説明

高設栽培装置

【課題】排水路の詰まりを抑制できる廉価な構成の栽培容器を備えた高設栽培装置を提案すること。
【解決手段】高設栽培装置1のイチゴ栽培容器4の凹部11の底面には排水溝12が形成されており、ここをプラスチックダンボール製の封鎖板21で封鎖し、排水溝12内に配置した同一素材からなる一対の支持板22、23によって封鎖板21を支持して排水路が形成されている。網状パイプなどの排水管を用いる場合には、網状パイプの外周部分の網目が土などの異物で目詰まりしやすく、網状パイプの内部に目詰まりが生ずるなどの弊害がある。このような弊害の発生を抑制可能な廉価なイチゴ栽培容器を備えた高設栽培装置を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイチゴ栽培などに用いる高設栽培装置に関し、特に、排水溝の詰まりを防止でき、培養土の掘り起こしなどの作業も簡単に行うことのできる廉価な高設栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴ栽培は、温室内において、パイプ、アングル材などの線材を用いて細長いベンチ状の支持台を構成し、この上に細長い栽培容器を乗せ、栽培容器に培土を入れて栽培床を形成している。このような高設栽培装置では、栽培床にイチゴの苗木を植え、栽培床に沿って配置した液体肥料供給用のパイプから液体肥料を供給すると共に、栽培容器内に配置した温水パイプを用いて温度状態を管理しながら栽培を行っている。
【0003】
高設栽培装置は例えば特許文献1に開示されている。ここに開示されているイチゴ栽培装置では、横断面形状が上側からU形にくり抜かれ、その底部分の中央に排水樋として機能する溝が形成された栽培ベッド(栽培容器)が用いられている。栽培ベッドのU状の凹部の内周面には防水フィルムおよび防根シートが設けられ、この上から、ピートモス、ロックウールなどの培土が入れられて栽培床が形成されている。栽培ベッドの上には当該栽培ベッドに沿って液体肥料の供給管が引き回されている。供給された過剰な液体肥料などは、防根シートを透過して排水樋に流れ落ち、ここを通って栽培ベッドの長さ方向に排出され、その端から外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−330624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来の高設栽培装置においては次のような解決すべき課題がある。まず、特許文献1に記載の排水樋を用いる場合には、過剰供給された液体肥料などの液体と共に培土などの異物が当該排水樋に流れ込むので、排水樋が詰まり易い。排水樋に網状パイプを配置することも考えられるが、網状パイプは一般的に高価であり、網状パイプの網目に詰まりが発生しやすい。
【0006】
また、特許文献1のように、栽培容器として、その内周面形状が湾曲形状のものが使用されている場合には、培養土の掘り返しなどの作業を小型の耕運機などの作業機械を用いて行うと栽培容器を破損する恐れがあるので、手作業に頼らざるを得ず、作業効率が悪い。
【0007】
さらに、従来においては温水パイプを用いて培養土の加温を行っているが、温水パイプを用いる方法は効率が悪い。また、最も気温が下がる朝方などにおいては大きな負荷が温水暖房装置に加わるので、容量の大きな暖房装置を配置する必要があり、この点からも効率が悪い。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、排水路の詰まりを抑制できる廉価な構成の栽培容器を備えた高設栽培装置を提案することにある。
【0009】
また、本発明の課題は、手作業に頼らずに培養土の掘り返しなどの作業を行うことのできる栽培容器を備えた高設栽培装置を提案することにある。
【0010】
さらに、本発明の課題は、効率良く培養土の温度調整を行うことのできる高設栽培装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、支持台に栽培容器を乗せ、この栽培容器における上方に開口している凹部に培土を入れて栽培床が形成される高設栽培装置において、
前記栽培容器は長尺状の発泡プラスチック製の容器であり、
当該栽培容器の前記凹部の底面は、左右の垂直内側面と、これらの垂直内側面の下端縁から所定の角度で内側に延びる平坦傾斜面と、これらの平坦傾斜面の間において前記栽培容器の長さ方向に延びる所定深さの排水溝とを備えており、
前記栽培容器は、少なくとも前記凹部の内周面が防水シートによって覆われており、
前記排水溝の開口は、左右の前記平坦傾斜面の間に通水可能な状態で乗せた封鎖板によって封鎖されており、
前記排水溝の内部には、前記封鎖板が排水溝内に落下しないように支持している支持部材が配置されており、
前記防水シートおよび前記封鎖板を覆う状態に防根シートが配置されていることを特徴としている。
【0012】
本発明の高設栽培装置においては、その栽培容器の底面に排水溝が形成されており、ここを封鎖板で封鎖すると共に、排水溝内に配置した支持部材によって封鎖板が排水溝内に落下しないように支持している。網状パイプなどの排水管を用いる場合には、網状パイプの外周部分の網目が土などの異物で目詰まりしやすく、また、網状パイプの内部に目詰まりが生ずるなどの弊害がある。本発明によれば、封鎖板で封鎖されている排水溝の内部を、封鎖板を支持している支持部材の間を通って排水が行われる。従って網状パイプなどのパイプを用いる場合に比べて排水路の詰まりが発生しにくい。また、詰まりが発生した場合には、栽培容器の底に乗せてある封鎖板を外し、排水溝から支持部材を取り出せば良いので、簡単に排水路の詰まりを除去できる。
