説明

高濃度オメガ三系高度不飽和脂肪酸を含有する微生物を生育する方法

【課題】高濃度オメガ三系高度不飽和脂肪酸を生成する微生物を生育する方法を提供する。
【解決手段】非塩化物ナトリウム塩、特に、硫酸ナトリウムを含有する発酵培地において生育することにより、高濃度オメガ三系高度不飽和脂肪酸を含有する微生物が得られる。同微生物は、トラウストキトリアレス目から選択されるとともに、以下の特性、即ち、a)従属栄養生育が可能であること、b)オメガ三系高度不飽和脂肪酸の含量が多いこと、c)30℃以上の温度にて生育可能であること、及び、d)広塩性であること、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従属栄養生体並びに人間及び動物の食品添加物としての使用或いは医薬品及び工業製品における使用に適正な高濃度オメガ三系高度不飽和脂肪酸(HUFA)を含有する脂質を生成するための従属栄養生体及びその培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オメガ三系高度不飽和脂肪酸(HUFAs)は動脈硬化症及び心疾患を予防し、炎症を緩和し、腫瘍細胞の成長を抑制するのに重要な栄養化合物であると最近になって認識されるようになり、営利的な関心が大きくもたれている。これらの利点はオメガ六系脂肪酸から生成される化合物の拮抗的阻害を生じさせるオメガ三系HUFAsに由来すると同時に、オメガ三系HUFAs自体から直接生成される有利な化合物にも由来する(シモポウロス(Simopoulos)ら(非特許文献1))。オメガ六系脂肪酸は植物及び動物に見出される優位なHUFAsである。現在、オメガ三系HUFAsの市販栄養源はこれら脂肪酸を20〜30%含有可能なある種の魚油である。これら脂肪酸の効果は一週間に数回魚を食べ、或いは濃縮魚油を毎日摂取することによって得られる。従って、栄養補給として毎年多量の魚油が加工、封入され、販売されている。しかし、これら魚油補給物には幾つかの重要な問題があり、この中には脂溶性ビタミンが生物学的に蓄積し、飽和したオメガ六系脂肪酸が高濃度になるという問題があり、双方とも健康に害を及ぼし得る。
【0003】
別のオメガ三系HUFAs源は関連米国特許第5,130,242号(特許文献1)に詳述されている微生物相のトラウストキトリウム属(Thraustochytrium)及びシゾキトリウム属(Schizochytrium)である。これら微生物相は従属栄養性であって高濃度のオメガ三系HUFAsを生成できるという利点を有している。しかし、これら微生物相の発酵方法を改良し、微生物相生産物の改良形の使用方法を特定する必要性が依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,130,242号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】シモポウロス(Simopoulos)ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであって、高濃度のオメガ三系高度不飽和脂肪酸を生成する微生物及び同微生物を生育する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、培地1リットル当り約3グラム以下の塩化物と、炭素源及び窒素源と、微量養分と、1リットル当たり1グラム以上の非塩化物ナトリウム塩を含有する培地において約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で微生物を生育する方法であって、微生物がトラウストキトリアレス目から選択されるとともに、以下の特性、即ち、a)従属栄養生育が可能であること、b)オメガ三系高度不飽和脂肪酸の含量が多いこと、c)30℃以上の温度にて生育可能であること、d)広塩性であること、を備える方法を提供する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の方法において、ナトリウム塩は硫酸ナトリウム、ソーダ灰、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム及びこれらの混合物からなる群から選択されたものであることをその要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の方法において、培地が培地1リットル当たり約500ミリグラム以下の塩化物含量を有していることをその要旨とする。
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の方法において、培地が培地1リットル当たり約250ミリグラム以下の塩化物含量を有していることをその要旨とする。
【0010】
請求項5に記載の発明では、a)請求項1に記載の微生物と、微生物は非塩化物ナトリウム塩を含んだ培地中で生育されることと、b)亜麻仁、菜種、大豆、アボカドミール及びこれらの混合物からなる群から選択される物質とからなる食品を提供する。
【0011】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の食品において、同食品には約5〜95重量%の物質が含まれることをその要旨とする。
請求項7に記載の発明では、請求項5に記載の食品において、同食品は押出し成形物であることをその要旨とする。
【0012】
請求項8に記載の発明では、請求項1に記載の微生物を仔エビ、塩水エビ、クルマムシ及び軟体動物からなる群から選択された生体に給餌することと、同微生物が約150ミクロン以下の寸法の細胞集合体を有することとを含む水産養殖の方法を提供する。
【0013】
請求項9に記載の発明では、炭素源、窒素源、微量養分、及び硫酸ナトリウムを含有する培地において、約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で請求項1に記載の微生物を生育する方法をその要旨とする。
【0014】
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の方法において、硫酸ナトリウムの濃度は約1g/lから約50g/lの間であることをその要旨とする。
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の方法において、硫酸ナトリウムの濃度は約2g/lから約25g/lの間であることをその要旨とする。請求項12に記載の発明では、請求項1に記載の方法において、微生物が塩性環境より得られることをその要旨とする。
【0015】
請求項13に記載の発明では、培地1リットル当り約3グラム以下の塩化物と、炭素源及び窒素源と、微量養分と、1リットル当たり1グラム以上の非塩化物ナトリウム塩を含有する培地において約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で微生物を生育する方法であって、同微生物が広塩性微生物であり、かつ以下の特性、即ち、a)従属栄養生育が可能であること、b)オメガ三系高度不飽和脂肪酸の含量が多いこと、c)30℃以上の温度にて生育可能であること、を備える方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微生物相及び同微生物相を生育する方法を改良して、高濃度のオメガ三系高度不飽和脂肪酸を生成することができる。
本発明の一実施例は、微生物相のトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物を生育する新規の方法に関する。この方法には、特に硫酸ナトリウム等の非塩化物ナトリウム塩を有する培地において微生物相を生育することが含まれる。より詳細には、発酵に必要なナトリウムの大部分は非塩化物ナトリウム塩として供給される。本発明の方法は、培地における塩化物含有量が大幅に低減され、よって塩化物が発酵装置を腐食することを回避できるために、特に市販向けの製造に有用である。加えて、本発明は水産養殖に利用される食品の製造に特に有用である。それは、この種の培地において培養されるトラウストキトリウム属及びシゾキトリウム属は高塩化物の培地において培養される場合よりも遥かに小さなクランプを形成し、よって仔エビの餌料源としてより得やすくなっているためである。特に、硫酸ナトリウム含有の培地において培養されるトラウストキトリウム属及びシゾキトリウム属は平均寸法が直径約150ミクロン以下の細胞集合体を有し得る。
