魚類の免疫を賦活化させる方法及びそれに用いる遺伝子
【課題】養殖魚の寄生虫症による斃死の発生を抑制するために、魚類の免疫を賦活化させる方法、特に魚類寄生虫症に対する免疫を賦活させる方法を提供すること。
【解決手段】魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法である。魚類寄生虫Neobenedenia girellaeのvasa関連遺伝子、生殖細胞形成機能に関与するタンパク質、vasa関連遺伝子のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA、二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生、その孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【解決手段】魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法である。魚類寄生虫Neobenedenia girellaeのvasa関連遺伝子、生殖細胞形成機能に関与するタンパク質、vasa関連遺伝子のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA、二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生、その孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の免疫を賦活化させる方法、特に魚類寄生虫症に対する免疫を賦活させる方法に関する。また、その方法に用いる寄生虫の遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
海面養殖において寄生虫症は安定した生産の妨げとなるために、非常に大きな問題となっている。寄生虫症の中でもとりわけハダムシ感染症は、日本のどのブリ類養殖場においても発生し、ブリ類養殖における最も大きな問題のひとつとされる感染症である。一般にハダムシと呼ばれている寄生虫は、ネオベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ネオベネデニア・ジレル(Neobenedenia girellae))やベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae))等であり、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ等のブリ類以外にも、シマアジ、スズキ、マダイ、キイロハギ、キジハタ、クエ、ヒラメ、トラフグ等多くの魚種に寄生することが知られている。現場での診断法としては、腹部の表皮発赤やひれのスレ、眼球の白濁などの症状を伴うへい死のほかに、多量の寄生を受けた魚では、粘液の大量分泌により体表が白濁して見えることなどがあげられる。また、生簀網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。生簀網などに体をこすりつけることから症状が悪化し、寄生部位から病原菌の感染機会が増えるため、被害が拡大することもある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら1〜3分間程度の淡水浴もしくは過酸化水素水浴を行うことによって駆虫できる。しかし、淡水浴は魚への負担も大きく、養殖業者の作業としての負担も大きい。
【0003】
vasa遺伝子が欠損しているショウジョウバエは生殖細胞を形成しないことから、vasa遺伝子は生殖細胞形成に不可欠な遺伝子制御機能を果たすと推察されている。線虫における研究が有名であるが、他にはプラナリアなど分子生物学的に有用な種で確認されている。また、ゾウリムシでも確認されている。酵母菌からヒトまで幅広く保存されている遺伝子である(非特許文献1〜8参照)。
近年、RNA干渉により特定の遺伝子の働きを阻止する技術が開発され、各種分野での利用が検討されている。RNA干渉に関する各種手法も提案されている(非特許文献9〜11)。
【0004】
【非特許文献1】Komiya, T., Itoh, K.,Ikenishi, K., Furusawa, M., 1994. Isolation and characterization of a novelgene of the DEAD box protein family which is specifically expressed in germcells of Xenopus leavis. Dev.Biol. 162, 354-363
【非特許文献2】Fujiwara, Y., Komiya, T.,Kawabata, H., Sato, M., Fujimoto, H., Furusawa, M., Noce, T., 1994. Isolation of a DEAD-familyprotein gene that encodes a murine homolog of Drosophila VASA and its specificexpression in germ cell lineage. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 12258-12262
【非特許文献3】Roussell, D. L., Bennett, K.L., 1993. glh 1, a germ-line putative RNA helicase from Caenorhabditis,has four zinc fingers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 9300-9304
【非特許文献4】Gruidl, M., Smith, P. A.,Kuznicki, K. A. McCrone, J. S., Kirchner, J., Roussell, D. L., Strome, S.,Bennett, K. L., 1996. Multiple potential germ-line helicases are components ofthe germ-line-specific P granules of Caenorhabditis elegans. Proc. Natl.Acad. Sci. USA 93, 13837-13842
【非特許文献5】Schupbach, T., Wieschaus, E.,1986. Maternal-effect mutations altering the antero-posterior pattern of the Drosophilaembryo. Roux’ Arch. Dev. Biol. 195, 302-317
【非特許文献6】Nusslein-Volhard, C.,Frohnhoher, H. G., Lehmann, R., 1987. Determination of anteroposterior polarityin Drosophila. Science 238, 1675-1681
【非特許文献7】Lasko, P. F., Ashburner, M.,1988. The product of the Drosophila gene vasa is very similar toeukaryotic initiation factor-4A. Nature 335, 611-617
【非特許文献8】Liang, L., Diehl-Jones, W.,Lasko, P., 1994. Localization of vasa protein to the Drosophilapole plasm is independent of its RNA-binding and helicase activities.
【非特許文献9】Orii, H., Mochii, M., Watanabe,K., 2003. A simple "soaking method" for RNA interference in theplanarian Dugesia japonica. Dev. Genes. Evol. 213, 138-141
【非特許文献10】Kuznicki, K. A., Smith, P. A., Leung-Chiu, W.M., Estevez, A. O., Scott, H. C., Bennett, K. L., 2000. CombinatorialRNA interference indicates GLH-4 can compensate for GLH-1; these two P granulecomponents are critical for fertility in C. elegans. Development 127, 2907-2916
【非特許文献11】Tabara, H., Grishok, A., Mello,C. C., 1998. RNAi in C. elegans: soaking in the genome sequence. Science282, 430-431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、養殖魚の寄生虫症による斃死の発生を抑制するために、魚類の免疫を賦活化させる方法、特に魚類寄生虫症に対する免疫を賦活させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、RNA干渉(RNAi)技術を用いて、寄生虫を不稔化(その虫自体は成長するが、生殖できない状態にすること)することができれば、それがワクチンに使えるのではないかとの仮説から本発明を完成させた。
各種生物で生殖細胞形成に不可欠な遺伝子制御機能を有する遺伝子として知られているvasa遺伝子に着目し、魚類寄生虫にも同様の遺伝子が存在することを初めて見出した。さらに、その遺伝子を用いてRNAi技術を用いることにより、魚類寄生虫を不稔化することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、下記(1)〜(5)の魚類の免疫を賦活化させる方法を要旨とする。
(1)魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法。
