説明

高結晶性ポリエステルの製造方法

【課題】直接エステル化及び重縮合反応中に金属化合物とアルキレングリコールやテレフタル酸の反応に由来する副生成物の凝集粒子発生を低減し、口金異物の抑制、製糸性の向上、外観の向上を生産性・品質を向上させた高結晶性ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸と、下記一般式(I)で表されるジオール成分をエステル化反応を行った後、重縮合反応によりポリエステルを製造する工程の任意の段階で、下記一般式(II)で示されるホスホン酸金属塩をポリエステル組成物の全重量に対して0.01〜20質量%となるように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法によって上記課題を解決することができる。HO−R−OH(I)[上記一般式(I)中、Rは炭素数2〜4個の直鎖型アルキレン基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高結晶性ポリエステル組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、高い結晶性を有することにより、優れた機械的強度、耐熱性、寸法安定性を発揮することが期待できるポリエステル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(以下PESと略称することがある。)、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的及び化学的性能が優れているため、繊維、フィルム又はその他の成形物に広く利用されている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)樹脂は強度、伸度、ヤング率若しくは弾性回復率等の機械的性質、耐熱性若しくは寸法安定性等の物理的性質、又は耐薬品性若しくは耐水性等の化学的性質が優れ、安価であるために工業的に大きな価値を有していることは良く知られている。その特徴を利用して例えば、繊維、樹脂成形品、及びフィルム等で多く用いられている。結晶性高分子であるPETは、結晶部がその強度・ヤング率など物理的特性を担っていると考えられ、PETの結晶性を高めることができれば、諸物性の改善(高強度化、高ヤング率化、高タフネス化、寸法安定性向上、耐熱性向上、ガスバリア性向上、疲労性向上など)が達成できると期待されている。
【0004】
また、PES製品を製造する工程において、その成形性を向上させる方法として、換言すると高結晶性ポリエステルの利用する方法として、アンチモン化合物や各種化合物との組み合わせる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。しかし、その方法の効果は充分とは言えず、従来の方法によって得られた繊維では、高結晶性と成形性を両立させつつ、繊維物性の向上及び紡糸時の糸切れ低減の課題は十分に解決できているとは言えない。
【0005】
一方、高結晶性ポリエステルを得る方法として、ホスホン酸化合物を添加する方法が過去提案されている(例えば、特許文献3〜15参照。)。これら方法は、アルカリ土類金属や遷移金属の水素化物、酸化物、酢酸塩の如き金属化合物とリン化合物と反応させ微粒子を形成することを特徴とし、高い結晶性のPESを得られるという特徴を有していた。
【0006】
しかし、直接エステル化反応及び重縮合反応中に内部析出粒子を形成する反応の場合、副反応に起因する凝集粒子が発生しやすい大きな問題点があった。すなわち金属化合物とエチレングリコールの反応による、金属化合物のエチレングリコール塩の生成や、あるいは金属化合物とテレフタル酸の反応による、金属化合物のテレフタル酸塩の生成反応など、目的とする金属塩以外の析出粒子が副生成する問題が存在していた。これら副生成物である金属塩は、得られたポリエステルを繊維・フィルム・樹脂に溶融成形する際に、ア)パック圧上昇させる原因、イ)糸切れの原因、ウ)口金異物の原因、あるいはエ)ポリエステル成形の外観を損ねる原因となる、など問題を引き起こす。
【0007】
過去の検討では、これに対し、(1)アルカリ金属の添加や、(2)ホスホン酸化合物と金属種の比率の最適化や、(3)ホスホン酸化合物の種類と金属化合物の種類の変更、(4)ホスホン酸化合物と金属化合物の添加時期の最適化によって、副反応や凝集粒子の析出の低減や、目的のホスホン酸金属塩の凝集低減を試みていたが、これら改善は十分なレベルではなかった(例えば、特許文献1〜11参照。)。
【0008】
このように従来のポリエステルの結晶性向上の検討は、物性の向上の観点及び、成形性向上の観点から非常に注目されており、欠点のさらなる低減や得られるポリエステル成型品の物性向上が要求されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−042921号公報
【特許文献2】特開昭56−096913号公報
【特許文献3】特公昭58−034491号公報
【特許文献4】特開昭62−206018号公報
【特許文献5】特開昭60−065027号公報
【特許文献6】特開昭60−058432号公報
【特許文献7】特開昭60−047022号公報
【特許文献8】特開昭60−047021号公報
【特許文献9】特開昭60−044520号公報