【0017】
本発明の更なる実施例では細胞集合体の平均寸法が約150ミクロン以下のトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物からなる微生物相バイオマスが生成される。微生物相バイオマスは水産養殖に有用であり、特にステロール含有量及びオメガ三系高度不飽和脂肪酸(HUFA)含有量が多い、エビに必要な主たる給餌的利点を微生物相が有するため、仔エビ(larval shrimp)に給餌するのに有用である。加えて、微生物相は細胞集合体の寸法が小さいため、仔エビ、塩水エビ(brine shrimp)、クルマムシ及び軟体動物によって摂取可能である。本発明にはこれらの生物を生産する方法も含まれ、この方法には細胞の平均寸法が約150ミクロン以下のトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物を給餌することが含まれる。
【0018】
本発明の更なる実施例は、トラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物からなる群から選択される微生物相と、亜麻仁、菜種、大豆、アボカドミール(avocado meal)及びこれらの混合物からなる群から選択される添加成分とからなる食品に関する。この食品が特に効果的であるのは、長鎖オメガ三系脂肪酸と、添加成分由来の短鎖オメガ三系脂肪酸の含有量が多いことである。
【0019】
更なる実施例において、食品は押出しによって生成される。押出し工程には微生物相と添加成分とを混合する工程が含まれ、食品の水分含量が低減されるということがある。次に、食品は加熱されて押し出され、よって低減した水分含量の大部分を除去する。元来の水分含量の残量は自然乾燥又は短時間の焼成によって容易に除去されて乾燥に必要な総エネルギーが低減され、高温乾燥を延長することによってオメガ三系HUFAsの減成度が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】新たに分離された本発明の菌株(●)及び以前に分離された菌株(+)におけるHUFA生成のグラフ図である。各点は菌株を表し、各点の位置はオメガ三系HUFAs(横座標)の全脂肪酸に占める重量パーセント及びオメガ六系脂肪酸(縦座標)の全脂肪酸に占める重量パーセントによって確定されている。本発明の菌株は全脂肪酸の10.6%(w/w)以下がオメガ六系で、全脂肪酸の67%以上がオメガ三系の範囲内にのみ示された。
【図2】新たに分離された本発明の菌株(●)及び以前に分離された菌株(+)におけるHUFA生成のグラフ図である。各点は菌株を表し、各点の位置はオメガ三系HUFAs(横座標)の全脂肪酸に占める重量パーセント及びエイコサペンタエン酸(EPA C20:5n−3)(縦座標)の全脂肪酸に占める重量パーセントによって確定されている。本発明の菌株は全脂肪酸の67%(w/w)以上がオメガ三系で、全脂肪酸の7.8%(w/w)以上がC20:5n−3の範囲内にのみ示された。
【図3】新たに分離された本発明の菌株(□)及び以前に分離された菌株(+)におけるオメガ三系HUFA組成のグラフである。各点は個々の菌株を表している。横座標値はC20:5n−3の全オメガ三系HUFAsの重量画分であり、縦座標値はC22:6n−3の全オメガ三系高度不飽和脂肪酸の重量画分である。本発明の菌株のみがC20:5n−3の重量画分が28%以上であるか、或いはC22:6n−3の重量画分が93.6%を上回る範囲に示された。
【図4】新たに分離された本発明の種々の菌株及び以前に分離された菌株の25℃及び30℃における生育を示すグラフである。生育率は25℃での菌株U−30の生育率に対して標準化されている。以前に分離された菌株はATCC受入番号で示されている。
【図5】窒素の制限による誘導後の細胞生成の総収率のグラフである。図示したような無灰乾燥重量、全脂肪酸及びオメガ三系HUFAsの各々は菌株28211の対応値を標準とするように示された。全ての菌株はATCC受入番号で識別されている。
【図6】横座標に示す塩度を有する培地において生育された後の脂肪酸収率のグラフである。図示した菌株は新たに分離された菌株S31(ATCC 20888)(□)及びU42−2(ATCC 20891)(+)並びに以前に分離された菌株ATCC 28211(◇)及びATCC 28209(△)である。脂肪酸収率はS31(ATCC 20888)(□)が試験塩度域にわたって示す平均生育率に基づき、任意値1.00を標準とした相対収率としてプロットされている。
【図7】例1の方法で分離されたトラウストキトリッド(Thraustochytrid)菌株(ATCC 20890)を給餌されたアルテミアサリナ(Artemia salina)という塩水エビにおける総脂質中のオメガ三系HUFA含量の増加を示すグラフである。EPAはC20:5n−3、DHAはC22:5n−3である。
【図8】例1の方法で分離されたトラウストキトリッド菌株(ATCC 20888)を給餌されたアルテミアサリナという塩水エビにおける総脂質中のオメガ三系HUFA含量の増加を示すグラフである。EPAはC20:5n−3、DHAはC22:5n−3である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書全体にわたる定義付けとして、脂肪酸は脂肪族モノカルボン酸であると理解されたい。脂質は脂肪酸のグリセリドエステルを関連ホスファチド、ステロール、アルコール、炭化水素、ケトン及び関連化合物とともに含有する脂肪又は油であると理解されたい。
【0022】
この明細書中では脂肪酸の構造を示すのに一般的に用いられる簡略表記システムを用いている(例えばウィート(Weete)、1980)。このシステムでは文字「C」で始まり、炭化水素鎖中の炭素原子数を示す数が続き、コロン及び二重結合数を示す数と続いて、即ちC20:5のエイコサペンタエン酸となる。脂肪酸はカルボキシカーボンから始まるように番号付けされている。二重結合位置はギリシャ文字デルタ(Δ)を付加し、この後に二重結合の炭素原子数が続くように示され、即ちC20:5オメガ三系Δ5,8,11,14,17
となる。「オメガ」表記は不飽和脂肪酸のための簡略表記システムであり、カルボキシル基端末炭素からの番号付けが用いられている。便宜的に「オメガ三系」を記号化するため、特に本明細書中に記載の数値式簡略表記法を使用する際にn−3が用いられている。オメガ三系高度不飽和脂肪酸はポリエチレン脂肪酸であり、末端のエチレン結合は脂肪酸の端末メチル基から由来すると同時にこれを含有する3つの炭素原子であると理解されたい。よって、オメガ三系高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸を完全に表記するとC20:5n−3Δ5,8,11,14,17となる。簡略化するため二重結合位置(Δ5,8,11,14,17)は省略される。エイコサペンタエン酸はC20:5n−3と示され、ドコサペンタエン酸(C22:5n−3Δ7,10,13,16,19)はC22:5n−3であり、ドコサヘキサエン酸(C22:6n−3Δ4,7,10,13,16,19)はC22:6n−3である。「高度不飽和脂肪酸」という術語は4つ以上の二重結合を有する脂肪酸のことである。「飽和脂肪酸」は1〜3つの二重結合を有する脂肪酸のことである。
【0023】
オメガ三系HUFAsを生成するのに経済的に望ましい特性の以下の組合せを備えた多くの微生物株を容易に分離するための収集及び選別方法が生み出された。それは、1)従属栄養生育が可能、2)オメガ三系HUFAsの含有量が多い、3)単細胞性、4)好ましくは飽和、及びオメガ六系HUFAsの含有量が少ない、5)好ましくは無着色、白色又は本質的に無色の細胞、6)好ましくは耐熱性(30℃以上の温度にて生育する能力)及び7)好ましくは広塩度(広範囲の塩度にわたり、特に低塩度にて生育可能)である。この方法は関連米国特許第5,130,242号に詳述されている。
