説明

高誘電率薄膜エッチング剤組成物

【課題】高誘電率薄膜を用いた半導体装置、特にMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)の高集積化と高速化に不可欠な極薄ゲート絶縁膜層、ゲート電極を用いた半導体装置の製造工程に使用される高誘電率薄膜エッチング剤組成物を提供する。
【解決手段】シュウ酸、クエン酸、マロン酸およびコハク酸から選ばれる1種以上の有機酸または硫酸および/または塩酸である無機酸とフッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムおよびフッ化テトラメチルアンモニウムから選択される1種以上であるフッ素化合物からなる水溶液であるHfOおよび/またはHfSiONである高誘電率薄膜のエッチング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高誘電率薄膜を用いた半導体装置、特にMOSFET(Metal-
Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)の高集積化と高速化に不可欠な極薄ゲート絶縁膜層、ゲート電極を用いた半導体装置の製造工程に使用される高誘電率薄膜のエッチング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン酸化膜はプロセス上の安定性や優れた絶縁特性を有し、MOSFETのゲート絶縁膜材料として用いられている。近年の素子微細化と共にゲート絶縁膜の薄層化が進んでおり、ゲート長が100nm程度以下になるとスケーリング則の要請からゲート絶縁膜であるシリコン酸化膜の厚さは1.5nm以下であることが必要となっている。しかし、この様な極薄の絶縁膜を用いた場合、ゲートバイアス印加時に絶縁層を挿んでのトンネル電流がソース/ドレイン電流に対して無視できない値となり、MOSFETの高性能化と低消費電力化における大きな課題となっている。
【0003】
そこで、実効的なゲート絶縁膜を薄くし、かつトンネル電流をデバイス設計上の許容値内に抑える為の研究開発が進められている。その一つの方法は、シリコン酸化膜中に窒素を添加する事で純粋なシリコン酸化膜に比べて誘電率を増大させ、物理的な膜厚を薄層化する事なしに実効的なゲート絶縁層の膜厚を減少させる方法であるが、シリコン酸化膜への窒素添加による高誘電率化には限界があることが指摘されている。
【0004】
他の方法は、誘電率3.9であるシリコン酸化膜に代わって、誘電率10以上の薄膜材料、またはこれらの材料とシリコンとの複合材料であるシリケート薄膜をゲート絶縁膜に採用するという方法である。この様な高誘電率薄膜としては、Al、ZrO、HfOおよびYなどの希土類元素酸化物やランタノイド系元素の酸化物が候補材料として検討されている。これらの高誘電率膜を用いれば、ゲート長を微細にしてもスケーリング則に則ったゲート絶縁膜容量を保持しつつ、ゲート絶縁膜としてトンネル電流を防げる厚さにすることができる。
【0005】
しかしながら、これらの希土類元素酸化物、ランタノイド系元素酸化物を材料とした高誘電率薄膜を用いた半導体装置を製造する際、従来のガスを用いたドライエッチング方法のみでは微細な加工が困難であり、高誘電率薄膜のエッチングに適した薬液の開発が要望されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は高誘電率薄膜を用いた半導体装置、特にMOSFETの高集積化と高速化に不可欠な極薄ゲート絶縁膜層を用いた半導体装置の製造工程において、従来のガスを用いたドライエッチング方法のみでは困難な微細な加工が可能であり、且つ他の配線材料や基盤等への腐食性が少ない高誘電率薄膜エッチング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、有機酸又は無機酸のいずれかとフッ素化合物を含有する水溶液であるエッチング剤組成物が、高誘電率薄膜の微細な加工が可能でありかつ種々の配線材料や基盤に対して腐食性が少ない優れた特性が有ることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の高誘電率薄膜のエッチング剤組成物及び高誘電率薄膜のエッチング方法に関するものである。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
1.シリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfO膜を形成したウェハのエッチング剤であって、シュウ酸、クエン酸、マロン酸およびコハク酸から選ばれる少なくとも1種である有機酸とフッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムまたはフッ化テトラメチルアンモニウムから選択される1種以上であるフッ素化合物からなる水溶液で、有機酸濃度を0.01〜15質量%、フッ素化合物濃度を0.001〜10質量%である該高誘電率薄膜のエッチング剤組成物。
