説明

高齢者における免疫系を補助するためのシアル酸

本発明は、一般に、免疫系の分野、特に、高齢者の免疫系を高めることに関する。本発明の一実施形態は、免疫系を高める組成物の調製のためのシアル酸で富化された食品の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般に、免疫系の分野、特に、高齢者の免疫系を高めることに関する。本発明の一実施形態は、高齢者において免疫系を高める組成物の調製のためのシアル酸で富化された食品の使用に関する。
【0002】
老化過程の間、免疫機能は低下し、これは、あらゆるヒト並びに動物に影響を与える現象である。この低下は、感染に対する感受性が高まることによって現れ、罹患率及び死亡率が高くなる。
【0003】
例えば、免疫系の年齢関連性変化には、ナイーブT細胞の減少及びメモリーT細胞の蓄積を伴うT細胞サブセットの変化が含まれ、この結果、T細胞機能の低下がもたらされる。同様に、高齢のヒトにおける一次抗体反応はしばしば、弱く、より低い親和性で短命である。したがって、高齢者の免疫系は、一般に、体を外部の攻撃(challenge)から防御する能力が低下する。
【0004】
高齢の対象において免疫系が弱まると、感染のリスクが高まり、より若い成人に比べて感染の重症度が高まる。
【0005】
現在、ワクチンは、一般に、より高齢の成人の免疫系において同じように作用しないが、ワクチン接種によるこうした感染リスクの増加を低減することが試みられ成功している。今日使用される典型的なワクチン接種には、インフルエンザ、肺炎、B型肝炎、結核、ジフテリア及び破傷風などの疾患のためのワクチン接種が含まれる。
【0006】
しかし、当技術分野で、体の免疫防御を高める代替ツールの必要性が残る。
【0007】
本発明者らは、この必要性に取り組んできた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、誰もが利用可能であり、望まれない副作用のリスクなしに投与することができ、安価で、高齢者の免疫系を高めるために用いることができる組成物を当技術分野に提供することである。
【0009】
本発明者らは、これらが請求項1に従う使用によって本目的を達成することができるとわかって驚いた。
【0010】
シアル酸(SiAc)は、ノイラミン酸(NeuAc)に由来する荷電した9炭素単糖類ファミリーであり、NeuAcを含んでいる。NeuAcは、普通ならヒトにおいて形成される唯一のシアル酸である。他の脊椎動物では、例えば、N−グリコリルノイラミン酸(NeuGc)も存在する。
【0011】
今日、シアル酸は、乳幼児栄養の分野でしばしば用いられる。例えば、乳幼児の認知発達におけるSiAcのあり得る関与について、Wang(Wang,B.and Brand−Miller,J.(2003)Eur.J.Clin.Nutr.Nov;57巻(11号):1351〜69頁)がまとめた。簡単にいうと、母乳で育てた乳幼児と調製粉乳で育てた乳幼児を比較する研究では、普通の乳幼児用の調製粉乳に比べて母乳の高いNeuAc含有量は、乳幼児の唾液及び脳のNeuAc含有量の増加と相関することが実証される。しかし、ヒトにおけるNeuAc補充の、行動への効果は得られていない。しかしながら、NeuAcを牛乳に補充すると、ヒトの乳の属性を牛乳に与え、それらは小児の脳の発達に影響を与え得ると推測される。
【0012】
NeuAcに富む天然資源は、例えば、人乳、ゾウの乳、インド水牛の乳、食肉、卵及び魚である。
【0013】
本発明者らは、シアル酸が乳幼児にうまく投与され得るだけでなく、高齢者の免疫系を高めるのに特に有効であるということを現在見出している。
【0014】
本発明の組成物を高齢の動物に投与すると、遅延型過敏によって測定されたように細胞性免疫応答の改善をもたらす。同時に、抗炎症分子をコードする遺伝子又は酸化的損傷からの防御に関与する分子をコードする遺伝子の発現は、対照群に比べて本発明の組成物で育てた動物の肝臓において増加した。
【0015】
理論によって縛られることを望まないが、本発明者らは、免疫応答の改善が、年齢と共に増加すると思われる肝臓において見出される炎症及び酸化的損傷の減少によって説明することができ、前記シアル酸で富化された組成物の投与の際に減少し得ると現在推測する。
【0016】
N−アセチルノイラミン酸が、ヒトにおいて天然に形成される唯一のシアル酸でもあるため、このような目的のために用いることができるなら、好ましいはずである。
【0017】
P.Gorogらは、シアル酸の抗炎症効果を記載している(Agents and Actions、第8巻、no.5、1987年、543〜545頁)。
【0018】
国際公開第2005/056047号パンフレットは、抗炎症薬としてのシアル酸及びその類似体の使用を記載している。
【0019】
特開平2−48529号公報では、N−アセチルノイラミン酸塩(I)がI型アレルギー抑制効果を有することを開示している。
【0020】
しかし、N−アセチルノイラミン酸をそのまま投与すると、非常に高速の「急性の」取り込み及びN−アセチルノイラミン酸の全身的な増加をもたらし、尿へのより高い排出によって循環N−アセチルノイラミン酸レベルの高速の回復を誘発する。