【0013】
特に、前記封鎖板および前記支持部材として、プラスチック製の段ボール素材(プラスチックダンボール、ダンボールプラスチック、あるいは、ダンプラ、プラダンと呼ばれているもの)からなる長尺状の板を用いる場合には、極めて廉価に排水路を構成することができる。
【0014】
また、本発明の栽培容器では、その培土を入れた凹部の底面が、僅かに水勾配を付けた平坦な底面、すなわち、左右の平坦傾斜面によって規定されている。したがって、小型の耕運機などの作業機械を用いて一定の深さで培土の掘り返し作業などを行うことが可能である。
【0015】
次に、本発明の高設栽培装置では、前記左右の平坦傾斜面には、これらの部分を覆っている前記防水シートの上から、加温用の左右一対の電熱線テープが当該平坦傾斜面の長さ方向に沿って配置されていることを特徴としている。温水パイプの代わりに電熱線テープを用いて温度調整を行うことにより、従来に比べて効率良く温度調整を行うことができる。また、料金の安い深夜電力などを利用して夜間に予熱しておくなどの温度制御方法を採用することにより、朝方に大きな負荷が発生することも簡単に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高設栽培装置においては、従来に比べて栽培容器の底に形成されている排水路に詰まりが発生しにくく、詰まりが発生した場合においても簡単に詰まりを除去できる。また、手作業に頼らずに培土の掘り返しなどを作業機械を用いて効率良く行うことができる。さらには、培地の温度制御を廉価に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した高設栽培装置の一例を示す説明図である。
【図2】図1のII−II線で切断した部分を示す部分横断面図である。
【図3】図1の栽培容器の断面形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したイチゴ栽培用の高設栽培装置の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係るイチゴ栽培用の高設栽培装置を示す説明図である。一般的には、イチゴ栽培用の温室内において多数列の高設栽培装置が配置される。高設栽培装置1は、一定幅で一定高さの長尺状のものであり、金属製のパイプ、アングル材などを組み立てて構成した長尺状の支持台2を備えている。支持台2の上にはイチゴ栽培ベッド3が配置されている。支持台2に多段、例えば上下二段にイチゴ栽培ベッド3を乗せることもできる。
【0020】
図2はイチゴ栽培ベッド3の構成を示す部分横断面図であり、図1におけるII−II線で切断した部分を示すものである。イチゴ栽培ベッド3は、発泡スチロール製などの発泡プラスチック製のイチゴ栽培容器4と、このイチゴ栽培容器4を左右の下側から支持している左右の桟木5、6とを備えている。桟木5、6は同一形状のものであり、左右対称な状態に配置されている。これらの桟木5、6も発泡スチロールなどのプラスチック製のものである。桟木5、6の底面には支持台2の長手方向に向けて水平かつ平行に延びる左右の容器支持パイプ7、8に乗せて位置決めするための半円形断面の溝5a、6aが形成されている。
【0021】
イチゴ栽培容器4は左右対称の横断面形状のものであり、上方に開口した凹部11を備えており、この凹部11の底面の中央にはその長手方向に延びる矩形断面の排水溝12が形成されている。
【0022】
図3はイチゴ栽培容器4の断面形状を示す説明図である。図2および図3を参照して説明すると、イチゴ栽培容器4は、一定厚さの左右の垂直側板部分13、14と、これらの下端から幅方向の内側に向けて下向きに一定の傾斜角度で延びている一定厚さの左右の傾斜底板部分15、16とを備えている。左右の垂直側板部分13、14の上端部の外側縁部分には左右に半円状に突出した縁部分13a、14aが形成されている。
【0023】
左右の傾斜底板部分15、16の内側の端部からは下方に垂直に延びる一定厚さの溝垂直側板部分17、18が形成されており、これらの下端の間には水平に延びる一定厚さ溝底板部分19が形成されている。これらの各部分によって、凹部11および排水溝12が形成されており、凹部11の左右の内側面は左右の垂直側面13b、14bによって規定されており、その底面は、左右の平坦傾斜面15a、16aによって規定されている。排水溝12の内周面は、左右の垂直側面17a、18aと、水平な底面19aによって規定されている。
【0024】
次に、イチゴ栽培容器4における凹部11の内周面(13b、14b、17a、18a、19a)、当該凹部11の左右の上面13c、14cおよび左右の外側の側面13d、14d、並びに、左右の桟木5、6の外側垂直面5b、6bを覆う状態に、防水シート20が配置されている。防水シート20の上には左右一対の電熱線テープ31、32が貼り付けられている。これらの電熱線テープ31、32は、左右の平坦傾斜面15a、16aを覆っている防水シート20の部分の上に位置しており、イチゴ栽培容器4の長さ方向に沿って配置されている。
【0025】
