説明

高耐食性防錆塗料、高耐食性鉄鋼材料及び鋼構造物

【課題】産業機械、車両、船舶、化学工業施設、建築物、橋梁等に用いられる鉄鋼材料に好適に使用できる高耐食性防錆塗料及び高耐食性鉄鋼材料を提供する。
【解決手段】Mg:0.01〜30%を含有し、残部Zn及び不可避的不純物からなるZn合金粒子を30質量%以上分散させた塗料であって、該Zn合金粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する粒径分布のピーク粒径が0.05〜5μmまたはピーク粒径が0.01〜5μmの細粒Zn金属粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する粒径分布のピーク粒径または平均粒径が6〜100μmの粗粒Zn合金粒子とからなり、これら全粒子の総和に占める粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の割合が、5〜99体積%であることを特徴とする。また、該塗料を、塗装厚み5〜300μmとなるように塗装した高耐食性鉄鋼材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性防錆塗料及び耐食性鉄鋼材料に関し、特に、各種鉄鋼材料表面に塗布したときにかつてない著しく優れた耐食性・防錆性を発揮する高耐食性防錆塗料、高耐食性鉄鋼材料及び鋼構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
防錆顔料としてZn粒子を多量に含有する防錆塗料、すなわちジンクリッチペイントが、鉄鋼材料の腐食対策として汎用的に用いられている技術である。このジンクリッチペイントに用いられるZn粒子は、通常、ミスト法で製造される。ミスト法で製造されたZn粒子は、その平均粒径が数〜数十μmの領域にひとつの頻度分布のピークを持つ粒径分布を有する球状粒子となる。これらは主に重防食塗装の下塗りに用いられるものであり、その防錆機構の特徴は塗膜に含まれるZn粒子の犠牲防食作用である。しかし、ジンクリッチペイントの塗膜の防錆能は、前述のようにZn粒子の犠牲防食作用に強く依存することから、使用環境によっては、Znの消失速度が大きく鉄鋼材料に対する保護作用が長続きしない場合がある。
そこで、塗料中のZn粒子の平均粒径を小さくしたり、膜厚を厚くしたりする対策がとられているが、鋼材面との密着性の低下や塗膜のヒビ割れ或いはダレなどが起こりやすくなり、塗膜の防錆性能と物理的性質や施工性を両立しがたく万全とはいえない。
【0003】
このような状況下にあって、従来のジンクリッチペイントの長所を保持し、更に長期にわたり犠牲防食作用を発揮する高性能ジンクリッチペイントの開発が期待され、これまでにも各種の提案がなされてきた。例えば、特許文献1では、結合剤と−750mV未満の電位を有する金属粉を添加することでZn粒子等の金属含有量を少なくした有機系塗料組成物に関する発明が提案された。
【0004】
また、新たな合金粒子の組合せによって耐食性の向上を試みたものが提案された。例えば、特許文献2では、Zn粒子の他にZn合金粒子とMn粒子を含有させたジンクリッチペイントに関する発明が提案された。さらに、特許文献3では、Zn−Al−Mg系合金粒子を含有する耐食性塗料に関する発明が開示された。これらは、Zn−Mg系合金粒子とエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂などの有機系樹脂との組合せによって耐食性を向上しようとするものである。
【0005】
さらに、無機系バインダーを用いた発明が特許文献4で開示された。特許文献4に記載の発明の特徴は、金属組織がZnとMgZn2より構成された無機系のZn−Mg粒子の高寿命防錆性能である。
【0006】
更に、粒子形状からも種々検討されてきた。例えば、特許文献5や特許文献6では、Zn−Mg合金のフレーク状粒子を含有する無機系耐食性塗料やこの塗料を塗布してなる耐食性鉄鋼材が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平08−151538号公報
【特許文献2】特開平01−311178号公報
【特許文献3】特開2001−164194号公報
【特許文献4】特開平02−73932号公報
【特許文献5】特開2002−285102号公報
【特許文献6】特開2005−336431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、結合材を用い、金属粉の電位を制御することで、従来のジンクリッチペイントよりも耐食性向上効果は得られるものの、一般的な有機系塗料であるため、紫外線・水分や酸素などの複合環境で劣化しやすく、比較的短時間でのメンテナンスが必要になるという副次的な問題が残されている。また、燃焼時には多量の有毒ガスを発生させるという問題点もあり、更なる改善が求められていた。
【0009】
また、特許文献2や特許文献3では有機系バインダーを主に、また、特許文献4では無機系バインダーを主に用い、金属粒子にはMg、Alなどの高耐食合金粒子を用いる発明が開示されている。これらは、MgZn2やMg2Zn11の金属間化合物を形成させ、耐食性を向上させたものである。具体的には金属間化合物は合金粒子内部に存在し表面が酸化物層またはZnとMgの固溶相で覆われている。従って、高耐食性の金属間化合物相が合金粒子表面に出現しにくく、耐食性が十分に得られない問題点があった。さらに、錆の主成分に電気伝導性の小さいZnCl2・4Zn(OH)2・H2Oが生成すると、犠牲防食作用が十分に発揮されない問題点があり、更なる改善が求められていた。
【0010】
これら合金粒子の製造はインゴットの破砕やアトマイズ法、ミスト法などで行われることが主であるが、合金粒子の工業レベルでの安定製造ができず、更なる改善が求められていた。
【0011】
