説明

高速凝集沈澱池の立ち上げ方法

【課題】高速凝集沈澱池の運転を開始又は再開する際に行う初期母フロックの形成を、短時間で行うことができる方法を提案する。
【解決手段】高速凝集沈澱池とは別に、該高速凝集沈澱池よりも貯留容量の小さな初期母フロック形成槽を設け、前記初期母フロック形成槽内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤及び凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給する工程を繰り返すことにより、高速凝集沈澱池内に初期母フロックを滞留させるようにして高速凝集沈澱池を立ち上げることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道水、工業用水などを製造する水処理分野や、下水を処理する水処理分野などで実施されている高速凝集沈澱池の立ち上げ方法、詳しくは高速凝集沈澱池の運転を開始又は再開する際に行う初期母フロックの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、地下水、雨水等の水処理では、凝集沈澱処理や砂ろ過処理などの固液分離技術によって、不溶解性成分である濁度成分や藻類等を除去する処理が行われている。
このうち凝集沈澱処理は、無機凝集剤やpH調整剤を原水に添加して、原水中の汚濁物質を析出させたり、無機凝集剤から生成するフロックに汚濁物質を吸着させたりした後に、汚濁物質を含むフロックを原水から沈降除去して清浄化する処理方法である。
【0003】
従来の凝集沈澱処理では、混和槽、フロック形成槽及び沈澱槽を連続して設置し、混和槽で原水(被処理水)と無機凝集剤を混合した後、これをフロック形成槽、沈澱槽へと移しながらフロックを形成させて原水の浄化を図る、いわゆる横流式沈澱池が採用されていた。しかし、この方法は、フロックの沈澱速度が遅く、一定の原水を処理するのに広い面積が必要であるという問題があった。
【0004】
そこで、沈澱部の上昇流速を速くして沈澱部の設備面積を小さくすることができる“高速凝集沈澱池”が提案された。
図3は、高速凝集沈澱池の実施設の構成例を示す模式図である。原水51に無機凝集剤58が添加された後、一次撹拌室52および二次撹拌室53を備えた撹拌部に送られ、ここでスラリが生成される。そして、このスラリが沈澱部54内でスラリ界面を形成する一方、沈澱部54の下部は一次撹拌室52と連通しており、沈澱部54内のスラリ(;フロックを含有している)は一次撹拌室52に返送され、既存のスラリの存在下で新たなスラリが生成されるようになっている。他方、沈澱部54内の沈澱水55は上方の越流口からオーバーフローして沈澱処理水として流出するようになっている。
【0005】
高速凝集沈澱池は、フロック形成速度がフロック粒子数の2乗及びフロック粒径の3乗に比例することを利用して、フロックの濃度が高い部分を設けて、原水がここを通るようにすることで、初期の微細なフロックを、既に成長したフロック(これを本発明では「母フロック」と称する)に補足させながら凝集させて凝集沈澱の効率を高める方法である(非特許文献1)。よって、高速凝集沈澱池によれば、迅速にフロックを形成することができ、しかも、生成されたフロックが粗大で大きな沈降速度を有するため、沈澱池面積が小さく済ませることもできる。また、高分子凝集剤を用いる必要が無いため、水道等、安全・安心を要求される水処理分野にも広く利用されている。
【0006】
このような高速凝集沈澱地に関して、特許文献1には、無機凝集剤とともに被処理水に添加する不溶解性凝集助剤として、被処理水に添加した場合のゼータ電位が−40mV以下であり、比重が2.0以上4.0以下であり、粒度分布が100μm以上の粒子の存在割合が5質量%以下でかつ10μm以下の粒子の存在割合が30質量%以下である凝集助剤が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「水道施設設計指針2000」、第199〜201頁
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−7086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この種の高速凝集沈澱池では、点検及び修繕を1年に1回程度の頻度で行う必要があり、その都度、沈澱池をいったん空にして点検及び修繕を行う必要がある。そのため、通常運転を再開するためには、空となった沈澱池内に新たな原水を引き込み、原水由来の濁質分をもとにして、フロック形成の種となる母フロック(本発明では、「初期母フロック」と称する)を形成するところから開始して、沈澱池内に十分な量の初期母フロックを滞留させる必要がある。
