説明

高純度のシリカ粒子の製造方法

本発明は、1m/gを下回る比表面積及び50ppmを下回る不純物の割合を有するシリカ粒子の製造方法に関し、この場合、この方法は、a)シリカ粉末が15〜190g/lの突き固め密度を有すること、b)この粉末を引き続き微粉砕されるスラグに圧縮し、その際、このスラグ片は210〜800g/lの突き固め密度を有していること、及びc)このスラグ片を1種又はそれ以上の反応性化合物で400〜1100℃で処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のシリカ粒子を製造する方法及びその粒子自体に関する。
【0002】
非晶質シリカからの粒子を製造するための多くの方法が知られている。適した出発材料は、ゾルゲル法により製造されたシリカ、沈降シリカ又は熱分解法シリカであってもよい。方法は、通常、シリカの凝集を含む。これは、湿式造粒によって行うことができる。湿式造粒において、ゾル及びゾルから段階的に湿分が除去された砕けやすい材料は、一定の混合又は攪拌によりコロイダルシリカ分散液から得られる。湿式造粒による製造は複雑であり、かつ、特に粒子の低いコンタミネーションにおける要求が高い場合にはコストがかかる。
【0003】
シリカの圧縮により粒子を得ることも可能である。熱分解法シリカの結合剤なしでの圧縮は困難であり、それというのも、熱分解法シリカは極めて乾燥しており、かつ毛細管作用が粒子結合をもたらすことができないためである。熱分解法シリカは、顕著な微細性、低いかさ密度、高い比表面積、極めて高い純度、ほぼ球状の一次粒子形状及び無孔を特徴とする。熱分解法シリカは、静電的観点において凝集物を複雑にする高い表面電荷をしばしば有する。
【0004】
熱分解法シリカの圧縮は、今日まで、質の高い粒子を製造するための有用な手段ではなかった。
【0005】
US 4042361は、熱分解法シリカを使用するシリカガラスの製造方法を開示している。これは水中に導入することで鋳造可能な分散液を形成し、その後に水を熱的に除去し、残留物を片の形で1150〜1500℃でか焼し、かつその後に1〜100μmの粒子サイズに粉砕し、かつガラス状にする。このようにして製造されたシリカガラスの純度は、現代の用途には不十分である。この製造方法は複雑かつ高価である。
【0006】
WO 91/13040もまた熱分解法シリカを使用してシリカガラスを製造する方法を開示している。この方法は、約5〜約55質量%の固体含量を有する熱分解法シリカの水性分散液を提供し、この水性分散液をオーブン中で約100〜約200℃の温度で乾燥させることにより、水性分散液を有孔粒子に変換し、かつ乾燥した有孔粒子を微粉砕し、引き続いてこの有孔粒子を0.2〜0.8気圧の範囲の部分水圧を有する雰囲気中で、約1200℃を下回る温度で焼結することを含む。約3〜1000μmの直径、約1m/gを下回る窒素BET表面積及び約50ppmを下回る全不純物量及び15ppmを下回る金属不純物量で、高純度のシリカガラス粒子が得られる。
【0007】
EP-A-1717202は、特別な方法により150〜800g/lの突き固め密度に圧縮された熱分解法シリカを焼結することによるシリカガラス粒子の製造方法を開示している。DE-A-I 9601415で開示されたこの方法は、水中に分散されたシリカの噴霧乾燥及び引き続いての150〜1100℃での熱処理を含む。このようにして得られた粒子は焼結することができるが、しかしながら完全に気泡不含のシリカガラスは得られない。
【0008】
EP-A-1258456は、一体成形されたガラス体を製造するための方法を開示しており、この場合、この方法は、シリコンアルコキシドを加水分解し、その後に熱分解法シリカ粉末を添加してゾルを形成し、当該ゾルを引き続いてゲルに変換し、かつ当該ゲルを乾燥させ、かつ引き続いて焼結するものである。
【0009】
EP-A-1283195は同様にゾルゲル法を開示しており、この場合、この方法はシリコンアルコキシド及び熱分解法シリカ粉末を使用する。
【0010】
DE-A-3535388は、超微細なシリカ粒子を加水分解されたアルキルシリケート溶液に添加してゾルを形成し、このゾルをゲルに変換し、かつこのゲルを焼結させる、ドープされたシリカガラスの製造方法を開示しており、この際、ドーパントは、a)加水分解されたアルキルシリケート溶液に添加するか、b)微細な粒子の形で添加するか、c)ゾルに添加するか、d)ゲルに添加するか、あるいは、e)焼結中に添加する。
【0011】
