説明

高負荷ディーゼルエンジン用低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物用の耐摩耗性添加剤組成物

【課題】良好な耐摩耗性能をもたらす低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、下記の成分を含む低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物に関する:(a)主要量の潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。また、本発明は、下記の成分を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物にも関する:(a)潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物に関する:(a)主要量の潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。また、本発明は、下記の成分を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物にも関する:(a)潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械、発電機に搭載される高負荷(ヘビーデューティ)ディーゼル内燃機関は一般に、軽油または重油(硫黄分がおよそ0.05質量%かそれ以上の燃料である)を用いて運転される。大半のディーゼルエンジン用潤滑油は、硫黄分がおよそ0.3乃至0.7質量%、硫酸灰分がおよそ1.3乃至2.0質量%、およびリン分がおよそ0.1乃至0.13質量%である。
【0003】
大気汚染を軽減するために、車両製造業者および石油会社は、高負荷ディーゼルエンジン用の排出ガスが少なくて燃料経済性の良い潤滑油装置を開発することに関心がある。ディーゼルエンジンからの排出ガスが引き起こす環境汚染には、微粒子および炭素酸化物や硫黄酸化物、窒素酸化物が含まれている。ディーゼルエンジン製造業者は、環境問題を取り除くために、微粒子除去装置、酸化触媒および還元触媒を含む排ガス後処理装置を備えたディーゼルエンジンを搭載し始めている。
【0004】
燃料も、ディーゼルエンジンを潤滑にするために使用される潤滑油も共に、ディーゼルエンジンからの排出ガスに見られる微粒子と酸化物を与えている。ジアルキルジチオリン酸亜鉛のような従来使用されている耐摩耗性添加剤および酸化防止剤は、酸化触媒の活性度を低下させるのに寄与している。従って、リン含有量の削減が、排ガス後処理装置に使用されている触媒の失活を軽減することになる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の亜鉛も硫酸灰分を与える可能性があり、それが微粒子除去装置を目詰りさせる可能性がある。従って、酸化触媒を劣化から保護し、微粒子除去装置の目詰りを防ぐために、潤滑油のリン分と亜鉛含量を減らす必要がある。
【0005】
別の重要な関心事は、潤滑油中のアルカリ及びアルカリ土類金属清浄剤に由来する硫酸灰分にある。ディーゼルエンジン内の不燃焼性灰堆積物は、ディーゼルエンジン排ガス微粒子除去装置の溝に捕集されることになる。ディーゼルエンジンに使用されている従来の潤滑油は硫黄分も多く、添加剤成分と基油に由来している。ディーゼル燃料中の硫黄は硫酸および硫酸塩に変換され、それらは排ガス清浄装置に移動し、微粒子となって、微粒子除去装置を搭載した高負荷ディーゼルエンジン車の除去装置を目詰りさせる。硫酸は、微粒子を湿潤させ、それによりその質量を増やすことで間接的にも微粒子除去装置の目詰りに寄与しうる。硫酸および硫酸塩はまた排ガス清浄装置内の酸化触媒にも害を与え、そのことも排出ガス要求条件を満たすのに不合格となる結果を招いている。よって、これらの微粒子捕集装置や酸化触媒が継続して機能するためには、従来のディーゼルエンジン潤滑油に比べて潤滑油の硫黄分と硫酸灰分を相当程度で低減することが不可欠である。
【0006】
多数の特許及び特許出願に、粒子状排出物の低減方法および低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物のことが記述されているが、マンニッヒ縮合物からなり、清浄性も与える耐摩耗性添加剤組成物を含む、低排出ガスディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物については全く開示されていない。
【0007】
特許文献1には、二酸化炭素と反応させたマンニッヒ塩基と混合した硫化アルキルフェノールを、アルカリ土類金属酸化物又は水酸化物で中和することにより得られた低硫酸灰分で低粘度の反応生成物を含む潤滑油組成物が開示されている。
【0008】
特許文献2には、主要部の鉱油系潤滑油、および内燃機関の軸受重量損失を低減しながら同時に低灰分とさび防止性を保持する、少量のトリアルカノールアミンと二炭化水素ジチオリン酸亜鉛の過塩基性アルカリ土類金属化合物を含む潤滑油組成物が開示されている。
【0009】
特許文献3には、相乗作用量のジアルキルジフェニルアミン酸化防止剤と硫化ポリオレフィンの添加の結果として、酸化安定性が改善された低灰分、低リンモーター油が開示されている。二つの添加剤間の相乗作用は、油がSE級品質を保持するぐらいジチオリン酸亜鉛の形でのリンの減量を補っている。
【0010】
特許文献4には、基油、少なくとも約2質量%の窒素又はエステル含有無灰分散剤、油溶性酸化防止物質、および油溶性の二炭化水素ジチオリン酸エステル耐摩耗性物質を含み、全硫酸灰分レベルが0.01乃至0.6質量%で、全硫酸灰分と分散剤との質量比が0.01:1乃至0.2:2の範囲にある低硫酸灰分潤滑油組成物が開示されている。
【0011】
特許文献5には、下記の成分を含む潤滑油組成物及び濃縮物が開示されている:カルボン酸の過塩基性アルカリ金属塩、および金属比が少なくとも3の酸性化合物の過塩基性マグネシウム塩。ただし、潤滑油組成物が金属比が3より大きい酸性化合物の過塩基性カルシウム塩を含まないか、あるいは潤滑油組成物が金属比が3より大きい過塩基性マグネシウム塩を含まないとの条件が付く。
【0012】
特許文献6には、高温剪断粘度が2.1から2.9mPas以下の内燃機関用潤滑油組成物であって、(1)ジアルキルジチオリン酸亜鉛、(2)カルシウムアルキルサリチレートおよびカルシウムアルキル及びマグネシウムアルキルサリチレートの混合物から選ばれた金属系清浄剤、および任意に(3)摩擦緩和剤を含む潤滑基油が開示されている。この潤滑油組成物は、厳しい潤滑条件下にある可動部分のスカッフィングや耐摩耗性の問題を克服する。
【0013】
特許文献7には、潤滑油基材、および過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、フェノラート及びサリチレートの中から選ばれる一種以上の金属系清浄分散剤を含むディーゼルエンジン油組成物が開示されている。この組成物の全リン分は百万分の100質量部かそれ以下に抑えられ、それにより酸化安定性および耐摩耗性を示すディーゼルエンジン油組成物となっている。
