説明

高純度金属およびその製造方法

【課題】 不純物金属含有量の極めて少ない高純度活性金属を工業的に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 金属a又は金属a化合物と、不純物金属b又は不純物金属b化合物とを含む原料金属をハロゲンと接触させ、金属aの飽和ハロゲン化物と不純物金属bの飽和ハロゲン化物の混合飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Aと、ハロゲンとの親和力において金属aとハロゲンとの親和力と同じかまたは弱くかつ不純物金属bとハロゲンとの親和力より大きい金属c材料と、混合飽和ハロゲン化物とを接触させ、不純物金属bの飽和ハロゲン化物を不純物金属bの不飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Bと、金属aの飽和ハロゲン化物と不純物金属bの不飽和ハロゲン化物の混合物から不純物金属bの不飽和ハロゲン化物を除去する第2の工程と、金属aの飽和ハロゲン化物を還元して精製金属とする第3の工程とを有する高純度金属の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度金属の製造方法に係り、特に、活性金属の製造において物性の酷似した同属元素、例えば4族のハフニウム、ジルコニウム、チタンや、5族のタンタル、ニオブ、バナジウムを相互に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高純度金属は半導体用素材として多く用いられており、特に近年では、半導体の高集積化や高速度化に伴い、材料の高純度化技術に注目が寄せられており、特に半導体用素材として用いられる4族のチタン、ジルコニウム、ハフニウムや、5族のバナジウム、ニオブ、タンタルなどの活性金属は、高純度であることが要求されている。
【0003】
一般に、金属の高純度化は、溶融金属の蒸気圧の差を利用して相互に分離する方法や、一旦適切な塩に変換し、その塩の精留や、溶媒への溶解度の違いを利用した溶媒抽出等を行う方法によって行われることが多い。
【0004】
しかしながら、同属元素が不純物として含まれる場合、その物性が酷似しているため、溶融金属の蒸気圧の差を利用した方法では事実上分離が不可能であり、また、金属塩にしたとしても物性が似ているため、塩の精留による分離は、非常に精密な温度管理や、何段もの精留を実施する必要がある。
【0005】
現状では、同属元素の分離は、金属塩の溶媒抽出により工業化されているが、この方法も比較的高コストで、環境やエネルギー面での負荷が大きい(例えば、特許文献1および2参照)。
【0006】
そのため、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、及びタンタルなどの活性金属に、同属元素が混入してしまった不良品や、同属元素の金属片などが混入したスクラップ等を再利用する場合、リサイクル工程に非常に大きな無駄が生じているのが現状である。すなわち、同属元素の除去が困難であるため、金属スクラップを原料鉱石に混ぜ、再度製錬工程を経ることによりリサイクルが実施されているため、エネルギー効率が非常に悪かった。
【0007】
なお、タンタル中のニオブの分離方法としては、ニオブとタンタルの塩化物を400〜600℃で水素還元しタンタルと同属元素であるニオブを塩化ニオブ(NbCl)として析出させて分離除去する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−007338号
【特許文献2】特開昭63−235435号
【特許文献3】特開平3−028334号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決するものであって、不純物含有量の極めて少ない半導体用途に適した高純度活性金属を工業的に効率よく製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、
(1)よく似た性質を有する金属(a)と金属(b)の混合飽和ハロゲン化物を、金属(a)と金属(b)の混合物に接触させると、ハロゲンとの親和力の差から、金属(a)または金属(b)のどちらかの不飽和ハロゲン化物が優先的に生成すること
(2)生成した不飽和ハロゲン化物と残りの飽和ハロゲン化物には沸点差があり、蒸留などで金属(a)と金属(b)の分離が可能であること
