説明

高画質な撮影画像データおよびその作製方法並びにその印刷物

高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した画像によるコンピュータなどの高解像能力を備えたモニター上に表示可能な1つのデジタル画像データであって、モニター上に全体表示した状態でのすべての箇所でピントが合っていると共に該画像データの任意箇所を適宜に選択すると当該箇所のピントが合い且つ精密な等倍及び拡大表示が可能である高画質な撮影画像データとこれを得るための精密な撮影準備段階に配慮した撮影方法およびその印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、高解像度レンズを備えた撮影装置(フィルム式カメラやデジタルカメラなど)で撮影する被写体の画像データをすべての箇所においてピントが合いしかも等倍表示や拡大表示を行っても高解像度データとして元の被写体を再現することができる新規な高画質撮影画像データ及びその作製方法並びにその印刷物を提供するものである。
【背景技術】
光学式カメラやデジタルカメラなどの撮影装置で被写体についての細部までの詳細な画像データを得ようとする場合には望遠レンズのような高解像度レンズを用いて所定範囲に焦点(ピント)を合わせた撮影手段が採用される。
一方、焦点を合わせた状態ではカバーしきれないサイズの大きな被写体全体を撮影する場合には広い範囲をカバーする広角度レンズを用いて特定範囲に焦点を合わせず全範囲が一様に把握できるようにして撮影が行われる。
したがって、被写体全体の様子と細部の詳細な様子の双方が必要となる学術的・文化的価値の高い物品や美術品などについては、全体と細部に分けた撮影画像データを作製して提供するしか手段がなかった。
【発明の開示】
しかし、上記したような従来の技術では、細部における詳細性と全体における見通し性に優れた一つの画像データを得ることは不可能であった。
すなわち、例えば、文化的・学術的に価値の高い日本古来の絵図類や絵巻物、屏風絵などを研究しようと思っても、オリジナルな物に容易に触れ得ない場合には、従来技術では全体と部分を分けた複数の画像データとしてしか入手できず、全体構成を細部まで把握しながら同時に研究するなどといったことが困難である。
特に予め与えられた部分的な詳細画像データでは、研究者が望む部分を必ず入手できる保証はない。このような事情は美術的観点から絵図類や絵巻物、屏風絵その他の形態の絵画などのコレクションを望む者にとっても同様である。
また、印刷技術や印刷装置の性能向上によって、一辺が2m以上にもなるような大型サイズのものであっても場合によっては一枚の印刷物として印刷可能なものとなっているが、従来技術では被写体のすべての細部まで詳細に再現しながら全体を一つの画像データとして処理することはできないので、印刷技術的には可能であっても原寸大の絵図類や絵巻き物、屏風絵の如きを細部まで再現されたものとして提供することができていない。つまり、現在の印刷技術的には絵図類や絵巻き物、屏風絵のような2次元的表現物を原寸大でそれらの製作時における詳細性を保存したものとして紙や布、木の板やガラス板などの媒体に対して実際に印刷することが可能なのであるが、そのような印刷を実行するための継ぎ目無く1つに統合された精密な画像データが存在していなかったのである。更に、従来技術では詳細な画像データとして予め撮影された一定箇所のものについては入手できるとしても、全体に対しての任意部分の原寸大表示といったものを自由に入手することは到底不可能である。
なお、著名な写真家などに文化的価値の高い絵図類や絵巻物、屏風絵などの保存資料的な撮影作業を依頼することがあるが、この場合にはピントや露出、撮影角度や照明の当て方などにおいて何等かの意味で写真家の創造性が発揮されてしまい、写真芸術の著作物としては優れていても被写体現物の画像データとしての資料再現性としては満足いくものができないのが通常である。
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記したような従来技術における課題を解消することについて、実験と検討を繰り返し行い創案されたものであって、望遠レンズのような高解像度レンズではピントの合ったものとして捕らえ得ない相当な大きさを有する被写体全体を一つの画像データでありながらそのあらゆる部分についてピントが合っており、また任意箇所の原寸大やそれ以上の拡大表示も可能なものとして提供し、また、その画像データの作製方法並びにその印刷物を確立したものであって、具体的には以下のとおりである。
