説明

高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】 加工の厳しい部品への適用に必要な高いめっき密着性を具備する高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】 鋼板の表面に、Mg:1〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.0001〜0.5質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板において、めっき/鋼板界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を生成させる。合金層の厚みが1〜100nmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板に係わり、更に詳しくは優れためっき密着性を有し、種々の用途、例えば家電用や自動車用、建材用鋼板として適用できる高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性の良好なめっき鋼板として最も使用されるものに亜鉛系めっき鋼板がある。これらのめっき鋼板は自動車、家電、建材分野など種々の製造業において使用されている。特にAl、Mgを添加しためっきは耐食性が高いため近年使用量が増加している。こうした亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させることを目的として本発明者らは、特許文献1において溶融Zn−Al−Mg−Siめっき鋼板を提案した。また、特許文献2において、厳しい加工が行われる部材の加工後耐食性を向上させる潤滑めっき鋼板を提案した。
【0003】
また、他にも特許文献3や、特許文献4において、Al、Mgを添加した高耐食性めっき鋼板が提案されており、且つ、これらのめっき鋼板は、めっき密着性の向上を目的として、溶融めっき層の下層にNi−Al−Mg−Zn系四元合金層、Ni−Al−Fe−Zn合金層を有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3179446号公報
【特許文献2】特許第3702193号公報
【特許文献3】特開平4−147955号公報
【特許文献4】特開2005−82834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高耐食性亜鉛めっき鋼板は、その優れた耐食性により様々な分野で使用が拡大している。このように使用される分野が拡大した結果、加工の厳しい部品で使用されることも増加している。こうした加工の厳しい部品においては、加工部でのめっき剥離を防止するために、高いめっき密着性が要求される。
【0006】
加工部でのめっき剥離を防止する方法として、特許文献2には、潤滑皮膜を塗布する方法が開示されているが、皮膜塗布はコストの増大を招くという課題が存在する。
また、特許文献3や、特許文献4には、めっき密着性の向上を目的として、溶融めっき層の下層にNi−Al−Mg−Zn系四元合金層、Ni−Al−Fe−Zn合金層を作製することが開示されているが、これら合金層を作製するためには、溶融めっきを行う前に鋼板表面にNiめっきを行う必要があるため、やはりコストの増大を招くという課題が存在する。また、これらめっき密着性を向上させる合金層を作製するためには、めっき前の熱処理にも制約があるため、一般的な連続溶融亜鉛めっき設備での製造は容易ではない。
また、その他これまで開示された鋼板においても、Al、Mgを添加した高耐食性めっき鋼板のめっき密着性を向上させる技術は開示されていない。
本発明は上記の現状に鑑みて、加工の厳しい部品への適用に必要な高いめっき密着性を具備する高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Al、Mgを添加した高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性を向上させる技術について鋭意研究を重ねた結果、めっき層と鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を生成させることにより、高いめっき密着性が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
【0009】
(1)鋼板の表面に、Mg:1〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.0001〜0.5質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板において、めっき/鋼板界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を有することを特徴とする密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【0010】
(2)めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層の厚みが1〜100nmであることを特徴とする上記(1)に記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【0011】
(3)めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層がFeAlと同じ結晶構造を持つことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【0012】
(4)めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層とめっき層の界面にMgSi相を有することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【0013】
