説明

高膨張泡消火設備

【課題】建屋内に泡発生機を設けても、火災時の煙の影響を受けずに、所望の発泡倍率が得られるようにする。
【解決手段】ノズルを内蔵する泡発生機本体の出口に発泡用網を設けた泡発生機10を、防護対象物1に設け、該防護対象物1における火災を前記発泡機10から放出した泡で消火する高膨張泡消火設備において,前記防護対象物1に天井板5を設け、該天井裏の空間部を空気ダクト3として形成し、該天井板5を貫通するように前記泡発生機10を設け、前記発泡用網を室内9に臨ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、石油タンクのピット、石油コンビナートのカルバート、或いは、船室、船倉等に用いられる、高膨張泡消火設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
泡消火設備では、放射ノズルから泡水溶液を放出し、それを発泡用網に衝突させて空気を巻き込むことにより発泡させ、この泡で火源を埋め尽くして窒息消火を行っている。ここで泡水溶液と生成された泡の体積比を示す発泡倍率が、80以上1000未満となるものを、高膨張泡消火設備という。
【0003】
高膨張泡、例えば、発泡倍率500以上で泡を発生させるためには、放射ノズルの上流側から大量の空気を取り込む必要があり、大量の空気を取り込む場合には、室外の空気を吸引する方式(「アウトサイドエア」という)が一般的である。
【0004】
しかし、このアウトサイドエアでは、外部の空気を利用するため、建屋にダクトを貫設したり、隔壁に穴を開けて泡発生機(発泡機)を配設したりするので、コストが嵩む等の問題がある。
【0005】
そこで、上記問題を解決するため、泡を放出する区画内の空気を吸引する方式(「インサイドエア」という)の高膨張泡消火設備が用いられている(例えば、特許文献1、参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平06−165837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インサイドエアの高膨張泡消火設備では、アウトサイドエアの高膨張泡消火設備に比べ、著しく発泡倍率が低下するが、その主な原因は、火災の発生により室内に発生する「煙」である。この煙は、固体の微粒子、例えば、粒径1μm以下の微粒子、となって室内に浮遊する。この微粒子が、放射区画の空気に混じって泡発生機の空気吸引部に吸引されたときに、空気と一緒になって起泡部に供給され、発泡倍率を低下させているのである。
【0008】
本発明者は、前記問題を解決するためには、煙粒子を除去すれば良いことに気がついたが、それを除去しなくとも発泡倍率の低下を防止することができるのではないか、と考えた。
【0009】
一般に、高膨張泡等の泡は、泡原液に含まれる界面活性剤の二層膜であり、親水領域を挟む内側薄膜と外側薄膜とから構成されているが、前記両薄膜は、並んで同時に形成されながら、空気を抱え込み泡状態になる、といわれている。そして、本件発明者は、煙粒子などの異物が存在すると、発泡倍率が良くないのは、標準設定で放射ノズルを運転した場合は、前記放射ノズルからの泡水溶液の液滴の速度が速すぎて、前記両薄膜の形成が追いつかず、前記両薄膜を並んで同時に形成することができなくなり、発泡用網の網目を通り抜けてしまうためである、と考えた。
【0010】
前記問題の解決策として、放射圧力を標準設定よりも小さくして放射ノズルの噴射速度を落とし、泡水溶液の液滴が網目を通り難くすることが考えられる。
そこで、放射ノズルの放射圧力を変化させて所定濃度の泡水溶液の発泡状態を実験したところ、噴射圧力が、0.5Mpaでは発泡倍率が正常時に比べ1/5以下まで低下する煙条件の下で、0.2Mpaでは、4/5程度までしか低下しなかった。
【0011】
この様に、泡水溶液の放射圧力を落とすと、発泡しやすくなるが、空気吸引量及び放射泡水溶液の量が標準設定より小さくなる。そのため、発泡量が少なくなり、所定時間内に所望の発泡量を得ることができなくなる。
【0012】
この発明は、上記事情に鑑み、建屋内に泡発生機を設けても、火災時の煙の影響を受けずに、所望の発泡倍率が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、ノズルを内蔵する泡発生機本体の出口に発泡用網を設けた泡発生機を、防護対象物に設け、該防護対象物における火災を前記泡発生機から放出した泡で消火する高膨張泡消火設備において,前記防護対象物に空気貯留部を設け、該空気貯留部に前記泡発生機本体の入口を連通させたことを特徴とする。