【0021】
したがって、N−アセチルノイラミン酸ピークの生成及びその結果のN−アセチルノイラミン酸の排出の増加を回避する形態でN−アセチルノイラミン酸を提供することが望ましいはずである。
【0022】
したがって、本発明の目的は、現況技術を改善すること及びより長期間、生物が利用可能であり続け、特に高齢者に有益である天然の免疫増強剤(immune boosting agent)を提供することであった。
【0023】
本発明者らは、独立請求項の主題によりこの目的を達成した。従属請求項は、本発明をさらに展開する。
【0024】
したがって、本発明の一実施形態は、免疫系の変化に関連づけられる障害を治療する又は予防するための、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画を含む組成物である。
【0025】
本発明はまた、免疫系の変化に関連づけられる障害を治療する又は予防するための組成物を調製するための、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画を含む組成物の使用に関する。
【0026】
トレオニンに富むとは、トレオニン含有量がヒトのタンパク質質量における平均トレオニン存在量よりも高いことを意味する。例えば、トレオニン含有量は、ヒトのタンパク質質量における平均トレオニン存在量に比べて少なくとも10%増加し得る。
【0027】
したがって、トレオニンは、タンパク質分画中のアミノ酸の少なくとも6.3モル%を占め得る。
【0028】
例えば、トレオニンは、アミノ酸総数の約8〜22%の量で存在し得る。
【0029】
タンパク質分画は約7〜25質量%のN−アセチルノイラミン酸をさらに含むことができる。
【0030】
N−アセチルノイラミン酸は、グリカン結合形態で提供することができる。例えば、N−アセチルノイラミン酸は、糖タンパク質及び/又はプロテオグリカンに結合した形態で提供することができる。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、タンパク質分画は、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖(アミノ酸の総数の8〜22%)及び7〜25質量%のNeuAc含有量を特徴とするN−アセチルノイラミン酸(NeuAc)を含む。
【0032】
N−アセチルノイラミン酸は、オリゴ糖成分の形態、例えば、一般式RSac[式中、Rはアミノ酸残基であり、Sacは、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルガラクトサミン及びガラクトースを含む群から選択される単糖であり、nは1〜10の値を有し、ただし、nが1の値を有する場合、Rはトレオニン残基又はセリン残基であり、nが2〜10の値を有する場合、ペプチドは少なくとも1種のトレオニン又はセリン残基を含み、mは2〜4の値を有する]の、かつ、成分の少なくとも15モル%はN−アセチルノイラミン酸である、グリコシル化されたアミノ酸及びペプチドを含むオリゴ糖成分の形態で提供することができる。
【0033】
好ましくは、nは1〜3の値を有し、mは3又は4の値を有する。
【0034】
この成分は、トレオニン又はセリンのヒドロキシル基に結合している糖鎖の一部として少なくとも15モル%のシアル酸を含む。シアル酸は、その鎖の一部を形成することができる又はそれ自体その鎖中の単糖ユニットの置換基になり得る。
【0035】
好ましくは、オリゴ糖成分は以下の単糖を含む。
【表1】

【0036】
オリゴ糖成分は、セリン及びトレオニンの混合物の20〜25モル%を含むことができる。
【0037】
オリゴ糖成分は、以下のグリコシル化されたアミノ酸又はペプチドを含むことができる。
NeuAc−α−2,3−Gal−β−1,3−(NeuAc−α−2,6−)−GalNAc−R
NeuAc−α−2,3−Gal−β−1,3−GalNAc−R
Gal−β−1,3−(NeuAc−α−2,6−)−GalNAc−R
Gal−β−1,3−GalNAc−R
【0038】
本発明のオリゴ糖成分は、エキソプロテアーゼ及びエンドプロテアーゼを一緒に又は順次用いて、遊離のアミノ酸及び鎖長2〜10を有するペプチドの混合物を得、加水分解された混合物を、分子量1000〜2000ダルトンを有する分画を保持するようにナノろ過にかけて、CGMPの加水分解によって生成することができる。
【0039】
CGMP自体は、全乳が酵素レンニンで処理されてカゼインを沈殿させるチーズ製造の副生成物である。この過程において、CGMPは、κカゼインから切断され、乳清タンパク質を含む溶液中に残存する。この生成物は甘味乳清として知られている。CGMPは、当技術分野で知られている任意の過程によって乳清タンパク質から分離することができる。適当な過程は、欧州特許第986312号に記載されている。
【0040】