(2)免疫が寄生虫に対する免疫である(1)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(3)魚類寄生虫がNeobenedenia girellaeである(1)又は(2)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(4)vasa関連遺伝子が以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNAである(3)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
(5)vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する方法として、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることを特徴とする(1)ないし(4)いずれかの魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【0008】
本発明は、上記(1)〜(5)の方法に用いることができる、下記(6)〜(11)のDNA、蛋白質等を要旨とする。
(6)以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNA。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
(7)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示されるタンパク質。
(a)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質。
(b)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム。
(c)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(d)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(8)(7)記載のタンパク質をコードするDNA。
(9)(6)又は(8)のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA。
(10)(9)の二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生。
(11)(10)の孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法を用いることにより、魚類の免疫を賦活することができるので、養殖魚等の寄生虫症などによる斃死率を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の対象となる魚類はこれらハダムシが寄生するカレイ目、スズキ目の魚類であり、ブリ類、ヒラメ類、フグ類、タイ類の魚である。具体的には、カンパチ、ブリ、ハマチ、スズキ、キイロハギ、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ、シマアジ、スズキ、マダイ、キジハタ、クエ、トラフグ、ヒラメなどが例示される。
本発明は、魚類寄生虫にもvasa遺伝子が存在することを確認し、それが生殖機能に関連するものであり、RNAi技術を利用するより、寄生虫を不稔化することができることをNeobenedenia girellaeを用いた実施例で示したものである。本発明の方法は、寄生虫に感染して免疫を獲得する寄生虫であれば、いずれの寄生虫にも適用することができる。特に、ネオベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ネオベネデニア・ジレル(Neobenedenia girellae))と同様、一般にハダムシと呼ばれているベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae))、ウナギのシュードダクチロギルス(Pseudodactylogyrus bini)、マダイの鰓虫(Bivagina tai)、ブリの鰓虫(Heteraxine heterocerca)、トラフグの鰓虫(Heterobothrium okamotoi)等のエラムシはハダムシと同じ扁形動物の単生虫に分類され、雌雄同体であること、卵巣、精巣の構造、及び卵の形成法などが非常に似ていることから、本発明の方法が適用できる。
【0011】
vasa関連遺伝子は、他の動物で既にクローニングされている vasa 関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計し、寄生虫のcDNAを鋳型にPCRにより寄生虫のvasa関連遺伝子の部分配列を増幅し、塩基配列を決定することができる。具体的には、技術分野に記載した非特許文献1〜8に記載されている、ヒト、マウス、ニワトリ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、マガキ、プラナリアのvasa関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計することができる。
本発明の実施例では、配列表配列番号1〜3のvasa関連遺伝子を得ている。
RNA干渉とは二本鎖RNAを導入することにより、その配列に相同的な遺伝子の発現を抑制する技術である。本発明では、上述のような方法で得た寄生虫のvasa関連遺伝子の二本鎖RNAを常法に従い作成し、寄生虫の孵化幼生に導入することによりRNA干渉を起こさせることができる。二本鎖RNAを導入するのは寄生虫の卵、幼生、成虫のいずれでも良いが、幼生を用いるのがもっとも確実であり、浸漬方法により導入しやすい。導入方法は本実施例に示すような浸漬方法がもっとも簡便な方法であるが、RNA干渉の二本鎖RNAの導入方法として通常用いられるinjection, feeding, soaking, in vivo
deliveryなどの手法で導入してもよい。浸漬方法の場合、二本鎖RNAの濃度は濃いほど導入しやすいが、一般に0.0002〜1mg/mlくらいの濃度で行う。浸漬液は寄生虫を飼育、培養する培養液と同様の条件を満たすものでよいが、浸漬液の浸透圧を、寄生虫の生体、細胞の浸透圧よりも少し高めに設定したほうが、二本鎖RNAを導入しやすい。海産魚の寄生虫の場合、人口海水を用いるが、本実施例では、530.2
mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10 mM Hepes, pH 8.0の浸漬液を用いた。実施例5に示すように、vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する場合に、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることにより、効果的に二本鎖RNAを導入することができる。
【0012】
上述の方法で作成した二本鎖RNAを導入した孵化幼生を魚類の水槽に入れるなどして感染させると孵化幼生は魚類に寄生するが、生殖機能は抑制されているので、寄生虫が増殖することはない。しかし、魚類は寄生虫に感染しているので、その刺激により免疫が賦活され、その後、寄生虫に感染しても重症にならず、斃死にいたるような事態を回避できる。したがって、この二本鎖RNAを導入した孵化幼生は弱毒化されたワクチンとしての機能を有する。
実施例に示すように、配列番号1の二本鎖RNA処理孵化幼生をヒラメに感染させたところ、処理虫は成熟阻害を受けるため、成虫は産卵しない、もしくは産卵したとしても孵化率が低い。このためヒラメは本症から自然治癒した。自然治癒したヒラメ(処理区)と本虫感染未経験のヒラメ(対照区)を混養し、本虫の孵化幼生で攻撃して両区の寄生数を比較した結果、処理区の寄生数は26.4±17.5個体、対照区の寄生数は165.9±76.9個体であり、有意に低い値となった。このように、不稔化の程度が不十分な、すなわち、産卵能力を有する不完全な程度に不稔化された
Neobenedenia girellae についても、その卵は高い確立で発生異常を起こすことが明らかであった。したがってRNA干渉による不稔化が完全でなくても十分にワクチンとして有用に利用できることがわかった。
【0013】
魚類宿主は寄生虫の再感染に対して、どのような生体防御が働きその感染を防いでいるのかについて、特異的、非特異的生体防御能の両方が関与していることがと報告されている(Buchmann, K. (1999) Immune mechanisms in
fish skin against monogeneans- a model. Folia Parasitologica 46,
1-9、Buchmann, K. and Lindenstrom,
T. (2002). Interactions between monogenean parasites and their fish hosts. International
Journal for Parasitology 32, 309-319.)。
【0014】
配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNAは、これらと同一物でも、これらを含むDNAでも、これらの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNAでも、あるいは、これらのいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAでもよい。
【0015】
配列表配列番号1〜3のDNAに相当するタンパク質は配列表配列番号4〜6のタンパク質である。本発明のタンパク質は、配列表配列番号4〜6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質、配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム、配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質、又は、配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質である。
RNA干渉以外の方法を採用することにより、これらのタンパク質の働きを阻害することによりNeobenedenia girellaeを不稔化することができる。
【0016】
上記のタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAとして機能する。