(1) 高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した画像によるコンピュータなどの高解像能力を備えたモニター上に表示可能な1つのデジタル画像データであって、モニター上に全体表示した状態でのすべての箇所でピントが合っていると共に該画像データの任意箇所を適宜に選択すると当該箇所のピントが合い且つ精密な等倍及び拡大表示が可能であることを特徴とする高画質な撮影画像データ。
(2)高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した複数の画像を組合せて被写体全体を1つのデジタル画像データとして正確且つ詳細に再現するものであって、該複数の画像をデジタル画像データとして組合せ処理する際に境界部分のピクセルレベルでの統合処理以外の画像修正処理を可能な限り施さないことで上記撮影時の正確性及び詳細性が維持されており、したがって組合せ統合処理後のデジタル画像データが被写体の画像記録データとしての忠実な複製資料的再現性に優れたものとされていることを特徴とする前記(1)項に記載の高画質な撮影画像データ。
(3)平面的な被写体に対する撮影準備段階として、精密に平坦化された撮影用ボードと高解像度レンズを備えた撮影装置との距離を所定のものとして固定し、撮影用ボードに記した規準中心ポイントと撮影用ボードに対して正対するように設置された撮影装置のレンズの中心から撮影用ボードに向けた垂線の撮影用ボードに対する交点とを調整手段によって厳密に一致させ、規準中心ポイントを中心として撮影用ボード上に表わされる規準枠線と撮影装置に取付たピントガラス上の方眼目盛りとをピントが合った状態で所定の撮影範囲がカバーされるように重ね合わせ調整し、撮影用ボードに対する光の照射条件を均一固定化することで全体としての撮影条件を固定し、
撮影実行段階として、平面的な被写体の所望箇所についてピントが合い正確且つ詳細に順次撮影できるように撮影用ボード上に被写体を位置決めしてセッティングし、撮影装置との距離を固定しながら両者の相対的位置関係を移動させて複数に分割した平面的な被写体の各分割部分を境界部分において若干の重複撮影部分を持たせながら順次に撮影し複数の分割画像データとなし、
コンピュータを利用した各分割画像データの組合せ統合処理段階として、該分割画像データをコンピュータに取り込んでデジタルな分割画像データとし、隣接する該デジタルな分割画像データ同士を結合して元の平面的な被写体全体についての一つのデジタル画像データを作成するに際して、ブレや重複表示部分、欠落部分が生じないように隣接するデジタル画像同士の上記重複撮影部分をピクセルレベルで統合処理し、しかも、それ以外の画像修正処理を可能な限り施さないものとすることで組合せ統合処理後のデジタル画像データが撮影実行段階における正確性及び詳細性を維持し、被写体全体についての画像記録データとしての忠実な複製資料的な再現性に優れ、モニター上における全体表示は勿論任意箇所の部分的な等倍・拡大表示も可能なものとされていることを特徴とする高画質な撮影画像データの作製方法。
(4) 上記(3)項に記載の高画質な撮影画像データの作製方法により作製された撮影画像データの全体または所望箇所を、詳細性や正確性を維持しながら複製再現資料的に優れたものとして所望サイズで印刷していることを特徴とする印刷物。
【図面の簡単な説明】
第1図は、「坤輿萬国全図」について本発明の画像データ作製方法によりデジタル画像データ化し、コンピュータモニター上に全体表示した場合の様子を示す模式図である。
第2図は、第1図の「坤輿萬国全図」に関する画像データの一部分を原寸大の等倍表示した場合のモニター上の表示状況を示す説明図である。
第3図は、本発明の画像作製方法を実施するための撮影準備段階における撮影用ボードと撮影装置のセッティング状態を簡略して説明する図面である。
第4図は、本発明の画像作製方法を実施するための撮影準備段階で被写体と撮影装置との間の精密な位置決め作業のために使用する規準枠線とピントガラスの1例を示す図面である。
上記した各図面において、1は、本発明の全体表示状態の画像データ、2は、撮影装置(カメラ)、3は、等倍表示部分、4は、撮影用ボード(床面)、5は、高解像度レンズ、6は、規準中心ポイント、7は、錘、8は、糸、9は、規準枠線、10は、ピントガラス、11は、仮想分割線、12は、分割画像、である。
