説明

高絶縁性フィルム

【課題】電気的特性、耐熱性、巻取り性に優れ、特に高い絶縁破壊電圧を有する高絶縁性フィルムを提供すること。
【解決手段】主としてシンジオタクチック構造のスチレン系重合体に、平均粒径が0.6μm以上3.0μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下であるシリカ粒子Aを0.01重量%以上1.5重量%以下と、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下である不活性微粒子Bを0.05重量%以上2.0重量%以下とを含有する延伸フィルムであって、厚み方向の屈折率が1.6050以上1.6550以下であることを特徴とする高絶縁性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性フィルムに関する。さらに詳しくは、電気特性および耐熱性が良好で、かつ絶縁破壊電圧が高く、滑り性に優れる高絶縁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物からなる延伸フィルムは、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性、誘電特性、電気絶縁性等に優れたフィルムであり、様々な用途への適用が期待されている。特に、誘電特性に優れ、高い電気絶縁性と耐熱性を有するためにコンデンサーの絶縁体として用いられている。例えば特許文献1〜3には、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体からなるコンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムが提唱されている。
【0003】
また、コンデンサーの絶縁体として用いられる他の樹脂組成物からなる延伸フィルムとしては、二軸延伸ポリエステルフィルムが知られており、例えば特許文献4、5等に開示されている。このようなコンデンサー用二軸配向ポリエステルフィルムにおいては、例えば特許文献6、7等により、特定の粒子を添加することで加工性を高め、絶縁破壊電圧、耐電圧特性、絶縁抵抗特性等の電気特性を向上する試みがなされている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−80793号公報
【特許文献2】特開平7−156263号公報
【特許文献3】特開平8−283496号公報
【特許文献4】特開昭62−259304号公報
【特許文献5】特開昭63−316419号公報
【特許文献6】特開昭63−141308号公報
【特許文献7】特開平10−321459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されているシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムは、コンデンサーの絶縁体として使用され得るものであるが、近年更なる高性能が要求されている。すなわち、コンデンサーの静電容量を向上する、コンデンサーを小型化する等のために絶縁体となるフィルムの薄膜化が要求されているが、薄膜化に伴い加工性が低下してしまい、かつ絶縁破壊電圧が低下してしまう。また、近年要求されているコンデンサーの製造速度を考慮すると、取り扱い性が不十分である。さらに、本発明者らの検討によれば、加工性と電気特性を両立させる目的で、特許文献1〜3に開示されているシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムに、例えば特許文献6、7等に開示されているような微粒子を添加しても、絶縁破壊電圧が低くなってしまうことが判明した。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、電気的特性、耐熱性、巻取り性に優れ、特に高い絶縁破壊電圧を有する高絶縁性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、特定の粒子を添加したシンジオタクチックポリスチレン系延伸フィルムにおいて、特定の配向構造とすることで滑り性に優れ、高い絶縁破壊電圧を示す高絶縁性フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、主としてシンジオタクチック構造のスチレン系重合体に、平均粒径が0.6μm以上3.0μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下であるシリカ粒子Aを0.01重量%以上1.5重量%以下と、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下である不活性微粒子Bを0.05重量%以上2.0重量%以下とを含有する延伸フィルムであって、厚み方向の屈折率が1.6050以上1.6550以下であることを特徴とする高絶縁性フィルムである。
【0009】
さらに、本発明の好ましい態様は、シリカ粒子Aの平均粒径が、不活性微粒子Bの平均粒径より0.3μm以上大きいこと、不活性微粒子Bが不活性無機微粒子であること、不活性微粒子Bが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状シリカ粒子であること、シリカ粒子Aが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状シリカ粒子であること、フィルムの厚みが0.4μm以上6.5μm未満であることであり、これらのうち少なくとも1つの要件を具備する態様とすることで、さらに好ましい高絶縁性フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高絶縁性フィルムは、電気的特性、耐熱性、巻取り性に優れ、特に高い絶縁破壊電圧を有するため、コンデンサーの絶縁体として特に好適に用いられる。また、本発明の高絶縁性フィルムを用いることで、フィルムの薄膜化が可能であり、コンデンサーの小型化や静電容量の向上を達成することができる。さらに、耐熱性に優れ、高電圧においても絶縁体が破壊されることがないコンデンサーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<スチレン系重合体>