【0010】
この際、従来の高速凝集沈澱池の立ち上げ方法は、高速凝集沈澱池に初期原水を導入し、導入した初期原水に無機凝集剤乃至凝集助剤を加えて高速凝集沈澱池内において初期母フロックを形成し、高速凝集沈澱池内に初期母フロックを十分に滞留させることができたら、被処理水としての初期原水を高速凝集沈澱池内に導入して通常運転を開始する方法であった。
【0011】
ところが、このように高速凝集沈澱池を立ち上げていたのでは、十分な量の初期母フロックを沈澱池内に滞留させるまでに長期間を要するため、高速凝集沈澱池を新設した際或いはメンテナンスした際、通常運転に復帰させるまでに長期間を要するという課題を抱えていた。しかも、近年、ダム設置等の河川改修が進み、取水源となる河川水の濁度はますます低くなる傾向にあるため、初期母フロックの形成に要する期間がさらに長期化する傾向にあった。
【0012】
そこで本発明の目的は、高速凝集沈澱池を立ち上げる際、すなわち、高速凝集沈澱池の運転を開始又は再開する際に行う初期母フロックの形成を、より一層効率良く行うことができる方法及び装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高速凝集沈澱池とは別に、該高速凝集沈澱池よりも貯留容量の小さな初期母フロック形成槽を設け、前記初期母フロック形成槽内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤及び凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給した後、再び、前記初期母フロック形成槽内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤及び凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給する工程を繰り返すことにより、高速凝集沈澱池内に初期母フロックを滞留させることを特徴とする、高速凝集沈澱池の立ち上げ方法を提案するものである。
【0014】
本発明はまた、このような高速凝集沈澱池の立ち上げ方法を実現するための装置として、高速凝集沈澱池とは別に、該高速凝集沈澱池よりも貯留容量が小さく、且つ、撹拌手段を備えた初期母フロック形成槽を設けてなる構成を備えた高速凝集沈澱装置を提案するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明が提案する高速凝集沈澱池の立ち上げ方法は、比較的容量の小さな初期母フロック形成槽において比較的少量の初期母フロックを形成し、形成した初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給することを繰り返して高速凝集沈澱池内に初期母フロックを滞留させる方法である。この方法によれば、高速凝集沈澱池内において初期母フロックを形成する従来の方法に比べて、より一層効率良く初期母フロックを形成することができ、より一層短時間で高速凝集沈澱池を立ち上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の高速凝集沈澱装置の一例を示した模式図である。
【図2】本発明の高速凝集沈澱装置の一例に係る高速凝集沈澱池の一例を示した模式図である。
【図3】従来の高速凝集沈澱装置の一般的な構成例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明がここで説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<本高速凝集沈澱装置>
先ず、本発明が提案する高速凝集沈澱池の立ち上げ方法を実現するための装置の一例(以下「本高速凝集沈澱装置1」と称する)について説明する。但し、本発明が提案する高速凝集沈澱装置が当該本高速凝集沈澱装置1に限定されるものではない。
【0019】
本高速凝集沈澱装置1は、図1に示すように、高速凝集沈澱池10とは別に、該高速凝集沈澱池10よりも貯留容量が小さい初期母フロック形成槽2を設けてなる構成を備えており、初期母フロック形成槽2で形成した初期母フロックを高速凝集沈澱池10に供給できるように構成されている。
【0020】
(高速凝集沈澱池10の構成)
高速凝集沈澱池10の構成は、特に限定するものではない。例えば高速凝集沈澱池の原理及び機構を分類した、参考文献(設計指針)記載の分類で説明すると“スラリ循環型“、”スラッジブランケット型“、”複合型“の全て適用することができる。
また、高速凝集沈澱池に傾斜板等沈降装置を組み合わせた構成など、水処理一般に用いられている変形や組合せにも、適用可能である。
【0021】
