説明

高血圧モデル非ヒト動物

【課題】 血管疾患の治療に有用な高血圧モデル非ヒト動物、該動物を用いて血管疾患予防及び/又は治療用の薬剤を効率よくスクリーニングする方法、該方法により得られる薬剤を提供する。
【解決手段】 本発明の高血圧モデル非ヒト動物は、染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損していることを特徴としている。本発明の高血圧モデル非ヒト動物は、例えば、染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域と、選択マーカー遺伝子がLoxP配列に挟まれた領域とを含むES細胞に、Cre酵素を作用させて得られるES細胞を用いる方法、又は染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域を含むES細胞を用いて作製されたRAMP1-floxedマウスと、Cre酵素を発現可能なマウスとの交配による方法のいずれかで作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の遺伝子を欠失させて当該遺伝子の機能が完全に欠損されている高血圧関連疾患のモデル動物として有用な高血圧モデルマウス、及び前記高血圧モデルマウスを用いて高血圧関連疾患の予防・治療に適した薬剤を評価及び/又は探索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RAMP1は、受容体活性変更タンパク質(RAMP)ファミリーに属し、N末端にシグナル配列を、C末端に1回膜貫通ドメインを有するタンパク質である。RAMP1は、カルシトニン受容体様受容体(CRLR)との同時発現によりヘテロダイマーを形成し、強力な血管弛緩作用を示す神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連タンパク質(CGRP)の受容体として機能することが知られている。
【0003】
特表2005−503809号公報には、アミノ酸変異によりヒト型化したRAMP1がノックインされ、内在CRLRとヒト化RAMP1との複合体によるヒト化CGRP受容体を発現可能な変異マウスが開示されている。このヒト化CGRP受容体は CGRP受容体アンタゴニストが野生型ヒトCGRP受容体に示すのと同等の機能を有することから、受容体結合性物質のスクリーニングアッセイなどに利用できることが記載されているが、RAMP1を欠失させた動物は示されていない。
【0004】
特許第3639555号には、RAMP1遺伝子分断に関してホモ接合性の遺伝的に変更されたマウスが開示されている。特許第3639555号の記載によれば、分断されたRAMP1遺伝子とは、RAMP1遺伝子の野生型を正常に発現している細胞に於いて分断された遺伝子にコードされたRAMP1ポリペプチドの細胞活性が低下する様に遺伝的に修飾されているRAMP遺伝子を意味している。また、上記のように遺伝的に変更された非ヒト哺乳動物(マウス)は、RAMP1ポリペプチドを発現し、該ポリペプチド活性は野生型レベルの50%以下であること、その理由として、RAMP遺伝子発現の低下(即ち、RAMPmRNAレベルの低下によりRAMPポリペプチドのレベルが低下する)の結果、及び/又は分断RAMP遺伝子が野生型RAMPポリペプチドに比し低い機能を持つ変異型ポリペプチドをコードしているためであることが記載されている。このようなマウスは、個体内で発現されるRAMP1遺伝子のポリペプチドによる、たとえ野生型より低活性であったとしてもその影響を無視することができず、疾患モデルマウスとしての利用には不向きである。
【0005】
一方、アドレノメジュリン(AM)は、強力な血管弛緩性ペプチドとして、血圧や循環動態との関連が強く示唆されている因子である。前記AMの受容体は、CRLRとRAMP2又はRAMP3との複合体で構成される点で、CRLRとRAMP1との複合体で構成されるCGRP受容体と類似していることから、CGRP受容体との機能上の類似性が示唆されるが、CGRP受容体を特徴づけるRAMP1と血圧との関連性はよくわかっていない。
【0006】
【特許文献1】特表2005−503809号公報
【特許文献2】特許第3639555号
【非特許文献1】Science. 1997 Feb 14;275(5302):964-967
【非特許文献2】Nat Med. 1999 Apr;5(4):434-8
【非特許文献3】J. Exp. Med. 2002 Jan 21;195:151-160
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、血管障害性疾患の治療に有用な病態(血管収縮性障害に起因する高血圧)モデル非ヒト動物、及び当該動物を用いて血管障害性疾患の予防及び/又は治療用薬剤を効率よくスクリーニングする方法、該方法により得られる薬剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、高血圧モデル非ヒト動物を用いて機能性食品を簡易にスクリーニングする方法及び評価する方法、及び該方法により得られる機能性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損している動物を高血圧モデル動物として利用できること、このような高血圧モデル動物は、血管障害性疾患の予防や治療用の薬剤のスクリーニングや、機能性食品の評価に極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損していることを特徴とする高血圧モデル非ヒト動物を提供する。本発明の非ヒト動物は、染色体上に選択マーカー遺伝子が挿入されていないことが好ましい。
【0010】
本発明の高血圧モデル非ヒト動物は、例えば、染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域と、選択マーカー遺伝子がLoxP配列に挟まれた領域とを含むES細胞に、Cre酵素を作用させて得られるES細胞を用いる方法、又は染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域を含むES細胞を用いて作製されたRAMP1-floxedマウスと、Cre酵素を発現可能なマウスとの交配による方法のいずれかで作製することができる。本発明において、RAMP1遺伝子の発現がコンディショナルに抑制されていてもよい。前記非ヒト動物は、例えばラット又はマウスである。