作用
▲1▼ 高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した画像によるコンピュータなどの高解像能力を備えたモニター上に表示可能な1つのデジタル画像データであって、モニター上に全体表示した状態でのすべての箇所でピントが合っていると共に該画像データの任意箇所を適宜に選択すると当該箇所のピントが合い且つ精密な等倍及び拡大表示が可能であることで、日本古来の絵巻物や屏風絵、絵図類のように少なくとも一辺が1.5m以上、多くの場合には5mを超えるような大きなサイズの被写体であっても、そのすべての部分において詳細性や正確性を再現しながらコンピュータモニターの如きに表示することができ、しかもすべての部分について等倍(原寸大)表示や適宜な拡大表示が可能であるから、詳細性や正確性を維持しながらの所望箇所の所望サイズでの部分印刷や全体の等倍印刷などが自由に行える。
▲2▼ 高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した複数の画像を組合せて被写体全体を1つのデジタル画像データとして正確且つ詳細に再現するものであって、該複数の画像をデジタル画像データとして組合せ処理する際に境界部分のピクセルレベルでの統合処理以外の画像修正処理を可能な限り施さないことで上記撮影時の正確性及び詳細性が維持されており、したがって組合せ統合処理後のデジタル画像データが被写体の画像記録データとしての忠実な資料再現性に優れたものとされているので、使用する撮影装置での最高レベルの再現性をすべての箇所において実現しながら、画像接合箇所を認識することが事実上不可能な滑らかな統合処理が施されることで一つの画像データでありながら全体としてもあらゆる箇所で被写体の複製資料的再現性に優れたものとなし得る。
▲3▼ 平面的な被写体に対する撮影準備段階として、精密に平坦化された撮影用ボードと高解像度レンズを備えた撮影装置との距離を所定のものとして固定し、撮影用ボードに記した規準中心ポイントと撮影用ボードに対して正対するように設置された撮影装置のレンズの中心から撮影用ボードに向けた垂線の撮影用ボードに対する交点とを調整手段によって厳密に一致させ、規準中心ポイントを中心として撮影用ボード上に表わされる規準枠線と撮影装置に取付たピントガラス上の方眼目盛りとをピントが合った状態で所定の撮影範囲がカバーされるように重ね合わせ調整し、撮影用ボードに対する光の照射条件を均一固定化することで全体としての撮影条件を固定したことで、被写体と撮影装置との関係を明確な基準によって正対するように固定し、しかもレンズや撮影装置の微妙な歪みやズレを客観的な基準ポイントや基準ラインによって補正するので、被写体自身の歪みなどに起因する画像データ上の不正確性を基準に基づいて補正し資料価値性を損なうことがないものとなし得る。また、すべての撮影条件を固定して分割画像を撮影するので、全体を同時撮影したのと同様に看做すことができ、この点からも資料価値が高いものとなし得る。
▲4▼ 撮影実行段階として、平面的な被写体の所望箇所についてピントが合い正確且つ詳細に順次撮影できるように撮影用ボード上に被写体を位置決めしてセッティングし、撮影装置との距離を固定しながら両者の相対的位置関係を移動させて複数に分割した平面的な被写体の各分割部分を境界部分において若干の重複撮影部分を持たせながら順次に撮影し複数の分割画像データとなしているので、上記のように撮影条件が固定されていることと相俟って重複撮影部分のみを組合せ統合処理することで被写体について複製的な資料価値の高い再現画像データを得ることが可能となる。
▲5▼ コンピュータを利用した各分割画像データの組合せ統合処理段階として、該分割画像データをコンピュータに取り込んでデジタルな分割画像データとし、隣接する該デジタルな分割画像データ同士を結合して元の平面的な被写体全体についての一つのデジタル画像データを作成するに際して、ブレや重複表示部分、欠落部分が生じないように隣接するデジタル画像同士の上記重複撮影部分をピクセルレベルで統合処理し、しかも、それ以外の画像修正処理を可能な限り施さないものとすることで、上記した要件とも相俟って、使用した撮影装置の最高レベルでの被写体の詳細且つ正確な複製資料的な再現性をすべての箇所において有する一つの画像データを作製することが可能となる。
