説明

高炭素対酸素比の官能化グラフェンシート

少なくとも略23:1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシート及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立科学財団(National Science Foundation)によるグラント第CMS−0609049号、及びNASAによるグラント第NCC1−02037号による米国政府の援助でなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、低酸素含有量の官能化グラフェンシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
熱剥離グラファイト酸化物(TEGO,thermally exfoliated graphite oxide)(官能化グラフェンシートとしても知られている)は、本願に参照として組み込まれる特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3に開示されている。グラファイト酸化物は、酸化剤及びインターカラント又は他の酸化手段でグラファイトを処理することによって形成され、酸素含有量が高い。グラファイト酸化物の熱剥離中に、グラファイト酸化物の酸素官能化サイトが分解して、系から解放される酸素含有ガスを放出することによって、典型的には、開始グラファイト酸化物よりもモル基準で酸素含有量の低い熱剥離グラファイト酸化物が得られる。上述の参考文献には、略1.5:1から20:1の間の炭素対酸素モル比を有するグラファイト酸化物の形成について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0092432号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.C.Schniepp外、J.Phys.Chem.B、2006年、第110巻、p.8535−8539
【非特許文献2】M.J.McAllister外、Chem.Materials、2007年、第19巻、p.4396−4404
【非特許文献3】N.K.Kudin外、Nano Letters、2008年、第8巻、p.36−41
【非特許文献4】L.Staudenmaier、Ber.Stsch.Chem.Ges.、1898年、第31巻、p.1481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多くの応用において、より高い炭素対酸素比を有する官能化グラフェンシート(FGS,functionalized graphene sheet)を得ることが望まれる。例えば、酸素官能基の量は、補強充填材として使用される際のポリマーマトリクスと共にFGSの反応性に影響を与え、及び/又は、FGS界面での吸着層の性質に影響を与え得る;酸素の存在は特定の応用において有害であり得て;FGS上の酸素含有官能基の存在はパイ共役系を乱し、物質の導電性を低下させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願では、少なくとも略23対1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシートが開示及び請求される。更に、本願では、少なくとも略23対1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシートを備えたポリマー複合材又は樹脂、及び、該官能化グラフェンシートの製造方法が開示及び請求される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の官能化グラフェンシートを製造する際の使用に適した装置の概略的な断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願では、“炭素対酸素比”との用語は、FGS中の炭素対酸素のモル比を称する。炭素対酸素比は、元素分析によって決定され、結果の重量比がモル比に換算される。
【0010】
本発明のFGS(本願において、“高炭素対酸素比官能化グラフェンシート”(high carbon to oxygen ratio functionalized graphene sheet)又は“FGS−HCO”と称される)は、少なくとも略23:1、好ましくは少なくとも略25:1の炭素対酸素比を有する。本発明の一部実施形態では、炭素対酸素比は、少なくとも略28:1、少なくとも略35:1、少なくとも略50:1、少なくとも略75:1、少なくとも略100:1、少なくとも略200:1、少なくとも略300:1、少なくとも略400:1、少なくとも500:1、少なくとも略750:1、少なくとも略1000:1、少なくとも略1500:1、又は、少なくとも略2000:1である。
【0011】
