説明

高負荷伝動ベルト

【課題】センターベルト表面に積層するカバー帆布の端部同士を重ね合わせ接合としていることからカバー帆布の接合部においてゴムが露出し亀裂が発生する等の問題を防止することができ、また、接合部をセンターベルトの凸条部に配置しているので、センターベルトの凹条部におけるブロックとの噛み合いには影響を及ぼすこともない高負荷伝動ベルトを提供する。
【解決手段】センターベルト3と、該センターベルト3の前記凹条部17と係合する長手方向に沿って所定ピッチで設けた複数のブロックとからなり、センターベルト3の少なくとも片面にカバー帆布10が被覆されている高負荷伝動ベルトにおいて、カバー帆布10の端部10a、10b同士は重ね合わせ接合されているとともに該接合部Sをセンターベルトの凸条部15に配置してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターベルトの長手方向に沿って所定ピッチでブロックを嵌合固定した高負荷伝動ベルトに関し、詳しくはセンターベルトにおけるカバー帆布のジョイント位置を所定の位置に配置することでブロックとセンターベルトとのがたつきを抑えた高負荷伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置に使用するベルトは、プーリのV溝幅を変えることによってプーリに巻きかかる有効径を変化させ変速比を調節する様な変速プーリに巻き掛けて使用するものであり、プーリからの側圧が大きくなるのでベルトは大きな側圧に耐えるものでなくてはならない。また、無段変速の用途以外にも通常のゴムベルトでは寿命が短くなりすぎるような高負荷伝動の用途には特別に高負荷に耐えうるようなベルトを用いる必要がある。
【0003】
そのようなベルトとして使用されるものの中に、センターベルトにブロックを固定してベルト幅方向の強度を高めた引張伝動式の高負荷伝動ベルトがあり、具体的な構成としては、心線をゴムなどのエラストマー中に埋設したセンターベルトにボルトやリベットなどの止着材を用いてセンターベルトに使用しているエラストマーよりも比較的硬質のエラストマーからなるブロックを止着固定したものがある。
【0004】
このような高負荷伝動ベルトのセンターベルトはゴムなどのエラストマーからなっておりブロックを嵌合固定している。ベルトを走行させることによってセンターベルトはブロックから繰り返し圧縮力や剪断力を受けて、センターベルトを形成するエラストマーに永久歪を発生してブロックとセンターベルトとの嵌合固定力が弱まり、ブロックのぐらつきやがたつきにつながり、ベルト走行時の騒音が大きくなったり、センターベルトに亀裂が生じて切断したりといったことにもなる。
【0005】
特に小プーリ径にベルトが巻きかかる際に、センターベルトの内周面側がブロックに挟まれた状態になって応力が集中するとともに大きな摩擦力が発生し、センターベルトを構成するゴムが劣化してクラックが生じたり、ベルト切断の原因となったりしていた。
【0006】
そこでそのようなセンターベルトを保護しセンターベルトとブロックとの間に緩みが生じるのを防止するために特許文献1には、センターベルトの表面にカバー帆布を設けており、しかもその素材をアラミド繊維からなる帆布としている。
【0007】
また、特許文献2においてはセンターベルト表面のカバー帆布のジョイントにおいてラップジョイントとしそのラップ代を1mm以下としたベルトが開示されている。ラップ代を1mm以下とすることでラップすることによる厚みの変化を少なく抑えてブロックへの影響を少なくしブロックの揺動や騒音の発生の問題、センターベルトのクラック発生の問題を防止することを目的としたものである。
【0008】
【特許文献1】特開2000−291743号公報
【特許文献2】特開平11−325191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが特許文献1に開示されるようにセンターベルトに設けるカバー帆布をアラミド繊維からなる帆布とすることで、高負荷伝動に耐えることができるとともにブロックとの摩擦が生じてもセンターベルトが摩耗するのを防止することができベルトの寿命を大幅に延ばすことができる。
【0010】
センターベルトはブロックとの間の噛み合いのために所定ピッチで凹条部を設けるなど凹凸形状を形成している。アラミド繊維は他の繊維と比べて強度が大きく厚手となるため、端部同士の接合部を重ね合わせ接合とすると特に厚みの大きい部分となってしまう。しかし、突合せ接合ではゴムが露出してしまうためにそこからクラックが発生する等センターベルトの寿命を短くしてしまう。
【0011】
