説明

高炉炉底温度計設置方法

【課題】高炉炉底側壁の煉瓦面の温度を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができる高炉炉底温度計設置方法を提供する。
【解決手段】表面を金属シース部で被覆した高炉の炉底温度を測定するための高炉炉底温度計9を高炉炉底の側壁から内部に向けて形成した開口部6に挿入し、高炉炉底温度計先端の温度測定部1を高炉炉底側壁の煉瓦5面に密着させると共に、開口部内に不定形耐火物12を充填する方法であって、金属シース部の温度測定部以外の部位を不定形耐火物に固定することを特徴とする。金属シース部を不定形耐火物に固定するには、例えば、高炉炉底温度計の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具14を金属シース部の温度測定部以外の部位に取り付ければよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉底温度を測定する高炉炉底温度計の設置方法に関し、特に高炉炉底側壁の煉瓦面の温度を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができる高炉炉底温度計設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の寿命は、高炉炉底に設置した耐火物の損耗によって決定され、最近では20年以上の寿命を有するようになっている。ここで、高炉炉底の耐火物は、長期間の連続操業中に化学的及び物理的に損耗するため、その損耗状態を常時監視する必要がある。高炉炉底耐火物の損耗状態を監視する方法として、従来より高炉の建設又は改修時に高炉炉底の耐火物の表面や内部に複数の温度計を埋め込み、当該温度計の測定値を用いて耐火物の損耗状態を推定する方法が用いられており、高炉の寿命を決定する重要な指針とされている。
【0003】
ここで、高炉炉底の耐火物温度を測定する場合、耐火物と温度計先端の温度測定部との間に空隙が生じると、当該空隙による断熱作用によって正確に温度測定ができないという問題がある。以下、斯かる問題について、より具体的に説明する。
【0004】
図1は、従来の高炉炉底温度計の設置状況を示す側面視縦断面図である。図1に示すように、従来の高炉炉底温度計設置方法においては、先ず高炉炉底の側壁から内部に向けて温度計設置のための開口部6をボーリング等によって形成する。そして、開口部6の内部に温度計9を挿入し、温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5に接触させた状態で、温度計9の基端側を外套10及び高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するためのコンプレッションフィッティング8によって高炉鉄皮7に固定する。この状態で、圧入口11より不定形耐火物12を開口部6の内部に流し込む(排気口13から不定形耐火物12が溢れ出るまで流し込む)ことにより、開口部6内部に不定形耐火物12を充填させる。以上の手順により、温度計9は高炉炉底に設置される。
【0005】
しかしながら、高炉内圧力が上昇することにより、高炉鉄皮7がスタンプ材4及び高炉炉底煉瓦5の外方に膨張するため、高炉鉄皮7に取り付けられた外套10及び外套10に取り付けられたコンプレッションフィッティング8に対して、高炉炉底煉瓦5の外方に向けた力が加わることになる。これにより、コンプレッションフィッティング8に取り付けられた温度計9の基端側にも高炉炉底煉瓦5の外方に向けた力が加わることになる。この際、一般的な温度計1の金属シース部2と不定形耐火物12との間に作用する摩擦力は小さいため、温度計9は高炉炉底煉瓦5の外方に向けて引っ張られ、温度測定部1が高炉炉底煉瓦5から離間し、温度測定部1と高炉炉底煉瓦5の間に空隙が生じる結果、実温度より低い温度が測定されるという問題があった。図2に、従来の設置方法で設置した高炉炉底温度計を用いた高炉炉底側壁の煉瓦温度の一測定例と当該測定時の高炉内圧力とを示す。図2に示すように、高炉内圧力が上昇した時に、2℃〜3℃温度が低下していることが分かる。
【0006】
このため、耐火物と温度計先端の温度測定部との間に空隙が生じないようにするべく、従来より、耐火物と温度計先端測定部とを固定する方法として、種々の方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、高炉炉底耐火物の所定位置に穴をあけ、この穴内にその先端に押さえ板を取り付けた温度計を設置する方法が提案されている。また、特許文献2には、シース熱電対の先端部に金属パッド(金属板)を装着したシース熱電対を用い、当該金属パッドを耐火物に打ち込む方法が提案されている。