本発明におけるスチレン系重合体は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体であり、すなわち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。一般にタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量され、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド等によって示すことができる。本発明におけるシンジオタクチック構造のスチレン系重合体とは、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、あるいはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、あるいはこれらのベンゼン環の一部が水素化された重合体やこれらの混合物、またはこれらの構造単位を含む共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)、ポリ(アセナフチレン)等があり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フロオロスチレン)等がある。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等がある。これらのうち特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、またスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体を挙げることができる。
【0012】
さらに、本発明におけるスチレン系重合体に共重合成分を含有させて共重合体として使用する場合においては、そのコモノマーとしては、上述の如きスチレン系重合体のモノマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー、環状ジエンモノマーやメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマー等を挙げることができる。
【0013】
また、このスチレン系重合体の重量平均分子量は、好ましくは1.0×10以上3.0×10以下であり、さらに好ましくは5.0×10以上1.5×10以下であり、特に好ましくは1.1×10以上8.0×10以下である。重量平均分子量を1.0×10以上とすることで、強伸度特性に優れ、耐熱性がより向上したフィルムを得ることができる。また、重量平均分子量が3.0×10以下だと、延伸張力が好適な範囲となり、製膜時等において破断等が発生しにくくなる。
【0014】
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体の製造方法は、例えば特開昭62−187708号公報に開示されている。すなわち、不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下において、チタン化合物および水と有機アルミニウム化合物、特にトリアルキルアルミニウムとの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、特開平1−146912号公報に、水素化重合体は特開平1−178505号公報にそれぞれ開示されている。
【0015】
本発明におけるシンジオタクチック構造のスチレン系重合体には、必要に応じて公知の酸化防止剤、帯電防止剤等を適量配合することができる。これらの配合量はスチレン系重合体100重量部に対して10重量部以下が好ましい。10重量部を越えると延伸時に破断を起こしやすくなり、生産安定性不良となるので好ましくない。
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体は、従来のアタクチック構造のスチレン系重合体に比べて耐熱性が格段に優れている。
【0016】
<シリカ粒子A>
本発明の高絶縁性フィルムは、平均粒径が0.6μm以上3.0μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下であるシリカ粒子Aを0.01重量%以上1.5重量%以下含有している。
【0017】
本発明におけるシリカ粒子Aの平均粒径は0.6μm以上3.0μm以下であることが必要である。好ましくは0.7μm以上2.0μm以下であり、さら好ましくは0.8μm以上1.6μm以下、特に好ましくは0.9μm以上1.3μm以下である。平均粒径が0.6μm未満だとエアー抜け性が低くなり、巻取り性が悪化するため好ましくない。他方、3.0μmを超えると絶縁破壊電圧が低くなってしまうため好ましくなく、特にコンデンサー用途においては、スペースファクターの増大や絶縁欠陥の増加が起こるため好ましくない。
【0018】
ここで、本発明におけるシリカ粒子Aの平均粒径は、後述する不活性微粒子Bの平均粒径より0.3μm以上大きいことが好ましい。その差は、さらに好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.7μm以上である。シリカ粒子Aの平均粒径と不活性微粒子Bの平均粒径との差を大きくすることで、フィルム表面においてシリカ粒子Aによる高突起が散在する態様となり、これによってフィルム間のエアー抜け性が良好となる。同時に、不活性微粒子Bによる低突起が存在することにより、フィルム同士の滑り性が良好なものとなり、フィルムをロール状に巻取る際には、エアー抜け性と滑り性とのバランスが良く、高速で巻き上げても巻き姿の良好なフィルムロールを得ることができる等、巻取り性がさらに良好なものとなる。
【0019】