特許文献5、特許文献6でフレーク状の合金粒子が開示されているが、フレーク状の合金粒子は、スプレー塗装が困難であり、従来のエアレススプレーでは塗装密着性が十分に確保できず、更なる改善が求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、従来では為し得なかった異なる2種類のピーク粒径または平均粒径、特に細粒側を増加させた2種類のピークからなるZn金属粒子またはZn合金粒子を製造し、これらを無機系または有機系のバインダーと組み合せることで、従来よりも格段に優れた耐食性・防錆性を発揮する高耐食性防錆塗料及び高耐食性鉄鋼材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々検討の結果、防錆塗料のバインダーに、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を乾燥塗膜換算で30質量%以上分散させ、このZn金属粒子は、2山からなる粒径分布を持ち、ピーク粒径0.05〜5μmまたは平均粒径0.01〜5μmの細粒Zn金属粒子とピーク粒径または平均粒径が6〜100μmの粗粒Zn金属粒子を併せ持つものであり、これら両Zn金属粒子の総和に占める粒径0.05〜5μmのZn金属粒子の割合が体積%で5%以上99%以下である塗料とすると、かつてない著しく優れた耐食性・防錆性・塗装性を発揮することを新たに見出し、本発明の基本を見出すに至った。さらに、2山からなる粒径頻度分布を持つ上記粒子の耐食性・防錆性の更なる向上可能性を詳細に検討し、上記細粒Zn金属粒子または粗粒Zn金属粒子が、Mgを質量%で0.01〜30%含有するZn合金粒子とすると、またはさらに、このZn合金粒子に、Al:0.01〜30、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有させることでさらなる防錆性を有する防錆塗料が得られることを見出した。
【0014】
同時に前記Zn合金粒子または、Al:0.01〜30、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有したZn−Mg−Al−Si合金粒子形状とその状態にも着目し、該細粒合金粒子または粗粒合金粒子が球状ではなく、破砕などにより、1つの閉じた稜線で囲まれた平面または曲面からなる複数面を有する形状体になって、表面に物理的破砕面または、き裂が存在すると、自己溶解性の向上によると考えられる防錆性の向上効果を認めた。特に、長さ0.01μm以上もしくは、深さ0.01μm以上のき裂があると著しい防錆性の向上効果が発現されることを見出した。このとき、破砕面にMgZn2、Mg2Zn11、MgZnやMg2Zn3の金属間化合物を配置することで、さらに得られる効果を高めることができることを見出した。一方、上記2山の粒径頻度ピークの生成方法であるが、鋭意検討を重ね、金属粒子の一般的な生成方法であるミスト法、ガスアトマイズ法で一次粒子を生成後、粒子同士を互いに衝突させるか、もしくは粒子を別の固体に衝突させることで、より一層耐食性・防錆性に優れた従来と同様の粒径での粒径頻度ピークの他に、従来よりも細粒側にも粒径頻度ピークを併せ持つZn合金粒子が得られることを見出した。
【0015】
上記2山の粒径頻度ピークを併せ持つZn合金粒子は、そのままで塗料用の顔料として用いて優れた耐食性・防錆性をもたらすが、さらなる検討の結果、一般的な生成方法であるミスト法やガスアトマイズ法等で生成された、従来から一般的に用いられているZn粒子(以下、従来Zn粒子ともいう。)顔料と混合した塗料顔料を用いることで、従来Zn粒子を単独使用した顔料に比較して著しく優れた耐食性・防錆性をもたらすことを見出した。
【0016】
また、本発明のZn金属粒子またはZn合金粒子を顔料として有機塗料とした場合には紫外線・水分や酸素などの有機塗料の劣化を促進する厳しい複合環境であっても従来にない優れた耐食性・防錆性をもたらすことを見出した。
【0017】
さらに、乾燥塗膜中のZn金属粒子分布について鋭意検討を重ねた結果、塗膜表層に上記細粒Zn合金粒子を濃化させることでより一層の耐食性・防錆性の向上をもたらすことを見出した。
【0018】
本発明は、以上のような検討に基づきなされたものであり、その特徴は以下の通りである。
〔1〕無機系バインダーに、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を乾燥塗膜換算で30質量%以上分散させた高耐食性防錆塗料であって、該Zn金属粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径0.05〜5μmの細粒Zn金属粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径6〜100μmの粗粒Zn金属粒子とからなり、これら全Zn金属粒子に占める粒径0.05〜5μmのZn金属粒子の割合が、体積%で、5〜99%であることを特徴とする、高耐食性防錆塗料。
〔2〕無機系バインダーに、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を乾燥塗膜換算で30質量%以上分散させた高耐食性防錆塗料であって、該Zn金属粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する平均粒径0.01〜5μmの細粒Zn金属粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する平均粒径6〜100μmの粗粒Zn金属粒子とからなり、これら前記細粒および粗粒Zn金属粒子に占める前記細粒Zn金属粒子の割合が、体積%で、5〜99%であることを特徴とする、高耐食性防錆塗料。
〔3〕前記Zn金属粒子が、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Zn及び不可避的不純物からなるZn合金粒子であることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔4〕前記Zn金属粒子が、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子と、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Zn及び不可避的不純物からなるZn合金粒子とが混合した粒子であることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔5〕前記Zn合金粒子が、更に、質量%で、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有することを特徴とする、前記〔3〕または〔4〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料。