【0008】
また、耐火物と温度計先端測定部とを密着させる方法として、特許文献3や特許文献4に記載のように、バネ等の弾性体を用いて温度計先端測定部を耐火物に押し付ける方法が提案されている。
【特許文献1】特開平4−272112号公報
【特許文献2】特開平6−129913号公報
【特許文献3】実開平7−41435号公報
【特許文献4】特開平9−104909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高炉寿命の末期になると、高炉炉底耐火物の損耗が酷くなるため、温度計を設置するための開口部を大きくできないことから、特許文献1や特許文献2に記載の方法を適用することは工事上極めて困難である。また、図3に示すように、高炉炉底温度計として、温度測定部1を2つ以上設けた所謂熱流束センサーを用いる場合には、温度計先端の温度測定部1に熱流束に影響を及ぼす押さえ板や金属パッドを設置できないという問題もある。
【0010】
また、特許文献3や特許文献4に記載の方法は、温度計の構造が複雑となるため、温度計の製作費用や施工費用が増大するという問題がある。
【0011】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、高炉炉底側壁の煉瓦面の温度を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができる高炉炉底温度計設置方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するべく、本発明は、表面を金属シース部で被覆した高炉の炉底温度を測定するための高炉炉底温度計を高炉炉底の側壁から内部に向けて形成した開口部に挿入し、前記高炉炉底温度計先端の温度測定部を高炉炉底側壁の煉瓦面に密着させると共に、前記開口部内に不定形耐火物を充填する高炉炉底温度計の設置方法であって、前記金属シース部の温度測定部以外の部位を前記不定形耐火物に固定することを特徴とする高炉炉底温度計設置方法を提供するものである。
【0013】
斯かる発明によれば、高炉炉底温度計の金属シース部を不定形耐火物に固定するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、高炉炉底温度計先端の温度測定部を高炉炉底側壁の煉瓦面に密着させた状態に維持することが可能である。また、金属シース部の温度測定部以外の部位を不定形耐火物に固定するため、たとえ高炉炉底温度計として温度測定部を2つ以上設けた所謂熱流束センサーを用いたとしても、固定部(金属シース部の温度測定部以外の部位と不定形耐火物との固定箇所)によって熱流速に影響が生じることがない。さらには、高炉炉底温度計の金属シース部を不定形耐火物に固定しさえすればよいため、特殊で複雑な構造の高炉炉底温度計を用いる必要もない。従って、高炉炉底側壁の煉瓦面の温度を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができるという優れた効果を奏する。
【0014】
前記金属シース部を前記不定形耐火物に固定するには、例えば、前記高炉炉底温度計の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具を前記金属シース部の温度測定部以外の部位に取り付ければよい。斯かる構成によれば、不定形耐火物から温度計固定具に対して係止力が作用するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、高炉炉底温度計に作用する高炉炉底側壁煉瓦面の外方に向けた引張力と前記係止力とが釣り合うことにより、高炉炉底温度計先端の温度測定部が煉瓦面から離間することなく密着した状態を維持することが可能である。
【0015】
或いは、前記金属シース部を前記不定形耐火物に固定するため、前記金属シース部の温度測定部以外の部位表面に凹凸部を設ける構成を採用することも可能である。斯かる構成によれば、金属シース部に設けられた凹凸部と不定形耐火物との間に作用する摩擦力が増大するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、高炉炉底温度計に作用する高炉炉底側壁煉瓦面の外方に向けた引張力と前記摩擦力とが釣り合うことにより、高炉炉底温度計先端の温度測定部が煉瓦面から離間することなく密着した状態を維持することが可能である。