理論によって縛られるものではないが、本発明者らは、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸、例えば、グリカンに結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画は、以下の推論から、遊離のN−アセチルノイラミン酸と比較して有利であると考える。遊離のN−アセチルノイラミン酸は、非常に高速の「急性の」取り込み及びN−アセチルノイラミン酸の全身的な増加をもたらし、尿へのより高い排出によって循環N−アセチルノイラミン酸レベルの高速の回復を誘発する。トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画はこれを回避する。例えば、グリカン結合のN−アセチルノイラミン酸は全腸管部に達し、(i)小腸下部及び結腸を含めた腸管全体におけるN−アセチルノイラミン酸のゆっくりとした「慢性の」取り込み及び(ii)有益な腸管細菌叢の刺激をもたらす。ある種のビフィズス菌などの有益な腸管細菌叢は、主鎖、例えば、グリカン主鎖からN−アセチルノイラミン酸を切断し、腸管下部のN−アセチルノイラミン酸の取り込みを助け、次いで、主鎖、例えば、グリカン主鎖からそれ自体で利益を得ることができ、これは有益な細菌叢による宿主への追加の免疫増強効果で見られる。したがって、遊離のN−アセチルノイラミン酸と比較して、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸、例えば、グリカンに結合するN−アセチルノイラミン酸の相乗的な利益を示す。
【0041】
この組成物は、高齢者に投与されるものとなり得る。
【0042】
本発明はまた、高齢者における免疫系を高める組成物を調製するためのN−アセチルノイラミン酸の使用に関する。
【0043】
本発明は、さらに、免疫系の変化に関連づけられる障害を治療する又は予防するための組成物を調製するためのN−アセチルノイラミン酸の使用に関する。
【0044】
免疫系の変化は、高齢者にしばしば起こる、体液性免疫機能障害の増加に付随する細胞性免疫応答の顕著な低下など、免疫系の調節不全となり得る。
【0045】
これは、結果としてワクチンに対する応答が低くなり得る。本発明の組成物は、ワクチン反応刺激効果をもたらすために用いることができる。その結果、本発明の組成物は、ワクチン接種の効果を増加させるために用いることができる。
【0046】
本発明の組成物によってより有効にすることができる典型的なワクチン接種は、インフルエンザ、肺炎、B型肝炎、結核、ジフテリア及び破傷風などの疾患のためのワクチン接種である。
【0047】
したがって、本発明の組成物は、ワクチンとの同時投与を行うことができる。同時投与には、本発明の目的のために、ワクチン接種期間の3カ月前からワクチン接種期間の3カ月後までの本発明の組成物の投与が含まれる。
【0048】
本発明の組成物は、ワクチン接種期間中に投与されることが好ましい。
【0049】
したがって、本発明は、インフルエンザ、B型肝炎、結核、ジフテリア又は破傷風をそれぞれ予防するためにインフルエンザ、B型肝炎、結核、ジフテリア又は破傷風に対するワクチンと同時投与するためのトレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画を含む組成物に関する。
【0050】
対象は、対象の出生国における予想される平均寿命の半分を超える場合、好ましくは、対象の出生国における予想される平均寿命の3分の2を超える場合、より好ましくは、対象の出生国における予想される平均寿命の4分の3を超える場合、最も好ましいのは、対象の出生国における予想される平均寿命の5分の4を超える場合、「高齢者」とみなされる。
【0051】
組成物は、ヒト或いは動物、特にペット、愛玩動物及び/又は家畜に投与することができる。
【0052】
本発明はまた、N−アセチルノイラミン酸に富む組成物に関する。
【0053】
N−アセチルノイラミン酸は以下の同義語及び略語を有する。すなわち、o−シアル酸;5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロソン酸;5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノヌロソン酸;アセノイラミン酸;N−アセチル−ノイラミナート;N−アセチルノイラミン酸;NANA、及びNeu5Acである。
【0054】
本発明の組成物は、栄養組成物、栄養補助食品、飲料、食品添加物又は医薬品となり得る。食品添加物又は医薬品は、例えば、錠剤、カプセル剤、香錠又は液体の形態となり得る。食品添加物又は医薬品は、好ましくは、長期間一定のN−アセチルノイラミン酸の供給を可能にする徐放配合物として提供される。
【0055】
組成物は、好ましくは、粉乳ベースの製品、インスタント飲料、レディ・トゥ・ドリンク(ready−to−drink)配合物、栄養粉末、栄養液体、乳ベースの製品、特にヨーグルト若しくはアイスクリーム、穀物製品、飲料、水、コーヒー、カップチーノ、麦芽飲料、チョコレート味飲料、調理用製品、スープ、局所クリーム剤、坐剤、錠剤、シロップ剤、及び経皮適用のための配合物からなる群から選択される。