〔6〕前記Zn合金粒子は、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、破砕面および/またはき裂にMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物を有することを特徴とする、前記〔3〕〜〔5〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料。
〔7〕前記Zn合金粒子の最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均値が1〜1.5であることを特徴とする前記〔6〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔8〕前記Zn−Mg金属間化合物が、MgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZn、Mg7Zn3の1種又は2種以上からなることを特徴とする、前記〔6〕または〔7〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔9〕前記Zn合金粒子は、複数面体であることを特徴とする、前記〔3〕〜〔8〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料。ここで、1つの閉じた稜線で囲まれた平面または曲面を1つの面とする。
〔10〕前記細粒及び粗粒Zn合金粒子に加え、さらに平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を分散させた高耐食性防錆塗料であって、全金属粒子の総和に占める粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の合計体積%が5〜99%であり、かつ、全金属粒子を乾燥塗膜換算で合計30質量%以上分散させたことを特徴とする〔3〕〜〔9〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔11〕更に、質量%で、(前記細粒及び粗粒Zn金属粒子量または、前記細粒及び粗粒Zn合金粒子量):(前記平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子量)の比の値を1/xとしたとき、xが300.0以下であるすることを特徴とする前記〔10〕に記載の高耐食性防錆塗料。
〔12〕質量%で、前記Zn合金粒子と前記平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子との混合粒子の合計を100%としたとき、該混合粒子中のMgの含有量が0.01〜30%未満であることを特徴とする前記〔11〕記載の高耐食性塗料。
〔13〕前記高耐食性防食塗料のバインダーが、前記無機系バインダーに代えて、有機系バインダーであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔12〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料。
〔14〕前記〔1〕〜〔13〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料が塗装された鉄鋼材料であって、乾燥塗装厚みが2〜700μmであり、前記細粒及び粗粒Zn金属粒子または前記細粒及び粗粒Zn合金粒子が塗膜中に分散していることを特徴とする、高耐食性鉄鋼材料。
〔15〕前記〔3〕〜〔13〕の何れかに記載の高耐食性防錆塗料が塗装された鉄鋼材料であって、乾燥塗装厚みが2〜700μmであり、前記細粒及び粗粒Zn合金粒子が塗膜中に分散しており、かつ、乾燥塗膜の最表層10%厚さ領域での粒径0.05〜5μmの前記細粒Zn合金粒子の含有割合が、乾燥塗膜全体の粒径0.05〜5μmの細粒Zn合金粒子の含有割合の2倍以上であることを特徴とする、高耐食性鉄鋼材料。
〔16〕前記〔14〕または〔15〕に記載の高耐食性鉄鋼材料を一部又は全部に有することを特徴とする鋼構造物。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、従来の防錆塗料に添加する金属粒子では為し得なかった、粒径頻度分布に2山の粒径頻度ピークを有するZn金属粒子またはZn合金粒子を製造し、これらを無機系または有機系のバインダーと組み合せることにより、従来よりも優れた耐食性・防錆性を発揮する高耐食性塗料及び高耐食性鉄鋼材料を提供するものであり、産業機械、車両、船舶、化学工業施設、建築物、橋梁等に用いられている鉄鋼材料の1次防錆または腐食対策として好適に使用できるため、本発明の産業上の効果は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の限定要件を詳細に述べる。
【0021】
本発明で用いるZn金属粒子またはZn合金粒子の製造方法は、特に限定はしないが、例えば、汎用の粉末製造法であるミスト法、アトマイズ法により、本発明の粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子を製造できる。さらに、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子は、ミスト法または、アトマイズ法で製造できる他、それらの方法で製造したZn金属粒子またはZn合金粒子同士を直接または間接的に衝突させる物理的破砕法を用い製造できる。具体的な物理的破砕法としては、ミスト法またはアトマイズ法により得られたZn金属粒子またはZn合金粒子をトルエンまたはキシレン中に添加してスラリー状としたものを、対向するジェット噴流として、ジェット噴流同士を衝突させる方法または、別の平面状の固体に該ジェット噴流を垂直に衝突させる方法等が挙げられる。
【0022】