【0024】
この収集及び選別方法を用いて、細胞の総乾燥重量パーセント(%dwt)の約45%までの脂肪酸分を有し、15〜48℃の範囲の温度にわたって生育し、かつ塩度が非常に低い培地において生育する単細胞微生物相菌株を分離することができる。非常に高度のオメガ三系菌株の多くは非常に緩慢に生育する。上記のように概説した方法によって分離され、かつ急速な生育度、優れた生成能及び多量のオメガ三系HUFA含有量を示す菌株は約12%dwtまでのオメガ三系不飽和脂肪酸含量を有している。
【0025】
本発明の一態様では非塩化物ナトリウム塩、好ましくは硫酸ナトリウムを含有する発酵培地においてオメガ三系HUFA含有量が多いトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物を生育している。より詳細には、発酵に必要なナトリウムの大部分は非塩化物ナトリウム塩として供給される。例えば、発酵培地中のナトリウムの約75%以下、好ましくは約50%以下、更に好ましくは約25%以下が塩化ナトリウムとして供給される。本発明の特に有利な点は、微生物相が生育される容器並びに他の発酵装置又は下流処理装置を腐食し得る塩化物が多量には存在しない状態で、微生物相が生育するのに必要なナトリウムの供給源が培地によって提供されていることにある。驚くべきことに、本発明の微生物相は約3g/l以下、好ましくは約500mg/l以下、更に好ましくは約250mg/l以下、より一層好ましくは約60〜120mg/lの塩化物濃度で生育可能であるとともに、1糖当り約50%以上のバイオマスを多量に生成することが見出された。以下のように、本発明の更なる利点は、オメガ三系HUFA含有量が多いにも拘らず、仔エビ、塩水エビ、クルマムシ及び軟体動物が摂取できるほどに小さな寸法の細胞集合体を有する微生物相を生成することにある。
【0026】
非塩化物ナトリウム塩の中にはソーダ灰(炭酸ナトリウム及び酸化ナトリウムの混合物)、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの混合物があり、この中でも硫酸ナトリウムが好ましい。ソーダ灰、炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムは発酵培地のpHを増加させる性質を有し、よって培地のpHを適正に維持するために制御工程を必要とする。硫酸ナトリウム濃度は微生物相の塩度要件を満たすのに効果的であり、好ましくはナトリウム濃度(Naのg/lで表す)は約1.0g/l以上、更に好ましくは約1.0〜50.0g/l、より一層好ましくは約2.0〜25g/lである。
【0027】
驚くべきことに、非塩化物ナトリウム塩、詳細には硫酸ナトリウムが存在する際の菌株の発酵によって、菌株の細胞集合体の寸法が約150ミクロン以下、好ましくは約100ミクロン以下、更に好ましくは約50ミクロン以下に制限されるということが見出された。本明細書中で用いられる細胞集合体の寸法という用語は、微生物相培養株の発酵培地における細胞のクランプ、即ち集合体の概算平均寸法のことをいう。通常、微生物相培養株における細胞集合体の約25%以上、好ましくは約50%以上、更に好ましくは約75%以上が平均寸法以下の細胞集合体を有している。本発明に基づいて生成される微生物相細胞は、ブレンダー又は渦発生装置等によって液体状に再度懸濁され、即ち物理的に撹拌されても、バイオマスの凝固及び/又は乾燥後のみならず発酵培地に存在する間も、上記の細胞集合体の寸法パラメータを満たしている。本発明の方法は連続二分裂(1つの細胞が2つの細胞に分裂することによって複製し、この2つの細胞の各々が更に2つに分裂し…と繰り返す。)によって複製する微生物相には特に意味がある。これは、細胞が反復的かつ急速にこの工程に晒されると、形成中の多細胞集合体を凝集させる性質を帯び、この凝集体は上記の細胞集合体の寸法範囲を超える場合が多いためである。シゾキトリウム属は連続二分裂及び精胞子を放出する胞子のうの形成によって複製する。しかし、トラウストキトリウム属は胞子のうを形成し、精胞子を放出することによってのみ複製する。胞子のう/精胞子の形成によって複製するトラウストキトリウム属では、凝集も問題となり得る。これは特に、集合体中における細胞の数は連続二分裂によって形成される集合体ほど多くはなくとも、トラウストキトリウム属の個々の細胞の寸法が大きくなる傾向になり、よって少数の細胞からなる凝集塊が大きくなる。しかし、凝集が顕著ではない、1つのトラウストキトリウム属寄託株であるATCC 26185が確認された。
【0028】
本発明の別態様において、トラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物の生育中に発酵培地の酸素分を制限することによって菌株の脂質分を増加できることが見出された。脂質生成に最適な酸素濃度は培地の酸素分を変動させることによっていずれの微生物相の場合でも確定できる。特に、発酵培地の酸素分は約40%以下の飽和度、好ましくは約5〜40%の飽和度の酸素分に維持される。
【0029】
本発明の方法による菌株の生育は菌株が充分に生育するように誘導する温度であれば何度であっても行うことができる。これは、例えば約5〜48℃、好ましくは15〜40℃、更に好ましくは約25〜35℃である。通常、酸の添加又は緩衝液によってpHを調節しないと、発酵中に培地のアルカリ性が増す。菌株はpHが5.0〜11.0、好ましくは約6.0〜8.5の範囲で生育する。
【0030】
接種、生育及び回収のための種々の発酵パラメータが米国特許第5,130,242号に詳述されている。発酵管から採収されたバイオマスは乾燥させて(例えば、噴霧乾燥、トンネル乾燥(tunnel drying)、真空乾燥又は類似の方法によって)、給餌、即ち栄養補給としていかなる動物にも用いることができ、この動物の肉又は生産物が人間に消費される。同様に、抽出されたオメガ三系HUFAsも給餌、即ち栄養補給として使用できる。また、採収かつ洗浄されたバイオマスは給餌補給として(乾燥させずに)直接使用できる。保存寿命を延ばすために、湿性バイオマスは酸性にされ(pH約3.5〜4.5)、かつ/或いは低温殺菌又は急速加熱されて酵素を不活性化し、次に真空又は非酸化雰囲気(例えば、N2又はCO2)下において缶詰め、瓶詰めにして包装することができる。「動物」という用語は動物界に属するいかなる生物体をも指し、家禽肉、海産食物、牛肉、豚肉又は小羊肉が得られるいかなる動物をも制限なく含んでいる。海産食物は魚、エビ及び貝等から制限なく得られる。「生産物」という用語にはこうした動物から得られる肉以外のいかなる生成物をも含まれ、この中には卵又は他の生成物等、制限なく含まれる。採収バイオマス中のオメガ三系HUFAs又は抽出オメガ三系HUFAsはこうした動物に給餌されると、動物の肉、卵又は他の生産物の中に取り込まれ、これらの中のオメガ三系HUFA含有量を増加させる。
【0031】
本発明の更なる実施例では採収バイオマスを仔エビ、塩水エビ、クルマムシ及び軟体動物、特に仔エビ用の食品として使用している。未だ幼態にある時、エビの幼態動物には大きすぎて利用できない餌料源がある。詳細には、ある生育段階においてエビの幼態動物は約150ミクロン以上の直径を有する餌料源を利用することができない。よって、先におおまかに記載したように、非塩化物ナトリウム塩、詳細には硫酸ナトリウム含有の発酵培地において生育された微生物相はエビ用食品としての使用に適している。上記のように、通常、このような条件のもとで生育された微生物相の細胞集合体は約150ミクロン以下、好ましくは約100ミクロン以下、更に好ましくは約50ミクロン以下の寸法を有している。
【0032】
本発明の微生物相をエビ用餌料源として使用する更なる利点は、この微生物相はコレステロールを含むステロールを多量に含有し、これが仔エビの主たる給餌要件となっていることである。通常、本発明の微生物相は好ましくは少なくとも約0.1%の無灰乾燥重量(afdw)、更に好ましくは少なくとも約0.5%afdw、より一層好ましくは少なくとも約1.0%afdwのステロール含量を有している。加えて、通常、本発明の微生物相は総ステロール含量の好ましくは少なくとも約15%、更に好ましくは少なくとも約25%、より一層好ましくは少なくとも約40%のコレステロール含量を有している。更に、本発明の微生物相バイオマスはオメガ六系脂肪酸、タンパク質、炭水化物、色素及びビタミンのような更なる栄養素をもエビに付与している。