原則として、従来技術により公知のすべての方法は、アルコキシドを最初に加水分解してシリカ粉末を得、その際、ゲルに変換すべきゾルを形成し、かつゲルはその後に乾燥させ、引き続いて焼結する方法にしたがう。この方法はいくつかの段階を含み、実験質向きであって、プロセスの多様性に対して敏感であり、かつコンタミネーションを生じやすい。
【0012】
本発明の課題は、結合剤を必要としない、シリカ粒子の製造方法を提供するものである。この方法は、大量生産ならびに高い純度及び低い欠損度合いを有する製品の提供を可能にする。
【0013】
本発明は、1m/gを下回る比表面積及び50ppmを下回る不純物の割合を有するシリカ粒子の製造方法に関し、この場合、この方法は、
a)15〜190g/lの突き固め密度を有するシリカ粉末を提供し、
b)この粉末を、引き続き微粉砕されるスラグに圧縮し、その際、このスラグ片は、210〜800g/lの突き固め密度を有しており、かつ、
c)このスラグ片を、1種又はそれ以上の反応性化合物で400〜1100℃で処理することを特徴とする。
【0014】
特に好ましくはこの方法は、ドープされたシリカ粉末又は珪素混合酸化物粉末を用いて実施することができる。適したドーパント成分又は混合酸化物成分は、特に、Ag、Al、B、Ce、Cs、Er、Ga、Ge、Li、K、Na、P、Pb、Ti、Ta、Tl及びZrから成る群から選択された1種又はそれ以上の酸化物である。より好ましくは、二酸化チタン、酸化ホウ素、酸化セリウム及び酸化エルビウムでドープされたシリカ粉末を使用することができる。ドープ成分又は混合酸化物成分は、シリカ粉末粒子中及び/又はシリカ粉末粒子上に存在していてもよい。使用されたシリカ粉末は、1種又はそれ以上のドーパント成分又は混合酸化物成分を有していてもよい。
【0015】
ドーパント成分又は混合酸化物成分の濃度は、10ppmから50質量%であってもよい。ドーパント成分とは、その含量が10ppm〜3質量%である場合に呼称する。混合酸化物成分とは、その含量が3質量%を上回り、50質量%までである場合に呼称する。
【0016】
好ましくは、20質量%までの二酸化チタンを含有する珪素−チタン混合酸化物粉末を使用することができる。特に好ましくは3〜8質量%の二酸化チタンを含有する珪素−チタン混合酸化物粉末であってもよい。
【0017】
使用されたシリカ粉末は、たとえば沈降法、ゾルゲル法または熱分解法からのものであってもよい。熱分解法によるものは、熱分解法シリカ粉末と呼称され、かつ好ましいものであってもよい。
【0018】
スラグとは、出発材料のプレスによってローラー式突き固め機中で形成されたある程度帯状の中間生成物を呼称する。それらは、後続の工程で微粉砕される。スラグ又はスラグ片の特性は、工程パラメータにより左右されてもよく、これはたとえば、選択された工程の制御様式、圧縮力、2個のローラー間のギャップ幅及びプレスローラーの回転速度を適切に変更することにより確立されたプレス保持時間である。
【0019】
使用された熱分解法シリカ粉末は、5〜50nmの一次粒子の粒径及び30〜400m/gのBET表面積を有するものであってもよい。好ましくは、40〜150m/gのBET表面積を有するシリカ粉末を使用することができる。使用されたシリカ粉末の純度は、少なくとも99質量%及び好ましくは少なくとも99.9質量%である。
【0020】
使用されたシリカ粉末は、15〜190g/lを有する。好ましくは30〜150g/l及びより好ましくは90〜130g/lの突き固め密度を有するシリカ粉末を使用する。本発明において突き固め密度とは、DIN EN ISO 787-11により測定されたものである。シリカ粉末の突き固め密度は、公知の方法及び装置を用いてそれらの値になるまで圧縮することができる。例えば、US 4,325,686号、US 4,877,595号、US 3,838,785号、US 3,742,566号、US 3,762,851号、US 3,860,682号による装置が使用されうる。本発明の好ましい実施態様において、EP 0 280 851号B1又はUS 4,877,595号による圧力ベルトフィルターによって圧縮されている熱分解法シリカが使用されうる。
【0021】
15〜190g/lの突き固め密度を有するシリカ粉末を、引き続いてスラグに圧縮する。圧縮は、結合剤を添加しない機械的圧縮を意味するものと理解される。圧縮において、シリカ粉末の均一なプレスは、ほぼ均一な密度を有するスラグを得るために保証すべきである。
【0022】
スラグへの圧縮は、1個又は2個が同時にガス抜き機能を有してよい2個のローラーによって実施することができる。
【0023】