【0014】
この発明は、ノズルを内蔵する泡発生機本体の出口に発泡用網を設けた泡発生機を、防護対象物に設け、該防護対象物における火災を前記泡発生機から放出した泡で消火する高膨張泡消火設備において,前記防護対象物に天井板を設け、該天井裏の空間部を空気ダクトとして形成し、該天井板を貫通するように前記泡発生機を設け、前記発泡用網を室内に臨ませたことを特徴とする。
【0015】
この発明の前記防護対象物は、仕切り壁によって複数に仕切られ、各区画毎に前記泡発生機が設けられ、前記各区画毎の天井板に火災感知器が設置されていることを特徴とする。この発明の前記各区画の泡発生機本体が、前記空気ダクトを介して互いに連通し、火災発生区画の泡発生機の起動により、非火災発生区画の泡発生機本体を介して該非火災発生区画内の空気が前記空気ダクト内に吸引されることを特徴とする。
【0016】
この発明の前記泡発生機のノズルは、各区画毎に、天井裏の空間部に配設された配管を介して泡水溶液供給部へ接続され、該配管には、火災時に開放する選択弁が設けられていることを特徴とする。この発明の前記防護対象物には、前記天井裏の空間部に外気を取り込むための吸気口が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、防護対象物に空気貯留部、又は、空気ダクトを設けたので、火災発生時に起動する泡発生機には、前記空気貯留部、又は、空気ダクト内の清浄な空気が供給される。そのため、火災により発生する煙の影響を受けないので、設計通りの発泡倍率で発泡させることができる。
【0018】
この発明は、複数に仕切られた各区画の泡発生機本体が、前記空気ダクトを介して互いに連通するので、火災発生区画の泡発生機が起動し泡水溶液がノズルから放射されると、負圧が発生し、非火災区画内の空気は、該非火災区画の泡発生機本体を介して前記空気ダクトに吸引される。そのため、火災発生区画の泡発生機には、必要にして充分な清浄空気を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者は、前記課題を解決するためには、火災の発生した部屋内の空気と、泡発生機に供給される空気とを完全に分離独立させ、前記泡発生機には、煙の含まれていない清浄な空気を供給できる様にすればよい、と考えた。
そこで、前記泡発生機への空気供給方法を研究したところ、清浄な空気を貯留する空気貯留部を設けるか、又は、防護対象物に天井板を張設して、天井裏を空気ダクトにすれば良いことがわかった。
【0020】
又、前記防護対象物を仕切り壁によって複数に仕切り、各区画毎に前記泡発生機を設け、前記各泡発生機を天井裏の空気ダクトを介して連通させると、火災発生区画の泡発生機の起動により、非火災発生区画の泡発生機本体を介して該非火災発生区画内の空気が前記空気ダクト内に吸引されるので、該起動中の泡発生機に必要にして充分な清浄空気を供給できる。
【0021】
更に、前記防護対象物に、前記天井裏の空間部に外気を取り込むための吸気口を設けることにより、泡発生機に外気を供給することができる。
この発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
【実施例】
【0022】
この発明の第1実施例を図1〜3により説明する。
火災の対象となる建屋等(以下、「防護対象物」という)の天壁1a側には、天井板5が張設されている。この天井板5は、防護対象物1内を水平方向に仕切っており、該天井板5と天壁1aとの間の空間部3は、空気ダクト3を形成している。
【0023】
天井板5の下面側は、室内空間9であるが、この空間9は所定間隔をおいて配設された仕切り壁7により、複数の区画(部屋)9A、9B、9C、9D、9Eに仕切られている。
【0024】
前記天井板5には、前記各区画9A〜9Eに対応して泡発生機10が設けられているが、この泡発生機10は、各区画に1個、又は、複数個設けられているが、その配設台数は、必要に応じて適宜選択される。
【0025】
前記泡発生機10は、入口12aと出口12bを有する筒状の泡発生機本体12と、該本体12の入口側に内蔵され、泡水溶液を放射するノズル14と、前記出口12bに張設された発泡用網17と、を備えている。前記本体12は、固定金具19により天井板5に固定されている。前記本体12の出口12b側は、天井板5を貫通しているので、前記発泡用網17は各区画(部屋)9A〜9E内に臨んでいる。
【0026】