【0016】
なお、前述のように、高炉内圧力が上昇することにより、高炉鉄皮が高炉炉底側壁煉瓦面の外方に向けて膨張するため、高炉鉄皮に連結され高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するように前記高炉炉底温度計を高炉外で支持する炉外支持部(前述したコンプレッションフィッティングに相当)も外方に移動しようとする。この際、高炉炉底温度計は不定形耐火物に固定されているため、炉外支持部は高炉炉底温度計に対して摺動しながら外方へ移動することになる。炉外支持部が高炉炉底温度計に対して摺動することにより、炉外支持部と高炉炉底温度計との間に僅かな隙間が生じるため、当該隙間から高炉内ガスが外部へ漏洩するおそれがある。
【0017】
斯かる問題を解消するには、高炉炉底に設けられた高炉鉄皮に連結され高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するように前記高炉炉底温度計を高炉外で支持する炉外支持部と前記高炉鉄皮との間に、前記高炉鉄皮の前記煉瓦面の外方への位置変動を吸収する緩衝機構を設けることが好ましい。
【0018】
斯かる構成によれば、炉外支持部と高炉鉄皮との間に、高炉鉄皮の煉瓦面の外方への位置変動を吸収する緩衝機構を設けるため、高炉内圧力が上昇することにより、高炉鉄皮が煉瓦面の外方に向けて膨張しても、炉外支持部は元の位置のままで高炉炉底温度計を支持することになり、炉外支持部が高炉炉底温度計に対して摺動しないため、高炉内ガスが外部へ漏洩することを確実に防止できるという利点が得られる。
【0019】
なお、前記不定形耐火物の圧縮強度は9.8×10Pa以上とし、熱伝導率は2.33W/(m・℃)以上とすることが好ましい。
【0020】
不定形耐火物の圧縮強度を9.8×10Pa以上とすることにより、高炉炉底温度計の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具を金属シース部に取り付けた場合に、温度計固定具による高炉炉底温度計の温度測定部への熱伝導に対する影響を少なくするために、温度計固定具の不定形耐火物との接触面積を小さくしたとしても、不定形耐火物に割れが生じることなく安定した状態で高炉炉底温度計を設置することが可能である。また、2.33W/(m・℃)以上の高い熱伝導率(一般的な高炉炉底煉瓦の熱伝導率に近い熱伝導率)の不定形耐火物を使用することにより、高炉炉底温度計として温度測定部を2つ以上設けた所謂熱流束センサーを用いた場合における熱流速の測定精度(ひいては、煉瓦面の温度測定精度)を向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高炉炉底温度計の金属シース部を不定形耐火物に固定するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、高炉炉底温度計先端の温度測定部を高炉炉底側壁の煉瓦面に密着させた状態に維持することが可能である。また、金属シース部の温度測定部以外の部位を不定形耐火物に固定するため、たとえ高炉炉底温度計として温度測定部を2つ以上設けた所謂熱流束センサーを用いたとしても、固定部(金属シース部の温度測定部以外の部位と不定形耐火物との固定箇所)によって熱流速に影響が生じることがない。さらには、高炉炉底温度計の金属シース部を不定形耐火物に固定しさえすればよいため、特殊で複雑な構造の高炉炉底温度計を用いる必要もない。従って、高炉炉底側壁の煉瓦面の温度を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができ、ひいては高炉炉底耐火物の損耗状態を正確に把握でき、高炉の寿命延長に寄与できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係る高炉炉底温度計設置方法の一実施形態について説明する。
【0023】
