説明

黒液利用発電システム,黒液利用発電方法及び黒液利用発電システムの改造方法

【課題】
黒液を利用した再生エネルギーの明確化及び発電効率向上が図れる黒液利用発電システム,黒液利用発電方法及び黒液利用発電システムの改造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
木材から紙を生産する生産過程(エバポレーター8等)で生成される黒液を燃焼させて蒸気を発生させる第一の蒸気発生手段(黒液回収ボイラー13)とは別系統の第二の蒸気発生手段(排熱回収ボイラー16)を設け、該第二の蒸気発生手段(排熱回収ボイラー16)で発生する蒸気を前記生産過程(エバポレーター8等)の加熱蒸気として用いるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒液利用発電システム,黒液利用発電方法及び黒液利用発電システムの改造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工場(パルプ工場)の製造過程で生成される黒液を燃料とする黒液回収ボイラーを備えた発電システムとして、例えば、特許文献1(特開平6−82002号公報)があげられる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−82002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、黒液回収ボイラーによる発電効率,再生エネルギーの明確化及び製紙工場の生産ラインの操業安定化等が考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、黒液を利用した再生エネルギーの明確化及び発電効率向上が図れる黒液利用発電システム,黒液利用発電方法及び黒液利用発電システムの改造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明は、木材から紙を生産する生産過程で生成される黒液を燃焼させて蒸気を発生させる黒液回収ボイラーと、該黒液回収ボイラーからの発生蒸気で駆動する蒸気タービンと、該蒸気タービンによって駆動される発電機と、該黒液回収ボイラー又は該蒸気タービンからの蒸気を該生産過程の加熱蒸気として利用する黒液利用発電システムにおいて、
排熱回収ボイラーを備えた重油,灯油または天然ガスを燃料源とするガスタービン発電設備を設け、
該排熱回収ボイラーで発生する蒸気を該生産過程の加熱蒸気として用い、前記黒液回収ボイラーからの発生蒸気の大部分を前記蒸気タービンの発電に利用するよう構成し、
前記発電機の電力が黒液を起源とする電力であることが明確になるように、前記黒液回収ボイラーと、該第二のボイラーと、該蒸気タービンとを構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、黒液を利用した再生エネルギーの明確化及び発電効率向上が図れる黒液利用発電システム,黒液利用発電方法及び黒液利用発電システムの改造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
地球温暖化防止の観点から再生可能エネルギーである間伐材等のバイオマスを燃料源とする発電設備において、発電効率の増加と発電量の増加が望まれている。欧米では再生エネルギーの有効活用を支援する政府の政策により、木材資源をそのまま燃料とするバイオマス発電設備が急速に増加しており、発電設備容量が17,000MW を超えている。ただし、バイオマス資源は約50%の水分を含み、乾燥させても20%ほどは水分が残るので、発電効率が14〜18%と低くその効率向上が望まれている。
【0009】