【0011】
本発明は、上記本発明の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする血管障害性疾患の予防及び/又は治療用薬剤のスクリーニング方法を提供する。前記方法は、及び/又は血管拡張作用を指標として行うことができる。本発明における血管障害性疾患には、例えば高血圧、血管内皮障害、動脈硬化性疾患、及び記憶障害,認知症,末梢血流障害性疾患を含む血流障害性疾患が含まれる。
【0012】
本発明は、また、上記本発明の薬剤スクリーニング方法より得られる血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有する血流改善薬を提供する。
【0014】
また、本発明は、RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有する血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬を提供する。
【0015】
本発明は、上記本発明の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする機能性食品のスクリーニング方法を提供する。前記方法は、血圧及び/又は血管拡張作用を指標として行うことができる。
【0016】
本発明は、上記本発明の機能性食品のスクリーニング方法により得られる機能性食品を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、上記本発明の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする機能性食品の評価方法を提供する。前記方法は、血圧及び/又は血管拡張作用を指標として行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば 染色体上のRAMP1遺伝子の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能を完全に欠損させることにより、血管拡張不全に起因する恒常的に高血圧を示すモデル非ヒト動物を得ることができる。本発明の高血圧モデル非ヒト動物を用いることにより、血管障害性疾患の予防及や治療に有用な薬剤を効率よくスクリーニングでき、また被検物質の薬効を簡易に評価することができる。このような高血圧モデル非ヒト動物は、また、血圧の低下や血管弛緩作用を発揮し、高血圧や血流障害を予防あるいは改善する機能性食品のスクリーニング(選別)や評価に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
RAMP1は、受容体活性変更タンパク質(RAMP)ファミリーに属し、N末端にシグナル配列を、C末端に1回膜貫通ドメインを有する蛋白質である。RAMP1遺伝子の塩基配列及びRAMP1のアミノ酸配列は公知であり、例えばヒト及びマウスRAMP1のcDNAの塩基配列は、GenBank Accession No. AJ001014及びNo. BAA76617で表される配列等が挙げられる。
【0020】
本発明者らは、 染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損させたRAMP1完全欠損型マウスを作製し、その表現形について詳細な解析を行った。図3は、野生型(RAMP1+/+)マウス及びRAMP1ヘテロ接合体(RAMP1+/-)マウス、RAMP1ホモ接合体(RAMP1-/-)マウスについて、6週齢マウスで測定した(イ)血圧と(ロ)心拍数のグラフである。図3(イ)に示されるように、心拍数は同程度であるのに対し、血圧については、図3(ロ)に示されるように、RAMP1+/+マウスやRAMP1+/-マウスと比較して、RAMP1-/-マウスは6週齢という極めて早い段階ですでに高い。図4は、前記RAMP1+/+、RAMP1+/-、RAMP1-/-の各マウスについて、6週齢から18週齢までの3週ごとに測定した(イ)血圧と(ロ)心拍数のグラフである。図4(イ)に示されるように、心拍数は6週齢から18週齢まで同程度であるのに対し、血圧については、図4(ロ)に示されるように、RAMP1-/-マウスは6週齢という極めて早い段階ですでに高い値を示し、週齢とともに徐々に高くなる傾向にあった。またこの高血圧症はCGRPによる血管拡張作用が完全に抑制されたことに起因することも明らかになった.このように、RAMP1欠損マウスは、生後早い段階から血管収縮による高血圧の状態が維持されていることから、高血圧及び血管拡張障害モデルとして利用することが可能である。また、RAMP1遺伝子には、ヒト、ラット、ブタ、アカゲザル等のホモログの存在が知られており、これらの塩基配列はGenBankに公開されている。従って、マウス以外の非ヒト動物についても同様に高血圧及び血管拡張障害モデルとして利用可能である。
【0021】
本発明の高血圧モデル非ヒト動物(以下、「モデル動物」と称する場合がある)は、染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損していることを特徴としている。「遺伝子の機能が完全に欠損している」とは、例えば、野生型RAMP1が本来有する機能(例えばCGRP受容体を構成する機能等)が完全に失われていることを意味している。すなわち、本発明のモデル動物は、個体内におけるRAMP1タンパクによる影響(作用)が全くないか無視できる程度であって、RAMP1のドミナントネガティブモデルやドミナントアクティブモデルを含むものではない。
【0022】
本発明において、染色体上のRAMP1遺伝子の機能が完全に欠損された非ヒト動物は、ES細胞を用いたノックアウト非ヒト動物を作製する方法として公知の方法に従って作製することができる。
【0023】