本発明のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNAはRNA干渉に用いることができる。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1:ハダ虫Neobenedenia girellaeのvasa関連遺伝子のクローニング
[材料と方法]
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持し、成虫を得た。卵は成虫から産卵された卵を回収することで得た。
vasa 関連遺伝子のクローニング:
Neobenedenia girellae の成虫および卵を採集し、Sepasol-RNA I
super (ナカライテスク)
を使用して total
RNA を抽出した。抽出した
total RNA から
Oligotex-dT-30(タカラ)を用いて mRNA を調整した。調整した mRNA を鋳型にして cDNA を合成した。
本明細書の技術分野記載の非特許文献1〜8を参考に、他の動物で既にクローニングされている vasa 関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計した。具体的には、ヒト、マウス、ニワトリ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、マガキ、プラナリアのvasa関連遺伝子を参考に、配列表配列番号7〜13のプライマーを作成した。
これらのプライマーを用いて、先に合成した cDNA を鋳型に PCR により Neobenedenia girellae のvasa 関連遺伝子の部分配列を増幅した。増幅した遺伝子を
pGEM-T easy vector に組み込んで塩基配列を決定した。
決定された vasa 関連遺伝子の部分配列をもとに Marathon cDNA amplification kit (CLONTECH) を使用して、RACE-PCR により全塩基配列を決定した。
決定した塩基配列は DNA Data Bank of Japan の clustal W によって他の動物の vasa 関連遺伝子との相同性を調べた。
【0018】
[結果と考察]
縮重プライマーを用いた PCR により 3 種の vasa 関連遺伝子と思われる cDNA 断片を得た。それぞれの塩基配列から予想されるアミノ酸配列を比較したところ、それぞれが vasa 関連遺伝子によく保存された motif を有していた。このため、それぞれの vasa 関連遺伝子を Ngvlg1(配列表配列番号1)、Ngvlg2(配列表配列番号2)、Ngvlg3(配列表配列番号3)と名付けた。(図
1)
それぞれの vasa 関連遺伝子の全塩基配列を RACE-PCR により決定した。その結果、Ngvlg1 は 670 アミノ酸を、Ngvlg2 は 548 アミノ酸を、Ngvlg3 は 634 アミノ酸をコードしていた。
全塩基配列を決定したそれぞれの vasa 関連遺伝子と、他の動物の vasa 関連遺伝子を比較したところ、Neobenedenia girellae のそれぞれの vasa 関連遺伝子は vasa サブファミリーに属しており(図 2)、さらに本 vasa 関連遺伝子は vasa サブファミリーに属する遺伝子が必ず保存している 8 つの motif を持っていた。従って、これらの遺伝子 (Ngvlg1、Ngvlg2、Ngblg3) はNeobenedenia girellae の vasa 関連遺伝子であることが明らかになった。(図
3)
【0019】
実施例2:in situ hybridization による本遺伝子のハダ虫成虫における発現部位の特定
[材料と方法]
in situ hybridization による発現部位の特定:
決定された vasa 関連遺伝子の塩基配列を鋳型にしてジゴキシゲニン (Dig) 標識したプローブを作成した。
Neobenedenia girellae 成虫を Davidson’s solution で固定し、8 μm の組織切片を作成した。作成した切片は脱パラフィン後、Proteinase
K で処理したのち、プローブを 50℃で 40 時間反応させた。反応後、未反応のプローブを洗浄し、抗 Dig 抗体を反応させ、NBT と BCIP により発色した。発色後、光学顕微鏡により観察した。
【0020】
[結果と考察]
in
situ hybridization の結果、Ngvlg1 とNgvlg2 はNeobenedenia girellae 成虫の卵巣および精巣で強く発現していた(図 4A:Ngvlg1 の卵巣での発現パターン、図4B :Ngvlg1 の精巣での発現パターン、図4C: Ngvlg2 の卵巣での発現パターン、図4D:Ngvlg2 の精巣での発現パターン、(本遺伝子に対するmRNAを検出している。写真上で、発現細胞は、黒色に染色される)。Ngvlg1、Ngvlg2 ともに卵巣では卵母細胞の細胞質で強く発現が認められ、精巣ではほぼすべてのステージの生殖細胞で強い発現が認められた。これらのことから、Ngvlg1 および Ngvlg2 はともに生殖細胞に特異的に発現する vasa 関連遺伝子であることが明らかになった。
しかし、Ngvlg3 は発現が認められず、発現部位の特定ができなかった。これは、Ngvlg3 が成虫では発現していない、もしくは発現量が著しく少ないことが考えられた。
【0021】
実施例3:RNA干渉(RNAi)法を利用したdsRNANgvlg1、dsRNANgvlg2、dsRNANgvlg3導入による vasa 関連遺伝子の発現抑制
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
合成RNAの調整:
Ngvlg1、Ngvlg2、Ngvlg3 それぞれの塩基配列を鋳型にしてMegascripts
kit (Ambion) をもちいて 二本鎖 RNA (dsRNA) を作製した。作製したdsRNA をsoaking buffer (Mg2+ free
buffer: 530.2 mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10.0 mM Hepes, pH 8.0) に 400μg/ml の濃度で溶解した。
試験区:
試験区は、孵化幼生無処理区、dsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生区、 dsRNA Ngvlg2 導入孵化幼生区、およびdsRNA Ngvlg3導入孵化幼生区の
計4区とした。
dsRNAの孵化幼生への導入と導入処理した孵化幼生の魚への感染:
試験区分の100リットル水槽を準備し、それぞれに平均魚体重93gのヒラメ5尾を収容し、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をそれぞれの dsRNA を溶解した soaking bufferに25℃で3時間浸漬した。その後、処理した各区の孵化幼生を準備しておいたヒラメに攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。感染させて12日目に各区全ての魚をサンプリングし、寄生している成虫を採集して、組織切片を作成した。また同時に、採集した各区成虫30個体を 10個体ずつに分け、シャーレに収容し25℃ で 24 時間培養して卵を得た。得られた卵を回収し 25℃ で 2 週間培養した。ヒラメには、試験を通して、市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
効果の判定:
生殖腺形成阻害有無は、各区成虫の生殖腺の形態、生殖細胞の有無および数を比較することで行った。また、卵への影響は、これら成虫から得られた卵の未孵化率を比較することで行った。
【0022】
[結果と考察]
採集した成虫の組織観察した結果、対照区およびdsRNA Ngvlg3導入区では卵巣、精巣に異常は観察されなかった(図
5A:対照区の卵巣、図5B:対照区の精巣)。dsRNA Ngvlg1 導入区では、卵巣内部および精巣内部の生殖細胞数が減少した個体や生殖細胞が消失した個体が観察された(図
5C:卵巣、図5D:精巣)。dsRNA Ngvlg2 導入区では卵巣内部および精巣内部の生殖細胞数が減少した個体がみられたが、生殖細胞が消失した個体は観察されなかった(図
5E:卵巣、図5F:精巣)。
次にこれら生殖細胞数の減少した個体と生殖細胞を持たない個体の出現率を算出した(図
6 )。その結果、dsRNA Ngvlg3導入区は、対照区と比べ生殖細胞数に異常がある個体は出現しなかった。一方、dsRNA Ngvlg1 および Ngvlg2 導入区 では、生殖細胞数に異常があった個体が出現した。RNAi
Ngvlg1 導入区の生殖細胞数が減少した個体出現率は 37.0%、生殖細胞が消失した個体の出現率は 24.8% であった。RNAi Ngvlg2 導入区の生殖細胞数が減少した個体の出現率は 26.8% であった。従って、これらの結果から、RNAi法を利用しdsRNA Ngvlg1 もしくはdsRNA Ngvlg2 を孵化幼生に導入し、これら遺伝子の発現を抑制することによって、本虫の生殖細胞形成を阻害できることが判明した。また、特にNgvlg1 の発現を抑制することにより、効率よく生殖細胞を持たない
Neobenedenia girellae をつくれることを示している。
各試験区の Neobenedenia girellae 成虫が産卵した卵を培養し、未孵化卵率を算出した結果、対照区では0.9%、dsRNA Ngvlg3導入区では3.3%であり、共に低い値であった(図7)。
一方、dsRNA Ngvlg1 および dsRNA Ngvlg2 導入区の未孵化卵率はそれぞれ 55.5% および 42.3% であった。この結果から、完全に不稔化していない産卵能力を有した固体でも、これら遺伝子の発現抑制を受けており、産卵された卵は正常に発生しないことが判明した。
【0023】
実施例4:dsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生のワクチン効果
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
合成RNAの調整:
dsRNA
Ngvlg1は、Ngvlg1の塩基配列を鋳型にしてMegascripts kit