好ましくは、2個の圧縮ローラーを使用することができ、この場合、これは平滑又は型出しされていてもよい。その型出しは、1個の圧縮ローラー上のみであるか、あるいは、2個の圧縮ローラー上で存在してよい。型出しは、軸平行の起伏から成るか、あるいは、任意の配置の凹み(凹部)の任意の配列から成っていてもよい。本発明の他の実施態様において、少なくとも1個のローラーは、減圧ローラーであってよい。
【0024】
圧縮に関しての適した方法は、特に、圧縮すべき熱分解法シリカ粉末を、2個の圧縮ローラーによって圧縮するものであり、この場合、このローラーの1個はローテーションで操作可能であるように配列され、0.5kN/cm〜50kN/cmの特異的な圧力をもたらし、その際、圧縮ローラーの表面は、主に又は完全に金属及び/又は金属化合物不含の材料から成るか、あるいは、表面は極めて硬質の材料から成る。適した材料は、工業用セラミック、例えば炭化ケイ素、窒化ケイ素、被覆金属又は酸化アルミニウムである。この方法は、スラグ片及びシリカ粒子のコンタミネーションを最小限にするのに適している。
【0025】
圧縮後にスラグは微粉砕される。この目的のために、粒径を決定するふるいのその目開きを有する、ふるい式造粒装置を使用することができる。この目開きは250μm〜20mmであってもよい。
【0026】
スラグの微粉砕のために、定められたギャップを有する2個の反転ローラー又はスパイクローラーを備えた装置を使用してもよい。
【0027】
スラグ片は、シフター、ふるい又は分級機によって分級することができる。
【0028】
スラグ片は、210〜800g/lの突き固め密度を有する。このスラグ片は好ましくは300〜700μmの突き固め密度及びより好ましくは400〜600μmの突き固め密度を有する。スラグ片は一般には、微粉砕されていないスラグよりも10〜40%高い突き固め密度を有する。
【0029】
微細画分(100μmよりも小さい粒子)を除去することができる。使用されたシフターはクロスフローシフター、向流偏向シフター等である。使用された分級機はサイクロンであってもよい。分級において除去された微粉含量(100μmを下回る粒径)は、本発明による方法中で再利用することができる。
【0030】
分級されたスラグ片は引き続いて、400〜1100℃の温度で、ヒドロキシル基及びスラグ部分からの不純物を除去するのに適した1種又はそれ以上の反応性化合物を含有する雰囲気中に暴露する。これらは、好ましくは塩素、塩酸、硫黄ハロゲン化物及び/又は酸化硫黄ハロゲン化物である。より好ましくは塩素、塩酸、二塩化二硫黄又は塩化チオニルを使用することができる。
【0031】
通常、反応性化合物は、空気、酸素、ヘリウム、窒素、アルゴン及び/又は二酸化炭素との組合せで使用する。反応性化合物の割合は0.5〜20体積%であってもよい。
【0032】
引き続いて、スラグの組成に依存してさらに1200℃〜1700℃で焼結することも可能である。
【0033】
本発明は更に、本発明による方法により得ることができるシリカ粒子を提供する。
【0034】
焼結されたシリカ粒子は、特にシリカガラス粒子であってもよい。
【0035】
本発明によるシリカ粒子中の不純物の合計は、好ましくは50ppmを下回る。不純物の合計は、好ましくは10ppmを下回り、かつより好ましくは5ppmを下回る。金属性不純物の割合は、好ましくは5ppmを下回り、かつより好ましくは1ppmを下回る。
【0036】
特に好ましくは、以下の内容の不純物を有する粒子であってもよい(すべてppbで表す):

不純物とドーパント成分との区別はすべきである。ドーパント成分は、原料中に故意に添加された物質である。不純物は、開始時から原料中に存在するか、及び/又は工程中に偶発的に導入された物質である。
【0037】
特に好ましくは、以下の内容の不純物を有する粒子であってもよい(すべてppbで表す):

【0038】
金属含量を測定するために、シリカ粒子はフッ化水素酸含有溶液中に溶解する。蒸発物を形成する四フッ化珪素及び残留物を、誘発結合プラズマ質量分光分析(ICP−MS)を用いて分析する。精度は約10%である。
【0039】
本発明はさらに、極めて低い膨張係数を有する材料を製造するため、光触媒用途のため、自浄性を有するミラーの超親水性成分として、光学製品、たとえばレンズのため、気体及び液体の密封のため、機械的保護層として、複合材料中での使用として、触媒及び触媒支持材料としてのシリカ粒子の使用を提供する。
【0040】

実施例は、以下の方法にしたがって実施する。原料、反応条件及び装置設定は第1表に示す。
【0041】