▲6▼ 本発明の高画質な撮影画像データの作製方法により作製された撮影画像データの全体または所望箇所を、詳細性や正確性を維持しながら複製再現資料的に優れたものとして所望サイズで印刷物としていることで、全体としては相当な大きさとなってしまう絵巻物や屏風絵、絵図類のような2次元的表現物をその製作時における精密性を保存した状態で紙や木の板、ガラス板などを媒体とした印刷物とすることができ、高価な模写複製以上の品質で簡易且つ安価に作製し、資料的に優れたものであると同時に美術鑑賞品的にも優れたものとして製品化することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
上記した本発明の具体的な実施態様の若干例について添付図面に示すところに従って説明すると以下のとおりである。
第1図は、本発明の画像作製方法によって作成した東北大学付属図書館所蔵の1602年作成に係る「坤輿萬国全図」を被写体とした一つの画像データ1についての模式図である。原被写体はオリジナル版の写本であって東西2つに分割されているが、図示ではこの東西2枚を1枚の世界図として結合している。原被写体のサイズは左右共に縦169cm×横188cmである。原図はイタリア人のイエズス会士、マテオ・リッチ(1552〜1610)が中国でのキリスト教伝道に当って作製した世界図であり、鎖国時代の日本に舶載されたものである。
図示の状態からは到底把握できないが、原被写体には当時の世界地図と共に各国名や地名、様々な説明文が漢文表記されている。このような地図表示や文字表示は実際の本発明画像データ1では、これをコンピュータモニター上などに全体表示せしめてもその詳細性や正確性が損なわれずに保存されていることが理解できるものとなっている。なお、この画像データ1は原被写体の左右をそれぞれ4分割、都合8分割の画像として、被写体と撮影装置(光学式カメラ)2の距離が2.66m、高解像度レンズとして480mmの望遠レンズを用いて撮影したものである。
このような画像データ1の具体的な解像度を示すのが第2図である。すなわち、第1図の四角で囲った等倍表示部分3の実際の表示状況を示したもので、日本の本州周辺を記載しているものである。図示のように本州や四国の形状と国名、地方名や説明文が漢文等で詳細且つ鮮明に記載されているのが理解される。これは原被写体(「坤輿萬国全図」)の原寸大表示と同様の鮮明性を再現しており、このような正確且つ詳細な鮮明性は第1図に示された画像データ1の全体部分においても実現されているものである。
次に上記したような本発明の画像データ1の作製方法を「撮影準備段階」「撮影実行段階」「組合せ統合処理段階」に分けて説明する。
(1)撮影準備段階:
本発明ではこの撮影準備段階が非常に重要である。ここで一定の基準に従ったしっかりとした事前準備が行われることで被写体についての正確且つ鮮明な画像データ1を得ることが実現するものである。
まず、絵図類や絵巻物、屏風絵のような平面的な被写体を正確にセッティングするための精密に平坦化されている撮影用ボード4が用意される。本発明では、被写体全体について細部にわたるまでピントが合い鮮明且つ詳細な画像データ1が正確に再現される必要があり、そのためには平面的被写体をセッティングする撮影用ボード4自体が僅かな歪み等もないように精密に平坦化されている必要があるものである。
この撮影用ボード4としては、充分に水平化され精密な平坦性が確保されるように作られている撮影スタジオ等の床面を利用することができる。前記した第1図、第2図の「坤輿萬国全図」についての本発明画像データ1も床面を撮影用ボード4とし、その上方に固定した撮影装置2を真下に向け正対せしめて撮影したものである。以下は、このように床面を精密に水平化、平坦化して撮影用ボード4となした場合の手順を代表的に用いて説明する。
上記のような撮影用ボード4が準備できると次にこれに対する撮影装置(カメラ)2の位置決めを行う。第3図に示すように、所定距離をとって撮影用ボード(床面)4の上方に固定し正確に真下に向けた撮影装置2のレンズ5の中心から垂線を下ろして床面4と交わる点を規準中心ポイント6とする。床面4を用いる場合にはレンズ5の中心位置から調整手段として錘7を付けた糸8を垂下させて規準中心ポイント6を定めるのが正確且つ簡便である。他の調整手段としてレーザーポインタなどを利用しても勿論構わないが、床面4に対して正確に垂下するポイントを検出するのは意外に困難な作業である。