【0033】
本発明の微生物生産物は水産養殖によって生産される魚、エビ及び他の生産物のオメガ三系HUFAs源として価値がある。この生産物は上記のエビの場合のように食品として使用でき、或いはエビ及び魚への一般的な給餌補給物として直接添加でき、或いは水産養殖生物体の摂取用の塩水エビ又は他の生きたままの給餌用生物体に給餌できる。この微生物相をこのように用いることによって、エビ養殖家は成長率及び/又は生存率が顕著に高い仔エビを得ることができるとともに、更に丈夫な幼態経過後の仔エビを生産することができる。
【0034】
大部分の給餌用では採収細胞の脂肪酸分は約15〜50%dwtであり、残りの物質の大部分はタンパク質及び炭水化物である。評価された菌株の幾つかが全ての必須アミノ酸を有するため、タンパク質は細胞の栄養価に多大な役割を果たし、栄養学的にバランスのとれたタンパク質であると考えられる。
【0035】
本発明の更なる実施例では本発明のトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物と菜種、亜麻仁、大豆及びアボカドミールからなる群から選択された添加成分とを組み合わせて使用した食品を生成している。この実施例の利点は食品が添加成分からの短鎖オメガ三系HUFAs及び微生物相からの長鎖オメガ三系HUFAsの双方を含有していることにある。亜麻仁、菜種、大豆及びアボカドミールを有する食品は短鎖オメガ三系HUFAs源を供給し、かつ摂取する人間及び動物によって伸長し得る短鎖オメガ三系HUFAs源を更に供給するのに有用であることは周知である。しかし、こうした食品には添加成分からのコリン含有量が多く、第一アミンを形成し、魚の不快な臭味を生じさせ得るという問題がある。更に、添加成分からの毒性化合物が高濃度の時、例えば鶏の産卵が抑制され、或いは動物が食餌を受け付けなくなることがあり得る。こうして、本発明の食品には亜麻仁、菜種、大豆又はアボカドミール含有量を低減できるという利点がある。これは、食品を摂取する生物体が長鎖HUFAsに変換する目的で高濃度の短鎖オメガ三系HUFAsを必要としないためである。よって、食品中の亜麻仁及び菜種含有量が低減されることによって食品中のコリン及び/又は抑制毒性化合物の量が低減される。
【0036】
食品に使用されるトラウストキトリウム属、シゾキトリウム属及びこれらの混合物の量は約5〜95重量%の範囲にわたっている。添加成分は約5〜95重量%の範囲で食品中に存在できる。加えて、食品は他の成分も含有することができ、これには穀粒、栄養補給物、ビタミン、結合剤及び防腐剤がある。
【0037】
好ましい実施例において、上記の食品は押出しを用いて生成される。押出しによって微生物相と添加成分とを混合し、この混合した添加成分量だけ微生物相バイオマスにおける湿度を低減する。食品は加熱されて押し出され、食品から湿度を更に除去する。結果として生じた水分含量が少ない生産物には自然乾燥又は比較的短い時間の焼成による乾燥が可能であり、乾燥に必要な総エネルギー及び長時間の高温に起因するオメガ三系HUFAsの減成度を低下させる。加えて、押出しから発生する熱によって添加成分中に一般的に見出される不要な毒性化合物の幾分かが減成可能である。この毒性化合物により、例えば鶏の産卵が抑制され、或いは動物が食餌を受け付けなくなることがある。
【0038】
本発明を実施例に従ってより詳細に記載する。上記の選択基準にかなう種は先行技術には記載されていない。これら選択基準を用いることによって、選別した約1,000個のサンプルから25を上回る、潜在的に有望な菌株を分離した。
アメリカン・タイプ・カルチャ・コレクション(ATCC)における約20,500株の内、分離する時に10株が同一の分類群に属すると後に確認された。この保存機関にてまだ生存可能な菌株を入手し、開示した処理によって分離かつ培養された菌株と比較するのに使用した。この比較結果を以下の例4,5に提示している。
【0039】
最近の分類理論家はトラウストキドリッド(Thraustochydrid)を藻又は藻状原生生物に分類している。本明細書中にて開示し、かつクレームしている単細胞微生物の全ての菌株はトラウストキトリアレス(Thraustochytriales)目に属している(目:トラウストキトリアレス、科:トラウストキトリアシー(Thraustochytriaceae)、属:トラウストキトリウム属又はシゾキトリウム属)。ここでは概略的に記載する目的で、これら微生物は正確な分類位置が不確定であることをより明らかに示すため、微生物相と呼ぶことにする。
【0040】
以下の新規株は「特許手続きを目的とする微生物寄託の国際承認に関するブダペスト条約」のもとで寄託された。こうして寄託される素材の公共利用性に関する全ての制約は特許付与と同時に取り払われ、取消はできない。各寄託物は寄託微生物のサンプルを供与する最近の申請がアメリカン・タイプ・カルチャ・コレクション(ATCC)によって受理された後、少なくとも5年間、またどのような場合でも寄託日後、少なくとも30年間保存される。
【0041】
本発明の好ましい微生物は寄託株であると同定する特性、詳細には本明細書中に記載のオメガ三系HUFAsを生成することができ、かつ本明細書中に記載の条件下にて培養された時に細胞集合体の寸法特性を有するという同定特性を全て有している。詳細には、本発明の好ましい微生物とは次の寄託微生物及びこの変異体のことをいう。
【0042】
菌株 ATCC No. 寄託年月日
シゾキトリウム属 S31 20888 8/8/88
シゾキトリウム属 S8 20889 8/8/88
本発明は特定の微生物株に関して開示されているが、開示した示唆に基づいて得られる有用な方法及び菌株の全てを包含するものであり、当業者に可能な手段である代替、改変及び最適化の全てを包含している。
【0043】
以下の例及び試験結果は例示することを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。
(例)
(例1.収集及び選別)
内陸の浅い塩水池から150mlの試料水を収集し、無菌ポリエチレン瓶に保存した。試料水とともに生きている植物の素材及び自然に生じた有機堆積物(腐敗動植物物質)も幾分含有するように特に注意を払った。このサンプルを実験室に戻すまで氷の上に置いた。実験室で試水を15〜30秒間振り動かし、2種類のフィルタを有するフィルタ装置の中にこのサンプルを1〜10ml、ピペットで移し入れ、即ち注入した。これらのフィルタは、1)上部における、孔寸法が約25μmの無菌47mm径ワットマン第4番フィルタ及び2)同ワットマンフィルタの下部における、孔寸法が約1.0μmである47mm径ポリカーボネートフィルタである。フィルタの称呼孔寸法に僅かな変動があると、ポリカーボネートフィルタ上に収集される細胞の寸法は約1.0〜25μmの範囲になる。
【0044】
ワットマンフィルタを取り外して廃棄した。ポリカーボネートフィルタをペトリ板の中の固体F−1培地上に置いた。この培地は(1リットル当り)600mlの海水(人工海水を利用可能)、400mlの蒸留水、10gの寒天、1gのブドウ糖、1gのタンパク質加水分解物、0.2gの酵母エキス、2mlの0.1M KH2PO4、1mlのビタミン溶液(A−vits)(100mg/lのチアミン、0.5mg/lのビオチン及び0.5mg/lのシアノコバラミンを含有)、5mlの微量金属混合物(PII金属、1リットル当りの含有物は6.0gのNa2EDTA、0.29gのFeCl3・6H2O、6.84gのH3BO3、0.86gのMnCl2・4H2O、0.06gのZnCl2、0.026gのCoCl2・6H2O、0.052gのNiSO4・H2O、0.002gのCuSO4・5H2O及び0.005gのNa2MoO4・2H2O。)並びに各々500mgの硫酸ストレプトマイシン及びペニシリン−Gからなっている。寒天板を暗所にて30℃で保温培養した。2〜4日後、フィルタ上に多くのコロニーが出現した。単細胞微生物相(酵母は除く)をプレートから摘採し、同様の培地組成の新たなプレート上にて再度画線培養した。ほぼ無色の細胞からなるコロニーは全て摘採するように特に注意を払った。新しいプレートを30℃で保温培養し、2〜4日の保温培養期間後に単一コロニーを摘採した。次に、摘採した単一コロニーを寒天板と同様の富化有機物を含有する50mlの液体培地に置いた。これら培地株を回転振とう培養機のテーブル(100〜200rpm)上で30℃にて2〜4日間、保温培養した。培地株が最大密度に達した様相を呈すると、この内の20〜40mlを採収し、遠心分離させ、凍結乾燥させた。次に、菌株の脂肪酸分を明らかにするため、周知の技術であるガスクロマトグラフィー(ルパージュ(Lepage)及びロイ(Roy)、1984年)によってサンプルを分析した。よって、オメガ三系HUFAsを有する菌株が確認され、更に選別するためにこれら培地株を維持した。