使用されたシリカ粉末は熱分解的に製造されたものである。例1からの粉末は、Degussa社からのAEROSIL(R)300である。例2及び3において使用された粉末の製造は、EP−A−1321444、例4において使用された粉末の製造は、DE−A−10134382及び例5において使用された粉末の製造は、EP−A−995718に記載されている。
【0042】
得られた棒状のスラグを、ふるい網(サイズ800μm)を備えた粉砕機(Frewitt MG-633)を用いて微粉砕する。微粉を除去した後に、適したスラグ片が得られる。引き続いて、このスラグ片を反応器中でHCl、HCl/SOCl又はHCl/SClガス流中で精製し、その後に焼結する。それぞれの場合において、高純度のシリカ粒子が、第1表に挙げられた寸法及び不純物量で得られる。
【0043】
本発明によるシリカ粒子は高純度である。これは結合剤を含まない。ダスト含量は、使用された粉末と比較して顕著に減少する。
【0044】
シリカ粒子は、次の段階の適用において再度早期の分解を生じないために必要な凝集力を有する。にもかかわらず、このシリカ粒子は良好な混合性を示す。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1m/gを下回る比表面積及び50ppmを下回る不純物の割合を有するシリカ粒子を製造する方法において、この場合、この方法が、
a)15〜190g/lの突き固め密度を有するシリカ粉末を、
b)引き続いて微粉砕されるスラグに圧縮し、その際、スラグ片は210〜800g/lの突き固め密度を有しており、かつ、
c)このスラグ片を、1種又はそれ以上の反応性化合物で400〜1100℃で処理することを含む、1m/gを下回る比表面積及び50ppmを下回る不純物の割合を有するシリカ粒子を製造する方法。
【請求項2】
使用されたシリカ粉末が、ドープされたシリカ粉末又は珪素混合酸化物粉末である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドープされたシリカ粉末がドーパント成分としてか、あるいは、珪素混合酸化物粉末が混合酸化物成分として、Ag、Al、B、Ce、Cs、Er、Ga、Ge、Li、K、Na、P、Pb、Ti、Ta、Tl及びZrの酸化物から成る群から選択された酸化物を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
10ppm〜50質量%でドープされたシリカ粉末または珪素混合酸化物粉末を使用する、請求項2及び3に記載の方法。
【請求項5】
シリカ粉末が、熱分解法シリカ粉末である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
シリカ粉末が、30〜150g/lの突き固め密度を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
スラグ片が、300〜650g/lの突き固め密度を有する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
スラグ片を分級する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応性化合物を、空気、酸素、ヘリウム、窒素、アルゴン及び/又は二酸化炭素又は酸素との混合物として使用する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
スラグ片を、処理後に反応性化合物と一緒に焼結する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法により得ることが可能なシリカ粒子。
【請求項12】
シリカガラス粒子である、請求項11に記載のシリカ粒子。
【請求項13】
金属性不純物の割合が50ppmを下回る、請求項11及び12に記載のシリカ粒子。
【請求項14】
極めて低い膨張係数を有する材料を製造するため、光触媒用途のため、自浄性を有するミラーの超親水性成分として、光学製品、たとえばレンズのため、気体及び液体の密封のため、機械的保護層として、複合材料中での使用として、触媒及び触媒支持材料としての、請求項11から13までのいずれか1項に記載のシリカ粒子の使用。

【公表番号】特表2010−532311(P2010−532311A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515451(P2010−515451)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057568
【国際公開番号】WO2009/007201
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】