説明

高純度水酸化リチウムの製法

【課題】備蓄された炭酸リチウムや使用済みリチウムイオン二次電池から回収されるリチウム分などから、高純度のリチウム化合物用原料として有用な高純度水酸化リチウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】炭酸リチウム、リチウム含有鉱石、使用済みリチウムイオン二次電池などを硫酸処理して硫酸リチウム水溶液とし、この硫酸リチウム水溶液を、陽極と陰極の間に陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を使用した電気透析し、精製工程を加えて不純物を低減した水酸化リチウム水溶液を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【産業上の利用分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極材用原料、セラミックス材料用原料、高純度のリチウム化合物用原料として有用な高純度水酸化リチウムの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水酸化リチウムは、リチウムイオン二次電池用正極活物質及び電解質としてのLiPFを製造するリチウム源として、またSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の電子機器向け原材料として使用されている。
また一層の緻密な材料設計のために水酸化リチウムに含まれる不純物を更に低減することが要望されている。
従来の水酸化リチウムの製法は、潅水に含まれる塩化リチウムから炭酸リチウムにして取り出し、水酸化カルシウムを添加して水酸化リチウムにするのが一般的である。不純物を低減するために水の沸騰温度近くで水酸化リチウムを析出させて分離し、水酸化ナトリウムと水酸化リチウムの熱水に対する溶解度差を利用してナトリウム分を低減する工夫がされてきたが、限界がありカルシウム、ナトリウム、塩素イオン、硫酸イオンが水酸化リチウム・1水和物中に数十ppm含まれており、用途によって不純物を低減するために更に精製する必要があった。
しかもリチウム源としての鉱石あるいは潅水が採取される海外のサイトでの製造が一般的である。遠路輸送しなければならず原材料としての国内安定確保の観点からも近年の需要拡大とともにリスクも増大して来ている。
水酸化リチウムは、保管時に空気中の二酸化炭素を吸収し炭酸リチウムに一部変質しやすく、また3から6ヶ月の保存、保管期間を経過すると固化しあるいは塊状になり粉体取り扱い作業に支障を来たすために長期保管が利かずに必要量を使用必要時に製造し、供給する必要性があった。貯蔵性に乏しい故、原材料として、海外で生産されている水酸化リチウムを国内に備蓄することが困難であった。
海外からの輸入に頼る現状では、物流上、安定した物量確保の観点から難があった。急増する需要に応じ、国内使用顧客先への納入の自由度を確保できてしかも迅速に効率的に製造できる技術の開発が要請されてきた。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
長期保存しても変質がほとんどなく、リチウム源として備蓄可能な炭酸リチウム、硫酸リチウム、リチウム含有鉱石に注目し、また使用済みのリチウムイオン二次電池を備蓄されたリチウム資源として捉えてこれらを出発原料にして国内に必要とされる予測水酸化リチウム数量に見合うように随時、水酸化リチウムを製造することが出来る簡便な経済性の高い製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題について種々検討した結果、硫酸リチウムに着目し、硫酸リチウムを水に溶解した硫酸リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される硫酸を繰り返し使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち(1)大量に国内備蓄しうる炭酸リチウムを出発原料にして硫酸と反応させて硫酸リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。(2)大量に国内備蓄しうるところのリチウム含有鉱石から硫酸処理により硫酸リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。(3)使用済みリチウム二次電池の資源回収にあたりリチウム塩の電解質、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物から硫酸処理により硫酸リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。かかる硫酸を繰り返して使用する一方当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を加えて不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を具体的に説明する。
すなわち、本発明は、硫酸リチウムを出発物質とし、長期保存の出来ない、すなわち備蓄の出来ない水酸化リチウムを得る方法に関する。水酸化リチウムを必要とする際に、随時、硫酸リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析により目的の水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される硫酸を繰り返し使用できることを見出し、経済性の高い本発明を完成させるに至った。