などを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の高純度金属の製造方法は、金属(a)または金属(a)化合物と、不純物金属(b)または不純物金属(b)化合物とを含む原料金属をハロゲンと接触させ、金属(a)の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物の混合飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Aと、ハロゲンとの親和力において金属(a)とハロゲンとの親和力と同じかまたは弱くかつ不純物金属(b)とハロゲンとの親和力より大きい金属(c)材料と、混合飽和ハロゲン化物とを接触させ、不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物を不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Bと、金属(a)の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の混合物から、不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物を除去する第2の工程と、金属(a)の飽和ハロゲン化物を還元して精製金属(a)とする第3の工程とを有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、上記の方法により不純物金属(b)を1ppm以下に低減したことを特徴とする高純度金属を提供するものである。
【0013】
さらに上記の方法において、工程1、工程2及び工程3を少なくとも2回以上繰り返すことにより不純物金属(b)を10ppb以下に低減したことを特徴とする高純度金属を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高純度金属の製造方法によれば、目的とする金属と不純物金属との混合物において、まず両者を飽和ハロゲン化物とし、続いて不純物金属のみを選択的に不飽和ハロゲン化物に変換することができるので、目的とする金属と不純物金属の両者の物性が酷似していて分離が困難であっても、両者の物性に差異を与えることができ、これにより両者を容易に分離することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
1.第1の工程A
図1は、本発明の第1の工程Aを示す模式図である。図1において符号10は反応容器であり、不純物を含む原料金属(a)11が満たされている。反応容器10には、塩素ガス導入管12および反応生成物取り出し管13が設けられている。図示しない加熱手段によって、原料金属(a)11の入った反応容器10を加熱し、塩素ガス等のハロゲンガスを導入すると、主成分である目的の原料金属(a)と、それに含まれる不純物金属(b)がそれぞれハロゲンガスと反応し、金属(a)の飽和ハロゲン化物ならびに不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物が生成する。
【0016】
ここで、単体の金属(a)の代わりに酸化物などの金属(a)化合物を用いて高純度化を行う場合は、炭素などの還元剤とともに、反応容器10に充填する。また、このとき使用する反応容器10は、ハロゲンと反応しない材料である。例えば、反応容器10には、石英、Si、SiCなどが用いられる。反応温度は原料金属(a)11のハロゲン化物が気体で存在できる温度(沸点)以上である必要がある。なお、この時点で、蒸留精製等により除去できる不純物が存在する場合は、蒸留精製を行っても構わない。
【0017】
2.第1の工程B
次に、第1の工程Aで生成した金属(a)の飽和ハロゲン化物および不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物の混合物(以下、「混合飽和ハロゲン化物」と略称する場合がある)のガスを、図1の反応生成物取り出し管13から抜き出し、金属(c)材料(以下「ハロゲンゲッター材料」ということがある。)が保持された図示しない反応容器に通す。このハロゲンゲッター材料は、ハロゲンとの親和力が、目的の金属(a)とハロゲンとの親和力よりと同じかまたは小さく、かつ不純物金属(b)とハロゲンとの親和力より大きい材料である。
【0018】
反応容器に充填された混合飽和ハロゲン化物のガスは、ハロゲンゲッター材料と接触する。上述のようにハロゲンゲッター材料のハロゲンとの親和力は、目的の金属(a)とハロゲンとの親和力よりは同じか小さいので、金属(a)からはハロゲン元素を奪わないが、不純物金属(b)とハロゲンとの親和力よりは大きいので、不純物金属(b)からはハロゲン元素を奪う。この操作により、不純物金属(b)成分の飽和ハロゲン化物のみが選択的にハロゲン元素を失い、不飽和ハロゲン化物となる。ハロゲンゲッター材料は、不純物金属(b)量や精製後の目標濃度によって異なるが、一般的には、ハロゲンゲッター材料中の不純物金属(b)濃度が5000ppm程度となるまで用いることができる。
【0019】
ここで、飽和ハロゲン化物とは、或る金属元素のハロゲン化物において、最もハロゲンを多く有する組成のハロゲン化物であり、不飽和ハロゲン化物とは、飽和ハロゲン化物よりハロゲンを少なく有する組成のハロゲン化物である。例えばチタンの場合、飽和ハロゲン化物とはTiClのことであり、不飽和ハロゲン化物とはTiCl、TiCl、TiCl等のことをいう。なお、本発明では、例えばTiClのようにハロゲンが相対的に少ないものを低級ハロゲン化物、TiClのように相対的に多いものと高級ハロゲン化物と表現する場合もある。
【0020】