【0014】
特許文献8には、約40%乃至60%のアルキルフェノール、10%乃至40%のアルカリ土類アルキルフェノールおよび20%乃至40%のアルカリ土類単芳香環アルキルサリチレートを有する、未硫化無アルカリ金属清浄分散剤組成物が開示されている。この組成物は、単環アルキルサリチレートと二芳香環アルキルサリチレートとのモル比が少なくとも8:1である限り、アルカリ土類二芳香環サリチレートを有していてもよい。
【0015】
特許文献9には、TBNが少なくとも10で、好ましくはVIが少なくとも90である船用ディーゼル潤滑剤組成物であって、主要量の潤滑粘度の油、およびそれと混合して少量の無灰耐摩耗性添加剤と金属清浄剤を、(i)TBNが少なくとも300、より好ましくは少なくとも400で、少なくとも二種の界面活性剤に由来する界面活性剤系からなる過塩基性金属清浄剤、および/または(ii)(i)以外の金属清浄剤の形で含む潤滑剤組成物(ただし、清浄剤(ii)が存在するならば組成物は、組成物の全質量に基づき5.0質量%までの少量の極圧添加剤を含まないとの条件が付いている)が開示されている。
【0016】
特許文献10及び特許文献11には、(a)総動粘度が100℃で少なくとも約4.8×10-62/s(4.8cSt)で粘度指数が少なくとも110である合成基油組成物、(b)分散型粘度調整剤、および(c)無硫黄官能化炭化水素置換フェノール清浄剤を含む潤滑剤が、高負荷ディーゼルエンジンに長いドレン間隔と共にバルブ・トレーン摩耗の改善をもたらすことが開示されている。
【0017】
特許文献12には、多量の二酸化硫黄を排出するディーゼルエンジンに好適に使用される潤滑油組成物が開示されている。組成物は二酸化硫黄に対して腐食/摩耗防止性を発揮する。潤滑油組成物は、潤滑基油、過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、過塩基性アルカリ土類金属のフェネートおよび過塩基性アルカリ土類金属のサリチレートからなる群より選ばれた化合物である成分(A)、およびビス型コハク酸イミド化合物である成分(B)を含んでいる。
【0018】
特許文献13には、特に百万分の350部以下の硫黄を有する燃料と併用できる内燃機関用潤滑油が、潤滑油基材油、ホウ素含有無灰分散剤、モリブデン含有減摩剤、金属型清浄剤およびジチオリン酸亜鉛を含むことが開示されている。
【0019】
特許文献14には、有機酸の金属塩からなる一種以上の金属清浄剤を含む清浄剤組成物であって、清浄剤組成物中の有機酸の金属塩のモル量に基づき50モル%以上の:(I)芳香族カルボン酸の金属塩、または(II)フェノールの金属塩、または(III)芳香族カルボン酸の金属塩とフェノールの金属塩の両方を含み、そして油組成物中のリン量と硫黄量がそれぞれ、油組成物の質量に基づき0.09質量%以下と最大で0.5質量%である清浄剤組成物を、潤滑油組成物の耐酸化性を改善するために少量で潤滑油組成物に使用することが開示されている。50モル%以上の芳香族カルボン酸の金属塩を含む清浄剤組成物が、エンジン内の摩耗の低減を改善することも判明している。
【0020】
特許文献15及び特許文献16には、下記の成分を含む潤滑油組成物が開示されている:(A)潤滑粘度の油を主要量、およびそれに添加して:(B)有機酸の金属塩からなる一種以上の金属清浄剤を含む清浄剤組成物であって、清浄剤組成物中の有機酸の金属塩のモル量に基づき50モル%以上の芳香族カルボン酸の金属塩を含む清浄剤組成物を少量、および(C)一種以上の補助添加剤を少量;ただし、(B)または(C)または(B)と(C)両方に由来する全リン量と全硫黄量は、油組成物の質量に基づきリンが0.1質量%以下で、硫黄が最大で0.5質量%である。この50モル%以上の芳香族カルボン酸の金属塩を含む清浄剤組成物が、エンジン内の摩耗の低減を改善することが判明している。
【0021】
特許文献17には、低硫黄分燃料油と組み合わせて使用できる潤滑油組成物が好ましくは、硫黄分が最大で0.2質量%の基油、アルケニル又はアルキルコハク酸イミド又はその誘導体からなる無灰分散剤、有機酸金属塩を含む金属含有清浄剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルアリールジチオリン酸亜鉛、並びにフェノール化合物、アミン化合物およびモリブデン含有化合物からなる群より選ばれた酸化防止剤からなり、かつジアルキルジチオリン酸亜鉛のリン分とジアルキルアリールジチオリン酸亜鉛のリン分との比が20:1乃至2:1の範囲にあることが開示されている。
【0022】
特許文献18には、低硫黄分の潤滑油を低硫黄燃料と組み合わせて使用し、微粒子捕集装置を備えたディーゼルエンジンの粒子状排出物を低減することが開示されている。
【0023】
【特許文献1】加国特許第810120号明細書
【特許文献2】米国特許第4089791号明細書
【特許文献3】米国特許第4330420号明細書
【特許文献4】米国特許第5102566号明細書
【特許文献5】米国特許第5490945号明細書
【特許文献6】米国特許第6114288号明細書
【特許文献7】米国特許第6159911号明細書
【特許文献8】米国特許第6162770号明細書
【特許文献9】米国特許第6277794号明細書
【特許文献10】米国特許第6331510号明細書
【特許文献11】米国特許第6610637号明細書
【特許文献12】米国特許第6376434号明細書
【特許文献13】米国特許第6730638号明細書
【特許文献14】米国特許第6784143号明細書
【特許文献15】欧州特許出願第01201752.1号(公開第EP1256619A1号)明細書、2005年3月5日にそのまま取り下げられた模様
【特許文献16】米国特許出願第10/142513号(公開第US2003/0096716A1号)明細書
【特許文献17】米国特許出願第10/430594号(公開第US2003/0216266A1号)明細書
【特許文献18】国際公開第WO2004/046283A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物、および低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物に関する:(a)主要量の潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。また、本発明は、下記の成分を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物にも関する:(a)潤滑粘度の油、および(b)潤滑油の全質量に基づき少なくとも2質量%のマンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