2.シリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfSiON膜を形成したウェハのエッチング剤であって、硫酸および/または塩酸である無機酸とフッ化テトラメチルアンモニウムからなる水溶液であって、無機酸濃度を0.01〜50質量%、フッ素化合物濃度を0.001〜10質量%である該高誘電率薄膜のエッチング剤組成物。
3.第1項または第2項記載のエッチング剤組成物を用いてシリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfO膜またはHfSiON膜を形成し、該高誘電率膜をエッチングする該高誘電率薄膜のエッチング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエッチング剤組成物を用いて高誘電率薄膜をエッチングすることにより、従来のガスを用いたエッチング方法のみでは困難である微細な加工が可能でありかつ種々の配線材料や基盤に対する腐食によるダメージを抑制する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ウェハサンプル
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に使用する有機酸は、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、プロピオン酸、酢酸、マレイン酸、グリコール酸、ジグリコール酸、酒石酸、イタコン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、アジピン酸、ギ酸、コハク酸、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、カルバミン酸、チオシアン酸、乳酸またはクエン酸が挙げられ、なかでもシュウ酸、マロン酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸とクエン酸が好ましい。
【0012】
無機酸としては硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、炭酸、スルファミン酸、硼酸が挙げられ、この中では硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸がより好ましい。
【0013】
本発明に用いられる上記有機酸、無機酸は、単独でも2種類以上組み合わせて用いてもよい。また本発明のエッチング剤組成物中の有機酸濃度は、含まれる水への溶解度によって適宜決定されるが、好ましくは0.01〜15質量%の範囲で使用される。0.01質量%よりも低い濃度では高誘電率薄膜のエッチング速度が遅くなり、15質量%以上では、エッチング剤組成物中での結晶の析出が生じる等好ましくない。
【0014】
無機酸の濃度は、含まれる水への溶解度によって適宜決定されるが、好ましくは0.01〜50質量%の範囲で使用される。0.01質量%よりも低い濃度では、高誘電率薄膜のエッチング速度が遅くなり、50質量%以上では、エッチング対象となる高誘電率薄膜以外に共存する、本来エッチングによるダメージを与えたくない材質に対してもエッチングを行う等好ましくない。
【0015】
本発明に使用するフッ素化合物は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化モノエタノールアミン、メチルアミンフッ化水素塩、エチルアミンフッ化水素塩、プロピルアミンフッ化水素塩等の有機アミンフッ化物、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化トリエチルメチルアンモニウム、フッ化トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、フッ化テトラエタノールアンモニウム、フッ化メチルトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。なかでも好ましいフッ素化合物は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムまたはフッ化テトラメチルアンモニウムであり、さらに好ましくはフッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウムである。
【0016】
本発明に用いられる上記フッ素化合物は、単独でも2種類以上組み合わせて用いてもよい。フッ素化合物の濃度は0.001〜10質量%の範囲で使用されるが、0.001質量%以下では高誘電率薄膜のエッチング速度が遅くなり、10質量%以上では配線材料や基盤に腐食を生じ得策ではない。
【0017】
本発明のエッチング剤組成物には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で従来から使用されている添加剤を配合してもよい。また、エッチング剤組成物の濡れ性を向上させるために界面活性剤を添加してもよく、例えばカチオン系、ノニオン系、アニオン系の何れの界面活性剤も使用できる。本発明のエッチング剤組成物のpHは特に制限はなく、通常、pH1〜12の範囲で使用されるが、エッチング条件、使用される半導体基体の種類等により選択すればよい。アルカリ性で使用する場合は、例えばアンモニア、アミン、テトラメチルアンモニウム水酸化物等の第四級アンモニウム水酸化物等を添加すればよく、酸性で使用する場合は、有機酸、無機酸等を添加すればよい。
