説明

高耐食オーステナイト鋼

100質量%を基準とし、マンガン 20〜32%、クロム 10〜15%、炭素及び窒素 全部で0.5〜1.3%、その際に窒素に対する炭素の比は0.5〜1.5であり、残部 鉄並びに溶融に関連した不純物を含有する高耐食オーステナイト鋼の特許の保護が請求される。特許の保護が請求された鋼は、常圧下に製造され、かつ加工されることができ、かつTWIP特性を有する。前記鋼は建造物における、例えば自動車工業における構造部材の製造に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食オーステナイト鋼、その製造方法及びこの鋼の使用に関する。
【0002】
オーステナイト鋼の強さは、特に炭素及び窒素の元素の格子間に溶解された原子により高められる。揮発性元素である窒素を溶融物中に溶解させるために、通例、クロム及びマンガンが合金化される。クロムが単独でフェライト形成を促進するのに対し、マンガンと共にいわゆる固溶化焼きなましによりオーステナイト構造が得られ、この構造は室温までの焼入れにより安定化される。
【0003】
オーステナイト鋼の一種は、塑性変形の際に集中的な双晶形成が行われる、いわゆるTWIP鋼(双晶誘起塑性、Twinning Induced Plasticity、ドイツ語ではZwillingsbildung induzierte Platistizitaet)である。この過程は通例既に僅かな負荷で行われ、かつ前記鋼を硬化させ、その際に破断伸びは60%を上回る。これらの特性により、前記鋼は卓越して自動車工業における薄板の製造に、特に車体の事故に関わる範囲に適している。TWIP鋼は通例約0.02〜0.5質量%の炭素含量を有し、合金元素として、マンガンが20〜30質量%の量で、並びに特定のTWIP鋼中ではアルミニウム及びケイ素がそれぞれ3質量%までを有して使用される。
【0004】
欧州特許(EP)第0 889 144号明細書には、いわゆるTWIP鋼、軽量構造鋼が開示されており、前記鋼は1,100MPaまでの引張強さを示し、かつSi 1〜6質量%、Al 1〜8質量%(ここでAl及びSiの全含量は12質量%以下である)並びにMn 10〜30質量%を含有する。開示された鋼は、400MPaのより高い流動応力並びに70%までの一様伸び値及び90%までの破断伸びにより特徴付けられる。この印刷物に開示された鋼に不利であるのは、僅かな耐食性である。
【0005】
DE 101には、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼は、約1barの通常の大気圧下に溶融され、かつ鉄に加えてクロム 12〜15質量%、マンガン 17〜21質量%、ケイ素 <0.7質量%、炭素及び窒素 合計で0.4〜0.7質量%及び製造に関連した別の元素 合計で<1.0質量%を含有し、その際に炭素含量及び窒素含量の比は0.6〜1.0であることにより特徴付けられる。開示された鋼は、TWIP作用を示さず、かつ強い変形の際にマルテンサイトを形成しうるものであり、このことはとりわけより僅かな公称ひずみで現れる。
【0006】
国際公開(WO)第2006/025412号には、Fe、Al、Si、Mn、Cr及びNiを主要元素として含有する高耐食TWIP鋼が開示されている。得られた鋼は、50%を上回る一様伸び値及び600〜800MPaの引張強さを示す。機械的性質は、欧州特許(EP)第0 889 144号明細書に開示されたFe、Al、Si及びMnをベースとする鋼のそれと匹敵しうるものであるが、しかしながらニッケルの添加は製造コストを高め、かつ格子間原子の欠如は、より僅かな強さをまねく。C及びNを合金元素として含有する別のオーステナイト鋼は、国際公開(WO)第2006/027091号に開示されており、そこに記載された鋼は、それぞれ16〜21質量%の量のクロム及びマンガンの合金金属に加えて、モリブデン0.5〜2.0質量%並びに0.5〜1.1の炭素/窒素比を有する全部で0.8〜1.1質量%の炭素及び窒素も含有する。開示された鋼は、機械的な強さ、延性、耐摩耗性及び耐食性を示し、かつ強磁性を示さない。しかしながら不利であるのは、これらの合金の製造の際に、凝固する際に一次フェライト形成が行われることであり、このことは、溶融及び/又は溶接中に窒素の漏出をまねきうる。
【0007】
本発明には、高い耐力及びまた高い引張強さ並びに90%を上回る破断伸びを有し、かつ同時に耐食性である、溶接可能な高耐食オーステナイト鋼を提供するという課題が基礎となっていた。
【0008】
本発明の対象は、それぞれ100質量%を基準とし、鉄に加えて、
マンガン 20〜32%、
クロム 10〜15%、
炭素及び窒素 全部で0.5〜1.3%、その際に窒素に対する炭素の比は0.5〜1.5であり、
並びに溶融に関連した(erschmelzungsbedingt)不純物を含有する、高耐食オーステナイト鋼である。
