説明

高親水性の水性ポリウレタン樹脂分散組成物

【課題】塗料材料やインキ材料などの特異性と有用性を高めるために、被膜フィルムの水溶性や水への再溶解性に優れ、耐有機溶剤性などの特性を併せ備えた、水性ポリウレタン樹脂材料を提供する。
【解決手段】有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させてウレタンプレポリマーを生成した後に、中和剤(D)による中和処理と水との混合による乳化分散を行い、アミノスルホン酸(E)と反応させて得られることを特徴とする、水性ポリウレタン樹脂分散組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高親水性の水性ポリウレタン樹脂分散組成物に関し、特に、水溶性と水への再溶解性及び耐有機溶剤性に優れた、高親水性水分散型ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物であって、水性インキ材料におけるインキバインダー用樹脂として有用な水性ポリウレタン樹脂分散組成物に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂組成物は、従来は専ら有機溶剤を使用した組成物として使用され、各種の素材への密着性が高く種々の物性に優れているので、被覆剤や塗料或いは接着剤や印刷インキなどとして汎用されてきた。
近年においては、社会的及び産業界からの要請である環境保全性や作業安全性などからして有機溶剤を使用しない水性(水系)の組成物が要望され、有機溶剤を使用しないことで経済的に有利でもあるので、最近では、有機溶剤によるポリウレタン樹脂組成物から、水分散体を使用する水性のポリウレタン樹脂組成物への変換が普遍的に行われている。
【0003】
水性のポリウレタン樹脂組成物においては、基本的な問題として、ポリウレタン樹脂の水媒体への分散性を高めることが重要であり、これらに対処する多数の技術が開発されている。
そして、これらの要件を共に満たす樹脂組成物の利用展開の態様として、水性ポリウレタン樹脂分散組成物について、塗料材料やインキ材料などとしての安定した塗工性確保のため、被膜フィルムの水への再溶解性や、最終製品の有機溶剤不溶性などの特性を備えた組成物が、水性ポリウレタン樹脂材料の技術分野において要望されている。
【0004】
かかる水性ポリウレタン樹脂分散組成物においては、耐溶剤性や耐久性などの諸機能を高めるために多数の改良検討が展開されて、各種の水性樹脂が開示されており、例えば、代表的に、2−オキサゾリン基を含有する重合体を架橋剤として、強度や耐溶剤性などに優れた被膜を形成する水性樹脂分散組成物(特許文献1を参照)、ポリオレフィン樹脂と水溶性のエポキシ樹脂を成分として、ポリオレフィン基材との密着性と耐溶剤性などに優れた被膜を形成する水性ポリウレタン樹脂分散組成物(特許文献2を参照)など多数の公開公報が提示されている。
しかし、水性ポリウレタン樹脂分散組成物において、被膜フィルムの水溶性や水への再溶解性及び耐有機溶剤性などの特性を併せ備えた組成物は、未だ開示されておらず、かかる組成物の開発が望まれている現況である。
【0005】
また、本発明におけるアミノスルホン酸については、水性ポリウレタン樹脂分散組成物における成分として使用されることは既に知られている(特許文献3〜6参照)。しかし、本発明のように、乾燥被膜フィルムにおいて水溶性や水への再溶解性に優れ、耐有機溶剤性をも示す、新規な性能(発明の効果)は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−295275号公報
【特許文献2】特開2009−013226号公報
【特許文献3】特開2007−146162号公報
【特許文献4】特開2005−29789号公報
【特許文献5】特開平10−130359号公報
【特許文献6】特開平05−194687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術の段落0003〜0004に概述したように、水性のポリウレタン樹脂組成物においては、その技術改良の流れの中で各種の物性の向上を図るとともに、塗料材料やインキ材料などの有用性を高めるために、その分散組成物による被膜フィルムの水溶性や水への再溶解性及び耐有機溶剤性などの特性を併せ備えた組成物が、水性ポリウレタン樹脂材料の技術分野において新たに要望されている。しかし、かかる組成物は未だ開発されていない現況なので、本発明は、このような組成物の実現を成すことを発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するために、水性のポリウレタン樹脂分散組成物(エマルジョン組成物)による水性材料において、低分子化合物原材料、イオン性分散化モノマー、ポリウレタン樹脂の化学構造や物性、鎖延長剤、多官能性架橋剤などの反応助剤の種類、乳化分散工程や組成物の製造工程全般などを鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
ところで、本発明者は、水性ポリウレタン樹脂分散組成物において、有機ポリイソシアネートとしてアロファネート変性ポリイソシアネートを使用して、具体的には、アロファネート変性ポリイソシアネートを含有する有機ポリイソシアネート、高分子ポリオール、カルボキシル基含有低分子グリコール、中和剤及び脂肪族ポリアミンの鎖延長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させて成り、その乾燥皮膜フィルムにおいて水溶性や水への再溶解性に優れ、有機溶剤不溶性を併せ示す水性ポリウレタン樹脂分散組成物の発明を先に完成して、先願発明として既に出願している(特願2009−0762
71;特開2010−229224)。
しかし、当先願発明における水性ポリウレタン樹脂組成物の乾燥被膜の水溶性や再溶解性を更に向上させる組成物にするためには、特定の鎖延長停止剤を採用することによってなされることを見い出し、本発明を創作するに至った。