本発明のFGS−HCOは、低炭素対酸素比(例えば20:1よりも大きくない比)のFGS及び/又はグラファイト酸化物を、少なくとも略750℃の温度で、還元雰囲気条件下で(例えば、不活性ガス又は水素でパージされた系で)、開始物質が反応してFGS−HCOが得られるのに十分な時間にわたって、加熱することによって、形成される。加熱プロセスは、ここでは“還元”と称される。使用される温度は、好ましくは少なくとも略850℃、より好ましくは少なくとも略950℃、更に好ましくは少なくとも略1000℃である。使用される温度は、好ましくは略750から略3000℃の間、より好ましくは略850から2500℃の間、更に好ましくは略950から略2500℃の間である。加熱時間は、好ましくは少なくとも略2分間、より好ましくは少なくとも略5分間である。一部実施形態では、加熱時間は、少なくとも略15分間、略30分間、略45分間、略60分間、略90分間、略120分間、又は、略150分間である。加熱過程において、温度は上述の範囲内で変化し得る。
【0012】
加熱は、多様な条件下で行われ得て、不活性雰囲気(アルゴンや窒素等)下、水素(アルゴンや窒素等の不活性ガスで希釈された水素を含む)等の還元雰囲気下、真空下が挙げられる。加熱は、適切なベッセル(溶融シリカベッセル、ミネラルベッセル、セラミックベッセル、金属ベッセル等)内で行われ得る。加熱されている物質(開始物質(つまり、グラファイト酸化物及び/又はFGS−HCO)、生成物、中間体を含む)は、単一バッチ反応ベッセル中の本質的に一定の位置に収容され、又は、連続又はバッチ反応における反応中に一つ以上のベッセルを介して輸送され得る。加熱は、適切な手段を用いて行われ得て、炉や赤外線ヒータの使用が挙げられる。本発明において使用可能な装置の例が図1に示されていて、実施例のセクションで詳述する。この装置又は同様の装置を本発明の多くの実施形態において使用することができるが、実施例で説明されるのと同じ寸法を有する必要はない。同一の構造や形状を有する必要もない。
【0013】
グラファイト酸化物は、当該分野で知られている方法によって製造することができ、一種以上の化学的酸化剤、及び、任意での硫酸等のインターカレーション剤を使用したグラファイトの酸化が含まれる。酸化剤の例として、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、過塩素酸塩、過酸化水素、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、五酸化リン、亜硫酸水素塩等が挙げられる。好ましい酸化剤として、KClO; HNO及びKClO; KMnO及び/又はNaMnO; KMnO及びNaNO; K及びP及びKMnO; KMnO及びHNO; HNOが挙げられる。好ましいインターカレーション剤として硫酸が挙げられる。グラファイトは、インターカレーション剤で処理されて、電気化学的に酸化されることもある。
【0014】
好ましい方法では、グラファイトは、グラファイト酸化物に酸化されて、次に、熱的に剥離されて、特許文献1に記載されているような熱剥離グラファイト酸化物の形状の高表面積FGSを形成する。このようにして形成されたFGSは、そのX線又は電子回折パターンにグラファイト又はグラファイト酸化物に対応する特徴をほとんど又は全く示さないものであり得る。好ましくは、グラファイト酸化物の剥離を含む剥離は、少なくとも500℃以上の温度、好ましくは500℃から3000℃の温度で行われる。
【0015】
本発明のFGS−HCOは、好ましくは略250から略2630m/gの表面積を有する。本発明の一部実施形態では、FGS−HCOは、完全に剥離した単一のグラファイトシート(“グラフェン”と称されることが多い)を主に、ほとんど完全に、又は、完全に備える一方、他の実施形態では、部分的に剥離したグラファイトシートを備え得て、二層以上のグラフェンシートが互いに剥離していない。FGS−HCOは、完全に剥離したグラファイトシート及び部分的に剥離したグラファイトシートの混合物を備え得る。
【0016】
表面積は、より好ましくは略300から略2630m/gまで、更に好ましくは略350から略2400m/gまで、更に好ましくは略400から略2400m/gまで、更に好ましくは略500から略2400m/gまで、更に好ましくは略800から略2400m/gまでである。他の好ましい実施形態では、表面積は略300から略1100m/gまでである。単一のグラファイトシートは、2630m/gの最大表面積の計算値を有する。表面積は、上記の値間の全ての値を含み、特に、400、500、600、700、800、900、100、110、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2630m/gが挙げられる。
【0017】
表面積は、窒素吸着/BET法、又は、好ましくはメチレンブルー(MB,methylene blue)色素法を用いて、測定可能である。
【0018】