床面(撮影用ボード)4には第4図(a)に示されるような複数の規準枠線9が規準中心ポイント6を中心として囲むように表されている。これは一回のシャッター操作で撮影可能な被写体の領域を画するもので、被写体である絵図類や絵巻物、屏風絵をいくつに分割して撮影するか、望まれる解像度はどのくらいか、どの程度の精密さを要求するかといった条件で適宜に選択すべきものであるが、例えば、8×10インチフィルムで撮影する場合には、縦50cm×横62.5cmから縦120cm×横150cmの範囲から選択するのであれば現存する高解像度レンズ5によって充分に望ましい詳細さや正確さを持った分割画像の撮影が可能である。
この規準枠線9は撮影用ボード4に記載されているものでも良いが、規準枠線9を表示したシート状部材を別個に作製して必要に応じて撮影用ボード4上にセッティングするものとしても良い。規準中心ポイント6はこのセッティング段階でも適宜に合わせるものとすれば問題はない。すなわち、床面4にシート状部材に記載した規準枠線9を置いた上で、調整手段である糸8により垂下する錘7の位置を規準枠線9の中心に描かれている規準中心ポイント6に合わせてやれば良い。
次に、撮影用装置2に高解像度レンズ5を装着した状態での撮影用ボード(床面)4に対する被写体の撮影領域内における微妙なズレや歪みを補正する必要がある。すなわち、本発明の画像データ1に要求される正確性・詳細さ・鮮明性を撮影領域内で実現するには高解像度レンズ5を用いなければならないが、このように特定領域内で焦点(ピント)を合わせて撮影すると周辺部にはどうしても微妙なズレや歪みが生じてしまう。これを放置すれば、撮影した分割画像を結合しても正確な再現性を保つことができず、また、辻褄を合わせるような修正を施せば元の被写体を再現するものとしての複製資料性が損なわれるので、撮影準備段階でこのようなズレや歪みを排除しておく必要があるのである。
このズレや歪みを排除するための補正は、上記手順で撮影用ボード(床面)4に対して正確にセッティングされた撮影装置(カメラ)2に高解像度レンズ5を装着し更に第4図(b)に模式図的に示される方眼目盛りを付けたピントガラス10を図3のように取付け、所望の撮影領域をカバーする規準枠線9の四隅と規準中心ポイント6にピントを合わせた状態でピントガラス10越しに当該規準枠線を眺めて所定の方眼目盛りときれいに重なり合うかを観察することにより行う。
撮影装置2と撮影用ボード4との相対的な位置関係は上記手順で正確に定められているので、微妙なズレや歪みが生じていればそれはレンズ5の性質や撮影装置(カメラ)2本体などの極微細な歪みであると判断することができ、したがって、ピントが合った状態を維持しながらこれを除く適宜な補正をすることで所望撮影領域内で本発明の画像データ1に要求されるズレや歪みのない正確且つ詳細な撮影が可能となったことが保証されると判断できることになる。
なお、本発明においてピントが合った状態とは、規準枠線9で囲まれた所望の撮影領域内の四隅と規準中心ポイント6において、少なくとも新聞紙面上の文字が細部まで鮮明に読み得る状態である。第1図、第2図に示した「坤輿萬国全図」についての本発明の画像データ1を作製する際にも被写体と高解像度レンズ5を装着した撮影装置(カメラ)2の距離を2.66mに固定し、前記サイズの元被写体を8分割することで縦90cm×横112.5cmの規準枠線9内を撮影領域として上記のようなピント合わせを行って撮影している。
また、被写体の分割撮影を前提とする本発明の画像データの作製方法では、各分割画像データの撮影条件を均一化して固定するために当然に撮影用ボード(床面)4に対する照明の照射条件も厳密に一定のものとするように配慮されている。
以上説明してきたように、本発明においては絵図類や絵巻物、屏風絵といった被写体を実際に撮影する準備段階として厳密な撮影条件の設定及び固定化を行って分割画像として撮影される各画像データ12の複製資料的な正確性、詳細さ、再現性に可能な限りの高品質性を確保すべく配慮しているものである。
ところで、上記では撮影用ボード4として十分に平坦且つ水平化された床面を利用する場合を中心に説明してきたが、この撮影準備段階において重要なのは撮影用ボード4と撮影装置2とが正確に正対し、しかも規準中心ポイント6と高解像度レンズ5の中心を精密に合わせることである。したがって、レーザー光線などを利用した適宜な調整手段を採用すれば、例えば、撮影用ボード4を壁面などに垂直に立ててそれに対して精密に撮影装置2の位置決めを行うような手法でも適切に撮影準備段階とすることができる。
