説明

高純度空気の調製方法

【課題】 電子機器や精密機器等を製造する工程において使用されるクリーンルーム等からの排気を取入れて分子状汚染物質と粒子状汚染物質を除去する清浄化を行って当該クリーンルーム等に長期に亘り連続して循環供給を可能とする方法を提供する。
【解決手段】 清浄作業空間から排気を取入れて、処理空気とし、その粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を行って高純度調温調湿空気に調製して、清浄作業空間に循環供給するにあたり、処理空気を加湿冷却加温装置に取入れて、これを屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じ、粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器、電子部品、精密機器、精密部品等の製造工程で必要とする機器を収容したクリーンルーム、クリーンチャンバ、ミニエンバイロメント等の清浄作業空間からの排気を取り入れて、処理空気中の粒子状汚染物質を除去し、且つ、塩基性分子状汚染物質と酸性分子状汚染物質と有機性分子状汚染物質をいずれもppbオーダ乃至それ以下に除去して、更に調温調湿を行って、清浄作業空間に長期に亘り、連続安定に循環供給する高純度調温調湿空気の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子機器やその部品、精密機器やその部品等は高い清浄度に保たれたクリーンルーム内で加工、製造されている。一般的なクリーンルームは、系外より取入れた空気からダストやミスト等の粒子状汚染物質を除去する清浄化と調温調湿を行って当該クリーンルーム等に連続的に供給するとともに、その供給量と同量のクリーンルーム内の空気を系外へ排出する1パス使い捨て方式の空調設備が用いられている。
【0003】
しかしながら、系外へ排出される空気は、前述のようにエネルギを印加して調温調湿したものであり、省エネルギの観点からは系外へ排出する空気量をできるだけ少なくして、クリーンルーム内の空気を清浄化して、循環使用可能なように構成することが好ましい。又、クリーンルーム内において、被加工物に対して薬剤を使用する様々な加工作業が行われる際には、加工作業に伴って分子状汚染物質が発生するため、近年ではクリーンルーム内の空気を循環させる際に、粒子状汚染物質だけでなく分子状汚染物質も好適に除去できるように構成した空気清浄化装置も開発されている。
【0004】
従来、このうち粒子状汚染物質の除去装置としては、クリーンルーム内の空気を循環供給させる管路中の随所に高性能フィルタを設置して清浄度クラスに応じた除去が行われている。即ち、従来の清浄化と装置は、図5に示したようなものであって、高性能フィルタは、処理空気導入口1乃至従来の調温調湿装置60の上流側に、高性能フィルタ(3)61及び又は下流側(図示せず)に、乃至は、従来技術による清浄作業空間100内の高純度調温調湿空気吹出し口105にフィルタファン(2)114と一体化したファンフィルタユニット(FFU)110の中に、高性能フィルタ(4)115として配設されている。なお、図5に示した従来の調温調湿装置60は、高性能フィルタ(3)61と従来の冷却除湿器62と従来の加温器63と従来の加湿器64から構成されており、高純度調温調湿空気は、高純度調温調湿空気送風機(3)101で昇圧されて高純度調温調湿空気供給口2に流入する。
【0005】
しかして、近時は、半導体製造用のシリコン基板、液晶ディスプレイ製造用のガラス基板は共に大型化して、それに伴いクリーンルーム等の清浄作業空間も大容量のものとなっている。従って、循環供給する高純度調温調湿空気の絶対量も増大しており、循環空気ダクトは大口径となり、当該循環空気ダクトに設置するケミカルフィルタも、当該清浄作業空間への吹出し口に設置するファンフィルタユニット(FFU)に組込まれるケミカルフィルタも大型となっている。又、当然、粒子状汚染物質を除去する高性能フィルタも、フィルタファンも大型となっている。即ち、FFUが大型となっている。
【0006】
しかしながら、大型のFFUを設置すると当然重量増となり、清浄作業空間を構築している構造部材の強度を増加させねばならないから、それら部材も今までよりも大きく太くする必要がある。同時にパワーの増大したフィルタファンを内蔵させることになるため、加振力が増加する。それゆえ、清浄作業空間に設置した装置、例えば、半導体製造におけるパターン形成工程の塗布装置や露光装置等の振動も増大させることになるから、パターン形成に支障を来たすという問題が発生する。したがって、FFUを大型にする方法には限界があり、ケミカルフィルタを大型にしないで設置数を増やす方法も併用せざるを得ない。
【0007】
又、半導体製造や液晶ディスプレイ(LCD)製造においては、近時の基板の大型化によって使用する薬剤量も増加するから、それに伴って発生する分子状汚染物質量も増加するため、寿命となったケミカルフィルタの取替え頻度も増加している。
【0008】
分子状汚染物質はクリーンルーム内の加工作業で薬剤を取扱った際に発生しており、多くの場合、塩基性のアンモニア、酸性のCl-、F-、SOx、極く稀にH2S、トリメチルアミン(TMA)、トリエチルアミン(TEA)、N−メチルピロリドン(NMP)等の塩基性であって、且つ、有機性のアミン類、シランカップリング剤やシリル化剤等の有機珪素化合物、並びにシンナ類、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノブチルエーテル(EGMBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、乳酸エチル、シクロヘキサノン、ディメチルスルホキシド(DMSO)等の有機性物質である。
【0009】
この他の分子状汚染物質は、環境大気や人体や取扱う薬剤に由来する塩基性のアンモニア、環境大気に由来する酸性のNOx、SOx、Cl-並びに環境大気に由来する極めて多種類の有機性の物質、及び、清浄空間の構築部材や製造設備の構成材料であるシリコーン樹脂、シリコーンゴム材、シリコーン接着剤等に由来する有機珪素化合物である。
【0010】
環境大気中のアミン類を含む多種類の有機性分子状汚染物質は、分子量は50〜350の範囲にあり、濃度は最高5μg/m3であって多くは0.2〜0.01μg/m3にあり、総量がヘキサデカン換算で50μg/m3程度、主要なものだけで60〜70種類検出される。
【0011】
(ケミカルフィルタ)
一方、分子状汚染物質の除去装置としては、従来ケミカルフィルタが広く用いられており、高性能フィルタと同様に、クリーンルーム内の空気を循環供給させる管路中の複数個所に配設されている。即ち、図5において従来の調温調湿装置の60の上流側にケミカルフィルタユニット80が設置され、当該ユニット中に、通常3種類のケミカルフィルタ(A1)81とケミカルフィルタ(B1)82とケミカルフィルタ(C1)83が組み込まれている。
【0012】
又、段落〔0004〕で記したファンフィルタユニット(FFU)110の中にも、ケミカルフィルタ(A2)111、ケミカルフィルタ(B2)112、ケミカルフィルタ(C2)113が組み込まれている。ここでケミカルフィルタ(A)は酸性分子状汚染物質を、ケミカルフィルタ(B)は塩基性分子状汚染物質を、ケミカルフィルタ(C)は有機性分子状汚染物質を捕集して吸着除去する。
【0013】
このうち、ケミカルフィルタ(B)は、布状フィルタ材に酸性薬剤を含浸させたもの、繊維状フィルタ材に陽イオン交換基を付加したもの又は布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製してその袋の中に陽イオン交換樹脂を充填したものが用いられる。
【0014】
したがって、ケミカルフィルタ(B)の捕集・除去の原理は、フィルタ材上で酸と塩基の中和反応を生起させて不揮発性の中和物に転化させることである。それゆえ、フィルタ材に含浸させた酸性物質量と反応する塩基性物質の化学当量以上の塩基性汚染物質は捕集・除去が不可能となるゆえ、必然的に寿命が存在するという問題がある。そのため、寿命となったケミカルフィルタ(B)は新品と取替えるという大懸りな作業が不可避となる。
【0015】
一方、有機性物質を捕集・除去するケミカルフィルタ(C)は、布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製して、その袋中に粒状活性炭を充填したもの、又は、活性炭繊維をフィルタ材としたものが用いられている。
【0016】
したがって、ケミカルフィルタ(C)の捕集・除去の原理は、有機性物質を選択率良く物理吸着することであるから、充填した活性炭の飽和吸着量以上の有機性汚染物質量は捕集・除去が不可能となるゆえ、これまた寿命が存在するという問題がある。
【0017】
つまり、前述のケミカルフィルタ(B)の場合と同様に、寿命となったケミカルフィルタ(C)は新品と取替えるという大懸りな作業が不可避となる。
【0018】
さらに、酸性物質を捕集・除去するケミカルフィルタ(A)は、布状フィルタ材に塩基性薬剤を含浸させたもの、繊維状フィルタ材に陰イオン交換基を付加したもの又は布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製してその袋の中に陰イオン交換樹脂を充填したものが用いられる。
【0019】
したがって、ケミカルフィルタ(A)の捕集・除去の原理は、フィルタ材上で塩基と酸の中和反応を生起させて不揮発性の中和物に転化させることである。それゆえ、フィルタ材に含浸させた塩基性物質量と反応する酸性物質の化学当量以上の酸性汚染物質量は捕集・除去は不可能となるゆえ、必然的に寿命が存在するという問題がある。
【0020】
つまり、前述のケミカルフィルタ(B)、(C)の場合と同様に、寿命となったケミカルフィルタ(A)は新品と取替えるという大懸りな作業が不可避となる。
【0021】
この様に、ケミカルフィルタ(A)、(B)、(C)はいずれも寿命があり、取替え作業によって産業廃棄物となり、又、取替え作業時には、それを取付けていた清浄作業空間での製造工程は操業を停止することになる。そして、近時の半導体並びにLCD基板の大型化は産業廃棄物量を増大させることになり、又、取替え頻度も増加することになる。
【0022】
さらに、又、ケミカルフィルタの取替え時には当該清浄作業空間や高純度空気管路やそれの関連機器は、その工程設備の外側にある雰囲気に曝すことになる。そして、その雰囲気は明らかに0.1ppbを越えるアンモニア、4ppbを越える有機物を含有する空気であるから、高純度空気の雰囲気下にあった清浄作業空間や高純度空気管路やそれが接続している関連機器、当該設備の内側も確実に汚染される。特にアンモニアと水の分子は金属表面に吸着付着しやすい。