色素法は、以下のようにして行われる: 既知の量のFGSをフラスコに加える。次に、1グラム当たりのFGSに対して、少なくとも1.5gのMBをフラスコに加える。エタノールをフラスコに加えて、その混合物を略十五分間超音波処理する。次に、エタノールを蒸発させて、既知の量の水をフラスコに加えて、フリーMBを再溶解させる。非溶解物質を、好ましくはサンプルを遠心分離することによって、沈殿させる。溶液中のMB濃度を、標準濃度のものに対して相対的なλmax=298nmでの吸収を測定することによって、UV・可視分光光度法を用いて、決定する。
【0019】
最初に加えたMBの量と、UV・可視分光光度法によって決定されるような溶液中に存在する量との差を、FGSの表面上に吸着したMBの量であるとする。そして、FGSの表面積を、1mg当たりの吸着したMBが覆う表面の2.54mという値を用いて計算する。
【0020】
FGS−HCOは、好ましくは略40から略0.1kg/mまでのかさ密度を有する。かさ密度は、上記の値間の全ての値を含み、特に、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35kg/mが挙げられる。
【0021】
本発明のFGS−HCOは、多様な応用において使用可能である。FGS−HCOは、単独で(シート、フィルム、成形品等の形状で)、他の成分との組み合わせで(混合等で)、固体で、懸濁液等で使用可能である。例えば、バインダと組み合わせて使用して、コーティング(インク、ペンキを含む)やフィルムを形成し、又は、一種以上のポリマー材料と組み合わせて使用して、複合材又は樹脂を形成し得る。組み合わせは、コーティング、印刷物、フィルム、シート、成形品、押出品(射出成形、ブロー成形、圧縮成形、ラム押出等の方法から形成されたものを含む)の形状であり得る。FGS−HCOは、適切な手段を用いて複合材又は樹脂に取り込まれ得え、適切な手段として、ポリマーとの混合(溶融混合等によって)、硬化前の熱硬化モノマーとの混合、後で重合されるモノマーとの混合が挙げられるが、これらに限定されるものではない。複合材又は樹脂は、任意で追加成分を含み得る。
【0022】
ポリマー材料は、熱硬化性材料、熱可塑性材料、非融解処理可能ポリマー等であり得る。ポリマーの例として、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS,acrylonitrile/butadiene/styrene)、ポリカーボネート(PC,polycarbonate)、ポリアミド(ポリテレフタルアミド、ポリエステル(ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT,poly(butylene terephthalate))、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET,poly(ethylene terephthalate))等を含む)を含む)、ポリ(酸化フェニレン)(PPO,poly(phenylene oxide)、ポリスルホン(PSU,polysulphone)、ポリエーテルケトン(PEK,polyetherketone)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK,polyetheretherketone)、ポリイミド、ポリオキシメチレン(POM,polyoxymethylene)、ポリ(乳酸)、ポリ(アクリロニトリル)、スチレン/アクリロニトリルポリマー(SAN,styrene/acrylonitrile polymer)、ポリエーテルイミド、ポリスチレン(高衝撃ポリスチレンを含む)、液晶ポリマー(LCP,liquid crystalline polymer)、アラミド(ケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)等)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE,polytetrafluoroethylene)、フッ化エチレンプロピレンポリマー(FEP,fluorinated ethylene propylene polymer)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィンコポリマー等)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)、他のアクリレートポリマー、ポリシロキサン(ポリジメチレンシロキサンを含む)、エラストマー(ポリウレタン、コポリエーテルエステル、ゴム(ブチルゴムを含む)、スチレン/ブタジエンコポリマー、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリシロキサンを含むが、これらに限定されるものではない)、エポキシポリマー、ポリウレア、アルキド、セルロースポリマー、ポリエーテル(ポリ(酸化エチレン)、ポリ(酸化プロピレン)等)等が挙げられる。
