説明

魚病治療剤

【課題】特殊で大掛かりな銅イオン発生装置や煩雑な操作が必要な薬剤を用いずに、簡便な操作で安全に効果的な一定濃度の銅イオンを供給できる魚病の治療剤を提供することである。
【解決手段】銅化合物と有機酸を含有することを特徴とする造粒体又は成形体からなる魚病治療剤が提供され、本発明の魚病治療剤を飼育水中に浸漬させることにより、魚病の予防と治療を行うことができる。
ここで前記銅化合物は、酸化銅であることが好ましく、前記有機酸は、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、りんご酸、エチレンジアミン四酢酸、マロン酸、フマル酸から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚病の治療剤に関するものである。さらに詳しくは、観賞魚である金魚、鯉、熱帯魚などに生じる白点病などの寄生虫や細菌などによる病気を予防及び治療することができる魚病治療剤を提供することである。
【背景技術】
【0002】
従来、魚類の病気として寄生虫が原因で発生する白点病、白雲病、或いは細菌性白雲病などが知られており、これらの魚類の病気の治療のために銅イオンが寄生虫や病原菌を殺すのに効果的であることが知られている。
これまで、魚病の予防や治療目的のために飼育水中に銅イオンを供給する方法やそのための装置は提唱されているが、未だ満足するものが得られていない。
【0003】
例えば、観賞魚用の治療薬として硫酸銅溶液が使用されていたが、銅イオン濃度調整に手間がかかり定期的に銅イオン濃度を測定し、薬剤の投入が必要となるなど飼育水の管理が困難であった。また、硫酸銅などの易水溶性銅化合物を直接水中に投入すると、水中の銅イオン濃度が瞬間的に高くなるので、弱った魚類に悪影響を与える危険性があった。さらに硫酸銅は劇物指定された薬品に該当するため一般の消費者は購入する事が困難であり、これに替わる治療剤が望まれていた。
【0004】
特許文献1には、銅イオンを水中に溶出させるため、銅を含むリン酸塩ガラスを0.85mm〜2.0mmの粒状にして袋に入れて用いることにより水中に銅イオンを供給し、水槽の寄生虫駆除剤、防藻剤、その他一般抗菌剤として使用することが提唱されている。これらは、目的の水溶性ガラス組成になるように原料を混合し、高温で溶融し、冷却、粉砕、整粒するという複雑な製造工程が必要である。
また、特許文献2には、銅イオン含有水溶性ガラスを容器に充填した装置なども提唱されている。
【0005】
特許文献3には、二酸化塩素をアルカリ性水溶液で安定化した安定化二酸化塩素を5〜30ppm含むことを特徴とする白点病予防薬が開示されている。水溶液の場合、目的の濃度に希釈するなど煩雑な操作が必要になる。
【0006】
特許文献4には、単一の薬剤の使用ではなく特定のサルファ剤、塩酸キニーネ、アクリノール等の有効とされている薬剤を特定に配合併用することによってそれらの薬剤の相乗効果により観賞魚の白点病及び尾ぐされ病の治療及び予防に適している事が開示されている。これらは、予め薬剤を水に溶かし水溶液とするなどの操作が必要である。
【0007】
特許文献5、特許文献6は、装置を用いた電気分解により銅イオンを溶出させることを提唱している。これらは、装置が大掛かりになることや銅イオンの濃度を調節する事が困難であるといった問題がある。
【0008】
特許文献7、特許文献8には、銅を主成分とする金属塊を水に接触させて、銅イオンを発生させる装置が記載されている。また、金属銅や銅合金をそのまま用いるものもあるが、銅イオンの溶解速度が遅いという欠点などがある。
【0009】
このように、銅イオンが魚病の治療に効果があることは明らかであるが、魚類の飼育水に有効量の銅イオンを安定に供給し、飼育水中の銅濃度を安全に保つことのできる治療剤は得られていない。飼育水中の銅イオンの濃度が高くなりすぎると魚類に悪影響を及ぼすため逆に除去する必要性が出てくる。飼育水中の銅イオン濃度を正確に管理する事は極めて困難であるのが実情であり、より安全で簡便な方法で魚病を治療する方法が望まれている。
【0010】
【特許文献1】特開2004‐203775号公報
【特許文献2】特開平5‐309374号公報
【特許文献3】特告平2‐36573号公報
【特許文献4】特開昭46‐14277号公報
【特許文献5】特開平11‐15419号公報
【特許文献6】特開平10−309147号公報
【特許文献7】特開平7‐206617号公報
【特許文献8】特告平1‐50477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、特殊で大掛かりな銅イオン発生装置や煩雑な操作が必要な薬剤を用いずに、簡便な操作で安全に効果的な一定濃度の銅イオンを供給できる魚病の治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、銅化合物と有機酸を含有することを特徴とする造粒体又は成形体からなる魚病治療剤を発明した。