本発明の高耐食性防錆塗料に含まれるZn金属粒子またはZn合金粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する粒径分布のピーク粒径0.05〜5μmまたは平均粒径0.01〜5μmの細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する粒径分布のピーク粒径または平均粒径が6〜100μmの粗粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子から構成されることが必要である。従来の防錆塗料に含まれるZn金属粒子のように粒径頻度分布のピークが一つのものは、安価に製造可能であるが、平均的にみれば同一サイズとなる粒子が塗膜中で一様に分布することになり、金属粒子の充填率の向上には限界があった。耐食性向上のために、金属粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を小さくして充填率を高めたり、膜厚を大きくすることも行われたが、塗膜のわれ、ダレの原因になり、十分な耐食性向上には至らない。これに対し、本発明は、Zn金属粒子またはZn合金粒子の粒径分布に2山の粒径頻度ピークを与えることで、充填率を増加させることができ、厚塗りしなくても、著しい耐食性の向上をもたらす。
【0023】
ここで、Zn金属粒子またはZn合金粒子の粒径分布は、Zn金属粒子またはZn合金粒子を含水率を0.8%以下のトルエン、キシレン等の有機溶媒中に分散させた状態で、レーザー回折散乱法により測定できる。なお、前記含水率が高いと、Zn金属粒子またはZn合金粒子と水分が反応し、これら粒子の粒径が変化するので、注意が必要である。レーザー回折散乱法の測定原理上、Zn金属粒子またはZn合金粒子の粒径を球相当直径として、その粒径分布を測定している。粒径分布は、横軸に粒径d(μm)を対数表示とし、dが1桁異なるごとに対数表示上で25〜27等分したd区間を設定し、縦軸にそれぞれのd区分ごとの検出頻度を(体積%)を線形表示としたヒストグラムで表すことができる。
【0024】
本発明ではさらに、Zn合金粒子を破砕によって得ることで、物理的破砕面または、き裂が生じ、充填率の増加によってもたらされる以上のさらなる耐食性向上効果が達成できる。
【0025】
なお、本発明でいう物理的破砕面とは、球状の粒子の一部が欠落した形状を指す。Zn合金粒子が物理的破砕面を有することにより、後述のように耐食性・防錆性の向上効果が顕著に得られる。
【0026】
また、本発明でいうき裂とは、球状の粒子表面上に存在する長さ0.01μm以上または、表面からの深さ0.01μm以上の割れを意味する。き裂は長さもしくは深さで0.01μm未満では十分な耐食性向上効果が得られず、0.01μm以上の長さもしくは深さを必要とする。このき裂は、前記物理的破砕面を得るための破砕において副次的に生じることが多く、その存在頻度は、Zn合金粒子を走査電子顕微鏡等で観察した際、観察視野においてZn合金粒子のうち粒子個数割合で20%以上のZn合金粒子において、それぞれ、長さもしくは深さで0.01μm以上のき裂が1個以上認められると、なお好ましい。
【0027】
細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径が0.05μm未満または平均粒径が0.01μm未満では、機械的な流出または、化学的な溶出によって表面から失われやすくなり、十分な犠牲防食効果が得られないため、ピーク粒径の下限を0.05μmに、または平均粒径の下限を0.01μmに限定した。一方、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径が5μm超では、2山の粒径頻度ピークを得ることができなくなることから、その上限を5μmに限定した。また、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を6μm以上に限定した理由は、6μm未満では、耐食性・防錆性が飽和することから、さらには、2つの粒径頻度ピークを得ることができなくなることから、6μm以上に限定した。一方、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径が100μmを超えると、スプレー塗装、刷毛塗装の塗装安定性が得られなくなるため、その上限を100μm以下に限定した。
【0028】
更なる耐食性に加え、塗装性、密着性を考慮すると、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を1〜4μmとし、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を6〜20μmとするのが好ましい。更に、スプレー塗装性での安定性を考慮すると細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を1.5〜2.5μmとし、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子の粒径分布のピーク粒径または平均粒径を8.5〜11.5μmとするのが好ましい。上記範囲内であれば、2山の異なる粒径頻度のピーク幅比について限定はされないが、防錆性能を最大限に発揮させるためには、各粒径頻度ピークは共に、よりシャープな粒径頻度分布であるほうが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の高耐食性防錆塗料に含まれる、粒径分布のピーク粒径または平均粒径が0.05〜5μmの細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子と粒径分布のピーク粒径または平均粒径が6〜100μmの粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子とを合わせた全粒子中で、粒径0.05〜5μmの粒子の占める割合が、体積%で、5%以上であることが必要である。この割合が5%未満では、本発明のような著しい耐食性・防錆性の向上が認められない。一方、本発明の高耐食性防錆塗料に含まれる、粒径0.05〜5μmの粒子の占める割合が、体積%で、最大99%にしたのは、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子の割合が多くなればなるほど耐食性が向上するからである。しかし、99%より多くなると細粒Zn金属粒子が過剰になり、その効果は変わらなくなるか、場合によっては低下するため、99%を最大値にした。
【0030】
上記2山の粒径頻度ピークを併せ持つZn金属粒子は全Zn金属粒子に占める粒径0.05〜5μmのZn金属粒子の割合が、体積%で、5〜99%あれば、ミスト法やガスアトマイズ法等で生成されたZn金属粒子を混合しても本発明の著しい耐食性・防錆性の向上が認められる。
【0031】