【特許文献10】特開昭60−042420号公報
【特許文献11】特開昭60−040126号公報
【特許文献12】特開昭60−035022号公報
【特許文献13】特開昭60−032824号公報
【特許文献14】特開昭60−031526号公報
【特許文献15】特開昭60−015422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、直接エステル化及び重縮合反応中に金属化合物とアルキレングリコールやテレフタル酸の反応に由来する副生成物の凝集粒子発生を低減できる高結晶性ポリエステル組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、テレフタル酸と、下記一般式(I)で表されるジオール成分をエステル化反応を行った後、重縮合反応によりポリエステルを製造する工程の任意の段階で、下記一般式(II)で示されるホスホン酸金属塩をポリエステル組成物の全重量に対して0.01〜20質量%となるように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法であり、この方法によって上記課題を解決することができる。
HO−R−OH (I)
[上記一般式(I)中、Rは炭素数2〜4個の直鎖型アルキレン基を示す。]
【0012】
【化1】

[上記一般式(II)中、Rは炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、MZ+は、Mg2+、又は第3〜4周期第2〜15族の金属イオンを示す。Zは2〜4の整数である。
但しZ=2のとき、n=1、m=1であり、Z=3のとき、n=3、m=2であり、Z=4のとき、n=2、m=1である。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば従来のような副生成物であるスケールや凝集粒子を生成することなく、結晶核となるホスホン酸金属塩を含有する結晶性の良好なポリエステルを製造することが可能であり、成形性(製糸性・延伸性・加工性)に優れたポリエステル成形品の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルとは、テレフタル酸とジオール成分をエステル化反応を行った後、ついで重縮合反応させて得られるが、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合反応により得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。ここで主たるとは全繰り返し単位中70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。本発明のポリエステル組成物の製造方法におけるポリエステル部分の製造方法は、通常知られている製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸の如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法により、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、目的とするポリエステルが製造される。
【0015】
具体的には、テレフタル酸と下記一般式(I)で表されるジオール成分を用いる。
HO−R−OH (I)
[上記一般式(I)中、Rは炭素数2〜4個の直鎖型アルキレン基を示す。]
上記一般式(I)で表されるジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール(トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール)、1.4−ブチレングリコール(テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール)を挙げることができる。
【0016】
本発明のポリエステル組成物の製造方法に用いられる重縮合触媒については、特に限定されるものではないが、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、スズ化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、すずの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0017】
またエステル化反応における温度・圧力・時間、重縮合反応における温度・圧力・時間も対応する従来のポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)において知られている温度・圧力条件・時間を採用することができる。
【0018】
<ホスホン酸金属塩の種類>
本発明の高結晶性ポリエステル組成物の製造方法としては、下記一般式(II)で表されるホスホン酸金属塩を添加することによって達成される。
【0019】
【化2】

[上記一般式(II)中、Rは炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、MZ+は、Mg2+、又は第3〜4周期第2〜15族の金属イオンを示す。Zは2〜4の整数である。