また、本発明におけるシリカ粒子Aは、粒径分布がシャープであることが必要であり、具体的には、分布の急峻度を表わす相対標準偏差が0.5以下であることが必要である。相対標準偏差が小さくなり、粒径分布が急峻であると、フィルム表面の突起の高さが均一となる。これにより巻取り性が良好となり、また粗大粒子や粗大突起が少なくなる方向であり、欠陥が減少し、絶縁破壊電圧を向上させることができる。他方、相対標準偏差が大きくなると、粗大粒子や粗大突起が増加し、欠陥が多くなり、絶縁破壊電圧が低くなるため好ましくない。このような観点から、シリカ粒子Aの粒径分布を表す相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0020】
さらに、本発明の高絶縁性フィルムにおけるシリカ粒子Aの含有量は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の重量を基準として、0.01重量%以上1.5重量%以下である必要がある。好ましくは0.05重量%以上1.0重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以上0.5重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以上0.4重量%以下である。含有量が0.01重量%未満だとエアー抜け性が低くなり、巻取り性が悪化するため好ましくない。他方、含有量が1.5重量%を超えるとフィルム表面が粗くなりすぎ、耐削れ性が悪化し、絶縁破壊電圧が低くなるため好ましくない。また、特にコンデンサー用途においては、スペースファクターの増大が起こるため好ましくない。
【0021】
本発明におけるシリカ粒子Aとしては、その形状が実質的に球状もしくは真球状である球状シリカ粒子が好ましい。そのような態様とすることで、巻取り性の向上効果および絶縁破壊電圧の向上効果をより高めることができる。具体的には、粒子における球状の度合いを表す粒径比が1.0以上1.3以下であることが好ましい。粒径比は、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。
【0022】
ここで、シリカ粒子Aの好ましい態様である球状シリカ粒子、および後述する不活性微粒子Bの好ましい態様である球状シリカ粒子は、例えばオルトケイ酸エチル[Si(OC]の加水分解から、含水シリカ[Si(OH)]単分散球を作り(下記[式1])、更にこの含水シリカ単分散球を脱水化処理してシリカ結合[≡Si−O−Si≡]を三次元的に成長させることにより製造できる(下記[式2])(日本化学会誌‘81、No.9、P.1503)。
【0023】
[式1]
Si(OC+4HO → Si(OH)+4COH
[式2]
≡Si−OH+HO−Si≡ → ≡Si−O−Si≡+H
【0024】
なお、本発明におけるシリカ粒子Aの好ましい態様である球状シリカ粒子、および不活性微粒子Bの好ましい態様である球状シリカ粒子は、上記製造方法によって何ら限定されるものではない。
【0025】
<不活性微粒子B>
本発明の高絶縁性フィルムは、前述のシリカ粒子Aに加えて、さらに不活性微粒子Bを含有している。不活性微粒子Bを含有することによって、滑り性が良好なものとなり、それにより巻取り性が良好なものとなり、かつ絶縁破壊電圧を高くすることができる。
【0026】
本発明における不活性微粒子Bの平均粒径は、0.01μm以上0.5μm以下である。不活性微粒子Bの平均粒径は、好ましくは0.05μm以上0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以上0.4μm以下である。平均粒径が0.01μm未満だと、十分な滑り性が得られず、すなわち十分な巻取り性が得られないため好ましくない。他方、平均粒径が0.5μmを超えると、フィルム表面における低突起の高さが高くなりすぎ、それにより滑り性が高くなりすぎ、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性が悪化する。また耐削れ性が悪化し、絶縁破壊電圧が低下するため好ましくない。なお、前述のとおり、本発明における不活性微粒子Bの平均粒径は、シリカ粒子Aの平均粒径よりも小さいことが好ましく、その差は0.3μm以上であることが好ましい。
【0027】
また、本発明における不活性微粒子Bは、前述したシリカ粒子Aと同様の観点から、粒径分布がシャープであることが必要であり、分布の急峻度を表わす相対標準偏差が0.5以下である必要がある。不活性微粒子Bにおける粒径の相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0028】
さらに、本発明における不活性微粒子Bの含有量は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の重量を基準として、0.05重量%以上2.0重量%以下である。含有量が少ないと滑り性が悪くなる傾向であり、0.05重量%未満では十分な滑り性が得られないため好ましくない。他方、含有量が多くなると、粒子によるボイドの頻度が高くなるためか絶縁破壊電圧が低くなる傾向であるため好ましくない。また、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性が悪化する。このような観点から、不活性微粒子Bの含有量は、好ましくは0.1重量%以上1.0重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以上0.6重量%以下であり、特に好ましくは0.1重量%以上0.3重量%以下である。
【0029】