なお、本発明の潤滑油組成物は、ガソリンエンジンの潤滑油として用いることもできる。
【0026】
本発明の耐摩耗性添加剤組成物に用いられるマンニッヒ縮合物は、驚くべきことに、良好な清浄性を維持しながら同時に耐摩耗性能を示す。
【0027】
つまり、本発明は、下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物に関する:
(a)主要量の潤滑粘度の油、および
(b)潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
【0028】
本発明の潤滑油組成物において、マンニッヒ縮合物の濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約2質量%乃至約12質量%であることが好ましい。より好ましくは、マンニッヒ縮合物の濃度は潤滑油組成物の全質量に基づき約3質量%乃至約9質量%であり、最も好ましくは、マンニッヒ縮合物の濃度は潤滑油組成物の全質量に基づき約4質量%乃至約7質量%である。
【0029】
本発明の潤滑油の耐摩耗性添加剤組成物におけるマンニッヒ縮合物(b)は、ホルムアルデヒドまたは炭素原子数1〜炭素原子数約10のアルデヒドと、アンモニア、低級アルキルアミン、ポリアミンおよびそれらの混合物から選ばれた窒素塩基と、アルキルフェノールとから製造される。
【0030】
耐摩耗性添加剤組成物(b)のマンニッヒ縮合物を製造するのに用いられるアルキルフェノールのアルキル基は、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、マンニッヒ縮合物を製造するのに用いられるアルキルフェノールのアルキル基は分枝鎖アルキル基である。
【0031】
耐摩耗性添加剤組成物(b)のマンニッヒ縮合物を製造するのに用いられるアルキルフェノールの分枝鎖アルキル基は、炭素原子数約4〜炭素原子数約60であることが好ましい。より好ましくは、アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子数約6〜炭素原子数約40である。最も好ましくは、アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約20である。
【0032】
マンニッヒ縮合物の製造に使用できるアルデヒドは、炭素原子数1〜炭素原子数約10のアルデヒドである。好ましくは、アルデヒドはホルムアルデヒドであり、より好ましくはパラホルムアルデヒドである。
【0033】
窒素塩基は、アンモニア、アルキル基の炭素原子数が1〜約10の低級アルキルアミン、アミン窒素原子数2〜約12で炭素原子数2〜約40のポリアミンから選ばれる。
【0034】
マンニッヒ縮合物の製造のための窒素塩基化合物は、アルキル基の炭素原子数が1〜約10の低級アルキルアミンであることが好ましい。低級アルキルアミンは、アルキルモノ−アミン、例えばモノ−メチルアミン、モノ−エチルアミン、モノ−プロピルアミン、モノ−ブチルアミンおよびモノ−ペンチルアミンである。より好ましくは、アルキルモノ−アミンはモノ−メチルアミンである。
【0035】
マンニッヒ縮合物の製造に使用できるポリアミンとしては、モノ−アルキレンポリアミン、およびポリアルキレンポリアミンが挙げられる。
【0036】
本発明の潤滑油組成物の好ましい態様では、耐摩耗性添加剤組成物(b)のマンニッヒ縮合物は、アルキルフェノールと、ただし、アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約20の分枝鎖アルキル基である、パラホルムアルデヒドとモノ−メチルアミンとから製造される。
【0037】
マンニッヒ縮合物の金属塩の金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であってよい。好ましくは金属はアルカリ土類金属であり、より好ましくはアルカリ土類金属はカルシウムである。
【0038】
本発明の潤滑油組成物の硫黄分は、潤滑油の全質量に基づき0.0質量%乃至約0.4質量%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物の硫黄分は、潤滑油の全質量に基づき、0.05質量%乃至約0.3質量%の範囲にある。最も好ましくは、本発明の潤滑油組成物の硫黄分は、潤滑油の全質量に基づき0.1質量%乃至約0.2質量%の範囲にある。
【0039】
本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分は、潤滑油の全質量に基づき0.2質量%乃至約4.0質量%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分は、潤滑油の全質量に基づき0.3質量%乃至約2.0質量%の範囲にある。最も好ましくは、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分は、潤滑油の全質量に基づき0.5質量%乃至約1.2質量%の範囲にある。
【0040】
本発明の潤滑油組成物のリン分は、潤滑油の全質量に基づき0.005質量%乃至約0.06質量%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物のリン分は、潤滑油の全質量に基づき0.015質量%乃至約0.05質量%の範囲にある。最も好ましくは、本発明の潤滑油組成物のリン分は、潤滑油の全質量に基づき0.03質量%乃至約0.04質量%の範囲にある。
【0041】
上記の潤滑油組成物は更に、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、耐摩耗性添加剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤および消泡剤から選ばれた一種以上の潤滑油添加剤を含む。
【0042】
上記の潤滑油組成物は更に、一種以上の分散剤を含んでいることが好ましい。より好ましくは、分散剤は無灰分散剤であり、最も好ましい無灰分散剤は無水コハク酸の誘導体である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物はまた、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体およびポリイソプレンなどの粘度指数向上剤も含んでいてもよい。
【0044】
本発明の潤滑油に使用することが考えられる腐食防止剤および酸化防止剤は、金属ジアルキルジチオリン酸塩およびジフェニルアミンの誘導体である。
【0045】
金属ジアルキルジチオリン酸塩はまた、摩耗を抑制するために本発明の潤滑油組成物に含まれていてもよい。しかし、その金属は潤滑油に硫酸灰分を与え、リンは排ガス酸化触媒に有害であるため、これら添加剤の量を抑えることが有利であると言える。金属ジアルキルジチオリン酸塩の例としては、ジアルキルジチオリン酸の亜鉛塩及びモリブデン塩がある。
【0046】