(5)さらに、めっき層中に、Ti、Zr、Sr、Hf、Sc、Bから選ばれる1種又は2種以上を単独あるいは複合で0.000001〜0.5質量%以下含有することを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高いめっき密着性を具備する高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板を提供できるので、加工の厳しい部品へ高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板を使用することが可能となり、工業上極めて優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板は、Mg:1〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.0001〜0.5質量%、残部がZnおよび不可避不純物からなるめっき層を有するめっき鋼板のめっき層と鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を有することを特徴とする高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0017】
まず、本発明の高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の成分を限定した理由について説明する。
【0018】
Alの含有量を4〜20質量%に限定した理由は、4質量%未満では耐食性を向上させる効果が不十分であるためであり、20質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和するためである。望ましくは、4〜15質量%である。
【0019】
Mgの含有量を1〜10質量%に限定した理由は、1質量%未満では耐食性を向上させる効果が不十分であるためであり、10質量%を超えるとめっき層が脆くなって密着性が低下するためである。望ましくは、2〜5質量%である。
Siの含有量を0.0001〜0.5質量%に限定した理由は、0.0001質量%未満では密着性を向上させる効果が不十分であるためであり、0.5質量%を超えると密着性を向上させる効果が飽和するためである。Siは下記に記すAl−Fe−Si−Zn四元系合金層の生成に大きく影響する。望ましくは、0.0005〜0.35質量%である。
【0020】
このMg:1〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.0001〜0.5質量%、残部がZnおよび不可避不純物からなるめっき層は、〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔Zn相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔MgSi相〕の1つ以上を含む金属組織として観察される。
【0021】
ここで、〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕とは、Al相と、Zn相と金属間化合物ZnMg相との三元共晶組織であり、この三元共晶組織を形成しているAl相は例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。また、該三元共晶組織中のZn相は少量のAlを固溶し、場合によってはさらに少量のMgを固溶したZn固溶体である。該三元共晶組織中のZnMg相は、Zn−Mgの二元系平衡状態図のZn:約84重量%の付近に存在する金属間化合物相である。状態図で見る限りそれぞれの相にはSiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるがその量は通常の分析では明確に区別できないため、この3つの相からなる三元共晶組織を本明細書では〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕と表す。
【0022】
また、〔Al相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、これは例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相はめっき浴のAlやMg濃度に応じて固溶するZn量やMg量が相違する。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離するが、常温で見られる島状の形状は高温でのAl″相の形骸を留めたものであると見てよい。状態図で見る限りこの相にはSiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるが通常の分析では明確に区別できないため、この高温でのAl″相に由来し且つ形状的にはAl″相の形骸を留めている相を本明細書では〔Al相〕と呼ぶ。この〔Al相〕は前記の三元共晶組織を形成しているAl相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0023】
また、〔Zn相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlさらには少量のMgを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Zn相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0024】
また、〔ZnMg相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔ZnMg相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZnMg相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0025】
また、〔MgSi相〕とは、めっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りZn、Alは固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔MgSi相〕はめっき中では顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0026】
また、本発明のめっき鋼板においては、上記めっき層と鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を生成させることによりめっき密着性を向上させる。めっき層と鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を有することによりめっき密着性が向上する理由は、めっき層と鋼板の界面にめっき成分と鋼板の反応層ができることにより、界面の結合力が大きくなるためであると考えられる。