不活性微粒子Bの種類としては、種々のものを使用することができる。例えば不活性有機微粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ジビニルベンゼン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等が挙げられる。また、不活性無機微粒子としては、(1)二酸化ケイ素(水和物、ケイ砂、石英等を含む);(2)各種結晶形態のアルミナ;(3)SiO成分を30重量%以上含有するケイ酸塩(例えば非晶質もしくは結晶質の粘土鉱物、アルミノシリケート(焼成物や水和物を含む)、温石綿、ジルコン、フライアッシュ等);(4)Mg、Zn、Zr、およびTiの酸化物;(5)Ca、およびBaの硫酸塩;(6)Li、Ba、およびCaのリン酸塩(1水素塩や2水素塩を含む);(7)Li、Na、およびKの安息香酸塩;(8)Ca、Ba、Zn、およびMnのテレフタル酸塩;(9)Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Pb、Sr、Mn、Fe、Co、およびNiのチタン酸塩;(10)Ba、およびPbのクロム酸塩;(11)炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト等);(12)ガラス(例えばガラス粉、ガラスビーズ等);(13)Ca、およびMgの炭酸塩;(14)ホタル石;(15)スピネル型酸化物等が挙げられるが、良好な滑り性、および耐削れ性が得られるという観点から、不活性無機微粒子であることが好ましく、中でも炭酸カルシウム粒子、シリカ粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。
【0030】
本発明における不活性微粒子Bは、その形状が実質的に球状もしくは真球状であることが好ましい。具体的には、粒子における球状の度合いを表す粒径比が、好ましくは1.0以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。形状をより球状にすることで、絶縁破壊電圧をより高くすることができる。従って、前述した不活性微粒子Bの特に好ましい種類と合わせて、不活性微粒子Bとしては、球状シリカ粒子が特に好ましい。なお、球状シリカ粒子は、例えば前述した製造方法により得ることができる。
【0031】
本発明においては、本発明の目的を達成する上で不可欠であるシリカ粒子A及び不活性微粒子B以外にも、本発明における目的の達成を阻害しない限りにおいて他の種類もしくは他の粒径の微粒子もしくは無機充填剤等の不活性粒子を含むものであってもよい。他の不活性粒子を含有する場合は、その含有量は4.0重量%以下が好ましく、より好ましくは2.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.5重量%未満である。他の不活性粒子の含有量が多くなると、フィルム表面の耐摩耗性が悪くなるため好ましくないばかりか、絶縁破壊電圧が低下してしまう等、本発明における目的の達成を阻害してしまう。
【0032】
以上のような、本発明で用いる各種の粒子は、最終的なフィルムに含有されていれば含有させる方法に限定はない。例えば、スチレン系単量体の重合中の任意の過程で添加あるいは析出させる方法、溶融押出する任意の過程で添加する方法が挙げられる。またこれらの粒子を効果的に分散させるため、分散剤、界面活性剤等を用いることができる。
【0033】
本発明においては、シリカ粒子Aおよび不活性微粒子Bの特に好ましい態様として、それぞれに球状シリカ粒子を用いた態様を例示することができるが、そのような場合においても、各々の粒子における平均粒径がそれぞれ重なりのない特定の数値範囲にあり、かつ各々の粒子における粒径の相対標準偏差がそれぞれ特定の数値範囲にあるため、粒径分布曲線においては、上記2種類の粒子は明瞭に区別することができる2つの粒径ピークを示し、すなわちシリカ粒子Aと不活性微粒子Bとを明瞭に区別することができる。なお、2つの粒径ピークがそれぞれ裾野の部分で重なって、谷部分を形成する場合は、谷部分において極小値を示す点を境界として、2つの粒径ピークに分解する。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明の高絶縁性フィルムは、基本的には前記のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体に各種粒子等を所定割合で配合したものであるが、さらに成形性、力学物性、表面性等を改良するために他の樹脂成分を含有することができる。
【0035】
含有することができる他の樹脂成分としては、例えばアタクチック構造のスチレン系重合体、アイソタクチック構造のスチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が、前記シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と相溶しやすく、延伸用予備成形体を作成するときの結晶化の制御に有効で、その後の延伸性が向上し、延伸条件の制御が容易で、かつ力学物性に優れたフィルムを得ることができるため好ましく挙げることができる。このうち、アタクチック構造および/またはアイソタクチック構造のスチレン系重合体を含有させる場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と同様のモノマーからなるものが好ましい。また、これら相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下とすれば良い。相溶性樹脂成分の含有割合が40重量部を超えると、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の長所である耐熱性の向上効果が低くなってしまう。
【0036】