一般に摩擦緩和剤は、潤滑油組成物に適正な摩擦特性を付与するために使用される。使用できる摩擦緩和剤は、脂肪酸エステル及びアミド、およびモリブデン化合物、例えばアミン−モリブデン錯化合物およびモリブデンジチオカルバメートである。しかし、モリブデンジチオカルバメートの添加が、潤滑油組成物に硫黄を更に与えて排ガス系に硫酸灰分を与えることになるため、この点の注意が必要である。
【0047】
流動点降下剤は、液体が流動したりあるいは液体を注入できる温度を下げるものである。潤滑油の低温流動性を最適化する添加剤は、ポリメタクリレートなど種々の共重合体である。
【0048】
使用できる消泡剤は、ポリシロキサン型のものである。
【0049】
下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物:
(a)潤滑油濃縮物の全質量に基づき約10質量%乃至約90質量%の潤滑粘度の油、および
(b)潤滑油濃縮物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
【0050】
低排出ガス高負荷ディーゼルエンジンを潤滑にする方法であって、下記の成分を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物を用いて潤滑にすることからなる方法:
(a)主要量の潤滑粘度の油、および
(b)潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
【発明の効果】
【0051】
本発明社の研究により、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物が、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジンに使用したときに、良好な摩耗抑制をもたらすことが見出された。従来の潤滑油組成物では摩耗抑制は、ジアルキルジチオリン酸の金属塩、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加によって達成されているが、しかし、これら耐摩耗性添加剤中の金属は潤滑油の硫酸灰分の増加に寄与し、またリンは排ガス後処理装置に使用されている酸化触媒の失活を引き起こす。本発明の潤滑油組成物に用いられる耐摩耗性添加剤組成物は、硫黄および硫酸灰分の増加に寄与することなく良好な摩耗抑制をもたらし、またリンを何等含まないので酸化触媒を失活させることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
[定義]
以下の用語は、本明細書で使用するとき、特に断わらない限りは下記の意味を有する:
【0053】
「アルカリ金属」は、本明細書で使用するとき、周期表I族金属を意味し、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウムである。
【0054】
「アルカリ土類金属」は、本明細書で使用するとき、周期表II族金属を意味し、例えばカルシウムおよびマグネシウムである。
【0055】
「清浄剤」は、本明細書で使用するとき、酸中和化合物を油中で溶液状態で保持するように設計された添加剤を意味する。清浄剤は通常アルカリ性であり、燃料の燃焼過程で生成して阻止されないままであるとエンジン部分に腐食を起こすような強酸(硫酸や硝酸)と反応する。本発明に使用するのに適した清浄剤は、アルキルスルホネート、アルキルフェネートおよびマンニッヒ塩基縮合物である。多数の清浄剤が市販されていて容易に入手できる。
【0056】
「分散剤」は、本明細書で使用するとき、ススおよび燃焼生成物を油充填されたエンジン本体内で懸濁状態に保ち、それによりスラッジやラッカーとして堆積するのを防ぐ添加剤を意味する。一般に無灰分散剤は、アルケニルコハク酸無水物とアミンの反応によって生成する窒素含有分散剤である。そのような分散剤の例としては、アルケニルコハク酸イミド及びコハク酸アミドがある。これらの分散剤は、例えばホウ素またはエチレンカーボネートとの反応により更に変性させることができる。また、長鎖炭化水素置換カルボン酸とヒドロキシ化合物とから誘導されたエステル系無灰分散剤を用いることもできる。好ましい無灰分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物から誘導されたものである。ポリメタクリレート、アルキルメタクリレートスチレン共重合体、ポリアルキルメタクリレートおよびオレフィン共重合体などの分散型粘度調整剤によっても分散性を制御することができる。多数の分散剤が市販されている。
【0057】
「過塩基性」は、本明細書で使用するとき、アルカリ土類金属アルキルフェノール、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートであって、有機部の当量数に対するアルカリ土類金属の当量数の比が1より大きいものを意味する。低過塩基性は、全塩基価(TBN)が1より大きく20以下のアルカリ土類金属アルキルフェノール、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味し、中過塩基性は、TBNが20より大きく200以下のアルカリ土類金属アルキルフェノール、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味する。高過塩基性は、TBNが200より大きいアルカリ土類金属アルキルフェノール、アルキルサリチレート及びアルキルスルホネートを意味する。
【0058】
「硫酸灰分」は、本明細書で使用するとき、潤滑油中の清浄剤と金属系添加剤から生じた不燃焼性残留物を意味する。ASTM試験D874を使用して硫酸灰分を決定している。
【0059】
「全塩基価」又は「TBN」は、本明細書で使用するとき、試料1グラムにおけるKOHのミリグラムと等価な塩基の量を意味する。よって、TBN値が高いほど生成物のアルカリ性が強く、従ってアルカリ度が大きいことを反映している。ASTMD2896試験を使用してTBNを決定している。
【0060】
特に明記しない限り、パーセントは全て質量%である。
【0061】
[潤滑油組成物]
マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物が、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジンに使用したときに、良好な摩耗抑制をもたらすことを発見した。従来の潤滑油組成物では摩耗抑制は、ジアルキルジチオリン酸の金属塩、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加によって達成されているが、しかし、これら耐摩耗性添加剤中の金属は潤滑油の硫酸灰分の増加に寄与し、またリンは排ガス後処理装置に使用されている酸化触媒の失活を引き起こす。本発明の潤滑油組成物に用いられる耐摩耗性添加剤組成物は、硫黄と硫酸灰分の増加に寄与することなく良好な摩耗抑制をもたらし、また何等リンを含まないので酸化触媒を失活させることもない。