一方、国土の70%が山地の日本においては、木材を集積する費用が高いために、森林資源のバイオマスを発電に利用することがほとんど実施されていない。このため、森林1ha当りの木材資源の活用割合はスウェーデンやドイツの1/3〜1/4で、森林の年間成長量の1/3ほどしか利用されていない。この結果、間伐作業等が適切に実施できず、日本の森林は過密になって活力が失われている。バイオマス燃料である間伐材を高効率でかつ経済的な発電できる方式が必要とされている。
【0010】
このような社会的な要請を受けて、2002年6月には「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」が成立し、送電系統で移送される電力の内で再生エネルギーを起源とする発電量に対して、市場売買に基づくクレジットが認められることになった。この再生エネルギーに対するクレジットを有効に活用することによって、バイオマス資源の活用を図り、日本の森林に活力を与えることができる。
【0011】
図2を用い、次に、製紙工場における紙の生産過程や製紙の生産過程の設備を説明する。図2は、製紙の生産工場におけるパルプ工程と回収工程の概要を示したものである。海外から輸入された丸太は、板や角材を切り出した後の部材や間伐材を切断して3cm角程のチップとして、トラックで製紙工場のチップ貯蔵場所に搬入する。木材には、紙の製造に用いられる繊維で有るパルプが50%ほど存在し、残りがパルプ繊維同士を結合させるリグニンとヘミセルロースである。
【0012】
パルプ工程の第一ステップでは、蒸解釜31で無機薬品溶液を用いて、チップからリグニンとヘミセルロースを溶液に抽出する。無機薬品には苛性ソーダ70%と硫化ソーダ30%の混合液を用いて170℃の加圧条件で、垂直な円筒容器内を流下させる過程で連続的に反応を進める。蒸解釜31の大きさは、パルプ生産能力が1,200〜1,600ton/日 の規模で容積が2,000m3 で有る。蒸解釜31を高温・高圧に保つために、樹木の種類によりパルプ1ton を生産する当り、0.68〜0.77ton の加熱蒸気を必要としている。蒸解釜31から流出したパルプを含むスラリーは、次の洗浄工程32に送られる。
【0013】
洗浄工程32では、加圧デフェーザー洗浄機と大気圧デフェーザー洗浄機の多段構成により、蒸解釜31から流出したパルプを含むスラリーを、パルプと溶液とに分離する。この溶液は、リグニンとヘミセルロースを含む固形分濃度15%程度のものであって、黒液と称され、エバポレーター35に送られる。パルプはスクリーン33に送られる。
【0014】
スクリーン33では、パルプを裏ごしして、パルプに含まれるゴミや生煮えのチップを取り除いて、良好なパルプだけを次の漂白設備34に送る。
【0015】
漂白設備34は、4段階の工程で、パルプが段々白色度を増して行く。完全にリグニンをパルプから分離させるほど蒸解釜で反応させると、パルプ繊維に損傷が生じる。したがって、少しリグニンがパルプに残存する状態で漂白設備に送られてくるので、漂白設備34の初段でパルプの1.5〜2.1%ほどの酸素を添加して、残留しているリグニンを95〜100℃の温度条件で除去する。添加する酸素を製造するために、製紙工場にはPSA方式の酸素製造設備が設けられている。漂白されたパルプは抄紙工程に送られて、薄く広げた後で脱水・乾燥することで紙が製造される。
【0016】
先の洗浄工程32で生成した黒液は、多重効用蒸発缶方式を採用したエバポレーター35で自燃可能な濃度まで濃縮されてから、黒液回収ボイラー36に送られる。多重効用方式は初段には加熱蒸気を利用するが、段毎に蒸発圧力を減少させることで、それ以降の濃縮段では前段で発生した蒸気を加熱源として利用して、少ない蒸気で濃縮を可能にしている。蒸発缶の最終段にはプレート式液膜硫化蒸発缶を採用することで、流動性の限界に近い80%近くまで濃縮を可能にしている。この結果、黒液は3000Mcal/ton と高い発熱量を保持している。日本全部の製紙会社で生成される黒液の発熱量合計は、石油換算で年間464万klにもなる。