【0023】
本発明の一実施形態では、FGS−HCOを他の物質と混合して使用する場合、複合材料は導電性であり、好ましくは少なくとも略10−6S/mの導電率を有する。本発明の一実施形態では、複合材料が半導体であることが望まれる場合、複合材料は、好ましくは略10−6S/mから略10S/mまでの導電率を有し、より好ましくは略10−5S/mから略10S/mまでの導電率を有する。本発明の他の実施形態では、コーティングは、少なくとも略100S/m、少なくとも略1000S/m、少なくとも略10S/m、少なくとも略10S/m、又は、少なくとも略10S/mの導電率を有する。FGS−HCOがバインダ又はポリマーと混合される物質の場合(混合物が液体状の場合を含む)、混合物が乾燥し、硬化し、架橋し、又は他の処理がされた後で、導電率が求められ得る。
【0024】
一部実施形態では、本発明の官能化グラフェンシートは、純粋な形において、及び/又は、他の物質との混合又は複合において、低炭素対酸素比(20:1以下の比を含む)の同様の物質よりも、改善された導電率を有する。
【0025】
[実施例]
[グラファイト酸化物の作製]
非特許文献4、非特許文献1(及びそのサポート情報)及び非特許文献2に開示されている方法に従って、硫酸、硝酸、塩素酸カリウムでの処理によって、グラファイトから、グラファイト酸化物を作製する。
【0026】
[複合材の導電率測定]
4000000の分子量を有する十分な量のポリ(酸化エチレン)(PEO,poly(ethylene oxide))を、エタノール及び脱イオン水の1:1(体積/体積)混合物と混合して、全溶媒の1mL当たりに対して40mgのPEOを含有する混合物を作ることによって、PEO溶液を作製する。一晩撹拌した後、均一なPEO貯蔵液が得られる。表1及び表2の実施例及び比較例では、PEOを、ユニオンカーバイド社から入手したが、表3の実施例及び比較例では、PEOをアルドリッチケミカル社から入手した。
【0027】
表1〜表3の還元サンプルの重さを量り、十分な量の濃縮された水性プルロニック(登録商標)F127(BASF製の酸化エチレン/酸化プロピレンコポリマー界面活性剤)溶液(典型的には2mg/mL)をFGSに加えて、還元物質及びプルロニックF127の1:1の重量比の混合物を得る。十分な脱イオン水を加えて、水1ml当たり1mgのFGSを含む懸濁液を生成する。結果物の懸濁液を、氷浴内で20パーセントのデューティサイクルで5分間、超音波処理する。次に、1mLの還元物質懸濁液を3mLのPEO貯蔵液に加えて、その混合物を均一になるまで3〜5分間撹拌する。
【0028】
二枚の銅プレート(22mm×22mm)をテフロン(登録商標)テープで包むが、下端の1mmの銅を覆わないようにする。次に、プレートを、テフロン(登録商標)セル(23mm×46mmの内側面積、32mmの高さ)の側壁の短い方に、ネジでしっかりと取り付ける。混合物をテフロン(登録商標)セルに注ぎ、溶媒が全て蒸発して銅プレートに取り付いたフィルムを形成するまで、ホットプレートで50℃に保つ。結果物のフィルムは、FGS、プルロニック(登録商標)F127及びPEOの全重量に基づいて、6.52重量パーセントのFGS、6.52重量パーセントのプルロニック(登録商標)F127及び86.96重量パーセントのPEOを含む。フィルムは、プレートを持ち上げることによって、セルから剥がし、矩形に切断して、不均一な(多孔性又は薄い)領域を除く。最終的なフィルムの長さ、幅、厚さはそれぞれ、略10〜32mm、略7〜22mm、略6〜39μmの範囲内である。
【0029】
銅テープは、フィルムの二つの端部で互いに平行に取り付けられて、フィルムの全幅を覆うようにする。電源(オレゴン州ビーバートンのテクトロニクス社のテクトロニクスPS252G・プログラマブル・パワー・サプライ)及びマルチメータ(ワシントン州エバレットのフルーク社のフルーク27マルチメータ)を、銅テープを介してフィルムに直列に取り付ける。電位差(5〜20V)を与えて、マルチメータで電流をモニタリングする。二つの電極を備えた電位計(オハイオ州クリーブランドのケースレーインスツルメンツ社のケースレー6514)を用いて、電流の方向に沿った二点間の電位差を測定する。フィルム上で測定される電位差及び電流を用いて、オームの法則(つまりR=V/I、ここで、R、V、Iはそれぞれ、抵抗、電圧、電流)から、抵抗を求める。抵抗率(σ)は、σ=RA/Lによって求められ、ここでA、Lは、電流が流れるフィルムの断面積、電位差が測定される長さである。導電率(κ)はκ=1/σによって求められる。二回の測定をフィルムの異なる点で行って、その線形平均を導電率とする。
【0030】
実施例5及び実施例11以外の各場合では、二回の測定を行って、その結果を平均化して表1〜表3に示している。実施例3及び実施例9の場合では、一回の測定を行って、その結果を表に示している。