そこで重ね合わせ接合をすることでセンターベルトのゴムを露出させないようにするとともにジョイント部分におけるブロックへの影響をできるだけ少ないものとし、騒音等が少なく寿命も長い高負荷伝動ベルトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するために本発明の請求項1は、少なくとも片面にベルト幅方向の凸条部と凹条部を交互に形成したセンターベルトと、該センターベルトの前記凹条部と係合する長手方向に沿って所定ピッチで設けた複数のブロックとからなり、センターベルトの少なくとも片面にカバー帆布が被覆されている高負荷伝動ベルトにおいて、カバー帆布の端部同士は重ね合わせ接合されているとともに該接合部をセンターベルトの凸条部に配置してなることを特徴とする。
【0013】
請求項2では、カバー帆布がアラミド繊維からなる帆布である高負荷伝動ベルトとしている。
【0014】
請求項3では、センターベルト下面側のカバー帆布は少なくともブロックと接触する側にフッ素樹脂製繊維を配置した帆布を用いた請求項1記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0015】
請求項4では、カバー帆布に配置するフッ素樹脂製繊維が不織布であり目付量が10〜200g/mの範囲内である請求項3記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0016】
請求項5では、カバー帆布はフッ素樹脂以外の繊維からなる基布の表面にフッ素樹脂製繊維を積層した構成からなる請求項3〜4記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0017】
請求項6では、フッ素樹脂がPTFE樹脂(四フッ化エチレン樹脂)である請求項3〜5記載の高負荷伝動ベルトとしている。
【0018】
請求項7では、ブロックが内部にインサート材を埋設しないブロックである高負荷伝動ベルトとしている。
【0019】
請求項8では、カバー帆布の接合代を1〜(歯ピッチ−凹条部幅)mmの範囲としてなる高負荷伝動ベルトとしている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1ではセンターベルト表面に積層するカバー帆布の端部同士を重ね合わせ接合としていることからカバー帆布の接合部においてゴムが露出し亀裂が発生する等の問題を防止することができ、また、接合部をセンターベルトの凸条部に配置しているので、センターベルトの凹条部におけるブロックとの噛み合いには影響を及ぼすこともない。
【0021】
請求項2では、カバー帆布をアラミド繊維からなる帆布としているが、他の繊維の場合よりも型付けが困難で厚みもあるアラミド繊維ではブロックの噛み合いへの影響も大きく、接合部をセンターベルトの凸条部に配置することによる効果が顕著である。
【0022】
請求項3によるとセンターベルト下面側表面に設けるカバー帆布のブロックと接する側にPTFE繊維を配置しており、フッ素樹脂製繊維は摩擦係数が低いことからブロックとの間で摩擦が起こっても摩耗することがなく、発熱も少なくなるのでカバー帆布が融解して切断に至るといった問題を防止することができる。
【0023】
請求項4においては用いるフッ素樹脂製繊維を不織布としその目付量を所定の範囲に限定したことにより、耐摩耗性や発熱を抑える効果をより高いレベルとすることができる。
【0024】
請求項5では、カバー帆布はフッ素樹脂製繊維以外の繊維からなる基布の表面にフッ素樹脂繊維を積層した構成からなっており、基布を設けることでカバー帆布の強度を確保するとともにセンターベルトを構成するゴム等のエラストマーとの接着力を十分なものとすることができる。
【0025】
請求項6では、フッ素樹脂をPTFE樹脂(四フッ化エチレン樹脂)としておりフッ素樹脂の中でも耐摩耗性や発熱を抑える効果が高い。
【0026】
請求項7では、インサート材を埋設していないブロックでは、センターベルトに装着することによってブロックの変形量も大きく、センターベルトの凹条部に接合部があるとブロックはその影響で変形し、ベルト走行時の騒音の増大やブロックの緩みによるベルト破壊の原因となりやすく、カバー帆布の接合部を凸条部に配置することでそういった問題を防止することができる。
【0027】