ここで、高速凝集沈澱池10の具体的な一例について説明する。但し、高速凝集沈澱池10の構成がこれに限定されるものではない。
【0022】
高速凝集沈澱池10としては、例えば図2に示すように、一次撹拌室11a及び二次撹拌室11bからなる撹拌部11と、沈澱部12とを備えており、原水供給管15が一次撹拌室11aに連通しており、該原水供給管15には初期母フロック供給管8が接続している構成を例示することができる。
かかる構成の高速凝集沈澱池10においては、一次撹拌室11a内で撹拌翼14が回転するようになっており、一次撹拌室11a内で初期母フロック乃至母フロックと原水が混合撹拌された後、二次撹拌室11bに移動するようになっている。
【0023】
高速凝集沈澱池10は、立ち上げ時においては、一次撹拌室11a、二次撹拌室11b及び沈澱部12が空の状態から、初期母フロック形成槽2で形成された初期母フロックが初期母フロック供給管8及び原水供給管15を通じて一次撹拌室11aに供給され、一次撹拌室11a、二次撹拌室11b及び沈澱部12内に初期母フロックが滞留することになる。
【0024】
他方、通常運転時には、原水に無機凝集剤乃至凝集助剤が添加された状態で、原水供給管15を通じて一次撹拌室11aに供給され、該一次撹拌室11aを通じて二次撹拌室11bに移動するうちに、高速凝集沈澱処理に有用なスラリを生成する。そして、このスラリは、沈澱部12内でスラリ界面を形成する。その一方、沈澱部12の下部は一次撹拌室11aと連通しており、沈澱部12内のスラリ(;フロックを含有している)は一次撹拌室11aに返送され、一次撹拌室11a内において、既存のスラリの存在下で新たなスラリを生成するようになっている。他方、沈澱部12内の沈澱水は、上方の越流口13からオーバーフローして沈澱処理水として流出する。
【0025】
(初期母フロック形成槽2)
初期母フロック形成槽2の構成は、反応槽内に初期原水を導入でき、導入した初期原水に無機凝集剤乃至凝集助剤を加えることができ、これらを撹拌することができ、初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給することができればよい。
【0026】
初期母フロック形成槽2の構成例としては、例えば図1に示すように、反応槽3と、撹拌手段4と、初期原水導入管5と、無機凝集剤添加手段6と、凝集助剤添加手段7と、初期母フロックを高速凝集沈澱池10に供給する初期母フロック供給管8とを備えた構成を挙げることができる。
但し、初期原水導入管5、無機凝集剤添加手段6及び凝集助剤添加手段7は必要に応じて設ければよく、必ずしも設備として設ける必要はない。
【0027】
初期母フロック形成槽2の貯留容量、すなわち原水を貯留できる容量は、高速凝集沈澱池10よりも少なければ、任意に設計可能である。
初期母フロック形成槽2内で初期母フロックを形成し、形成した初期母フロックを高速凝集沈澱池10に順次供給する作業を繰り返して高速凝集沈澱池10内に初期母フロックを滞留させることを考えると、初期母フロック形成槽2の貯留容量は高速凝集沈澱池10の貯留容量の1/2以下、中でも1/3以下、その中でも1/4以下とするのが好ましいと考えることができる。
【0028】
また、初期母フロック形成槽2では、撹拌効率を高めることが好ましいため、高速凝集沈澱池10の貯留容量に対する高速凝集沈澱池10内の撹拌翼の半径の比率よりも、初期母フロック形成槽2の貯留容量に対する初期母フロック形成槽2内の撹拌翼の半径の比率の方を大きくすることが好ましい。
また、初期母フロック供給管8にはポンプを設置し、初期母フロック形成槽2内の初期母フロックを高速凝集沈澱池10に送ることができるようにするのが好ましい。
【0029】
<本立ち上げ方法>
次に、本発明が提案する高速凝集沈澱池の立ち上げ方法の一例(以下「本立ち上げ方法」と称する)について説明する。但し、高速凝集沈澱池の立ち上げ方法は本立ち上げ方法に限定されるものではない。
【0030】
本立ち上げ方法は、上記の如く高速凝集沈澱池10とは別に初期母フロック形成槽2を設け、前記初期母フロック形成槽2内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤乃至凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽2内の初期母フロックを高速凝集沈澱池10に供給し、次に再び、前記初期母フロック形成槽2内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤乃至凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽2内の初期母フロックを高速凝集沈澱池10に供給する工程を繰り返すことにより、高速凝集沈澱池10内に初期母フロックを滞留させるという方法である。