【0027】
このAl−Fe−Si−Zn四元系合金層の厚みは、1〜100nmであることが望ましい。Al−Fe−Si−Zn四元系合金層の厚みが1〜100nmであることが望ましい理由は、1nm未満では密着性を向上させる効果が不十分であるためである。Al−Fe−Si−Zn四元系合金層の厚みは、極端に厚くなり過ぎなければ問題はないが、合金層を厚く成長させるためには、高温長時間の浸漬が必要となり生産性を低下させるため、100nm以下であることが望ましい。めっき密着性と生産性のバランスの観点から、5〜50nmに制御することが更に望ましい。
【0028】
この界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層はTEMにより、容易に観察できる。発明者らがTEM観察した結果では、電子線回折から同定した結晶構造は、a軸が約7.6Å、b軸が約6.4Å、c軸が約4.2Åの斜方晶であり、EDSにより測定した組成は、Fe、Alが合計で約80質量%、Si、Znが合計で約20質量%であった。従って、このAl−Fe−Si−Zn四元系合金層は、FeAlと同じ結晶構造を持ち、Si、Znを固溶するか、Si、Znで一部置換された金属間化合物であると考えられる。また、分析場所によっては、少量のMgが検出されることから、Mgを固溶することも可能であると考えられる。
【0029】
また、本発明のめっき鋼板においては、めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層とめっき層の界面にMgSi相を有することが望ましい。MgSi相が界面に晶出するためには、界面に十分なSiが供給される必要があるため、同様の理由で、Al−Fe−Si−Zn四元系合金層にも十分なSiが供給される結果、めっき層の密着性が向上すると考えられる。
【0030】
MgSi相が界面に晶出するためには、Si含有量をAl含有量の0.0001〜0.025倍とすることが望ましい。
【0031】
また、めっき層中には、Ti、Zr、Sr、Hf、Sc、Bから選ばれる1種又は2種以上を単独あるいは複合で0.000001〜0.5質量%添加しても良い。これらの元素を含む金属間化合物は、初晶Al相の晶出核として作用し、凝固組織を微細均一にしてめっき鋼板の外観や平滑性を向上させる。Ti、Zr、Sr、Hf、Sc、Bから選ばれる1種又は2種以上の添加量を0.000001〜0.5質量%とした理由は、0.000001質量%未満では、添加により凝固組織を微細均一にする効果が不十分であるためであり、0.5質量%を超えると粗大化した金属間化合物がめっき後の外観を悪化させるためである。特に外観向上を目的として添加する場合は、0.0001〜0.1質量%添加することが望ましい。
【0032】
本発明のめっき下地鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、鋼種もAlキルド鋼、Ti、Nb等を添加した極低炭素鋼板、およびこれらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、ステンレス鋼等、種々のものが適用できる。本発明品の製造方法については、特に限定することなく鋼板の連続溶融めっき法、どぶづけめっき法など種々の方法が適用できる。
【0033】
めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から10g/m以上、加工性の観点から350g/m以下で有ることが望ましい。
【0034】
亜鉛めっき層中には、これ以外にFe、Sb、Pb、Snの1種又は2種以上を0.5質量%以内含有してもよい。また、Ca、Be、Cu、Co、Cr、Mn、Mo、P、Nb、V、BiやLa、Ce、Y等の3族元素の1種又は2種以上を合計で0.5質量%以下含有しても本発明の効果を損なわず、その量によってはさらに耐食性が改善される等好ましい場合もある。
【0035】
本発明の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板の溶融亜鉛めっき方法については特に限定することなく、通常の鋼板の連続溶融亜鉛めっき方法が適用できる。ただし、めっき前の鋼板表面に異物が付着していると、反応を阻害し、Al−Fe−Si−Zn四元系合金層が生成されなくなるため、電解清浄等を行い、こうした異物を除去することが望ましい。また、鋼板表面に酸化膜が残存していると、同様に反応を阻害し、Al−Fe−Si−Zn四元系合金層の生成が抑制されるため、鋼板表面を十分に還元し、反応性を良くしておくことが望ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
まず、厚さ0.8mmの軟鋼冷延鋼板を準備し、無酸化炉タイプの連続溶融亜鉛めっきラインを使用して、加熱、焼鈍、めっきを行った。溶融めっきは、表1に示す組成の溶融めっき浴に3秒浸漬後、Nワイピングでめっき付着量を片面50g/mに調整し、冷却速度10℃/sで冷却した。溶融めっき浴の浴温は450〜500℃とした。また、連続溶融亜鉛めっきラインを通板する前の冷延鋼板は、電解清浄ラインを通板したものと、通板していないものの2種類を使用した。
【0038】
めっきの付着量は、めっきをインヒビター入りの塩酸で溶解し、重量法により測定した。めっき浴とめっき層のAl、Mgの組成は、試料をインヒビター入りの塩酸で溶解し、化学分析により測定した。また、めっき浴及びめっき層のSi組成は、溶解液中のSiを不溶解性珪酸として沈殿させた後、重量を測定して求めた。実験に使用しためっき浴の組成と得られためっき層の組成を表1に示す。めっき付着量は、ほぼ狙いの値であった。
【0039】
界面の合金層は、得られためっき鋼板のめっき/鋼板界面から、FIBサンプリング法を用いてサンプリングを行い、TEMにより観察した。EDS分析によりAl、Fe、Si、Znが観察された層をAl−Fe−Si−Zn四元系合金層、Al、Feが観察された層をAl−Fe系合金層、Mg、Siが観察された相をMgSi相と定義した。また、合金層の電子線回折を行い、a軸が約7.6Å、b軸が約6.4Å、c軸が約4.2Åの斜方晶と同定された結晶はFeAl構造と定義した。