【0017】
黒液回収ボイラー36では、過熱管等には耐食性材料を採用することで、SOxが含まれる条件でも、100ata で500℃以上の蒸気を発生することができる。この結果、黒液回収ボイラー36からの発生蒸気を蒸気タービン37で発電する場合の効率は30〜35%にも達する。これは、バイオマスを直接ボイラーで燃焼して発電する場合の2倍近い値である。木材成分のうちで半分ほどのリグニンとヘミセルロースを抽出した黒液を用いて発電することで、全部を燃焼した場合と同等の発電量を得ることができる。
【0018】
但し、蒸解釜31に供給された無機薬品の溶融物であるスメルトが、黒液回収ボイラー36の底に残存する。スメルトを水に溶解させた緑液から不純物を除去し、生石灰を添加しスラッジをライムスレーカと白液セットラーで除去すると、緑液は再利用可能な白液になり、再度蒸解釜31に送られる。スラッジを石灰キルンで数時間焼くと、元の生石灰に戻る。
【0019】
黒液回収ボイラー36で発生した蒸気は、蒸解釜31やエバポレーター35、抄紙工程で加熱源として利用されるとともに、蒸気タービン37を駆動して電気を発生させる。製紙の生産過程で要する加熱蒸気としては、蒸解釜31やエバポレーター35、抄紙工程等があげられる。
【0020】
製紙の生産過程の設備では、種々のプロセスで電気を使用しているので、回収したボイラーからの発電量だけでは電力が不足するので、系統から電力を購入している。製紙産業が購入する電力量は平成13年度で10,979GWh にもなり、産業部門全体の4%に相当する。
【0021】
ここで、本発明の実施の形態では、更に、次の(1)〜(3)を考慮する。
【0022】
(1)製紙工場を運転するには、その生産過程で多量の加熱蒸気を必要とするが、運転を開始してから濃縮された黒液が生成されて、黒液回収ボイラーで蒸気が得られるまでに約1日必要で有る。この間は重油等で黒液回収ボイラーを運転する必要が有るが、黒液回収ボイラーによる発電効率は30〜35%ほどなので、同じ重油でガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルの発電効率50%と比較すると、エネルギーの損失が大きい。
【0023】
(2)「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」で認められている再生エネルギーを起源とする電力と認定されるためと、国際的にも再生エネルギーの電力を有効活用している努力を認めてもらうためには、黒液を起源とする電力であることを明確化して黒液を起源とする電力系統に搬送し、その電力量を測定する必要が有る。生産工場内電力とし利用するだけでは、再生エネルギーを利用とは認められない。
【0024】
(3)製紙工場の主要機器である蒸解釜やエバポレータ,抄紙工程は、加熱蒸気を必要とする。黒液回収ボイラーで発生する蒸気だけを利用する場合には、万一黒液回収ボイラーが短時間でも故障すると、製紙工場全体の操業を停止する必要が有る。
【0025】
上記(1)〜(3)を鑑みて、ガスタービン又はディーゼルエンジン,ガスエンジンを製紙工場内に新たに設置して、重油,灯油または天然ガスを燃料源として発電して、製紙工場内の運転に必要な動力を賄う。また、ガスタービン等から発生する高温排気ガスの排熱を活用して蒸気を発生させ、製紙工場内の生産過程で利用する加熱蒸気とする。この結果、黒液を燃料源とした黒液回収ボイラーで発生する蒸気の大部分を蒸気タービンの発電に利用することができ、発電量を増加できる。また、ガスタービン等から発生する高温排気ガスの排熱を活用して蒸気を発生させ、生産ラインに用いることが出来るので、製紙工場全体の操業安定化が図れる。更に、新たに発電設備を設けたことにより、蒸気タービンからの発電電力は電力量を計測した後で、送電系統網を経由して一般電気事業者や特定電気事業者に電力を販売する。この結果、再生エネルギーを燃料源とする発電電力量を明確化することができる。