図4は、本実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法によって設置した高炉炉底温度計の設置状況(設置直後の状況)を示す側面視縦断面図である。図4に示すように、本実施形態に係る高炉炉底温度計の設置方法においては、先ず高炉炉底の側壁から内部に向けて高炉炉底温度計9(以下、適宜「温度計9」と略称する)設置のための開口部6をボーリング等によって形成する。より具体的に説明すれば、開口部6は、高炉鉄皮7、高炉炉底煉瓦5と高炉鉄皮7との隙間を埋めるためのスタンプ材4を貫通し、さらに高炉炉底煉瓦5の外縁から内部に向けて約10mm程度まで開口されて形成される。そして、開口部6の内部に表面を金属シース部で被覆した温度計9を挿入し、温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5に接触させた状態で、温度計9の基端側を外套10及び高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するためのコンプレッションフィッティング8によって高炉鉄皮7に固定する。この状態で、圧入口11より不定形耐火物12を開口部6の内部に流し込む(排気口13から不定形耐火物12が溢れ出るまで流し込む)ことにより、開口部6内部に不定形耐火物12を充填させる。
【0024】
ここで、本実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法は、温度計9の金属シース部2の温度測定部以外の部位を不定形耐火物12に固定することを特徴としている。より具体的に説明すれば、本実施形態においては、温度計9の金属シース部2を不定形耐火物12に固定するために、図5に示す構成を採用している。図5(a)は本実施形態に係る高炉炉底温度計9の先端近傍の概略構成を示す側面図を、(b)は(a)に示す温度計固定具14の正面図を示す。図5に示すように、本実施形態では、金属シース部2を不定形耐火物12に固定するため、温度計9の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具14(例えば、SUS310SやSUS316などのステンレス鋼から形成される)を金属シース部2の温度測定部1以外の部位に取り付ける(本実施形態では溶接により取り付けている)構成を採用している。
【0025】
斯かる構成により、高炉内圧力が上昇した場合であっても、温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5の表面に密着させた状態に維持することが可能である。すなわち、高炉内圧力が上昇することにより、高炉鉄皮7がスタンプ材4及び高炉炉底煉瓦5の外方に膨張するため、高炉鉄皮7に取り付けられた外套10及び外套10に取り付けられたコンプレッションフィッティング8に対して、高炉炉底煉瓦5の外方に向けた力が加わることになる。これにより、コンプレッションフィッティング8に取り付けられた温度計9の基端側にも高炉炉底煉瓦5の外方に向けた力が加わることになる。しかしながら、本実施形態のように、温度計9の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具14を金属シース部2の温度測定部1以外の部位に取り付けることにより、温度計9を不定形耐火物12に固定することができ、ひいては温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5の表面に密着させた状態に維持することが可能となる。
【0026】
以下、本実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法の作用効果について、より具体的に説明する。
【0027】
図6は、本実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法によって設置した高炉炉底温度計の高炉操業開始後(高炉内圧力上昇後)の状況を示す側面視縦断面図である。図6に示す温度固定具14から温度計9先端までの温度計9の熱伸び長さ(熱膨張後の長さ)δmと、温度計固定具14から不定形耐火物12先端までの熱伸び長さ(熱膨張後の長さ)δbとの間には、下記の式(1)に示す関係が成立する。
δb<δm ・・・(1)
これは、金属シース部(例えば、SUS310Sで形成)2の熱膨張率が14.4×10−6(1/℃)であるのに対し、不定形耐火物12の熱膨張率は5.5×10−6(1/℃)であり、金属シース部2の熱膨張率よりも小さいからである。従って、温度計固定具14を金属シース部2に取り付け、当該温度計固定具14の取り付け部位において金属シース部2を不定形耐火物12に固定することにより、高炉の炉底温度が上昇すれば、温度計9の先端が高炉炉底煉瓦5に押し付けられることになる。
【0028】