第1の工程Bでは、金属(a)の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物が生成する。生成した不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の沸点が、ハロゲンゲッター材料で満たされた反応容器の温度よりも高い場合は、不飽和ハロゲン化物は容器内に残留し、低い場合は、原料金属(a)の飽和塩化物とともに回収される。
【0021】
ハロゲンゲッター材料としては、原料に用いた金属(a)の高純度品、同程度の不純物金属(b)を含む原料金属(a)などが挙げられる。ここで、ハロゲンゲッター材料として前記金属原料(a)と同じものを使用する場合には、上述のような飽和ハロゲン化物を生成する第1の工程Aとハロゲンゲッター材料と接触するための第1の工程Bといった独立した2つの機構としなくてもよく、上記工程AおよびBをまとめることができる。
【0022】
すなわち、不純物金属(b)を含むポーラス状や顆粒状の金属(a)原料で満たした反応容器を加熱し、この金属(a)原料および不純物金属(b)全てを飽和ハロゲン化物に変換できる当量のハロゲンガスよりも少量のハロゲンガスを導入することで、反応容器前部をハロゲンガスが通過する際に金属(a)原料の飽和ハロゲン化物ならびに不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物を生成させ、これによりハロゲンガスを消尽させる。ハロゲンガスが消尽しきった状態において、反応容器前部には生成した混合飽和ハロゲン化物が存在し、それ以降の領域には未反応の金属(a)原料が存在する。反応容器前部の混合飽和ハロゲン化物が金属(a)原料で満たされた反応容器後部を通過して接触することで、この反応容器後部の金属(a)原料をハロゲンゲッター材料として機能させることができる。ハロゲンゲッター材料としての反応容器後部の金属(a)原料は、反応容器前部で生成した不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物からハロゲン元素を奪い、反応容器全体として、金属(a)原料の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物とが生成する。この場合、反応容器中の金属(a)原料を全てハロゲン化するのではなく、不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物が不飽和ハロゲン化物へと変化できる量の金属(a)原料を残すように反応を制御する。
【0023】
3.第2の工程
第2の工程では、前段階で生成した金属(a)の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の混合ハロゲン化物から、不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物を除去する。この方法としては、蒸留などの分離方法を用いることができる。同属元素の飽和ハロゲン化物はそれぞれの沸点が近いため、通常、蒸留による分離は困難である。例えば、TiClの沸点は136.4℃、NbClの沸点は250℃で、TaClの沸点は239℃である。ところが、一般的に飽和ハロゲン化物が不飽和ハロゲン化物に変化すると、沸点が大きく上昇するため、飽和塩化物から不飽和塩化物を蒸留除去するのは容易になる。例えば、TiClの沸点は136.4℃であるが、TiClの沸点は430℃、TiClの沸点は1500℃である。
【0024】
この性質を利用することで、前記金属(a)の飽和ハロゲン化物と不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の混合ハロゲン化物から、不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の蒸留除去が容易に行えるようになる。蒸留方法は特に限定されず、一般的な方法でよい。蒸留により不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物が蒸留残渣となり、金属(a)の飽和ハロゲン化物が蒸発し、精製回収される。
【0025】
4.第3の工程
第3の工程では、第2の工程までで不純物金属(b)が除去された金属(a)の飽和塩化物を還元することで、不純物金属(b)が除去された金属を得る。還元方法は特に限定されない。例えば、還元材としては、水素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、亜鉛などを用いることができる。ただし、還元反応に使用する装置や反応物質に不純物が多く含まれていると、汚染が生じるため、その純度には注意する必要がある。
【0026】
飽和ハロゲン化物からハロゲン元素を奪って不飽和ハロゲン化物に変換する観点から、本発明で除去できる不純物金属(b)は、金属(a)よりもハロゲンとの親和力の小さい元素である。また、原料金属に接触させるハロゲンガスは、具体的には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、金属(a)との親和力が不純物金属(b)である同属元素とのものより大きいことが必要条件である。また、具体的にはタンタルに含まれるニオブとバナジウム、ニオブに含まれるバナジウム、ハフニウムに含まれるジルコニウムとチタン、ジルコニウムに含まれるチタンの除去が可能である。本発明により、活性金属に含まれる不純物金属成分または不純物金属化合物成分を容易に除去できるようになる。
