼成した。特徴的な香味及び酸味のある、美味な、クラストが固いパンが得られた。
【0064】
【表2】

D−1
(1)Lactococcus lactis subsp. lactis
(2)Lactococcus lactis subsp. cremoris。
【0065】
(実施例1)
中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を用いた培養(発酵)を以下の配合原材料を用いて行った。
【0066】
強力小麦粉 80重量部
薄力小麦粉 20重量部
ライ麦粉 20重量部
調製豆乳粉末 7重量部
中温性及び高温性乳酸菌懸濁液(FRC−60) 20重量部
食塩 2重量部
水道水 50重量部
これらを比較例1と同様に混捏・発酵を行わせた当該生地は、表3に示すように生地pH、滴定酸度ともに比較例1の生地同様の経過を示した。また同様に、乳酸菌の特徴的な香りが感じられるサワー種生地が得られた。なお、当該生地は、γアミノ酪酸(GABA)を30mg/100g生地 以上を含有した。
【0067】
さらに、比較例1と同様に、40時間発酵を行った当該生地を分割・成型・発酵・焼成し、特徴的な香味及び酸味のある、クラストが固い美味なパンが得られた。このパンには25mg/100gパン 以上のγアミノ酪酸(GABA)が含まれていた。
【0068】
【表3】

FRC−60
(1)Lactococcus lactis subsp. lactis
(2)Lactococcus lactis subsp. cremoris
(3)Streptococcus thermophilus
(4)Lactobacillus derbrueckii subsp. bulgaricus。
【0069】
(実施例2)
比較例1、または実施例1で得られたサワー種生地に、それに用いたと同じ量の
小麦粉 100重量部
ライ麦粉 20重量部
水 65重量部
を同様に加え、混捏後、分割・成型を行い、23℃、18時間発酵させた後、焼成した。十分膨らんだ形の、形態上通常のパンに比し、何ら遜色のない、γアミノ酪酸(GABA)をほとんど含まないか(比較例1の生地を用いた場合)、または14mg/100gパン 以上を含む(実施例1の生地を用いた場合)、風味の良い、美味なパンが得られた。
【0070】
(実施例3)
比較例1の使用原料のうち調製豆乳粉末7重量部をホエイたん白WPC80、6重量部に置き換え、同様にして48時間発酵を行わせたサワー種生地に、それに用いたと同じ量の、以下の配合原材料
強力小麦粉 80重量部
薄力小麦粉 20重量部
ライ麦粉 20重量部
ホエイたん白WPC80 6重量部
中温性及び高温性乳酸菌懸濁液(FRC−60) 20重量部
食塩 2重量部
水道水 40重量部
市販パン酵母 3重量部
を加えて、同様に混捏した。これを分割・成型し、32℃で2時間発酵を行わせた後、焼成し、焼き色の濃い、12.5mg/100gパン のγアミノ酪酸(GABA)を含む、香味の優れたパンが得られた。
【0071】
(実施例4)
実施例1と同様の割合で、小麦粉及びライ麦粉に食塩を添加し、さらにホエイたん白WPC80(ラクトアルブミン)を小麦粉に対し5重量部、所定量の水道水、および菌混合物を添加した。菌混合物としては、(i)強力小麦粉10g、薄力小麦粉20g、ライ麦粉15g、ホエイ粉末 15g、食塩3g、蒸留水300gに中温性及び高温性乳酸菌菌末(FRC−60)0.5gを添加し、28℃、36時間培養した培養液を、小麦粉に対し5重量部、または(ii)殺菌生理食塩水100gにFRC−60菌末1gを添加・分散させた乳酸菌乾燥菌体復水液、20重量部を用いた。その後、26℃以下で6〜9分間混捏し、生地を調製した。これを蓋付容器に入れ、28℃、24時間ごとに撹拌、手入れを行って72時間発酵を行わせると柔らかく、粘着性で、伸縮性が弱い、酸味が強く、かつうまみの強いサワー種生地が得られた。このサワー種生地には、γアミノ酪酸が少なくとも29mg/100g生地 含まれていた。
【0072】
このサワー種生地重量の5分の1重量部の砂糖、20分の1重量部のいちご乾燥粉末と3倍重量部の水を加えてホモゲナイズする。さらに、これを個々の小容器に入れ熱湯中で撹拌しながら加熱、濃縮させる。加熱処理後、冷蔵庫で冷却したものは、γアミノ酪酸(GABA)を11mg/100g食品 を含む、快い酸味と甘味を有する、いちごの香味を示すゼリー状食品である。
【0073】
(実施例5)
ライ麦粉およびホエイ粉末の乳酸菌増殖促進に対する効果を検討した。乳酸菌FRC−60.5gに対して、以下の配合原材料を添加した:
配合原料(1)
強力小麦粉 10g
薄力小麦粉 20g