塗膜の観点からは、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子および、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子が合計で、乾燥塗膜換算で30質量%以上とする必要がある。これが、30質量%未満では、本発明の著しい耐食性・防錆性を得ることができない。
【0032】
本発明は、ZnにMgやAl、Siなどが添加されたZn合金粒子でも、従来Zn金属粒子と混合しても2山の粒径頻度ピークをもたらすことで著しい耐食性・防錆性の向上効果が得られる。本発明の2山の粒径頻度ピークを有する、Zn合金粒子、またはZn金属粒子とZn合金粒子とを混合した粒子の耐食性・防錆性の効果は、本発明の2山の粒径頻度ピークを有するZn合金粒子での効果に比べ、向上する。この耐食性向上要因としては、Mg添加による細粒側の粒径頻度分布の増加、および物理的破砕面または、き裂の露出などが挙げられる。
【0033】
Zn合金粒子中のMgの含有量は、質量%で、0.01%未満だと、十分な防錆性能の向上効果が得られず、また30%を超えて添加すると防錆性能が逆に低下することから、その範囲を0.01〜30%に限定した。また、Zn合金中のMg添加量による物理的破砕性または、き裂発生率を向上させるためには0.5〜15%が好ましい。
【0034】
更に、Mgは、Znに比較して原料コストが高いので、経済性を考慮すると0.5〜10%が好ましい。
【0035】
上記成分系の範囲内であれば、Zn金属粒子とZn合金粒子の配合比率は特に限定しないが、全体のMg量は、0.01%未満だとMg添加による十分な防錆性能の向上効果が得られず、また30%を超えて添加するとMg添加効果が逆に低下するので、その全体のMg量の範囲は0.01〜30%が好ましい。更に、Mg含有量が多いほど耐食性が向上する一方、MgはZnに比較して原料コストが高いので、Mg添加により原料コストは増加する。従って、耐食性、経済性を鑑みると、全体のMg量の範囲は、0.01〜10%が好ましい。
【0036】
さらに、粒径分布に前記の2山の粒径頻度ピークを有するZn合金粒子に、汎用の平均粒径2〜50μmのZn金属粒子を添加することで、鋼材の耐食性の向上効果を落とさずに経済性を大幅に向上することが可能であることを見出した。
【0037】
ただし、その場合でも、Zn合金粒子とZn金属粒子の総和に占める、粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の体積%が5〜99%であり、かつ、該Zn合金粒子と該Zn金属粒子を乾燥塗膜換算で合計30質量%以上分散させることが必要である。
【0038】
また、更に、前記Zn合金粒子と前記Zn金属粒子の混合割合において、乾燥塗膜換算の質量%で、前2文に記した(Zn合金粒子量%):(Zn金属粒子量%)の比の値を1/xとした場合、xが、300.0以下の条件で混在させて使用することが耐食性・防錆性向上の観点から好ましい。(Zn合金粒子量%):(Zn金属粒子量%)の比の値を1/xとした場合、xが、300.0以下にしないと、耐食性・防錆性の向上に及ぼす、Zn合金粒子の添加効果が、認められなくなるため、xを300.0以下にする必要がある。耐食性を最も重視する場合は、限りなくZn合金粒子の割合を大きくし、Zn金属粒子の割合を0%に近づけることが、好ましいが、耐食性と経済性の実用上のバランスを考慮すると、(Zn合金粒子量%):(Zn金属粒子量%)の比は、1:1〜1:120が好ましい。さらに混合安定性を考慮すると1:1〜1:30が好ましい。また、本発明では混合に用いるZn金属粒子の粒径分布の平均粒径は、前記2山粒径分布の中間的な粒径となる2〜50μmが、経済性および、充填率向上から好ましい。
【0039】
なお、粒径分布に前記の2山の粒径頻度ピークを有するZn金属粒子に、汎用の平均粒径2〜50μmのZn金属粒子を添加することによっても、鋼材の耐食性の向上効果を有したまま、経済性を追求することが可能である。
【0040】
本発明では、Zn合金中に、さらにAlまたはSiを1種又は2種を添加することで耐食性を向上させることができる。
【0041】
Zn合金粒子中のAl含有量は、0.01%未満では防錆性能向上の効果は得られず、また30%より多く添加すると、AlはMgを固溶しやすく物理的破砕性を阻害するので、その範囲を0.01〜30%に限定した。更に、防錆性能、物理的破砕面および/またはき裂の生じ易さを考慮すると、0.01〜10%の範囲が好ましく、物理的破砕性をより重視する場合は、0.01〜2%の範囲が、好ましい。
【0042】
Zn合金粒子中のSi含有量は、0.01%未満では塗膜密着性、物理的破砕性の効果は得られず、また3%より多く添加すると、耐食性に悪影響を及ぼすことから、0.01〜3%に限定した。更に、最大限の塗装密着性、耐食性を発揮させるためには0.1〜1.0%が好ましい。
【0043】
また、上記範囲内であれば、Al、Siの塗膜中での配合比率は特に限定しないが、耐食性の観点からそれぞれAl:0.01〜1.0%、Si:0.01〜1.0%が好ましい。
【0044】
金属粒子がMgを含有するZn合金粒子の場合は、金属間化合物を含んでおり、細粒合金粒子製造工程で物理的破砕面および/またはき裂を外表面に有することができる。金属間化合物は、MgとZnの両者が簡単な整数比で結合した化合物であり、例えば、MgZn2、Mg2Zn11、MgZn、Mg2Zn3およびMg7Zn3が挙げられる。これらの金属間化合物のなかでは、破砕性、耐食性の観点から、MgZn2又はMg2Zn11が特に好ましい。また、物理的破砕により、金属粒子の形状を、球状ではなく略球状多面体にすると更なる耐食性・防錆性が向上する。略球状多面体とは、球状の粒子が物理的破砕により生じた擬似球状形であり、塗膜密着性、経済性、耐食性のバランスを考慮すると、多面体の面数が2面以上あることが好ましい。さらに、耐食性を考慮すると多面体の面数が6面以上あることが好ましい。
【0045】
本発明の高耐食性防錆塗料は、かかるZn金属またはZn合金粒子をビヒクル(液状バインダー)に配合して塗料液とする。この場合、ビヒクルとしては、無機系バインダーとして、アルキルシリケート、アルカリシリケート等が、また、有機系バインダーとして、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等が例示でき、その他のものでも、ジンクリッチペイントに用いられている液状バインダーであればいずれも使用できる。塗料のタイプとしては、エマルジョンタイプ、溶剤タイプのいずれでもよい。また、耐食性を損なわない限り通常のその他の添加剤を加えることができ、例えば、防食下塗りとして用いる場合、上塗り塗料との密着性を向上させるためにホウ素などの第3成分を添加しても良い。