【0009】
本発明によるオーステナイト鋼は、TWIP特性(TWIP=Twinning Induced Plasticity)並びに良好な耐食性を示す。このTWIP鋼の本質的な性質は、良好な耐食性を有する双晶粒界の形成により塑性、すなわち、変形の際に多数の双晶粒界をそのミクロ構造中で形成し、それにより強力にかつ均一に硬化し、引張試験において高い公称ひずみを有し、並びにマルテンサイトを形成することなく完全にオーステナイトのままである鋼を得ることである。
【0010】
本発明による鋼は、主要合金元素Fe、Mn及びCr並びに格子間元素C及びNの組合せにより形成される安定化されたオーステナイト構造を有する。本発明による鋼は、引張試験において90%を上回る破断伸び、400MPaを上回る耐力及び900MPaを上回る引張強さを示す。高い破断伸び及び耐力の組合せに基づいて、本発明による鋼は極度に変形可能である。さらにまた、本発明による合金は、意図的な変形後にX線回折を用いて検出可能なα−マルテンサイト又はε−マルテンサイトの形成を示さない。
【0011】
本発明による合金が、Cr、Mn、C及びNの前記の割合で一次オーステナイト凝固を可能にし、それにより溶融物が得られ、これから窒素が凝固及び/又は溶接中に漏出しないことが確認された。前記合金は、それゆえ、常圧下に製造され、かつまた加工されることができる。本発明による合金は、フェライトの形成を防止する安定なオーステナイト構造を示す。合金金属Cr及び存在しているNは、技術水準からのTWIP鋼と比べてより高い耐食性を生じさせる。
【0012】
合金金属Cr及びMn並びに添加剤N及びCの個々の量比は、Crの量が溶融物へのNの溶解度を改善するだけでなく、溶融物の凝固の際に一次フェライトを形成することなく合金の耐食性にも有利な作用を及ぼすような比に調節されている。フェライトの形成は不利である、それというのも、このフェライトは、窒素についてより僅かな溶解度、ひいては細孔形成の結果となりうるからである。さらに、本発明による合金中で、沈殿物、例えば、炭化物及び窒化物の形成はより低い温度にシフトされた。これは、オーステナイト化温度からのよりゆっくりとした冷却並びにより大きな構成部材断面積の問題のない製造を可能にする。
【0013】
また、本発明による合金の溶接性は、融接後の凝固中の窒素ガス漏出を回避することにより並びに室温への溶接継目及び熱の影響を受けた帯域の固体材料のその後の冷却中の沈殿物の形成を回避することにより有利な影響を受ける。これはとりわけ技術的に重要である、それというのも、溶接後に前記材料は相対的にゆっくりと冷却され、かつ溶接継目で及び熱の影響を受けた帯域中の沈殿物の形成は望ましくないからである。
【0014】
Mnの量は、変形性(塑性、変形能)を改善する。別の成分C及びNは、窒化物及び炭化物が形成されることなく、機械的性質及び耐食性を改善する。本発明によるC及びNの比は、溶融中にガスが漏出することなく又は炭化物もしくは窒化物が促進された冷却中に形成されることなく、完全オーステナイト凝固を可能にする。溶融物への所望の量の窒素の溶解度は、好ましくは1500℃及び圧力1barで与えられている。
【0015】
好ましい一実施態様において、22.0〜30.0質量%の量のMn及び11.0〜13.0質量%、特に12.0〜13.0質量%の量のクロムの合金金属が存在する。0.5〜0.8の窒素に対する炭素の比を有する0.5〜0.8質量%の炭素及び窒素の全含量が特に好都合であることが判明している。この実施態様の合金は、有利な材料特性を示すので、これらは軽量構造建築における使用に適している。
【0016】
さらなる一実施態様において、本発明による合金は、二次合金金属を含有し、前記合金を用いて機械的性質をさらに変えることができる。二次合金元素は、好ましくは、Mo、Si、Nb、Hf、V、Zr、Ti及びNdから選択されている。これらの合金金属のうち、Moは好ましくは1.0〜2.0質量%の量で、Siは0.1〜2質量%の量で含まれている。金属Nb、Hf、V、Zr、Ti及びNdは、より僅かな量で含まれていてよく、かつミクロ合金元素とも呼ばれる。ミクロ合金元素の中では、Nbは0.02〜0.1質量%の量で、金属Hf、V、Zr、Ti及びNdはそれぞれ互いに独立して0〜0.5質量%の量で存在していてよい。
【0017】
本発明のさらなる対象は、TWIP特性を有する高耐食オーステナイト鋼の製造方法であり、前記方法において個々の合金金属が常圧下に溶融され、かつ拡散焼きなましが1,000〜1,250℃の温度範囲で1〜72時間の期間にわたって、その後の焼入れ及び熱間加工/冷間加工を伴い実施される。
【0018】
溶融過程は、800〜1000mbarの圧力で純窒素中で又は開放炉中で、約800mbarの窒素分圧に相当する周囲圧力で、実施されることができる。
【0019】