【0056】
乳は、動物又は植物の源から得られる任意の乳となり得、好ましくは、牛乳、人乳、羊乳、山羊乳、馬乳、ラクダの乳、米乳若しくは豆乳である。
【0057】
乳の代わりに、乳由来タンパク質分画又は初乳をも用いることができる。
【0058】
組成物は、保護親水コロイド(ゴム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、皮膜形成剤、封入剤/封入材料、壁材料/外皮材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸収剤、担体、充填剤、共化合物、分散化剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、テイストマスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成化剤、酸化防止剤及び抗菌剤をさらに含むことができる。組成物はまた、それだけには限らないが、水、任意の起源のゼラチン、植物ゴム、リグニンスルホナート、タルク、砂糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、矯味剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、滑沢剤、着色料、湿潤剤、充填剤などを含めた、従来の医薬品添加物、補助薬、賦形剤及び希釈剤を含むことができる。さらに、組成物は、USRDAなどの政府機関の勧告に従って、経口又は経腸投与に適した有機若しくは無機担体物質並びにビタミン、鉱物、微量元素及び他の微量栄養素を含むことができる。
【0059】
例えば、組成物は、1日用量当たり以下の微量栄養素の1種又は複数を以下に示す範囲で含むことができる。すなわち、300〜500mgのカルシウム、50〜100mgのマグネシウム、150〜250mgのリン、5〜20mgの鉄、1〜7mgの亜鉛、0.1〜0.3mgの銅、50〜200μgのヨウ素、5〜15μgのセレン、1000〜3000μgのβカロテン、10〜80mgのビタミンC、1〜2mgのビタミンB1、0.5〜1.5mgのビタミンB6、0.5〜2mgのビタミンB2、5〜18mgのナイアシン、0.5〜2.0μgのビタミンB12、100〜800μgの葉酸、30〜70μgのビオチン、1〜5μgのビタミンD、3〜10μgのビタミンEである。
【0060】
本発明の組成物は、タンパク質源、炭水化物源及び/又は脂質源を含むことができる。
【0061】
任意の適当な食物タンパク質は、例えば、動物性タンパク質(乳タンパク質、食肉タンパク質及び卵タンパク質など);植物性タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウ豆タンパク質など);遊離アミノ酸の混合物;又はそれらの組合せを用いることができる。カゼイン及び乳清などの乳タンパク質並びに大豆タンパク質が特に好ましい。タンパク質分画が、タンパク質分画のアミノ酸の総数の約8〜22%の量でトレオニンを含んだとき、本発明の目的のための非常に肯定的な結果になった。
【0062】
組成物が脂肪源を含む場合、脂肪源は、より好ましくは、調製物の5%〜40%のエネルギー;例えば、20%〜30%のエネルギーを提供する。DHAは加えてもよい。適当な脂肪プロフィールは、カノーラ油、トウモロコシ油及び高オレイン酸ヒマワリ油の混合物を用いて得ることができる。
【0063】
炭水化物源は、より好ましくは、組成物の40%〜80%のエネルギーを提供することができる。任意の適当な炭水化物は、例えば、スクロース、乳糖、グルコース、果糖、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、及びそれらの混合物を用いることができる。
【0064】
本発明の組成物は、免疫系の変化を治療する又は予防する、並びに/或いは、細胞性及び体液性免疫応答の変化を改善するために用いることができる。
【0065】
免疫系の変化は、感染、特に、細菌、ウイルス、真菌及び/又は寄生虫感染;自己免疫様疾患;自然防御障害、例えば、NK細胞欠損及び、白血球粘着不全症、周期性好中球減少症などの食細胞欠損;並びにそれらの組合せからなる群から選択される。自己免疫様疾患には、自己免疫疾患が含まれる。
【0066】
本発明の組成物は、感染症を治療する又は予防するために用いることもできる。N−アセチルノイラミン酸は、例えば、体の免疫系を高め、ひいては感染と戦うのに役立つ。
【0067】
組成物の免疫増強効果は、少なくとも1種のさらなる免疫増強剤を加えることによってさらに増強することもできる。
【0068】
組成物は、プロバイオティック微生物、並びに/或いは、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトシルオリゴ糖、ペクチン及び/又はそれらの加水分解物などのプレバイオティックを含むこともできる。
【0069】