【0046】
かかるZn金属またはZn合金粒子と液状バインダーとの混合比は、防錆性を発揮させるためには、細粒Zn金属粒子または細粒Zn合金粒子および、粗粒Zn金属粒子または粗粒Zn合金粒子を合計で、乾燥塗膜換算で30質量%以上を均一に混合する必要がある。さらに、耐食性、加工性、切断性の3つの特性のバランス性を考慮すると40〜65%とするのが好ましい。
【0047】
また、得られた塗料において、含水率を0.8質量%以下とすることで、適度な安定性と反応性を有する細粒Zn金属粒子、粗粒Zn金属粒子または、細粒Zn合金粒子、粗粒Zn合金粒子の性能を維持することができ、防食塗料として優れた防錆性が得られる。
【0048】
本発明の高耐食性防錆塗料の塗装に際して、アルカリシリケートやアルキルシリケート等の無機系バインダーを用いたときには、鋼材や鋼板との密着性を確保するためにある程度の素地調整をすることが望ましい。手工具や動力工具で処理し、塗布してもかまわないが、より高い接着性を確保するためにはブラスト処理をしてから塗布するのが好ましい。
【0049】
また、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等の有機系バインダーを用いたときには、直接鋼板、鋼材に塗装してもかまわないが、予め表面をブラスト処理したり、燐塩酸処理、クロメート処理してから塗布すれば、より優れた耐食性を有する塗装鋼板が得られる。
【0050】
塗装の膜厚の下限を2μm以上に限定したのは、2μm未満では、塗装材として、十分な耐食性・防錆性が得られないためである。また、膜厚が厚くなるほど防錆性は増すが、密着性能の観点や、乾燥後の塗膜の割れ、塗装時の塗料のダレを防ぐ観点からは、塗装の膜厚の上限を700μm以下とする必要がある。塗膜性能、経済性の観点から、塗装膜厚の好ましい範囲は、無機系バインダーとの組合せでは、5〜50μm、有機系バインダーとの組合せでは、5〜100μmである。
【0051】
さらに、粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の塗膜中での分布状態については、乾燥塗膜の最表層10%厚さ領域での粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の含有割合が多くなると耐食性・防錆性が向上する傾向がある。この耐食性・防錆性の向上効果を確実に得るためには、乾燥塗膜の最表層10%厚さ領域での粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の含有割合が、乾燥塗膜全体の粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の含有割合の2倍以上とすると、鉄鋼材料に塗装した場合、高耐食性防錆効果が一段と顕著となる。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明の具体的な実施例を示す。
【0053】
Zn金属粒子またはZn合金粒子の粒径分布、平均粒径、または、粒径0.05〜5μm範囲内の粒子合計の体積%を求めるに当たって、レーザー回折散乱法による測定方法を採用した。
【0054】
したがって、粒径は、球相当直径として評価し、体積%も、粒子の球相当体積として評価した結果で求めた。なお、粒径分布は、粒径0.05μm以上において、粒径を横軸とし、0.05μm以上の粒径dn〜dn+1(μm)の間隔内に入る粒径の粒子個数割合を縦軸に表示するヒストグラムを描かせて評価した。ここで、dn+1=(1+α)dn、nは自然数であり、便宜上、αは0.09〜0.1とした。この粒径分布ヒストグラムからピーク値を求めた。この方法によれば、粒径を球相当直径で表して、粒径の対数表示とした場合、例えば1μm〜10μmの範囲を25〜27等分した粒径区間によって、ヒストグラムが描かれる。すなわち、このヒストグラムでは、粒径を、球相当直径として横軸に対数表示でとり、球相当直径dn以上〜dn+1未満の区間ごとに、その区間に含まれる粒子の頻度fnを、測定した全粒子の球相当体積の総計に対する球相当体積割合(%)として縦軸に線形表示でとり、(dnn+11/2ごとに対応するfnをプロットし、隣接するプロット点どうしを直線で結んだグラフとした。したがって、ここでいうピーク値とは、頻度fnが極大値を示す粒径(dnn+11/2を指す。
【0055】
一方、平均粒径0.01μm〜0.05μmの粒子の粒径分布、平均粒径を評価する際は、紫外線半導体レーザー搭載の測定装置によるレーザー回折散乱法による測定方法を用いた。
【0056】
なお、本発明では、レーザー回折散乱法を用いた測定方法による粒径分布測定結果をもって、細粒とは一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径0.05〜5μmまたは平均粒径0.01〜5μmのZn金属粒子またはZn合金粒子をいい、粗粒とは別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径6〜100μmまたは平均粒径6〜100μmのZn金属粒子またはZn合金粒子をいい、表1〜21において、実施例によって、ピーク粒径または平均粒径の表記のいずれかで粒径分布を表した。
【0057】
Zn金属粒子またはZn合金粒子の状態を調べる際は、電解放射型電子銃式の走査電子顕微鏡観察で、無作為に抽出した50〜100個の粒子を観察することで判定した。粒子の破砕面またはき裂表面を走査電子顕微鏡観察で確認した。特にZn合金粒子においては、走査電子顕微鏡に付属しているエネルギー分散型X線分析器でマッピング分析し、ZnとMgの分布状態とそれぞれの原子濃度比を測定し、各種Zn−Mg金属間化合物の有無と組成比を調べた。Zn−Mg金属間化合物の有無判断とその種類の判断は、その二次電子観察像形態、反射電子観察像の色調形態、マッピング分析像、ZnとMgの原子濃度比測定結果、およびZn合金粒子のX線回折分析結果から判断した。
【0058】