【0045】
上記で概説した収集及び選別方法を利用し、150を上回る数の単細胞微生物相の菌株が分離された。これらの菌株は全脂肪酸に占めるパーセントとしてオメガ三系HUFA含有量が多く、15〜48℃にわたる温度で生育する。用途によっては、有害なC20:4n−6及びC22:5n−6HUFAsを(全脂肪酸に占めるパーセントとして)1%未満有する菌株も分離可能である。オメガ六系含有量が多い菌株も分離可能である。これら微生物相の菌株は上記で概説した処置を利用して同一位置から繰り返し分離可能である。新たに分離される菌株が非常に酷似した様相の脂肪酸を有することが少なからずある。現時点で、同一菌株の複製分離物が存在する可能性も否定できない。次に、同様の方法により、耐塩性又は多様な炭素及び窒素源を用いる能力のような他の望ましい特性を得るための更なる選別を実施できる。
【0046】
(例2.無制限生育の維持:PO4及び酵母エキス)
シゾキトリウムアグリゲータム(Schizochytrium Aggregatum)(ATCC 28209)の細胞を固体F−1培地から摘採し、50mlのFFM培地に接種した(フラー(Fuller)ら、1964年)。この培地は海水を1,000ml、ブドウ糖を1.0g、ゼラチン加水分解物を1.0g、肝臓エキスを0.01g、酵母エキスを0.1g、PII金属を5ml、1mlのB−ビタミン溶液(ゴールドスタイン(Goldstein)ら、1969年)及び1mlの抗生物質溶液(25g/lの硫酸ストレプトマイシン及びペニシリン−G)を含有している。1.0mlのビタミン配合物(pH7.2)はチアミンHClを200μg、ビオチンを0.5μg、シアノコバラミンを0.05μg、ニコチン酸を100μg、パントテン酸カルシウムを100μg、リボフラビンを5.0μg、ピリドキシンHClを40.0μg、ピリドキサミン2HClを20.0μg、p−アミノ安息香酸を10μg、塩素HClを500μg、イノシトールを1.0mg、チミンを0.8g、オロチン酸を0.26mg、ホリニン酸を0.2μg及び葉酸を2.5μg含有している。27℃にして回転振とう培養機(200rpm)上に培養株を置いた。3〜4日後、この培養株の1mlを各々50mlの以下の処理剤に移し変えた。1)FFM培地(対照標準として)及び2)250mg/lのKH2PO4及び250mg/lの酵母エキスを添加したFFM培地である。これら培養株を48時間、27℃にして回転振とう培養機(200rpm)上に置いた。細胞を採収し、細胞の収率を定量化した。第1処理において、無灰乾燥重量ベースでの細胞の最終濃度は616mg/lであった。第2処理において、細胞の最終濃度は1,675mg/lであり、培地においてPO4及び酵母エキスの濃度を高くするという効果が強調されたことを示している。
【0047】
(例3.無制限生育の維持:酵母エキスの代替物としてのコーンスティープリカー)
シゾキトリウム属sp.S31(ATCC No.20888)の細胞を固体F−1培地から摘採し、50mlのM−5培地の中に置いた。この培地は(1リットルベースで)1gの酵母エキス、25gのNaCl、5gのMgSO4・7H2O、1gのKCl、200mgのCaCl2、5gのブドウ糖、5gのグルタミン酸塩、1gのKH2PO4、5mlのPII金属、1mlのA−ビタミン溶液及び1mlの抗生物質溶液からなっている。
この溶液のpHを7.0に調節し、溶液をろ過殺菌した。コーンスティープリカー(4g/40ml;pH7.0)及び酵母エキス(1g/40ml;pH7.0)の無菌溶液を調製した。一組のM−5培地フラスコに以下の量の酵母エキス溶液を添加した。1)2ml;2)1.5ml;3)1ml;4)0.5ml及び5)0.25mlである。別の一組のM−5培地フラスコに酵母エキス及びコーンスティープリカー溶液を以下の濃度で添加した。1)2mlの酵母エキス;2)1.5mlの酵母エキス及び0.5mlのコーンスティープリカー;3)1.0mlの酵母エキス及び1.0mlのコーンスティープリカー;4)0.5mlの酵母エキス及び1.5mlのコーンスティープリカー及び5)2mlのコーンスティープリカーである。各フラスコに接種するのにF−1培地における培養株を1mlだけ使用した。これら培養株を48時間、27℃にして回転振とう培養機上に置いた。遠心分離法によって細胞を採収し、(無灰乾燥重量として)細胞の収率を測定した。表1に結果を示している。この結果は0.8g/lの培地まで酵母エキスを添加することによって細胞の収率を高めることができるということを示している。しかし、酵母エキスとともにコーンスティープリカーを添加すると更に効果的であり、処理剤の収率が2倍になる。コーンスティープリカーは酵母エキスよりも遥かに安価であるため、細胞を経済的に生成するにはこれは非常に有利である。
【0048】
【表1】

(例4.ATCC株(周知の菌株)と比較した場合の例1の方法によって分離した菌株のHUFA含有量の増加)
例1に記載の方法に基づいて選択され、新たに分離された一群の151個の菌株を後期指数増殖期中にサンプルとし、ガスクロマトグラフィーによってHUFA含有量を分析した。全ての菌株はM1培地又は液体FFM培地のいずれかにおいて生育され、いずれにしても細胞の収率が最大であることを示した。M1培地はM5培地と同一の組成であり、ブドウ糖及びグルタミン酸塩の濃度が1g/lである点が例外である。加えて、以前に分離されたトラウストキトリウム属又はシゾキトリウム属を5種、アメリカン・タイプ・カルチャ・コレクションから得た。この保存機関では保存物から生存できる形態で得られる全ての菌株を表示している。これらの菌株とはT.アウレウム(aureum)(ATCC第28211番)、T.アウレウム(ATCC第34304番)、T.ロゼウム(roseum)(ATCC第28210番)、T.ストレータム(straitum)(ATCC第34473番)及びS.アグリゲータム(ATCC第28209番)であった。従来の培地において菌株は全て生育が短縮されることを示し、本発明のM5培地及びFFM培地等の培地においては概して生育が向上することを示した。本発明の培地において菌株の生育が向上したことに基づき、各周知株の脂肪酸生成量を上記のように測定した。
【0049】
周知の構造からなる純粋化合物を使用することによって、脂肪酸のピークを確認した。クロマトグラフィーのピークを統合することによって全脂肪酸の重量パーセントで計量した。確認された化合物はパルチミン酸(C16:0)、C20:4n−6及びC22:1(これらは用いたシステムによって別々に分解しなかった。)、C20:5n−3、C22:5n−6、C22:5n−3並びにC22:6n−3であった。通常は低分子量の残りの脂肪酸は「他の脂肪酸」という分類にまとめた。全オメガ三系脂肪酸を20:5n−3、22:5n−3及び22:6n−3の総計として計算した。全オメガ六系脂肪酸を20:4/22:1のピーク及び22:5n−6のピークの総計として計算した。
【0050】