そして、このようにして高速凝集沈澱池10内に十分な量の初期母フロックを滞留させることができたら、被処理水としての初期原水を原水供給管15を通じて高速凝集沈澱池10に供給して通常運転を開始することができる。
【0031】
このように比較的容量の小さな初期母フロック形成槽2において、比較的少量の初期母フロックを形成し、形成した初期母フロックをその都度高速凝集沈澱池10に供給することを繰り返して高速凝集沈澱池10内に初期母フロックを滞留させることにより、高速凝集沈澱池10内において初期母フロックを形成して滞留させる方法に比べて、初期原水と凝集剤乃至凝集助剤とを均一且つ効率的に接触させることができるから、より一層効率良く初期母フロックを形成することができ、その結果より一層短時間で高速凝集沈澱池10を立ち上げることができる。
また、高速凝集沈澱池10内の様子を見ながら、初期母フロック形成槽2から供給する初期母フロックの量を適宜調整できる点でも優れている。
【0032】
初期母フロック形成槽2内で初期母フロックを形成することができたら、少なくともその50%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上(100%を含む)の初期母フロックを高速凝集沈澱池10に供給し、その後、前記初期母フロック形成槽2内に初期原水を導入して初期母フロックを形成するのが好ましい。
【0033】
(初期原水)
ここで、「初期原水」とは、初期母フロックを形成するために用いられる原水(被処理水)の意味である。
【0034】
初期原水としては、例えば河川水、地下水及び雨水のほか、下水、し尿、産業排水等の排水の処理水など、浄化を必要とする水全般を包含する。
【0035】
初期原水の濁度は10度以下であるのが好ましい。初期原水の濁度が低い程、本発明の効果をより一層享受できるから、かかる観点からすると、初期原水の濁度は5度以下であるのがさらに好ましく、その中でも3度以下であるのがより一層好ましい。
【0036】
初期原水のpHは6.0〜8.0の範囲に調整するのが好ましい。
原水(被処理水)が強酸性であると、例えばアルミニウムや鉄などの金属塩を含有する凝集剤などを使用する場合、アルミニウムが単純イオン(Al3+)の形で存在することになるため、フロックを形成させることが困難になる。また、原水が酸性の場合、Al3+としてアルミニウムが溶解する割合が多く、またその後の処理で被処理水を中性域にした場合に固形分が析出するようになる。その一方、原水(被処理水)がアルカリ性であると、アルミニウムは負電荷(AlO2−)として溶解する割合が増加し、その後の処理で被処理水を中性にすると固形分が析出する。これに対し、原水(被処理水)のpHが中性付近であると、Al3+と水酸化物イオンとが結合する割合が増加し、電気的に中性で不溶性の水酸化アルミニウムになる。この不溶性水酸化アルミニウムが濁度成分と凝集助剤とを取り込んでフロックになる。
このような観点から、初期原水のpHは6.0〜8.0、特に7.0以上或いは7.5以下の範囲に調整するのが好ましい。
【0037】
よって、必要に応じて、初期原水にpH調整剤を加えてpHを調整した後、無機凝集剤乃至凝集助剤を添加するのが好ましい。
この際、アルミニウムや鉄などの金属塩を凝集剤として用いる場合、金属塩が弱酸性であるため、水に加えるとpHが低下する。このときに必要以上にpHの低下が起こると、上述のようにフロックが形成しなくなるおそれがあるため、その場合には、アルカリ(苛性ソーダ、石灰、重炭酸ソーダなど)を用いて初期原水のpHを調整することが望ましい。
【0038】
(凝集助剤)
凝集助剤としての微細砂は、100μm以上の質量割合が5%以下であり、且つ10μm以下の質量割合が30%以下である粒度分布を有し、且つ比重が2.0〜4.0であるのが好ましい。
このような微細砂を凝集助剤として用いれば、粘土、色コロイド、有機コロイド等、種々の濁度成分の凝集沈澱処理において、効果的にフロックの形成及び成長を促進することができる。
【0039】
微細砂は、100μm以上の質量割合が5%以下で、10μm以下の質量割合が30%以下である粒度分布を有するのが好ましい。
粒径が100μm以上の粒子は、通常微粒子と呼ばれる粒子に比べて大きく、沈降速度も大きいため、沈積を防止して原水中に均一に分散させるためには、撹拌速度を大きくしなければならない。また凝集助剤の粒径が大きいということは、質量基準の添加量が同じでも粒子表面積は小さくなることを意味し、これにより凝集助剤と無機凝集剤との接触確率が減少しうる。したがって、凝集助剤として100μm以上の粒子があまり多く存在しないことがより好ましいと言える。さらに、10μm以下の粒子は、質量基準の添加量が同じでも粒子数が多くなることを意味し、これによりフロックに取り込まれない凝集助剤の割合も増加しうる。したがって、凝集助剤として10μm以下の粒子が必要以上に多く存在しないことが好ましいと言える。すなわち、フロックに取り込まれなかった凝集助剤が、自身で沈降し、処理水に混入することがないようにするためには、粒径が細かすぎず、かつ一定以上の沈降速度(すなわち一定以上の比重)を有することが必要となる。