【0023】
それゆえ、フィルタの取替え作業は終了しても、清浄作業空間や高純度空気管路やそれの関連機器を高純度空気の雰囲気下に復旧させるのに長時間のクリーンアップ作業を要することになる。この間の操業停止による損失は莫大となる問題を誘起している。
【0024】
又、前記したように、取替え作業時に、例えば、3〜5ppbのアンモニアを含有する屋内空気に曝したとすると、金属表面に吸着付着したアンモニアは、復旧後に高純度空気の流れによって、少しずつ脱離して高純度空気流中に混入する。例えばこの脱離によりアンモニアの濃度が0.2ppbとなったとすると、清浄作業空間内にあるシリコン基板、ガラス基板を汚染する確率が倍増することになると考えられる。又、高純度空気中の水分子が分子運動で金属表面等に凝縮するとき、アンモニア分子がその凝縮熱を奪って気化する精留効果によっても、高純度空気中のアンモニア濃度は0.2ppb以上となる。つまりこのような現象が発現するため、長時間のクリーンアップ作業を実施しても調温調湿した空気中から低分子量であって且つ、低沸点のアンモニアを0.1ppb以下にすることは極めて困難であるとされていた。
【0025】
さらに又、前述したように、取入れた清浄作業空間の排気、即ち、処理空気中には、塩基性のアンモニアと塩基性であって且つ有機性であるアミン類と有機珪素化合物の分子状汚染物質、及び様々な分子量を有する有機性分子状汚染物質及びNOx、SOx、Cl- 、F-等の酸性分子状汚染物質が混在している。加えて、それぞれの分子状汚染物質の発生状況はその成分を含有している薬剤を使用した瞬間や化学反応によってその分子状汚染物質を発生させるような薬剤を使用した瞬間に発生するから、その分子状汚染物質の濃度は数ppmから1ppbの変動幅で脈動状に急変動している。
【0026】
その様な分子状汚染物質の濃度の変動状態が処理空気導入口においてはいくらか平準化された状態となってはいるが、図5に示すケミカルフィルタ(A1)81、ケミカルフィルタ(B1)82、ケミカルフィルタ(C1)83に流入した場合、それぞれのケミカルフィルタの吸着容量に充分余裕のある時点では、化学吸着するNOx、SOx、Cl- 、F-はケミカルフィルタ(A1)81で捕集・除去され、又、アンモニアとTMAはケミカルフィルタ(B1)82で捕集・除去され、物理吸着されるTEA、NMP、シンナ類、EGMBE、PGMEA、MIBK、乳酸エチル、シクロヘキサノン等はケミカルフィルタ(C1)83で捕集・除去される。
【0027】
ところが、例えば、NMP(分子量:99.1)とPGMEA(分子量:132.2)を清浄作業空間内の加工作業で使用する場合、ケミカルフィルタの吸着容量に充分余裕のある時点では、ケミカルフィルタ(C1)83でそれらの分子状汚染物質は捕集・除去される。しかしながら、そのケミカルフィルタ(C1)83の吸着容量の余裕が僅かになってきた時点で、PGMEAを使用する加工作業が行われ、最高値がppmとなる脈動状でケミカルフィルタ(C1)83に流入すると、NMPがそのケミカルフィルタ(C1)83からPGMEAによって追い出される現象が発生する。同時に、ケミカルフィルタ(C1)83に吸着していた大気由来のNMPよりも分子量の小さい汚染物質がPGMEAによって追い出され、下流に漏出する。以上の現象が発生することを本発明者らは見いだした。
【0028】
下流の高純度調温調湿空気吹出し口105(図5)に設けたケミカルフィルタ(C2)113の吸着容量に余裕のある時点では、ケミカルフィルタ(C1)83から漏出したNMPとNMPよりも分子量の小さい分子状汚染物質はケミカルフィルタ(C2)113で捕集・除去される。しかしながら、吸着容量の余裕が僅かになってきた時点では、前記同様にNMPによって、それよりもさらに分子量の小さい汚染物質が追い出され、従来技術の清浄作業空間を汚染する現象が発生することを本発明者らは見いだした。
【0029】
又、有機珪素化合物であるシランカップリング剤乃至シリル化剤を清浄作業空間内の加工作業で使用した場合、これらの有機珪素化合物はケミカルフィルタ(C1)83で捕集・除去される。しかしながら、有機珪素化合物はケミカルフィルタ(C1)83の吸着サイトで加水分解され、そのサイトにシリカ(SiO2)を残留させて、そのサイトを失活させる。そのため、その後に流入するアミン類、有機珪素化合物、炭化水素系の有機性汚染物質の吸着・除去率は失活したサイト数に見合って低下して、下流に漏出する。
【0030】
特に、シリコン基板、ガラス基板のレジスト処理工程で多用されるヘキサメチルジシラザン(HMDS)は加水分解されてアンモニアとシリカ(SiO2)とメタン(CH4)を発生させる。又、トリメチルシリルクロライドを使用した場合は、加水分解されて塩酸とシリカとエタンを発生させることも本発明者らは見いだした。
【0031】
ケミカルフィルタ(C1)83で捕集・除去されなかった有機珪素化合物は、下流に設置されているケミカルフィルタ(C2)113で捕集・除去されるが、前述した様に吸着サイトで加水分解され、そのサイトにシリカを残留させる。そのため、予想寿命を大幅に短縮させ、清浄作業空間にアミン類、有機珪素化合物、炭化水素系の有機性分子状汚染物質を漏出させることになる。特にHMDSが使用された場合、HMDSはケミカルフィルタ(C2)113で捕集・除去されるが、加水分解されてアンモニアとトリメチルシラノール(TMS)を発生する。発生したアンモニアは図5に示すように、ケミカルフィルタ(C2)113より下流にケミカルフィルタ(B2)112が配置されていない場合は、従来技術による清浄作業空間100中に漏出して、当該清浄作業空間を汚染する。一方のTMSは、図5に示すように、ケミカルフィルタ(C2)113より下流にケミカルフィルタ(C)が配置されていない場合は、従来技術による清浄作業空間100中に漏出して当該清浄作業空間を汚染する。
【0032】
このように、分子状汚染物質の除去装置としてケミカルフィルタが広く用いられているが、ケミカルフィルタ(A)、(B)、(C)はいずれも吸着容量が限られており、定期的に交換する必要がある。又、寿命となっていなくても、有機物やアンモニアを漏出させるから、交換する必要がある。そして寿命となったケミカルフィルタは吸着能力を再生することが困難であるため、最終的には廃棄せざるを得ない。即ち、産業廃棄物となる。しかしながら、最近の環境保全の観点からは産業廃棄物の削減が社会から強く要請されているゆえ、ケミカルフィルタのような使い捨てタイプのものから、繰返し再生使用できて高純度空気に調整可能な装置の開発が強く求められている。
【0033】
そのため、最近では、ケミカルフィルタを用いない、再生可能な吸着材を用いて吸着と再生が同時に行えて、半永久的に使用可能な空気清浄化装置乃至高純度空気調製装置が提案されるに至っている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0034】
【特許文献1】特開2001―141274号公報
【特許文献2】特許第3320730号公報
【特許文献3】特許第3078697号公報
【特許文献4】特許第3744614号公報
【特許文献5】特開2004−223488公報
【非特許文献1】2005年度半導体製造装置技術ロードマップ報告書(日本半導体製造装置協会発行)
【0035】
この空気清浄化装置は、ゼオライトを主成分とするハニカム状積層体を円筒上に形成して、その軸線方向に空気が通過するように構成したハニカム積層体ロータと当該ロータをその軸線周りに回転する駆動手段を備えたものである。そしてハニカム状積層体ロータが回転する空間は、軸線周りに吸着部、再生部、冷却部に区分されている。つまり、吸着部、再生部、冷却部が順次移動していくことになり、これが連続的に繰り返えされるようになっている。
【0036】
この空気清浄化装置においては、処理空気(汚染物質を含有する空気)をハニカム状積層体の吸着部に通じて清浄化してクリーンルームに供給すると同時に加熱した空気を再生空気としてハニカム状積層体の再生部に送り、吸着部で吸着させた分子状汚染物質を加熱空気中に脱離して排出させている。
【0037】
処理空気は、送風機を稼動させて、クリーンルーム内空気を装置内に導入している。そして導入した空気(処理空気)は、処理空気ダクト内を流下して、ハニカム状積層体ロータへ送られ清浄化されてクリーンルームに循環供給される。この空気清浄化装置においては、外気供給手段から一部の外気が取入れられ、処理空気に混入されている。
【0038】
つまり、一部の外気を混入させた処理空気がハニカム状積層体ロータの軸線方向の一方向側から他方側に通過する間で分子状汚染物質が吸着部で吸着除去される。そして吸着材によって清浄化された処理空気は、除塵フィルタを通過して粒子状汚染物質を除去してクリーンルームに循環供給されている。前述したように、大気中には極めて多種類の有機性分子状汚染物質、アンモニアやアミン類の塩基性分子状汚染物質及びNOx、SOx等の酸性分子状汚染物質が混在している。
【0039】
又、清浄作業空間では、様々な有機性物質や塩基性物質が取扱われており、特に、近時はトリエチルアミン(TEA)やトリメチルアミン(TMA)やN−メチルピロリドン(NMP)等の塩基性であって且つ有機性の物質、シランカップリング剤やシリル化剤等の有機珪素化合物、さらには、シンナ類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、乳酸エチル、シクロヘキサノン、ディメチルスルホキシド(DMSO)等の有機性物質もしばしば取扱われている。それらは分子状汚染物質となって清浄空気中に混入する。したがって、処理空気中には炭化水素系の有機性に限らず、アンモニアを代表とする塩基性物質、Cl-、SOx、NOx、F-の酸性物質、アミン類の塩基性であって且つ有機性物質、さらには、有機珪素化合物の分子状汚染物質が存在することになる。
【0040】
したがって、それらの分子状汚染物質を効率良く吸着除去するためには、ハニカム状積層体に担持させる吸着部材であるゼオライトの弱疎水性と強疎水性の割合を変える必要があるだけでなく、ハニカム状積層体ロータの吸着部で吸着除去が困難な分子状汚染物質が存在する際には、その空気清浄化装置とクリーンルームとの間にさらにケミカルフィルタを設置して除去することが記載されている。このように、特許文献1に記載の空気清浄化装置は、吸着ロータと産業廃棄物となるケミカルフィルタ(化学吸着フィルタ)を併用する装置である。
【0041】
他方、クリーンルーム排ガスを導入して分子状汚染物質を吸着除去する吸着材として従来から知られている活性炭、シリカゲル、モレキュラシーブ、ゼオライト等の吸着材を用いて、排ガス中の非メタン系炭化水素を0.2ppm以下まで吸着除去する清浄気体の調製方法及び調製装置が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0042】