但しZ=2のとき、n=1、m=1であり、Z=3のとき、n=3、m=2であり、Z=4のとき、n=2、m=1である。]
【0020】
官能基Rは、炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、フェニル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−フェニルフェニル基、ベンジル基を挙げることができる。それらの中でも好ましくはアリール基が選択され、より好ましくはフェニル基である。MZ+としては、Mg2+、又は第3〜4周期2〜15族の金属イオンから選ばれる。中でも、得られるポリエステル組成物が高い結晶性を示す点で、マグネシウム、マンガン、コバルト、亜鉛及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、より具体的にはMg2+、Mn2+、Co2+、Zn2+、Ti4+を好ましく例示できる。上記一般式(II)においては、Z=2のとき、n=1、m=1であり、Z=3のとき、n=3、m=2であり、Z=4のとき、n=2、m=1である。これはとりもなおさず式2×n=Z×mを満たすようにすることである。一般式(II)で表される化合物においてカチオン種の電荷量とアニオン種の電荷量を同じにするためである。なお、Z=2のとき、mは0.9〜1.1の範囲にあることが、Z=3のとき、mは1.8〜2.2の範囲にあることが、Z=4のとき、mは0.9〜1.1の範囲にあることがそれぞれ好ましい。mがこれらの範囲からはずれる場合、アニオン種とカチオン種の電荷量が一致せず、ホスホン酸金属塩に含まれる不純物の量が増え、結晶性向上の効果が低下するため好ましくないことがある。
【0021】
すなわちホスホン酸金属塩としては、フェニルホスホン酸金属塩を好ましく挙げることができ、フェニルホスホン酸マグネシウム塩、フェニルホスホン酸マンガン塩、フェニルホスホン酸コバルト塩、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸チタン塩をより好ましく挙げることができる。
【0022】
<ホスホン酸金属塩の添加量について>
本発明に用いるホスホン酸金属塩は、全ポリエステル組成物の質量に対して0.01〜20.0質量%含有している必要がある。
ホスホン酸金属塩の含有量が0.01質量%未満の場合、得られるポリエステル組成物の結晶性が不十分であり、20.0質量%を超えると、ホスホン酸金属塩の粒子同士が凝集し、高次の凝集粒子を形成し、好ましくない。ホスホン酸金属塩の含有量は全ポリエステル組成物の質量に対して0.02〜10.0質量%の範囲が好ましく、0.03〜5.0質量%の範囲が更に好ましい。
【0023】
<ホスホン酸金属塩の添加時期>
ここでポリエステル製造時における一般式(II)のホスホン酸金属塩の添加時期としては特に限定はないが、直接エステル化反応の開始前から重合反応が終了する任意の段階で添加することができる。好ましくは直接エステル化反応の終了後から重縮合反応を開始するまでの時期に添加することである。
【0024】
<ホスホン酸金属塩の添加方法>
ホスホン酸金属塩の添加方法としては、特に限定はないが、ホスホン酸金属塩を含有するスラリーの状態で添加する湿式法、あるいは溶媒を含まないでホスホン酸金属塩そのものを、添加する乾式法が挙げられる。ホスホン酸金属塩自体の添加量が微量な場合の調整が容易なことから、湿式法が好ましく採用する事できる。
【0025】
<湿式法について>
湿式法を採用した場合の溶媒としては、ポリエステル組成物から容易に除去可能な低沸点の溶媒であり、ホスホン酸金属塩が不溶である溶媒を使用することが好ましい。このような溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ベンジルアルコールの如きアルコール類、トルエン、キシレン、テトラヒドロフランの如き炭化水素化合物類、純水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドの如き、アミド系極性溶媒類を挙げることができる。これら溶媒は、単一の溶媒として利用することができ、また複数の溶媒種を組み合わせた混合溶媒として利用することもできる。
【0026】
<ホスホン酸金属塩の分散剤>
湿式法で利用するホスホン酸金属塩スラリーは、必要に応じて、分散剤を添加することができる。このような分散剤としては、下記一般式(III)で示されるモノカルボン酸化合物を上げることができる。
【0027】
【化3】

[上記一般式(III)中、Rは炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、Mは、H、Li、Na、K、Rb、Csを示す。]
【0028】
これらの中で具体的には、酢酸、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、プロピオン酸、プロピオ酸リチウム、プロピオ酸ナトリウム、プロピオ酸カリウム、プロピオ酸ルビジウム、プロピオ酸セシウム、安息香酸、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸ルビジウム、安息香酸セシウムを挙げることができる。それらの中でも分散剤としては入手容易性、得られた粒子を微分散化に優れる点から酢酸、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが特に良好である。このような化合物を用いて通常採用される方法により、ホスホン酸金属塩スラリーを製造することができる。