すなわち(1)大量に国内備蓄しうる炭酸リチウムを硫酸と反応させて硫酸リチウム水溶液を得て、陽極と陰極との間に陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に硫酸リチウムの水溶液を供給して酸室から硫酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出すことのできるバイポーラ膜電気透析により硫酸を得る一方、当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を加えて不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製法、(2)大量に国内備蓄しうるところのリチウム含有鉱石から硫酸処理により硫酸リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得て精製工程を加えて不純物を除去ないし低減する一方同時に製造される硫酸を繰り返して使用する製法、(3)使用済みリチウム二次電池の資源回収にあたりリチウム塩の電解質、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物から硫酸処理により塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得て精製工程を加えて不純物を除去ないし低減する一方同時に製造される硫酸を繰り返して使用する製法である。
【0006】
本発明の水酸化リチウムと硫酸を得るには耐アルカリ性の材質と耐酸性の材質から構成された腐食による不純物混入の恐れのない電気透析装置を用いて陽極と陰極との間に陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に硫酸リチウムの水溶液を供給して酸室から硫酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出し、当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を付加して不純物を除去ないし低減する。
【0007】
例えば、精製工程としてカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類、微量の金属イオンを吸着除去するキレート剤としては、イミノジ酢酸型、アミノリン酸型のキレート樹脂を使用することが出来る。カラム内での空間速度(SV)は、通常、2から10hr−1の範囲で精製操作を行う。またキレート樹脂はナトリウム塩で出荷されることが多いので酸処理、水洗をして、9−11%高純度水酸化リチウム濃度の水溶液でリチウム塩に転換しておく。特に限定されないが、アンバーライトIRC748(オルガノ社製)、アンバーライトIRC747(オルガノ社製)のリチウム塩が使用される。
【0008】
リチウム以外のナトリウム、カリウム等の一価のアルカリイオンの低減ないし除去と二価のアルカリ土類のカルシウム、マグネシウムの完全吸着除去する陽イオン交換樹脂としてスチレン・ジビニルベンゼンとの架橋ポリマーのスルホン酸基を官能基とする強酸性陽イオン交換樹脂とカルボン酸基を官能基とするアクリル酸やメタクリル酸とジビニルベンゼンの共重合体を母体とする弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。不純物量に応じて水素イオンを放出するR−H型とLiカチオンを放出するR−Li型のいずれでも使用できる。
【0009】
塩素イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン等の陰イオンを吸着し、低減ないし除去する陰イオン交換樹脂としてスチレンとジビニルベンゼンとのコポリマーにクロロメチル化して、トリメチルアミンやジメチルアミンやジメチルエタノールアミンを使ってアミノ化したものを使用する。
【0010】
精製工程は水酸化リチウムの水への溶解度の上限近くの高濃度まで濃縮してから処理することもできる。また必要であれば水酸化リチウムを析出させた残液を再度、上記のキレート剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いてかかる精製処理を行い、濃縮されて存在する不純物を除去してから熱水中での析出・脱水乾燥することで最終的に水酸化リチウムの収率を高めることが出来る。
【0011】
本発明で得られた水酸化リチウム・1水和物を、炭酸ガスと反応させて高純度炭酸リチウムにも出来るし、脱水して水酸化リチウム無水物としてリチウムイオン二次電池用の正極活物質、電解質としてのLiPFを製造するリチウム源として、またSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の電子機器向け原材料として使用される。また高純度化した炭酸リチウムにしておけば、備蓄が可能であり、長期保存後に本発明の炭酸リチウム水溶液の電解を施すならば、精製工程も不要であり、高純度水酸化リチウムを随時得られる。
【0012】