表2〜7及び図1〜3にこの結果を示している。表2〜4より、本発明の方法によって多数の菌株を分離でき、かつ幾つかの重要な基準によって周知の菌株よりも優れた菌株が多数存在するということがわかる。例えば、102個の菌株は全脂肪酸の少なくとも7.8重量%のC20:5w3を生成し、これは周知のいずれの菌株よりも同脂肪酸の割合が高い。菌株23B(ATCC第20892番)及び12B(ATCC第20890番)がこの菌株の例である。本発明の30個の菌株はオメガ三系脂肪酸として全脂肪酸の少なくとも68重量%を生成し、これは周知のいずれの菌株よりも多い。菌株23B(ATCC第20892番)がこの菌株の例である。本発明の76個の菌株は人間の栄養分には望ましくないと考えられるオメガ六系脂肪酸として全脂肪酸の僅か10重量%を生成したのみであり、これは周知のいずれの菌株よりも少ない。菌株23B(ATCC第20892番)及び12B(ATCC第20890番)がこの菌株の例である。加えて、オメガ六系脂肪酸として全脂肪酸の25重量%を上回る量を生成する本発明の菌株が35個あり、これは周知のいずれの菌株よりも多い。これらの菌株は栄養目的とするには利用範囲が相対的に狭いといえるが、オメガ六系脂肪酸から開始するエイコサノイドの化学合成用の供給原料として有用である。
【0051】
加えて、C22:6n−3として全オメガ三系脂肪酸を高率に生成する菌株が多く存在することをデータが明らかにしている。表5〜7において、表2〜4に示した菌株の48個を周知の菌株と比較し、C20:5n−3、C22:5n−3及びC22:6n−3の各々を総オメガ三系重量パーセントとして示している。15個の菌株がC22:6n−3として全オメガ三系脂肪酸の少なくとも94重量%を有し、これは周知のいずれの菌株よりも多い。菌株S8(ATCC第20889番)がこの菌株の例であった。18個の菌株がC20:5n−3として全オメガ三系脂肪酸の少なくとも28重量%を有し、これは周知のいずれの菌株よりも多い。菌株12B(ATCC第20890番)がこの菌株の例であった。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

図1は例1における方法によって分離され、(全脂肪酸パーセントにして)67%を上回るオメガ三系脂肪酸及び(全脂肪酸パーセントにして)10.6%を下回るオメガ六系脂肪酸を有する一連の菌株を示している。周知の菌株は全て(全脂肪酸パーセントにして)67%を下回るオメガ三系脂肪酸及び(全脂肪酸パーセントにして)10.6%を上回るオメガ六系脂肪酸を有していた。
【0058】
図2は例1における方法によって分離され、(全脂肪酸パーセントにして)67%を上回るオメガ三系脂肪酸及び(全脂肪酸パーセントにして)7.5%を上回るC20:5n−3を有する一連の菌株を示している。周知の菌株は全て(全脂肪酸パーセントにして)67%を下回るオメガ三系脂肪酸及び(全脂肪酸パーセントにして)7.8%を下回るC20:5n−3を有していた。
【0059】
(例5.ATCC菌株(周知の株)と比較した場合の例1の方法によって分離した菌株の生育率の上昇)
シゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)、シゾキトリウム属sp.S8(ATCC第20889番)、トラウストキトリウム属sp.S42、トラウストキトリウム属sp.U42−2、トラウストキトリウム属sp.U42及びU30並びにトラウストキトリウムアウレウム(ATCC第28211番)及びシゾキトリウムアグリゲータム(ATCC第28209番)(周知の菌株)の細胞を固体F−1培地から摘採し、50mlのM−5培地に置いた。この溶液のpHを7.0に調節し、溶液をろ過殺菌した。回転振とう培養機(200rpm、27℃)上で3日間生育した後、各培養菌株の1〜2mlをM−5培地の他のフラスコに移し換え、2日間、同振とう培養機上に置いた。次に、これら培養株(1〜2ml)をM−5培地の他のフラスコに移し換え、1日間、振とう培養機上に置いた。この工程により全ての培養株は指数増殖期中にあった。次に、これらの後期培養株を用いてM−5培地の2本の250mlフラスコに接種し、各々に株を育成することとした。次に、これらフラスコを25℃及び30℃にて振とう培養機上に置き、ベックマンDB−G分光測光器(660nm、1cmの路程)上でその光学濃度の変化を監視した。光学濃度の読取りは0,6,10,14,17.25,20.25,22.75時間で行った。次に、ソロキン((Sorokin)1973年)の手法によって光学密度データから指数増殖率(1日当りの倍加)を計算した。この結果を表8及び図4(25℃における菌株U30の生育が標準)に示している。例1における方法によって分離された菌株が25℃及び30℃の双方で周知のATCC菌株よりも遥かに高い生育率を有し、連続して生育するのに欠かせないリン酸塩濃度に最適化しても結果は同じであることをデータは示している。南極の冷水から分離されたトラウストキトリアレス株は30℃で生育する様子を示さなかった。
【0060】
【表8】

(例6.ATCC株(従来の菌株)と比較した場合の例1の方法によって分離した菌株の生成特性(生育及び脂質誘導)の向上)
シゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)、シゾキトリウム属sp.S8(ATCC第20889番)(双方とも例1の方法で分離)並びにトラウストキトリウムアウレウム(ATCC第28211番)及びシゾキトリウムアグリゲータム(ATCC第28209番)(従来の菌株)の細胞を固体F−1培地から摘採し、50mlのM−5培地の中に置いた(例3を参照)。この溶液のpHを7.0に調節し、溶液をろ過殺菌した。回転振とう培養機(200rpm、27℃)上で3日間生育した後、各培養株の1〜2mlをM−5培地の他のフラスコに移し換え、2日間、同振とう培養機上に置いた。次に、これら培養株の各々の無灰乾燥重量を素早く測定し、50mlのM−5培地を含有する2本の250ml三角フラスコの中に各培養株を3.29mgだけピペットで移し換えた。これらフラスコを回転振とう培養機上に置いた(200rpm、27℃)。24時間後、各培養株の20ml分を遠心分離し、上澄みを廃棄し、グルタミン酸塩(N源)を全く含有しない50mlのM−5培地を有する250ml三角フラスコに細胞を移し換えた。フラスコを振とう培養機に置き直し、ルパージュ及びロイ(1984年)の手法によって12時間後に試料採取して無灰乾燥重量を測定し、脂肪酸分を定量化した。この結果を図5(周知の菌株であるATCC第28211番の収率が標準)に示している。この結果は例1の方法によって分離された菌株が指数増殖及び窒素制限下において、同時間内で従来のATCC株より2〜3培も多い無灰乾燥重量を生成したことを示している。加えて、本発明の菌株から得られる全脂肪酸及びオメガ三系脂肪酸の収率が多くなり、菌株S31(ATCC第20888番)は従来のATCC株より3〜4培も多いオメガ三系脂肪酸を生成している。
【0061】
(例7.例1の方法で分離した菌株によって向上した耐塩性及び脂肪酸生成) トラウストキトリッドの4種の菌株、即ちシゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)、トラウストキトリウム属sp.U42−2(ATCC第20891番)(双方とも例1の方法で分離かつ選別)並びにS.アグリゲータム(ATCC第28209番)及びT.アウレウム(ATCC第28210番)(アメリカン・タイプ・カルチャ・コレクションから入手)を固体F−1培地から摘採し、回転振とう培養機(200rpm)上で27℃にて3〜4日間、保温培養した。以下のようにM培地塩(25g/lのNaCl、5g/lのMgSO4・7H2O、1g/lのKCl、200mg/lのCaCl2)を希釈することによって、異なる塩度域の培地を調製した。それは、1)100%(w/v)のM培地塩、2)80%(v/v)のM培地、20%(v/v)の蒸留水、3)60%(v/v)のM培地、40%(v/v)の蒸留水、4)40%(v/v)のM培地、60%(v/v)の蒸留水、5)20%(v/v)のM培地、80%(v/v)の蒸留水、6)15%(v/v)のM培地、85%(v/v)の蒸留水、7)10%(v/v)のM培地、90%(v/v)の蒸留水、8)7%(v/v)のM培地、93%(v/v)の蒸留水、9)3%(v/v)のM培地、97%(v/v)の蒸留水、10)1.5%(v/v)のM培地、98.5%(v/v)の蒸留水である。以下の栄養素、即ち5gのブドウ糖、5gのグルタミン酸塩、1gの酵母エキス、200mgの(NH42SO4、200mgのNaHCO3、5mlのPII金属、1mlのAビタミン溶液及び2mlの抗生物質溶液を処理剤に添加した(1リットル当り)。