ライ麦粉 0g
ホエイ 15g
食塩 3g
蒸留水 300g。
【0074】
配合原料(2)
強力小麦粉 10g
薄力小麦粉 20g
ライ麦粉 15g
ホエイ 0g
食塩 3g
蒸留水 300g。
【0075】
配合原料(3)
強力小麦粉 10g
薄力小麦粉 20g
ライ麦粉 15g
ホエイ 15g
食塩 3g
蒸留水 300g。
【0076】
配合原料(4)
強力小麦粉 10g
薄力小麦粉 20g
ライ麦粉 0g
ホエイ 0g
食塩 3g
蒸留水 300g。
【0077】
これらの結果を、図1に示す。図1は、発酵開始後の所定の時間(横軸)における菌増殖を、滴定酸度(縦軸)を指標として示す結果である。図1中、黒三角は配合原料(1)の結果を、黒ひし形は配合原料(2)の結果を、黒四角は配合原料(3)の結果を、ばつ印は配合原料(4)の結果を示す。
【0078】
図1の結果から明らかなように、中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を用いた培養においては、ライ麦およびホエイ粉末の両方が、乳酸菌増殖を促進する効果を示した。
【0079】
また、同様の実験において、発酵によって実際に生地が発酵するか否かを確認したところ、いずれの条件下でも、発酵によって十分に生地が膨らんだ。また、ホエイ粉末と豆乳粉末とを比較したところ、ホエイ粉末を用いた場合の方が、より大きく膨らんだ。
【0080】
なお、乳酸菌を用いたパン生地の発酵では、小麦粉などに含まれるグルテンが影響を受ける。そのため、長時間、乳酸菌を用いて発酵を行うと、粘りがあるが弾性がない生地となる。従って、パン酵母を用いない場合は、(1)グルテン分解の寸前で発酵を中止するか(例えば、低温発酵と組み合わせて)、または(2)小麦粉、または小麦たん白を添加する、ことが有用である。
【0081】
(考察)
以上のように、高温性乳酸菌のみを用いると72時間の発酵によって約5mg/100g生地のGABAが産生され、中温性乳酸球菌のみを用いると72時間の発酵によって約0.5mg/100g生地のGABAが産生された。これに対して、高温性乳酸菌と中温性乳酸球菌の共存下での培養によって、約30mg/100g生地に近いGABAが産生されたという結果が得られた。従って、GABAの高生産には、高温性乳酸菌と中温性乳酸球菌の共存が必要である。
【0082】
理論に拘束されることを望まないが:(1)高温性乳酸菌は、ホモ発酵(中温性乳酸球菌を共存させない発酵)を行って、ほとんど炭酸ガスを発生させない;(2)しかし、利用しえる炭素源枯渇または生地pHの低下などの環境の変化によりアミノ酸、特にグルタミン酸をグルタミン酸脱炭酸酵素によって脱炭酸してGABA及びガスを産生する;(3)その一方で、Lactococcus lactis subsp. cremorisを除く中温性乳酸球菌は、グルタミン酸脱炭酸酵素活性やぺプチダーゼ活性を有する、ということから、中温性乳酸球菌を共存させることによって、環境中にペプチダーゼの産物であるグルタミン酸が多量に放出され、環境が変化し、その結果、高温性乳酸菌によるGABA産生および炭酸ガス産生が増大するものと考えられる。
【0083】
従って、本発明は、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する任意の高温性乳酸菌と、ぺプチダーゼ活性を有する任意の中温性乳酸球菌を共存させることによって実施できると考えられる。また、このグルタミン酸脱炭酸酵素による脱炭酸によって生じる炭酸ガスは、パン生地を膨らませるに十分な量が生成され、パン酵母なしにパンを形成する原因となる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によって、高濃度のGABAを含む食品(例えば、サワーブレッドなどのパン類)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、ホエイ粉末および/またはライ麦粉の存在下・非存在下での細菌の増殖を比較した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サワー生地の製造方法であって、
(a)穀粒粉ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を23〜30℃で培養する工程、を包含する、方法。
【請求項2】
前記高温性乳酸菌が、Streptococcus属の細菌、および、Lactobacillus属の細菌からなる群から選択され、前記中温性乳酸球菌が、Lactococcus属の細菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サワーブレッドの製造方法であって、