本発明に使用する硫酸リチウムは、市販の硫酸リチウムでも、必要あれば、不純物を常法により低減あるいは除去してからでも使用可能である。
【0013】
本発明に使用する硫酸リチウムは大量リチウム資源備蓄の観点から炭酸リチウムを国内に備蓄しておいて、随時、硫酸と反応させて硫酸リチウム水溶液にして使用する。
【0014】
本発明に使用する硫酸リチウムはリチウム含有鉱石から硫酸を利用して抽出して得られる。本発明に使用するリチウム含有鉱石としては、例えば、リチア輝石(スポジュメンとも呼ばれる。代表的な組成としてLiAlSiがあげられる。)、ユークリプタイト(代表的組成、LiAlSiO)、ペタル石(代表的組成、LiAlSi10)、紅雲母(リチア雲母とも呼ばれる。代表的組成、KMgLiAlSi1240)(OH)F4)、チンワルド雲母(代表的組成、K(Li,Fe,Al)(AlSi10)(F、OH)、マナドナイト(代表的組成、H24LiAl14Si53)、トリフィル石(代表的組成、Li(Fe,Mn)PO4でFe分がMn分より多いもの)、リシオフィライト(代表的組成、Li(Fe,Mn)PO4でMn分がFe分より多いもの)、アンブリゴ石(代表的組成、(Li,Na)Al(PO4)(F,OH))、フレモンタイト(ナトロモンブラサイトともナトロアンブリゴナイトとも呼ばれる。代表的組成、(Na,Li)Al(PO)(OH,F)、シックラー石(代表的組成、(Li,Mn,Fe)(PO))等がある。
【0015】
本発明に使用する硫酸リチウムは、使用済みのリチウムイオン二次電池からのLiPF6等のリチウム含有電解質、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物中のリチウム分に硫酸を反応させて得られる硫酸リチウムである。
【0016】
本発明に使用できる電気透析装置は、強アルカリ、酸に耐えうる材質であれば材料として使用できる。例えばポリプロピレン等のプラスチックスの電槽が使用できる。
装置は、陽極と陰極との間に陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成し、構成される。
【0017】
本発明に使用する陽イオン交換膜は、一価の陽イオン(リチウム等)を通過しうる膜であり、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基を少なくとも1種以上有する高分子からなる膜であればよい。
スルホン酸基を有するフッ素系陽イオン交換膜、ペルフルオロカルボン酸基を導入した陽イオン交換膜、四フッ化エチレンとカルボン酸・スルホン酸を官能基とするペルフルオロビニールの共重合体の陽イオン交換膜、ペルフルオロカルボン酸ポリマーとペルフルオロスルホン酸ポリマーの膜を貼りあわせた陽イオン交換膜、ペルフルオロスルホン酸ポリマーとペルフルオロカルボン酸ポリマーとを積層した陽イオン交換膜等がある。補強繊維を付したり、更に一価のカチオンの選択透過性を向上させて陽イオン交換膜を透過するカルシウムとかマグネシウム等の多価イオンの通過を抑制したり、陰イオン例えばOHイオン、塩素イオン、硫酸イオン等の通過を抑制したり排除の目的で添加剤を塗布したり、表層面を密な構造にしたり、他の膜を張り合わせてもよい。ネオセプターCMV、ネオセプターCMB、ネオセプターCMS、ネオセプターCMT、ネオセプターCIMS、ネオセプターCL−25T、ネオセプターCMD、ネオセプターCM−2、ネオセプターCSO(以上、株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオンCMV、セレミオンCAV、セレミオンCSV(旭硝子社製、商品名)、FKF,FKC,FKL,FKE(フマテック社製、商品名)、ナフィオン324、ナフィオン117、ナフィオン115(デュポン社製、商品名)等がある。
【0018】
本発明に使用する陰イオン交換膜は、第4級アンモニウム基の強塩基性基に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等の弱塩基性官能基を有する高分子からなる膜であればよい。
ネオセプターACM、ネオセプターAM−1、ネオセプターACS、ネオセプターACLE−5P、ネオセプターAHA、ネオセプターAMH、ネオセプターACS(以上、株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオンAMV、セレミオンAAV(旭硝子社製、商品名)、FAB,FAA(フマテック社製、商品名)等がある。
【0019】
本発明に使用するバイポーラ膜は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とが張り合わさっている構造を有する複合膜であればよく、特に制限がない。
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との界面を無機化合物で処理し、両膜を接合した膜、イオン交換膜の表面に反対電荷を有するイオン交換樹脂の微粒子と母体ポリマーとの混合物を沈着させた膜等公知の膜を使用することが出来る。
ネオセプターBP−1(株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオン(旭硝子社製、商品名)等がある。
【0020】
本発明に使用する陰極は、水素過電が低いものが好ましく、鉄、ニッケル、ステンレスチール、等の金属板、鉄、ステンレスチール等の基材の表面に含硫黄ニッケル、ラネーニッケル系合金、酸化ニッケルが被覆されたもの、金、白金、パラジウム等の1種以上からなるメッキされたものが使用できる。