これら処理剤の各々の50mlにF−1培地にて生育する細胞の1mlを接種した。これら培養株を回転振とう培養機(200rpm)上に置き、48時間、27℃で維持した。遠心分離により細胞を採収し、ガスクロマトグラフィーにより全脂肪酸を測定した。この結果を図6に示している。例1の方法で分離されたトラウストキトリウム属sp.U42−2(ATCC第20891番)はT.アウレウム(ATCC第28211番)が生成する脂肪酸の量のほぼ2倍、S.アグリゲータム(ATCC第28209番)が生成する脂肪酸の量の8倍以上を生成できる。加えて、U42−2は評価塩度域の上端において、より広範囲の耐塩性を有しているように思われる。やはり例1の方法で分離されたシゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)は脂肪酸収率が多く(周知のATCC株の2.5〜10倍)、ATCC株よりも遥かに広範囲の耐塩性を示した。加えて、シゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)は非常に低い塩度で最大に生育している。市販性を考慮した場合、この特性は経済的に大きな効果となる。それは、塩水が金属反応装置に腐食効果を及ぼし、塩水処理に関連して問題が発生するためである。
【0062】
(例8.培養/低塩度)
250ml三角フラスコ中のM/10−5培地の50mlに、寒天斜面から摘採したシゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)のコロニーを接種した。M/10−5培地は1000mlの脱イオン水、2.5gのNaCl、0.5gのMgSO4・7H2O、0.1gのKCl、0.02gのCaCl2、1.0gのKH2PO4、1.0gの酵母エキス、5.0gのブドウ糖、5.0gのグルタミン酸、0.2gのNaHCO3、5mlのPII微量金属、2mlのビタミン配合物及び2mlの抗生配合物を含有している。回転振とう培養機(200rpm)上で30℃にて培養株を保温培養した。2日後、培養株は適度の密度になり、活発に生育していた。この活発に生育する培養株を20ml用いて、同一の培地を1700ml含有する2リットル発酵そうに接種した。但し、この培地ではブドウ糖及びグルタミン酸塩の濃度は40g/lに増大していた(M/10−40培地)。発酵そうを30℃、1vol/minのエアレーション、300rpmの混合で維持した。48時間後、発酵そう中の細胞密度は21.7g/lであった。細胞を遠心分離によって採収し、凍結乾燥させ、N2下にて保存した。
【0063】
全脂肪酸分及びオメガ三系脂肪酸含有量をガスクロマトグラフィーによって測定した。最終生成物の総脂肪酸分は39.0%の無灰乾燥重量であった。微生物生産物のオメガ三系FUFA含有量(C20:5n−3、C22:5n−3及びC22:6n−3)は、総脂肪酸分の25.6%であった。試料の灰分は7.0%であった。
【0064】
(例9.脂肪酸分の多様性)
例4に記載の種々の菌株によって生成される脂肪酸の生育及びガスクロマトグラフ分析によって、脂肪酸の多様性に相違があることが明らかになった。本発明の菌株は従来から得られる菌株よりも互いに異なる脂肪酸を合成することが少なかった。分離すべき不純物がより少なくなるため、脂肪酸の精製では脂肪酸の多様性が低いほうが効果的である。餌料補給を目的として、不要な脂肪酸を摂取する可能性が減じるため、互いに異なる脂肪酸の数は少ないほうが効果的である。
表9はATCC番号で示す周知の菌株及び本発明の種々の菌株において、総脂肪酸重量にして1%以上の濃度を占めて存在し、互いに異なっているHUFAsの数を示している。
【0065】
【表9】

(例10.回収)
250ml三角フラスコ中のM5培地の50mlに、寒天斜面から摘採したシゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)のコロニーを接種した。回転振とう培養機(200rpm)上で30℃にて培養株を保温培養した。2日後、培養株は適度の密度になり、活発に生育していた。この活発に生育する培養株の20mlを用いて、同一の培地を1000ml含有する1リットル発酵そうに接種した。但し、この培地ではブドウ糖及びグルタミン酸塩の濃度を40g/lに増大していた(M20培地)。発酵そうを30℃、pH7.4で維持し、エアレーションを1vol/min、混合を400rpmとした。48時間後、発酵そう中の細胞密度は18.5g/lであった。発酵そうにおけるエアレーション及び混合を止めて2〜4分以内に細胞は発酵そうの下部250mlにおいて凝集し、沈澱した。細胞のこの凝集領域は72g/lの細胞密度を有していた。
この細胞域は発酵そうからサイホンで吸収でき、更に(1)窒素制限時間中、別の反応装置に移され(例えば、幾つかの発酵そうの高密度生成を組み合わせる。
)或いは(2)遠心分離又はろ過によって直接採収できる。このように予め細胞を凝集させることによって、細胞を回収するために加工処理する必要がある水の量が60〜80%少なくなった。
【0066】
(例11.種々の炭素源及び窒素源の利用)
250ml三角フラスコ中のM5培地の50mlに、寒天斜面から摘採したシゾキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)又はトラウストキトリウム属sp.U42−2(ATCC第20891番)のコロニーを接種した。M5培地については例3で記載し、その相違は2mlのビタミン配合物質及び2mlの抗生物質混合物を添加したことにある。回転振とう培養機(200rpm)上で30℃にて培養株を保温培養した。2日後、培養株は適度の密度になり、活発に生育していた。この培養株を用いてM5培地のフラスコにブドウ糖の代替としてデキストリン、ソルビトール、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、コーンスターチ、小麦でんぷん、ジャガイモでんぷん、グランドコーン(ground corn)の中の1つを接種し(5g/l)、或いはグルタミン酸塩の代替としてゲリセート(gelysate)、ペプトン、トリプトン、カゼイン、コーンスティープリカー、尿素、硝酸塩、アンモニウム、ホエー又はコーングルテンミールの中の1つを接種した(5g/l)。回転振とう培養機(200rpm、27℃)上で48時間、培養株を保温培養した。互いに異なる有機物上での生育を比較した培養密度を表10,11に示している。
【0067】
【表10】

【0068】
【表11】

(例12.塩水エビのオメガ三系HUFA含有量の増加を目的とするトラウストキトリッドベースの飼養補給物の給餌)
M−5培地のシェーク(shake)フラスコにおいてトラウストキトリウム属sp.12B(ATCC第20890番)の細胞バイオマスを25℃で生成した(例3を参照)。M/10−5培地のシェークフラスコにおいてトラウストキトリウム属sp.S31(ATCC第20888番)の細胞バイオマスを27℃で生成した(例8を参照)。遠心分離によって各菌株の細胞を採収した。このペレットを一度蒸留水で洗浄し、再度遠心分離させ、50%の固形ペーストを生成した。生じたペーストを海水中に再度懸濁させ、次に給餌補給物として成体塩水エビ用の培養物に添加した。塩水エビは老廃農産物上にて予め飼養され、この結果、塩水エビのオメガ三系HUFA含有量は非常に少なく、全脂肪酸の僅か1.3〜2.3%であった(野生塩水エビのオメガ三系HUFAの平均含有量は全脂肪酸の6〜8%である。)。海水で満たした1リットルビーカー中に塩水エビ(2〜3/ml)を保持し、エアーストーン(airstone)を用いてこの培養物を曝気かつ混合した。給餌補給物の添加後、塩水エビのサンプルを時々採収して洗浄し、ガスクロマトグラフィーによって脂肪酸含有量を測定した。この結果を図7及び8に示している。最後の給餌としてトラウストキトリッドベースの給餌補給物を給餌すると、塩水エビのオメガ三系含有量は菌株12Bを給餌する場合には5時間以内に、或いはS31を給餌する場合には11時間以内に野生塩水エビのオメガ三系含有量にまで増加可能である。塩水エビのオメガ三系HUFA含有量は、これら給餌補給物を24時間まで給餌すると、野生塩水エビのオメガ三系含有量よりも大幅に増加可能である。加えて、これら給餌補給物によって塩水エビのDHA含有量が大幅に増加する。通常、DHAは野生塩水エビでは微量にしか報告されていない。