本発明のモデル動物の構成としては、例えば、染色体上のRAMP1遺伝子の全領域(例えばエキソン1〜3)が除去された構成;染色体上のRAMP1遺伝子の一部の改変、例えば塩基配列に欠失、付加、置換により、遺伝子の機能が完全に欠損された構成等が挙げられる。前者の構成によれば、個体内に転写・翻訳産物が一切生成されず、RAMP1遺伝子による影響が完全に除去されたモデル動物として有用である。また、後者の構成としては、遺伝子の機能が完全に欠損されれば特に限定されず、RAMP1遺伝子の適宜な部位、範囲に改変を施すことができ、部分的な転写・翻訳によるmRNAやポリペプチド断片が生成されていてもよい。なかでも、本発明のモデル動物としては、染色体上のRAMP1遺伝子の少なくともエキソン2が除去された構成であることが好ましい。前記エキソン2には成熟蛋白質コード開始部位が配置されている。従って、エキソン2が除去されたモデル動物においては、CGRP受容体を構成するRAMP1のポリペプチド断片が形成されず、該ポリペプチド断片の生成に伴うCGRP受容体機能などへの影響を一切排除することができるため、血流障害性疾患を含む血管障害性疾患の予防薬や治療薬等のスクリーニング(評価を含む)同疾患自体のメカニズムの研究用途等の広範な用途に好適である。
【0024】
このような高血圧モデル非ヒト動物の作製方法としては、染色体上のRAMP1遺伝子の機能を完全に欠損することができれば特に限定されないが、例えばCre/LoxPシステムを利用する方法が挙げられる。Cre/LoxPシステムは、Cre酵素がLoxP配列を認識して特異的組換えを起こすシステムであり、該システムの利点としては、例えば、DNA領域の欠失可能域が相同組換えは20kb程度が限度であるのに対して200kb程度と大きく、ジーンターゲティングにおいて染色体上から選択マーカー遺伝子の除去が容易な手法であり、点突然変異を容易に導入でき、さらにCre酵素の発現方法によってコンディショナルジーンターゲティングが可能であること等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるCre/LoxPシステムの利用方法としては、例えば、ES細胞でCre酵素を一過性に発現させて薬剤選択マーカーを除く工程に利用する方法を用いることができ、具体的には、染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域と、選択マーカー遺伝子がLoxP配列に挟まれた領域とを含むES細胞(RAMP1-floxed-markerES細胞)に、Cre酵素を作用させて得られるES細胞を用いる方法が挙げられる。なかでも、前者のLoxP配列が染色体上のRAMP1遺伝子の少なくとも成熟蛋白質コード開始部位を含む配列(例えばexon2等)を挟んでいる場合には、Cre酵素の作用によりRAMP1蛋白質の完全欠損型を容易に構成することができ好ましい。
【0026】
図1は、前記RAMP1-floxed-markerES細胞に、Cre酵素を作用させて得られるES細胞の作製方法の一例を示す模式図である。本発明の高血圧モデル非ヒト動物の作製に用いるES細胞は、例えば、図1に示されるように、(i)ES細胞の染色体上におけるexon1〜3からなるRAMP1遺伝子に対し、(ii)LoxP配列に挟まれた第1の選択マーカー遺伝子(チミジンキナーゼ:TK)、LoxP配列に挟まれたRAMP1遺伝子のexon2、及びLoxP配列に挟まれた第2の選択マーカー遺伝子(ネオマイシン:neo)からなる構成を含むターゲティングベクターを用いて相同組換えを起こさせ、TK活性を指標として、(iii)染色体上に、LoxP配列に挟まれたRAMP1遺伝子のexon2及びLoxP配列に挟まれたneo遺伝子の配列が組み込まれたRAMP1-floxed-markerES細胞を選択し、これにCre酵素を作用させて特異的組換えを起こさせ、(iv)染色体上のexon2とneo遺伝子とを除去することにより得ることができる。なお、前記(iv)に残る一つのLoxP配列は、標的遺伝子の発現に影響しないことが確認されている。図1の方法によれば、染色体上からRAMP1遺伝子のexon2が除去されるため、RAMP1遺伝子の一部又は全部の転写/翻訳産物の生成が完全に抑制される。こうして得られるES細胞は、染色体上のRAMP1遺伝子の機能が完全に欠損され、且つ選択マーカー遺伝子の挿入がない。次いで、トランスジェニック動物を作製する公知の方法に従い、上記構成を有するES細胞由来の個体を得ることができる。
【0027】
本発明におけるCre/LoxPシステムの利用方法の他の例として、染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域を含むES細胞を用いて作製されたRAMP1-floxedマウスと、Cre酵素を発現可能なマウスとの交配による方法が挙げられる。前記RAMP1-floxedマウスとしては、染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列で挟まれた領域を含んでいれば特に限定されないが、例えば、RAMP1遺伝子のエクソンを2つのloxP配列で挟む形で相同組換えさせ、それ自体では遺伝子が損なわれていないマウスなどを用いることができる。前記Cre酵素を発現可能なマウスとしては、例えばCre酵素発現ベクターを導入する方法等の公知の方法で作製することができる。なかでも、Cre酵素を発現可能なマウスとして、組織特異的又は発現誘導可能なプロモーター制御下にCre酵素を発現可能なマウス(Cre酵素コンディショナル発現マウス)等を用いることにより、RAMP1遺伝子のコンディショナルジーンターゲティングを容易に行うことができる。
【0028】
前記染色体上のRAMP1遺伝子の欠損は、恒常的、コンディショナル[組織特異的、時期特異的(一過性)等]のいずれであってもよい。なかでも、RAMP1遺伝子の発現がコンディショナルに抑制されている場合は、高血圧モデルを所望の条件下で構築することができる点で好ましく、例えば、上記Cre酵素をコンディショナルに発現するマウスを用いる方法等の公知の方法により構築することができる。
【0029】
本発明の血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法は、上記本発明の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴としている。以下、前者を「スクリーニング方法1」、後者を「スクリーニング方法2」と称する場合がある。
【0030】
本発明のスクリーニング方法(1、2)に供される被検物質は、公知又は新規化合物の何れであってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物等の合成又は天然由来の有機化合物を用いることができる。