前記した特許文献2に示されるクリーンルーム排ガスからの清浄気体の調製方法には、非メタン系炭化水素系の分子状汚染物質の吸着除去には有効であることが記載されているが、排ガス中に混在している塩基性分子状汚染物質の除去並びに酸性分子状汚染物質、塩基性且つ有機性の分子状汚染物質の除去に適用できる吸着材に関する記載はない。
【0043】
又、半導体ウエハやガラス基板の処理工程で必要とする機器を収容したクリーンルームに循環供給する清浄空気の調製方法としてゼオライトや活性炭を添加した吸着材で構成されるロータ式空気清浄化装置を用いて処理空気中の有機性分子状汚染物質であるオレフィン、パラフィン、芳香族、ジオレフイン類の炭化水素を0.1ppm以下に除去する方法が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0044】
前記した特許文献3は、吸着材ロータ式であるから、吸着と再生を同時並行して繰返し操作できる。しかしながら、環境大気中に有機性分子状汚染物質と共に混在している塩基性分子状汚染物質や酸性分子状汚染物質および清浄作業空間の加工作業に使用されて有機性分子状汚染物質と共に清浄空気中に混入する塩基性分子状汚染物質及び塩基性且つ有機性の分子状汚染物質の除去に適用できる繰返し吸着と再生が可能な吸着材や装置及び連続安定に除去可能な方法に関する言及はない。
【0045】
特に、最先端の半導体製造において使用するドライ(乾燥)の高純度空気中の汚染物質の濃度は、代表的な塩基性分子状汚染物質であるアンモニアは濃度0.1ppb以下即ち0.1μg/m3以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算で22ppb以下即ち22μg/m3以下、又代表的な酸性分子状汚染物質であるSOxはSO4換算で0.1ppb以下即ち0.1μg/m3以下が要求されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0046】
つまり、代表的な塩基性分子状汚染物質であるアンモニアの除去に関しては、特許文献1に記されている清浄化空気中の濃度よりさらに低減させられる高選択率をもった吸着材が必要であり、又有機性分子状汚染物質の除去に関しては、特許文献3に記されている清浄化方法よりも一層除去率を向上させて確実にヘキサデカン換算で22ppb以下を達成させられる清浄化方法が必要である。
【0047】
さらに環境大気中に有機性分子状汚染物質と共に本来混在している塩基性及び酸性の分子状汚染物質についても又、加工作業に使用されて清浄空気中に混入する有機性、塩基性、又は、塩基性且つ有機性の分子状汚染物質についても繰返し再生可能な吸着材や装置を用いた長期間に亘って連続安定に循環供給可能な清浄化方法の開発が望まれている。さらに、又、Cl-、F-、H2S、有機珪素化合物をも除去して高純度空気に調製する方法の開発が望まれている。
【0048】
又、再生可能な吸着材として、陽イオン交換フィルタと陰イオン交換フィルタと両イオン交換フィルタを設置した高純度気体供給設備について提案がされている(例えば、特許文献4を参照。)。当該方法は、イオン性の汚染物質の除去には有効な方法であるが、通常、イオン性の汚染物質とともに混在する非イオン性の汚染物質が除去できる再生可能な吸着材とその再生方法については言及はない。さらに、陽イオン交換フィルタと陰イオン交換フィルタの再生は薬液を用いる湿式再生であるから、処理空気を流す管路であるイオン除去ライン以外に、再生ライン、洗滌ライン、乾燥ラインの3ライン、計4ラインの管路を設ける必要がある。加えて、連続してクリーンルームに高純度の空気を供給するためには、陽イオン交換フィルタ、陰イオン交換フィルタそれぞれを複数系統設置せざるを得ないから、極めて複雑な管路と多数の分岐/合流箇所を備えた高純度気体供給設備となる。のみならず、薬液を用いる再生であるため、再生後のイオン除去ラインと陽イオン交換フィルタと陰イオン交換フィルタの乾燥に長時間に亘る大量のエネルギが必要となる。
【0049】
さらに又、ケミカルフィルタの再生方法として有機物や酸やアルカリの汚染物質を、多孔質材とその表面に薬剤を添着した添着層に吸着させ、純水を用いて調整したアルカリ性水溶液、酸性水溶液、オゾン水溶液の3種の再生用水溶液を用いて再生する通液工程と有機物のみの脱離は加熱空気で再生する加熱パージ工程で行う方法が提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。この方法によると、再生時には、被吸着物質を脱離させるだけでなく、添着層も脱離して、添着し直す添着層再形成工程が必要である。添着層再形成にも水溶液を使用するから、装置内を乾燥させるため、乾燥工程が必要となる。つまりこの方法も4工程の操作と工程毎に管路を切換える煩雑な作業が必要である。さらに、装置内の乾燥に長時間に亘る大量のエネルギを必要とすることは避けられない。
【0050】
(回分式温度スイング吸着装置)
次に、処理空気を、従来技術による回分式温度スイング吸着装置(以下、回分式TSA装置という)に通じた際に生起する技術課題について図を参照しながら説明する。図4は従来技術による回分式TSA装置120の構成図である。図4には吸着モードが(A)系統、したがって再生モードが(B)系統の場合を示した。
【0051】
処理空気は処理空気導入口41から流入して分岐/合流継手T1から開閉弁V1、分岐/合流継手T2を経て吸着材ユニット(A)43Aに流入する。吸着材ユニット(A)43Aにて塩基性分子状汚染物質や有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質が吸着除去される。
【0052】
即ち、処理空気は吸着材ユニット(A)43Aを通過する間で清浄化され、分岐/合流継手T3、開閉弁V2、分岐/合流継手T4を経て清浄空気送出口50に流入する。このとき開閉弁V1、V2は開弁状態であるが、開閉弁V4、V5、V6、V3は閉弁状態である。
【0053】
一方、再生空気は屋内又は屋外の空気を再生空気取入れ口51から取入れて、再生空気加熱部57に流入させる。即ち、再生空気は、再生空気フィルタ58を経て再生空気送風機52、再生空気予熱器54、再生空気加熱器55を流下する。ついで分岐/合流継手T8、開閉弁V7、分岐/合流継手T5を経て吸着材ユニット(B)43Bに流入する。再生モードの加熱時間帯には再生空気加熱器55に通電する。
【0054】
したがって、吸着材ユニット(B)43Bは再生空気によって加熱されるから吸着モード時に吸着した塩基性分子状汚染物質や有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を脱離する。吸着材ユニット(B)43Bを流出した再生空気は、分岐/合流継手T6、開閉弁V8、分岐/合流継手T7を経て再生空気予熱器54に流入する。再生空気予熱器54では高温の再生空気のもつ余剰熱で低温の再生空気を予熱する。そして高温の再生空気は冷却空気は排出空気となって再生空気排出口56から排出される。
【0055】
又、再生モードの冷却時間帯には、再生空気加熱器55に通電しない。したがって、吸着材ユニット(B)43Bは再生(冷却)空気によって冷却されて、処理空気の温度に近づけて吸着モードの切換えに備える。再生モードが(B)系統の場合、開閉弁V7、V8は開弁状態にある。
【0056】
このように、吸着材ユニットを2系統備える従来の回分式TSA装置においては、吸着と再生のモードを同時に実行して連続的に清浄空気を供給しようとすると、処理空気,再生空気、清浄空気、排出空気相互の混入を防止して(A)系統吸着材ユニット(A)43A、(B)系統吸着材ユニット(B)43Bのそれぞれと、それらの空気の流れるダクトを接続する必要がある。そのため吸着材ユニットの上流側には処理空気又は排出空気が流れる2系統のダクト並びに処理空気を取入れて(A)系統と(B)系統のそれぞれの吸着材ユニットへ分岐する分岐/合流継手T1、排出空気を(A)系統と(B)系統から再生空気排出口56へ導くダクトに接続するダクトの分岐/合流継手T7及びそれぞれの両側にダクト回路を開閉するためのV1、V4、V5及びV8を配置する必要がある。
【0057】
又、吸着材ユニットの下流側には清浄空気又は再生空気が流れる2系統のダクト並びに清浄空気を取出す(A)系統ダクトと(B)系統ダクトから清浄空気送出口50へ導くダクトに接続するダクトの分岐/合流継手T4、再生空気を導き(A)系統と(B)系統のそれぞれの吸着材ユニットへ送出する分岐/合流継手T8及びそれぞれの分岐/合流継手の両側に設置してダクトを開閉するための開閉弁V2、V3、V6及びV7を配置する必要がある。
【0058】
さらに、(A)系統ダクトから排出空気ダクトへ、又は(B)系統ダクトから排出空気ダクトへ再生空気が流れるように分岐/合流継手T2、T6が、再生空気ダクトから(A)系統ダクトへ、又は再生空気ダクトから(B)系統ダクトへ再生空気が流れるように分岐/合流継手T3、T5が必要である。結局、吸着材ユニット(A)43A及び吸着材ユニット(B)43Bの上流側と下流側のそれぞれに2系統、計4系統のダクトと計8基の開閉弁と計8基の分岐/合流継手が必要である。
【0059】
このため、極めて複雑で長いダクトの「引きまわし」が必要となる。ここで、本発明が対象としている清浄作業空間で使用されるダクトは、径が50mm程度の小配管ではない。例えば、500mmの正方形の断面ダクト(処理空気量100m3/minの場合、約8m/sの流速で流すためには正方形断面のダクトの寸法は500mmとなる。)したがって、仮にこの「引きまわし」が30mであったならば、ダクトのみで6.2m3の占有空間が必要となる。処理空気量が20m3/minの場合は同じく約8m/sの流速、且つ30mの引きまわしでは、ダクトのみで1.3m3の占有空間が必要となる。
【0060】
つまり、常圧下にある空気が流れるダクトの占有空間は、実際は莫大なものであって、これにダクトの分岐/合流継手や、ダクトの重なり、交叉、曲がり、拡大(縮小)、開閉弁、断熱材の装着等のために必要な空間が加わるから、装置全体としての占有空間は極めて大きなものとなる。
【0061】
これが吸着材ユニットを2系列備える回分式TSA装置をコンパクトにするのを困難にしている第1の理由である。
【0062】
吸着モードを(A)系統から(B)系統へ、再生モードを(B)系統から(A)系統へ切換える場合は、開弁状態にある開閉弁V1、V2、V7及びV8を閉弁状態へ、閉弁状態にある開閉弁V4、V5、V3及びV6を開弁状態に切換えることになる。逆に吸着モードを(B)系統から(A)系統へ、再生モードを(A)系統から(B)系統へ切換える際は、開閉弁V1、V2、V7及びV8を閉弁状態から開弁状態へ、開閉弁V4、V5、V3及びV6開弁状態から閉弁状態に切換えることになる。
