説明

高純度ハフニウム材料および溶媒抽出法を用いた該材料の製造方法。

【課題】ハフニウム系材料は、絶縁ゲート材料など先端電子材料として用いられることが見込まれているが、特に化学的性質の類似したジルコニウムの分離が困難であるため、電子材料用途に適した高純度ハフニウム材料は従来得ることができなかった。
【解決手段】本発明は、TBP溶媒を用いた溶媒抽出法をベースとした方法によって、ジルコニウムおよびその他不純物元素が1重量ppm以下の高純度ハフニウム材料およびその製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度ハフニウム材料および溶媒抽出法を用いた該材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハフニウムは、熱中性子吸収断面積が大きいことを利用した原子炉制御棒被覆材料としての特殊用途あるいはガスタービンなどに用いる耐熱合金への添加目的で利用されているが、そのほかに近年、ハフニウムシリサイドなどのハフニウム系酸化物が、その高い誘電率から現行の酸化シリコンに代わる半導体デバイスの絶縁誘電ゲート材料として注目を集めるに到っている。
【0003】
ハフニウムは、もともとジルコニウム鉱物(ジルコン)に取り込まれて産出するものであり、ジルコニウムの副産物として生成する。両者の原子構造および化学的性質は非常によく類似していることから分離は困難で、原子力分野を除いて分離されずに利用されるのが一般的であった。
【0004】
しかしながら、ULSIにおける次世代絶縁ゲート材料など、数十ナノメートルから数ナノメートルオーダーの非常に微細領域での安定性が要求される先端電子材料用途としては、可能な限り不純物を低減することが望まれるようになってきており、このような電子材料用途を目的とした高純度ハフニウムの研究開発が行われるようになっている(特許文献1〜4および非特許文献1参照)。
【0005】
ハフニウムの分離・精製技術としては、溶媒抽出による方法(特許文献1)、強塩基性陰イオン交換樹脂を利用する方法(特許文献2)、あるいはフラッシュクロマト法、減圧蒸留法、キレート剤による吸着および光照射法などを利用する方法(特許文献3)などが報告されている。
【0006】
ハフニウムの高純度化を達成するために一番問題となるのは、前述のように化学的性質が非常に類似したジルコニウムの分離であり、今まで報告されている特許文献でもジルコニウム含有量が1〜1000重量ppmのオーダーまでの分離にとどまっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開番号WO2005/010220 再公表特許(A1)「高純度ハフニウム材料、同材料からなるターゲット及び薄膜並びに高純度ハフニウムの製造方法」日鉱金属株式会社
【特許文献2】特開平10−204554 公開特許公報(A)「ジルコニウムおよび/またはハフニウム化合物の精製方法」同和鉱業株式会社
【特許文献3】特開2005−314785 公開特許公報(A)「ハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法」三菱マテリアル株式会社
【特許文献4】特許第3409290号「ゲート酸化膜形成材料」株式会社トリケミカル研究所
【非特許文献1】「別冊化学工業」Vol.26,No.3,p.117−124(1982)「ジルコニウムとハフニウムの分離」大塚たけお、宮崎英男
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような状況を解決するために、本発明は、次世代の絶縁ゲート材料など先端電子材料用途に対応した残留ジルコニウム量が1重量ppm以下の高純度ハフニウム材料を提供する。
【発明を解決するための手段】
【0008】
高純度ハフニウムを得るために最も重要となるジルコニウムを除去・分離する方法として本発明では、硝酸溶液中に溶解したハフニウム硝酸水溶液とリン酸トリブチル(TBP)溶媒を用いる溶媒抽出法を採用した。
【0009】
溶媒抽出としては、他に溶媒としてメチルイソブチルケトン(MBIK)を用いる方法もあるが、この薬剤は有害で危険性が高いため本発明のTBPを用いる系の方がより安全性が高い。
【0010】
この方法ではハフニウムの硝酸水溶液とTBP溶媒を用意する必要があるが、ハフニウム硝酸水溶液は、例えば塩化ハフニウムを原料として図1に示す流れで調製することが可能である。
【0011】
ハフニウム純金属あるいはハフニウム酸化物は、溶解が困難であるため図1のように塩化ハフニウムを用いるのが最も容易であるが、ハフニウム原料のアルカリ溶解、洗浄、硫酸脱水、水酸化物沈殿そして硝酸中への溶解によって、あるいはフッ酸またはフッ化アンモニウム酸との混合溶液であるバッファード酸フッ酸による溶解によっても、ハフニウム水溶液を得ることができ、これらからハフニウム硝酸水溶液を得ることがきる。
【0012】
ハフニウム硝酸水溶液を調整後、この溶液とTBP溶媒(希釈剤としてノルマルドデカンを添加)を用いた抽出機による多段抽出を行う(図2参照)。
【0013】
抽出機としては、例えば、バッチ式抽出器や、多段階の抽出操作が可能となるミキサセトラあるいはパルスカラムなどの種々の抽出装置を用いることができる。
【0014】
抽出時の硝酸水溶液中の硝酸濃度は、ハフニウムおよびジルコニウムの抽出挙動に大きく影響するが、これらの濃度はハフニウムとジルコニウムの分離効率とハフニウムの回収率を考慮して最適な条件を得る必要がある。本発明では、種々の異なる条件でのデータを踏まえ、溶媒抽出時の原液として供給するハフニウム硝酸溶液中の硝酸濃度は6mol/Lから10mol/Lの間である必要があり、8mol/L程度が望ましい。
【0015】
原液とするハフニウム硝酸水溶液中のハフニウム濃度もハフニウムとジルコニウムの分離効率とハフニウムの回収率を考慮すると10g/L以上である必要があるが、100g/L程度が望ましい。
【0016】
除去が必要とされる不純物元素としては、ジルコニウムのほかに、半導体デバイスにダメージを与える放射性元素であるウラン、その他に絶縁ゲート接合部に悪影響を与える可能性のあるマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、ニッケル、ニオブ、タンタル、および鉛があげられる。
【0017】