【0031】
スクリーニング方法1において、被検物質をモデル動物へ投与する方法は、特に限定されず、経口及び非経口投与の何れであってもよい。非経口投与には、例えば、静脈、動脈、筋肉、腹腔、気道等を経路とする全身投与、又は虚血部位又はその近傍への局所投与を利用できるが、これらに限定されない。好ましくは非経口投与、より好ましくは血管又はその近傍へ局所投与される。被検物質の投与量は、被検物質の種類、投与方法、モデル動物の種類、大きさ等に応じて適宜設定できる。
【0032】
スクリーニング方法1における評価は、例えばモデル動物の血圧値を指標に行うことができる。具体的には、例えば、本発明の高血圧モデル非ヒト動物に対し、特定量の被験物質を、1日3回を2週間(回数、日数等の投与条件)の条件下で投与した後の収縮期血圧値が、対応する野生型動物の平均血圧値の130%以下程度(好ましくは120%以下程度)を示したときに、当該被検物質が血管障害性疾患予防及び/又は治療用の薬剤として有用であると評価することができる。モデル動物がマウスの例では、例えば、平均血圧約100mmHgの野生型マウスと比較して平均血圧約140mmHgを示す本発明の高血圧モデルマウスに、被験物質を1日3回2週間投与した後の血圧が130mmHg以下(好ましくは120mmHg)を示したときに、当該被験物質が血管障害性疾患予防及び/又は治療用の薬剤として有用であると評価することができる。
【0033】
スクリーニング方法2において、被検物質をモデル動物由来の組織、器官、若しくは細胞と接触させる方法としては、特に限定されず、モデル動物から採取した組織や器官の標本に被験物質を投入する方法、モデル動物から採取した細胞を被験物質存在下で培養する方法等の公知の方法を利用できる。前記組織や器官の標本に被験物質を投入する方法としては、上述した非経口投与と同様の方法を用いることができる。
【0034】
スクリーニング方法2における評価は、例えば、血管収縮率を指標に行うことができる。具体的には、例えば、本発明の高血圧モデル非ヒト動物から採取した血管標本に対し、血管収縮剤を投与した後、αCGRP及び被験物質を累積添加してED50で比較した場合,あるいは濃度曲線下面積(AUC)で比較した場合に有意差が認められたときに、当該被検物質が血管障害性疾患予防及び/又は治療用の薬剤として有用であると評価することができる。モデル動物がマウスの例では、例えば、血管標本を作成し、フェニレフリン(10-6 M)添加により血管を収縮させた後、αCGRP及び被験物質を各終濃度1x 10-11〜3x10-6 Mとなるように累積添加したときの張力変化を測定し、換算して得られた血管収縮率が、被検物質の累積添加により場合によりED50で比較した場合,あるいはAUCで比較した場合に有意差が認められたときに、その被検物質が血管障害性疾患防及び/又は治療用の薬剤として有用であると評価することができる。前記血管標本の張力変化は、例えばFDピックアップとキャリヤーアンプを介して等尺性にレコーダー(model 8K21; NEC)を用いて測定できる。
【0035】
本発明のスクリーニング方法により、血管障害性疾患の予防や治療に有用な薬剤を得ることができる。本発明における血管疾患には、高血圧、及び高血圧が誘因となる疾病(合併症)、例えば血管内皮障害、動脈硬化性疾患、及び血流障害性疾患等が含まれる。動脈硬化性疾患には、例えば脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、あるいは脳血管障害系疾患;心筋梗塞や狭心症などの冠動脈系疾患;大動脈瘤、大動脈解離等の大動脈系疾患;腎動脈硬化症やそれによる腎不全等の腎動脈系疾患;及び閉塞性動脈硬化症等の末梢動脈系疾患等が含まれる。血流障害性疾患には,例えば記憶障害,認知症,末梢血流障害性疾患等が含まれる。
【0036】
本発明の血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬(以下、「薬剤」と称する場合がある)としては、上記スクリーニング方法により得られる被検物質を有効成分として含んでいる。このような薬剤は、例えば、適宜なビヒクルに溶解又は懸濁して、経口又は非経口投与される。非経口投与には、例えば、静脈、動脈、筋肉、腹腔、気道等を経路とする全身投与、又は血管又はその近傍への局所投与を利用できるが、これらに限定されない。疾患の症状に応じて、経口投与が好ましく行われ、また血管又はその近傍へ非経口的に局所投与することもできる。前記薬剤は、例えば、RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を収縮血管部位又はその近傍の細胞に安定に到達させ、細胞膜を透過し、リソソーム/エンドソームからの薬剤の遊離を促進しうるドラッグデリバリーシステムの設計がされていることも好ましい。
【0037】
前記薬剤の剤形としては、液剤、固形剤の何れであってもよく、例えば、水、生理食塩水等の希釈液又は分散媒に有効量の阻害剤を溶解、分散、乳化させた液剤;有効量の阻害剤を粉末、顆粒状等で含むDDS製剤、サッシェ剤、錠剤等の固形剤などが挙げられる。これらの薬剤には、医薬上許容される公知の添加剤を添加することができる。
【0038】
薬剤は、また、有効成分がリポソームや徐放性材料等に封入された封入体や担体に担持された担持体などであってもよい。リポソーム等に封入することにより、有効成分をヌクレアーゼやプロテアーゼによる分解から保護し、リポソーム膜が細胞表面と結合してエンドサイトーシスにより細胞内に到達しやすくなる点で有利である。コラーゲン等の徐放性材料に封入することにより、有効成分の長期持続性が得られる。血流改善薬には、上記以外に、医薬上許容される公知の添加剤を添加することができる。
【0039】
薬剤の投与量は、有効成分の種類、投与方法、症状、投与対象の種類、大きさ、薬物特性等に応じて異なるが、通常、成人1日当たり例えば0.5〜50mg程度、好ましくは1〜20mg程度であり、1日に1回、又は複数回に分けて投与することができる。
【0040】