【0010】
本発明は、発明の構成の要件(発明の特定事項)における基本的な特徴として、水性ポリウレタン樹脂分散組成物において、特定のアミノスルホン酸を採用するものであり、具体的には、有機ポリイソシアネート、高分子ポリオール、カルボキシル基含有低分子グリコール、中和剤及びアミノスルホン酸を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させて成る、水性ポリウレタン樹脂分散組成物(エマルジョン組成物)である。
【0011】
そして、具体的な実施の態様としては、アミノスルホン酸が2−アミノエタンスルホン酸(NHCHCHSOH)である。また、有機ポリイソシアネートが脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオールが数平均分子量800〜6,000のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコールがジメチロール脂肪酸であり、中和剤が第三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかであるなどと、具体的に特定される。
【0012】
本発明の水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造方法としては、有機ポリイソシアネート、高分子ポリオール、カルボキシル基含有低分子グリコールを反応させてウレタン化反応を行い、ウレタンプレポリマーを生成した後に、中和剤による中和処理と水との混合による乳化分散、及びアミノスルホン酸による鎖延長反応の停止を順次に行うことにより、具体的に本発明の均一分散した、水性ポリウレタン樹脂分散組成物を製造することができる。
【0013】
更に、本発明の特異的な特徴は、その利用態様としての、水性ポリウレタン樹脂分散組成物をインキバインダー用樹脂として使用することを特徴とする水性インキ材料であり、その乾燥被膜フィルムにおいて水溶性や水への再溶解性に優れ、耐有機溶剤性をも示して、特異的で新規な性能を発揮することができる。
このような性能は、後述する各実施例のデータ及び各実施例と各比較例の対照により実証されている。
【0014】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散組成物は、段落0010及び0013に記述した、特有の構成の要件と顕著な特徴を有するものであり、このような要件及び特徴は、段落0006において前記した先行技術文献及びその他の特許文献において見い出すことはできない。
【0015】
以上のとおりに創作され、特有の要件と顕著な特徴を備えた本発明について、その全体の構成を俯瞰して明確に記載すると、本発明は、次の[1]〜[6]の発明単位群から形成されるものであって、[1]の発明を基本発明とし、それ以外の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。
【0016】
[1]有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させてウレタンプレポリマーを生成した後に、中和剤(D)による中和処理と水との混合による乳化分散を行い、アミノスルホン酸(E)と反応させて得られることを特徴とする、水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【0017】
[2]アミノスルホン酸(E)が2−アミノエタンスルホン酸であることを特徴とする、[1]における水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
[3]有機ポリイソシアネート(A)が脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)が数平均分子量800〜6,000のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロール脂肪酸であり、中和剤(D)が第三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかであることを特徴とする、[1]又は[2]における水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
[4]有機ポリイソシアネート(A)がイソホロンジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)がポリプロピレングリコールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロールプロピオン酸であり、中和剤(D)が水酸化カリウムであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおける水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【0018】
[5]乾燥被膜が水溶性と水への再溶解性及び耐有機溶剤性に優れた、高親水性水分散型ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおける水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
[6][1]〜[4]のいずれかにおける水性ポリウレタン樹脂分散組成物を、インキバインダー用樹脂として使用することを特徴とする水性インキ材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物は、水性ポリウレタン樹脂被膜形成材料として、特にインキバインダー用樹脂の使用態様における、乾燥皮膜フィルムにおいて水溶性や水への再溶解性に優れて、インキコーターなどの目詰まりが抑制され、耐有機溶剤性も有し、特異的で新規な性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0021】