また、含有する事ができる他の樹脂成分のうち、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体に非相溶な樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等のポリチオエーテル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、テフロン(登録商標)等のハロゲン化ビニル系重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体、ポリビニルアルコール等、前記相溶性の樹脂以外の樹脂はすべて相当し、さらに前記相溶性の樹脂を含む架橋樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、本発明のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体と非相溶であるため、少量含有する場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体中に島のように分散させることができ、延伸後に程良い光沢を与えたり、表面の滑り性を改良するのに有効である。非相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。また、製品として使用する温度が高い場合は、比較的耐熱性のある非相溶性樹脂製分を含有することが好ましい。
【0037】
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、耐候剤等の添加剤を加えることができる。
【0038】
<フィルム特性>
本発明の高絶縁性フィルムは、厚み方向の屈折率が1.6050以上1.6550以下であることが必要である。厚み方向の屈折率は、好ましくは1.6100以上1.6450以下、さらに好ましくは1.6150以上1.6350以下、特に好ましくは1.6200以上1.6250以下である。厚み方向の屈折率が1.6050未満だと、絶縁破壊電圧が低くなり好ましくない。また、コンデンサーの製造工程においてフィルムが破断しやすい等取り扱い性に劣る、フィルムの厚み斑が悪く品質の安定したコンデンサーを得ることができないため好ましくない。他方、厚み方向の屈折率が1.6550を超えるようなフィルムを製造する場合は、フィルムの製造工程においてフィルム破断が多発してしまい、フィルムを得ることが非常に困難である。
【0039】
厚み方向の屈折率を上記範囲とするには、後述する特別な製造方法とする必要がある。すなわち本発明における厚み方向の屈折率は、一軸方向の延伸に次いで実施される該一軸方向と垂直な方向の延伸において、延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで後述する温度差をつけることで達成される。
【0040】
本発明の高絶縁性フィルムは、フィルム厚みが0.4μm以上6.5μm未満であることが好ましい。より好ましくは0.5μm以上5.5μm未満であり、さらに好ましくは0.6μm以上4.5μm未満、特に好ましくは1.0μm以上3.5μm未満である。フィルム厚みが0.4μm未満だと、フィルム破断が生じやすく取り扱い性に劣る傾向にある。他方、6.5μm以上だと、コンデンサーとしたときに電極間距離が長くなることにより、静電容量が低くなる傾向にある。
【0041】
コンデンサーの絶縁体として用いられるフィルムの場合、一般的にフィルム厚みが薄い方がコンデンサーの静電容量が高くなり好ましいことは、自然現象であり当然の事項である。しかしながら実際にフィルム厚みを薄くしてゆくと、フィルムにしわが入りやすくなる、フィルムが破断しやすくなる等取り扱い性が低下する、添加した粒子が脱落しやすくなる、さらにそれにより絶縁破壊電圧が低くなる、もしくはフィルム厚みが薄くなることにより絶縁破壊電圧の絶対値が低くなる等の問題が生じるため、それらをバランスさせることが不可欠となる。本発明は、フィルム厚みを薄くしても上記の問題が生じることが無いように、後述する特別な製造方法により、特定の粒子と配向構造を有する新規の構成の高絶縁性フィルムを得るものである。
【0042】
本発明の高絶縁性フィルムは、その中心線平均表面粗さRaが11nm以上89nm以下であることが好ましい。中心線平均表面粗さRaが11nm以上だと、滑り性がより良好となり、作業性がより向上する。さらに、ロール状に巻取る際にはブロッキングが抑制され、巻き形状が良好なロールを得やすくなる。また、中心線平均表面粗さRaが89nm以下だと、巻きズレ、端面ズレが生じにくくなる。このような観点から、中心線平均表面粗さRaの下限は、好ましくは21nm以上、さらに好ましくは31nm以上である。また、中心線平均表面粗さRaの上限は、好ましくは79nm以下、さらに好ましくは69nm以下、特に好ましくは59nm以下である。
【0043】
本発明の高絶縁性フィルムは、その10点平均粗さRzが900nm以上3000nm以下であることが好ましい。10点平均粗さRzが900nm以上だと、ロールとして巻き上げる際に、フィルムの横滑りが抑制され、巻取り性が良好なものとなる。また、10点平均粗さRzを3000nm以下とすることで、絶縁破壊電圧をより高くすることができる。このような観点から、10点平均粗さRzの下限は、好ましくは950nm以上、さらに好ましくは1050nm以上、特に好ましくは1250nm以上であり、また、10点平均粗さRzの上限は、好ましくは2600nm以下、さらに好ましくは2250nm以下、特に好ましくは1950nm以下である。特にフィルム厚みが薄い場合は、厚い場合に比べてフィルムに腰がないため、巻取り性がより悪い傾向にある。そのため10点平均粗さRzを上記数値範囲とすることが特に効果的である。
【0044】
<フィルムの製造方法>
本発明の高絶縁性フィルムは、一部の特別な製造方法を除けば、基本的には従来から知られている、あるいは当業界に蓄積されている方法で得ることができる。以下、本発明の高絶縁性フィルムを得るための製造方法について詳記する。
【0045】
先ず、主にシンジオタクチック構造のスチレン系重合体からなる樹脂組成物を加熱溶融し、未延伸シートを作成する。具体的には融点(Tm、単位℃)以上(Tm+70℃)以下の温度で加熱溶融しシート状に押し出して、冷却固化して未延伸シートを得る。得られた未延伸シートの固有粘度は、0.35〜0.9dl/gの範囲であることが好ましい。次いで、この未延伸シートを二軸方向に延伸する。延伸は、縦方向(機械軸方向)、横方向(機械軸方向と垂直な方向)を同時に延伸してもよいし、任意の順序で逐次延伸してもよい。例えば逐次延伸の場合には、先ず一軸方向に(ガラス転移点温度(Tg、単位℃)−10℃)以上(Tg+70℃)以下の温度で2.7倍以上4.9倍以下、好ましくは2.8倍以上4.6倍以下、さらに好ましくは2.9倍以上4.1倍以下、特に好ましくは3.3倍以上3.8倍以下の倍率で延伸し、次いで該一軸方向と垂直な方向にTg以上(Tg+80℃)以下の温度で2.7倍以上5.0倍以下、好ましくは2.9倍以上4.7倍以下、さらに好ましくは3.0倍以上4.3倍以下、特に好ましくは3.5倍以上3.9倍以下の倍率で延伸する。