前記泡発生機10の各ノズル14は、各区画毎に天井裏の空間部3に配設された配管14A、14B、14C、14D、14Eを介して図示しない泡水溶液供給部に接続されている。この泡水溶液供給部は、混合器、原液タンク及び加圧装置(水槽、ポンプ)から構成され、火災時に泡水溶液をノズル14に供給する。前記各配管14A〜14Eには、常時閉で火災時に開放される区画選択弁Vが設けられている。この選択弁Vの開放により、火災が発生した区画(以下、「火災発生区画」という)の泡発生機10にのみ泡水溶液を供給する。
【0027】
前記各区画9A〜9Eの天井板5、又は、仕切り壁7には、火災感知器21が設けられ、該火災感知器21は信号線Lを介して受信機23に連結されている。
【0028】
次に、本実施例の作動について説明する。
区画9Cに火災が発生すると、火災感知器21が火災を検出する。そうすると、前記火災感知器21は、信号線Lを介して火災信号を受信機23に送出する。
前記受信機23は、区画9Cに対応する区画選択弁Vを開放させるとともに、泡水溶液供給部のポンプを起動させる。
【0029】
前記ポンプが起動すると、配管14Cを介して該区画9Cの泡発生機10のノズル14から泡水溶液が放射されるとともに、該泡水溶液は発泡用網17に衝突して空気を巻き込み、発泡Bする。この泡Bは、区画9Cの室内に放出されて落下し、火源Fを覆うので、窒息消火が行われる。
【0030】
このとき、前記ノズル14から泡水溶液が放射されると、負圧が発生して泡発生機本体12内に空気が吸い込まれが、この空気は空気ダクト3から供給される。この空気ダクト3は、天井板5の裏側に位置し、その表側の室内9Cとは、完全に分離されているので、該空気ダクト3に前記火災区画9C内の空気が入り込むことはない。そのため、泡発生機10には、煙を含まない空気(以下、「清浄空気」という)が供給されるので、所望の発泡倍率を得ることができる。
【0031】
前記区画9Cの泡発生機10の起動により負圧が発生すると、前記空気ダクト3内には、前記泡発生機10に向かう気流が発生する。そのため、火災の発生していない区画(以下、「非火災区画」という)9B、9D内の空気が、該区画9B、9Dの起動していない泡発生機10を介して前記空気ダクト3内に吸い込まれるので、発泡に必要な清浄空気を確実に得ることができる。
【0032】
この発明の第2実施例を図3により説明するが、図1、図2と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。
この実施例と第1実施例との相違点は、次の通りである。
(1)防護対象物1に仕切り壁がなく、一つの区画(部屋)9となっていること。
(2)天井板5の裏側の空気ダクト3が、防護対象物1に設けた吸気口30に連通していること。この吸気口30は、両側の縦壁1A、1Bに配設されているが、いずれか一方の縦壁に設けてもよい。
前記吸気口30の開口面積は、空気ダクト3の端面の面積(垂直方向長さ)に比し小さく、例えば、1/3、に形成されている。この吸気口30には、図示しない扉が設けられているが、この扉は受信機23の指示により開閉できるようになっている。なお、前記扉は省略してもよい。
【0033】
(3)天井板5の下面側の区画(部屋)の防護対象物1に、排気口32が設けられていること。この排気口32は、両側の縦壁1A、1Bに配設されているが、いずれか一方の縦壁に設けてもよい。また、一方の縦壁1Aに吸気口30を設け、他方の縦壁1Bに排気口32を設けてもよい。
前記排気口32の径は、必要に応じて適宜選択されるが、例えば、前記吸気口30と同径、又は、それより大きく形成される。この排気口32には、図示しない扉が設けられているが、この扉は受信機23の指示により開閉できるようになっている。なお、この扉は省略してもよい。
【0034】
(4)天井板5に設けられた複数の泡発生機10は、同一配管14を介して泡水溶液供給部に連結されていること。なお、前記各泡発生機10は、同時に起動するように制御される。
【0035】
この実施例では、火災が発生すると、室内9の火災感知器21が火災を検知し、火災信号を受信機23に送出する。そうすると、前記受信機23は、泡水溶液供給部のポンプを起動させるとともに、前記扉を開けて吸気口30及び排気口32を開放させる。
【0036】
各泡発生機10のノズル14が泡水溶液を放出すると、天井裏の空気ダクト3内の清浄空気が泡発生機本体12内に吸引されて発泡し、室内9Cに放出される。
この時、吸気口30及び排気口32は開放されているので、空気ダクト3には、外気が吸引されるとともに、火災の発生している室内9の空気は、室外に排出される。なお、本実施例の吸気口32を前記実施例1に設けるようにしてもよい。