(Ambion) をもちいて作製した。作製した dsRNA をsoaking buffer (Mg2+ free buffer: 530.2 mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10.0
mM Hepes, pH 8.0) に 400μg/ml の濃度で溶解した。
供試魚とその飼育:
供試魚はヒラメとした。試験を通して、餌は市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
試験区:
試験区は、dsRNA Ngvlg1 を導入した孵化幼生で感染治癒させる処理ヒラメ区と未処理ヒラメ区の計2区とした。
dsRNAの孵化幼生への導入処理と処理した孵化幼生の魚への感染:
100リットル水槽2基を準備し、それぞれに平均魚体重78gのタグ標識ヒラメを収容し(対照区:12尾、処理区9尾)、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をdsRNA Ngvlg1 を溶解した soaking buffer に25℃ で 3 時間浸漬した。その後、処理ヒラメ区の水槽にdsRNA
Ngvlg1導入孵化幼生を投入し攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。本症から治癒するまで継続して飼育した。感染させたヒラメの治癒状況の判断は、感染した処理虫が成虫になり、それらが産卵する卵の増減を指標に判断した。
ワクチン効果判定のための攻撃試験:
処理ヒラメ区にdsRNA Ngvlg1 導入虫を感染させてから42日目に各区の魚を200リットル水槽に移し混養した。1日後に7000個体の本虫孵化幼生で攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本虫を暴露させることで行った。攻撃12日目に全ての魚をサンプリングし、本虫の寄生数を調べた。
効果の判定:
ワクチン効果の判定は、各区の寄生数を比較することで行った。
【0024】
[結果と考察]
dsRNA
Ngvlg1導入孵化幼生を感染させたヒラメは感染させてから35日目に飼育水中から卵が確認されなくなった。従って、本処理虫を寄生させても寄生虫感染が蔓延することなく、治癒することが確認できた。
dsRNA
Ngvlg1 導入虫を感染・治癒させた処理ヒラメ区の寄生数は26.4±17.5個体、対照区の寄生数は165.9±76.9個体であった(図8)。これはdsRNA Ngvlg1 導入虫を感染させることで、生体防御能を誘導できたことを示している。しかも、本処理虫をヒラメに感染させても自然治癒することから、このdsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生はワクチンとして利用できることが判明した。
【0025】
実施例5:dsRNAを効率的に寄生虫へ導入する浸漬液の組成
本試験は実施例3と同方法で実施した。
試験区:
試験区は、孵化幼生無処理区2区(Control)、dsRNA Ngvlg1 を孵化幼生にMgイオンを含む浸漬液にて導入した区(図9A-V1)、dsRNA Ngvlg2 を孵化幼生にMgイオン含む浸漬液にて導入した区(図9A-V2)、 dsRNA Ngvlg1を孵化幼生にMgイオンを含まない浸漬液にて導入した区(図9B-V1)、 dsRNA Ngvlg2を孵化幼生にMgイオンを含まない浸漬液にて導入した区(図9B-V2)の計6区とした。
導入に用いた浸漬液:
Mgイオンを含む海水の組成は、463.8mM塩化ナトリウム、10.0mM塩化カリウム、9.2mM 塩化カルシウム・2H2O、35.9mM塩化マグネシウム・6H2O 、17.5mM硫酸マグネシウム・7 H2O、10mM Hepes ( pH 8.0 )とした。また、Mgイオンを含まない浸漬液は実施例3と同様のものとした。
dsRNAの孵化幼生への導入と導入処理した孵化幼生の魚への感染:
試験区分の100リットル水槽を準備し、それぞれに平均魚体重93gのヒラメ5尾を収容し、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をそれぞれの dsRNA を溶解した soaking bufferに25℃で3時間浸漬した。その後、処理した各区の孵化幼生を準備しておいたヒラメに攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。感染させて12日目に各区全ての魚をサンプリングし、寄生している成虫を採集した。採集した各区成虫30個体を 10個体ずつに分け、シャーレに収容し25℃ で 24 時間培養して卵を得た。得られた卵を回収し 25℃ で 2 週間培養した。ヒラメには、試験を通して、市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
効果の判定:
これら成虫から得られた卵の未孵化率を比較することで行った。
【0026】
[結果と考察]
各試験区の Neobenedenia girellae 成虫が産卵した卵を培養し、未孵化卵率を算出した結果、明らかにMgイオンを含まない浸漬液でdsNgvlg1及びdsNgvlg2を寄生虫へ導入した区の方が未孵化卵率は高いことが分った(図9)。従って、Mgイオンを含まない浸漬液を用いることで、効率的にdsRNAを孵化幼生に導入できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法により、ハダムシ等の寄生虫感染による斃死が問題となっている魚類養殖現場に、副作用の心配のない有効なワクチンを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】重複プライマーを用いたPCRによって得られた3種のcDNA断片の推定されるアミノ酸配列比較(白抜き文字箇所がvasa関連遺伝子に非常によく保存されたモチーフを示す)を示した図である。
【図2】Neobenedenia girellae のvasa関連遺伝子と他の動物のvasa関連遺伝子との分子系統樹を示した図である。
【図3】Neobenedenia girellae のvasa関連遺伝子のそれぞれがコードすると推定されるアミノ酸配列(白抜き文字箇所がvasa関連遺伝子に非常によく保存されたモチーフ)を示した図である。
【図4】in situ hybridizationによりNgvlg 1およびNgvlg 2の発現部位を特定した結果((A)Ngvlg1 の卵巣での発現、(B)Ngvlg1 の精巣での発現、(C)Ngvlg2 の卵巣での発現、(D)Ngvlg2 の精巣での発現)を示した写真である。
【図5】RNA干渉によりNgvlg1 およびNgvlg2 の発現が抑制されたNeobenedenia gerellae の生殖腺の組織((A)対照区の卵巣、(B)対照区の精巣、(C)dsRNA Ngvlg1 導入区の卵巣、D)dsRNA Ngvlg1 導入区の精巣、(E)dsRNA Ngvlg2 導入区の卵巣、(F)dsRNA Ngvlg2 導入区の精巣)を示した写真である。
【図6】生殖腺に異常があった個体の出現率を示した図である。
【図7】未孵化卵の出現率を示した図である。
【図8】不稔化ハダ虫のワクチン効果を示した図である。
【図9】浸漬液のMgイオンの存在の有無による未孵化卵の出現率の差を示した図である(A:Mgイオンを含む浸漬液、B:Mgイオンを含まない浸漬液)。
【配列表フリーテキスト】
【0029】
配列番号:7
プライマー
配列番号:8
プライマー
配列番号:9
プライマー
配列番号:10
プライマー
配列番号:11
プライマー
配列番号:12
プライマー
配列番号:13
プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の免疫を賦活化させる方法、特に魚類寄生虫症に対する免疫を賦活させる方法に関する。また、その方法に用いる寄生虫の遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
海面養殖において寄生虫症は安定した生産の妨げとなるために、非常に大きな問題となっている。寄生虫症の中でもとりわけハダムシ感染症は、日本のどのブリ類養殖場においても発生し、ブリ類養殖における最も大きな問題のひとつとされる感染症である。一般にハダムシと呼ばれている寄生虫は、ネオベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ネオベネデニア・ジレル(Neobenedenia girellae))やベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae))等であり、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ等のブリ類以外にも、シマアジ、スズキ、マダイ、キイロハギ、キジハタ、クエ、ヒラメ、トラフグ等多くの魚種に寄生することが知られている。現場での診断法としては、腹部の表皮発赤やひれのスレ、眼球の白濁などの症状を伴うへい死のほかに、多量の寄生を受けた魚では、粘液の大量分泌により体表が白濁して見えることなどがあげられる。また、生簀網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。生簀網などに体をこすりつけることから症状が悪化し、寄生部位から病原菌の感染機会が増えるため、被害が拡大することもある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら1〜3分間程度の淡水浴もしくは過酸化水素水浴を行うことによって駆虫できる。しかし、淡水浴は魚への負担も大きく、養殖業者の作業としての負担も大きい。
【0003】
vasa遺伝子が欠損しているショウジョウバエは生殖細胞を形成しないことから、vasa遺伝子は生殖細胞形成に不可欠な遺伝子制御機能を果たすと推察されている。線虫における研究が有名であるが、他にはプラナリアなど分子生物学的に有用な種で確認されている。また、ゾウリムシでも確認されている。酵母菌からヒトまで幅広く保存されている遺伝子である(非特許文献1〜8参照)。
近年、RNA干渉により特定の遺伝子の働きを阻止する技術が開発され、各種分野での利用が検討されている。RNA干渉に関する各種手法も提案されている(非特許文献9〜11)。
【0004】
【非特許文献1】Komiya, T., Itoh, K.,Ikenishi, K., Furusawa, M., 1994. Isolation and characterization of a novelgene of the DEAD box protein family which is specifically expressed in germcells of Xenopus leavis. Dev.Biol. 162, 354-363