【0026】
(実施例1)
図1を用いて本発明の具体的な実施例を説明する。自然乾燥により水分量を20%まで低下された3cm角の木材チップは、複数存在する内容積5000m3 のチップサイロ1に収納する。チップサイロ1に配置された加振装置の作用で、木材チップは、チップサイロ1の下部からチップ予熱装置2に重力落下する。チップ予熱装置2では、パルプ製造工程で発生する加熱蒸気を注入して木材チップを加温する。加熱された木材チップは、自動原料供給装置3で3800ton/dayの処理流量で浸透ベッセル4にその上部から供給する。浸透ベッセル4で、その下部から供給される苛性ソーダと硫化ソーダを7:3に混合した濃度13%の蒸解薬液に、木材チップを含浸させる。ここで、木材チップ3800ton には、水分が800ton、パルプ成分が1500ton、リグニンとヘミセルロースが合計した成分で1500ton含まれる。
【0027】
次に、木材チップと蒸解薬液の混合物は、内径6mで高さ55mの蒸解釜5上部に供給される。蒸解釜5において、外部から供給される加熱蒸気との熱交換によって、170℃,7ata の高温高圧条件まで加熱する。蒸解釜5の上部では木材チップと蒸解薬液の混合液を上部より並流状態で流下させて、両者の混合を促進させる。木材チップに含まれるリグニンとヘミセルロースは蒸解薬液中への溶解が始まるが、蒸解薬液に溶解したリグニン濃度を増加するに伴ない、溶解速度が低下する。そこで溶解速度を向上させるために、蒸解釜5下部から新しい蒸解薬液を供給し、流下してくるチップと交流状態で混合を促進して、木材チップに残留しているリグニン等を効率良く溶解させる。木材チップに含まれていたパルプ繊維とリグニン等は分離され、パルプ濃度が10%ほどのスラリーを蒸解釜5の中央部より抽出する。また、蒸解釜5でチップが不溶成分のパルプと溶解成分のリグニンとヘミセルロースに分離するのに必要な反応時間は、約5〜6時間もかかる。
【0028】
後段の洗浄工程の密閉加圧型ドラム洗浄機7は、低圧で運転するので抽出した170℃,7ata のスラリーを、そのまま後段に供給すると蒸解釜5で加熱に用いられた熱が全て損失になる。そこで、熱回収装置6でスラリーを減圧させ、発生した蒸気をチップ予熱装置2に送って木材チップの加温に利用し、蒸解釜5での上部で170℃まで加熱するのに必要な加熱蒸気量を低減する。熱回収装置6を用いて熱の再利用を図っても、3800ton/dayの木材チップを処理するのに外部から1100ton/dayの加熱蒸気を蒸解釜5に供給する必要が有る。
【0029】
熱回収装置6で減圧したスラリーの洗浄には、密閉加圧型ドラム洗浄機7を用いる。密閉加圧型ドラム洗浄機7の回転ドラム上にスラリーを供給すると、リグニン等を含む蒸解薬液と固形分であるパルプとが分離する。このパルプには一部蒸解薬液が付着して残存するので、これを洗浄液で多段階に洗うことで薬液を除去する。密閉加圧型ドラム洗浄機7から排出される廃液の内でリグニンや薬品の濃度が濃いものは黒液と呼ばれ、エバポレーター8に送る。薬液濃度が低い廃液は排水処理設備に送り、BODとCODを低減して洗浄水として再利用することができる。
【0030】
密閉加圧型ドラム洗浄機7から移送されるパルプスラリーは、先ずスクリーン9で裏ごしして、パルプ中に含まれるゴミや生煮えのチップを取り除く。良好なパルプを10%ほどの濃度で、中濃度ハイシェポンプ10を用いて次の漂白工程11に移送する。パルプは10%ほどの中濃度になると、通常のポンプではパルプ繊維が相互に絡み合って移送が難しくなるが、中濃度ハイシェポンプ10では高いせん断力をスラリーに加えてパルプ繊維によって形成される網構造を破壊することで、配管輸送を可能にしている。10%ほどの高濃度でパルプを移送することで、輸送するために添加する水の消費量を低減している。