本発明の血流改善薬は、血管収縮を緩和することによりRAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有している。ここで、「発現」とは、蛋白質が産生されることを意味しており、「発現を亢進する物質」は、遺伝子の転写、転写後調節、蛋白質への翻訳、翻訳後修飾(チロシンリン酸化)、蛋白質フォールディング等の何れの段階で作用するものであってもよい。また、「機能を亢進する物質」としては、例えば、RAMP1タンパク質;RAMP1におけるCRLR等との蛋白質間相互作用部位やCGRP受容体等の受容体活性部位等の機能部位に作用してシグナル伝達を増加又は向上する物質;RAMP1又はRAMP1と相互作用する蛋白質のドミナントアクティブ変異体等であってもよい。ここで、「ドミナントアクティブ変異体」とは、蛋白質に対する変異の導入等によりその生理活性が向上したものをいう。これらの変異体は野生型との相乗効果により間接的にその機能を亢進することができる。
【0041】
RAMP1の発現を亢進する物質としては、例えば、転写促進因子、蛋白質合成促進剤、蛋白質安定化酵素、スプライシングやmRNAの細胞質移行を促進しうる因子、mRNA安定化酵素、mRNAに結合して活性化する因子等が挙げられ、特に他の遺伝子や蛋白質への副作用を最小限にするため、標的分子に特異的に作用しうる物質が好ましい。これらの機能性核酸及び蛋白質は、投与後に投与対象内で産生される形態であってもよく、必要に応じて発現ベクター、細胞等を用いて公知の方法で調製することができる。これらの血流改善薬の剤形、投与方法、投与量等は上記薬剤と同様である。
【0042】
本発明の血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬は、また、RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有していてもよい。すなわち、上記血流改善薬を血管障害性疾患の予防薬や治療薬として利用することができる。
【0043】
本発明の高血圧モデル非ヒト動物は、また、機能性食品のスクリーニングや評価に用いることができる。ここで、「機能性食品」とは、食品が本来持っている栄養機能(第1次機能)、味・香りなどの感覚機能(第2次機能)に加えて、生態防御や疾病の防止・回復・体調リズムの調整などの生体調節機能(第3次機能)があることに着目し、生体調節を科学的に解明して機能を発揮できるように設計・加工された食品である。すなわち、第3次機能を有する食品が機能性食品と定義される。
【0044】
本発明の機能性食品のスクリーニング方法及び評価方法に用いる被検物質としては、例えば、ビタミン、ミネラル、オリゴ糖、糖アルコール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、動物抽出物、乳酸菌や酵母等の微生物及びその抽出物、ハーブや薬草等の植物体及びその抽出物、配糖体、油脂類等を構成成分とする物質が挙げられる。また、被検物質の形態としては、特に限定されず、清涼飲料水、炭酸飲料、ドレッシングなどの液状調味料等の液状物;テーブルシュガーなどの固体調味料、クッキーなどの菓子、インスタント食品等の固形物等が挙げられる。また、これらの機能性食品は、錠剤、カプセル等の医薬的形態のものであってもよい。
【0045】
本発明の機能性食品のスクリーニング方法及び評価方法は、上記本発明の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴としている。好ましくは、モデル動物に被検物質を投与する方法が好ましい。
【0046】
本発明の機能性食品のスクリーニング方法は、上記に例示の血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法に準じて行うことができる。機能性食品の評価方法(スクリーニング方法における評価を含む)は、上述する薬剤のスクリーニング方法(1,2)における評価より判断基準を低く設定することができる。より詳細には、機能性食品の評価方法は、例えば、前記薬剤のスクリーニング方法1において、野生型動物の平均血圧値が約135%以下(マウスの血圧の場合には約135mmHg以下)程度である被検物質を、機能性食品として有用であると評価できる。上記方法によれば、高血圧の緩和や血管障害性疾病のリスクを低減可能な機能性食品を簡便にスクリーニング(選別)、評価することができる。
【0047】
本発明の機能性食品の評価方法は、例えば、特定保健用食品や栄養機能食品等を含む保健機能食品を評価する科学的根拠としての利用可能性がある。また、上記方法は、血圧の低下や血管弛緩作用を指標とするため、得られた機能性食品に対し、例えば、特定保健用食品における「血圧が高めの方の食生活の改善」等の表示を付すことにより、消費者にその機能を直接訴えることができる可能性がある。
【0048】
本発明の機能性食品は、上記スクリーニング方法又は評価方法で得ることができる。このため、高血圧の緩和・改善を促し、高血圧に関連する疾病(血管障害性疾患等)のリスクを低減・予防する機能を発揮できる食品としてきわめて有用である。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、「RAMP1 +/+」は野生型、「RAMP1 +/-」はRAMP1ヘテロ接合体、「RAMP1 -/-」はRAMP1ホモ接合体をそれぞれ意味している。
【0050】
実施例1(RAMP1ノックアウトマウスの作成)
(1)Vector作製
BAC clone:GS11-99201(倉敷紡績株式会社)からRAMP1のexonを含むゲノムを、BamH1で切り出される9kbpのフラグメントの中に見つけた。サブクローニングにより、RAMP1のexon2を確認した。exon2の200bp上流にLoxP配列を、2kbp下流にLoxP-neomycin耐性遺伝子(pPNTより)-LoxPカセットを挿入した。Exon2の上流5。7kbpにthymidine kinase遺伝子(pPNTより)を挿入し、ターゲティングベクターとした。
pPNT:Victor L.J. cell:1991 (65)1153-63
【0051】
(2)ES細胞作製