【0046】
なお、上記一軸方向と垂直な方向の延伸の際には、前段階の延伸で結晶化が進んでいるためか延伸が難しくなり、製膜中に破断が起こりやすくなる。特にフィルム厚みの薄いフィルムを製膜する場合において、また特に延伸倍率が3.2倍を超える領域において破断が起こりやすくなる。この対策を検討した結果、延伸の温度を一定とするのではなく、複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけることが有効であることが判明した。温度差は、最終段階の温度が第1段階の温度より4℃以上高いことが好ましく、7℃以上高いことがより好ましく、11℃以上高いことがさらに好ましく、20℃以上高いことが特に好ましい。また、温度差が大きすぎるのも延伸性が低くなる、延伸後のフィルムの厚み斑が悪くなる等のため好ましくなく、温度差の上限は49℃以下が好ましく、39℃以下がさらに好ましく、29℃以下が特に好ましい。第1段階と最終段階の温度差を上記範囲とすることで、フィルム厚みの薄いフィルムの製膜において従来困難であった高い延伸倍率を達成することができ、これによって厚み斑が良好なフィルムを得ることができ、かつ本発明における厚み方向の屈折率を達成することができる。さらに、フィルム厚みを薄くしても破断が起こりにくいため、本発明における好ましいフィルム厚みを達成することができる。
【0047】
一軸方向と垂直な方向の延伸を実施する工程において第1段階と最終段階との温度差をつけるには、1の延伸ゾーンの中でゾーンの入口(第1段階)と出口(最終段階)とで温度差をつけてもよいし、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンを設けて最初の延伸ゾーン(第1段階)と最後の延伸ゾーン(最終段階)とで温度差をつけてもよい。ここでゾーンとは、テンター等においてシャッター等で区切られた1の領域を示す。いずれの場合も第1段階と最終段階の間をさらに分割し、第1段階から最終段階に向かって温度を傾斜的に上昇させるのが好ましく、特に直線的に上昇させると良い。例えば、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンによる場合は、最初の延伸ゾーンと最後の延伸ゾーンの間に、さらに1以上の延伸ゾーンを設けることが好ましく、1以上10以下の延伸ゾーンを設けることがさらに好ましい。延伸ゾーンの合計を13以上とすることは、設備コストの面から不利である。延伸は、例えばフィルムを幅方向に延伸する場合は、最終段階を出た直後のフィルム幅を、第1段階に入る直前のフィルム幅で除した値が目標の延伸倍率となるようにすればよく、傾斜的にフィルム幅を増加させることが好ましく、特に直線的に増加させると良い。縦方向と横方向を同時に延伸する場合においても、同様に延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけるようにする。
【0048】
次いで、本発明の高絶縁性フィルムは、(Tg+70℃)〜Tmの温度で熱固定される。熱固定の温度は、好ましくは200℃以上260℃以下、さらに好ましくは220℃以上250℃以下、特に好ましくは230℃以上240℃以下である。熱固定温度が高すぎると、特にフィルム厚みの薄いフィルムを製造する際に、破断が起きやすくなり、また厚み斑が悪化してしまう。熱固定の後に必要に応じて熱固定温度より20℃〜90℃低い温度下で弛緩処理をするのが、寸法安定性が良くなるため好ましい。
【実施例】
【0049】
次に本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。また、例中の各種特性値は下記の方法で測定、評価した。
【0050】
(1)粒子の平均粒径および粒径比
(1−1)粉体の平均粒径および粒径比
試料台上に、粉体を個々の粒子ができるだけ重ならないようにうに散在させ、金スパッター装置によりこの表面に金薄膜蒸着層を厚み200〜300Åで形成し、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも1000個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。
【0051】
(1−2)フィルム中の粒子の平均粒径および粒径比
試料フィルム小片を走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッタリング装置(JIS−1100型イオンスパッタリング装置)を用いてフィルム表面に、0.13Paの真空下で0.25kV、1.25mAの条件でイオンエッチング処理を10分間施した。さらに、同じ装置で金スパッターを施し、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観測し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも1000個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。
【0052】
粉体の平均粒径および粒径比については上記(1−1)項、フィルム中の粒子の平均粒径および粒径比については上記(1−2)項から得られた値を下記式に用いて、粒子の個数nとし、面積相当粒径(Di)の数平均値を平均粒径(D)とした。
【数1】

【0053】
また、下記式から得られた長径の平均値(Dl)と短径の平均値を(Ds)から、粒径比はDl/Dsとして算出した。
【数2】

【数3】

【0054】
(2)粒子の粒径の相対標準偏差