【0031】
漂白工程11では、最終製品の紙に要求される白色度に応じて、漂白剤処理とアルカリ処理を幾段か繰り返す。各段の始めには洗浄工程で、前段で使用した薬品を除去し、その後で新しい薬品を添加して、薬品に応じた50〜70℃の反応温度まで加温する。パルプスラリーは、各反応容器の下部より供給され塔内を2〜3時間かけて上昇し、上部より排出される。各反応塔における反応温度が低いので、抄紙工程12等からの廃熱で生成した温水を用いて加温する。漂白工程11から、パルプは、次の抄紙工程12に移送される。
【0032】
抄紙工程12は、リファイナーとワイヤーパート,プレスパート,ドライヤーパート,リールパートで構成される。パルプは、まず、リファイナーで機械的に叩解して、パルプ表面を毛羽立たせる。次のワイヤーパートでパルプは網の上に薄く延ばし、ワイヤー上を移動させる過程でパルプに含まれる水分を重力で落下させて、パルプに含まれる水分量を低減する。ワイヤーパートを出た段階ではパルプ繊維にはまだ多くの水分が含まれているので、プレスパートで両側から金属ロールで加圧することで、パルプ繊維に含まれる水分を機械的に押し出す。但し、プレスパート出口でパルプにはまだ56%も水分が含まれる。次のドライヤーパートでは、内面から蒸気で加熱する。金属製円筒形のドライヤー表面にパルプを押し付けることで、パルプは乾燥して紙になる。ドライヤーパート入口ではパルプより水分量の方が多いので、乾燥したパルプ1ton を生産するのに、1.7tonもの加熱蒸気量を必要とする。3800ton/day の木材チップを処理する場合には2600ton/day の加熱蒸気が必要で、抄紙工程12が製紙工場で最大の蒸気消費工程になっている。ドライヤーパートでパルプを乾燥させた蒸気は温水となるので、この温水を漂白工程11の加熱源に用い有効利用を可能とする。ドライヤーパートで乾燥された紙は、リールパートでスプールに巻きつける。
【0033】
また、密閉加圧型ドラム洗浄機7で生成した濃度15%の黒液は、発生量が15,000ton/day で、無機薬品が5%ほどと可燃性のリグニンとヘミセルロースが10%ほど含まれる。本実施例では、多重効用蒸発缶方式を採用したエバポレーター8は、6重効用により必要な加熱蒸気を1/6まで低減している。このように蒸気使用量の低減に努めた結果、エバポレーター8で必要な加熱蒸気量は1500ton/dayになる。加熱用蒸気は、伝熱面への黒液の焦げ付きを防止するために、139℃,3.5ataの低圧蒸気を採用している。黒液の流動性が維持できる限界である80%まで濃縮可能なプレート式液膜流下方式を、各蒸発缶でエバポレーター8は採用している。黒液を80%まで濃縮する場合、伝熱面表面に黒液に含まれる固形分がスケールとして一部付着することは避けられない。そこで、各蒸発缶ではプレート式液膜の伝熱管を3区画に分離し、2区画を濃縮運転、1区画を洗浄運転と切り替え運転を実施する。
【0034】
80%まで濃縮された黒液は、発熱量が3000Mcal/ton も有るので、ポンプで黒液回収ボイラー13の空気中に噴霧して、助燃材無しで燃焼させることが可能で有る。黒液回収ボイラー13には、節炭器と蒸発器,過熱器を設け、木材チップを3800ton/day処理する製紙工場では黒液の焼却により、515℃,112ataの高圧蒸気を8640ton/day(360ton/h)得られる。黒液回収ボイラー13からの廃棄ガスは、節炭器で120℃まで冷却され、電気集塵機でダストを除去する。廃棄ガスは、含まれる不純物濃度が所定の値以下で有ることを測定した後で、誘引ファンの作用で煙突から大気へ放出する。黒液回収ボイラー13で黒液に含まれるリグニンとヘミセルロースは、空気で燃焼して二酸化炭素になって煙突から放出され、黒液に含まれる不燃性の無機薬品成分はスメルトとして、黒液回収ボイラー13下部に溶融物として堆積する。