NotIで線状化したターゲティングベクター20μgをD3 ES 細胞にGene Pulser(Bio-Rad)を用いてエレクトロポレーションでトランスフェクションした (条件は250≡V, 500≡μF)。翌日より選択培地としてG418を150μg/mL添加し、さらに翌日よりgancyclovirを2μmol/L添加した。エレクトロポレーション一週間後、コロニー化したES細胞をピックアップしゲノム抽出用と凍結用に継代した。細胞よりゲノムを抽出し、合成オリゴヌクレオチドPrimer456(配列番号1)とPrimer298(配列番号2)とをプライマーに用い、94℃-30sec + (94℃-30sec 68℃-1min)×30cycle + 72℃-2minの条件でPCR反応を行うことにより、短腕側が相同組換えを起こしているクローンを選別した。短腕側の相同組換えが確認できたクローンについて、合成オリゴヌクレオチドPrimer494(配列番号3)とPrimer495(配列番号4)とをプライマーに用い、94℃-30sec + (94℃-30sec 70℃-1min)×30cycle + 72℃-1min30secの条件でPCR反応を行うことにより、長腕側のLoxPが残っていることを検出し、更にサザンブロッティングで短腕、長腕両側での相同組換えを最終的に確認した。643クローンから5クローンの相同組換えを確認し、そのうち正常な核型を有していた2クローンをRAMP1-floxed ES 細胞とした。
配列番号1:5’-TGTACCCTGT GCGGTTTGTC TGGGGGCGCG-3’(Primer456)
配列番号2:5’-AGGGGAGGAG TAGAAGGTGG CGCGAAGGGG-3’(Primer298)
配列番号3:5’-GTCTTAACTG CACTGTGGGC-3’(Primer494)
配列番号4:5’-GTGATAAAAG CAACTCCGGG-3’(Primer495)
【0052】
(3)Cre/LoxPシステムの確認
得られたRAMP1-floxed ES 細胞にNotIで線状化したpCAGGS-Cre 10μgをGene Pulser(Bio-Rad)を用いてエレクトロポレーションでトランスフェクションした (条件は 250≡V and 500≡μF)。翌日より選択培地としてG418(150 μg/mL)を添加した。エレクトロポレーションより一週間後、コロニー化したES細胞をピックアップしゲノム抽出用と凍結用に継代した。抽出したゲノムに対し、合成オリゴヌクレオチドPrimer258(配列番号5)とPrimer259(配列番号6)とをプライマーに用い、94℃-30sec + (94℃-30sec 60℃-30sec 72℃-30sec)×40cycle + 72℃-2minの条件でPCR反応を行うことにより、Cre recombinaseのインテグレーションを確認した。さらに、Creが導入されたクローンに対し、合成オリゴヌクレオチドPrimer494(配列番号7)とPrimer496(配列番号8)とをプライマーに用い、94℃-30sec + (94℃-30sec 65℃-30sec 74℃-30sec)×40cycle + 72℃-2minの条件でPCR反応を行った。野生型のゲノムだと4kbp以上離れているのでPCRは走らないが、Creによりrecombinasionが起こっていると500bpのバンドが確認できる。これにより2つのクローン双方においてCre recombinaseの導入が確認された全てのクローンでゲノムのrecombinasionを確認した。
配列番号5:5’-GTTTCACTGG TTATGCGGCG G-3’(Primer258)
配列番号6:5’-TTCCAGGGCG CGAGTTGATA G-3’(Primer259)
配列番号7:5’-GTCTTAACTG CACTGTGGGC-3’(Primer494)
配列番号8:5’-TTGGAACATC ACCACGCACG-3’(Primer496)
【0053】
(4)キメラマウス作製、germ line transmission
C57BL/6マウス(日本SLC)より採取した未受精卵の胚盤胞へ4〜8個のRAMP1-floxed ES 細胞を注入し、偽妊娠ICRマウスへ戻した。3週間後に得られた産子の毛色でキメラマウスであることを確認した。さらにキメラマウスと野生型のC57BL/6マウスと交配させ、その産子の中にES細胞由来のRAMP1 +/-マウスがいることを毛色およびジェノタイピングより解析し、2つのクローンにgerm line transmissionを確認した。ジェノタイピングは尾部より抽出したゲノムを前記と同様にPrimer456とPrimer298とを用いたPCR反応(合成オリゴヌクレオチドPrimer456(配列番号1)とPrimer298(配列番号2)とをプライマーに用いた94℃-30sec + (94℃-30sec 68℃-1min)×30cycle + 72℃-2minの条件でのPCR反応)及びサザンブロッティングにより行った。
【0054】
(5)ホモ接合体とその表現形
得られたRAMP1 +/-マウス同士を交配させてRAMP1 -/-マウス、及びコントロールとして同腹のRAMP1 +/+マウス、RAMP1 +/-マウスを得た。ジェノタイピングは、尾部より抽出したゲノムに対し、前記(3)と同様の条件下でPCR反応により行った。
8週齢のRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウスについて、脳、胸腺、脾臓、肺の各臓器におけるRAMP1とCRLRのmRNAレベルでの発現を確認した。その結果を図1に示す。
【0055】
実施例2 (恒常的 RAMP1 KO マウス作製)
全身でCre recombinaseを発現するpCAGGS-Cre transgenicマウスとRAMP1-floxedマウスを交配させることで、pCAGGS-Cre陽性かつRAMP1-floxedマウスが産子として得られた。そのマウスとwild typeマウスとの交配によりRAMP1 ヘテロ欠損マウスが生まれた。得られたヘテロ欠損マウス同士を交配させてRAMP1ホモ欠損マウスが生まれた。ジェノタイピングは、尾部より抽出したゲノムを鋳型にし、合成オリゴヌクレオチドPrimer494(配列番号7)とPrimer496(配列番号8)とをプライマーに用いた、94℃-30sec + (94℃-30sec 65℃-30sec 74℃-30sec)×40cycle + 72℃-2minの条件でのPCR反応、及び合成オリゴヌクレオチドPrimer494(配列番号3)とPrimer495(配列番号4)とをプライマーに用いた94℃-30sec + (94℃-30sec 70℃-1min)×30cycle + 72℃-1min30secの条件でのPCR反応との組み合わせで、ヘテロ欠損マウスかホモ欠損マウスかを判断した。
【0056】
実施例3