【0021】
本発明に使用する陽極にはステンレススチール、チタン、金、白金、パラジウム等の金属板、表面に酸化ルテニウム、無機酸化物、カーボン類の少なくとも1種以上被覆したものが使用できる。
【0022】
本発明による電気透析の方法としては、酸室およびアルカリ室にそれぞれの室に供給する硫酸と水酸化リチウム水溶液のタンクを設けて、それぞれの液タンクと室との間でそれぞれの液を循環させるのが好ましい。生成してくる硫酸または水酸化リチウム水溶液を抜き出す方法として、稼動の始めは濃度の薄い硫酸及び水酸化リチウム水溶液を仕込んでおいて硫酸および水酸化リチウムを生成させ、所定の濃度になった時に所定量を抜き出してから蒸留水または精製水を補充して初期の薄い濃度にもどすいわゆるバッチ式でも、予め所定濃度の硫酸、水酸化リチウム水溶液を仕込んでおき、通電時に通電電気量に応じて連続的に蒸留水または精製水を添加することにより所定の濃度の硫酸、水酸化リチウム水溶液をオーバーフローさせる連続式でもよい。
【0023】
同様に硫酸リチウム水溶液も塩室と塩タンクとを塩水溶液循環ラインで結び、塩室から排出された硫酸リチウム水溶液を塩タンクに通して再び塩室に循環しながら脱塩していく方法が採用される。セル電圧を測定し、測定された電圧が予め設定された電圧値を越えた時に塩水溶液循環ラインに新たな硫酸リチウム水溶液を塩水溶液供給ラインに通して供給する。
【0024】
セル電圧を監視する方法は、従来公知の方法が採用される。セル電圧を検知するには一般的には複数枚隔てた膜と膜との間に2本以上の白金線電極を挿入しておき、通電下に電圧を測定し、前述の電極間のセル積層数で除して算出する方法を採用することができる。陽極室と陰極室に白金線電極を挿入しておきスタック間の電圧を検出し、セル電圧を測定することにより塩化リチウム水溶液の濃度の平均値を得ることが出来るとともにブリスター等の異常発生がいずれかの膜に発生した場合にも検出可能であり好ましい。
【0025】
セル電圧は通常1〜3ボルトである。予め設定されたセル電圧、例えば、4〜6ボルトを越えた時、塩室の硫酸リチウム水溶液の濃度が電気透析には適さない程度まで低下していることを意味する。かかる場合には、塩水溶液循環ラインに新たな硫酸リチウム水溶液を供給する。
【0026】
本発明に用いられるバイポーラ膜電気透析の電流密度は、通常1〜50A/dmの範囲であり好ましくは5〜20A/dmの範囲で定電流密度で稼動する。
セル電圧は、電流密度が一定であれば、硫酸、硫酸リチウム水溶液、水酸化リチウム水溶液の濃度、各溶液の流速、温度、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、バイポーラ膜の電気抵抗、ブリスター、スケール発生の有無等の要因によって変化する。新たな硫酸リチウム水溶液を追加してもセル電圧が低下しない時は、バイポーラ膜中のブリスター発生、またはセル中の膜にスケールが発生したものと考えられるので、即座に電気透析を停止するのがよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば硫酸リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析することにより水酸化リチウム水溶液と硫酸を同時に製造でき、かつ硫酸をリチウム含有鉱石からの硫酸リチウム抽出、リチウムイオン二次電池から硫酸リチウムとして回収するのに繰り返して使用できる。一方の水酸化リチウム水溶液を精製工程に付し、例えば、イオン交換樹脂で不純物を除去、低減することにより高純度化が要請されているリチウムイオン二次電池用正極活物質及び電解質としてのLiPF等を製造するリチウム源として、またSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸等の電子機器向け原材料として供給することが出来る。
【実施例】
【0028】
以下実施例、比較例、参考例により本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。 分析法は、リチウム以外の各元素は、ICP法で測定する。リチウム量(%)については、滴定法でもとめたアルカリ滴定当量からICP法でもとめたリチウム以外のアルカリ、アルカリ土類分を補正し、水酸化リチウム・1水和物として算出し、リチウム理論含有量16.549%を乗じた数値として示す。塩素イオン(Cl)と硫酸根(SO4−−)は、イオンクロマトグラフィー法で測定する。
【実施例1】
【0029】
工業グレードの炭酸リチウム粉末を硫酸に溶解し、硫酸リチウム水溶液とする。
1対の陰陽極間に第1のバイポーラ膜、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、第2のバイポーラ膜の順である。第1のバイポーラ膜の陰イオン交換体側と陽イオン交換膜の間に構成される第1の流路をアルカリ室とし水酸化リチウム水溶液を存在させ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との構成される第2の流路を塩室として硫酸リチウム水溶液を存在させて、陰イオン交換膜と第2のバイポーラ膜の陽イオン交換体の間に作られる第3の流路を酸室として硫酸を存在させて、陽極と陰極の間に直流電流を通すバイポーラ膜電気透析装置にかける。