ここで前記銅化合物は、酸化銅であることが好ましく、また、前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、りんご酸、エチレンジアミン四酢酸、マロン酸、フマル酸から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。さらに好ましくは、クエン酸を用いることである。
【0013】
また、必要に応じて、銅の溶出濃度調整のために無機酸化物を含有させることができる。無機酸化物の含有量は特に限定されないが、銅の溶出濃度と取り扱い易さから、80wt%以上添加することが好ましい。無機酸化物は、特に魚類に有害なイオンの溶出する恐れがない酸化アルミニウムが好ましい。
本発明の魚病治療剤は、飼育水に浸漬させ、魚病の予防と治療をすることができる。好ましくは、飼育水中の銅濃度が約0.3ppmになるように調整して本発明の魚病治療剤を飼育水に浸漬させて魚病の予防と治療を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明の魚病治療剤を用いることにより、大掛かりな銅イオン発生装置や煩雑な操作を必要とする薬剤を必要とせず、簡便な操作で安全に効果的な一定濃度の銅イオンを供給し、魚病の治療を行うことができる。特に、有機酸を含有する事によってキレート化された銅が水中に徐々に溶け出すことにより、易水溶性の硫酸銅を直接水に投入する場合に比べて銅濃度の急激な上昇を伴わず水環境にやさしく、魚類への負荷が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、一般に使用されていた、大掛かりな銅イオン発生装置や煩雑な操作を必要とする薬剤を用いることなく、簡便に魚病を予防及び治療することができる魚病治療剤を提供する。
本発明の魚病治療剤は、魚類の飼育水中に浸漬させる事により、白点病などの寄生虫などによる病気を予防及び治療することができる。
【0016】
本発明の魚病治療剤は、銅化合物と有機酸を含有する造粒体又は成形体からなる。銅化合物は、特に限定されないが、劇毒物等に指定されていない安全な化学物質を用いることが好ましい。例えば、銅化合物として酸化第一銅(CuO)、酸化第二銅(CuO)等が挙げられる。
有機酸は、銅をキレート化し、水中に溶け出させるものが好ましい。例えば、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、りんご酸、エチレンジアミン四酢酸、マロン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの有機酸は、1種或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、水溶液への溶解度が高いことからクエン酸を用いることが好ましい。
【0017】
また、銅の溶出濃度調節のために魚類に有害なイオンが溶出する恐れがない無機酸化物などを添加することができる。例えば、無機酸化物として酸化アルミニウムが好ましい。
【0018】
本発明は、所定量の銅化合物、有機酸、無機酸化物、バインダ、アルコールを添加し、均一に混合し、乾燥機で乾燥した後、乾燥した塊状物を粉砕機にて粉砕し、篩機で篩別し、約2mm以下の顆粒とし、この顆粒を直径10〜15mmの金型に3〜5g充填し一軸プレス装置を用いてプレス成形し、成形体を得ることができる。
造粒や成形方法としては、押出成形、マルメライザー法、パン造粒法、転動造粒、押出造粒、攪拌造粒、一軸プレス成形、CIP成形等公知で任意の方法を採用することができる。
【0019】
また、使用するバインダとしては、水に対し安定な非水溶性のものが使用でき、代表的なものとしては、エチルセルロースその他のセルロース誘導体、メタクリル系共重合体、コロイダルシリカなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのバインダは、1種或いは、2種以上を組み合わせて使用することができ、前記から選ばれた少なくとも1種類のバインダを使用して、本発明の魚病治療剤が製造できる。
【0020】
本発明の魚病治療剤は、成形体として使用するだけでなく、バインダで結着した造粒体のまま使用してもよいし、取扱い易さからそれらを容器や不織布に充填して使用することもできる。
【0021】
本発明の魚病治療剤は、飼育水に浸漬させ、魚病の予防と治療をすることができる。使用方法としては、取扱い易さから、飼育水20〜100リットルに対して成形体1個の割合で投入し、水中の銅濃度が約0.3ppmになるように調整して魚病の予防と治療をすることが好ましい。そのためには、銅化合物が酸化銅で0.1〜2wt%、有機酸がクエン酸で1〜10wt%、無機酸化物が酸化アルミニウムで80wt%以上の含有割合であることが好ましい。また、取扱い易さから、成形体1個の重量は、3〜5gであることが好ましい。