抽出によってジルコニウム量が1重量ppm以下となった溶液をアルカリ溶液を添加して中和することによって、高純度酸化ハフニウム粉末を得ることができるが、さらにこれを塩素化して四塩化ハフニウムとした後これを還元し、ハフニウムスポンジあるいはインゴットなどの高純度ハフニウム純金属材料を得ることができ、スパッタリング用ターゲットなどの薄膜作製用材料を提供することができる。
【0018】
高純度ハフニウム純金属材料から、さらに単結晶成長を行うことによって、ハフニウム単結晶材料も得ることができる。
【0019】
その他、精製ハフニウム材料から得られる高純度ハフニウム化合物としては、例えば、オキシ塩化ハフニウム、水素化ハフニウム、炭化ハフニウム、硫化ハフニウム、珪化ハフニウムなどがある。
【0020】
上記精製ハフニウム材料から、さらにCVD法などによってハフニウム系酸化物膜を合成するための原料となる有機ハフニウム材料として、例えば、テトラメトキシハフニウム、テトラエトキシハフニウム、テトラ−i−ハフニウム、テトラ−t−ブトキシハフニウム、テトラキス(ジビロイルメタナト)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミ)ハフニウム、およびハフニウム原子と窒素原子の結合を有する有機ハフニウム化合物などがあげられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、次世代絶縁ゲート材料などの先端電子材料の原料として適した高純度ハフニウム材料を得ることができ、電子デバイスの高密度化に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、ハフニウム硝酸水溶液およびTBP溶媒を用いて多段抽出を行うことによって、特に分離困難なジルコニウム元素を1重量ppm以下まで減らした高純度ハフニウム材料を提供できる。
【0023】
その具体的な方法と結果について以下の実施例に述べるが、これは必ずしも本発明を制限するものではなく、本発明の基本的考え方の範囲における他の実施例および派生する例も本発明に含まれる。
【実施例】
【0024】
ハフニウム硝酸水溶液の調製は、図1に示す流れに沿って行った。原料の塩化ハフニウムは、三津和化学薬品製の試薬(Zrを除いて99.9%の純度)を用いた。塩化ハフニウム水溶液を500mL調製後、アンモニア水を添加して水酸化ハフニウムスラリーを生成させた後、吸引ろ過したこの沈殿物を硝酸に溶解して、抽出原液であるハフニウム硝酸溶液を生成した。この時の硝酸濃度は8mol/Lで、ハフニウム濃度は92g/Lである。
【0025】
このハフニウム硝酸溶液と、8mol/Lの硝酸水溶液で前処理した30%TBP−ノルマルドデカン溶媒を用いて、抽出操作を20回まで繰り返し、ハフニウム硝酸溶液中に共存する不純物であるジルコニウムを有機相中に抽出することでジルコニウム含有量の小さいハフニウム硝酸溶液を得た。その抽出操作5回ごとのジルコニウムおよびハフニウム濃度変化を表1に示す。20回抽出操作を繰り返した後に、ハフニウム硝酸溶液中のジルコニウム含有量が1重量ppm以下まで減少していることがわかる。図3に、このジルコニウム量の変化をグラフで示す。
【0026】
最終的な抽出溶液を中和後、酸化ハフニウムとして回収した。この酸化ハフニウム粉末の分析を行った結果を表2にまとめて示す。分析元素であるウラン、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、ニッケル、ニオブ、タンタル、鉛はいずれも1重量ppm以下となっていることがわかる。
【0027】
さらに、得られた酸化ハフニウムを塩素化後、四塩化ハフニウムの形態とし、さらにこれをマグネシウム還元して高純度ハフニウムスポンジを得た。このハフニウムスポンジを電子ビーム溶解することによって、5N(99.999重量パーセント)オーダーの高純度ハフニウム金属インゴットを得ることができた。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ハフニウム硝酸水溶液調製プロセス
【図2】ハフニウム硝酸水溶液とTBP溶媒を用いたハフニウム抽出プロセス
【図3】ジルコニウム濃度と抽出回数の関係

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有ジルコニウム量が1重量ppm以下であることを特徴とする高純度ハフニウム化合物材料。
【請求項2】
含有ジルコニウム量が1重量ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用有機ハフニウム材料。
【請求項3】
含有ジルコニウム量が1重量ppm以下であることを特徴とするハフニウム純金属材料。
【請求項4】
含有ジルコニウム量が1重量ppm以下であることを特徴とするハフニウム単結晶材料。
【請求項5】
マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、ニッケル、ニオブ、タンタル、鉛、ウランの含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高純度ハフニウム材料。
【請求項6】
ハフニウム硝酸水溶液およびリン酸トリブチル(TBP)溶媒を用いた溶媒抽出法によって不純物除去を行うことによって、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のハフニウム材料を得ることを特徴とする高純度ハフニウム材料の製造方法。
【請求項7】
ハフニウム硝酸水溶液の硝酸濃度が6〜10mol/Lであることを特徴とする請求項6に記載の高純度ハフニウム材料の製造方法。
【請求項8】
ハフニウム硝酸水溶液のハフニウム濃度が10g/L以上であることを特徴とする請求項6に記載の高純度ハフニウム材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−115063(P2008−115063A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326288(P2006−326288)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(506400982)
【Fターム(参考)】