説明

高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを製造するための方法

【課題】高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを製造するための改善された方法を提供する。
【解決手段】a)テトラハロ−o−キシロールを155−160℃の温度および2〜5barの圧力において、場合により相転移触媒の存在下に、o−フタルアルデヒドに加水分解し、これを
b)0〜還流温度の温度における酸性のアルコール溶媒中で対応するジアルコキシフタランへ転換させ、次いで
c)pH>1.5〜pH7における酸性加水分解によってアセタール分解を行い、それによって高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
o−フタルジアルデヒド(OPA)などのフタルアルデヒドは、多くの分野において使用されている。例えば、殺菌剤工業または写真工業における顔料や蛍光増白剤または特殊ポリマー製造用の、ならびに医薬化学における合成用の、中間生成物としてである。このため、すでに多くの製造バリエーションが記載されている。o−フタルジアルデヒド(OPA)は、例えば、欧州特許第B−0147593号明細書により、メタノール中のナフタリンのオゾン分解およびその際に発生する過酸化物の触媒還元とその後の抽出もしくは結晶化によって獲得されうる。この方法における不利点は、副生成物として形成するエステルのOPAからの分離が困難かつ不十分でありうることである。
【0002】
さらに、OPAは、熱的および酸化的に安定しない反応性化合物であり、長期の貯蔵に際してブロック化し、それによって長期間の溶解過程が必要となる。このことが場合によりOPAの変色をもたらしうる。
【0003】
望ましくない転換に対してアルデヒドを保護するために、欧州特許第A1−0522312号明細書では、電気化学的酸化によって製造されるo−フタルジアルデヒドテトラアルキルアセタールを沈殿化合物として使用する可能性が記載されている。
【0004】
欧州特許第B−0839789号明細書により、OPAは、酸性触媒アセタール形成とその後の蒸留によって、適切な沈殿化合物、例えば、ジアルコキシフタランまたはテトラアルキルアセタールに転換することがさらに周知であり、それにより、必要に応じた酸性加水分解による完全なアセタール分解後に、純度が99.5%以上の粗製OPAが得られる。
【0005】
しかし、例えば欧州特許第B−0839789号明細書により製造される粗製OPAは赤橙色を有するため、その後、例えば活性炭またはトンシルによる脱色後にさらに再結晶化されなければならない。
【0006】
再結晶化によって得られる融点が57℃の微細なOPA粉末は、同様にブロック化する傾向がある。さらに、さまざまなバッチは一定の色および品質を有さない。
【0007】
米国特許第5,107,032号明細書により、テトラハロ−o−キシロールの製造とその後の90〜146℃での加水分解によるOPAの製造が周知である。この場合、例えばテトラクロロ−o−キシロールが最大146℃および3.5bar下、水性酢酸中の酢酸ナトリウムで鹸化され、次いでトリオールによる5回の抽出後、結合有機相のその後の蒸留により収量87%のOPAが単離される。しかし、この方法における不利点は、とりわけ、得られた生成物がハロゲン非含有ではないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、高純度のハロゲン非含有OPAを製造するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
意外にも本課題は、155℃を越える高温でテトラハロ−o−キシロールを加水分解し、その後の対応するo−フタルアルデヒドアセタールへのアセタール化、アセタールの蒸留洗浄、およびpH>1.5でのアセタール分解によって解決されえた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、
a)テトラハロ−o−キシロールを155−160℃の温度および2〜5barの圧力において、場合により相転移触媒の存在下に、o−フタルアルデヒドに加水分解し、これを
b)0〜還流温度の温度における酸性のアルコール溶媒中で、対応するジアルコキシフタランへ転換させ、次いで
c)pH>1.5〜pH7における酸性加水分解によってアセタール分解を行い、それによって高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを得る
ことを特徴とする、高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを製造するための改善された方法である。
【0011】
本発明による方法においては、高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒド(OPA)が製造される。
【0012】
出発原料としては、テトラハロ−o−キシロールが使用される。適切なテトラハロ−o−キシロールは、例えば、式
【化1】