【0018】
本発明の使用温度は常温から90℃の温度範囲であるが、エッチング対象となる高誘電率薄膜材料の種類や必要なエッチング量により、使用時間とともに適宜決定される。
【0019】
本発明の高誘電率薄膜の材料は、ZrO、Ta、Nb、Al、HfO、HfSiON、TiO、ScO、Y、La、CeO、PR、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも一種を含んでいればよく、より好ましくはZrO、Ta、Al、HfOから選ばれる。また、これらの材料に珪素が含んだシリケート材料、窒素を含んだナイトライド材料であっても適用できる。さらに上記材料中2つの材料が混合されていても、積層状態であっても適用できる。
【実施例】
【0020】
実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
【0021】
実施例1
シリコンウエハー基板上にSiO膜、さらにHfO膜を形成したウェハサンプル(図1)を用いHfOのエッチング量を測定した。図1に示す基板上のHfO膜厚を光学式膜厚計により測定し初期膜厚とした。表1に示した組成のエッチング剤組成物並びに処理条件にて処理を行って、HfO膜のエッチング量測定を行った。その結果、HfO膜のエッチング量は118Åであった。一方、シリコンウェハー基板上にSiO膜のみを形成したウェハサンプルを用い上記と同様の方法にてSiO膜のエッチング量を算出した結果、SiO膜のエッチング量は72.5Åであった。従って、HfO膜/SiO膜のエッチング量比は、1.6であった。
【0022】
実施例2〜4、比較例1〜3
実施例1で使用したウェハサンプルと同様のウェハサンプルを用いて、表1に示した組成のエッチング剤組成物、処理条件にて処理を行いHfO2膜、SiO膜のエッチング量測定を行った。結果を表1に示す。
【0023】
比較例4
実施例1と同一の基板で初期膜厚を測定した基盤を用いて、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド20質量%、残部が水である組成物を使用して、70℃、30分間浸漬を行った。水でリンス後、乾燥し光学式膜厚計にて処理後膜厚の測定を試みたが、基板表面に斑が生じており処理後膜厚の測定はできなかった。
【0024】
実施例5〜6、比較例5〜8
実施例1で使用した基板と同様な構造でHfO層がHfSiON層になったサンプルを用い、表2に示した組成のエッチング剤組成物で処理を行って、HfSiON膜、SiO膜のエッチング量測定を行った。結果を表2に示す。
【0025】
表1および表2において、本発明のエッチング剤組成物を適用することにより、HfOまたはHfSiONに対するエッチング量と、SiOに対するエッチング量を比較すると、実施例1〜8ではHfOまたはHfSiONに対するエッチング量の方が、SiOに対するエッチング量よりも大きいことがわかる。
【0026】
このように、本発明のエッチング剤組成物を用いて高誘電率薄膜をエッチングすれば、HfO、HfSiON、などの遷移金属酸化物に対するエッチングをより効果的に行うことができる。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfO膜を形成したウェハのエッチング剤であって、シュウ酸、クエン酸、マロン酸およびコハク酸から選ばれる少なくとも1種である有機酸とフッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムまたはフッ化テトラメチルアンモニウムから選択される1種以上であるフッ素化合物からなる水溶液で、有機酸濃度を0.01〜15質量%、フッ素化合物濃度を0.001〜10質量%である該高誘電率薄膜のエッチング剤組成物。
【請求項2】
シリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfSiON膜を形成したウェハのエッチング剤であって、硫酸および/または塩酸である無機酸とフッ化テトラメチルアンモニウムからなる水溶液であって、無機酸濃度を0.01〜50質量%、フッ素化合物濃度を0.001〜10質量%である該高誘電率薄膜のエッチング剤組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のエッチング剤組成物を用いてシリコンウエハー基板上にSiO膜、さらに高誘電率薄膜であるHfO膜またはHfSiON膜を形成し、該高誘電率膜をエッチングする該高誘電率薄膜のエッチング方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−200506(P2009−200506A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96816(P2009−96816)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【分割の表示】特願2004−92794(P2004−92794)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】