【0063】
さらに、吸着モードと再生モードの切換えは、処理空気と清浄空気の流れを停止させることなく、圧力損失が小さくて口径の大きい開閉バルブ8基を同時に動作を開始させ、且つ、同時に動作を停止させる必要があり、しかも動作時間を可能な限り短時間とする必要がある。
【0064】
しかしながら、8基全ての開閉弁を同時に動作を開始させて、同時に動作を停止させ、且つ、短時間で動作させることは極めて困難である。いずれかの開閉弁にわずかな遅れがあると、清浄空気の流量と圧力が変動する大きな問題がある。
【0065】
もしも、上記したような切換え時において、清浄空気の流量と圧力が変動することになった場合は、加工製品の歩留まりを著しく低下させる大きな要因となる。
【0066】
さらに他の問題は、図4の従来技術による回分式TSA装置において、吸着モードと再生モードの切換えの際には、8基の分岐/合流継手と8基の開閉弁との間にあるダクト内の空気はその開閉弁を閉弁状態とした場合はその流れが停止するから、次の開弁となるまでの間はそのまま滞留する淀み箇所となることである。図4には淀み箇所となるダクトを破線で示した。
【0067】
例えば開閉弁V4と分岐/合流継手T6との間のダクトは再生開始直後の高濃度の脱離した汚染物質を含む排出空気が滞留する淀み箇所となるから、切換え後の清浄空気中の汚染物質濃度に影響するという問題がある。又、分岐/合流継手T1と開閉弁V4との間のダクトも開閉弁V4の開閉動作に遅れがあると再生開始直後の高濃度の脱離した汚染物質を含む排出空気が滞留する淀み箇所となる。
【0068】
さらに又、図4の再生モードの冷却時間帯においては、屋内又は屋外から空気を取入れて再生空気としているから、その再生空気にはアンモニアは3〜5ppb含まれており、そのうちのいくらかは金属壁面に付着する。しかし再生空気中のアンモニアは到底、0.1ppb以下とならないから、分岐/合流継手T5と吸着材ユニット43Bとの間のダクトは、再生空気中のアンモニアによって汚染され、切換え後の清浄空気中のアンモニア濃度が変動することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0069】
以上詳述したとこらから明らかなように、ドライな高純度空気は、大量のエネルギを消費して製造された極めて高価な空気であり、又、図5に示したように、高純度空気調製装置としてケミカルフィルタを用いると、定期的に新品に取替えるという大懸りな取替え作業が発生する。加えて、その作業を行う際には必然的にクリーンルーム等の清浄作業空間内の加工作業を停止せざるを得ないという問題が発生し、さらに産業廃棄物が発生するという環境問題が生じている。さらに、取替え作業終了後、高純度空気の雰囲気下に復旧させるクリーンアップ作業が必要であるから加工作業の停止はなお継続させる必要がある。この間の経済的損失とエネルギの浪費問題も同時に発生する。
【0070】
又、定期的な新品との取替え以外にケミカルフィルタ(C)の吸着容量が僅かとなった時点で、処理空気中に混在している分子量の大きい有機性分子状汚染物質が吸着する際、吸着サイトに先に吸着している分子量がそれより小さい有機性分子状汚染物質を追い出す現象、及び有機珪素化合物がケミカルフィルタ(C)の吸着サイトで加水分解され、シリカ(SiO2)を残留させて失活させるため予定寿命を大幅に短縮させる現象、によってもケミカルフィルタ(C)の取替え作業が発生する。
【0071】
他方、一定の加工量を維持しようとすると、予備の清浄作業空間を設置せざるを得ず、設備投資が増大するという問題がある。加えて、塩基性、有機性、酸性の分子状汚染物質の捕集・除去率は加工製品の歩留まりに大きな影響を及ぼすため、常時モニタする必要がある。清浄作業空間の大きさにもよるが、ケミカルフィルタは多数箇所に設置されており、個々のケミカルフィルタの管理とモニタ要員の確保とモニタ装置の導入と設置は不可欠となる。これによる加工製品のコストアップも不可避である。
【0072】
以上の説明から、空気清浄化装置としてケミカルフィルタを用いた場合、加工製品のコストアップと環境問題とエネルギー浪費とを誘発している。それゆえ、ケミカルフィルタを用いる方法を改変する方法、即ち、ケミカルフィルタを用いない方法の創出が強く要請されている。
【0073】
他方、特許文献1及び特許文献3で提案されている再生可能な吸着材を用いて吸着と再生が同時に行えて、半永久的に使用可能な吸着材ロータによる空気清浄化装置には次の問題がある。
第1に、長いダクトの引きまわしが必要であると同時に吸着材ロータの断面とダクトの断面の形状が全く相違するため複雑な構造形状の継手が多数必要となる。したがって、コンパクトな装置とすることが困難である。
第2に、それらの継手端面と吸着材ロータ端面の摺動箇所からの処理空気、再生加熱空気、再生(冷却)空気の漏洩を防止できない。
【0074】
第3に吸着材ロータは吸着、再生、冷却の3区域に区画する必要があり、それらの区域に流速乃至流量、温度、圧力、流れ方向、汚染物質の質(有機性、塩基性、酸性)と濃度の各々が相違する処理空気、再生加熱空気、再生(冷却)空気の混入を防止することは極めて困難である。
第4に再生加熱空気、再生冷却空気も連続して流すためエネルギ消費量が多い。
【0075】
又、特許文献4で開示されている高純度気体供給設備は、イオン性の分子状汚染物質の除去に対してのみ再生可能な吸着材とその再生方法は有効であるが、混在する非イオン性のシンナ類、EGMBE、PGMEA、MIBK、乳酸エステル等の様に炭化水素系有機物に対しては、従来のケミカルフィルタ(C)を使用せざるを得ないという問題がある。
【0076】
加えて、陽イオン交換フィルタ、陰イオン交換フィルタ、両イオン交換フィルタそれぞれにイオン除去ライン、再生ライン、洗浄ライン、乾燥ラインの計4ラインの管路を必要とするから、極めて複雑な管路を配設することになる。そして、それぞれの内部を4つの区域に区画する複雑な構造にせざるを得ないという問題がある。
【0077】
又、高純度空気を断続させることなく連続的に供給する場合、陽イオン交換フィルタ、陰イオン交換フィルタ、両イオン交換フィルタは複数系統設置せざるを得ない。さらに、薬液、水、排液、乾燥空気等に様々な設備が必要となる。このように特許文献4の提案は膨大な投資を伴うという問題がある。
【0078】
加えて、湿式再生を行うから、再生・洗浄後にフィルタ内に残留する水分を蒸発させ、乾燥させ、冷却させる必要があり、これら一連の操作にも莫大なエネルギを要すると共に、蒸発と乾燥と冷却に長時間を要するという問題がある。
【0079】
一方、特許文献5で開示されているケミカルフィルタの再生方法は、多孔質材の表面に薬剤を添着させて形成した添着層に汚染物質を吸着させ、飽和後の添着層の再生は吸着した汚染物質が有機物の場合は、加熱空気で行うが、吸着した汚染物質が酸性やアルカリ性の場合は、それぞれアルカリ水溶液、酸性水溶液、オゾン水溶液の3種の薬剤水溶液を使用する。この場合は、添着層も脱離して、再生時に添着層を再形成することも行う。結局、吸着除去、加熱パージ、被吸着物脱離、添着層再形成、装置内乾燥の5工程の操作が必要となる煩雑な操作を伴う装置である。
【0080】
なお、特許文献5においては言及されていないが、冷却まで含めると6工程の操作と3種の薬剤水溶液と加熱空気が必要である。それゆえ、明確な言及はないもののケミカルフィルタを取付けた場所で再生まで行うとすると、極めて複雑な管回路を形成させる必要がある。又、連続的に清浄化空気を供給しようとすると、ケミカルフィルタを複数系列以上設置する必要がある。又、吸着除去以外の5工程の操作を1基のケミカルフィルタで実行することになるから、ケミカルフィルタの構造が複雑となることは避けられない。又、廃液処理設備も必要である。
【0081】
つまり、特許文献5で開示されたケミカルフィルタの再生方法も、特許文献4と同様に、多額の投資は避けられず、又、エネルギを多く消費する乾燥工程が存在するという問題がある。
【0082】
しかしながら、単に従来技術による回分式TSA装置を用いたのでは、きわめて複雑で長い引きまわしダクトが必要となり、装置をコンパクトにするのを阻むため、莫大な設備投資が避けられない。加えて、4個の大口径開閉弁を開から閉へ、他の4個の大口径開閉弁を閉から開へ同時に作動させる困難性とそれに伴う流量変動と圧力変動は避けられず、さらに吸着モード切換え後には、淀み箇所からの高濃度の分子状汚染物質の清浄空気中への混入問題、即ち、分子状汚染物質の濃度変動問題も発生する。
【0083】
本発明は前述の事実に鑑みてなされたものであって、調温調湿されたクリーンルームやクリーンチャンバやミニエンバイロメント等の清浄作業空間からの排気を処理空気として取入れて、その処理空気中の粒子状汚染物質、塩基性分子状汚染物質、有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質及び塩基性且つ有機性の分子状汚染物質、有機珪素化合物系の分子状汚染物質を含有する排気を高純度空気に調製するに際して、当該清浄作業空間の加工作業を停止させることなく、粒子状汚染物質を清浄度クラスに応じた除去と加湿冷却加温装置と吸着材を用いてアンモニアは0.1ppb以下、窒素酸化物(NOx)は1ppb以下、硫黄酸化物(SOx )は0.2ppb以下、塩素イオン(Cl-)及び弗素イオン(F-)はそれぞれ0.1ppb以下、アミン類を含む有機物質はヘキサデカン換算で3ppb以下、有機珪素化合物は検出限界以下にする除去による高純度空気に調製して、さらに精密に調温調湿して当該清浄作業空間で行う加工作業に好適な空気にして、当該清浄作業空間に長期間に亘って連続安定に循環供給する方法を提供して、前述の問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0084】
〔1〕本発明にしたがえば、清浄作業空間から排気を取入れて、処理空気とし、当該処理空気中の粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を行って高純度調温調湿空気に調製して、清浄作業空間に循環供給するにあたり、当該処理空気を加湿冷却加温装置に取入れて、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置(回分式TSA装置)に通じて、粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を実施することを特徴とする高純度空気の調製方法が提供される。
【0085】