請求項8においては、カバー帆布の接合代を1〜(歯ピッチ−凹条部幅)mmの範囲としており、凸条部に配置した接合部が凹条部のブロックとの噛み合いにまで影響を及ぼすのを確実になくすことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明に係る高負荷伝動ベルト1の一例を示す斜視概略図であり、図2はその側断面図である。本発明の高負荷伝動ベルト1は、エラストマー4内にロープ状の心体5をスパイラル状に埋設してなる同じ幅の二本のセンターベルト3と、このセンターベルト3に所定ピッチで取り付けられた複数のブロック2とから構成されている。ブロックの側面6、7に嵌合溝8、9を有しており、該嵌合溝にセンターベルト3が装着されている。このブロック2の両側面6、7は、プーリのV溝と接触する傾斜面となっており、駆動されたプーリから動力を受け取って、係止固定されているセンターベルト3を引張り、駆動側プーリの動力を従動側プーリに伝達する。またセンターベルト3の表面には本発明の特徴であるカバー帆布10がセンターベルト3と一体的に積層配置されている。
【0029】
ブロック2は、図1に示すように、上ビーム部11および下ビーム部12と、上下ビーム部11、12の中央部同士を連結したセンターピラー13からなっており、ブロック2の両側面には前述のようにセンターベルト3の嵌合溝8、9が形成されており、嵌合溝8、9内の溝上面および溝下面にはセンターベルト3の上面に設けた凹条部15と下面に設けた凹条部16に係合する凸条部17、18が設けられている。
【0030】
図3は、別のベルトの例であり、ビーム部21の両端から上方に向かって一対のサイドピラー22、23が延びており、このサイドピラー22、23の上端からそれぞれブロック2の中心に向かって延びるロック部24、25が対向するように設けられている。そして、これらビーム部21、サイドピラー22、23及びロック部24、25によってセンターベルト3が嵌合する嵌合溝20が形成されている。この嵌合溝20に、センターベルト3が、ロック部24、25間の開口部より挿入され装着される。また、ロック部24、25の嵌合溝20側には、凸部27がそれぞれ設けられており、この凸部27が、センターベルト3に所定ピッチで設けられている凹条部26に嵌合する。これによって、センターベルト3は、装着後はブロック2から抜けにくい状態となる。そして、センターベルト3の表面にはカバー帆布10がセンターベルト3と一体的に積層配置されている。
【0031】
センターベルト3のエラストマー4として使用されるものは、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンなどの単一材またはこれらを適宜ブレンドしたゴムあるいはポリウレタンゴム等が挙げられる。そして、心体5としてはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、スチールワイヤ等から選ばれたロープが用いられる。また、心体5はロープをスパイラル状に埋設したもの以外にも、上記の繊維の織布、編布や金属薄板等を使用することもできる。
【0032】
なお、本実施形態では、2本のセンターベルト3、3を用いて、ブロック2の嵌合溝20に装着した場合について説明しているが、別に1本のセンターベルトを使用したものであっても構わない。
【0033】
図2に示すように、センターベルト3は上下両面にカバー帆布10が配置されており、ベルト走行時に発生するセンターベルトとブロックとの摩擦からセンターベルトを保護するようになっている。このような構成を採ることによって、ブロック2との間の摩擦によるセンターベルト3の摩耗が防止される。特にブロック2に酸化亜鉛ウィスカなどのウィスカ状補強材を配合している場合は、センターベルトと摩擦する中でウィスカのためにセンターベルト側の摩耗が非常に大きくなりやすいが、カバー帆布10によって摩耗を防止することができる。また、カバー帆布10の素材としてアラミド繊維を用いることによって更に摩耗防止の効果を高めることができ、ベルトの切断による故障を低減することができる。
【0034】
カバー帆布10として用いられるのは、平織物、綾織物、朱子織物などを挙げることができ、全てがアラミド繊維である必要はなく例えばベルト長手方向の緯糸にアラミド繊維を用いる形態が挙げられる。アラミド繊維としてはパラ系アラミド繊維でもメタ系アラミド繊維でもいずれでもよいが、0.3〜1.2デニールの原糸を収束したマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。また、アラミド繊維以外にポリアミド繊維やウレタン弾性糸を混撚りした糸も用いることができるが、アラミド繊維の占める割合が緯糸の全重量の20〜80%であることが好ましい。原糸の太さが0.3デニール未満であるとベルト長手方向のカバー帆布10の引張強さが低下し、耐摩耗性にも劣ることになるので好ましくない。逆に1.2デニールを超えるような太さであると製織後にカバー帆布10としての剛性が高くなりすぎて経糸と緯糸とのバランスが取れなくなったり帆布にしわを発生させたりする原因となるので好ましくない。