【0031】
[他の分析法]
C:O比は、元素分析の結果から決定されるモル比である。表面積測定は、窒素吸着法と共にBET法を用いて行われる。
【0032】
[還元法A:実施例1〜実施例15及び比較例1〜比較例3]
本方法では、最大2ステップが用いられる。ステップ1では、FGSをアルミナボートに置いて、内径25mm、長さ1.3mで一端が密封されたシリカチューブ内に挿入した。シリカチューブの他端をゴムストッパを用いて閉じる。ガスインレット及びサーモカップルをゴムストッパを介して挿入して、サンプルに、95:5のモル比の窒素/水素ガス混合物を10分間流して、次に、そのチューブを、表1〜表3に示される温度に予熱されたチューブ炉に挿入して、表に示される期間保持する。
【0033】
ステップ2では、物質(FGS又はステップ1の生成物)を、100mTorrのアルゴンガス雰囲気下で、表2及び表3に示される時間及び温度で、グラファイト炉(サーマル・テクノロジー社製のアストロ‐1000)内に置く(表1の実験の場合では、ステップ2は行われない)。物質は、20℃/分の割合で所望の温度に加熱されて、表に示される時間にわたってその温度で保たれる。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
[還元法B:実施例13〜実施例25及び比較例2〜比較例8]
図1に概略的な断面形状が示される装置を用いて、グラファイト酸化物(GO)を剥離する(表4の“剥離”プロセスと称される実験において)。シリカチューブ10を、略1040℃に保持されている垂直赤外線炉12で包む。チューブは、略35mmの外径を有し、炉の上方から、チューブが炉に入るポイント16まで、略50cm延伸している。チューブ10の略50cmが炉に包まれている。チューブ10は、チューブが炉から出て行くポイント18から、略45cm以上延伸する。チューブ10は、ポイント18の上方略15cmに配置されたガラスフリット14と、外径略10mmの開いたシリカ内部チューブ20とを含み、シリカ内部チューブ20は、チューブ10の中間部分を通って、フリットの略8.5cm上方まで延伸する。チューブ20の上部は、インレット26を形成するチューブ10の壁を貫通する。チューブ10の底の開口部28は、ガスインレット、ガスアウトレット又は真空ポート(図示せず)に接続されて、上部アウトレット30は、フィルタ22に接続されて、そのフィルタ22はポンプ24に接続される、開口部26、28及び30は、装置の外側の環境から開口部を隔離するのに使用可能な弁(図示せず)に接続される。
【0038】
グラファイト酸化物は、アルゴン流によってインレット26を通ってチューブ10内に連続的に運ばれて、そこで反応し、結果物の剥離品は、アウトレット30を通ってフィルタ22によって収集される。開口部28を用いて、系にアルゴンを導入したり、系を真空にひくこともできる。
【0039】
還元実験(表4の“還元”プロセスと称される)は二通りで行われる。予め作製されたFGSを、剥離に用いたのと同様の連続的な方法で再びチューブに通すことができるが、キャリアガスとしてアルゴン中に4モルパーセントの水素を用いる。代わりに、グラファイト酸化物又はFGSを、インレット26を介してチューブ10内に導入して、
アウトレット30から出させずに一定期間(表4の“保持時間”との見出しの下に示されている)保持する一方、チューブ10に、アルゴンガス中の4モルパーセントの水素の混合物を連続的に流す。水素/アルゴン混合物は、インレット26を介して導入され、場合によっては、開口部28を介して導入される。各実施例又は比較例に対して、各開口部を通るガス流量を表4に示す。実施例19では、開口部28を介して系を真空にひき、水素アルゴン混合物を、表4に示される流量で開口部26及び30を介して導入した。結果物の炭素対酸素比は、元素分析によって決定する。
【0040】
使用されるGO開始物質は、複数のバッチからのものであり、表4に示されている。実施例20〜実施例22では、開始物質は、比較例5で作製したFGSであり、実施例24では、開始物質は、比較例7で作製したFGSであり、実施例25では、開始物質は、比較例8で作製したFGSである。
【0041】
【表4】

【符号の説明】
【0042】
10 シリカチューブ
12 垂直赤外線炉
14 ガラスフリット
20 シリカ内部チューブ
22 フィルタ
24 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも略23:1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシート。
【請求項2】
炭素対酸素モル比が少なくとも略28:1である、請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項3】
炭素対酸素モル比が少なくとも略50:1である、請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項4】