「プロバイオティック」とは、宿主の健康又は福祉において有益な効果を有する微生物細胞製剤又は微生物細胞の構成物(components)を意味する。(Salminen S、Ouwehand A. Benno Y.ら、「Probiotics:how should they be defined」Trends Food Sci.Technol.1999年:10巻107〜10頁)。
【0070】
すべてのプロバイオティック微生物は、本発明に従って用いることができる。好ましくは、プロバイオティック微生物は、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属及びサッカロミセス属又はそれらの混合からなる群から選択され、具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、エンテロコッカス・フェシウム、サッカロマイセス・ブラウディ及びラクトバチルス・ロイテリ又はそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソニー(NCC533;CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC490;CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC2705;CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(2818;CNCM I−3446)、ラクトバチルス・パラカゼイ(NCC2461;CNCM I−2116)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサス(NCC4007;CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF 68(NCIMB101415)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0071】
本発明の組成物は、鎮痛剤、安定化剤、矯味剤、着色剤、滑沢剤、及び/又はプレバイオティックをさらに含むことができる。
【0072】
組成物がプロバイオティクスを含む場合、プロバイオティクス及びプレバイオティクスの存在が相乗効果を生むため、プレバイオティクスは特に好ましい。
【0073】
「プレバイオティック」とは、腸の中のプロバイオティックの増殖を促進する食品物質を意味する。プレバイオティックは、胃及び腸上部の中で分解せず、又はこれらを摂取する人のGI管で吸収されるが、プレバイオティックは胃腸の微生物叢及び/又はプロバイオティックによって発酵する。プレバイオティクスは、例えば、Glenn R.Gibson and Marcel B.Roberfroid、Dietary Modulation of the Human Colonic Microbiota:Introducing the Concept of Prebiotics、J.Nutr.1995年 125巻:1401〜1412頁によって定義されている。
【0074】
本発明に従って用いることができるプレバイオティクスは、特に制限されず、腸の中のプロバイオティクスの増殖を促進するすべての食品物質を含む。好ましくは、プレバイオティクスは、場合によって果糖、ガラクトース、マンノースを含むオリゴ糖;食物繊維、特に、可溶性繊維、大豆繊維;イヌリン;又はそれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましいプレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、グリコシルスクロース(glycosylsucrose)、ラクトスクロース、ラクツロース、パラチノーゼ−オリゴ糖、マルトオリゴ糖、ゴム及び/又はそれらの加水分解物、ペクチン及び/又はそれらの加水分解物である。
【0075】
本発明の組成物中のN−アセチルノイラミン酸の効果は、本質的に用量依存性であることが判明した。少量では効果が小さくなり、大量では多すぎて提供されたすべてのN−アセチルノイラミン酸を体が利用できないこともあり得る。提供されるN−アセチルノイラミン酸の厳密な量は、例えば、治療する対象及びその状態に依存する。一般にN−アセチルノイラミン酸はあらゆる量において有益な効果をもたらすが、N−アセチルノイラミン酸が組成物の乾燥質量1mg〜250mg/gの量で組成物中に存在する場合、特に好ましいということが判明した。
【0076】
N−アセチルノイラミン酸は、治療する対象体重1kg当たり1mg〜2g、好ましくは体重1kg当たり0.025g〜0.8g/kgの1日量で投与することができる。
【0077】
当業者には、開示された本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した本発明のすべての特徴を自由に組み合わせることができることが理解されよう。特に、本発明の使用のために記載した特徴は、本発明の組成物に適用することができ、逆の場合もあり得る。
【0078】
本発明のさらなる利点及び特徴は、以下の実施例及び図から明らかである。
【実施例】
【0079】