本発明のさらなる対象は、建造物における、特に自動車工業における構造部材の製造のための、本発明によるオーステナイト鋼の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】TWIP鋼25Mn12CrCNの応力ひずみ線図
【図2】温度の関数としての切欠き衝撃曲げ値
【図3】一次オーステナイト凝固を有する高耐食TWIP鋼の状態図
【実施例】
【0021】
以下の第1表には、本発明による合金の例が示されている:
【表1】

【0022】
機械的性質は、第2表に示されている。
【0023】
【表2】

【0024】
以下の図中で、室温での負荷下での伸び曲線(図1)、衝撃強さ(図2)及び一次オーステナイト形成を読み取ることができる計算された状態図(図3)が、図示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量%を基準とし、鉄に加えて、
マンガン 20〜32%、
クロム 10〜15%、
炭素及び窒素 全部で0.5〜1.3%、その際に窒素に対する炭素の比が0.5〜1.5であり、
並びに溶融に関連した不純物
を含有する、高耐食オーステナイト鋼。
【請求項2】
Mo、Si、Nb、Hf、V、Zr、Ti、Nd及び/又はCoから選択される別の合金成分を含有する、請求項1記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項3】
Moが1.0〜2.0質量%の量で含まれている、高耐食オーステナイト鋼。
【請求項4】
Siが0.1〜2.0質量%の量で含まれている、請求項2又は3のいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項5】
Nbが0.02〜0.1質量%の量で含まれている、請求項2から4までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項6】
Hf、V、Zr、Ti及びNdがそれぞれ0.5質量%までの量で含まれている、請求項2から5までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項7】
Mnが22〜30質量%の量で含まれている、請求項1から6までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項8】
Crが11.0〜13.0質量%の量で含まれている、請求項1から7までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項9】
C及びNが全部で0.5〜0.8質量%の量で含まれており、かつNに対するCの比が0.5〜0.8である、請求項1から8までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項10】
TWIP特性を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項11】
900MPaを上回る引張強さを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項12】
耐力>400MPa及び破断伸び>90%を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の高耐食オーステナイト鋼。
【請求項13】
高耐食オーステナイト鋼の製造方法であって、
a)個々の合金金属を常圧下に溶融させ、
b)1,000〜1,250℃の温度範囲内で1〜72時間の期間にわたって焼きなましし、かつ
c)引き続き焼入れする
ことを特徴とする、高耐食オーステナイト鋼の製造方法。
【請求項14】
処理工程c)に引き続いて熱間加工及び/又は冷間加工を実施する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
建造物における、特に自動車工業における、構造部材の製造のための、高耐食オーステナイト鋼の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−519780(P2012−519780A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553279(P2011−553279)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000232
【国際公開番号】WO2010/102601
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(506002683)マックス−プランク−インスティトゥート フュア アイゼンフォルシュング ゲー エム ベー ハー (1)
【氏名又は名称原語表記】MAX−PLANCK−INSTITUT FUER EISENFORSCHUNG GMBH
【Fターム(参考)】