【0062】
本発明の潤滑油組成物は、以下に詳しく記載する化合物を単にブレンドまたは混合することにより製造することができる。また、所望の濃度の添加剤を含む潤滑油組成物のブレンドを容易にするために、これらの化合物を他の種々の添加剤と一緒に適当な比率で、濃縮物またはパッケージとして予備ブレンドすることもできる。
【0063】
(潤滑粘度の油)
潤滑粘度の油または基油は、本明細書で使用するとき、潤滑油を意味し、鉱油であっても潤滑粘度の合成油であってもよいが、好ましくは内燃機関のクランクケースに使用できるものである。クランクケース潤滑油の粘度は通常、−17.8℃で約1300センチストークス乃至98.9℃で22.7センチストークスである。潤滑油は合成原料からでも天然原料からでも誘導することができる。本発明に基油として使用される鉱油としては、パラフィン系、ナフテン系、および通常潤滑油組成物に使用されるその他の油を挙げることができる。合成油としては、炭化水素合成油および合成エステルが挙げられる。使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。特に有用なものはC6−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー、例えば1−デセン三量体である。同様に、適正な粘度のアルキルベンゼン、例えばジドデシルベンゼンを使用してもよい。使用できる合成エステルとしては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸とモノヒドロキシアルカノール及びポリオールとのエステルが挙げられる。代表的な例としては、ジドデシルアジペート、ペンタエリトリトールテトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、およびジラウリルセバケート等がある。モノ及びジカルボン酸とモノ及びジヒドロキシアルカノールとの混合物から合成された複合エステルも使用することができる。炭化水素油と合成油のブレンドを使用してもよい。例えば、10質量%乃至25質量%の水素化1−デセン三量体と75質量%乃至90質量%の37.8℃で683センチストークスの鉱油とのブレンドは、優れた潤滑油基材となる。また、フィッシャー・トロプシュ法から誘導された基油を本発明の潤滑油組成物に用いてもよい。
【0064】
さらに、本発明の潤滑油組成物を製造するのに用いられる潤滑粘度の油が低硫黄基油であることが好ましい。低硫黄基油の使用は、硫黄分が極端に少ない潤滑油組成物を得るのに役に立つ。基油の硫黄分は当該分野の熟練者にはよく知られていて、本発明のために低硫黄基油を適宜選択することができる。
【0065】
[耐摩耗性添加剤]
(マンニッヒ縮合物の金属塩)
マンニッヒ縮合物は、アルキルフェノールと、アルデヒドと、アンモニア、低級アルキルアミン、ポリアミンおよびそれらの混合物から選ばれる窒素塩基化合物とを用いて製造することができる。
【0066】
耐摩耗性添加剤組成物(b)のマンニッヒ縮合物を製造するのに用いられるアルキルフェノールのアルキル基は、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。好ましくは、マンニッヒ縮合物を製造するのに用いられるアルキルフェノールのアルキル基は、分枝鎖アルキル基である。
【0067】
マンニッヒ縮合物の製造に使用されるアルキルフェノールのアルキル基は、炭素原子約4個〜炭素原子約60個を含む分枝鎖アルキル基であってもよいし、あるいは、炭素原子約6個〜炭素原子約60個を含む直鎖アルキル基であってもよい。好ましくは、アルキルフェノールのアルキル基は、炭素原子約8個〜炭素原子約20個を含む分枝鎖アルキル基である。アルキル基は、アルキルフェノール部にヒドロキシル基に対してオルト位またはパラ位で結合していることが好ましい。
【0068】
より好ましくは、アルキル基のオルト位とパラ位での結合の比は全アルキルフェノールに基づき20:80であり、最も好ましくは、アルキル基のオルト位とパラ位での結合の比は全アルキルフェノールに基づき5:95である。
【0069】
マンニッヒ縮合物の製造に使用できるアルデヒドは、炭素原子数1〜炭素原子数約10のアルデヒドである。好ましくは、アルデヒドはホルムアルデヒドであり、より好ましくはパラホルムアルデヒドである。
【0070】
窒素塩基化合物は、アンモニア、アルキル基が炭素原子数1〜炭素原子数約10である低級アルキルアミン、アミン窒素原子数2〜約12で炭素原子数2〜約40のポリアミンから選ばれる。
【0071】
好ましくは、マンニッヒ縮合物の製造のための窒素塩基化合物は、アルキル基が炭素原子数1〜炭素原子数約10である低級アルキルアミンである。低級アルキルアミンはアルキルモノ−アミンであり、例えばモノ−メチルアミン、モノ−エチルアミン、モノ−プロピルアミン、モノ−ブチルアミン、およびモノ−ペンチルアミンがある。より好ましくは、アルキルモノ−アミンはモノ−メチルアミンである。
【0072】
本発明の耐摩耗性添加剤組成物に用いられるマンニッヒ縮合物の製造に使用できるポリアミンとしては、モノ−アルキレンポリアミン、およびポリアルキレンポリアミンが挙げられる。モノ−アルキレンポリアミンの例としては、エチレンジ−アミン、エチレントリ−アミンおよびエチレンテトラ−アミン、プロピレンジ−アミン、およびプロピレントリ−アミンを挙げることができる。ポリアルキレンポリアミンの例としては、ジ−エチレンジ−アミン、ジ−(トリ−メチレン)トリ−アミン、ジ−プロピレントリ−アミン、およびトリ−エチレンテトラ−アミンを挙げることができる。
【0073】
本発明の潤滑油組成物に用いられるマンニッヒ縮合物の金属塩は、当該分野の熟練者には知られている任意の方法で製造することができる。一般的には、アルキルフェノール、ホルムアルデヒドおよびモノ−アルキルアミンを、金属水酸化物と希釈剤の存在下で反応させることによりマンニッヒ縮合物を製造する。
【0074】
マンニッヒ縮合物の製造は当該分野の熟練者にはよく知られている。アルキルフェノール、アルデヒドおよびアミンを用いて、当該分野の熟練者には知られている任意の方法によりマンニッヒ縮合物を製造することができる。例えば、米国特許第5370805号明細書に記載されているようにして、マンニッヒ縮合物を製造することができる。
【0075】
マンニッヒ縮合物の金属塩は、金属酸化物、金属水酸化物または金属アルコキシドを用いて、任意のよく知られた方法により製造することができる。金属は、アルカリ金属であってもアルカリ土類金属であってもよい。好ましくは、金属はアルカリ土類金属であり、より好ましくは、アルカリ土類金属はカルシウムである。
【0076】
[その他の添加剤]