(2)撮影実行段階:
上記のような周到な撮影準備段階を経た上で撮影実行段階に移行する。本発明の被写体となるべき絵図類や絵巻物、屏風絵などは、少なくとも数平方メートル、通常はそれ以上の面積を有するものであり、本発明の画像データ1として要求される細部にわたっての詳細且つ鮮明で複製資料的な再現性に優れたものとして入手するのは、到底一回のシャッター操作による撮影ではできないものである。したがって、本発明画像データ1の高品質性を実現した撮影が可能なサイズに分割して撮影を実行するものである。
すなわち、第1図を例に説明すると、元被写体である「坤輿萬国全図」を必要とする高品質性を実現する撮影が可能な撮影領域を画する撮影用ボード(床面)4に表されている適宜な規準枠線9内に収めるために、仮想分割線11により示されるように8分割し、それぞれを正確な位置決め作業を経しめながら順次撮影して8個の精密な分割画像データ12となしている。
分割画像データ12の撮影は上記した撮影準備段階で精密に確定した撮影条件を損なわずに実施しなければならない。したがって、被写体と撮影装置(カメラ)2の相対的な位置関係を移動させて各分割部分を順次に撮影する際にもこの点に充分注意する必要がある。第1図の「坤輿萬国全図」を8分割する際には被写体側を移動させる手法を採ったが、撮影装置2を移動させる手法を採用することも可能である。また、各分割部分を撮影するためには、その中心や四隅を正確に使用する規準枠線9内に配置するべく慎重な位置決め作業を行っている。
また、各分割部分は隣接する分割部分に対して相互に若干の重複撮影部分を持つようにして撮影する。これは各分割画像データ12を組合せ統合して元被写体についての一つの画像データ1とする際にデータの欠落部分を生じないようにすると共に分割画像データ12、12相互の境界部分における事実上識別不可能な程度の滑らかな組合わせ統合処理を実現するために必要となるものである。この重複撮影部分は、通常は数cm程度の幅で足りるが、適宜に変更することは構わない。
撮影準備段階の精密な撮影条件を維持しながら、各分割部分に対する上記のような撮影を行うことで細部まで正確且つ詳細で元被写体の複製資料的な再現性に優れた分割画像データが得られることとなる。
(3)各分割画像データの組合せ統合処理段階:
本発明では、上記手順で得られた複数の分割画像データ12をスキャナその他の適宜な入力装置を用いてコンピュータに取り込みデジタルな画像データとなし、そこで再度結合処理することで元被写体全体についての一つの画像データ1として構成し直す。
この時、隣接する分割画像データ12同士の境界部分の重複撮影部分を重ね合わせ照合しながら結合するが、精密な撮影準備段階を経てそれを維持しながら撮影作業を行って得た各分割画像データ12相互でその境界部分の重複撮影部分にブレや歪みといった矛盾が生じることは原則として殆どない。しかし、微細な点での不一致が不可避的に生じる可能性を完全に否定することはできない。ただし、上記のように規準とされる撮影条件をその準備段階から厳密に管理して各分割画像データ12を得ているので、仮にこのような不一致が生じたとしてもその原因は容易に特定され、元被写体を正確に再現するように最適な修正処理を施すことが可能で、複製的資料としての価値を損なうことはない。
この点、従来一般に行われている画像接合では、分割画像データ自体が本発明のような厳密な撮影条件の管理の下で得られたものではなく、境界部分の不一致が当然のこととして生じている。しかも撮影条件が一定されていないので不一致の原因を特定することが困難で、辻褄合わせの画像修正処理を行なってもその根拠が不明であり、したがって、元被写体の複製的な資料価値性はまったく損なわれてしまうのが通常である。
また、従来技術の画像接合の場合には分割画像が厳密に同じ撮影条件で撮影できていないことも相俟って、境界部分の接合端部がどうしても残ってしまい、モニター上に等倍表示などした場合には接合箇所が明らかに観察し得るものとなってしまう。これに対して、本発明においては、隣接する分割画像同士の境界部分における組合せ統合処理としてピクセルレベルでの処理を行なって両者を融合してしまうので、等倍表示や数倍の拡大表示を行っても接合端部を確認することができない程度の仕上がりが可能である。撮影条件を厳密に管理することで隣接する分割画像12相互の重複撮影部分が略完全に同一のものとして得られていることにも助けられて、本発明では組合せ統合処理後の画像データ1において分割画像12相互の境界部分を確認することは事実上不可能なものとなっている。