粉体の相対標準偏差については前記(1−1)項、フィルム中の粒子の相対標準偏差については前記(1−2)項で求められた各々の粒子の面積相当粒径(Di)および平均粒径(D)から、下記式により求めた。
【0055】
【数4】

【0056】
(3)フィルムの表面粗さ
(3−1)中心線平均表面粗さ(Ra)
非接触式三次元粗さ計(小坂研究所製、ET−30HK)を用いて波長780nmの半導体レーザー、ビーム径1.6μmの光触針で測定長(Lx)1mm、サンプリングピッチ2μm、カットオフ0.25mm、厚み方向拡大倍率1万倍、横方向拡大倍率200倍、走査線数100本(従って、Y方向の測定長Ly=0.2mm)の条件にてフィルム表面の突起プロファイルを測定する。その粗さ曲面をZ=f(x,y)で表わしたとき、次の式で得られる値をフィルムの中心線平均表面粗さ(Ra、単位nm)として定義する。
【0057】
【数5】

【0058】
(3−2)10点平均粗さ(Rz)
ピーク(Hp)の高い方から5点と谷(Hv)の低い方から5点をとり、次の式によりその平均粗さをRz(単位nm)とした。
【0059】
【数6】

【0060】
(4)熱収縮率
無張力の状態で150℃の雰囲気中30分におけるフィルムの収縮率(単位%)を求めた。
【0061】
(5)屈折率
ナトリウムD線(589nm)を光源としたアッベ屈折計を用いて23℃65%RHにて測定し、厚み方向の屈折率をnZとした。
【0062】
(6)絶縁破壊電圧(BDV)
JIS C 2151に示される方法に従って測定した。23℃相対湿度50%の雰囲気にて、直流耐電圧試験機を用い、上部電極は直径25mmの真鍮製円柱、下部電極は直径75mmのアルミ製円柱を使用し、100V/秒の昇圧速度で昇圧し、フィルムが破壊し短絡した時の電圧を読み取った。測定は41回実施し、大きい方の10個、小さい方の10個を除き、21個の中央値を絶縁破壊電圧(BDV)の測定値とした。
100℃、120℃での測定は熱風オーブンに電極、サンプルをセットし、耐熱コードで電源に接続し、オーブン投入後1分で昇圧を開始して測定した。
【0063】
(7)延伸性
二軸延伸フィルムを100万m製膜する間に破断の発生する回数により、以下の如く判断した。
延伸性◎ : 10万mの製膜当り 破断が1回未満
延伸性○ : 10万mの製膜当り 破断が1回〜2回未満
延伸性△ : 10万mの製膜当り 破断が2回〜4回未満
延伸性× : 10万mの製膜当り 破断が4回〜8回未満
延伸性××: 10万mの製膜当り 破断が8回以上
【0064】
(8)フィルムの巻取り性
フィルムの製造工程において、フィルムを550mm幅で6000mのロール状に100m/分の速度で巻き上げ、その巻上げ状況、ロールの外観により次のように格付けする。
A: ロールの巻き姿良好
B: ロールの表面に1個以上5個未満のピンプル(突起状盛り上がり)が見られるがほぼ良好
C: ロールの表面に5個以上のピンプル(突起状盛り上がり)が見られ、外観不良
D: ロールのフィルム端面ズレが起き、巻き姿不良
【0065】
[実施例1]
重量平均分子量3.0×10であり、13C−NMR測定でほぼ完全なシンジオタクチック構造であることが観察されるポリスチレンに、シリカ粒子Aとして平均粒径1.1μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.08の球状シリカ粒子((株)日本触媒製:商品名シーホスター(登録商標)KE−P100)を0.3重量%と、不活性微粒子Bとして平均粒径0.3μm、相対標準偏差0.16、粒径比1.08の球状シリカ粒子((株)日本触媒製:商品名シーホスター(登録商標)KE−P30)を0.2重量%とを含有するスチレン系重合体を得た。
このポリマーを120℃で4時間乾燥し、押出機に供給し、290℃で溶融し、ダイスリットから押出し後キャスティングドラム上で冷却固化し、未延伸シートを作成した。
【0066】
この未延伸シートを114℃で縦方向(機械軸方向)に3.0倍延伸し、続いてテンターに導いた後、横方向(機械軸方向と垂直な方向)に3.1倍延伸した。この時、横方向の延伸は、長さの同じ2つの延伸ゾーンからなる延伸工程により、第1の延伸ゾーン(第1段階)において温度100℃で2.05倍延伸し、第2の延伸ゾーン(最終段階)において温度112℃でさらに1.51倍延伸することで、最終的な延伸倍率が3.1倍となるようにフィルム幅を直線的に増加させて行った。その後235℃で9秒間熱固定をし、さらに180℃まで冷却する間に、幅方向に5%弛緩処理をして厚み3.0μmの二軸延伸フィルムを得てロール状に巻取った。得られた二軸延伸フィルムの特性を表1に示す。
実施例1から得られたフィルムは、延伸性および巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
【0067】
【表1】

【0068】
[実施例2〜7]
シリカ粒子A、不活性微粒子B、製膜条件、フィルム厚みを表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0069】
[実施例8]
シリカ粒子Aとして平均粒径0.8μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.08の球状シリカ、不活性微粒子Bとして平均粒径0.4μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.08の球状シリカを用い、シリカ粒子Aおよび不活性微粒子Bの含有量、製膜条件、フィルム厚みを表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0070】
[実施例9]
シリカ粒子Aとして平均粒径1.6μm、相対標準偏差0.13、粒径比1.10の球状シリカ粒子((株)日本触媒製:商品名シーホスター(登録商標)KE−P150)を用い、不活性微粒子Bとして平均粒径0.1μm、相対標準偏差0.17、粒径比1.07の球状シリカ粒子((株)日本触媒製:商品名シーホスター(登録商標)KE−P10)を用い、シリカ粒子Aおよび不活性微粒子Bの含有量、製膜条件、フィルム厚みを表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0071】