具体的には、X線回折分析結果から、MgZn2、Mg2Zn11または、Mg2Zn3の存在を確認しているZn合金粒子において、粒径5μm以上の粒子表面の物理的破砕面をエネルギー分散型X線分析器で測定し、ZnとMgの原子濃度比測定結果から、MgZn2、Mg2Zn11または、Mg2Zn3を同定し、さらに同表面の二次電子像および反射電子像から、その形態とその色調を確認しておき、小さすぎて、エネルギー分散型X線分析器では正確な組成比が測定できない5μm未満の微細な粒子表面では、その二次電子像および反射電子像を物理的破砕面以外の部分の二次電子像および反射電子像と比較して、MgZn2、Mg2Zn11または、Mg2Zn3の存在を推認した。一方、Mg濃度が20〜30質量%のZn合金粒子では、前記原子濃度比測定結果から、MgZn、Mg7Zn3を同定した。
【0059】
比較例と本発明例の代表例として、図1に従来型ジンクリッチプライマーに含まれるZn金属粒子の一例(比較例の代表例)、図2に高耐食性防錆塗料に含まれるZn金属粒子の粒径分布の一例(本発明例の代表例)を示す。図1の従来型ジンクリッチプライマーは10μm程度に頻度粒径ピークをもつ。これに対し、図2の本発明例は、比較例同等の10μm程度に頻度粒径ピークを一つ持ち、比較例より細粒側の2〜3μmにもう一つの粒径頻度ピークを持つ。
【0060】
表1に示した比較例1〜18では、ミスト法で製造された粒径5〜10μm程度の球状のZn金属粒子が、粒子のほとんど全てを占めていることが、観察された。一方、表3〜21に示した本発明例全てならびに、表1に示した比較例19〜49では、Zn金属粒子または、Zn合金粒子において、2山粒径分布を示す粒子は、破砕面またはき裂をもち、球状に近い非球状の略粒状多面体粒子で形成されるものであることを確認した。
【0061】
さらに、本発明例のZn合金粒子の破砕面またはき裂面を観察したところ、反射電子像で、Mg含有量の多い黒色部とMg含有量が少ない白色部に分かれていることがわかった。さらに、粒径5μm以上の粒子における破砕面またはき裂において、黒色部を分析した結果、主としてMgZn2またはMg2Zn11、一部ではMg2Zn3、MgZnまたは、Mg7Zn3の金属間化合物組成からなることがわかった。
【実施例2】
【0062】
表1〜21に示す条件で塗装試験片を作製した。表1,2は比較例であり、表3〜21は、本発明例である。それぞれ、塗料調合は一般的な方法で実施しているが、表1、3、6、11では、全ての比較例または発明例のそれぞれにおいて、市販のエチルシリケート樹脂の無機系バインダーまたは、市販のウレタン樹脂の有機系バインダーのいずれかをそれぞれ別々に使用した2通りずつを用意し、試験している。一方、表2、4〜5、7〜10、12〜13および、14〜21では、それぞれ種々の樹脂をバインダーとしており、それぞれ使用した樹脂を記載している。
【0063】
なお、いずれの塗料も含水率は0.8質量%以下であった。それぞれの乾燥後の塗膜厚を各表に示す。塗料に含有する金属粒子量は、各表に塗膜中の全金属粒子量(mass%)とあるとおり、乾燥塗膜換算での含有量を意味している。
【0064】
耐食性評価試験としては、JIS K 5600に示す塩水噴霧試験(5%NaCl噴霧、35℃)を実施した。塗装試験片は150×70×3.2mmの試験片を用いた。試験片下部には、カッターでXカットを挿入した。腐食試験の評価は試験片表面からの赤錆発生時間で評価した。その試験結果を各表に示す。なお、赤錆が発生した時間が900時間未満の場合は、不良と評価し表中に×で表示した。また、その時間が900時間以上2000時間未満の場合は、合格レベルとし表中に○で表示した。また、その時間が2000時間以上の場合は、合格レベルのなかでも特に良好なレベルと評価し表中に◎で表示した。比較例1〜30に対し、本発明例はいずれも赤錆発生が著しく抑制され、優れた耐食性を示した。
【0065】
表6〜10は、粒子表面のMg固溶相およびZn金属間化合物の有無および、MgZn2またはMg2Zn11の有無での腐食試験結果を示す。表6〜10から、粒子表面にMg固溶相およびZn−Mg金属間化合物が有ると、耐赤錆発生が抑制され、さらに、金属間化合物がMgZn2またはMg2Zn11、一部ではMgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZnまたは、Mg7Zn3からなると赤錆発生が著しく抑制される。
【0066】
表11〜13は、乾燥塗膜の最表層10%の厚さ領域での粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の全粒子に対する割合を変化させ腐食試験を実施した結果を示す。ここでは、塗装の最後に、粒径0.05〜5μmのZn合金粒子割合を変えた塗料を塗布して最表層10%の厚さ領域での粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の割合を変化させている。表11〜13から、最表層10%の厚さ領域での粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の全粒子に対する割合が、乾燥塗膜全体での割合の2倍以上になると赤錆発生が著しく抑制されることが分かる。
【0067】
表14〜21は、本発明例の細粒および粗粒Zn金属粒子もしくは細粒および粗粒Zn合金粒子に、粒径分布のピーク粒径または平均粒径が2〜50μmからなるZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を後から添加し混合して、高耐食性防錆塗料を製造し、鉄鋼材料に塗装・乾燥したのち、腐食試験を実施した結果である。評価結果は、腐食試験結果の欄に、赤錆が発生した時間が900時間未満の場合は、不良と評価し×で、その時間が900時間以上2000時間未満の場合は、合格レベルとし○で、その時間が2000時間以上の場合は、合格レベルのなかでも特に良好なレベルと評価し◎で表示した。表14〜21から、細粒子と粗粒子の2つのピークの粒径分布を示すZn合金粒子と、細粒子と粗粒子の中間的な1つのみのピークの粒径分布を示すZn金属粒子で作製された、乾燥塗膜換算の質量%で(Zn合金粒子量%):(Zn金属粒子量%)の比を1:xとした場合、xが300.0以下である場合、優れた耐食性を示すことが分かる。
【0068】
なお、細粒および粗粒Zn金属粒子に、平均粒径が2〜50μmからなるZn金属粒子を後から添加した場合でも、優れた耐食性を示すことがわかる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【表3−4】