【非特許文献2】Fujiwara, Y., Komiya, T.,Kawabata, H., Sato, M., Fujimoto, H., Furusawa, M., Noce, T., 1994. Isolation of a DEAD-familyprotein gene that encodes a murine homolog of Drosophila VASA and its specificexpression in germ cell lineage. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 12258-12262
【非特許文献3】Roussell, D. L., Bennett, K.L., 1993. glh 1, a germ-line putative RNA helicase from Caenorhabditis,has four zinc fingers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 9300-9304
【非特許文献4】Gruidl, M., Smith, P. A.,Kuznicki, K. A. McCrone, J. S., Kirchner, J., Roussell, D. L., Strome, S.,Bennett, K. L., 1996. Multiple potential germ-line helicases are components ofthe germ-line-specific P granules of Caenorhabditis elegans. Proc. Natl.Acad. Sci. USA 93, 13837-13842
【非特許文献5】Schupbach, T., Wieschaus, E.,1986. Maternal-effect mutations altering the antero-posterior pattern of the Drosophilaembryo. Roux’ Arch. Dev. Biol. 195, 302-317
【非特許文献6】Nusslein-Volhard, C.,Frohnhoher, H. G., Lehmann, R., 1987. Determination of anteroposterior polarityin Drosophila. Science 238, 1675-1681
【非特許文献7】Lasko, P. F., Ashburner, M.,1988. The product of the Drosophila gene vasa is very similar toeukaryotic initiation factor-4A. Nature 335, 611-617
【非特許文献8】Liang, L., Diehl-Jones, W.,Lasko, P., 1994. Localization of vasa protein to the Drosophilapole plasm is independent of its RNA-binding and helicase activities.
【非特許文献9】Orii, H., Mochii, M., Watanabe,K., 2003. A simple "soaking method" for RNA interference in theplanarian Dugesia japonica. Dev. Genes. Evol. 213, 138-141
【非特許文献10】Kuznicki, K. A., Smith, P. A., Leung-Chiu, W.M., Estevez, A. O., Scott, H. C., Bennett, K. L., 2000. CombinatorialRNA interference indicates GLH-4 can compensate for GLH-1; these two P granulecomponents are critical for fertility in C. elegans. Development 127, 2907-2916
【非特許文献11】Tabara, H., Grishok, A., Mello,C. C., 1998. RNAi in C. elegans: soaking in the genome sequence. Science282, 430-431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、養殖魚の寄生虫症による斃死の発生を抑制するために、魚類の免疫を賦活化させる方法、特に魚類寄生虫症に対する免疫を賦活させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、RNA干渉(RNAi)技術を用いて、寄生虫を不稔化(その虫自体は成長するが、生殖できない状態にすること)することができれば、それがワクチンに使えるのではないかとの仮説から本発明を完成させた。
各種生物で生殖細胞形成に不可欠な遺伝子制御機能を有する遺伝子として知られているvasa遺伝子に着目し、魚類寄生虫にも同様の遺伝子が存在することを初めて見出した。さらに、その遺伝子を用いてRNAi技術を用いることにより、魚類寄生虫を不稔化することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、下記(1)〜(5)の魚類の免疫を賦活化させる方法を要旨とする。
(1)魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法。
(2)免疫が寄生虫に対する免疫である(1)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(3)魚類寄生虫がNeobenedenia girellaeである(1)又は(2)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(4)vasa関連遺伝子が以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNAである(3)の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
(5)vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する方法として、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることを特徴とする(1)ないし(4)いずれかの魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【0008】
本発明は、上記(1)〜(5)の方法に用いることができる、下記(6)〜(11)のDNA、蛋白質等を要旨とする。
(6)以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNA。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
(7)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示されるタンパク質。
(a)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質。
(b)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム。
(c)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(d)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(8)(7)記載のタンパク質をコードするDNA。
(9)(6)又は(8)のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA。
(10)(9)の二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生。
(11)(10)の孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法を用いることにより、魚類の免疫を賦活することができるので、養殖魚等の寄生虫症などによる斃死率を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の対象となる魚類はこれらハダムシが寄生するカレイ目、スズキ目の魚類であり、ブリ類、ヒラメ類、フグ類、タイ類の魚である。具体的には、カンパチ、ブリ、ハマチ、スズキ、キイロハギ、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ、シマアジ、スズキ、マダイ、キジハタ、クエ、トラフグ、ヒラメなどが例示される。
本発明は、魚類寄生虫にもvasa遺伝子が存在することを確認し、それが生殖機能に関連するものであり、RNAi技術を利用するより、寄生虫を不稔化することができることをNeobenedenia girellaeを用いた実施例で示したものである。本発明の方法は、寄生虫に感染して免疫を獲得する寄生虫であれば、いずれの寄生虫にも適用することができる。特に、ネオベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ネオベネデニア・ジレル(Neobenedenia girellae))と同様、一般にハダムシと呼ばれているベネデニア(扁形動物門単生綱単後吸盤類カプサラ科ベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae))、ウナギのシュードダクチロギルス(Pseudodactylogyrus bini)、マダイの鰓虫(Bivagina tai)、ブリの鰓虫(Heteraxine heterocerca)、トラフグの鰓虫(Heterobothrium okamotoi)等のエラムシはハダムシと同じ扁形動物の単生虫に分類され、雌雄同体であること、卵巣、精巣の構造、及び卵の形成法などが非常に似ていることから、本発明の方法が適用できる。
【0011】