【0029】
<ホスホン酸金属塩の製造方法>
使用するホスホン酸金属塩としては、市販のホスホン酸金属塩を使用することもできるが、ホスホン酸との所定の金属化合物から微細なホスホン酸金属塩の微粒子を調製することが好ましい。粗大な粒子としてホスホン酸金属塩が残っていると、といった問題が生じやすくなり、また余りに微細な粒子にしすぎても、背景技術の欄にて説明したような問題が生じることがある。
【0030】
<製造後の後処理>
また本発明のポリエステル組成物の製造方法は、必要に応じ重縮合反応を終えて得られたポリエステルを溶融混練し、ホスホン酸金属塩を添加・微細化することができる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
【0031】
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのホスホン酸金属塩とポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えば乾式法によりホスホン酸金属塩とポリエステルを別々に混練機に供給する方法、ホスホン酸金属塩とポリエステルを予め固体状態で混合してから混練機に供給する方法、予め高濃度でホスホン酸金属塩を含有するポリエステルを準備しておき、別途ポリエステルチップと混練機中で混合して供給する方法(いわゆるマスターバッチ法)などを挙げることができる。
【0032】
<ポリエステル組成物の固有粘度>
本発明のポリエステル組成物の固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は特に限定はないが、0.5〜1.5dL/gの範囲にあることが好ましい。該固有粘度が0.5dL/g未満の場合、溶融紡糸して得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となり、1.5dL/gを超える場合、溶融成形性が低下する為好ましくない、ポリエステル組成物の固有粘度は0.6〜0.1.3dL/gの範囲が更に好ましい。
【0033】
本発明によって得られるポリエステル組成物のポリエステルがPETからなる場合、降温結晶化ピーク温度(Tcd)としては、205℃以上220℃以下が好ましい。205℃以下では、製糸性・フィルムの製膜性の向上の効果が少なく、またTcdが220℃以上のポリエステルは本発明の製造方法では得ることは困難である。また本発明によって得られるポリエステル組成物のポリエステルがPETからなる場合、昇温結晶化ピーク温度(Tci)としては、130℃以上150℃以下が好ましい。Tciが130℃以下のポリエステル組成物は本発明の製造方法では得ることは困難であり、またTciが150℃以上の場合、得られたポリエステル組成物のチップ融着を抑制する効果が少なく、好ましくない。後述のようにこのTcd、Tciによって結晶性を評価することができる。
【0034】
本発明のポリエステル組成物は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、難燃剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0035】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0036】
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物サンプルを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0037】
(イ)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル組成物サンプルを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0038】
(ウ)示差走査熱量計:
TAインスツルメンツ社製Q20型示差走査熱量計を用いて測定した。測定条件は下記の通りである。
(1)ポリエステル組成物サンプルを、示差走査熱量計を用い、窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて、300℃まで加熱し、2分保持後、10℃/分の降温条件で測定し、現れる発熱ピークを観測し、ピーク面積よりエネルギーを計算した(発熱ピークの頂点の温度をTcdと表記した。)。
(2)ポリエステル組成物サンプルを、20℃/分の昇温条件にて、300℃まで加熱し、300℃で2分間保持、溶融させたものを液体窒素中で急冷・固化させることにより得られた該組成物に対し、示差走査熱量計を用い、窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて、現れる発熱ピークを観測し、ピーク面積よりエネルギーを計算した(発熱ピークの頂点の温度をTcと表記した。)。
Tciの温度が低いほど、急冷・固化したポリエステル組成物の昇温時の結晶化が低温度から且つ早くから起こっていることを表し、結晶性が高いといえる。また同様にTcdの温度が高いほど溶融したポリエステル組成物の降温時の結晶化が高温度から且つ早くから起こっていることを表し、結晶性が高いといえる。