実施例1で得たRAMP1 -/-マウスに、被検物質を生理的食塩水に溶解して調製した15mg/0.5mlの注射液を静脈注射し、経時的に後述する方法に従って平均血圧を測定する。また、対照として、生後6週目のRAMP1 +/+マウスとRAMP1 -/-マウスに0.5mlの生理的食塩水を注射して経時的に同様に血圧を測定する。その結果、被検物質を注射されたRAMP1 -/-マウスの血圧が120mmHg以下であった場合に、その被検物質は血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬として有用である。
【0057】
実施例4
被検物質を生理的食塩水に溶解して調製した15mg/0.5mlの注射液を静脈注射し、経時的に後述する方法に従って収縮期血圧を測定する。また、対照として、生後6週目のRAMP1 +/+マウスとRAMP1 -/-マウスに0.5mlの生理的食塩水を注射して経時的に同様に血圧を測定する。その結果、生理的食塩水が投与されたRAMP1-/-マウスの血圧が140mmHgであるのに対し、被検物質を注射されたRAMP1 -/-マウスの血圧が120mmHg以下であった場合、その被検物質は血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬として有用である。
【0058】
実施例5
特表2005−503809号公報の記載に基づき、RAMP1のアミノ酸配列74番のリジンをトリプトファンに変換することによりRAMP1の機能が亢進されたRAMP1変異タンパク質を調製し、生理的食塩水に溶解して15mg/0.5mlの注射液として用いて実施例1で得たRAMP1 -/-マウスに静脈注射し、経時的に後述する方法に従って収縮期血圧を測定する。その結果、注射後のRAMP1 -/-マウスの血圧が120mmHg以下を示すことから、上記RAMP1変異タンパク質は、血流改善薬として、また、血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬として有用である。
【0059】
実施例6
マウス用の固形状の餌を粉砕し、実施例6で調製したRAMP1変異タンパク質を15mg/g濃度で混合して再度固形状に成形したものを被検物質として用い、平均血圧が140mmHgの高血圧モデルマウスに、通常の餌の代わりに1週間摂取させた後、後述する方法に従って収縮期血圧を測定する。その結果、被検物質を摂取させたRAMP1-/-マウスの血圧が120mmHg以下に低下することから、その被検物質は、血管障害性疾患の予防に有用な機能性食品として有用である。
【0060】
(評価方法)
心拍数及び収縮期血圧の測定
実施例1で作製したRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウスについて、心拍数と収縮期血圧を以下の方法で測定した。
無麻酔条件下でマウスを保定し、MK2000(室町機械社製)を用いてtail-cuff法により心拍数および収縮期血圧を測定した。なお測定時には環境に慣らすため、各個体につき30回以上の測定を行った後、本測定として10回の測定を行い、その平均値をその個体の値とした。その結果を図3に示す。図3に示されるように、野生型マウスならびにヘテロ接合体の平均血圧は約100mmHgであるのに対し、上記で得たRAMP1 KOマウスの平均血圧は約140mmHgであり、明かな高血圧を示した。また、同様の方法により、6〜18週齢のマウスについて心拍数と血圧の変化を測定した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、心拍数はいずれのマウスにおいても変化は認められなかった。RAMP1 KOマウスの血圧は調べた6週齢において既に高く、週齢とともに徐々に高くなる傾向が認められた。
【0061】
血管収縮実験
実施例1で作製したRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウスについて、以下の方法で作成した血管標本における張力変化を測定し、血管収縮率に換算することにより血管収縮特性を評価した。
ペントバルビタールナトリウム麻酔下、マウス頸動脈を切断し、脱血した。次に胸部大動脈を摘出し、37℃のKlebs-Henseleit液(118.4 mM NaCl、4.7 mM KCl、2.5 mM CaCl2、1.2 mM KH2PO4、1.2 mM MgSO4・7H2O、25 mM NaHCO3、11.1 mMグルコース)中で血管の結合組織を除去後、3 mm幅に血管を切断しリング標本を作製した。血管標本にアクリル樹脂製支持棒を取り付けたタングステン線を挿入し、95% O2/ 5% CO2混合ガスを通気して37℃に保温したKlebs-Henseleit液10 mL中に固定した。タングステン線をもう一本標本に挿入し、FDピックアップに連結した。なお、標本の張力変化はFDピックアップとキャリヤーアンプを介して等尺性にレコーダー(model 8K21; NEC)上に記録し(1.0 g = 5 cm)、簡易マニュピレーター(model t-7; NEC)を操作して標本に0.7 gの基礎張力をかけた。30分後、フェニレフリン(終濃度3×10-7 M)による血管収縮反応と、アセチルコリン(終濃度10-7 M)による血管弛緩反応を確認した。血管標本の確認終了後、再びKlebs-Henseleit液中で60分間平衡化し、フェニレフリン(10-6 M)添加により血管を収縮させ、αCGRP、βCGRPまたはアドレノメジュリン(AM)を終濃度1x 10-11-3x10-6 Mとなるように累積添加し血管の弛緩応答を記録した。再び30分間平衡化させた後、フェニレフリン(10-6 M)で収縮させた後,パパベリン(10-4 M)を添加し血管を弛緩させ、最大弛緩能を求めた。これらの結果を図5に示す。
【0062】
図5に示されるように、フェニレフリンにより収縮させたRAMP1+/+マウス胸部大動脈は、αCGRP添加により顕著に弛緩した。一方、 RAMP1-/-マウスの胸部大動脈はαCGRPによる弛緩反応を示さなかった。このことはRAMP1がαCGRPの受容体を構成することを示す。一方、βCGRPは野生型マウス胸部大動脈に対しても顕著な血管弛緩活性を認めなかった。また、強い血管拡張作用を有することが知られているAMの活性も、フェニレフリンにより収縮させたRAMP1-/-マウスの胸部大動脈ではRAMP1+/+マウスに比べあきらかに減弱した。このことはアドレノメデュリンの血管拡張作用も少なくとも一部はCGRPと同様RAMP1で構成される受容体が関与していることが示された。