本発明の潤滑油組成物は一般に、本発明の耐摩耗性添加剤組成物に加えて、本発明の潤滑油組成物に所望の特性を付与するために使用される他の添加剤も含有していてもよい。よって、潤滑油は、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、耐摩耗性添加剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤および消泡剤など、一種以上の添加剤を含有していてもよい。
【0077】
高負荷ディーゼルエンジン潤滑油用の従来の潤滑油組成物に望まれている特性を付与するという見地から最善の総合的結果を得るためには、潤滑油は、本発明の耐摩耗性添加剤組成物を所望の耐摩耗性能を与えるのに必要な量で含むと共に、上記の各種の添加剤の各々の相溶性ある組合せを有効量で含む。
【0078】
(低、中及び高過塩基性金属清浄剤)
少量の低又は中過塩基性金属清浄剤を、任意に本発明の潤滑油組成物に用いてもよい。低及び中過塩基性金属清浄剤の例としては、低又は中過塩基性スルホン酸、サリチル酸、カルボン酸又はフェノール、またはアルキルフェノール、アルデヒド及びアミンのマンニッヒ縮合物がある。これら清浄剤は、アルカリ金属清浄剤であってもアルカリ土類金属清浄剤であってもよい。好ましくは、アルカリ土類金属清浄剤であり、より好ましくはカルシウム清浄剤である。これら清浄剤のTBNは1より大きく約500かそれ以上である。しかし、上述したもののような清浄剤の更なる添加が、潤滑油の硫黄分および/または硫酸灰分に寄与しうることは注意に値する。これら清浄剤は当該分野ではよく知られていて、市販もされてもいる。
【0079】
(分散剤)
本発明の潤滑油組成物は任意に無灰分散剤を含有する。一般に無灰分散剤は、アルケニルコハク酸無水物とアミンを反応させることにより生成する窒素含有分散剤である。そのような分散剤の例としては、アルケニルコハク酸イミドおよびアルケニルコハク酸アミドがある。これら分散剤は、例えばホウ素またはエチレンカーボネートとの反応によって更に変性させることができる。長鎖炭化水素置換カルボン酸とヒドロキシ化合物から誘導されたエステル系無灰分散剤を用いてもよい。好ましい無灰分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物から誘導されたものである。多数の分散剤が市販されている。
【0080】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、潤滑油が空気の存在下で老化したり、酸化したりするにつれて潤滑油中で自然に起こる分解過程を防ぐために潤滑油に使用される。これら酸化過程はガムやラッカー、スラッジの形成を引き起こし、その結果、酸度及び粘度の増加をもたらす。使用できる酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール、アルキル化及び非アルキル化芳香族アミン、リン酸アルキル又はアリール、チオジカルボン酸のエステル、カルバミン酸又はジ−チオリン酸の塩がある。また、アミン−モリブデン錯化合物およびモリブデンジチオカルバメートなどのモリブデン化合物も酸化防止剤として使用してもよい。しかし、モリブデンジチオカルバメートの添加が潤滑油組成物に硫黄および硫酸灰分を更に与えることになるので注意が必要である。
【0081】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤は、温度の変化による粘度変化を調整するために潤滑油に添加される。市販されている粘度指数向上剤の幾つかの例としては、オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリメタクリレート、ビニルピロリドン、およびメタクリレート共重合体がある。
【0082】
(腐食防止剤)
腐食防止剤は、攻撃されやすい金属面を保護するために潤滑油に含有される。そのような腐食防止剤は一般に、非常に少量で、約0.02質量%乃至約1.0質量%の範囲で使用される。腐食防止剤は、ジ−チオリン酸金属塩のようにそれ自体が銀及び銀メッキ軸受を腐食するものであるべきではないことが好ましい。使用することができる腐食防止剤の例としては、硫化オレフィン腐食防止剤、および共硫化アルケニルエステル/アルファオレフィン腐食防止剤がある。
【0083】
既述した物質に加えて、本発明の潤滑油組成物は、流動点降下剤や消泡剤など他の添加剤も含んでいてもよい。各種の添加剤物質または本明細書に記載した部類の物質は、よく知られた物質であり、容易に購入したり、あるいは公知の方法またはその明らかな改良法により製造することができる。
【実施例】
【0084】
本発明の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物に用いられる耐摩耗性添加剤組成物について、下記の実施例1および第1表に記載するようにして製造した配合物を用いてその耐摩耗性能の評価を行った。
【0085】
[実施例1]
比較配合物A及びBおよび試験配合物Cは、無灰分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、中過塩基性アルキルフェネート、耐摩耗性添加剤および消泡剤を含有した。基油を使用して、比較配合物A及びBおよび試験配合物Cの各々を100%とした。下記の第1表に、比較配合物A及びBおよび試験配合物Cの詳細を記す。
【0086】
比較配合物A及びBおよび試験配合物Cの各々で潤滑油の全質量に基づくカルシウムの質量%濃度を一定に保ったが、下記の第2表にそのことを示す。
【0087】
マンニッヒ縮合物のカルシウム塩からなる本発明の耐摩耗性添加剤組成物を含む試験配合物Cの耐摩耗性能を、アルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸のカルシウム塩とアルキルフェノールのカルシウム塩との混合物だけを含む比較配合物A、並びにアルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸のカルシウム塩とアルキルフェノールのカルシウム塩との混合物およびマンニッヒ縮合物のカルシウム塩を含む比較配合物Bと比較した。
【0088】
比較配合物Bは、下記の成分を含有している:
(A)下記成分の混合物のカルシウム塩:
(a)下記成分の混合物:
(i)アルキルヒドロキシベンゼンカルボン酸、ただし、アルキルヒドロキシベンゼンカルボン酸のアルキル基は炭素原子12個を含む分枝鎖アルキル基であった、および
(ii)アルキルヒドロキシベンゼンカルボン酸、ただし、アルキルヒドロキシベンゼンカルボン酸のアルキル基は炭素原子20個〜炭素原子28個を含む直鎖アルキル基であった、および
(b)下記成分の混合物:
(i)アルキルフェノールのカルシウム塩、ただし、アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子12個を含む分枝鎖アルキル基であった、および
(ii)アルキルフェノールのカルシウム塩、ただし、もう一方のアルキルフェノールのアルキル基は炭素原子20個〜炭素原子28個を含む直鎖アルキル基であった、