【0039】
(エ)リン、各金属原子の含有量測定:
リガク製蛍光X線装置3270型を用いて測定し、定量を行った。ポリマーの場合、ポリエステル組成物サンプルを加熱溶融し、円形ディスクを作成し、測定した。溶液については、溶液を専用の容器に封入し、測定した。
【0040】
(オ)凝集粒子の判定:
ポリエステル組成物チップ10.0mgを2枚カバーグラス間に設置し、280℃に加熱した熱板上にて、カバーグラスをプレスすることにより、薄板状のサンプルを調製した。これをオリンパス製BX51で、偏光レンズ・暗視野にて観察し、粒子を観察し、(5μm以上の微粒子数)をカウントした。同様のカウントをn=3で実施し、5μm以上の微粒子の平均個数が10個を超えるサンプルを×、10個以下の物を○として判定した。
【0041】
[実施例1]
(1)フェニルホスホン酸マンガン(II)のエチレングリコール溶液の調製
室温にて、エチレングリコール(和光特級)100質量部に対して、フェニルホスホン酸(日産化学)1.58質量部、分散剤として酢酸(和光特級)0.006質量部(フェニルホスホン酸に対して、1モル%相当)を、攪拌機・還流装置を有する反応装置に供給し、酢酸マンガン(II)・四水和物2.45質量部(フェニルホスホン酸に対し等モル量)を添加し、60分間攪拌・溶解させた。得られた溶液を昇温し、80〜85℃にて30分間、加熱還流後、冷却し、フェニルホスホン酸マンガン(II)のエチレングリコール溶液を得た。
フェニルホスホン酸マンガン(II)の収量は、蛍光X線装置により間接的に定量した。フェニルホスホン酸マンガン(II)エチレングリコール溶液100質量部に、メタノール(和光特級)400質量部を添加・攪拌・遠心分離し、上澄みの有機溶媒成分を抽出し、有機層に存在するリン・マンガン量を測定し、フェニルホスホン酸マンガン(II)の収率は99.5%以上であることを確認した。
(フェニルホスホン酸マンガン(II)収率)=100−(上澄み有機層に含有されるリン成分)/(添加したフェニルホスホン酸量)×100
【0042】
(2)フェニルホスホン酸マンガン(II)スラリーの調製
調製したフェニルホスホン酸エチレングリコール溶液をスギノマシン製連続式微粒化装置アルティマイザーシステムHJP−25005型機にて、圧力80MPaの高圧状態とし、相互に向かい合ったノズルから放出し、粒子の衝突による解砕処理を全量実施した。この解砕処理を2回繰り返し、続いてこの処理液を日本ポール製フィルタープロファイルIIのカートリッジグレード070(99.98%濾過精度7μm相当)のMCYタイプフィルターにて濾過し、最終スラリーとした。
得られたスラリー中のフェニルホスホン酸マンガン(II)の粒径を、(株)島津製作所製粒子径分布測定装置SALD7000により測定したところ、99.9%以上の粒子が0.5μm以下であった。
【0043】
(3)ポリエステルチップの製造
攪拌装置、分縮器、原料仕込口及び生成物取出し口を設けた2段の完全混合槽よりなるエステル化反応装置を用い、その第1エステル化反応缶のエステル化反応生成物が存在する系へテレフタル酸(TPA)に対するエチレングリコール(EG)のモル比1.7に調整したTPAのEGスラリーを連続的に供給した。
常圧にて平均滞留時間4.5時間、温度255℃で反応させた。この反応生成物を連続的に第1エステル化反応缶外に取り出して、第2エステル化反応缶に供給した。第2エステル化反応缶内を通過する反応生成物中のポリエステル単位ユニットに対して、0.7重量部のEG及びSb原子として250ppmになるような量の三酸化アンチモンのEG浴溶液それぞれ別個の供給口より連続的に供給し、常圧にて平均滞留時間5.0時間、温度260℃で反応させた。第1エステル化反応缶から取り出される反応生成物のエステル化率は68%であり、第2エステル化反応缶から取り出される反応生成物のエステル化率は98%であった。第2エステル化反応缶から取り出されたエステル化反応生成物を目開き400メツシユのステンレス金属製のフィルターで連続的に濾過し、更に上記の操作により得たフェニルホスホン酸マンガン(II)スラリーを表1に示した添加量になるように連続的に供給した。ついで攪拌装置、分縮器、原料仕込み口及び生成物取出し口を設けた2段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行ない、固有粘度0.630dL/gのポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。その結果を表1に示した。
【0044】
[実施例2〜3、5〜6]
実施例1において、ホスホン酸金属塩の種類・量、金属化合物の量・種類、スラリーの溶媒種類を表1に示す内容に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示した。
【0045】
[実施例4]
(1)フェニルホスホン酸コバルト(II)のエチレングリコール溶液の調製