また本発明にしたがえば、清浄作業空間から排気を取入れて、処理空気とし、当該処理空気中の粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を行って高純度調温調湿空気に調製して、清浄作業空間への循環する供給装置であって、加湿冷却加温装置と回分式温度スイング吸着装置とからなり、当該処理空気を当該加湿冷却加温装置に取入れて、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置(回分式TSA装置)に通じて、粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を実施することを特徴とする高純度空気の調製装置が提供される。
【0086】
〔2〕また、本発明にしたがえば、〔1〕の方法において、前記加湿冷却加温装置は、処理空気導入口における処理空気の流速乃至流量、温度及び関係湿度を計測する計測手段、前記計測手段を用いて得られる計測値を入力して加湿断熱冷却によりその処理空気を水分で飽和させるに必要な加湿水量を演算させる演算手段、その処理空気が流れる管路中に設置してその流れと同方向に加湿水と空気とを噴出させる2流体ノズル、その2流体ノズルの下流に設置した冷却器、その冷却器の下流に設置した加温器並びに当該管路外に設置した加湿水槽と空気圧縮機と凝縮水槽と冷凍機ユニット、前記演算手段を用いて得られる演算値を変換した制御信号により作動する加湿水ポンプ及びそれらを接続する配管から構成された装置であって、純水乃至超純水を用いたことを特徴とする〔1〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0087】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記加湿冷却加温装置は、処理空気導入口における処理空気の流速乃至流量、温度及び関係湿度を計測する計測手段、前記計測手段を用いて得られる計測値を入力して加湿断熱冷却によりその処理空気を水分で飽和させるに必要な加湿水量を演算させる演算手段、その処理空気が流れる管路中に設置してその流れと同方向に加湿水と空気とを噴出させる2流体ノズル、その2流体ノズルの下流に設置した冷却器、その冷却器の下流に設置した加温器並びに当該管路外に設置した加湿水槽と空気圧縮機と凝縮水槽と冷凍機ユニット、前記演算手段を用いて得られる演算値を変換した制御信号により作動する加湿水ポンプ及びそれらを接続する配管から構成された装置であって、純水乃至超純水を用いたことを特徴とする高純度空気の調製装置が提供される。
【0088】
〔3〕また、本発明にしたがえば、〔1〕または〔2〕の方法において、前記加湿冷却加温装置において処理空気中に含まれる汚染物質であるF-、Cl-、H2Sを含む酸性分子状汚染物質、シランカップリング剤やシリル化剤を含む有機珪素化合物からなる分子状汚染物質を2流体ノズルから噴出させた加湿水により捕集し、冷却器にて凝縮除去する〔1〕1又は〔2〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0089】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記加湿冷却加温装置において処理空気中に含まれる汚染物質であるF-、Cl-、H2Sを含む酸性分子状汚染物質、シランカップリング剤やシリル化剤を含む有機珪素化合物からなる分子状汚染物質を2流体ノズルから噴出させた加湿水により捕集し、冷却器にて凝縮除去する高純度空気の調製装置が提供される。
【0090】
〔4〕また、本発明にしたがえば、〔2〕の方法において、前記冷却器は、その冷却器を流出する処理空気の温度を4〜17℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする〔2〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0091】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記冷却器は、その冷却器を流出する処理空気の温度を4〜17℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする高純度空気の調製装置が提供される。
【0092】
〔5〕また、本発明にしたがえば、〔2〕に方法において、前記加温器は、その加温器を流出する処理空気の温度を15〜30℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする〔2〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0093】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記加温器は、その加温器を流出する処理空気の温度を15〜30℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする〔2〕記載の高純度空気の調製装置が提供される。
【0094】
〔6〕また、本発明にしたがえば、〔1〕の方法において、前記回分式温度スイング吸着装置は処理空気中の塩基性分子状汚染物質と有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統と、前記塩基性分子状汚染物質、有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着した吸着材に、屋内又は屋外から取入れた再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統とを、並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に当該再生空気を加熱する再生空気加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰り返す(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えたことを特徴とする〔1〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0095】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記回分式温度スイング吸着装置は処理空気中の塩基性分子状汚染物質と有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統と、前記塩基性分子状汚染物質、有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着した吸着材に、屋内又は屋外から取入れた再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統とを、並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に当該再生空気を加熱する再生空気加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰り返す(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えたことを特徴とする高純度空気の調製装置が提供される。
【0096】
〔7〕また、本発明にしたがえば、〔6〕の方法において、前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されていることを特徴とする〔6〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0097】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されていることを特徴とする〔6〕記載の高純度空気の調製装置が提供される。
【0098】
〔8〕また、本発明にしたがえば、〔6〕の方法において、前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであることを特徴とする〔6〕記載の高純度空気の調製方法が提供される。
【0099】
また、本発明にしたがえば、前記装置において、前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであることを特徴とする高純度空気の調製装置が提供される。
【0100】
なお、本発明の加湿冷却加温装置で使用する加湿水の水質は、半導体製造又は液晶ディスプレイ製造に適合する純水乃至超純水レベルの純度を保有していることが望ましい。そして、前記加湿冷却加温装置において、処理空気に含まれる酸性物質、有機珪素化合物を2流体ノズルから噴出させた高純度の加湿水によって捕集して、冷却器において凝縮させて除去するものである。
【発明の効果】
【0101】
本発明のクリーンルーム排気を高純度空気に調製する方法は、ケミカルフィルタを使用せずに、処理空気中の分子状汚染物質であるアンモニアは0.1ppb以下、窒素酸化物(NOx)は1ppb以下、硫黄酸化物(SOx)は0.2ppb以下、塩素イオン(Cl-)及び弗素イオン(F-)はそれぞれ0.1ppb以下、アミン類及び有機珪素化合物を含む各種有機物をヘキサデカン換算で3ppb以下まで長期に亘り連続安定に除去できる。産業廃棄物の大幅削減と云う環境改善に貢献することができる。
【0102】
又、本発明においては、ケミカルフィルタを使用しないため、寿命となったケミカルフィルタを新品と取替えるという大懸りな作業が無用となり、クリーンルーム内に設置されている装置の操業を停止させる必要もなく、又、特許文献5記載のケミカルフィルタを薬剤水溶液によって再生する際に不可避である長時間に亘る莫大な乾燥エネルギは無用となり、汚染された清浄作業空間を高純度空気の雰囲気下に回復させるために要していたクリーンアップエネルギも無用となるという製品の製造コストに占める変動費を低減させる経済効果をもたらすことができる。
【0103】
又、本発明においては、ケミカルフィルタを使用しないため、予備の清浄作業空間即ち予備のクリーンルーム等は無用となり、アンモニアをはじめとする分子状汚染物質をモニタする必要はなくなり、モニタ装置と要員が不要となるという製品の製造コストに占める固定費を低減させる大きな経済的効果をもたらすことができる。
【0104】
さらに、本発明のクリーンルーム排気を高純度空気に調製する方法によると、半永久的に連続安定して調温調湿した高純度空気が供給できるので操業度の向上と製品の歩留まり向上に寄与することができる。したがって、製品の製造コストの大幅低減に貢献することができる。加えて、清浄作業空間からの排気を処理空気として取入れて粒子状汚染物質と分子状汚染物質の除去を行い、調温調湿を行って、その清浄作業空間に循環供給するから、その供給量と同量の清浄作業空間内の空気を系外へ排出した1パス使い捨て方式に要した莫大なエネルギに比べ本発明のクリーンルーム等の清浄作業空間向けの調温調湿エネルギは格段に削減できる。