【0027】
以下、タンタル中のニオブを除去する例を挙げ、その一例を説明する。高純度なタンタルの中にニオブが混入した場合、ハロゲンとして塩素を採用した本方法により、ニオブを除去することができる。
【0028】
ニオブが混入したタンタルを、塩素と反応性の無い材質である石英等のカラムに導入し、300℃以上1000℃以下、好ましくは500℃以上700℃以下に加熱する。そこへ、カラムの片側より塩素ガスを導入することで、タンタルとニオブの飽和塩化物であるTaClとNbClを生成させる。この際の加熱温度が1000℃より高いと、飽和塩化物ではなく不飽和塩化物が生成したり、反応容器の劣化を生じさせたりする。一方、300℃より低いと十分に反応が進まない。500℃以上700℃以下とすることで、効率よく飽和塩化物を得ることができる(第1の工程A)。
【0029】
次いで、ハロゲンゲッター材料として粒状タンタルまたは粒状タンタルの焼結体を用い、生成した飽和塩化物のガスを、約300℃以上1000℃以下、好ましくは500℃以上700℃以下に加熱した粒状タンタルまたは粒状タンタルの焼結体で満たされたカラムを通過させることにより、NbClを不飽和塩化物へと変化させる。1000℃より高いと、タンタルの不飽和塩化物が生成したり、反応容器の劣化を生じさせたりする。一方、300℃より低いと十分に反応が進まない。500℃以上700℃以下とすることで、効率よくNbClを不飽和塩化物へと変化させることができる(第1の工程B)。なお、カラム中のタンタルを全て塩素化するのではなく、NbClを不飽和塩化物へと変化させるための量のタンタルを残すように反応を制御する。
【0030】
カラムを通過した生成物にはタンタルの飽和塩化物とニオブの不飽和塩化物が含まれている。これを蒸留することで、沸点の高いニオブの不飽和塩化物を除去したタンタルの飽和塩化物を得ることができる。蒸留装置や蒸留方法は特に限定されず、塩化物と反応しない材質でできた装置を使用すればよい。蒸留時の温度条件は、200℃以上400℃以下、好ましくは250℃以上350℃以下で行う(第2の工程)。
【0031】
得られた精製TaClをマグネシウム、またはナトリウム、またはカルシウム、または水素で還元すれば、ニオブを1ppm以下まで除去したタンタルを得ることができる(第3の工程)。さらに、上記の第1の工程から第3の工程を繰り返すことにより、ニオブを10ppb以下まで除去したタンタルを得ることができる。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
1.塩化物の作製
図1に示す直径30mm、高さ1000mmの円筒形の石英製塩化反応容器10に、高さ700mmになるまでタンタル焼結体11(Nb含有量1000ppm)を導入した。その後、容器内にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気とした。石英製塩化反応容器10の周囲に電熱ヒーターを配置し、電熱ヒーターに電流を流すことで内部の原料を600℃に加熱した後、反応容器上部から塩素ガスを1リットル/minで約5時間導入した。生成物を約2000g回収した。なお、約1000gのタンタル焼結体(容器導入量の50%)を消費した。
【0033】
2.塩化物の蒸留
得られた生成物(図2において符号22)2000gを図2に示す石英製の反応容器20に導入し、容器内にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気とした。その後300℃に加熱し単蒸留を行った。蒸留精製物23を回収し、ICP−AES(プラズマ発光分析法)による定量分析を行った。その結果、蒸留精製物23のニオブ含有量は10ppm未満(検出限界以下)となった。なお、蒸留残渣には1800ppmのニオブが検出された。また、X線粉末回折により、蒸留精製物23は五塩化タンタルであった。
【0034】
3.塩化物の還元による金属生成
図3に示す活性金属還元装置3を用い、この反応容器30内に純度99.99%のマグネシウム塊(符号31)500gを充填後、アルゴンガスを容器内に供給し800℃の溶融マグネシウム7に加熱溶融した。次いで、蒸留精製を行った五塩化タンタル500gを、供給管より溶融マグネシウム31浴面に向けて噴射供給し、五塩化タンタルを還元して金属タンタルを生成させた。そして、反応容器30を室温まで冷却した後、この反応容器30内を減圧しつつ、1050℃まで加熱して、10時間維持し、タンタル中に残留する塩化マグネシウムと金属マグネシウムを分離除去した。得られた金属タンタルについてGD−MS分析(グロー放電質量分析)を行ったところ、ニオブ含有量は0.38ppmであった。
【0035】
[実施例2]
実施例1において、ニオブ含有量が10ppm未満であるタンタル焼結体を原料とし、タンタル焼結体層の上に1gのニオブ片を配置した以外はすべて同じ条件で、金属タンタル生成まで行った。得られた生成物中のニオブ含有量は、原料の消費量から推測すると、金属タンタルに対し1000ppmに相当する。