【表3−5】

【0072】
【表4−1】

【表4−2】

【表4−3】

【表4−4】

【表4−5】

【表4−6】

【0073】
【表5−1】

【表5−2】

【表5−3】

【表5−4】

【表5−5】

【表5−6】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7−1】

【表7−2】

【表7−3】

【表7−4】

【表7−5】

【0076】
【表8−1】

【表8−2】

【表8−3】

【表8−4】

【表8−5】

【0077】
【表9−1】

【表9−2】

【表9−3】

【表9−4】

【表9−5】

【0078】
【表10−1】

【表10−2】

【表10−3】

【表10−4】

【表10−5】

【0079】
【表11】

【0080】
【表12−1】

【表12−2】

【表12−3】

【表12−4】

【0081】
【表13−1】

【表13−2】

【表13−3】

【表13−4】

【0082】
【表14−1】

【表14−2】

【表14−3】

【表14−4】

【表14−5】

【0083】
【表15−1】

【表15−2】

【表15−3】

【表15−4】

【表15−5】

【0084】
【表16−1】

【表16−2】

【表16−3】

【表16−4】

【0085】
【表17−1】

【表17−2】

【表17−3】

【表17−4】

【0086】
【表18−1】

【表18−2】

【表18−3】

【表18−4】

【0087】
【表19−1】

【表19−2】

【表19−3】

【表19−4】

【0088】
【表20−1】

【表20−2】

【表20−3】

【表20−4】

【0089】
【表21−1】

【表21−2】

【表21−3】

【表21−4】

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】従来型ジンクリッチプライマーに含まれるZn金属粒子の粒径分布の例を示す図である。レーザー回折散乱法による測定結果の一例であり、球相当直径を粒径(μm)として横軸に、球相当体積割合を頻度分布(%)として縦軸に表示した。
【図2】本発明の高耐食性防錆塗料に含まれるZn合金粒子の粒径分布の一例を示す図である。レーザー回折散乱法による測定結果の一例であり、球相当直径を粒径(μm)として横軸に、球相当体積割合を頻度分布(%)として縦軸に表示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系バインダーに、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を乾燥塗膜換算で30質量%以上分散させた高耐食性防錆塗料であって、該Zn金属粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径0.05〜5μmの細粒Zn金属粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有するピーク粒径6〜100μmの粗粒Zn金属粒子とからなり、これら全Zn金属粒子に占める粒径0.05〜5μmのZn金属粒子の割合が、体積%で、5〜99%であることを特徴とする、高耐食性防錆塗料。
【請求項2】
無機系バインダーに、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を乾燥塗膜換算で30質量%以上分散させた高耐食性防錆塗料であって、該Zn金属粒子は、一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する平均粒径0.01〜5μmの細粒Zn金属粒子と、別の一つのピークとその両側の裾野からなる粒径頻度分布を有する平均粒径6〜100μmの粗粒Zn金属粒子とからなり、これら前記細粒および粗粒Zn金属粒子に占める前記細粒Zn金属粒子の割合が、体積%で、5〜99%であることを特徴とする、高耐食性防錆塗料。
【請求項3】
前記Zn金属粒子が、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Zn及び不可避的不純物からなるZn合金粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項4】
前記Zn金属粒子が、Zn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子と、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Zn及び不可避的不純物からなるZn合金粒子とが混合した粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項5】
前記Zn合金粒子が、更に、質量%で、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項3または4に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項6】
前記Zn合金粒子は、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、破砕面および/またはき裂にMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物を有することを特徴とする、請求項3から5の何れか1項に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項7】
前記Zn合金粒子の最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均値が1〜1.5であることを特徴とする請求項6に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項8】
前記Zn−Mg金属間化合物が、MgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZn、Mg7Zn3の1種又は2種以上からなることを特徴とする、請求項6または7に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項9】
前記Zn合金粒子は、複数面体であることを特徴とする、請求項3〜8の何れか1項に記載の高耐食性防錆塗料。ここで、1つの閉じた稜線で囲まれた平面または曲面を1つの面とする。
【請求項10】
前記細粒及び粗粒Zn合金粒子に加え、さらに平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子を分散させた高耐食性防錆塗料であって、全金属粒子の総和に占める粒径0.05〜5μmのZn合金粒子の合計体積%が5〜99%であり、かつ、全金属粒子を乾燥塗膜換算で合計30質量%以上分散させたことを特徴とする請求項3から9いずれか1項に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項11】
更に、質量%で、(前記細粒及び粗粒Zn金属粒子量または、前記細粒及び粗粒Zn合金粒子量):(前記平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子量)の比の値を1/xとしたとき、xが300.0以下であるすることを特徴とする請求項10記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項12】
質量%で、前記Zn合金粒子と前記平均粒径0.05〜50μmのZn及び不可避的不純物からなるZn金属粒子との混合粒子の合計を100%としたとき、該混合粒子中のMgの含有量が0.01〜30%未満であることを特徴とする請求項11記載の高耐食性塗料。
【請求項13】
前記高耐食性防食塗料のバインダーが、前記無機系バインダーに代えて、有機系バインダーであることを特徴とする、請求項1〜12の何れか1項に記載の高耐食性防錆塗料。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載の高耐食性防錆塗料が塗装された鉄鋼材料であって、乾燥塗装厚みが2〜700μmであり、前記細粒及び粗粒Zn金属粒子または前記細粒及び粗粒Zn合金粒子が塗膜中に分散していることを特徴とする、高耐食性鉄鋼材料。
【請求項15】
請求項3〜13の何れか1項に記載の高耐食性防錆塗料が塗装された鉄鋼材料であって、乾燥塗装厚みが2〜700μmであり、前記細粒及び粗粒Zn合金粒子が塗膜中に分散しており、かつ、乾燥塗膜の最表層10%厚さ領域での粒径0.05〜5μmの前記細粒Zn合金粒子の含有割合が、乾燥塗膜全体の粒径0.05〜5μmの細粒Zn合金粒子の含有割合の2倍以上であることを特徴とする、高耐食性鉄鋼材料。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載の高耐食性鉄鋼材料を一部又は全部に有することを特徴とする鋼構造物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106235(P2008−106235A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235500(P2007−235500)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】