【0035】
黒液回収ボイラー13の下部に存在するスメルト溶融物の液面が設定値を越えると、黒液回収ボイラー13の下部バルブを開いてスメルトを排出する。水を添加するとスメルトは溶解して緑液になるので回収工程14に移送する。
【0036】
回収工程14は、緑液セトラー,苛性化槽,白液セトラー,石灰キルンで構成される。先ず緑液セトラーで燃え残りの灰等の不溶解成分を沈降させて分離する。次の苛性化槽で不純物が除去された緑液に生石灰を加えることで、元の蒸解薬液で有る白液に戻し、生石灰は石灰泥になる。この石灰泥と白液を分離する白液セトラーは、加圧した白液セトラー内にろ布を張ったデイスクが回転させ、圧力差により白液はろ布を通ることで、石灰泥から分離する。ろ布に残った石灰泥はブレードによって掻き落されて、80%の高濃度まで濃縮される。この高濃縮された石灰泥は石灰キルンに送られて、数時間かけて高温で焼かれて生石灰に戻る。この生石灰は、苛性化槽で用いる。回収工程で再生される白液量は4500m3/dayになる。
【0037】
木材チップで3800ton/day、製品の製紙にして1500ton/day規模の製紙工場を運転するのに必要な電力量は70MWで、加熱蒸気量は5200ton/day(216ton/h)である。
【0038】
そこで、本実施例では、黒液回収ボイラー13(第一の蒸気発生手段)とは別系統の第二の蒸気発生手段を設けている。電気出力70MWのガスタービン15を1台工場内に据付けて、ガスタービン出口に排熱回収ボイラー16を設けている。つまり、第二の蒸気発生手段として排熱回収ボイラー16を設けている。蒸気を発生する通常のボイラーを設けても良い。
【0039】
70MWのガスタービンの排ガス流量は、200kg/sで、ガスタービン出口における排気ガス温度が600℃で有る。したがって、排熱回収ボイラー16で出口の排ガス温度を80℃になるまで熱回収すると、170℃の飽和蒸気が160ton/h生成でき、製紙工場全体で必要な加熱蒸気量216ton/hの74%を賄うことができる。そのため、黒液回収ボイラー13から発生する、515℃,112ataで流量が360ton/hの高圧蒸気を蒸気タービン17に供給することができる。その際、その蒸気の全量を蒸気タービン17に供給することが望ましい。
【0040】
360ton/h の内で、ガスタービン15の排熱回収ボイラー16だけでは不足する蒸気量56ton/h を蒸気タービン17の途中から抽気し、その蒸気タービン17の途中段からの蒸気を生産過程の加熱蒸気としてエバポレーター8等に供給しても良い。蒸気タービン17から抽気する時の圧力はエバポレーター8で必要な圧力である3.5ataとし、抽気しない残りの304ton/h の蒸気は復水器18で凝縮させ、高圧ポンプで加圧してから、抄紙工程からの排熱を利用して加温してから黒液回収ボイラー13に戻す。黒液回収ボイラー13で発生する蒸気の大部分を蒸気タービン17での発電に利用できるので、蒸気タービン17の発電量は発電効率を0.9 とすると113MWになり発電量が増加する。つまり、黒液回収ボイラー13(第一の蒸気発生手段)とは別系統の第二の蒸気発生手段を設けているので、生産過程で要する加熱蒸気を第二の蒸気発生手段で賄い、黒液回収ボイラー13で発生する蒸気を蒸気タービン17での発電に適切に利用可能となり、黒液を利用した発電であることの明確化が可能となり、且つ蒸気タービン17での発電効率を向上することが可能となる。また、ガスタービン15の排熱回収ボイラー16だけでは不足する蒸気量56ton/h を黒液回収ボイラー13で発生する蒸気で補っても良い。
【0041】