排水溝12の上端開口12aは、左右の平坦傾斜面15a、16aの間に乗せた長尺状の一定厚さ、一定幅の封鎖板21によって封鎖されている。排水溝12の内部には、封鎖板21が排水溝内に落下しないように支持している同一形状の2枚の支持板22、23が配置されている。本例では、左右の支持板22、23が三角形の左右の辺となるように左右対称の状態に配置されている。すなわち、それらの幅方向の一方の縁が排水溝12の左右の角に位置し、他方の縁が支持板22の裏面における幅方向の中央において相互に重なった状態で封鎖板21を支持している。封鎖板21および支持板22、23は、プラスチック製段ボール素材(プラスチックダンボール、ダンボールプラスチック、あるいは、ダンプラ、プラダンと呼ばれているもの)からなる長尺状の板である。
【0026】
また、防水シート20および封鎖板21を覆う状態に防根シート24が配置されている。すなわち、防根シート24は、封鎖板21の上、イチゴ栽培容器4の左右の平坦傾斜面15a、16a、左右の垂直側面13b、14bおよび上面13c、14cを包含する範囲に配置されている。そして、この上から、ロックファイバー微粒綿などの培土25が凹部11に充填されて栽培床が構成されており、ここに、イチゴの苗木26が植えられている。
【0027】
なお、栽培床の上には、液体肥料の供給管27が長手方向に延びており、栽培床の各部分に液体肥料が供給されるようになっている。
【0028】
本例の高設栽培装置1においては、その排水溝12がプラスチックダンボール素材からなる封鎖板21で封鎖され、排水溝12内に配置した同一素材からなる支持板22、23によって封鎖板21が支持されている。網状パイプなどの排水管を用いる場合には、網状パイプの外周部分の網目が土などの異物で目詰まりしやすく、また、網状パイプの内部に目詰まりが生ずるなどの弊害がある。本例によれば、このような弊害が発生することなく、極めて廉価に排水路を構築できる。
【0029】
また、培土25を入れた凹部11の底面が左右の平坦傾斜面15a、16aによって規定されている。よって、栽培容器4を破損することなく、小型の耕運機などの作業機械を用いて一定の深さで培養土の掘り返し作業などを行うことが可能である。
【0030】
さらに、電熱線テープ31、32を用いて培地の温度制御を行うようにしているので、従来に比べて効率良く温度制御を行うことができる。特に、料金の安い深夜電力などを利用して夜間に予熱しておくなどの温度制御方法を採用することにより、朝方に大きな負荷が発生することを防止できる。
【符号の説明】
【0031】
1 高設栽培装置
2 支持台
3 イチゴ栽培ベッド
4 イチゴ栽培容器
5,6 桟木
7,8 容器支持パイプ
11 凹部
12 排水溝
12a 開口
13,14 垂直側板部分
13a,14a 縁部分
13b,14b 垂直側面
13c,14c 上面
13d,14d 外面
15,16 傾斜底板部分
15a,16a 平坦傾斜面
17,18 溝垂直側板部分
17a,18a 垂直内側面
19 底板部分
19a 底面
20 防水シート
21 封鎖板
22,23 支持板
24 防根シート
25 培土
26 イチゴ苗木
27 供給管
31,32 電熱線テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台(2)に栽培容器(4)を乗せ、この栽培容器(4)における上方に開口している凹部(11)に培土(25)を入れて栽培床が形成される高設栽培装置(1)において、
前記栽培容器(4)は長尺状の発泡プラスチック製の容器であり、
当該栽培容器(4)の前記凹部(11)の底面は、左右の垂直内側面(13b、14b)と、これらの垂直内側面の下端縁から所定の角度で内側に延びる平坦傾斜面(15a、16a)と、これらの平坦傾斜面の間において前記栽培容器の長さ方向に延びる所定深さの排水溝(12)とを備えており、
前記栽培容器(4)は、少なくとも前記凹部(11)の内周面が防水シート(20)によって覆われており、
前記排水溝の開口(12a)は、左右の前記平坦傾斜面(15a、16a)の間に通水可能な状態で乗せた封鎖板(21)によって封鎖されており、
前記排水溝(12)の内部には、前記封鎖板(21)が排水溝内に落下しないように支持している支持部材(22,23)が配置されており、
前記防水シート(20)および前記封鎖板(21)を覆う状態に防根シート(24)が配置されていることを特徴とする高設栽培装置(1)。
【請求項2】
請求項1において、
前記封鎖板(21)および前記支持部材(22,23)は、プラスチック製の段ボール素材からなる長尺状の板であることを特徴とする高設栽培装置(1)。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記左右の平坦傾斜面(15a、16a)には、これらの部分を覆っている前記防水シート(20)の上から、加温用の左右一対の電熱線テープ(31、32)が当該平坦傾斜面の長さ方向に沿って配置されていることを特徴とする高設栽培装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−101629(P2011−101629A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258378(P2009−258378)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(503228192)農事組合法人 布引施設園芸組合 (7)
【Fターム(参考)】