vasa関連遺伝子は、他の動物で既にクローニングされている vasa 関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計し、寄生虫のcDNAを鋳型にPCRにより寄生虫のvasa関連遺伝子の部分配列を増幅し、塩基配列を決定することができる。具体的には、技術分野に記載した非特許文献1〜8に記載されている、ヒト、マウス、ニワトリ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、マガキ、プラナリアのvasa関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計することができる。
本発明の実施例では、配列表配列番号1〜3のvasa関連遺伝子を得ている。
RNA干渉とは二本鎖RNAを導入することにより、その配列に相同的な遺伝子の発現を抑制する技術である。本発明では、上述のような方法で得た寄生虫のvasa関連遺伝子の二本鎖RNAを常法に従い作成し、寄生虫の孵化幼生に導入することによりRNA干渉を起こさせることができる。二本鎖RNAを導入するのは寄生虫の卵、幼生、成虫のいずれでも良いが、幼生を用いるのがもっとも確実であり、浸漬方法により導入しやすい。導入方法は本実施例に示すような浸漬方法がもっとも簡便な方法であるが、RNA干渉の二本鎖RNAの導入方法として通常用いられるinjection, feeding, soaking, in vivo
deliveryなどの手法で導入してもよい。浸漬方法の場合、二本鎖RNAの濃度は濃いほど導入しやすいが、一般に0.0002〜1mg/mlくらいの濃度で行う。浸漬液は寄生虫を飼育、培養する培養液と同様の条件を満たすものでよいが、浸漬液の浸透圧を、寄生虫の生体、細胞の浸透圧よりも少し高めに設定したほうが、二本鎖RNAを導入しやすい。海産魚の寄生虫の場合、人口海水を用いるが、本実施例では、530.2
mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10 mM Hepes, pH 8.0の浸漬液を用いた。実施例5に示すように、vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する場合に、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることにより、効果的に二本鎖RNAを導入することができる。
【0012】
上述の方法で作成した二本鎖RNAを導入した孵化幼生を魚類の水槽に入れるなどして感染させると孵化幼生は魚類に寄生するが、生殖機能は抑制されているので、寄生虫が増殖することはない。しかし、魚類は寄生虫に感染しているので、その刺激により免疫が賦活され、その後、寄生虫に感染しても重症にならず、斃死にいたるような事態を回避できる。したがって、この二本鎖RNAを導入した孵化幼生は弱毒化されたワクチンとしての機能を有する。
実施例に示すように、配列番号1の二本鎖RNA処理孵化幼生をヒラメに感染させたところ、処理虫は成熟阻害を受けるため、成虫は産卵しない、もしくは産卵したとしても孵化率が低い。このためヒラメは本症から自然治癒した。自然治癒したヒラメ(処理区)と本虫感染未経験のヒラメ(対照区)を混養し、本虫の孵化幼生で攻撃して両区の寄生数を比較した結果、処理区の寄生数は26.4±17.5個体、対照区の寄生数は165.9±76.9個体であり、有意に低い値となった。このように、不稔化の程度が不十分な、すなわち、産卵能力を有する不完全な程度に不稔化された
Neobenedenia girellae についても、その卵は高い確立で発生異常を起こすことが明らかであった。したがってRNA干渉による不稔化が完全でなくても十分にワクチンとして有用に利用できることがわかった。
【0013】
魚類宿主は寄生虫の再感染に対して、どのような生体防御が働きその感染を防いでいるのかについて、特異的、非特異的生体防御能の両方が関与していることがと報告されている(Buchmann, K. (1999) Immune mechanisms in
fish skin against monogeneans- a model. Folia Parasitologica 46,
1-9、Buchmann, K. and Lindenstrom,
T. (2002). Interactions between monogenean parasites and their fish hosts. International
Journal for Parasitology 32, 309-319.)。
【0014】
配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNAは、これらと同一物でも、これらを含むDNAでも、これらの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNAでも、あるいは、これらのいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAでもよい。
【0015】
配列表配列番号1〜3のDNAに相当するタンパク質は配列表配列番号4〜6のタンパク質である。本発明のタンパク質は、配列表配列番号4〜6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質、配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム、配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質、又は、配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質である。
RNA干渉以外の方法を採用することにより、これらのタンパク質の働きを阻害することによりNeobenedenia girellaeを不稔化することができる。
【0016】
上記のタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAとして機能する。
本発明のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNAはRNA干渉に用いることができる。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1:ハダ虫Neobenedenia girellaeのvasa関連遺伝子のクローニング
[材料と方法]
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持し、成虫を得た。卵は成虫から産卵された卵を回収することで得た。
vasa 関連遺伝子のクローニング:
Neobenedenia girellae の成虫および卵を採集し、Sepasol-RNA I
super (ナカライテスク)
を使用して total
RNA を抽出した。抽出した
total RNA から
Oligotex-dT-30(タカラ)を用いて mRNA を調整した。調整した mRNA を鋳型にして cDNA を合成した。
本明細書の技術分野記載の非特許文献1〜8を参考に、他の動物で既にクローニングされている vasa 関連遺伝子のアミノ酸配列から縮重プライマーを設計した。具体的には、ヒト、マウス、ニワトリ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、マガキ、プラナリアのvasa関連遺伝子を参考に、配列表配列番号7〜13のプライマーを作成した。
これらのプライマーを用いて、先に合成した cDNA を鋳型に PCR により Neobenedenia girellae のvasa 関連遺伝子の部分配列を増幅した。増幅した遺伝子を
pGEM-T easy vector に組み込んで塩基配列を決定した。
決定された vasa 関連遺伝子の部分配列をもとに Marathon cDNA amplification kit (CLONTECH) を使用して、RACE-PCR により全塩基配列を決定した。
決定した塩基配列は DNA Data Bank of Japan の clustal W によって他の動物の vasa 関連遺伝子との相同性を調べた。
【0018】
[結果と考察]
縮重プライマーを用いた PCR により 3 種の vasa 関連遺伝子と思われる cDNA 断片を得た。それぞれの塩基配列から予想されるアミノ酸配列を比較したところ、それぞれが vasa 関連遺伝子によく保存された motif を有していた。このため、それぞれの vasa 関連遺伝子を Ngvlg1(配列表配列番号1)、Ngvlg2(配列表配列番号2)、Ngvlg3(配列表配列番号3)と名付けた。(図
1)
それぞれの vasa 関連遺伝子の全塩基配列を RACE-PCR により決定した。その結果、Ngvlg1 は 670 アミノ酸を、Ngvlg2 は 548 アミノ酸を、Ngvlg3 は 634 アミノ酸をコードしていた。
全塩基配列を決定したそれぞれの vasa 関連遺伝子と、他の動物の vasa 関連遺伝子を比較したところ、Neobenedenia girellae のそれぞれの vasa 関連遺伝子は vasa サブファミリーに属しており(図 2)、さらに本 vasa 関連遺伝子は vasa サブファミリーに属する遺伝子が必ず保存している 8 つの motif を持っていた。従って、これらの遺伝子 (Ngvlg1、Ngvlg2、Ngblg3) はNeobenedenia girellae の vasa 関連遺伝子であることが明らかになった。(図
3)
【0019】
実施例2:in situ hybridization による本遺伝子のハダ虫成虫における発現部位の特定
[材料と方法]
in situ hybridization による発現部位の特定:
決定された vasa 関連遺伝子の塩基配列を鋳型にしてジゴキシゲニン (Dig) 標識したプローブを作成した。
Neobenedenia girellae 成虫を Davidson’s solution で固定し、8 μm の組織切片を作成した。作成した切片は脱パラフィン後、Proteinase
K で処理したのち、プローブを 50℃で 40 時間反応させた。反応後、未反応のプローブを洗浄し、抗 Dig 抗体を反応させ、NBT と BCIP により発色した。発色後、光学顕微鏡により観察した。
【0020】
[結果と考察]
in