【0035】
パラ系アラミド繊維としては、例えば商品名をケブラー、テクノーラ、トワロンを挙げることができ、メタ系アラミド繊維としたは、商品名でノーメックス、コーネックスを挙げることができる。
【0036】
また、ベルト幅方向の経糸についても緯糸と同様にパラ系アラミド繊維やメタ系アラミド繊維などのアラミド繊維からなるフィラメント糸としてもよく、その他6ナイロン、6,6−ナイロン、12ナイロン等のポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維などのフィラメント糸を用いることができる。
【0037】
更に、カバー帆布の素材としてアラミド繊維以外にも少なくともブロック2と接する側に、フッ素樹脂製繊維を配置したものを用いることができる。特に発熱の大きいセンターベルト下面へ配置することが好ましいが、もちろんセンターベルト下面だけでなく上面のカバー帆布10も同様の構成にすることが可能であり、後述の効果を更に向上することができる好ましい形態といえる。フッ素樹脂からなる繊維はそれ自身が摩擦係数の低い素材でありブロック2との間で擦れあったとしても摩耗しにくく、摩擦による発熱も極めて小さい。ベルト走行中にブロックとセンターベルトの間で動きがあった場合に、従来であればセンターベルト側のカバー帆布が摩耗したり発熱により融解したりして最終的にはセンターベルトの切断といった問題につながっていた。しかし、フッ素樹脂製繊維をカバー帆布のブロック2と接する側に配置しておくことで摩耗や発熱の問題を解消し、それらに起因するセンターベルトの切断、ひいてはベルトの故障を防止し長寿命化することができるものである。
【0038】
フッ素樹脂製繊維として用いることができるフッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂(PFEP)、四フッ化エチレン・エチレン共重合体樹脂(PETFE)、ビニリデンフルオライド樹脂(PVDF)、ビニルフルオライド樹脂(PVF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂(CTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂(PETFE)等を挙げることができる。その中でも耐摩耗性や発熱を少なく抑えるという面で四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を用いることが好ましい。形態としては織布、不織布など様々な形を挙げることができる。
【0039】
カバー帆布10はフッ素樹脂製繊維のみからなる帆布を用いてもよいが、それだけでなく図4に示すようにフッ素樹脂以外の繊維からなる基布10aの表面にフッ素樹脂製繊維10bを積層配置したものであってもよく、基布10aを設けることでセンターベルト3のカバー帆布10として強度の高いものとすることができ、またフッ素樹脂は一般的に接着性に乏しいところがあるがフッ素樹脂以外の繊維を基布10aとして介することでセンターベルト3を構成するゴム等のエラストマー4との間の接着力を十分高いものとすることができる。その場合基布10aとして用いることができるのは6,6−ナイロンなどのポリアミド繊維、PETなどのポリエステル繊維、アラミド繊維、綿、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維など帆布として使用可能なものなら全般的に用いることができる。また帆布構成としては平織り、綾織り、朱子織りなど織物全般を挙げることができる。
【0040】
フッ素樹脂製繊維10bの基布10aへの積層であるが、例えば次のような方法で積層配置することができる。フッ素樹脂からなる繊維長が5〜50mm程度の繊維をウェブ状に絡めて圧縮してシート状の不織布とし、それを水流交絡加工にて基布10aに絡めるようなかたちで積層一体化することができ、フッ素樹脂からなる不織布を片面に配置したカバー帆布10を得ることができる。
【0041】
フッ素樹脂製繊維10bに不織布を用いる場合の目付量は10〜200g/mの範囲とすることが好ましい。10g/m未満であると耐摩耗性が不足気味となりベルトを長時間走行させると摩耗量が増えてブロック2とセンターベルト3との嵌合が緩んでしまう。また200g/mを超える目付量になると厚みが大きくなりベルトが長期に走行する間にブロック2とセンターベルト3との間で圧縮されて厚みを減じ、やはり嵌合の緩みにつながってしまうので好ましくない。
【0042】