【0036】
同様に塩化精製物の蒸留残渣と蒸留精製物中に含まれるニオブ含有量を分析した。その結果、蒸留残渣には700ppmのニオブが検出された。それに対して蒸留精製物のニオブ含有量は10ppm未満(検出限界以下)となった。また、同様にX線粉末回折により、蒸留精製物は五塩化タンタルと同定された。同様に、得られた金属タンタルについてGD−MS分析(グロー放電質量分析)を行ったところ、ニオブ含有量は0.22ppmであった。
【0037】
[実施例3]
1.塩化物の作製
図4に示す石英製塩化反応容器40に、タンタル焼結体41(Nb含有量1000ppm)を2000g導入したあと、容器内にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気とした。反応容器の周囲に電熱ヒーターを配置し、電熱ヒーターに電流を流し、容器内部の原料を600℃に加熱した後、反応容器側部から塩素ガスを1リットル/分で約6時間導入することで、タンタル焼結体を消費し、飽和塩化物を約2000g回収した。
【0038】
2.タンタルカラムでの反応
1で回収した飽和塩化物(図5において符号52)600gを図5に示す石英製蒸発容器50に移した後、容器内にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気とした。蒸発容器50を300℃に加熱し蒸発させ、図5に示す600℃加熱したタンタル焼結体(Nb含有量1000ppm)53で満たされた石英製カラム51を通過させた。通過したガスは回収部にて自然冷却させ粉末として回収した。
【0039】
3.塩化物の蒸留
カラム51を通過させて得た回収物500gを図2に示す石英製の反応容器20に導入したあと、容器内にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気とした。その後300℃に加熱し単蒸留を行った。蒸留精製物と蒸留残渣を回収し、ICP−AES(プラズマ発光分析法)による定量分析を行った。その結果を表1に示す。また、X線粉末回折により、蒸留精製物は五塩化タンタルと同定された。
【0040】
4.塩化物の還元による金属生成
図3に示す活性金属還元装置3を用い、この反応容器30内に純度99.99%のマグネシウム塊(符号31)500gを充填後、アルゴン器内に供給し800℃の溶融マグネシウム31に加熱溶融した。次いで、蒸留精製を行った五塩化タンタル500gを、供給管より溶融マグネシウム31浴面に向けて噴射供給し、五塩化タンタルを還元して金属タンタルを生成させた。そして、反応容器30を室温まで冷却した後、この反応容器内を減圧しつつ、1050℃まで加熱して、10時間維持し、タンタル中に残留する塩化マグネシウムと金属マグネシウムを分離除去した。得られた金属タンタルについてGD−MS分析(グロー放電質量分析)を行った。ニオブ含有量を分析した結果を表1に示した。
【0041】
[比較例]
実施例3において、石英製のカラムにタンタル焼結体を入れずに空のカラムにした以外はすべて同じ条件で、金属タンタル生成まで行った。単蒸留後の蒸留精製物のニオブ含有量ならびに蒸留残渣、最終的に得られた金属タンタルのニオブ含有量を表1に併記した。
【0042】
【表1】

【0043】
[実施例4]
実施例2において、タンタル焼結体の代わりにハフニウムのチップを使用し、ニオブ片の代わりにジルコニウム片を使用した以外はすべて同じ条件で、金属ハフニウム生成まで行った。塩化精製物の蒸留残渣と蒸留精製物中に含まれるジルコニウム含有量を、ICP−AES(プラズマ発光分析法)による定量分析を行った。その結果、蒸留精製物のジルコニウム含有量は10ppm未満(検出限界以下)となった。それに対して、蒸留残渣には580ppmのジルコニウムが検出された。また、同様にX線粉末回折により、蒸留精製物は四塩化ハフニウムと同定された。同様に、得られた金属ハフニウムについてGD−MS分析(グロー放電質量分析)を行った。ジルコニウム含有量は0.64ppmであった。
[実施例5]
実施例3で得られた金属タンタル(Nb含有量0.28ppm)を原料として、実施例3と同様に、塩化物の作成、タンタルカラムでの反応、塩化物の蒸留及び塩化物の還元による金属生成の操作を2回繰り返し実施し、金属タンタルを得た。得られた金属タンタルについてGD−MS分析(グロー放電質量分析)を行ったところ、ニオブ含有量は10ppb以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
原料金属に含まれる分離することが困難な不純物金属を、従来よりも低コストおよび低エネルギーで分離することが可能になる。また、水素を用いることも無く、効率よく不純物金属を分離することができる。分離により高純度化された原料金属は、構造材料としてはもとより、電子部品や半導体材料、さらには原子力用途としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例で使用した塩化反応装置である。