[式中、XはCl、Br、またはIでありうる。]のものである。
【0013】
ここでテトラハロ−o−キシロール(THX)は、場合により適切な残基によって1回もしくは数回置換されうる。適切な残基は、例えば、C1−アルキル、C5−20アリール、OH、NO、CN、Cl、Br、またはCOHである。
【0014】
好ましくは、非置換THX化合物が使用され、Xは、好ましくは、塩素を意味する。
【0015】
適切なTHX化合物は、市販されており(X=ClまたはBr)、または周知の方法、例えば、光の作用下の元素状塩素による、または補助的なAIBN、PCl3、および過酸化ジベンゾイル等のラジカル開始剤によるo−キシロールの反応によって製造可能である。
【0016】
本発明によれば、THXは155−160℃の温度および2〜5bar、好ましくは、3〜4barの圧力で、対応するo−フタルアルデヒドに加水分解される。
【0017】
この場合、加水分解は、例えば、NaOH、LiOH、KOH等の塩基の存在下にC1−炭酸による水性系で実行される。好ましくは、酢酸がNaOH(40〜50%)の存在下に使用される。
【0018】
さらに、好ましくは、炭酸もしくは炭酸水およびTHXが与えられ、次いで水性塩基および水が添加される。しかし、添加の順序は変動しうる。
【0019】
使用される炭酸の量は、THXに対して>4〜20モル当量である。好ましくは、THXに対して8〜10モル当量である。
【0020】
使用される塩基の量は、THXに対して4.0〜5.0モル当量である。
【0021】
場合により、反応混合物には、より高い反応速度を得るために、相転移触媒(PTK)が添加される(TCXに対して1−5モル%)。適切なPTKは通常の化合物、例えば、四級アンモニウム塩およびホスホニウム塩、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩およびテトラアルキルホスホニウム塩またはアリールアルキルトリアルキルアンモニウム塩である。好ましくは、塩はこの場合、ハロゲン化物である。その例は、テトラブチル塩化アンモニウムまたはテトラブチル臭化アンモニウム、エチルトリオクチル塩化ホスホニウム、ベンジルトリエチル塩化アンモニウム等である。
【0022】
加水分解が行われた後、適切な粗製o−フタルアルデヒド(OPA)は、通常の抽出剤、例えば、メチル−三級−ブチルエーテル、トルオール、酢酸エステル等による抽出、およびその後の溶媒剤および抽出剤の蒸留によって得られる。
【0023】
その後、ステップb)において、粗製OPAのアセタール、ジアルコキシフタランへの転換が、アルコールによる酸触媒アセタール化によって通常の方法で行われる。
【0024】
アルコールとしてはこの場合、好ましくは、C1−アルコール、特に好ましくは、メタノールまたはエタノールが使用される。
【0025】
粗製OPAはさらにアルコール中で溶解される。その後、溶液は酸の添加によってpH値が0〜3、好ましくは、0.5〜2へ調整される。
【0026】
酸としては、例えば、HCl、HSO、HPOなどの鉱酸、またはギ酸、酢酸、p−トルオールスルホン酸もしくはメタンスルホン酸などの有機酸、または酸性イオン交換が適している。
【0027】
このステップにおける温度は、0℃〜還流温度、好ましくは、50℃までである。
【0028】
アセタール化が行われた後、溶液は酸もしくは酸性有機化合物の中和のためにアルカリ水溶液と混合される。アルカリ液としては、例えばNaOHまたはKOHが適している。
【0029】
その後または同時に溶媒として使用されたアルコールは蒸留される。
【0030】
ジアルコキシフタランの単離は再び抽出およびその後の蒸留によって行われる。
【0031】
単離されたOPAアセタールはこの場合、きわめて高いハロゲン非含有品質(>99.5GC FI%)および92%以上に至るまでのきわめて高い収量で得られる。
【0032】
アセタールの分解は、ステップc)において、同様に従来技術と類似の通常の方法で、酸性加水分解を介して行われる。
【0033】
pH値は、本発明によれば、>1.5〜7、好ましくは、1.6〜2.5である。
【0034】
酸としては、再びHCl、HSO、HPOなどの鉱酸、または酢酸、ギ酸およびp−トルオールスルホン酸もしくはメタンスルホン酸などの有機酸が使用される。
【0035】
反応温度は、好ましくは、室温〜60℃である。同時に、分解するアルコールおよび場合により酸は蒸留される。
【0036】
次いで、こうして得られたOPAは、場合により、さらに、例えば抽出、洗浄、または結晶化によって精製されうる。
【0037】
本発明による洗浄方法によって、OPAはきわめて高いハロゲン非含有品質(>99.5GC FI%)および92%以上に至るまでのきわめて高い収量で得られる。さらに、本発明により精製されたOPAは一定の色を有し、ここでトンシルまたは炭素による脱色は必要ではない。さらに、本発明による方法によって、OPAの収量損失が回避される。
【0038】
さらに、本発明による方法は、従来技術に対して短縮された反応時間において際立ち、これは持続的なパラメータをも可能にする。
【実施例】
【0039】
実施例1:
ステップa)