【0105】
さらに、本発明によれば、清浄作業空間からの排気中に含まれているCl-、F-、極く稀にH2S等の酸性分子状汚染物質及び又はシランカップリング剤やシリル化剤や清浄作業空間構造部材や収容されている装置機器の部材から発生する有機珪素化合物に関しては水への溶解性乃至水との反応性を利用して、アンモニア、アミン類、炭化水素化合物、NOx、SOx等を吸着除去するに先立って水分で飽和させるに必要な加湿水量の1.0〜1.2倍の水と圧縮空気を噴出させる2流体ノズルを用いて20μm以下の多数の霧滴を発生させる加湿断熱冷却によって過飽和状態を実現させ、次いで冷却器に通じて凝縮させる方法により高効率で連続安定に除去できる。
【0106】
又、本発明によれば、循環空気ダクト104(図1)に高性能フィルタ(1)15(図1及び図4)を設置したのに加え、清浄作業空間からの排気を処理空気としたから、粒子状汚染物質の濃度は既に極めて低減されており一旦取付けた高性能フィルタ(2)106(図1)は長期に亘り連続して安定に使用できる。さらに、たとえ高性能フィルタ(1)15や除塵フィルタ(1)102(図1)を取替えるとしても清浄作業空間内の操業を停止する必要はない。
【0107】
本発明における加湿冷却加温装置は、Cl-、F-、H2Sの酸性分子状汚染物質と有機珪素化合物を加湿水により捕集・除去し、さらに冷却器は清浄作業空間で要求される関係湿度に相当する露点温度で制御する機能を有し、且つ、加温器は基板処理工程の清浄作業空間で要求される温度に制御する機能を有し、且つ、加温器は清浄作業空間で要求される温度に制御する機能を有しているから、従来はケミカルフィルタ(図5)や吸着材ロータ(特許文献1)で示される空気清浄化装置の下流に設置されていた調温調湿装置60(図5)は無用となり、省エネルギとシステムの簡略化が実現できる。
【0108】
本発明によれば、繰返し再生使用可能であって、且つ、塩基性分子状汚染物質を高選択率で吸着する固体酸層と有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を高選択率で吸着する活性炭層と固体塩基性物質を含有する吸着材層をその固体酸層の上流側に、さらに、有機性分子状汚染物質を高選択率で吸着する活性炭層をその固体酸層の下流側に設けた3層からなる吸着材ユニットを用いたから、塩基性汚染物質であるアンモニアは0.1ppb以下、窒素酸化物(NOx)は1ppb以下、硫黄酸化物(SOx)は0.2ppb以下、塩素イオン(Cl-)及び弗素イオン(F-)はそれぞれ0.01ppb以下、アミン類を含む有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算で3ppb以下、有機珪素化合物は検出限界以下まで長期に亘り連続安定に除去できる。
【0109】
又、本発明においては、ケミカルフィルタ(C)を使用した場合に発生していた分子量の大きな有機性分子状汚染物質が脈動的に流入した際に、先に吸着していた分子量がそれより小さい有機性分子状汚染物質を追い出す現象は、本発明においては吸着材層cを設けたことによって吸着容量を増加させたことに加え、その処理空気と再生空気を用いる吸着/再生試験を行って吸着容量に余裕のある状態にあることを事前に確認した上で吸着モードから再生モードへ、さらに、再生モードから吸着モードへの切換えサイクル時間を設定しているから、本発明においては発生しない。
【0110】
本発明においては、使用する回分式TSA装置は、吸着材ユニットを並列に(A)、(B)2系統と再生機能を備えているから、(A)系統と(B)系統を交互に吸着モードと再生モードを繰返し切換えることによって半永久的に連続して安定にクリーンルーム排気を高純度空気に調製することが可能である。
【0111】
本発明においては、吸着材ユニットに流入する処理空気中には、活性炭及び固体酸の吸着サイトを失活させる有機珪素化合物は微量であるから、吸着材ユニットは長期に亘って連続して安定に塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質を吸着・除去する性能を有する。
【0112】
本発明における回分式TSA装置で用いる再生空気は、屋内空気又は屋外空気を導入したものであり、しかも加熱時間帯には200〜250℃に加熱しているから、脱離後に吸着材に残留する汚染物質の吸着平衡分圧は極めて低いレベルとなる。
【0113】
本発明における回分式TSA装置は、4ポート自動切換えバルブである第1バルブと第2バルブを備えているから、吸着モードと再生モードを交互に切換える際、清浄作業空間への流れは断続することがなく、圧力変動は発生しない。
【0114】
又、本発明における回分式TSA装置はダクトの複雑な引きまわしがないから、装置がコンパクトになり、しかも、ダクトとバルブの間に滞留・淀み箇所が生じないから、吸着モードと再生モードの切換え時においても、定常時においても高純度空気中の分子状汚染物質濃度が増加・変動はなく安定している。
【0115】
本発明においては、処理空気を飽和させるに必要な加湿水は、いずれも清浄作業空間内で行う加工作業に適合する純水乃至超純水を用いることが好ましい。したがってその加工工程におけるその製品の歩留まりは保持される。
【0116】
又、本発明における加湿冷却加温装置と回分式TSA装置に通じて得られる高純度空気は、不純物濃度を、非特許文献1に記載の低い不純物要求値以下まで除去でき、しかも高圧ガス設備を用いない、圧縮エネルギを必要としない低コスト、省エネ且つ大量の排気を高純度とする全く新規な調製方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0117】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は高純度空気雰囲気下で加工作業を行う清浄作業空間100からの排気を処理空気として処理空気導入口1から取入れて、その処理空気の調温・調湿と処理空気中の粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去を行って、高純度調温調湿空気を高純度調温調湿空気供給口2から当該加工作業を行っている清浄作業空間100に供給する本発明の実施の形態の構成図である。
【0118】
この図において、処理空気導入口1と清浄化調温調湿空気供給口2の間には、処理空気が流下する順に加湿冷却加温装置10、回分式温度スイング吸着装置40の二つが配置されている。
【0119】
さらに、加湿冷却加温装置10の構成を図2に示した。加湿冷却加温装置10においては、処理空気の加湿冷却加温を行う。
図2において、屋内空気流入口11から流入させた屋内空気を、除塵フィルタ(1)12に通じて除塵した後、空気圧縮機13により加圧した空気と、加工製品の品質・性能に適合する純水乃至超純水を加湿水として加湿水取入口14から取入れて、加湿水槽18に貯留させ、加湿水ポンプ17により加圧した加湿水とを、処理空気導入口1から導入して、高性能フィルタ(1)15を通過させた処理空気が流れる管路中に設置した2流体ノズル16から処理空気流と同方向に噴出させ、当該加湿水を微粒化させる。
【0120】
本実施の態様においては、加湿水は、体面積平均径20μm以下の霧滴となる様に操作する。このとき、処理空気導入口1における流速乃至流量と処理空気の温度と関係湿度とを計測手段によって計測して、その計測値を入力して、処理空気を加湿断熱冷却により飽和させるに必要な水量の1.0〜1.2倍量の加湿水量を演算手段によって求め、その演算値を変換した制御信号によって作動させる加湿水ポンプ17を用いて、自動的に送水できるように設備する。2流体ノズル16から霧滴を噴出させて加湿した途端に、処理空気は断熱冷却されるから、処理空気導入口1における温度以下に低下して飽和状態の温度になる。そして処理空気中の水分は過飽和状態にあるから、過飽和状態にある霧滴は消滅しないで処理空気流に随伴して、管路中に設置した冷却器21まで到達する。
【0121】
本発明の実施態様においては、最低限純水を用いるが、例えば、LCD製造の分野では超純水が必要とされ、不純物含有量がppbオーダ又はそれ以下が必要となる場合もある。水質もその分野で要求される水質を選ぶことになる。LCD製造では、抵抗率に直接関係する電解質以外に微粒子、生菌、有機炭素、シリカ等を十分除去した純度の高いいわゆる超純水を使用することが好ましい。
【0122】
本発明の実施の態様では、上記したように、加湿断熱冷却により飽和させるに必要な水量の1.0〜1.2倍を用いて霧滴を発生させるから、不飽和条件の水量による霧滴数よりは、はるかに多数の霧滴を発生させ、しかも、霧滴発生時点の不飽和から飽和するまでに霧滴から水が蒸発するから霧滴径は減少する。すなわち、個々の霧滴は不飽和条件の時よりも大きな比表面積を保有することになり、霧滴全数の表面積は莫大となる。したがって、当該多数の霧滴は、2流体ノズル16と冷却器21までの間で、処理空気中の汚染物質の分子と衝突して、それを霧滴の中へ取り込み、効率よく捕集できる状態が実現できる。特に、水に溶解するアンモニア、Cl-、F-、H2S等の酸性物質又はシランカップリング剤やシリル化剤等の有機珪素化合物は、衝突と共に霧滴中に溶解し、霧滴に溶解した状態で冷凍機ユニット19と接続されている冷却器21に到達する。
【0123】
冷却器21に到達した霧滴と過飽和状態の処理空気は、さらに冷却されて4〜17℃の範囲から選ばれた設定温度となる。このため、冷却器21に到達した霧滴と処理空気中の水分の過飽和分は凝縮して凝縮水となって凝縮水槽22に貯留される。このときアンモニアは水より、揮発性が高い(アンモニアの沸点:−33℃、水の沸点:100℃)ため、水が凝縮してアンモニアが気化する精留効果が起こり、アンモニアは処理空気と共に冷却器21を通過して、加温器31に到達する。それゆえ、アンモニアの冷却器21での除去率は、Cl-、F-、H2S、有機珪素化合物等のそれと比較すると低率である。又、水に不溶性の有機物は、アンモニアと同様に加温器31に到達する。
【0124】
水が冷却器21において凝縮する際にも、アンモニア、Cl-、F-、H2S、有機珪素化合物は水に捕集されて凝縮水槽22に貯留される。したがってアンモニアは霧滴によって捕集された分と合わせて凝縮水槽22に貯留される。このうちアンモニアは前述の通り精留効果によって気化(揮発)するか、又は、水中に溶解した酸性物質と中和反応を起こし、中和塩となって凝縮水中に残留する。一方は凝縮水中に溶解した状態にある。しかし有機珪素化合物は、一般的には加水分解を受けて、アンモニアや塩酸と低分子量の炭化水素とシリカに分解される。特に、有機珪素化合物の加水分解は溶解している酸性物質によって促進される。有機珪素化合物の加水分解は冷却器21の伝熱表面でも進行する。