また、図6に示すコンプレッションフィッティング8から高炉鉄皮7内面までの不定形耐火物12の長さ(温度計9の設置直後(高炉操業停止時)の長さ)をL2、高炉鉄皮7内面から温度計固定具14までの不定形耐火物12の長さ(温度計9の設置直後(高炉操業停止時)の長さ)をL1、コンプレッションフィッティング8から温度計固定具14までの温度計9の長さ(温度計9の設置直後(高炉操業停止時)の長さ)をLm、不定形耐火物12の熱膨張率をρb、金属シース部2の熱膨張率をρmとすると、高炉の炉底温度が上昇することにより、下記の式(2)に示す関係が成立する。
ρb・L1+ρb・L2<ρm・Lm ・・・(2)
すなわち、温度計9の設置直後(高炉操業停止時)には、L1+L2=Lmが成立しているが、高炉操業後には不定形耐火物12及び金属シース部2の双方が熱膨張する。この際、不定形耐火物12の熱膨張率ρb<金属シース部2の熱膨張率ρmであるため、上記の式(2)が成立する。従って、温度計固定具14を高炉炉底煉瓦5側に押し付けようとする力(図6の紙面右方向の力)が作用することになり、温度計9先端の温度測定部1は、高炉炉底煉瓦5の表面に密着させた状態に維持されることになる。
【0029】
しかしながら、高炉内圧力が上昇することによって、高炉鉄皮7がスタンプ材4及び高炉炉底煉瓦5の外方に膨張し、高炉鉄皮7とスタンプ材4との間に隙間δpが生じる状態(図6に示す状態)となれば、当該隙間δpは一般的に金属シース部2と不定形耐火物12との熱膨張の差よりも大きな値となるため、下記の式(3)に示す関係が成立することになる。
ρb・L1+ρb・L2+δp>ρm・Lm ・・・(3)
従って、温度計9を高炉炉底煉瓦5の外方に引っ張る力(図6の紙面左方向の力)が作用することになる。換言すれば、温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5から離間させようとする方向の引張力が作用することになる。
【0030】
ここで、本実施形態では、温度計9の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具14を金属シース部2に取り付けているため、不定形耐火物12から温度計固定具14に対して係止力(不定形耐火物12が温度計固定具14を押し止めようとする図6の紙面右方向の力)が作用する。そして、前記引張力と前記係止力とが釣り合うことにより、温度計9先端の温度測定部1が高炉炉底煉瓦5表面から離間することなく密着した状態を維持することが可能である。
【0031】
以上に説明したように、本実施形態に係る高炉炉底温度計の設置方法によれば、金属シース部2を不定形耐火物12に固定するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、温度計9先端の温度測定部1を高炉炉底煉瓦5の表面に密着させた状態に維持することが可能である。また、金属シース部2の温度測定部1以外の部位を不定形耐火物12に固定する(金属シース部2の温度測定部1以外の部位に温度計固定具14を取り付ける)ため、たとえ温度計9として図5(a)に示すような温度測定部1を2つ以上設けた所謂熱流束センサーを用いたとしても、温度固定具14によって熱流速に影響が生じることがない。さらには、温度計9の金属シース部2を不定形耐火物12に固定しさえすればよいため、特殊で複雑な構造の高炉炉底温度計を用いる必要もない。従って、高炉炉底温度(高炉炉底煉瓦5の温度)を精度良く測定可能であり且つ安価に設置することができ、ひいては高炉炉底耐火物の損耗状態を正確に把握でき、高炉の寿命延長に寄与できるという優れた効果を奏する。
【0032】
なお、前述のように、不定形耐火物12から温度計固定具14に対して係止力が作用することにより、その反力が不定形耐火物12に作用することになる。従って、当該反力によって不定形耐火物12に割れが生じることのないように、十分な強度を有する不定形耐火物12を用いることが好ましい。
【0033】
ここで、温度計固定具14を金属シース部2に取り付けた場合に、温度計固定具14による温度計9の温度測定部1への熱伝導に対する影響を少なくするには、温度計固定具14の不定形耐火物12との接触面(図5(b)においてハッチを施した部分)の面積Aを小さくすることが好ましい。一方、前記係止力の反力によって不定形耐火物12に割れが生じることのないようにするには、不定形耐火物12として、前述した引張力F(設計上は、例えば、コンプレッションフィッティング8の最大保持力(4243N)程度の引張力であると想定すればよい)を接触面積Aで除した値(F/A)以上の圧縮強度を有するものを用いることが好ましい。
【0034】