得られた硫酸は、炭酸リチウム粉末を溶解・分解し、硫酸リチウムとするのに繰り返して使用される。また得られた水酸化リチウム水溶液は、それぞれアンバーライトIR120B(オルガノ社製)のLi変性品が充填されたカラムとアンバーライトIRA410 OH(オルガノ社製)の充填されたカラムに通液し、精製する。更に、加熱し、沸騰温度付近で水蒸気を除き濃縮し、析出物を分離し、乾燥をして水酸化リチウム・1水和物の粉末として得る。分析結果を表1に示す。
【実施例2】
【0030】
スポジュメン(リチア輝石)を窒素ガス雰囲気中1100℃で3時間、焼成する。この焼成物に濃硫酸を加えて250℃でリチウム分を硫酸リチウム水溶液として抽出する。ろ過し、シリカ、アルミナ等を分離した後、水酸化カルシウムを加えてPH調製をしながらカルシウム分をろ過・除去する。
アンバーライトIRC748(オルガノ社製)のリチウム変性キレート樹脂により微量残存する鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等を完全除去する。バイポーラ電気透析に必要な量を確保するために繰り返して硫酸リチウム水溶液を得る。この硫酸リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析装置により水酸化リチウム水溶液と硫酸とを得る。希薄濃度となった硫酸リチウム水溶液は、濃縮して再度透析にかけても、新たに調製された硫酸リチウム水溶液に混合しても良い。
硫酸は、別途所望の濃度に高めて繰り返してスポジュメン(リチア輝石)の焼成物からのリチウム分の抽出に使用する。
バイポーラ膜電気透析装置により得た水酸化リチウム水溶液をそれぞれアンバーライトIR120B(オルガノ社製)のLi変性品が充填されたカラムとアンバーライトIRA410 OH(オルガノ社製)の充填されたカラムに通液し、精製する。加熱し、水蒸気を除き濃縮し、析出物を分離し、乾燥する。
表1に得られた水酸化リチウムの分析結果を示す。
【実施例3】
【0031】
使用済みのリチウムイオン2次電池(円筒缶型1865)を硫酸リチウム水溶液中に侵して気泡が発生しなくなるまで放電する。次にアルミ二ウム箔に塗工された正極活物質粉末をはく離した後に硫酸と反応させてリチウム分を硫酸リチウム水溶液として抽出する。また電解液を硫酸で流出させて、脱フッ素化処理を行う。これらの硫酸リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析装置にかけて水酸化リチウム水溶液と硫酸を同時に得る。ここで得られた硫酸は、使用済みのリチウムイオン2次電池に存在するリチウム分を硫酸リチウムにして回収するのに繰り返して使用される。
ここで得られた水酸化リチウム水溶液をそれぞれ順にアンバーライトIRC748(オルガノ社製)のリチウム変性キレート樹脂カラム、アンバーライトIR120B(オルガノ社製)のLi変性品カラムとアンバーライトIRA410 OH(オルガノ社製)カラムに通液し、精製する。次に加熱・濃縮し、析出物を分離し、乾燥する。表3に得られた水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【比較例1】
【0032】
実施例1で得られた陰極槽(室)の液500ml液を加熱し、濃縮をして、溶液から65℃まで冷却して析出するものを分離し、常温で減圧乾燥したものの分析結果を表1に示す。
【比較例2】
【0033】
市販の水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【参考例1】
【0034】
市販の高純度水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に硫酸リチウムの水溶液を供給して酸室から硫酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出すことのできるバイポーラ膜電気透析により硫酸を得る一方当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を加えて不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製法。
【請求項2】
炭酸リチウムと硫酸とを反応させて得た硫酸リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製法。
【請求項3】
リチウム含有鉱石から硫酸により抽出して得た硫酸リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製法。
【請求項4】
使用済みリチウムイオン二次電池からのLiPF6等のリチウム含有電解質、正極活物質に含まれるリチウム分と硫酸との反応により回収された硫酸リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製法。

【公開番号】特開2009−270189(P2009−270189A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145095(P2008−145095)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(599019719)有限会社ケー・イー・イー (8)
【Fターム(参考)】