【0125】
このようにシランカップリング剤、シリル化剤等の有機珪素化合物は加水分解によりシリカを生成するから、本発明の清浄化装置を長期に亘って操業させた場合、シリカはスケールとなって冷却器21の表面や凝縮水槽22の内面に付着して、伝熱速度を低下させたり、凝縮水の排出口を閉塞させるゆえ、本発明の実施態様においては、それらの箇所を、例えばフッ素樹脂等のコーティングすることによりスケール付着を防御することが好ましい。
【0126】
冷却器21(図2)を流出する処理空気は、4〜17℃の範囲から選ばれた設定温度に制御されており、その温度を露点とする水分で飽和されている。それゆえ、清浄作業空間で要求される関係湿度に相当する水分に調整される。例えば図1に示す清浄作業空間100で温度23℃、関係湿度45%の空気が要求される場合、設定温度を10.7℃として制御することにより、温度23℃において関係湿度45%となる水分に調整される。
【0127】
次に処理空気を加温器31(図2)に流入させて昇温する。加温器31を流出する処理空気は15〜30℃の範囲から選ばれた設定温度に制御されているから、前記の例では加温器31の設定温度23℃として制御することにより、図3の処理空気取入れ口41を経て回分式TSA装置40に流入する前に調温調湿される。
【0128】
加温器31を流出した処理空気は、処理空気送風機32で回分式TSA装置40を通過するに必要な圧力まで昇圧して、処理空気取入れ口41に流す。次いで、処理空気は図3に示す回分式TSA装置40の第1バルブ42を経て、吸着モードにある(A)系統の吸着材ユニット(A)43Aに流入する。
【0129】
(吸着材層a、b、c)
本発明において、吸着材ユニット(A)43A、吸着材ユニット(B)43Bは、各々a〜cの3層の吸着材層が直列に配列され一体化されている。
第1層は、有機性物質及び酸性物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含有し、通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成した成型物を積層した吸着材層aよりなる。活性炭としては活性コークス、グラファイト、カーボン、活性炭素繊維等が挙げられ、固体塩基性物質としては酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、セピオライト、アルミナ、ゼオライト等が使用可能である。
【0130】
また第2層は、塩基性物質を選択的に吸着する固体酸性物質であるチタンと珪素等の複合酸化物及び酸化バナジウム等を含有し通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成して調製した成形物を積層した吸着材層bよりなる。
さらに又、第3層は、有機性物質を主に吸着する活性炭を含有し、通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成して調製した成形物を積層した吸着材層cよりなる。
【0131】
吸着材ユニット(A)43Aに流入した処理空気からは、吸着材層aを通過する間において、比較的分子量の大きな有機性分子状汚染物質と環境大気に由来するCl-、NOx、SOx等の酸性分子状汚染物質が除去される。次いで吸着材層bを通過する間に、アンモニア並びに塩基性且つ有機性の分子状汚染物質であるTMA、TEA、NMP、他のアミン類が除去され、さらに吸着材層cを通過するに、吸着材層aで吸着除去されないで、なお処理空気中に残存している有機性分子状汚染物質や酸性分子状汚染物質及び吸着材層bで吸着除去されなかったTMA、TEA、NMPが除去される。
【0132】
吸着材ユニット(A)43Aから流出した汚染物質が除去された処理空気中には、具体的には塩基性分子状汚染物質であるアンモニアは0.1ppb以下、窒素酸化物(NOx)は1ppb以下、硫黄酸化物(SOx )は0.2ppb以下、塩素イオン(Cl-)及び弗素イオン(F-)はそれぞれ0.1ppb以下、アミン類及び有機珪素化合物を含む各種有機物をヘキサデカン換算で3ppb以下まで除去されて、高純度調温調湿空気となり、第2バルブ45、清浄空気送出ダクト49を経て、清浄空気送出口50に流入する。
【0133】
次に本発明においては、高純度調温調湿空気を清浄空気送出口50から図1の高純度調温調湿空気送風機101に流入させ、昇圧して、高純度調温調湿空気供給口2を経て清浄作業空間100に供給する。なお、図1に示す様に通常、清浄作業空間100内の高純度調温調湿空気吹出し口105付近には清浄度クラスを最終調整する高性能フィルタ(2)106が設置されており、又、空気取入れ口107付近には除塵フィルタ(2)102、取入れ空気ファン108、さらに、清浄作業空間からの排気を一連の処理装置10、40へ循環させるための循環送風機103、循環空気ダクト104が設置されている。
【0134】
本発明における回分式TSA装置で用いられる第1バルブと第2バルブとしては、本発明の出願人が開示した4ポート自動切換えバルブを使用することが望ましい。詳しくは、特開2006−300394に開示・記載されている内容を取り込んで、本発明を容易に実施することができる。
【0135】
本発明の実施の態様においては、第1バルブ及び第2バルブとして、当該4ポートバルブを使用することが好ましい。当該4ポートバルブは、内部に空間を有する筐体部、当該空間部を4つの小室に区画する開口部を有する枠形仕切板、当該枠形仕切板の開口部を開放又は閉鎖する板状回動弁体並びに当該4つの小室に区画されて存在する気体を常に流入させる流入ポート、流体の流入と流出を交互に行う流入/出ポート(1)、気体を常に流出させる流出ポート及び気体の流入と流出を交互に行う流入/出ポート(2)並びに前記板状回動弁体を回転軸周りに回動させる駆動手段を備えるものである。
【0136】
なお、当該4ポート自動切換えバルブの前記筐体部を構成する部材、及び前記枠形仕切板、前記回転軸、前記板状回動弁体は、好ましくは断熱機能を備え、且つ、いずれも同形状、同サイズ又は同機能を有する4ポート自動切換えバルブであることが好ましい。なお、(A)系統と(B)系統の吸着モード、再生モードの切換えは、この第1バルブと第2バルブを同時に作動させることによって行う。
【0137】
ここで本発明の回分式TSA装置の再生操作について図3を用いて説明する。
吸着モードが(A)系統の場合は、再生モードは(B)系統となるから、(A)系統から第2バルブ45を通って清浄空気送出口50へ流れる清浄空気に対して再生空気取入れ口51から再生空気加熱部57を経て第2バルブ45から(B)系統へ流れる再生空気を1:1から1:0.1の範囲の流量比で流入させる。
【0138】
清浄空気流量に対して再生空気流量が多い程、再生操作は短時間で終了させることができるが、再生空気加熱部57の機器能力を全て大きくする必要があり、回分式TSA装置はコンパクトとならず、装置設備費も嵩む。又、再生空気排出口56は、排ガス処理装置(図示せず)に接続されているから、再生空気流量が多い程、脱離されて来る汚染物質の濃度が希薄となり排ガス処理装置の捕集効率が低下する。
【0139】
さらに、再生空気を150〜220℃に加熱した際には、熱膨張により再生空気の体積流量は常温のそれの1.4〜1.7倍となるから、圧力損失の増大とその際の送風に必要なエネルギは、再生空気量が多い程増大する。逆に清浄空気流量に対して再生空気流量が少ない程、再生操作時間に長時間を要することになるが、再生空気加熱部57の機器能力は大きくする必要はなく、回分式TSA装置はコンパクトに製作できる。当然装置製作費も低減できる。又、排ガス処理装置の捕集効率も向上する。さらに、再生空気を150〜220℃に加熱した際の圧力損失と送風エネルギも少ない。
【0140】
しかしながら、再生空気流量が少ない程、吸着材層中を流れる再生空気量として脱離する被吸着物を追い出すに十分な流速が与えられなくなる。又、同時に偏流や滞留や淀み箇所が吸着材ユニット内やダクト中に発生する。滞留や淀み箇所の分子状汚染物質の濃度は清浄空気中のそれより高濃度であるから、吸着モードに切替えることによって流量の多い処理空気によって押し出され、汚染された空気をクリーンルームに供給することになる。したがって本発明の回分式TSA装置においては、清浄空気に対する再生空気の流量比は1:1から1:0.1の範囲とすることが好ましい。より好ましくは1:0.8から1:0.3の範囲である。
【0141】
本発明において、再生モードは、加熱時間帯と冷却時間帯とから構成されるが、再生モードが加熱時間帯である場合において、再生空気は再生空気取入れ口51から流入して再生空気フィルタ58を経て再生空気送風機52で昇圧されて加熱時間帯には再生空気予熱器54に流入させて、再生モードにある吸着材ユニットからの高温の再生空気と熱交換せしめ、その余剰熱を回収する。それによって再生空気自身は、常温から100〜170℃まで予熱昇温される。次いで再生空気は再生空気加熱器55に流入して150〜220℃の範囲から選ばれた設定温度に加熱されて第2バルブ15から吸着材ユニット(B)43Bに流入する。
【0142】
150〜220℃に加熱された再生空気が吸着材ユニット(B)43Bに流入することによって吸着材は加熱され、前回のサイクルにおいて(B)系統が吸着モードのとき常温状態で吸着材に吸着されていた塩基性、有機性、酸性の汚染物質は脱離され、高温状態の再生空気の気流中に混入する。この際、比較的分子量の大きな有機性の汚染物質とCl-、NOx、SOxの酸性の汚染物質は吸着材層aから脱離され、アンモニア及び塩基性且つ有機性のアミン類の汚染物質は吸着材層bから脱離され、吸着材層aで吸着除去できなかった有機性の汚染物質や酸性の汚染物質及び吸着材層bで吸着除去できなかったアミン類は吸着材層cから脱離される。
【0143】
吸着材ユニット(B)43Bを流出した再生空気は、第1バルブ42を経て再生空気予熱器54で60〜70℃まで冷却されると同時に再生空気取入れ口から取り入れた常温の再生空気を予熱する熱交換が行われて再生空気排出口56から系外に排出される。通常は、再生空気排出口56は集合排ガス処理装置(図示せず)に接続され処理される。
【0144】
次に、再生モードが冷却時間帯となったとき、再生空気送風機52で昇圧された再生空気は再生空気予熱器54と再生空気加熱器55を流れて第2バルブ45から清浄空気ダクト(B)48を経由して吸着材ユニット(B)43Bに流入する。再生モードが冷却時間帯においては、再生空気加熱器55には通電しないから流入した再生空気は常温のまま吸着材ユニット(B)43B、第1バルブ42、再生空気予熱器54、再生空気排出口56を流れる。当然、加熱時間帯から冷却時間帯に切替わった時点は、常温の再生空気は再生空気予熱器54、再生空気加熱器55、第2バルブ45、清浄空気ダクト(B)48、吸着材ユニット(B)43B、再生空気予熱器54、再生空気排出口56を冷却しながら流れる。なお、吸着モードから再生モードあるいは再生モードから吸着モードへの切換え時、本発明の回分式TSA装置においては再生空気を流さない状態でも操作できる。