【0069】
(例13.培地における硫酸ナトリウムの使用)
この例では、発酵培地におけるナトリウム塩として塩化ナトリウムの代わりに硫酸ナトリウムを用いた時、オメガ三系生成及び総脂肪酸分が損なわれず、同等か或いは優れていることを示している。培地1リットル当り2.36gのナトリウム、1.5〜3.0gの窒素源及び3.0gのブドウ糖を含有し、pHが7.0の培地において、シゾキトリウム属 ATCC第20888番を生育した。200rpmにて28℃で48時間、細胞を保温培養した。この結果を表12に示している。
【0070】
【表12】

表12からわかるように、ナトリウム塩として硫酸ナトリウムを用いた時のオメガ三系及び全脂肪酸の生成は塩化ナトリウムを用いた時に匹敵するか、或いはより優れている。
【0071】
(例14.低塩度培地におけるシゾキトリウム属の生成)
この例では、低塩度の培地でありながらバイオマス収率並びにオメガ三系及び脂肪酸の生成を高度に維持したシゾキトリウム属の発酵を示している。
【0072】
窒素源として3.33g/lのペプトン、炭素源として5.0g/lのブドウ糖を含有し、ナトリウム濃度を色々に変えた培地において、シゾキトリウム属 ATCC第20888番を生育した。約40mg/l dwtの接種物によって48時間、30℃にて細胞を発酵させた。ナトリウムは塩化ナトリウムとして供給した。この進行結果を表13に示している。
【0073】
【表13】

表13の結果からわかるように、約1.0g/l以上のナトリウム濃度でバイオマス収率並びにオメガ三系脂肪酸及び全脂肪酸の生成を高めることができる。
(例15.塩化物含有量が少ない培地におけるシゾキトリウム属の培養)
この例では、最低限の塩化物濃度でありながら初期糖濃度に基づいてバイオマス収率を増大させた、本発明の微生物相の発酵を示している。
【0074】
下記に示す培地の50mlアリコートで200rpm及び28℃にてシェークフラスコ中においてシゾキトリウム属 ATCC第20888番を培養した。この培地は1000mlの脱イオン水、1.2gのMgSO4・7H2O、0.067gのCaCO3、3.0gのブドウ糖、3.0gのグルタミン酸モノナトリウム、0.2gのKH2PO4、0.4gの酵母エキス、5.0mlのPII金属、1.0mlのビタミン配合物並びに各0.1gのペニシリンG及び硫酸ストレプトマイシンからなっていた。塩化物の濃度は各処理剤に添加するKClの量を変えることによって様々であった。全ての処理剤におけるカリウム濃度はクエン酸カリウムを添加することによって一定に保持された。硫酸ナトリウムの添加によってナトリウム濃度は2.37g/l又は4.0g/lのいずれかであった。これら発酵の結果を下記の表14に示している。
【0075】
【表14】

表14に示す結果からわかるように、低塩化物濃度にて1糖当りのバイオマス収率を多くすることができる。例えば、59.1mg/l以上の塩化物濃度において理論値の50%以上の収率を達成している。
【0076】
(例16.低塩化物濃度での硫酸ナトリウム濃度の変動)
この例では、低塩化物濃度での発酵における様々な硫酸ナトリウム濃度の効果を示している。
【0077】
下記に示す培地の50mlアリコートで200rpm及び28℃にてシェークフラスコ中においてシゾキトリウム属 ATCC第20888番を培養した。この培地は1000mlの脱イオン水、1.2gのMgSO4・7H2O、0.125gのKCl、0.067gのCaCO3、3.0gのブドウ糖、3.0gのグルタミン酸モノナトリウム、0.2gのKH2PO4、0.4gの酵母エキス、5.0mlのPII金属、1.0mlのビタミン配合物並びに各0.1gのペニシリンG及び硫酸ストレプトマイシンからなっていた。
硫酸ナトリウムの濃度を処理剤において3.0〜30.2g/lに変化させた。発酵の進行結果を下記の表15に示している。
【0078】
【表15】

表15に示す結果は約59g/lという低塩化物濃度において、適正な硫酸ナトリウム濃度を選択することによって、ブドウ糖から理論値の50%以上のバイオマス収率が多く得られることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地1リットル当り約3グラム以下の塩化物と、炭素源及び窒素源と、微量養分と、1リットル当たり1グラム以上の非塩化物ナトリウム塩を含有する培地において約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で微生物を生育する方法であって、前記微生物がトラウストキトリアレス目から選択されるとともに、以下の特性、
a)従属栄養生育が可能であること、
b)オメガ三系高度不飽和脂肪酸の含量が多いこと、
c)30℃以上の温度にて生育可能であること、
d)広塩性であること、
を備える方法。
【請求項2】
前記ナトリウム塩は硫酸ナトリウム、ソーダ灰、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム及びこれらの混合物からなる群から選択されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地が培地1リットル当たり約500ミリグラム以下の塩化物含量を有している請求項1に記載の方法
【請求項4】
前記培地が培地1リットル当たり約250ミリグラム以下の塩化物含量を有している請求項3に記載の方法。
【請求項5】
a)請求項1に記載の微生物と、前記微生物は非塩化物ナトリウム塩を含んだ培地中で生育されることと、
b)亜麻仁、菜種、大豆、アボカドミール及びこれらの混合物からなる群から選択される物質とからなる食品。
【請求項6】
前記食品には約5〜95重量%の前記物質が含まれる請求項5に記載の食品。
【請求項7】
前記食品は押出し成形物である請求項5に記載の食品。
【請求項8】
請求項1に記載の微生物を仔エビ、塩水エビ、クルマムシ及び軟体動物からなる群から選択された生体に給餌することと、同微生物が約150ミクロン以下の寸法の細胞集合体を有することとを含む水産養殖の方法。
【請求項9】
炭素源、窒素源、微量養分、及び硫酸ナトリウムを含有する培地において、約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で請求項1に記載の微生物を生育する方法。
【請求項10】
前記硫酸ナトリウムの濃度は約1g/lから約50g/lの間である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記硫酸ナトリウムの濃度は約2g/lから約25g/lの間である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記微生物は塩性環境より得られる請求項1に記載の方法。
【請求項13】
培地1リットル当り約3グラム以下の塩化物と、炭素源及び窒素源と、微量養分と、1リットル当たり1グラム以上の非塩化物ナトリウム塩を含有する培地において約5〜48℃の温度及びpH約5.0〜11.0で微生物を生育する方法であって、前記微生物が広塩性微生物であり、かつ以下の特性、
a)従属栄養生育が可能であること、
b)オメガ三系高度不飽和脂肪酸の含量が多いこと、
c)30℃以上の温度にて生育可能であること、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−232866(P2009−232866A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168588(P2009−168588)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願2006−18339(P2006−18339)の分割
【原出願日】平成5年10月12日(1993.10.12)
【出願人】(503166090)マーテック・バイオサイエンシズ・コーポレイション (16)
【Fターム(参考)】