situ hybridization の結果、Ngvlg1 とNgvlg2 はNeobenedenia girellae 成虫の卵巣および精巣で強く発現していた(図 4A:Ngvlg1 の卵巣での発現パターン、図4B :Ngvlg1 の精巣での発現パターン、図4C: Ngvlg2 の卵巣での発現パターン、図4D:Ngvlg2 の精巣での発現パターン、(本遺伝子に対するmRNAを検出している。写真上で、発現細胞は、黒色に染色される)。Ngvlg1、Ngvlg2 ともに卵巣では卵母細胞の細胞質で強く発現が認められ、精巣ではほぼすべてのステージの生殖細胞で強い発現が認められた。これらのことから、Ngvlg1 および Ngvlg2 はともに生殖細胞に特異的に発現する vasa 関連遺伝子であることが明らかになった。
しかし、Ngvlg3 は発現が認められず、発現部位の特定ができなかった。これは、Ngvlg3 が成虫では発現していない、もしくは発現量が著しく少ないことが考えられた。
【0021】
実施例3:RNA干渉(RNAi)法を利用したdsRNANgvlg1、dsRNANgvlg2、dsRNANgvlg3導入による vasa 関連遺伝子の発現抑制
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
合成RNAの調整:
Ngvlg1、Ngvlg2、Ngvlg3 それぞれの塩基配列を鋳型にしてMegascripts
kit (Ambion) をもちいて 二本鎖 RNA (dsRNA) を作製した。作製したdsRNA をsoaking buffer (Mg2+ free
buffer: 530.2 mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10.0 mM Hepes, pH 8.0) に 400μg/ml の濃度で溶解した。
試験区:
試験区は、孵化幼生無処理区、dsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生区、 dsRNA Ngvlg2 導入孵化幼生区、およびdsRNA Ngvlg3導入孵化幼生区の
計4区とした。
dsRNAの孵化幼生への導入と導入処理した孵化幼生の魚への感染:
試験区分の100リットル水槽を準備し、それぞれに平均魚体重93gのヒラメ5尾を収容し、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をそれぞれの dsRNA を溶解した soaking bufferに25℃で3時間浸漬した。その後、処理した各区の孵化幼生を準備しておいたヒラメに攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。感染させて12日目に各区全ての魚をサンプリングし、寄生している成虫を採集して、組織切片を作成した。また同時に、採集した各区成虫30個体を 10個体ずつに分け、シャーレに収容し25℃ で 24 時間培養して卵を得た。得られた卵を回収し 25℃ で 2 週間培養した。ヒラメには、試験を通して、市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
効果の判定:
生殖腺形成阻害有無は、各区成虫の生殖腺の形態、生殖細胞の有無および数を比較することで行った。また、卵への影響は、これら成虫から得られた卵の未孵化率を比較することで行った。
【0022】
[結果と考察]
採集した成虫の組織観察した結果、対照区およびdsRNA Ngvlg3導入区では卵巣、精巣に異常は観察されなかった(図
5A:対照区の卵巣、図5B:対照区の精巣)。dsRNA Ngvlg1 導入区では、卵巣内部および精巣内部の生殖細胞数が減少した個体や生殖細胞が消失した個体が観察された(図
5C:卵巣、図5D:精巣)。dsRNA Ngvlg2 導入区では卵巣内部および精巣内部の生殖細胞数が減少した個体がみられたが、生殖細胞が消失した個体は観察されなかった(図
5E:卵巣、図5F:精巣)。
次にこれら生殖細胞数の減少した個体と生殖細胞を持たない個体の出現率を算出した(図
6 )。その結果、dsRNA Ngvlg3導入区は、対照区と比べ生殖細胞数に異常がある個体は出現しなかった。一方、dsRNA Ngvlg1 および Ngvlg2 導入区 では、生殖細胞数に異常があった個体が出現した。RNAi
Ngvlg1 導入区の生殖細胞数が減少した個体出現率は 37.0%、生殖細胞が消失した個体の出現率は 24.8% であった。RNAi Ngvlg2 導入区の生殖細胞数が減少した個体の出現率は 26.8% であった。従って、これらの結果から、RNAi法を利用しdsRNA Ngvlg1 もしくはdsRNA Ngvlg2 を孵化幼生に導入し、これら遺伝子の発現を抑制することによって、本虫の生殖細胞形成を阻害できることが判明した。また、特にNgvlg1 の発現を抑制することにより、効率よく生殖細胞を持たない
Neobenedenia girellae をつくれることを示している。
各試験区の Neobenedenia girellae 成虫が産卵した卵を培養し、未孵化卵率を算出した結果、対照区では0.9%、dsRNA Ngvlg3導入区では3.3%であり、共に低い値であった(図7)。
一方、dsRNA Ngvlg1 および dsRNA Ngvlg2 導入区の未孵化卵率はそれぞれ 55.5% および 42.3% であった。この結果から、完全に不稔化していない産卵能力を有した固体でも、これら遺伝子の発現抑制を受けており、産卵された卵は正常に発生しないことが判明した。
【0023】
実施例4:dsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生のワクチン効果
寄生虫:
本試験に使用したハダ虫 Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
合成RNAの調整:
dsRNA
Ngvlg1は、Ngvlg1の塩基配列を鋳型にしてMegascripts kit
(Ambion) をもちいて作製した。作製した dsRNA をsoaking buffer (Mg2+ free buffer: 530.2 mM NaCl, 10.0 mM KCl, 9.2 mM CaCl2・2H2O, 10.0
mM Hepes, pH 8.0) に 400μg/ml の濃度で溶解した。
供試魚とその飼育:
供試魚はヒラメとした。試験を通して、餌は市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
試験区:
試験区は、dsRNA Ngvlg1 を導入した孵化幼生で感染治癒させる処理ヒラメ区と未処理ヒラメ区の計2区とした。
dsRNAの孵化幼生への導入処理と処理した孵化幼生の魚への感染:
100リットル水槽2基を準備し、それぞれに平均魚体重78gのタグ標識ヒラメを収容し(対照区:12尾、処理区9尾)、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をdsRNA Ngvlg1 を溶解した soaking buffer に25℃ で 3 時間浸漬した。その後、処理ヒラメ区の水槽にdsRNA
Ngvlg1導入孵化幼生を投入し攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。本症から治癒するまで継続して飼育した。感染させたヒラメの治癒状況の判断は、感染した処理虫が成虫になり、それらが産卵する卵の増減を指標に判断した。
ワクチン効果判定のための攻撃試験:
処理ヒラメ区にdsRNA Ngvlg1 導入虫を感染させてから42日目に各区の魚を200リットル水槽に移し混養した。1日後に7000個体の本虫孵化幼生で攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本虫を暴露させることで行った。攻撃12日目に全ての魚をサンプリングし、本虫の寄生数を調べた。
効果の判定:
ワクチン効果の判定は、各区の寄生数を比較することで行った。
【0024】
[結果と考察]
dsRNA
Ngvlg1導入孵化幼生を感染させたヒラメは感染させてから35日目に飼育水中から卵が確認されなくなった。従って、本処理虫を寄生させても寄生虫感染が蔓延することなく、治癒することが確認できた。
dsRNA
Ngvlg1 導入虫を感染・治癒させた処理ヒラメ区の寄生数は26.4±17.5個体、対照区の寄生数は165.9±76.9個体であった(図8)。これはdsRNA Ngvlg1 導入虫を感染させることで、生体防御能を誘導できたことを示している。しかも、本処理虫をヒラメに感染させても自然治癒することから、このdsRNA Ngvlg1 導入孵化幼生はワクチンとして利用できることが判明した。
【0025】
実施例5:dsRNAを効率的に寄生虫へ導入する浸漬液の組成
本試験は実施例3と同方法で実施した。
試験区:
試験区は、孵化幼生無処理区2区(Control)、dsRNA Ngvlg1 を孵化幼生にMgイオンを含む浸漬液にて導入した区(図9A-V1)、dsRNA Ngvlg2 を孵化幼生にMgイオン含む浸漬液にて導入した区(図9A-V2)、 dsRNA Ngvlg1を孵化幼生にMgイオンを含まない浸漬液にて導入した区(図9B-V1)、 dsRNA Ngvlg2を孵化幼生にMgイオンを含まない浸漬液にて導入した区(図9B-V2)の計6区とした。
導入に用いた浸漬液:
Mgイオンを含む海水の組成は、463.8mM塩化ナトリウム、10.0mM塩化カリウム、9.2mM 塩化カルシウム・2H2O、35.9mM塩化マグネシウム・6H2O 、17.5mM硫酸マグネシウム・7 H2O、10mM Hepes ( pH 8.0 )とした。また、Mgイオンを含まない浸漬液は実施例3と同様のものとした。
dsRNAの孵化幼生への導入と導入処理した孵化幼生の魚への感染:
試験区分の100リットル水槽を準備し、それぞれに平均魚体重93gのヒラメ5尾を収容し、7日間馴致した。Neobenedenia girellae 孵化幼生約1500個体をそれぞれの dsRNA を溶解した soaking bufferに25℃で3時間浸漬した。その後、処理した各区の孵化幼生を準備しておいたヒラメに攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。感染させて12日目に各区全ての魚をサンプリングし、寄生している成虫を採集した。採集した各区成虫30個体を 10個体ずつに分け、シャーレに収容し25℃ で 24 時間培養して卵を得た。得られた卵を回収し 25℃ で 2 週間培養した。ヒラメには、試験を通して、市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の1.5%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