(a)と(b)のカルシウム塩は3:2の比で存在した、並びに
(B)アルキルフェノール、パラホルムアルデヒド及びモノ−メチルアミンのマンニッヒ縮合物のカルシウム塩。アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子10個〜炭素原子20個を含む分枝鎖アルキル基であった。
【0089】
比較配合物Aは、上記比較配合物Bで示した(A)だけを含有している。(a)と(b)のカルシウム塩は3:2の比で存在した。
【0090】
試験配合物Cは、上記比較配合物Bで示した(B)の本発明の耐摩耗性添加剤組成物だけを含有している。
【0091】
第 1 表
────────────────────────────────────
成分 配合物(質量%)
比較A 比較B 試験C
────────────────────────────────────
基油 92.08 91.47 90.40
無灰分散剤 3.4 3.4 3.4
酸化防止剤 0.5 0.5 0.5
粘度指数向上剤 0.28 0.28 0.28
中過塩基性フェネート 0.22 0.22 0.22
追加の耐摩耗性添加剤 0.36 0.36 0.36
消泡剤 0.0025 0.0025 0.0025
(A)* 3.16 2.01 −
(B)** − 1.76 4.84
────────────────────────────────────
*:(A)は、前記の通りである。
**:(B)は、前記の通りである。
【0092】
下記第2表に、比較配合物A及びBおよび試験配合物Cにおける硫黄、硫酸灰分、リンおよびカルシウムの量を示す。
【0093】
第 2 表
────────────────────────────────
成分 配合物(質量%)
比較A 比較B 試験C
────────────────────────────────
硫黄 0.0992 0.1002 0.1007
硫酸灰分 1.06 1.06 1.06
リン 0.0378 0.0378 0.0378
カルシウム 0.296 0.296 0.296
────────────────────────────────
【0094】
[実施例2] 改良四球試験
四球試験の改良法を使用して、試験配合物Cの耐摩耗性能を比較配合物A及びBとの比較で評価した。試験の改良法には、配合物A〜Cの試料を予備老化させることが含まれた。本発明の耐摩耗性添加剤組成物の保護膜を設けることを可能にして、添加剤の耐摩耗性能に対する酸化分解生成物の影響を明らかにするために予備老化を行った。比較配合物A及びBおよび試験配合物C、およそ10ミリリットルの試料を160℃で金属球を存在させて2日間予備老化させた。試験を荷重10キログラムで開始し、段階的に荷重を増加させて総荷重90キログラムとした。試験中、3個の固定球の中心の油温、トルクおよび荷重レバーアームの変位を記録した。試験の最後にアーム変位データに基いて摩耗指数を算出した。この四球試験の改良法については、第10回国際トライボロジー学会(10th International Colloquium on Tribology)−摩擦及び摩耗問題の解決、技術アカデミー(ドイツ連邦共和国エスリンゲン)、1996年1月9−11日、会報第3巻、p.2063−2073に発表された、カザン、テキ及びルシュール(J. Cazin, P. Tequi and Y. Lesieur)著、題名「耐摩耗性添加剤の改良四球試験による審査試験」の論文に記載されている。
【0095】
報告したデータは、摩耗指数、試験終了時の油温とトルクおよび焼付きについてであった。下記第3表に、改良四球試験の結果をまとめて示す。
【0096】
第 3 表
──────────────────────────────────
改良四球試験 配合物
A B C
──────────────────────────────────
摩耗指数* 276 325 30
温度(℃) 134 131 113
トルク(デカニュートン) 0.246 0.243 0.159
焼付き 有り 有り 無し
──────────────────────────────────
*:摩耗指数は、改良四球試験での摩耗のために金属の損失による球表面の実測距離変化を規格化して得た。実測距離は、改良四球試験ではマイクロメートルで測定するが、試験で得た数値の報告を容易にするために10倍にした。
【0097】
上記第3表にまとめて示した改良四球試験で得られた結果は、マンニッヒ縮合物のカルシウム塩からなる本発明の耐摩耗性添加剤組成物を含む試験配合物Cが、アルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸のカルシウム塩とアルキルフェノールのカルシウム塩の混合物だけを含む比較配合物Aよりも、あるいは(i)アルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸のカルシウム塩とアルキルフェノールのカルシウム塩の混合物および(ii)マンニッヒ縮合物のカルシウム塩を含む比較配合物Bよりも、良好な耐摩耗性能を与えたことを明らかにしている。上記第3表は、収集した四種類のデータの各々で配合物Cが、比較配合物A又はBどちらよりも著しく性能が良かったことを明らかにしている。
【0098】
比較配合物Bが、試験配合物Cにおけるようにマンニッヒ縮合物のカルシウム塩を多少含んでいたにもかかわらず、試験配合物Cに匹敵する耐摩耗性能を示さなかったことをデータは示している。比較配合物Bにおけるアルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸のカルシウム塩とアルキルフェノールのカルシウム塩の混合物の存在は、比較配合物Bがマンニッヒ縮合物のカルシウム塩を含んでいたにもかかわらず、アルキルフェノールのマンニッヒ縮合物のカルシウム塩だけを含んだ試験配合物Cと比較すると、耐摩耗性能に負の影響を及ぼすように思われる。この結果は予測できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物:
(a)主要量の潤滑粘度の油、
(b)潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩を含む耐摩耗性添加剤組成物。
【請求項2】
マンニッヒ縮合物の濃度が、潤滑油組成物の全質量に基づき約2質量%乃至約12質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
マンニッヒ縮合物の濃度が、潤滑油組成物の全質量に基づき約3質量%乃至約9質量%の範囲にある請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
マンニッヒ縮合物の濃度が、潤滑油組成物の全質量に基づき約4質量%乃至約7質量%の範囲にある請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