【0040】
めっき密着性は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行ったサンプルのコーナー部に粘着テープを貼り、その後引き剥がし、めっきが剥離しなかった場合を○、めっきが剥離した場合を×とした。
【0041】
耐食性は、JISZ2371で規定される塩水噴霧試験で評価した。評価は、赤錆発生面積を測定し、下記基準に従って評点付けを行った。耐食性は、1000hr経過後、赤錆発生面積率50%未満を合格とした。
◎:1000hr経過しても赤錆発生無し。
○:1000hr経過後、赤錆発生面積率50%未満。
△:500hr経過後、赤錆発生面積率50%未満。
×:500hr経過後、赤錆発生面積率50%以上。
【0042】
結果を表1に併せて示す。番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24は、めっきと鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層が生成していないため、めっき密着性が不合格であった。番号25は、めっき層中のMg含有量が本発明外のため、耐食性が不合格であった。番号26、27は、めっき層中のSi含有量が本発明外のため、めっきと鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層が生成せず、めっき密着性が不合格であった。これら以外の本発明品は、良好なめっき密着性をもつ高耐食性めっき鋼板であった。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例2)
まず、厚さ0.8mmの軟鋼冷延鋼板を準備し、無酸化炉タイプの連続溶融亜鉛めっきラインを使用して、加熱、焼鈍、めっきを行った。溶融めっきは、Zn−11Al−3Mg−0.15Siめっき浴にTi、Zr、Sr、Hf、Sc、Bから選ばれる1種又は2種以上を添加した溶融めっき浴に3秒浸漬後、Nワイピングでめっき付着量を片面150g/mに調整し、冷却速度10℃/sで冷却した。溶融めっき浴の浴温は450℃とした。また、連続溶融亜鉛めっきラインを通板する前の冷延鋼板は、電解清浄ラインを通板したものと、通板していないものの2種類を使用した。
【0045】
めっきの付着量は、めっきをインヒビター入りの塩酸で溶解し、重量法により測定した。めっき浴とめっき層のAl、Mg、Ti、Zr、Sr、Hf、Sc、Bの組成は、試料をインヒビター入りの塩酸で溶解し、化学分析により測定した。また、めっき浴及びめっき層のSi組成は、溶解液中のSiを不溶解性珪酸として沈殿させた後、重量を測定して求めた。得られためっき層の組成を表2に示す。めっき付着量は、ほぼ狙いの値であった。
【0046】
界面の合金層は、得られためっき鋼板のめっき/鋼板界面から、FIBサンプリング法を用いてサンプリングを行い、TEMにより観察した。EDS分析によりAl、Fe、Si、Znが観察された層をAl−Fe−Si−Zn四元系合金層、Al、Feが観察された層をAl−Fe系合金層、Mg、Siが観察された相をMgSi相と定義した。また、合金層の電子線回折を行い、a軸が約7.6Å、b軸が約6.4Å、c軸が約4.2Åの斜方晶と同定された結晶はFeAl構造と定義した。
【0047】
めっき密着性は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行ったサンプルのコーナー部に粘着テープを貼り、その後引き剥がし、めっきが剥離しなかった場合を○、めっきが剥離した場合を×とした。
【0048】
耐食性は、JISZ2371で規定される塩水噴霧試験で評価した。評価は、赤錆発生面積を測定し、下記基準に従って評点付けを行った。耐食性は、1000hr経過後、赤錆発生面積率50%未満を合格とした。
◎:1000hr経過しても赤錆発生無し
○:1000hr経過後、赤錆発生面積率50%未満
△:500hr経過後、赤錆発生面積率50%未満
×:500hr経過後、赤錆発生面積率50%以上
【0049】
結果を表2に併せて示す。番号2、4、6、8、10、12、14は、めっきと鋼板の界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層が生成していないため、めっき密着性が不合格であった。これら以外の本発明品は、良好なめっき密着性をもつ高耐食性めっき鋼板であった。
【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に、Mg:1〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.0001〜0.5質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板において、めっき/鋼板界面にAl−Fe−Si−Zn四元系合金層を有することを特徴とする密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層の厚みが1〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層がFeAlと同じ結晶構造を持つことを特徴とする請求項1または2に記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
めっき/鋼板界面のAl−Fe−Si−Zn四元系合金層とめっき層の界面にMgSi相を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
さらに、めっき層中に、Ti、Zr、Sr、Hf、Sc、Bから選ばれる1種又は2種以上を単独あるいは複合で0.000001〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の密着性に優れた高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板。

【公開番号】特開2011−144429(P2011−144429A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6915(P2010−6915)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】