室温にて、エチレングリコール(和光特級)100質量部に対して、フェニルホスホン酸(日産化学)1.58質量部、分散剤として酢酸(和光特級)0.006質量部(フェニルホスホン酸に対して、1モル%相当)を、攪拌機・還流装置を有する反応装置に供給し、酢酸コバルト(II)・四水和物2.49質量部(フェニルホスホン酸に対し等モル量)を添加し、60分間攪拌・溶解させた。得られた溶液を昇温し、80〜85℃にて30分間、加熱還流後、冷却し、フェニルホスホン酸コバルト(II)のエチレングリコール溶液を得た。
フェニルホスホン酸コバルト(II)の収量は、蛍光X線装置により間接的に定量した。フェニルホスホン酸コバルト(II)エチレングリコール溶液100質量部に、メタノール(和光特級)400質量部を添加・攪拌・遠心分離し、上澄みの有機溶媒成分を抽出し、有機層に存在するリン・コバルト量を測定し、フェニルホスホン酸コバルト(II)の収率は99.5%以上であることを確認した。
【0046】
(2)フェニルホスホン酸コバルト(II)の微粒子粉末の精製
フェニルホスホン酸コバルト(II)のエチレングリコール溶液100質量部に対し、蒸留水400質量部を添加・攪拌後、遠心分離機にて2000rpm、20分間処理し、上澄み成分をデカントし、除去した。さらに蒸留水400質量部を添加・攪拌後、同様の遠心分離操作を2回実施し、フェニルホスホン酸を高濃度に含有する残渣を得た。残渣を液体窒素で冷却し、凍結させた状態のまま、6.66kPa(50mmHg)の真空化にて凍結乾燥させ、フェニルホスホン酸コバルト(II)の微粒子粉末を得た。
【0047】
(3)ポリエステルチップの製造
実施例1において、フェニルホスホン酸マンガンスラリーの代わりに、フェニルホスホン酸コバルト(II)の微粒子粉末を表1に記載の量となるように利用する以外は同様にポリエステル組成物チップを重合した。その結果を表1に示した。
【0048】
[比較例1、3、4]
実施例1において、リン化合物の種類、金属化合物の種類、及びフェニルホスホン酸金属塩の含有量を表1に示す内容に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示した。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、フェニルホスホン酸マンガン(II)のスラリーを添加する代わりに、フェニルホスホン酸及び酢酸マグネシウムをフェニルホスホン酸金属塩とすることなく表1に示す0.5wt%となる量をそれぞれ添加することに変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。そのため、フェニルホスホン酸金属塩は重縮合反応器の中で内部析出して生成したものと思われる。その結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば従来のような副生成物であるスケールや凝集粒子を生成することなく、結晶核となるホスホン酸金属塩を含有する結晶性の良好なポリエステルを製造することが可能であり、成形性(製糸性・延伸性・加工性)に優れたポリエステル成形品の製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸と、下記一般式(I)で表されるジオール成分をエステル化反応を行った後、重縮合反応によりポリエステルを製造する工程の任意の段階で、下記一般式(II)で示されるホスホン酸金属塩をポリエステル組成物の全重量に対して0.01〜20質量%となるように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
HO−R−OH (I)
[上記一般式(I)中、Rは炭素数2〜4個の直鎖型アルキレン基を示す。]
【化1】

[上記一般式(II)中、Rは炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、MZ+は、Mg2+、又は第3〜4周期第2〜15族の金属イオンを示す。Zは2〜4の整数である。
但しZ=2のとき、n=1、m=1であり、Z=3のとき、n=3、m=2であり、Z=4のとき、n=2、m=1である。]
【請求項2】
ホスホン酸金属塩がフェニルホスホン酸金属塩であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項3】
ホスホン酸金属塩をポリエステル製造工程に添加する際に、ホスホン酸金属塩を含有するスラリーの状態で添加することを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項4】
ホスホン酸金属塩がマグネシウム、マンガン、コバルト、亜鉛及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載されるポリエステルの製造方法であり、ホスホン酸金属塩含有スラリー中に一般式(III)で表される少なくとも1種の分散剤を含むことを特徴とする請求項3又は4記載のポリエステル組成物の製造方法。
【化2】

[上記一般式(III)中、Rは炭素数1〜12個のアルキル基、炭素数6〜12個のアリール基又はベンジル基を示し、Mは、H、Li、Na、K、Rb、Csを示す。]

【公開番号】特開2010−163546(P2010−163546A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7579(P2009−7579)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】