このような構成のカバー帆布10をセンターベルトの表面に積層接着するために接着処理がなされる。接着処理としては例えばRFL液、イソシアネート溶液あるいはエポキシ溶液による処理が挙げられる。RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはスチレン・ブタジエン・ピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンなどのラテックスである。また、ゴムを溶剤に溶かしてゴム糊状にしたものをカバー帆布10の表面に付着させる糊引き処理、ソーキング処理、コーチング処理も接着処理として挙げることができる。
【0043】
これらの接着処理においてRFL液、イソシアネート溶液、エポキシ溶液、ゴム糊などの接着処理剤に摩擦係数低減材を配合することによって、ブロックとセンターベルトのカバー帆布との間の摩擦係数を下げることができ、酸化亜鉛などのウィスカを含んだブロックとセンターベルトとの摩擦による摩耗を防止することができる。摩擦係数低減材としては、具体的にはポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体などのフッ素樹脂、セラミックパウダー、ガラスビーズ、超高分子量ポリエチレン、グラファイト、二硫化モリブデン、フェノール樹脂、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等をあげることができ、これらのうちの少なくとも1種、好ましくはセラミックパウダー、ガラスビーズ、超高分子量ポリエチレン、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、フェノール樹脂のなかの少なくとも1種、更に好ましくはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0044】
このカバー帆布10はセンターベルトの製造時に例えば成形ドラムにゴムと心線と帆布とを所定の順序で巻きつけてセンターベルトに成形するが、帆布を巻きつける際にどうしても端部10a、10b同士の接合部Sができてしまう。本発明では、図4に示すようにその端部10a、10b同士の接合部Sを重ね合わせ接合とするとともにその接合部Sをセンターベルト3の凸条部17の位置に配置している。
【0045】
端部10a、10b同士を重ね合わせ接合する際の接合代Dは1〜(歯ピッチP−凹条部幅W)mmの範囲とすることが好ましい。1mm未満であるとベルト走行中に接合部に割れが生じてセンターベルトの亀裂につながるおそれがあり、2mmを超える接合代Dをとると接合部Sが凹条部15にまで及び、ブロックと接触して悪影響が出ることにもつながるので好ましくない。
【0046】
ブロック2は、基本的に樹脂組成物からなるブロックであり、樹脂組成物のみからなるブロック2と樹脂組成物中に金属等からなりブロックと同じ略エ字形状を有するインサート材の表面に樹脂材を被覆したものでもよい。通常、インサート材を有さないブロックは有するブロックと比べると剛性が低く、カバー帆布10の接合部Sがブロック2に接している場合の影響を大きく受けてしまう。そういう意味では接合部Sがセンターベルト3の凹条部15に位置した場合の問題は、インサート材を有さないブロック2の場合に顕著に表れる問題といえる。よってインサート材を有さないブロックのほうで本発明の効果は大きなものとなる。
【0047】
インサート材は、ブロック2の耐側圧性や曲げ剛性を持たせる部分となるインサート材であり、素材としてはアルミ合金、セラミックス、セラミックスとアルミニウムとの複合材料、炭素繊維強化樹脂や鉄などの素材が挙げられる。
【0048】
耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が好ましく、金属材料の中ではアルミ合金の弾性率が7000kgf/mmで比重が2.8であるのに対し、鉄は弾性率が22000kgf/mmで比重が7.8であり、強度的には鉄を用いるほうが高いといえるが、高速で回転するベルトにとって、ベルト重量は寿命に大きく影響を与えるため軽量化の面で有利なアルミ合金を用いることが好ましい。ただし、耐側圧性や曲げ剛性を持たせるという面では金属材料が優れており、インサート材の所定箇所に樹脂材を被覆したブロック2を用いることが好ましい。
【0049】
樹脂材を所定の箇所に配置する場合、ブロック2の大きさよりもひと回り小さい金属材料からなるインサート材を用いてそのほぼ全面を樹脂材で被覆したものを用いると、部分的に樹脂材を被覆配置したものに比べて、樹脂材の剥離などの問題が発生しにくいので好ましい形態ということができる。ただし、全面といっても製造工程の上で樹脂材を被覆する際にインサート材を固定する部材が接触しているところは、インサート材が露出する箇所が発生することになるが、少なくともブロックのプーリと接触する箇所やブロック同士が接触する箇所について樹脂で覆われていれば問題はない。