【0037】
この発明の第3実施例を図4により説明するが、図1〜図3と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。
この実施例と前記第2実施例との相違点は、防護対象物1に天井板を設けて天井裏全部を空気ダクトにする代わりに、天壁1aに清浄空気を貯留する空気貯留部40を設けたことである。
【0038】
空気貯留部40は、室内空間と遮断された、独立の部屋であり、該室内9の空気が入り込めないようになっている。この貯留部40は、断面方形状の箱状体であり、その上辺40aは天壁1aに固定され、その下辺40bには泡発生機10の泡発生機本体12aが下向き(軸心が垂直方向)に突設されている。この空気貯留部40の形状は、特に限定されるものではなく、清浄空気が貯留でき、かつ、泡発生機10が取り付けられる形状であれば足りる。
なお、防護対象物1に外気の導入口を設け、該導入口を前記空気貯留部40に連通させて、外気を吸引できるようにする様にすることもできる。
【0039】
この実施例では、火災時に、受信機の指示に基づき図示しない空気貯留部40のバルブが開き、前記空気貯留部40の清浄空気が泡発生機12に供給される。
【0040】
この発明の第4実施例を図5により説明するが、図4と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。
この実施例と前記第3実施例との相違点は、泡発生機10が横向き(軸芯が水平方向)に配設されていることである。
この様に、空気貯留部40を用いると、泡発生機の泡放出方向を自由に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施例を示す縦断面図である。
【図2】泡発生機の拡大図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す要部拡大図である。
【図5】本発明の第4実施例を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0042】
1 防護対象物
3 空気ダクト
5 天井板
6 ノズル
7 仕切り壁
9A〜9E 区画
10 泡発生機
12 泡発生機本体
14 ノズル
17 発泡用網
21 火災感知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを内蔵する泡発生機本体の出口に発泡用網を設けた泡発生機を、防護対象物に設け、該防護対象物における火災を前記泡発生機から放出した泡で消火する高膨張泡消火設備において、
前記防護対象物に空気貯留部を設け、該空気貯留部に前記泡発生機本体の入口を連通させたことを特徴とする高膨張泡消火設備。
【請求項2】
ノズルを内蔵する泡発生機本体の出口に発泡用網を設けた泡発生機を、防護対象物に設け、該防護対象物における火災を前記泡発生機から放出した泡で消火する高膨張泡消火設備において、
前記防護対象物に天井板を設け、天井裏の空間部を空気ダクトとして形成し、該天井板を貫通するように前記泡発生機を設け、前記発泡用網を室内に臨ませたことを特徴とする高膨張泡消火設備。
【請求項3】
前記防護対象物は、仕切り壁によって複数に仕切られ、各区画毎に前記泡発生機が設けられ、前記各区画毎の天井板に火災感知器が設置されていることを特徴とする請求項2記載の高膨張泡消火設備。
【請求項4】
前記各区画の泡発生機本体が、前記空気ダクトを介して互いに連通し、火災発生区画の泡発生機の起動により、非火災発生区画の泡発生機本体を介して該非火災発生区画内の空気が前記空気ダクト内に吸引されることを特徴とする請求項3記載の高膨張泡消火設備。
【請求項5】
前記泡発生機のノズルは、各区画毎に、天井裏の空間部に配設された配管を介して泡水溶液供給部へ接続され、該配管には、火災時に開放する選択弁が設けられていることを特徴とする請求項3、又は、4記載の高膨張泡消火設備。
【請求項6】
前記防護対象物には、前記天井裏の空間部に外気を取り込むための吸気口が設けられていることを特徴とする請求項2記載の高膨張泡消火設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−17244(P2010−17244A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178208(P2008−178208)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】