本発明では、このような境界部分の組合せ統合処理以外のコンピュータを利用した画像修正処理を原則として施さないものとしている。すなわち、色調を合わせたり、画像のシャープさを増したり、描線を変形して連結するような修正処理は原則的には不要なものとしている。このような処理は完成画像をより美しくするなどといった効果があるとしても、元被写体の状態を正確に複製資料として再現するという観点からは行うべきものでないからである。仮に微細な補正を必要とする不具合があったとしても、厳密な撮影条件管理を行っている本発明では当該不具合の原因を容易に確定できるので、撮影した元被写体の状態を再現するに相応しい修正処理を施すことができ、複製資料としての価値が損なわれるおそれはないものとなっている。したがって、本発明の画像データ1は、あくまでも高解像度レンズ5を取り付けた撮影装置(カメラ)2が可能な限り精密に捉えた被写体のデータを保存する複製資料的価値に優れたものである。
上記してきた「撮影準備段階」、「撮影実行段階」、「各分割画像データの組合せ統合処理段階」を経ることで第1図、第2図に代表的に示される本発明独自の画像データ1が作製されるものである。このような画像データ1は通常で数Gレベルのデータ量となるが、近時普及している各種記録媒体に記録せしめるに何等不都合はなく、コンピュータ自体も従前より遥かに性能が向上しているのでモニター上への表示や印刷処理などに支障をきたすようなデータ量とはなっていない。また、ブロードバンドなどの大容量データ通信が実現しているので、インターネットなどを使用したデータ配信によっても本発明の画像データ1は充分扱えるものとなっている。さらに、本発明の画像データ1は、モニター上の表示や印刷物として原寸大の等倍表示が可能であることは勿論、数倍程度の拡大表示にも堪えるものとして作製することも可能である。
さらに、上記してきたような作製方法により実現される画像データは現在の進歩した印刷技術によれば、紙や布、木の板やガラス板などといった多様な印刷媒体に対して絵図類や絵巻き物、屏風絵といった原資料の製作時における詳細性を保存したものとして、その全体は勿論、任意の所望箇所であっても所望のサイズで印刷することが可能である。したがって、原資料と同様の媒体に印刷して複製資料的に価れた印刷物とすることは当然として、原資料の製作時には存在し得ない印刷媒体上に印刷して別個な質感の製品にするなどといったことが容易に実現できるものである。
【産業上の利用可能性】
以上説明したような本発明によるならば、従来は到底細部まで詳細にピントが合った状態で撮影画像を得ることのできなかった大きなサイズの被写体について、撮影条件を厳密に管理した分割撮影とコンピュータを利用した精密な組合わせ統合処理を行なうことで、日本古来の絵図類や絵巻物、屏風絵といった被写体について細部まで正確で鮮明且つ詳細な複製資料的価値に優れた一つの画像データをデジタル形式で得ることができ、全体や部分について所望の倍率で表示や印刷が自由に行えるものとして提供することが可能である。
特に、絵図類や絵巻物、屏風絵のオリジナル品は日本古来の和紙上に表現されているものであるが、この和紙は表面の凹凸が深く、厚みのある質感を有しており、墨や絵の具がこの厚みの中に立体的に染み込んでいるので、実物の正確な質感を再現させる写真撮影は他の国のものよりも困難を極めるものであったが、本発明によってこのような日本古来の美術工芸品を精緻に電子化することが初めて可能となった。これにより、このような日本独自の美術工芸品を電子化したコンテンツとして世界へ広く配信することの期待も高まっている。
このような精緻な電子化コンテンツを今日の進んだ印刷技術によって適当な印刷媒体に印刷すれば、模写による高価な複製画以上の品質を実現した印刷物が簡単且つ低コストに製作可能であり、また、原画とは異なる媒体に印刷することもできるので、新たな質感を持った従来にない製品などが提供可能になるものである。
また、本発明の画像統合処理が可能なレベルで精度の高い分割画像が得られるのであれば、平面的な被写体に限らず立体的な被写体についても応用が可能である。