【0145】
吸着モードにある(A)系統又は(B)系統が再生モードに切替った時点は、加熱時間帯となり再生空気加熱器55に通電されるから、再生空気は清浄空気ダクト(A)47、吸着材ユニット(A)43A、再生空気予熱器54、再生空気排出口56を、加熱しながら流れる。
【0146】
吸着モードが(B)系統となった時、再生モードは(A)系統となるから、処理空気は第1バルブ42、吸着材ユニット(B)43Bを流れて清浄空気となり、第2バルブ45、清浄空気送出口50の順に流れ、再生空気は再生空気取入れ口51、再生空気送風機52、再生空気予熱器54、再生空気加熱器55、第2バルブ45、清浄空気ダクト(A)47、吸着材ユニット(A)43A、第1バルブ42、再生空気予熱器54、再生空気排出口56の順に流れる。
【0147】
図3における清浄空気が流れる第2バルブ45、清浄空気ダクト(A)47、清浄空気ダクト(B)48、清浄空気送出ダクト49、清浄空気送出口50の内面を、好ましくはフッ素樹脂コーティングする。この場合、清浄空気送出口50として内面をフッ素樹脂コーティングした3方弁を取付けることが好ましい。
【0148】
このようなコーティングを施すことによってアンモニアや有機物の金属表面への付着が防止できるから、イニシャルスタート時や操業休止後の再スタート時のクリーンアップ作業を行う際には、第1バルブ42と第2バルブ45の同時作動と処理空気送風機32と再生空気送風機52の作動を定常状態の条件から変更して、加熱した再生空気を第2バルブ45から清浄空気ダクト(A)47に通じることによって、又、第2バルブ45から清浄空気送出ダクト49を経て、清浄空気送出口50に通じることによって、又、第2バルブ45から清浄空気ダクト(B)48に通じることによってクリーンアップできるから、定常状態に入った時点では吸着材ユニットを流出した清浄空気にアンモニア及び又は有機物の混入をなくすことができ、かつ、短時間でクリーンアップ作業が終了する。
【0149】
以上は加工作業において使用されるシランカップリング剤がHMDSに限らず、各種のシランカップリング剤、乃至シリル化剤、例えば、γ−アミノプロピルエトキシシラン、メタアクリルシラン、ビニルシラン、さらには、シリルクロライド類等の有機珪素化合物が使われている。又、クリーンルームの構築部材や製造設備の構成材料であるシリコーン樹脂、シリコーンゴム材、シリコーンシーリング材、シリコーンオイル、シリコーン接着剤等には様々な有機珪素化合物が使用されている。
【0150】
それらの有機珪素化合物は、いずれかの時点で、それの分解物やモノマーとなってアンモニアや塩酸とともに分子状汚染物質となって処理空気中に混入する。又、半導体やLCDの露光工程ではSOxが分子状汚染物質となって混入する場合がある。これらの分子状汚染物質を除去する清浄化にも水との反応性或いは水への溶解性という有機珪素化合物共通の特性が利用できるので本発明の実施形態は適用でき、清浄作業空間に循環供給可能である。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のクリーンルーム排気を高純度空気に調製する方法は、ケミカルフィルタを使用せずに、処理空気中の分子状汚染物質であるアンモニアは0.1ppb以下、窒素酸化物(NOx)は1ppb以下、硫黄酸化物(SOx)は0.2ppb以下、塩素イオン(Cl-)及び弗素イオン(F-)はそれぞれ0.1ppb以下、アミン類及び有機珪素化合物を含む各種有機物をヘキサデカン換算で3ppb以下まで長期に亘り連続安定に除去できる。産業廃棄物の大幅削減と云う環境改善に貢献することができる。
【0152】
また、ケミカルフィルタを使用しないため、ケミカルフィルタを新品と取替えるという大懸りな作業が無用となり、半導体製造コストに占める変動費を低減させる大きな経済効果をもたらすことができるため、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の実施の態様における清浄化装置の構成図である。
【図2】本発明における加湿冷却装置の説明図である。
【図3】本発明における回分式TSA装置の構成図である。
【図4】従来技術による回分式TSA装置の説明図である。
【図5】従来技術による清浄化装置の説明図である。
【符号の説明】
【0154】
1:処理空気導入口
2:高純度調温調湿空気供給口
10:加湿冷却加温装置
11:屋内空気流入口
12:除塵フィルタ(1)
13:空気圧縮機
14:加湿水取入口
15:高性能フィルタ(1)
16:2流体ノズル
17:加湿水ポンプ
18:加湿水槽
19:冷凍機ユニット(1)
21:冷却器
22:凝縮水槽
31:加温器
32:処理空気送風機
40:回分式TSA装置
41:処理空気取入れ口
42:第1バルブ
43A:吸着材ユニット(A)
43B:吸着材ユニット(B)
45:第2バルブ
47:清浄空気ダクト(A)
48:清浄空気ダクト(B)
49:清浄空気送出ダクト
50:清浄空気送出口
51:再生空気取入れ口
52:再生空気送風機
54:再生空気予熱器
55:再生空気加熱器
56:再生空気排出口
57:再生空気加熱部
58:再生空気フィルタ
60:従来の調温調湿装置
61:高性能フィルタ(3)
62:従来の冷却除湿器
63:従来の加温器
64:従来の加湿器
66:調湿水取入口
80:ケミカルフィルタユニット
81:ケミカルフィルタ(A1)
82:ケミカルフィルタ(B1)
83:ケミカルフィルタ(C1)
100:清浄作業空間
101:高純度調温調湿空気送風機(3)
102:除塵フィルタ(2)
103:循環空気送風機
104:循環空気ダクト
105:高純度調温調湿空気吹出し口
106:高性能フィルタ(2)
107:空気取入れ口
108:取入れ空気ファン
110:ファンフィルタユニット
111:ケミカルフィルタ(A2)
112:ケミカルフィルタ(B2)
113:フィルタファン(C2)
114:フィルタファン(2)
115:高性能フィルタ(4)
120:従来技術の回分式TSA装置
T1〜T8:分岐/合流点
V1〜V8:開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清浄作業空間から排気を取入れて、処理空気とし、当該処理空気中の粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を行って高純度調温調湿空気に調製して、清浄作業空間に循環供給するにあたり、当該処理空気を加湿冷却加温装置に取入れて、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じて、粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去と調温調湿を実施することを特徴とする高純度空気の調製方法。
【請求項2】
前記加湿冷却加温装置は、処理空気導入口における処理空気の流速乃至流量、温度及び関係湿度を計測する計測手段、前記計測手段を用いて得られる計測値を入力して加湿断熱冷却によりその処理空気を水分で飽和させるに必要な加湿水量を演算させる演算手段、その処理空気が流れる管路中に設置してその流れと同方向に加湿水と空気とを噴出させる2流体ノズル、その2流体ノズルの下流に設置した冷却器、その冷却器の下流に設置した加温器並びに当該管路外に設置した加湿水槽と空気圧縮機と凝縮水槽と冷凍機ユニット、前記演算手段を用いて得られる演算値を変換した制御信号により作動する加湿水ポンプ及びそれらを接続する配管から構成された装置であって、純水乃至超純水を用いたことを特徴とする請求項1記載の高純度空気の調製方法。
【請求項3】
前記加湿冷却加温装置において処理空気中に含まれる汚染物質であるF-、Cl-、H2Sを含む酸性分子状汚染物質、シランカップリング剤やシリル化剤を含む有機珪素化合物からなる分子状汚染物質を2流体ノズルから噴出させた加湿水により捕集し、冷却器にて凝縮除去する請求項1又は2記載の高純度空気の調製方法。
【請求項4】
前記冷却器は、その冷却器を流出する処理空気の温度を4〜17℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする請求項2記載の高純度空気の調製方法。
【請求項5】
前記加温器は、その加温器を流出する処理空気の温度を15〜30℃の範囲で制御する機能を備えたことを特徴とする請求項2記載の高純度空気の調製方法。
【請求項6】
前記回分式温度スイング吸着装置は処理空気中の塩基性分子状汚染物質と有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統と、前記塩基性分子状汚染物質、有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着した吸着材に、屋内又は屋外から取入れた再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統とを、並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に当該再生空気を加熱する再生空気加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰り返す(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えたことを特徴とする請求項1記載の高純度空気の調製方法。
【請求項7】
前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されていることを特徴とする請求項6記載の高純度空気の調製方法。
【請求項8】
前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであることを特徴とする請求項6記載の高純度空気の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−138977(P2009−138977A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313915(P2007−313915)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(594185097)伸和コントロールズ株式会社 (13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】