テトラクロロ−o−キシロール(TCX)61g(0.25モル)(含量99%)をオートクレーブに入れ、酢酸300g(5モル)と混合した。次いで、NaOH 44g(1.1モル)および脱イオン(VE)水198gの溶液をゆっくり添加した。
【0040】
反応混合液を160℃に加熱し、1時間、この温度で維持した。反応圧力は、3.8−3.9barであった。
【0041】
その後、40℃に冷却し、オートクレーブを空にした(606g=525ml反応溶液)。
【0042】
試料2mlを取出し、分析した:
結果:99.43GC FI% 粗製OPA
【0043】
粗製OPAの抽出:
粗製OPA溶液606gを最初に脱イオン(VE)水50mlと混合し、次いで4回、93gのMTBEで抽出した。
【0044】
有機相を結合し、その後、ロータベーパーにおいて400−415mbarおよび34−72℃下、蒸留液がそれ以上転換しないまでの間、圧縮した。
【0045】
蒸発残留物54gを得た。
【0046】
ステップb)
全蒸発残留物をメタノール375mlと混合し、濃縮HSO 2mlを添加し、pH値を0.5に調整した。
【0047】
50℃下の2時間後、50%NaOHを10ml添加した。次いで、反応混合液をロータベーパーにおいて圧縮し、その後に脱イオン(VE)水175mlを混合し、80mlのMTBEで3回、25℃下に抽出した。
【0048】
有機相を結合し、ロータベーパーにおいて圧縮した。
【0049】
秤量結果42.4g
【0050】
粗製アセタールの蒸留は、浴温135−140℃、浸漬温度113−114℃、およびヘッド温度110−111℃で行われた。圧力は8〜10mbarであった。
【0051】
秤量結果:OPAジメトキシアセタール41.2g(理論の91%)
【0052】
ステップc)OPAジメトキシアセタール分解:
硫酸でpH2.0に調整された脱イオン(VE)水500gにOPAジメトキシアセタール200gを添加し、圧力を約150mbarに低下させた。
【0053】
その後、加熱を開始した。浸漬温度53℃および155mbarで蒸留物除去を開始した。合計270mlの蒸留物を得た。4時間後の有機相のIPC−GC分析により99.89FI%のOPAが生じた。
【0054】
DIPEを500ml追加後、OPAを50℃で抽出した。相分離後、有機相をそれぞれ脱イオン(VE)水100mlで2回洗浄した。
【0055】
洗浄した明黄色の有機溶液を還流のために加熱し、常圧で有機相の残留水を循環した。合計9.5mlの水を得た。
【0056】
その後、緩徐な冷却を開始した。42℃でOPAの結晶化を開始する。さらに15℃まで冷却した。
【0057】
結晶化OPAをG−2フリットを介してろ過し、150mlのDIPEで洗浄し、40−45℃下で一夜、真空下に乾燥させた。91.5gの乾燥OPAが、含量>99.8%および母液450mlとともに単離された。収量は、理論の61.5%であった。
【0058】
理論の100%までのOPAの残留物が、母液、分解水、および洗浄水に存在したが、これらはすぐ次の脱アセタール化バッチに際して、溶液の高い純度および明るい色に基づき再び使用されえた。したがって、定量的脱アセタール化が可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを製造するための改善された方法において、
a)テトラハロ−o−キシロールを155−160℃の温度および2〜5barの圧力において、場合により相転移触媒の存在下に、o−フタルアルデヒドに加水分解し、これを
b)0〜還流温度の温度における酸性のアルコール溶媒中で対応するジアルコキシフタランへ転換させ、次いで
c)pH>1.5〜pH7における酸性加水分解によってアセタール分解を行い、それによって高純度のハロゲン非含有o−フタルアルデヒドを得る
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップa)をC1−炭酸中、塩基および水の存在下に行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される炭酸の量が、テトラハロ−o−キシロールに対して、4〜20モル当量であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)が、0〜3のpH値で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)が、1.6〜2.5のpH値で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2007−8932(P2007−8932A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171724(P2006−171724)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(505326209)ディーエスエム ファイン ケミカルズ オーストリア エヌエフジー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー (13)
【Fターム(参考)】