蒸気タービン17の発電機による電力の少なくとも一部を送電系統に送電する。再生エネルギー利用のメリットを考慮すると、この電力のほぼ全量を送電系統に送電することが望ましい。この蒸気タービンの発電量は、電力量を計測した後で変圧器19で22kVまで昇圧し、送電系統を通して一般電気事業者や特定電気事業者に売電するか、同じ会社に所属する別の工場に送電して利用する。送電系統で搬送する電力は、全て再生エネルギーで有る黒液を燃料源としているので、法律で認められる再生エネルギーのクレジットが全量認められる。
【0042】
ガスタービン15を導入して排熱回収ボイラー16を設けると、黒液回収ボイラー13と排熱回収ボイラー16の2箇所で加熱蒸気を発生できる。2つの蒸気発生手段を備えているので、ガスタービン15または排熱回収ボイラー16が故障したり、定期検査を実施する場合は、黒液回収ボイラー13の蒸気を加熱源として製紙工場は運転することが可能で有る。
【0043】
2つの蒸気発生手段を備え、夫々の供給系統を連結して切替手段を設けることで、設備故障やメンテナンスなどを考慮した操業の安定化が図れる。例えば、排熱回収ボイラー16の蒸気系統に接続する箇所と蒸気タービン17への系統に、黒液回収ボイラー13からの流路を変更するための切替手段であるバルブ20,バルブ21を設けることが望ましい。また、黒液回収ボイラー13が故障するか定期検査を実施する場合には、排熱回収ボイラー16からの発生蒸気だけでは若干不足するので、稼働率を80%に低下すれば工場全体の運転継続が可能である。
【0044】
ガスタービン15を配置しない状態で、図1のプラントを運転する場合、蒸解釜5での反応時間だけで5〜6時間かかるので、最初に木材チップの投入を開始してから黒液回収ボイラー13の蒸気発生量が定格値になるまで1日近くかかる。したがって、黒液回収ボイラー13は、黒液以外の重油等で運転を行う必要が有る。黒液回収ボイラー13と蒸気タービン17の組み合わせにおける発電効率は30〜35%と低く、ガスタービン15と排熱回収ボイラー16の組み合わせと比較すると60〜70%ほどの効率に相当する。したがって、図1のプラントでは起動から安定状態になるまでは、ガスタービン15を運転して電力と加熱蒸気を得る方が、大幅にエネルギー効率が向上する。
【0045】
蒸気タービン17の効率は、発電容量が大きいほど向上する。これは効率低下の原因で有る容器壁への流動抵抗や、容器と蒸気タービン翼間の漏れの影響は、蒸気流量が小さいほど増大するためである。したがって、図1のように黒液回収ボイラー13で発生した蒸気を用いて蒸気タービン17を運転することで、発電効率が向上できる。黒液回収ボイラー13で発生した蒸気の全量を用いることが望ましい。
【0046】
以上のように、図1に示すようにガスタービン15を導入して、1)高効率のガスタービン利用によるプラント起動時のエネルギー効率向上、2)蒸気発生源が多重化することで機器故障及び定期検査時のプラント稼働の維持、3)流量増加による蒸気タービンの発電効率向上、4)再生エネルギー利用の明確化,電力量増加,その系統接続によるクレジット確保、の効果が有る。
【0047】
つまり、黒液を燃焼させて蒸気を発生させる第一の蒸気発生手段(黒液回収ボイラー13)を有する黒液利用発電システムにおいて、蒸気を発生させる第二の蒸気発生手段(蒸気を発生するボイラー又は排熱回収ボイラー16)を設け、黒液を濃縮するエバポレーター8等の生産過程で使用する加熱蒸気として第二の蒸気発生手段(蒸気を発生するボイラー又は排熱回収ボイラー16)で発生した蒸気を用いるよう構成し、第一の蒸気発生工程(黒液回収ボイラー13)で発生した蒸気を蒸気タービン17に供給するよう構成したことにより、黒液を利用した再生エネルギーの明確化及び発電効率向上が図れる。
【0048】
第二の蒸気発生手段(蒸気を発生するボイラー又は排熱回収ボイラー16)で発生した蒸気を製紙の生産過程の設備に供給し、生産過程での加熱蒸気として用いることで、第一の蒸気発生工程(黒液回収ボイラー13)で発生した蒸気を蒸気タービン17に供給することができる。