1.水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の原材料
(1)有機ポリイソシアネート
有機ポリイソシアネートは、一般に有機ジイソシアネート化合物が使用されるが、ポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。コーティング被膜として利用する場合には、紫外線による黄変を避けるために、芳香族ジイソシアネートよりも脂肪族又は脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0022】
具体的な化合物としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが例示され、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートが例示される。
芳香族ジイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネート、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネートなどが例示される。
更には、これらのカルボジイミド変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体、アロファネート変性体なども使用できる。
【0023】
(2)高分子ポリオール
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、主としてポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。
【0024】
ポリエーテルポリオールとしては、水、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどのジオール類を開始剤として、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドの付加重合により得られるポリエーテルポリオール、或いは、テトラヒドロフランなどの環状エーテルをカチオン開環重合することにより得られるテトラメチレンポリオールが例示される。
【0025】
ポリエステルポリオールとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、その他の二塩基酸などと、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどのジオール類とからの重縮合反応により得られるポリエステルポリオールが例示される。
更に、ε−カプロラクトンなどの環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル及びこれらの共重合ポリエステルが挙げられる。
【0026】
ポリカーボネートポリオールとしては、段落0023に前記したジオール類と、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどとの反応により得られるポリカーボネートポリオールが例示される。
【0027】
ポリオレフィンポリオールとしては、水酸基を2個以上有する、ポリブタジエンや水素添加ポリブタジエン及びポリイソプレンや水素添加ポリイソプレンなどが例示される。
【0028】
これらの高分子ポリオールの中で、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)は、ポリウレタン樹脂被膜において、低温特性や機械強度に優れ、ポリプロピレングリコール(PPG)は柔軟性や低温特性に富み安価であり、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)は可撓性や耐候性及び低温特性に優れ、ポリカーボネートポリオール(PCD)は耐熱性や耐候性及び耐水性や機械強度、更に耐加水分解性に富み、ポリエステルポリオール(PES)は付着性や密着性において優れている。したがって、これらの特性を考慮して高分子ポリオールが選択使用される。
以上の高分子ポリオールは、1種単独又は2種以上の混合の態様で適宜に使用されてよく、それぞれの高分子ポリオールの数平均分子量は800〜6,000程度のものが好ましく、より好ましくは数平均分子量が800〜2,500、より安定した水性ポリウレタン樹脂分散体を得る観点からは数平均分子量が1,000〜2,000が好ましい。また、ポリプロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0029】
(3)カルボキシル基含有低分子グリコール
本発明において使用されるカルボキシル基含有低分子グリコールとしては、末端水酸基を二個有す脂肪酸が好適に使用される。
当脂肪酸は末端水酸基を活性水素基として二個有し、例えば両末端の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水性なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。カルボキシル基をアルカリで中和すると親水性がより高くなる。
活性水素基を有す脂肪酸化合物としては、末端水酸基を二個有するジメチロールプロピオン酸及びジメチロールブタン酸などが例示される。
【0030】
(4)中和剤
本発明における中和剤としては、主としてアミン化合物、又は各種のアルカリが使用され、代表的には第3級アミン化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが好適に使用される。特に第3級アミンや水酸化カリウムが好ましい。
アミン系中和剤としては、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリンなどが例示される。