また、本発明の魚病治療剤は、成形体として飼育水中で形を留めているので、魚病の治療が終われば簡単に飼育水中から取り出す事ができる。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
銅化合物として酸化第一銅(CuO)1wt%、有機酸としてクエン酸4.8wt%、無機酸化物として酸化アルミニウム89.4wt%にバインダとしてエチルセルロース4.8wt%にエチルアルコールを添加し混合した。
次いで、乾燥機で80℃×24時間乾燥し、乾燥した塊状物を粉砕機にて粉砕し、箱型篩機で篩別し、2mm以下の顆粒を得た。この顆粒を直径12mmの金型に3.5g充填し一軸プレス装置を用いてプレス成形し、成形体を得た。
得られた成形体について下記の評価試験を行った結果を表1に示す。
【0024】
[評価試験方法]
治療対象魚と50リットルの飼育水が入った水槽に、本発明の魚病治療剤を1個浸漬する。水温25〜28℃の条件のもとで1週間放置し、飼育水中の銅濃度の測定と治療対象魚の病状態を目視観察する。治療に効果があったものを○、効果がみられなかったものを×とする。
【0025】
[銅濃度測定方法]
水中の銅濃度の測定は、ジチゾンを用いた比色法により測定する。
【0026】
[実施例2]
銅化合物として酸化第一銅(CuO)0.5wt%、有機酸としてクエン酸4.8wt%、無機酸化物として酸化アルミニウム89.9wt%にバインダとしてエチルセルロース4.8wt%にエチルアルコールを添加し混合した。
以下実施例1と同様にして成形体を作製し、評価した結果を表1に示す。
【0027】
[実施例3]
銅化合物として酸化第一銅(CuO)0.3wt%、有機酸としてクエン酸4.8wt%、無機酸化物として酸化アルミニウム90.1wt%にバインダとしてエチルセルロース4.8wt%にエチルアルコールを添加し混合した。
以下実施例1と同様にして成形体を作製し、評価した結果を表1に示す。
【0028】
[比較例1]
銅化合物として酸化第一銅(CuO)0.3wt%、無機酸化物として酸化アルミニウム94.9wt%にバインダとしてエチルセルロース4.8wt%にエチルアルコールを添加し混合した。
以下実施例1と同様にして成形体を作製し評価した結果を表1に示す。
【0029】
[比較例2]
本発明の魚病治療剤を用いずに実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
以上の結果から明らかなように、本発明品が浸漬されていない比較例2の飼育水では、水中に銅イオンはなく、魚病の治療効果はない。
また、比較例1のように、酸化銅のみを添加し、有機酸を添加しないものは、飼育水中の銅濃度は上昇しておらず、魚病の治療効果は出ていない。これは、銅をキレート化し飼育水中に溶出させる有機酸がないため、非水溶性である酸化銅から、飼育水中に銅が溶け出していないためと考えられる。
【0032】
本発明の魚病治療剤を用いた、実施例1、実施例2、実施例3は、安定して飼育水中に銅を供給することができ、魚病の治療に効果があることがわかる。
本発明品を用いることにより、2〜4日で飼育水中の銅濃度は一定となり、安定する。水中の銅濃度が高くなりすぎると、魚に悪影響を与え、死に至らしめることもあるので、長期間一定濃度に制御できることが重要である。
【0033】
また、本発明の魚病治療剤は、銅イオンが直接溶け出すのではなく、配合した有機酸と銅がキレートをつくり銅がキレートとして、水中に徐々に溶け出す。従来のように銅イオンが直接作用するのではなく、飼育水中にキレートとして存在する銅が、寄生虫や病原菌に取り込まれキレートが分解されて、銅イオンになり、殺菌作用を発揮するので、易水溶性の硫酸銅を直接水に投入する場合に比べて銅イオンの急激な濃度上昇を伴わず水質環境にやさしく、魚類への負荷が軽減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物と有機酸を含有することを特徴とする造粒体又は成形体からなる魚病治療剤。
【請求項2】
前記銅化合物が、酸化銅である請求項1記載の魚病治療剤。
【請求項3】
前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、りんご酸、エチレンジアミン四酢酸、マロン酸、フマル酸から選択される1種又は2種以上である請求項1〜2のいずれか1項記載の魚病治療薬。
【請求項4】
無機酸化物を80wt%以上含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の魚病治療剤。
【請求項5】
前記無機酸化物が、酸化アルミニウムである請求項4記載の魚病治療剤。

【公開番号】特開2009−120560(P2009−120560A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297717(P2007−297717)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】