効果の判定:
これら成虫から得られた卵の未孵化率を比較することで行った。
【0026】
[結果と考察]
各試験区の Neobenedenia girellae 成虫が産卵した卵を培養し、未孵化卵率を算出した結果、明らかにMgイオンを含まない浸漬液でdsNgvlg1及びdsNgvlg2を寄生虫へ導入した区の方が未孵化卵率は高いことが分った(図9)。従って、Mgイオンを含まない浸漬液を用いることで、効率的にdsRNAを孵化幼生に導入できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法により、ハダムシ等の寄生虫感染による斃死が問題となっている魚類養殖現場に、副作用の心配のない有効なワクチンを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】重複プライマーを用いたPCRによって得られた3種のcDNA断片の推定されるアミノ酸配列比較(白抜き文字箇所がvasa関連遺伝子に非常によく保存されたモチーフを示す)を示した図である。
【図2】Neobenedenia girellae のvasa関連遺伝子と他の動物のvasa関連遺伝子との分子系統樹を示した図である。
【図3】Neobenedenia girellae のvasa関連遺伝子のそれぞれがコードすると推定されるアミノ酸配列(白抜き文字箇所がvasa関連遺伝子に非常によく保存されたモチーフ)を示した図である。
【図4】in situ hybridizationによりNgvlg 1およびNgvlg 2の発現部位を特定した結果((A)Ngvlg1 の卵巣での発現、(B)Ngvlg1 の精巣での発現、(C)Ngvlg2 の卵巣での発現、(D)Ngvlg2 の精巣での発現)を示した写真である。
【図5】RNA干渉によりNgvlg1 およびNgvlg2 の発現が抑制されたNeobenedenia gerellae の生殖腺の組織((A)対照区の卵巣、(B)対照区の精巣、(C)dsRNA Ngvlg1 導入区の卵巣、D)dsRNA Ngvlg1 導入区の精巣、(E)dsRNA Ngvlg2 導入区の卵巣、(F)dsRNA Ngvlg2 導入区の精巣)を示した写真である。
【図6】生殖腺に異常があった個体の出現率を示した図である。
【図7】未孵化卵の出現率を示した図である。
【図8】不稔化ハダ虫のワクチン効果を示した図である。
【図9】浸漬液のMgイオンの存在の有無による未孵化卵の出現率の差を示した図である(A:Mgイオンを含む浸漬液、B:Mgイオンを含まない浸漬液)。
【配列表フリーテキスト】
【0029】
配列番号:7
プライマー
配列番号:8
プライマー
配列番号:9
プライマー
配列番号:10
プライマー
配列番号:11
プライマー
配列番号:12
プライマー
配列番号:13
プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法。
【請求項2】
免疫が寄生虫に対する免疫である請求項1の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項3】
魚類寄生虫がNeobenedenia girellaeである請求項1又は2の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項4】
vasa関連遺伝子が以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNAである請求項3の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する方法として、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることを特徴とする請求項1ないし4いずれかの魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項6】
以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNA。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項7】
以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示されるタンパク質。
(a)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質。
(b)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム。
(c)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(d)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
【請求項8】
請求項7記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項9】
請求項6又は8のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA。
【請求項10】
請求項9の二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生。
【請求項11】
請求項10の孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【請求項1】
魚類寄生虫のvasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入し、RNA干渉により生殖細胞形成を阻害させ、不稔化した孵化幼生を魚類に寄生させることを特徴とする魚類の免疫を賦活化させる方法。
【請求項2】
免疫が寄生虫に対する免疫である請求項1の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項3】
魚類寄生虫がNeobenedenia girellaeである請求項1又は2の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項4】
vasa関連遺伝子が以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNAである請求項3の魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
vasa関連遺伝子を寄生虫孵化幼生に導入する方法として、Mgイオンを含まない浸漬液を用いる浸漬法を用いることを特徴とする請求項1ないし4いずれかの魚類の寄生虫に対する免疫を賦活化させる方法。
【請求項6】
以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)のいずれかで示されるDNA。
(a)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示されるDNA。
(b)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列を含むDNA。
(c)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有し、かつ、Neobenedenia girellae孵化幼生に相同する二本鎖RNAとして導入した場合に生殖細胞形成機能を有するDNAの機能をRNA干渉によって阻害するDNA。
(d)配列表配列番号1、2又は3のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項7】
以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示されるタンパク質。
(a)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質。
(b)配列表配列番号4、5又は6のいずれかのアミノ酸配列で示されるNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質のアイソフォーム。
(c)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
(d)配列表配列番号4、5又は6のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつNeobenedenia girellaeの生殖細胞形成機能に関与するタンパク質の生物学的活性を有するタンパク質。
【請求項8】
請求項7記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項9】
請求項6又は8のDNAの塩基配列を鋳型にして作成した二本鎖RNA。
【請求項10】
請求項9の二本鎖RNAを導入したNeobenedenia girellae の孵化幼生。
【請求項11】
請求項10の孵化幼生からなる魚類用ワクチン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2008−148607(P2008−148607A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338610(P2006−338610)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 2006年12月6日 掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science/journal/00207519
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 2006年12月6日 掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science/journal/00207519
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
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