これらの中和剤は、ウレタンプレポリマー主鎖に組み込まれたカルボキシル基含有低分子グリコールのカルボキシル基を中和して、ポリウレタン樹脂の水分散性をより高めるものである。これらの中和剤は、1種単独又は2種以上の混合の態様で使用される。
【0031】
(5)鎖延長停止剤
本発明においては、特異なアミノスルホン酸が使用され、その使用によって、本発明の構成における基本的な特徴を構築形成しており、本発明の特異的な特徴であるところの、その乾燥被膜フィルムにおいて水溶性や水への再溶解性に優れ、耐有機溶剤性をも示す、特異的で新規な性能を発揮することができる。
代表的なものは、2−アミノエタンスルホン酸である。アミノスルホン酸の使用量は、高分子ポリオールを1モルとして、0.1〜10モルの使用が好ましく、0.2〜8モルがより好ましい。0.1未満では本発明の効果が充分に発現されず、10モルを超える使用をしても本発明の効果の発現は増大しない。
2−アミノエタンスルホン酸は、通称のタウリンとして知られて市販されており、別名はアミノエチルスルホン酸であって、化学構造式は、HN−CHCH−SOHである。
なお、通常の鎖延長剤を併用して使用してもよい。通常の鎖延長剤としては水又はアミン類が使用され、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、N−アミノエチル−N−エタノールアミンなどが例示される。
【0032】
(6)硬化触媒及び硬化剤
ウレタン化反応の促進触媒は、必要により使用され、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒或いはトリエチレンジアミンやN−メチルモルホリンのようなアミン系触媒など公知のウレタン化触媒が使用できる。
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散組成物は、架橋剤(硬化剤)を用いず、一液型として使用可能であるが、架橋剤を併用した二液システムの主剤としても使用できる。その場合は,架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)から誘導される、アロファネート型ポリイソシアネート、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネート、ウレタン変性型ポリイソシアネートなどを使用する。
【0033】
(7)その他の助剤
その他必要に応じ、成膜剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料その他の加工助剤を用いることができる。
【0034】
2.水性ポリウレタン樹脂分散組成物の製造方法
本発明における水性ポリウレタン樹脂分散組成物の製造は、有機ポリイソシアネート(A)と高分子ポリオール(B)及び水分散性を高めるためのカルボキシル基含有低分子グリコール(C)によりウレタン化反応を行いウレタンプレポリマーを形成し、次いで、中和剤(D)にてカルボキシル基を中和してカルボン酸塩とし、水を混合して乳化分散させ、アミノスルホン酸(E)と反応させることにより行われる。
【0035】
3.利用態様としての特徴
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散組成物は、被覆剤一般に使用できるが、特に、アミノスルホン酸の採用により、インキバインダー用樹脂としての実施の態様において、段落0013及び0019などに前記したとおりに、その特徴と効果を最もよく顕現するものである。
具体的には、水性インキ材料として使用の際には、その乾燥皮膜フィルムの水溶性や水への再溶解性に優れているため、インキコーターなどの目詰まりが抑制されることで長時間の使用に耐え、耐有機溶剤性も有し、新規な性能を発揮することができる。
【実施例】
【0036】
以下においては、本発明における水性ポリウレタン樹脂分散組成物(エマルジョン)の製法を提示し、各実施例によって、各比較例を対照しながら、本発明をより詳細に具体的に示して、本発明の構成と効果をより明確にし、本発明の構成の各要件の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。
【0037】
[実施例−1]〔水性ポリウレタン分散組成物の製造〕
撹拌機、温度計、窒素シール管、及び冷却器を装着した容量1Lの反応器にポリプロピレングリコール(PPG;Mw=2,000)を56.6g(モル比=1.0)、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を22.3g(モル比=6.0)仕込み、100℃にて均一に混合した。その後、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を51.7g(モル比=8.4)、メチルエチルケトン(MEK)を65.3g仕込み、80℃で3時間撹拌し反応を行った。
その後、水酸化カリ(KOH;33.8%水溶液)を22.2g(モル比=4.8)仕込みカルボキシル基を中和し、次いで、MEKを65.3gと水を620g仕込み乳化させた。乳化したところで、予め水を78.6gと2−アミノエタンスルホン酸を8.7g(モル比=2.5)及びKOH(33.8%水溶液)を9.2g(モル比=2.0)を配合したアミン水を仕込み鎖延長化反応を行った。
FT−IRによりイソシアネート基の存在が見えないことを確認したところで、反応を終了して25℃まで冷却し、水性ポリウレタン分散体(本発明の水性ポリウレタン樹脂分散組成物に相当)を得た。塗膜物性の結果を表1に掲示した。
(なお、上記の記載中における「モル比」はPPG(Mw=2,000)に対するモル比である。)
【0038】
[実施例−2〜4]及び[比較例−1,2]
実施例−1に準拠して、表1に記載の条件にて実施例−1と同様に行った。塗膜物性の結果も表1に掲示した。
【0039】
[塗膜物性の測定方法]
〔水性ポリウレタン樹脂分散組成物における、MEKを用いたゲル分率の評価〕