老化は、体液性免疫機能障害(例えば、ワクチンに対する応答が低い)の増加に付随する細胞性免疫応答の顕著な低下など、免疫系の調節不全に関連する。老化は、さらに、しばしば、軽度の炎症及び酸化ストレスの増加の状態に関連する。その結果、特に多くの高齢の対象は、罹患率及び死亡率に寄与する感染症及び非感染症のリスクが増加する。
【0080】
高齢マウスにおいて免疫変調を評価するための試験デザイン
特異的な病原体のない雄C57BL/6Jマウス(4週齢)をJanvier(France)から購入した。マウスを、従来の環境下(12時間光/暗闇の周期、温度22℃、湿度56%)で飼育し、水及び半合成Kliba3436の食餌を自由に与えた。5カ月の年齢まで、マウスをケージ当たり5匹で維持し、次いで、マウスを個別にケージに入れた。動物のすべての状態及び取扱いは、ネスレ(Nestle)及びスイス連邦獣医顧問(Swiss Federal Veterinary Advisor)の合意による国倫理委員会によって承認された。19カ月のマウスは、動物10匹を2群に無作為割付し、SiAc(食餌中の0.8重量%のN−アセチルノイラミン酸)を補充していない(対照群AIN−93、n=10)又は補充した(SiAc群、n=10)半合成のAIN−93の食餌で摂餌させた。試験42日間、すべてのマウスを自由に飲食させた。
【0081】
DTH反応を、細胞性免疫のin vivo測定として使用した。誘発前、24時間後から6日後の耳の厚さ(耳の腫脹)の測定によって、DTH反応をもたらす能力の決定が可能になった。簡単にいうと、試験15日目に、マウスを1% アルム(Alum)(Brenntag Biosector、Frederikssund、Denmark)中100μgで不活性抗原キーホールリンペットヘモシアニン(Keyhole Limpet Haemocyanin)(KLH、シグマ)の皮下注射(100μl)によって免疫した。免疫化の7日後、リコール抗原KLH(0.5μg/mlの10μl)を各マウスの右耳に注射することによってDTH反応を誘発した。左耳は、ビヒクル単独(食塩水=PBS)を注射し、各動物についての内部標準として使用した。誘発後24時間目に及びその後の5日間、誘発していない耳(左耳)及び誘発された耳(右耳)の両方を測定した。DTH反応(KLH−PBS)を、耳の腫脹の大きさ、すなわち、以下の式:耳の厚さにおけるΔ=[誘発された耳(右、KLH)の耳の病気−誘発されていない(左、PBS)耳の病気](式中、耳の厚さにおけるΔ=[誘発後の耳の厚さ−誘発前の耳の厚さ]である)を用いた耳の厚さの変化として表した。
【0082】
マウスを試験の42日目に屠殺した。炎症過程に関与する遺伝子の発現を、42日間SiAcを補充した又は補充していない高齢のマウスの肝臓において決定した。
【0083】
剖検で、肝臓を除去し、小片を液体窒素で直ちに凍結し、次いで、さらなる分析まで−80℃で貯蔵した。
【0084】
肝臓サンプルをRNA細胞溶解緩衝液(Macherey−Nagel、Duren、Germany)1mlに移し、リボライザー(Ribolyzer)(Hybaid、Waltham、MA、USA)を用いて以下の設定20秒間、出力6でホモジナイズした。RNA抽出を市販のキット(NucleoSpin RNA II Kit;Macherey−Nagel、Duren、Germany)を用いて行った。RNA定量をリボグリーンRNA定量キット(Ribogreen RNA Quantitation Kit)(Molecular Probes;Eugene、Oregon USA)を用いて達成し、RNAの品質をアジレントRNA6000ナノラブチップキット(Agilent RNA 6000 Nano LabChip Kit)(Agilent Technologies、Palo Alto、USA)を用いてアッセイした。全RNA(2μg)を、マルチスクライブ(Multiscribe)逆転写酵素を用いて製造業者の指示(Applied biosystems、Biosystems;Rokreutz、Switzerland)に従って逆転写した。
【0085】
タクマン(TaqMan)プローブを有するオーダーメイドの低密度アレイ(LDA)をApplied Biosystems(Foster City、USA)から購入し、製造業者の指示に従って用いた。遺伝子発現を、相対定量法であるSDS 2.2.2 ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いたΔΔCt法を用いて算出した。得られた周期閾(Ct)値をさらなる分析のためにMSエクセル(MS Excel)(Microsoft、USA)にエクスポートした。簡単にいうと、ΔCt値(すなわち、標的遺伝子のCt値−GAPDHハウスキーピング遺伝子のCt値)をまず算出し、次いで、相対的mRNA発現を以下の式2−ΔCt×10を用いて決定した。データを、適当なときに平均+/−SEM及びスチューデントT検定(対応なし)又は2方向ANOVAによって分析した。5%未満の確率値を有意とみなした。
【0086】
結果:
高齢のマウスにおけるSiAc補充の免疫促進効果