以上に説明した考えに基づき、本実施形態では、好ましい不定形耐火物12として、圧縮強度が9.8×10Pa以上で、熱伝導率が2.33W/(m・℃)以上のものを用いている。斯かる特性を有する不定形耐火物12(例えば、主要材質として、黒鉛質からなる粉体(骨材)、フェノール樹脂(低粘性レゾール型)からなる樹脂液を含有するものが挙げられる)を用いることにより、温度計固定具14の不定形耐火物12との接触面積Aを小さくして、温度固定具14による温度計9の温度測定部1への熱伝導に対する影響を少なくすることができると共に、不定形耐火物12に割れが生じることなく安定した状態で温度計12を設置することが可能である。また、温度計固定具14の不定形耐火物12との接触面積Aを小さくできる(換言すれば、温度計固定具14の寸法を小さくできる)ことから、開口部6の寸法を大きくする必要がない上、開口部6内部への温度計9の挿入も容易になるという利点も有する。
【0035】
なお、本実施形態では、温度計固定具14として、正面視矩形(図5(b)参照)のものを用いているが、本発明はこれに限るものではなく、温度計9の長手方向に略直交する方向に延出する部分を有する限りにおいて、正面視円形や楕円形など種々の形態の温度計固定具を用いることが可能である。
【0036】
また、本実施形態では、単一の温度計固定具14を取り付けた形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、温度計固定具14を温度計9の長手方向に複数個取り付ける構成を採用することも可能である。斯かる構成によれば、前述した引張力に釣り合う係止力が複数の温度計固定具14に分散して作用することになるため、各温度計固定具14の寸法を極めて小さくしたとしても(1つの温度計固定具14当たりの接触面積Aを極めて小さくしたとしても)、不定形耐火物12に割れが生じ難いと共に、温度固定具14による温度計9の温度測定部1への熱伝導に対する影響を極めて少なくすることが可能である。例えば、前述したように、引張力Fが4243程度だと想定すれば、直径6mmφの金属シース部に対して直径が10mmφの温度計固定具14を9個取り付ければ、引張力に釣り合う係止力を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態では、温度計9の金属シース部2を不定形耐火物12に固定するために、温度計固定具14を用いる構成について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、図7に示すように、金属シース部2の温度測定部1以外の部位表面に凹凸部16を設ける構成を採用することも可能である。斯かる構成によれば、金属シース部2に設けられた凹凸部16と不定形耐火物12との間に作用する摩擦力が増大するため、高炉内圧力が上昇した場合であっても、温度計9に作用する引張力と前記摩擦力とが釣り合うことにより、温度計9先端の温度測定部1が高炉炉底煉瓦5表面から離間することなく密着した状態を維持することが可能である。また、凹凸部16による温度計9の温度測定部1への熱伝導に対する影響は少なく、開口部6の寸法を大きくする必要がない上、開口部6内部への温度計9の挿入も容易である。
【0038】
さらに、本実施形態では、高炉内圧力が上昇することにより、図6に示すように、高炉鉄皮7がスタンプ材4及び高炉炉底煉瓦5の外方に膨張し、高炉鉄皮7とスタンプ材4との間に隙間が生じる状態となれば、高炉鉄皮7に連結され高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するように温度計9を高炉外で支持するコンプレッションフィッティング8も外方に移動する。換言すれば、高炉鉄皮7が膨張して外方に移動することにより、高炉鉄皮7に取り付けられた外套10も外方に移動し、外套10に取り付けられたコンプレッションフィッティング8も外方に移動することになる。この際、温度計9は、温度計固定具14によって不定形耐火物12に固定されているため、コンプレッションフィッティング8は温度計9に対して摺動しながら外方へ移動することになる。このように、コンプレッションフィッティング8が温度計9に対して摺動することにより、コンプレッションフィッティング8と温度計9との間に僅かな隙間が生じるため、当該隙間から高炉内ガスが外部へ漏洩するおそれがある。
【0039】