水性ポリウレタン樹脂分散組成物を板ガラスにキャストして25℃で5日間乾燥させ、20μmの膜厚を有する乾式フィルム(水性ポリウレタン樹脂分散組成物中の固形分からなるフィルム)を作成した。
このフィルムにおいて、1.5gをカットし、予め秤量した円筒濾紙に入れて秤量した。これをMEKに漬け込み、MEKの沸点(80℃)にて5時間煮沸後、MEKの蒸気にて1時間リンスした。リンス終了後、乾燥し秤量して、ゲル分率を求めた。
【0040】
〔水性ポリウレタン樹脂分散組成物における、親水性(接触角減少速度)の評価〕
上記と同様に乾式フィルムを作成し、得られた乾式フィルムに水滴を垂らし、初期接触角を測定し(測定装置;協和界面科学株式会社 CONTACT ANGLE METERFACE:CA−DT・A型)、1分経過後から10分経過後まで、1分毎に接触角を測定した。
横軸に水滴接触からの経過時間、縦軸に接触角の逆数を1,000倍した数値を取り、測定結果を各々プロットし近似曲線を作成した。
近似曲線の傾きを「接触角減少速度」とした。接触角減少速度は、数値が大きいものほど親水性が高く、再溶解性に優れていることを示している。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例と比較例の結果の考察]
実施例−1〜4においては、本発明のアミノスルホン酸(2−アミノエタンスルホン酸)を使用しているので、乾燥フィルムにおける水滴の接触角減少速度が大きく、親水性と水への再溶解性及び水溶性に優れていることを実証している。
具体的には、実施例−1は、実施例−2に比して、アミノスルホン酸の使用量が約1.3倍量なので、接触角減少速度もかなり大きくなっている。また、実施例1,2においては、ゲル分率も高く、耐有機溶剤性にも優れていることを示している。換言すれば、耐有機溶剤性を低下させずに親水性や水溶性などが改良されているのが明らかにされている。
更に、実施例−3,4においては、実施例−1,2に比して、アミノスルホン酸の使用量を少なくしているが(約1/2〜1/3)、接触角減少速度は充分に大きく、また、ゲル分率も高く、耐有機溶剤性にも優れていることを示している。換言すれば、やはり耐有機溶剤性を低下させずに親水性や水溶性などが改良されているのが明らかにされている。
一方、比較例−1,2のゲル分率は実施例−1〜4と同等程度に高いが、鎖延長剤として、本発明のアミノスルホン酸を使用せず、EDA又はDETAを使用しているので、実施例−1〜4に比して、乾燥フィルムにおける水滴の接触角減少速度がかなり小さくなっており、親水性と水への再溶解性及び水溶性に劣っていることを示している。
以上の各データ結果と考察によって、本発明の構成要件の合理性と有意性が実証され、本発明が従来技術に比べて顕著な卓越性を有していることが明確にされているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明における水性ポリウレタン樹脂分散組成物は、乾燥皮膜フィルム状態において水溶性や水への再溶解性に優れて、耐有機溶剤性も有して、特異的で新規な性能を発揮することができるので、水性ポリウレタン樹脂分散組成物として、被膜材料分野において、特に印刷インキバインダー用樹脂材料として、産業上有効に利用され得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させてウレタンプレポリマーを生成した後に、中和剤(D)による中和処理と水との混合による乳化分散を行い、アミノスルホン酸(E)と反応させて得られることを特徴とする、水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【請求項2】
アミノスルホン酸(E)が2−アミノエタンスルホン酸であることを特徴とする、請求項1に記載された水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【請求項3】
有機ポリイソシアネート(A)が脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)が数平均分子量800〜6,000のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロール脂肪酸であり、中和剤(D)が第三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載された水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【請求項4】
有機ポリイソシアネート(A)がイソホロンジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)がポリプロピレングリコールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロールプロピオン酸であり、中和剤(D)が水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載された水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【請求項5】
乾燥被膜が水溶性と水への再溶解性及び耐有機溶剤性に優れた、高親水性水分散型ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載された水性ポリウレタン樹脂分散組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載された水性ポリウレタン樹脂分散組成物を、インキバインダー用樹脂として使用することを特徴とする水性インキ材料。

【公開番号】特開2012−193253(P2012−193253A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57302(P2011−57302)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】