SiAc(0.8重量% 食事で取り込まれたN−アセチルノイラミン酸)を含む食餌性補充により高齢のマウスにおいて細胞性免疫応答(図1)を改善した。この補充は、抗炎症分子(例えば、TGF−β2)又は酸化的損傷からの防御に関与する分子(例えば、HO−1及びSOD2)をコードする遺伝子の発現の増加によって観察された通り、年齢に関連する軽度の炎症及び酸化的損傷(図2)を軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】SiAcを補充していない(AIN−93、n=10)又はSiAcを補充した(SiAc、n=10)高齢のマウスにおける細胞性免疫遅延型過敏(DTH)応答を示す図である。
【図2】抗炎症過程(TGF−β2)に関与する分子をコードし、42日間SiAcを補充していない(AIN−93、n=8)又はSiAcを補充した(SiAc、n=8)高齢のマウスの肝臓における酸化的損傷(HO−1及びSOD−2)からの防御の役割をするmRNAの発現を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫系の変化に関連づけられる障害を治療する又は予防するための、トレオニンに富むペプチド/タンパク質主鎖に結合したN−アセチルノイラミン酸を含むタンパク質分画を含む組成物。
【請求項2】
タンパク質分画が約7〜25質量%のN−アセチルノイラミン酸及びアミノ酸総数の約8〜22%の量のトレオニンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
低下した細胞性免疫応答と関連づけられる障害を治療する又は予防するための、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
免疫系の変化が、感染、特に、細菌、ウイルス、真菌及び/又は寄生虫感染;自己免疫様疾患;自然防御障害、例えば、NK細胞欠損及び、白血球粘着不全症、周期性好中球減少症などの食細胞欠損;並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項5】
ワクチン反応刺激効果をもたらすための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
感染症を治療する又は予防するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
医薬組成物、又は食品である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
他の免疫増強剤、並びに/或いは、乳酸菌、ビフィズス菌及び/又は酵母からなる群から好ましくは選択されるプロバイオティックをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
脂肪分画及び/又は炭水化物分画を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
鎮痛剤、安定化剤、矯味剤、着色剤、滑沢剤、並びに/或いは、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトシルオリゴ糖、ペクチン及び/又はそれらの加水分解物などのプレバイオティックをさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
ヒト又はペット用である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
N−アセチルノイラミン酸が組成物の乾燥質量1g当たり1mg〜250mgの量で組成物中に存在する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
治療する対象の体重1kg当たり1mg〜2g、好ましくは0.025g〜0.8gの1日量でN−アセチルノイラミン酸が投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
粉乳ベースの製品、インスタント飲料、レディ・トゥ・ドリンク配合物、栄養粉末、栄養液体、乳ベースの製品、特にヨーグルト若しくはアイスクリーム、穀物製品、飲料、水、コーヒー、カップチーノ、麦芽飲料、チョコレート味飲料、調理用製品、スープ、局所クリーム剤、坐剤、錠剤、シロップ剤、経皮適用のための配合物からなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
高齢者に投与される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−522793(P2011−522793A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507902(P2011−507902)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055444
【国際公開番号】WO2009/135858
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】