【0063】
免疫組織化学染色
ヒト病理組織を10%中性緩衝ホルマリンにより固定し、パラフィン包埋後、4μmに切片化した。脱パラフィン化後、切片を室温にて1時間、抗RAMP1抗体(SantaCruz)とインキュベートした。反応に引き続きHistofine SAB-PO kit(ニチレイ社製)及び色素としてdiaminobenzidineを用いて可視化し、ヘマトキシリンにて対比染色した。その結果、脳、大腸粘膜細胞等とともに大腸癌細胞においてもRAMP1の発現が認められた。このことはCGRPのシグナルが血管拡張作用とともに癌細胞の増殖・転移にも関与することを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1に用いたターゲティングベクターの概略断面図である。
【図2】実施例1で得たRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウス8週齢の臓器別発現パターンを示すアガロースゲル電気泳動の写真である。
【図3】(イ)は実施例1で得たRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウス10週齢における血圧を示すグラフであり、(ロ)は同心拍数を示すグラフである。
【図4】(イ)は実施例1で得たRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の各マウス6〜18週齢における血圧を示すグラフであり、(ロ)は同心拍数を示すグラフである。
【図5】(イ)は実施例1で得たRAMP1 +/+、RAMP1 +/-、RAMP1 -/-の12週齢マウスに対して3種の血管拡張因子の影響下での血管収縮率を示すグラフを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体上のRAMP1遺伝子の一部又は全部の改変により、当該RAMP1遺伝子の機能が完全に欠損していることを特徴とする高血圧モデル非ヒト動物。
【請求項2】
染色体上に選択マーカー遺伝子が挿入されていない請求項1記載の高血圧モデル非ヒト動物。
【請求項3】
染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域と、選択マーカー遺伝子がLoxP配列に挟まれた領域とを含むES細胞に、Cre酵素を作用させて得られるES細胞を用いる方法、又は染色体上に、RAMP1遺伝子のエキソンの少なくとも一部がLoxP配列に挟まれた領域を含むES細胞を用いて作製されたRAMP1-floxedマウスと、Cre酵素を発現可能なマウスとの交配による方法のいずれかで作製された請求項1又は2記載の高血圧モデル非ヒト動物。
【請求項4】
RAMP1遺伝子の機能がコンディショナルに欠損されている請求項1〜3の何れかの項に記載の高血圧モデル非ヒト動物。
【請求項5】
非ヒト動物がラット又はマウスである請求項1〜4の何れかの項に記載の高血圧モデル非ヒト動物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの項に記載の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする血管障害性疾患の予防及び/又は治療用薬剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
血圧及び/又は血管拡張作用を指標とする請求項6記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
血管障害性疾患が、高血圧、血管内皮障害、動脈硬化性疾患、及び記憶障害,認知症,末梢血流障害性疾患を含む血流障害性疾患からなる群から選択される少なくとも一の疾患である請求項6又は7の何れかの項に記載の薬剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項6〜8の何れかの項に記載の薬剤のスクリーニング方法により得られる血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項10】
RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有する血流改善薬。
【請求項11】
RAMP1遺伝子の発現又は機能を亢進する物質を有効成分として含有する血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項12】
血管障害性疾患が、高血圧、血管内皮障害、動脈硬化性疾患、及び記憶障害,認知症,末梢血流障害性疾患を含む血流障害性疾患からなる群から選択される少なくとも一の疾患である請求項11記載の血管障害性疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項13】
請求項1〜5の何れかの項に記載の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする機能性食品のスクリーニング方法。
【請求項14】
血圧及び/又は血管拡張作用を指標とする請求項13記載の機能性食品のスクリーニング方法。
【請求項15】
請求項13又は14記載の機能性食品のスクリーニング方法により得られる機能性食品。
【請求項16】
請求項1〜5の何れかの項に記載の高血圧モデル非ヒト動物に被検物質を投与するか、又は該動物由来の組織、器官、若しくは細胞を被検物質と接触させることを特徴とする機能性食品の評価方法。
【請求項17】
血圧及び/又は血管拡張作用を指標とする請求項16記載の機能性食品の評価方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201355(P2009−201355A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154336(P2006−154336)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505295101)PCA InterMed株式会社 (1)
【Fターム(参考)】