【0040】
微細砂はさらに、比重が2.0〜4.0であるのが好ましい。比重が大きすぎると、被処理水中に均一に分散させるために撹拌速度を増大させる必要が生じ、比重が小さすぎると、フロックの沈降速度を増加する作用が不十分となる上、フロックに取り込まれなかった場合に凝集助剤自身で沈降することが困難であるため、被処理水に凝集助剤が混入するおそれがある。
かかる観点から、微細砂の比重は2.4以上或いは2.7以下であるのがさらに好ましい。
なお、凝集助剤については、特開2006−7086号公報の段落[0022]−[0034]の記載も引用する。
微細砂の添加形態としては、注入ラインで閉塞しないようにすれば、粉体でも、溶液でもよい。
【0041】
微細砂は、水に不溶解性で、かつ被処理水に添加した場合のゼータ電位が−30mV〜−60mVであることがさらに好ましい。
ゼータ電位とは、液体中の粒子が動くときに、同時に動く層と動かない層とのせん断面における電位、すなわち粒子のすべり面の電位のことであり、凝集状態の良否の判定指標として広く用いられる値である。
このようなゼータ電位を有する微細砂であれば、無機凝集剤から生成するフロックに効率的に取り込まれ、処理水に残留することがほとんどないという点で好ましい。凝集剤(PAC、硫酸アルミニウムなど)が水中で水酸化アルミニウムを生成する過程で、濁度成分と共に凝集助剤をも取り込んでフロックを形成するが、凝集助剤のゼータ電位が−30mV〜−60mVであることでフロックに取り込まれやすくなる。
かかる観点から、微細砂のゼータ電位は、特に−50mV以下であるのが好ましい。
【0042】
このような微細砂は、初期母フロック形成槽2内における微細砂の濃度(初期原水に対する濃度)が100〜4000mg/Lとなるようにその添加量を調整するのが好ましい。
微細砂が少ないと、凝集不良が生じて初期母フロックが十分生成せず、凝集で捕捉されなかった濁質分は浮遊し、立ち上げ時に処理水と共に越流して処理水濁度が上昇し、長時間を要するようになる。一方、微細砂が多すぎると、余分な微細砂が処理水中に残留して処理水水質の低下を招いたりする可能性がある。
よって、かかる観点から、微細砂の添加量は、初期母フロック形成槽2内における、初期原水に対する微細砂の濃度が200mg/L以上或いは2000mg/L以下、その中でも350mg/L以上或いは1200mg/L以下、さらにその中でも900mg/L以下となるように、その添加量を調整するのがさらに好ましい。
【0043】
微細砂の添加速度に関しては、微細砂を初期母フロック形成槽2内に投入開始してからの、微細砂の初期母フロック形成槽2内平均濃度の上昇速度が1〜90mg/L/minの範囲内となるように制御するのが好ましい。微細砂平均濃度の上昇速度が低過ぎては効率が悪い一方、高過ぎると、凝集不良を起こして初期母フロックの形成効率が低下してしまうことが確認されている。かかる観点から、微細砂を初期母フロック形成槽2内に投入開始してからの、微細砂の初期母フロック形成槽2内平均濃度の上昇速度が60mg/L/min以下となるように制御するのがより一層好ましい。
【0044】
(凝集剤)
初期母フロック形成時に添加する無機凝集剤は、通常の凝集沈澱水処理方法において使用される一般的な凝集剤を用いることができる。例えばポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸ばん土、固形硫酸アルミニウム、液体硫酸アルミニウム、硫酸第二鉄等を挙げることができる。これらのうちの1種或いは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
凝集剤は、微細砂100質量部に対して10〜150質量部加えるのが好ましい。
通常運転時には、凝集剤に対する凝集助剤の比率を一定範囲内になるように、両者の量を調整するのが好ましいが、初期母フロック形成時には、微細砂に対する凝集剤の添加量が一定範囲内になるように調整するのが好ましい。そしてこの際、微細砂に対する凝集剤の量が少な過ぎると、凝集に取り込まれない微細砂が生じることになり、逆に多すぎると、フロックが膨化して沈降性に乏しいフロックが形成されるようになり、その結果、運転開始後に水質の低下を招く一因となる可能性がある。