実施例2、3から得られたフィルムは、延伸性および巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
実施例4〜6から得られたフィルムは、巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。延伸性は、実用に耐え得るものであった。
実施例7から得られたフィルムは、延伸性に劣るものの、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
実施例8、9から得られたフィルムは、延伸性および巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
【0072】
[比較例1]
シリカ粒子A、不活性微粒子B、製膜条件、フィルム厚みを表2に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例1から得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が低いために絶縁破壊電圧が低く、コンデンサーの絶縁体として不適なものであった。
【0073】
【表2】

【0074】
[比較例2]
厚み方向の屈折率がおおよそ1.6600であるようなフィルムを得るべく、縦方向および横方向の延伸倍率等の製膜条件を表2に示す通りとしたところ、フィルム破断が多発し、フィルムを得ることができなかった。
【0075】
[比較例3]
シリカ粒子Aを添加せず、不活性微粒子B、製膜条件、フィルム厚みを表2に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例3から得られたフィルムは、シリカ粒子Aを含有していないため、巻取り性に劣り、実用には耐え得ないものであった。
【0076】
[比較例4]
シリカ粒子Aの代わりに平均粒径1.4μm、相対標準偏差0.55、粒径比1.5の炭酸カルシウム粒子を0.3重量%添加し、不活性微粒子B、製膜条件、フィルム厚みを表2に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例4から得られたフィルムは、シリカ粒子Aの代わりに添加した炭酸カルシウム粒子の粒径の相対標準偏差が高すぎるため、絶縁破壊電圧が低く、コンデンサーの絶縁体として不適なものであった。
【0077】
[比較例5]
13C−NMRから求められるアイソタクチック度が97%のポロプロピレンを、250℃で溶融し、ダイスリットから押出後80℃のロール上で冷却固化し、未延伸シートとした。次いで、135℃で縦方向に4.5倍延伸し、163℃で横方向に9倍延伸した後、163℃で9秒間熱固定をし、160℃で2%弛緩してフィルム厚み3.0μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例5から得られたフィルムは耐熱性が低く、高温になると絶縁破壊電圧が著しく低下するものであった。また、熱収縮率が高く、高絶縁性フィルムとして不適なものであった。
【0078】
また、得られた高絶縁性フィルムを用いて、以下のようにコンデンサーを作成した。
まず、フィルムの片面にアルミニウムを500Åの厚みとなるように真空蒸着した。その際、8mm幅の蒸着部分と1mm幅の非蒸着部分との繰り返しからなる、縦方向のストライプ状に蒸着した。得られた蒸着フィルムを、蒸着部分と非蒸着部分のそれぞれ幅方向の中央部でスリットし、4mm幅の蒸着部分と0.5mm幅の非蒸着部分とからなる、4.5mm幅のテープ状に巻取りリールにした。次いで、2本のリールを、非蒸着部分がそれぞれ反対側の端面となるように重ね合わせ巻回し、巻回体を得た後、150℃、1MPaで5分間プレスした。プレス後の巻回体の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサーを作成した。
実施例1〜7から得られたフィルムコンデンサーは、耐熱性、耐電圧特性に優れ、コンデンサーとして優れる性能を示すものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてシンジオタクチック構造のスチレン系重合体に、平均粒径が0.6μm以上3.0μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下であるシリカ粒子Aを0.01重量%以上1.5重量%以下と、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下である不活性微粒子Bを0.05重量%以上2.0重量%以下とを含有する延伸フィルムであって、厚み方向の屈折率が1.6050以上1.6550以下であることを特徴とする高絶縁性フィルム。
【請求項2】
シリカ粒子Aの平均粒径が、不活性微粒子Bの平均粒径より0.3μm以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項3】
不活性微粒子Bが不活性無機微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項4】
不活性微粒子Bが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項5】
シリカ粒子Aが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項6】
フィルムの厚みが0.4μm以上6.5μm未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルムを用いたコンデンサー。

【公開番号】特開2009−62456(P2009−62456A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231687(P2007−231687)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】