上記の問題を解消するには、図8に示すように、コンプレッションフィッティング8と高炉鉄皮7との間に(より具体的には、コンプレッションフィッティング8と外套10との間に)、高炉鉄皮7の外方への位置変動を吸収する緩衝機構として、例えば蛇腹式のエクスパンション(伸縮継手)17を設けることが好ましい。斯かる緩衝機構17を設けることにより、高炉内圧力が上昇することによって高炉鉄皮7が外方に向けて膨張しても、コンプレッションフィッティング8は元の位置のままで温度計9を支持することになり、コンプレッションフィッティング8が温度計9に対して摺動しないため、高炉内ガスが外部へ漏洩することを確実に防止でき、高炉の安定操業に寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、従来の高炉炉底温度計の設置状況を示す側面視縦断面図である。
【図2】図2は、従来の設置方法で設置した高炉炉底温度計を用いた高炉炉底側壁の煉瓦温度の一測定例と当該測定時の高炉内圧力とを示すグラフである。
【図3】図3は、高炉炉底温度計としての熱流束センサーの概略構成を示す側面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法によって設置した高炉炉底温度計の設置状況(設置直後の状況)を示す側面視縦断面図である。
【図5】図5(a)は、本発明の一実施形態に係る高炉炉底温度計の先端近傍の概略構成を示す側面図を、図5(b)は、図5(a)に示す温度計固定具の正面図を示す。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法によって設置した高炉炉底温度計の高炉操業開始後(高炉内圧力上昇後)の状況を示す側面視縦断面図である。
【図7】図7は、本発明の他の実施形態に係る高炉炉底温度計の先端近傍の概略構成を示す側面図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施形態に係る高炉炉底温度計設置方法によって設置した高炉炉底温度計の設置状況(設置直後の状況)を示す側面視縦断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1・・・温度測定部
2・・・金属シース部
3・・・補償導線
4・・・スタンプ材
5・・・高炉炉底煉瓦
6・・・開口部
7・・・高炉鉄皮
8・・・コンプレッションフィッティング
9・・・高炉炉底温度計
10・・・外套
12・・・不定形耐火物
14・・・温度計固定具
15・・・溶接部
16・・・凹凸部
17・・・エクスパンション(伸縮継手)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を金属シース部で被覆した高炉の炉底温度を測定するための高炉炉底温度計を高炉炉底の側壁から内部に向けて形成した開口部に挿入し、前記高炉炉底温度計先端の温度測定部を高炉炉底側壁の煉瓦面に密着させると共に、前記開口部内に不定形耐火物を充填する高炉炉底温度計の設置方法であって、
前記金属シース部の温度測定部以外の部位を前記不定形耐火物に固定することを特徴とする高炉炉底温度計設置方法。
【請求項2】
前記金属シース部を前記不定形耐火物に固定するため、前記高炉炉底温度計の長手方向に略直交する方向に延出する温度計固定具を前記金属シース部の温度測定部以外の部位に取り付けることを特徴とする請求項1に記載の高炉炉底温度計設置方法。
【請求項3】
前記金属シース部を前記不定形耐火物に固定するため、前記金属シース部の温度測定部以外の部位表面に凹凸部を設けることを特徴とする請求項1に記載の高炉炉底温度計設置方法。
【請求項4】
高炉炉底に設けられた高炉鉄皮に連結され高炉内ガスが外部へ漏洩するのを防止するように前記高炉炉底温度計を高炉外で支持する炉外支持部と前記高炉鉄皮との間に、前記高炉鉄皮の前記煉瓦面の外方への位置変動を吸収する緩衝機構を設けることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高炉炉底温度計設置方法。
【請求項5】
前記不定形耐火物の圧縮強度を9.8×10Pa以上、熱伝導率を2.33W/(m・℃)以上とすることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高炉炉底温度計設置方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−176828(P2006−176828A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371013(P2004−371013)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】