耐摩耗性添加剤組成物(b)においてマンニッヒ縮合物が、炭素原子数1〜炭素原子数約20のアルデヒドと、アンモニア、低級アルキルアミン、ポリアミンおよびそれらの混合物から選ばれた窒素塩基化合物と、アルキルフェノールとの縮合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
マンニッヒ縮合物のアルキルフェノールのアルキル基が、直鎖或は分枝鎖アルキル基またはそれらの混合物である請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
マンニッヒ縮合物のアルキルフェノールのアルキル基が分枝鎖アルキル基である請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
マンニッヒ縮合物においてアルキルフェノールのアルキル基が、炭素原子数約4〜炭素原子数約60である請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
マンニッヒ縮合物のアルキルフェノールのアルキル基が、炭素原子数約6〜炭素原子数約40である請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
マンニッヒ縮合物のアルキルフェノールのアルキル基が、炭素原子数約8〜炭素原子数約20である請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
低級アルキルアミンのアルキル基が炭素原子数1〜炭素原子数約10であり、そしてポリアミンがアミン窒素原子数2〜アミン窒素原子数約12で炭素原子数2〜炭素原子数約40である請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
マンニッヒ縮合物を製造するための窒素塩基化合物が、アルキル基の炭素原子数が1〜約10の低級アルキルアミンである請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
低級アルキルアミンがアルキルモノ−アミンである請求項12に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
ポリアミンが、モノ−アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミンまたはそれらの混合物である請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
マンニッヒ縮合物を製造するのに用いられたアルデヒドがホルムアルデヒドである請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
マンニッヒ縮合物を製造するのに用いられたアルデヒドがパラホルムアルデヒドである請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
耐摩耗性添加剤組成物(b)においてマンニッヒ縮合物が、アルキルフェノールと、ただし、アルキルフェノールのアルキル基は炭素原子数約8〜炭素原子数約20の分枝鎖アルキル基である、パラホルムアルデヒドとモノ−メチルアミンとから製造されたものである請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
マンニッヒ縮合物の金属塩の金属が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
金属がアルカリ土類金属である請求項18に記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
アルカリ土類金属がカルシウムである請求項19に記載の潤滑油組成物。
【請求項21】
硫黄分が、潤滑油の全質量に基づき0.0質量%乃至約0.4質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
硫黄分が、潤滑油の全質量に基づき0.05質量%乃至約0.3質量%の範囲にある請求項21に記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
硫黄分が、潤滑油の全質量に基づき0.1質量%乃至約0.2質量%の範囲にある請求項22に記載の潤滑油組成物。
【請求項24】
硫酸灰分が、潤滑油の全質量に基づき0.2質量%乃至約4.0質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項25】
硫酸灰分が、潤滑油の全質量に基づき0.3質量%乃至約2.0質量%の範囲にある請求項24に記載の潤滑油組成物。
【請求項26】
硫酸灰分が、潤滑油の全質量に基づき0.5質量%乃至約1.2質量%の範囲にある請求項25に記載の潤滑油組成物。
【請求項27】
リン分が、潤滑油の全質量に基づき0.005質量%乃至約0.06質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項28】
リン分が、潤滑油の全質量に基づき0.015質量%乃至約0.05質量%の範囲にある請求項27に記載の潤滑油組成物。
【請求項29】
リン分が、0.03質量%乃至約0.04質量%の範囲にある請求項28に記載の潤滑油組成物。
【請求項30】
潤滑油組成物が更に、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、耐摩耗性添加剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤および消泡剤から選ばれた一種以上の潤滑油添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項31】
下記の成分を含む、低排出ガス高負荷ディーゼルエンジン用の低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油濃縮物:
(a)潤滑油濃縮物の全質量に基づき約10質量%乃至約90質量%の潤滑粘度の油、および
(b)潤滑油濃縮物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。
【請求項32】
低排出ガス高負荷ディーゼルエンジンを潤滑にする方法であって、下記の成分を含む低硫黄、低硫酸灰分及び低リン潤滑油組成物を用いて潤滑にすることからなる方法:
(a)主要量の潤滑粘度の油、および
(b)潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも2質量%の、マンニッヒ縮合物の金属塩からなる耐摩耗性添加剤組成物。

【公開番号】特開2007−63560(P2007−63560A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234594(P2006−234594)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】