【0050】
もちろん前述もしたようにブロック2としては前記のようなインサート材を有さない樹脂材のみからなっているものも使用できる。このようなインサート材を埋設していないブロック2を用いた場合、インサート材を埋設したブロックを用いたベルトよりも、軽量化が可能なので高回転で使用してもベルトに発生する遠心力が小さいという優位点があるが、自動二輪などの比較的軽負荷で高回転の用途に向いている。
【0051】
樹脂材としては、比較的摩擦係数の大きく耐摩耗性に優れ、センターベルト3を構成するエラストマー4と比べると剛性の高い、具体的には硬度90°JIS A以上の硬質ゴム、硬質ポリウレタン樹脂、液晶樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等のゴムや合成樹脂が用いられる。
【0052】
これらの中でもブロックを効率よく製造するために射出成形法にて製造するには、ポリアミド樹脂のような熱可塑性樹脂を用いることになる。また低摩擦係数で耐摩耗性に優れ、剛性があるとともに曲げに対しても弾力性を有しており、簡単に破損してしまうことのない樹脂がよいということからすると、ポリアミド樹脂なかでも4,6−ナイロンが好ましいといえる。
【0053】
また、これらの樹脂中に、綿糸、ポリアミド繊維やアラミド繊維等の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等からなる織布、フィラー、ウィスカ、シリカ、炭酸カルシウムなどの無機材料等を混入した強化樹脂からなる。
【0054】
本発明では前述のようにブロックを形成する樹脂材中に繊維状の補強材やウィスカ状の補強材を配合することは可能であり、繊維状の補強材は15〜40重量%の範囲で配合する。15重量%未満であると補強効果が少なくブロックの耐摩耗性が十分でないなどの問題があり、40重量%を超えると樹脂への配合が困難になったり射出成形が困難になったりするなどの問題があるので好ましくない。
【0055】
合成樹脂に配合する繊維状補強材としては、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。その中でも前記のブロックを構成する樹脂で好ましい例である4,6−ナイロンと炭素繊維を組み合わせて用いることによって炭素繊維が4,6−ナイロンの吸水性の欠点を改善し、剛性を大幅に向上させることができて、且つ4,6−ナイロンの有する耐摩耗性、耐衝撃性、耐疲労性を生かすことができるものである。前記繊維状補強材として上記の有機繊維のほかにも酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカなどの無機繊維を配合してもよい。
【0056】
また、他にも二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素系樹脂から選ばれてなる少なくとも一つを混入することによってもブロック2の潤滑性を向上させることができる。フッ素系樹脂としては、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)、4フッ化エチレン6フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、ポリフッ化アルコキシエチレン(PFA)等が挙げられる。
【0057】
次に、本発明の高負荷伝動ベルトを作製し、出来上がったセンターベルトの凹条部の底におけるベルト厚みを形状測定機で測定するとともにベルトの走行試験を行い、寿命時間を測定した。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
実施例として使用した高負荷伝動ベルトは、図1に示すようなブロックを用いたものであり、ブロックに用いる樹脂としては、4,6−ナイロンと炭素繊維及び酸化亜鉛ウィスカからなり、その配合は炭素繊維が30質量%で酸化亜鉛ウィスカが10質量%とした。また、センターベルト表面のカバー帆布の構成としては経糸がナイロン繊維で緯糸がアラミド繊維からなる帆布を用いてセンターベルトを作成しブロックを装着して高負荷伝動ベルトを作成した。尚、カバー帆布の端部は重ね合わせ接合とし、接合部をセンターベルトの凸条部に配置するようにした。センターベルトの凹条部の底において形状測定器を用いてベルト厚みを測定した。表1にベルト全周の厚みのバラツキ幅を示す。