さらに被写体全体についての詳細且つ鮮明な画像データの存在を前提とすれば、例えば、彩色された絵巻物や屏風絵について元素分析などの手法で原画作製時の色調を再現し、経年変化を経る前の瑞々しい状態を再現させるといったことも原理的には可能であり、何れにしても文化的価値の高い各種物品についてのデジタル画像としての新しい複製保存資料の形態を提案するものであって、新たな需要を喚起するものであり工業的にその価値が高い発明である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した画像によるコンピュータなどの高解像能力を備えたモニター上に表示可能な1つのデジタル画像データであって、モニター上に全体表示した状態でのすべての箇所でピントが合っていると共に該画像データの任意箇所を適宜に選択すると当該箇所のピントが合い且つ精密な等倍及び拡大表示が可能であることを特徴とする高画質な撮影画像データ。
【請求項2】
高解像度レンズを備えた撮影装置で正確且つ詳細に撮影した複数の画像を組合せて被写体全体を1つのデジタル画像データとして正確且つ詳細に再現するものであって、該複数の画像をデジタル画像データとして組合せ処理する際に境界部分のピクセルレベルでの統合処理以外の画像修正処理を可能な限り施さないことで上記撮影時の正確性及び詳細性が維持されており、したがって組合せ統合処理後のデジタル画像データが被写体の画像記録データとしての忠実な複製資料的再現性に優れたものとされていることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の高画質な撮影画像データ。
【請求項3】
平面的な被写体に対する撮影準備段階として、精密に平坦化された撮影用ボードと高解像度レンズを備えた撮影装置との距離を所定のものとして固定し、撮影用ボードに記した規準中心ポイントと撮影用ボードに対して正対するように設置された撮影装置のレンズの中心から撮影用ボードに向けた垂線の撮影用ボードに対する交点とを調整手段によって厳密に一致させ、規準中心ポイントを中心として撮影用ボード上に表わされる規準枠線と撮影装置に取付たピントガラス上の方眼目盛りとをピントが合った状態で所定の撮影範囲がカバーされるように重ね合わせ調整し、撮影用ボードに対する光の照射条件を均一固定化することで全体としての撮影条件を固定し、
撮影実行段階として、平面的な被写体の所望箇所についてピントが合い正確且つ詳細に順次撮影できるように撮影用ボード上に被写体を位置決めしてセッティングし、撮影装置との距離を固定しながら両者の相対的位置関係を移動させて複数に分割した平面的な被写体の各分割部分を境界部分において若干の重複撮影部分を持たせながら順次に撮影し複数の分割画像データとなし、
コンピュータを利用した各分割画像データの組合せ統合処理段階として、該分割画像データをコンピュータに取り込んでデジタルな分割画像データとし、隣接する該デジタルな分割画像データ同士を結合して元の平面的な被写体全体についての一つのデジタル画像データを作成するに際して、ブレや重複表示部分、欠落部分が生じないように隣接するデジタル画像同士の上記重複撮影部分をピクセルレベルで統合処理し、しかも、それ以外の画像修正処理を可能な限り施さないものとすることで組合せ統合処理後のデジタル画像データが撮影実行段階における正確性及び詳細性を維持し、被写体全体についての画像記録データとしての忠実な複製資料的な再現性に優れ、モニター上における全体表示は勿論任意箇所の部分的な等倍・拡大表示も可能なものとされていることを特徴とする高画質な撮影画像データの作製方法。
【請求項4】
特許請求の範囲第3項に記載の高画質な撮影画像データの作製方法により作製された撮影画像データの全体または所望箇所を、詳細性や正確性を維持しながら複製再現資料的に優れたものとして所望サイズで印刷していることを特徴とする印刷物。

【国際公開番号】WO2004/066208
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508083(P2005−508083)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000408
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(503029566)コンテンツ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】