(a)配合原材料、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を培養する工程、 包含する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)において、配合原材料の一部のみを混捏した生地が使用され、そして、該方法は、さらに、以下:
(b)該工程(a)によって得られた菌を分離する工程;および
(c)残りの配合原材料と、該分離した菌とを混合、混捏して、培養する工程、を包含する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)が、配合原材料の一部のみを含む溶液中で行われ、そして、該方法は、さらに、以下:
(d)残りの配合原材料に、工程(a)の培養溶液を添加、混捏する工程、を包含する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、ここで、使用する小麦粉総量に対して:
5〜100重量部の、(i)ライ麦粉、(ii)粉乳、または(iii)ライ麦粉および粉乳;
1〜20重量部の、高たん白質食品素材;および
50〜75重量部の、水、
が培養物に添加される、方法。
【請求項7】
請求項1の方法によって製造されたサワー生地。
【請求項8】
γアミノ酪酸を25mg/100g生地 以上含む、請求項7に記載のサワー生地。
【請求項9】
請求項1の方法によって製造されたサワー生地を用いて製造された、パン酵母を含まない、パン類。
【請求項10】
γアミノ酪酸を20mg/100g生地 以上含む、請求項9に記載のパン類。
【請求項11】
サワー生地の製造法であって、以下の工程:
(a)小麦粉、配合原材料、水、ならびに中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物を26℃以下に保ちながら混捏する工程:および
(b)26〜30℃で48時間〜96時間、工程(a)の混捏物を発酵する工程、
を包含し、ここで、該発酵後のサワー生地は、pHが4.0以下であり、滴定酸度が13以上であり、25mg/100g生地 以上のγアミノ酪酸を含む、方法。
【請求項12】
パン類を製造する方法であって、以下:
(i)請求項11に記載の方法によって製造された前記サワー生地;または
(ii)請求項11に記載の方法によって製造された前記サワー生地と請求項11に記載の配合原材料と同一組成の配合原材料との混合物であって、ここで、該サワー生地の量が、対配合原材料あたり100〜80重量部である、混合物、
を発酵させる工程を包含する、方法。
【請求項13】
さらに、対小麦粉あたり0.1〜10重量部のパン酵母を添加する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法によって製造された、γアミノ酪酸を10mg/100gパン 以上含む、パン類。
【請求項15】
飲食品の製造方法であって、以下:
(a)以下、(i)請求項11に記載の方法によって製造されたサワー生地、(ii)該サワー生地の重量の5倍以下の水、および、(iii)調味素材、果実、野菜、果実乾燥粉末、および野菜乾燥粉末からなる群から選択される材料、を含む混合物をホモゲナイズする工程;ならびに
(b)該ホモゲネートを、加熱、濃縮、またはゲル状にする工程、
を包含する方法であって、該食品は、γアミノ酪酸を10mg/100g以上含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によって製造された、食品。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、前記混合物が、ライ麦粉および粉乳の少なくとも1つを含有する、方法。
【請求項18】
前記粉乳がホエイ粉末である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌の混合物。
【請求項20】
中温性乳酸球菌および高温性乳酸菌を含有する、サワー生地を製造するための組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−110953(P2007−110953A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305094(P2005−305094)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(505390875)
【Fターム(参考)】