【図2】本発明の実施例で使用した蒸留装置である。
【図3】本発明の実施例で使用した活性金属製造装置である。
【図4】本発明の実施例で使用した塩化反応装置である。
【図5】本発明の実施例で使用したタンタル塩化物処理装置である。
【符号の説明】
【0046】
1 塩化反応装置
10 反応容器
11 原料金属
12 塩素ガス導入管
13 反応生成物取り出し管
2 蒸留装置
20 反応容器
21 反応容器
22 生成物
23 蒸留精製物
3 活性金属還元装置
30 反応容器
31 溶融マグネシウム
4 塩化反応装置
40 反応容器
41 タンタル焼結体
5 塩化物処理装置
50 蒸発容器
51 カラム
52 飽和塩化物
53 タンタル焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属(a)または金属(a)化合物と、不純物金属(b)または不純物金属(b)化合物とを含む原料金属をハロゲンと接触させ、上記金属(a)の飽和ハロゲン化物と上記不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物の混合飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Aと、
ハロゲンとの親和力において上記金属(a)とハロゲンとの親和力よりと同じかまたは弱くかつ上記不純物金属(b)とハロゲンとの親和力より大きい金属(c)材料と、上記混合飽和ハロゲン化物とを接触させ、上記不純物金属(b)の飽和ハロゲン化物を不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物に変化させる第1の工程Bと、
上記金属(a)の飽和ハロゲン化物と上記不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物の混合物から、上記不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物を除去する第2の工程と、
上記金属(a)の飽和ハロゲン化物を還元して精製金属(a)とする第3の工程とを有することを特徴とする高純度金属の製造方法。
【請求項2】
前記金属(c)材料が、前記原料金属に含まれる金属(a)と同一の金属であることを特徴とする請求項1に記載の高純度金属の製造方法。
【請求項3】
前記金属(c)材料が、前記原料金属に含まれる不純物金属(b)または不純物金属(b)化合物と同一の不純物金属(b)または不純物金属(b)化合物を含む金属であることを特徴とする請求項1に記載の高純度金属の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲンが塩素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原料高純度金属の製造方法。
【請求項5】
前記金属(a)がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、及びタンタルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項6】
前記金属(a)がハフニウムであって、前記不純物金属(b)がジルコニウムまたはチタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項7】
前記金属がジルコニウムであって、前記不純物がチタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項8】
前記金属(a)がタンタルであって、前記不純物金属(b)がニオブまたはバナジウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項9】
前記金属(a)がニオブであって、前記不純物金属(b)がバナジウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項10】
前記第2の工程は、蒸留により前記不純物金属(b)の不飽和ハロゲン化物を除去する工程であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高純度金属の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により不純物金属(b)を1ppm以下に低減したことを特徴とする高純度金属。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、工程1、工程2及び工程3を少なくとも2回以上繰り返すことにより不純物金属(b)を10ppb以下に低減したことを特徴とする高純度金属。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−231509(P2008−231509A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73125(P2007−73125)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】