【0059】
(比較例)
比較例として使用した高負荷伝動ベルトは、図1に示すようなブロックを用いたものであり、ブロックに用いる樹脂としては、4,6−ナイロンと炭素繊維及び酸化亜鉛ウィスカからなり、その配合は炭素繊維が30質量%で酸化亜鉛ウィスカが10質量%とした。また、センターベルト表面のカバー帆布の構成としては経糸がナイロン繊維で緯糸がアラミド繊維からなる帆布を用いてセンターベルトを作成しブロックを装着して高負荷伝動ベルトを作成した。尚、カバー帆布の端部は重ね合わせ接合とし、接合部をセンターベルトの凹条部に配置するようにした。センターベルトの凹条部の底において形状測定器を用いてベルト厚みを測定した。表1にベルト全周の厚みのバラツキ幅を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、カバー帆布の端部同士の接合部をセンターベルトとの凸条部に配置した実施例では、接合部を凹条部に配置した比較例よりも厚みのバラツキが大幅に小さい結果となっている。ブロックが噛み合うセンターベルト凹条部の厚みのバラツキが小さいセンターベルトを用いることで、ブロックは全体がより均一に配列されることになり、ベルト走行中の騒音の発生や乱れを小さなものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
自動車や自動二輪車、農業機械の無段変速装置など、プーリの有効径が変化し大きなトルクを伝達するようなベルトの製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の高負荷伝動ベルトの要部斜視図である。
【図2】本発明の高負荷伝動ベルトの側面図である。
【図3】本発明の別の例を示す高負荷伝動ベルトの斜視図である。
【図4】カバー帆布の接合部付近の拡大側面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 高負荷伝動ベルト
2 ブロック
3 センターベルト
4 エラストマー
5 心線
6 側面
7 側面
8 嵌合溝
9 嵌合溝
10 カバー帆布
10a 端部
10b 端部
11 上ビーム部
12 下ビーム部
13 センターピラー
15 凹条部
16 凹条部
17 凸条部
18 凸条部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面にベルト幅方向の凸条部と凹条部を交互に形成したセンターベルトと、該センターベルトの前記凹条部と係合する長手方向に沿って所定ピッチで設けた複数のブロックとからなり、センターベルトの少なくとも片面にカバー帆布が被覆されている高負荷伝動ベルトにおいて、カバー帆布の端部同士は重ね合わせ接合されているとともに該接合部をセンターベルトの凸条部に配置してなることを特徴とする高負荷伝動ベルト。
【請求項2】
カバー帆布がアラミド繊維からなる帆布である請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項3】
カバー帆布は少なくともブロックと接触する側にフッ素樹脂製繊維を配置した帆布を用いた請求項1記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項4】
カバー帆布に配置するフッ素樹脂製繊維が不織布であり目付量が10〜200g/mの範囲内である請求項3記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項5】
カバー帆布はフッ素樹脂以外の繊維からなる基布の表面にフッ素樹脂製繊維を積層した構成からなる請求項3〜4記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項6】
フッ素樹脂がPTFE樹脂(四フッ化エチレン樹脂)である請求項3〜5記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項7】
ブロックが内部にインサート材を埋設しないブロックである請求項1〜6記載の高負荷伝動ベルト。
【請求項8】
カバー帆布の接合代を1〜(歯ピッチ−凹条部幅)mmの範囲としてなる請求項1〜7記載の高負荷伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−263364(P2007−263364A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46636(P2007−46636)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】