炭素対酸素モル比が少なくとも略75:1である、請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項5】
略300から略2630m/gの間の表面積を有する請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項6】
略350から略2400m/gの間の表面積を有する請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項7】
略400から略2400m/gの間の表面積を有する請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項8】
略500から略2400m/gの間の表面積を有する請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項9】
略800から略2400m/gの間の表面積を有する請求項1に記載の官能化グラフェンシート。
【請求項10】
請求項1に記載の官能化グラフェンシート及び少なくとも一種のポリマーを備えたポリマー複合材又は樹脂。
【請求項11】
前記ポリマーが、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリテレフタルアミド、ポリエステル、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(酸化フェニレン)(PPO)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ(乳酸)、ポリ(アクリロニトリル)、スチレン/アクリロニトリルポリマー(SAN)、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、アラミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレンプロピレンポリマー(FEP)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(酢酸ビニル)、アクリレートポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリシロキサン、ポリジメチレンシロキサン、エラストマー、コポリエーテルエステル、ゴム、ブチルゴム、スチレン/ブタジエンコポリマー、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリシロキサン、エポキシポリマー、ポリウレア、アルキド、セルロースポリマー、ポリエーテルのうち一つ以上である、請求項10に記載の複合材又は樹脂。
【請求項12】
少なくとも略10−6S/mの導電率を有する請求項10に記載の複合材。
【請求項13】
少なくとも略100S/mの導電率を有する請求項10に記載の複合材。
【請求項14】
少なくとも略10S/mの導電率を有する請求項10に記載の複合材。
【請求項15】
少なくとも略23:1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシートを製造する方法であって、略23:1未満の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシート及び/又はグラファイト酸化物を、少なくとも略750℃の温度で、少なくとも略23:1の炭素対酸素モル比を有する官能化グラフェンシートを生成するのに十分な加熱時間にわたって加熱する段階を備えた方法。
【請求項16】
前記温度が少なくとも略850℃であり、前記加熱時間が少なくとも略2分間である、請求項16に記載の方法。
【請求項17】
前記温度が少なくとも略950℃であり、前記加熱時間が少なくとも略2分間である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記加熱時間が少なくとも15分間である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
加熱が不活性雰囲気下で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
加熱が還元雰囲気下で行われる、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−510906(P2011−510906A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545949(P2010−545949)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/032947
【国際公開番号】WO2009/134492
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【Fターム(参考)】