よって、かかる観点から、微細砂100質量部に対して25質量部以上或いは100質量部以下の割合で凝集剤を加えるのがより一層好ましく、その中でも、40質量部以上或いは60質量部以下の割合で凝集剤を加えるのがさらにより一層好ましい。
【0046】
(凝集剤及び凝集助剤の添加)
凝集剤と凝集助剤(微細砂)の添加の順序はいずれでもよいし、同時に添加してもよい。
凝集剤と凝集助剤(微細砂)の注入点は同じとすることが好ましいが、凝集剤及び凝集助剤(微細砂)を処理水中に残留させないという観点からすると、沈降性を有する微細砂を先に添加することが好ましい。
【0047】
初期原水、凝集剤及び凝集助剤(微細砂)を初期母フロック形成槽2内に導入すると共に、或いは、導入した後、初期母フロック形成槽2内の初期原水を撹拌するのが好ましい。
【0048】
<用語の説明>
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【0049】
1 本高速凝集沈澱装置
2 初期母フロック形成槽
3 反応槽
4 撹拌手段
5 初期原水導入管
6 無機凝集剤添加手段
7 凝集助剤添加手段
8 初期母フロック供給管
10 高速凝集沈澱池
11a 一次撹拌室
11b 二次撹拌室
11 撹拌部
12 沈澱部
13 越流口
14 撹拌翼
15 原水供給管
51 原水
52 一次撹拌室
53 二次撹拌室
54 沈澱部
54a 沈澱部上澄液部
54b スラリプール(沈澱部スラリ滞留部)
54c スラリ界面
55 沈澱水
56b 沈澱部から攪拌室へのスラリ返送流
57 排泥
58 無機凝集剤
59 撹拌翼
60 外側ドラフトチューブ
61 撹拌室へ流入するスラリ
62 撹拌室へ流入する原水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速凝集沈澱池とは別に、該高速凝集沈澱池よりも貯留容量の小さな初期母フロック形成槽を設け、
前記初期母フロック形成槽内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤及び凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給した後、再び、前記初期母フロック形成槽内に初期原水を導入すると共に、導入した初期原水に無機凝集剤及び凝集助剤を加えて撹拌して初期母フロックを形成し、当該初期母フロック形成槽内の初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給する工程を繰り返すことにより、高速凝集沈澱池内に初期母フロックを滞留させることを特徴とする、高速凝集沈澱池の立ち上げ方法。
【請求項2】
請求項1記載のようにして高速凝集沈澱池内に初期母フロックを滞留させた後、被処理水としての初期原水を高速凝集沈澱池内に供給して高速凝集沈澱池の通常運転を開始することを特徴とする請求項1記載の高速凝集沈澱池の立ち上げ方法。
【請求項3】
凝集助剤として、100μm以上の重量割合が5%以下で、且つ10μm以下の重量割合が30%以下である粒度分布を有し、且つ比重が2.0〜4.0である微細砂からなる凝集助剤を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の高速凝集沈澱池の立ち上げ方法。
【請求項4】
初期母フロック形成槽内における凝集助剤の濃度が100mg/L〜4000mg/Lとなるように、初期原水に凝集助剤を加えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高速凝集沈澱池の立ち上げ方法。
【請求項5】
高速凝集沈澱池とは別に、該高速凝集沈澱池よりも貯留容量が小さく、且つ、撹拌手段を備えた初期母フロック形成槽を設けてなる構成を備えた高速凝集沈澱装置。
【請求項6】
初期母フロック形成槽は、反応槽と、撹拌手段と、初期原水導入管と、無機凝集剤添加手段と、凝集助剤添加手段と、初期母フロックを高速凝集沈澱池に供給する初期母フロック供給管とを備えたものであることを特徴とする請求項5に記載の高速凝集沈澱装置。
【請求項7】
高速凝集沈澱池の貯留容量に対する高速凝集沈澱池内の撹拌翼の半径の比率よりも、初期母フロック形成槽の貯留容量に対する初期母フロック形成槽内の撹拌翼の半径の比率の方が大きいことを特徴とする請求項5又は6に記載の高速凝集沈澱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−228673(P2012−228673A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99478(P2011−99478)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】