【0049】
また、黒液を燃焼させて蒸気を発生させる第一の蒸気発生工程(黒液回収ボイラー13による蒸気発生工程)を含む黒液利用発電方法において、ボイラーで蒸気を発生させる第二の蒸気発生工程(ボイラー又は排熱回収ボイラー16による蒸気発生工程)と、燃焼前に黒液を濃縮する黒液濃縮工程(エバポレーター8による濃縮工程)等の生産過程とを含み、該第二の蒸気発生工程で発生した蒸気を該濃縮工程等の生産過程の加熱蒸気として用い、第一の蒸気発生工程で発生した蒸気を蒸気タービン17に供給して発電することにより、黒液を利用した再生エネルギーの明確化及び発電効率向上が図れる。また、蒸気タービン17で発生した電力の少なくとも一部を送電系統に送電することで、再生エネルギー利用の明確化ができ、クレジット確保が可能となる。
【0050】
また、ガスタービン15によって発電された電力の少なくとも一部を製紙工場の生産工場内電力に利用することで、黒液利用による蒸気タービン17で発電した電力を送電系統に送電することが可能となる。
【0051】
更に、ガスタービン15によって発電された電力の少なくとも一部を製紙工場の生産工場内電力に利用し、黒液利用による蒸気タービン17で発電した電力を送電系統に送電することで、所内電力を適切に確保しつつ、再生エネルギー利用の明確化ができ、クレジット確保が可能となる。
【0052】
また、ガスタービン15の排熱回収ボイラー16による蒸気を紙の生産過程である黒液濃縮工程(エバポレーター8による濃縮工程)等の生産過程の加熱蒸気として用いるので、黒液回収ボイラー13が故障したりメンテナンスのため停止したとしても、紙の生産を継続することが可能となり操業の安定化が図れる。
【0053】
なお、本実施例は、既存の設備に簡易な改造を加えるだけで可能であるので改造性が容易である。
【0054】
(実施例2)
図1で配置したガスタービンの代わりに、ディーゼルエンジンやガスエンジン,ボイラー等を導入しても類似の効果が期待できる。その内で、天然ガス炊きのボイラーを導入した場合を図3に示す。図1と同一の機器は、同じ番号を付記する。
【0055】
天然ガス炊きボイラー22は同一の加熱蒸気を発生させるのに発生する二酸化炭素量が石炭を燃料源とする時の30%しかなく、地球温暖化対策上で優れた燃料源で有る。この天然ガス炊きボイラー22で製糸工場内の利用する低圧蒸気を216ton/h 発生させると同時に、黒液回収ボイラー13から発生する蒸気と同一条件の515℃,112ata の蒸気を570ton/h発生させる。216ton/hの低圧蒸気は、蒸解釜5と抄紙工程12,エバポレーター8での加熱蒸気として用いる。570ton/h 発生する蒸気の内で、210ton/hは所内用蒸気タービン23に供給し、360ton/hを混合ヘッダー24で黒液を燃料として黒液回収ボイラー13で発生する蒸気と混合し、所外用蒸気タービン25に送る。所内用蒸気タービン23で紙の生産量が1500ton/day規模の製紙工場で必要な電力70MWが発電する。所外用蒸気タービン25では、合計720ton/h の蒸気を利用して240MWの発電を行い、送電系統を経由して売電する。混合ヘッダー24の前で、黒液回収ボイラー13と天然ガス炊きボイラー20からの蒸気流路に、それぞれ流量と温度,圧力を測定する計器26,27を設けて、所外用蒸気タービンで発生した電力量の内で、再生エネルギーで有る黒液を燃料源とする蒸気量を評価する。本実施例では新規にボイラーを導入することを想定したが、既に工場内に別目的でボイラーが有る場合に、配管構成を変更して図3と類似のシステムを構築すれば、同等の効果が生まれる。
【0056】
図3では黒液回収ボイラー13の燃料は全て黒液を用いているが、黒液の他に重油等を混合して燃焼させる場合には、黒液と重油の燃料系統それぞれに流量計を設けて、黒液回収ボイラー13で発生する蒸気の内で黒液を燃料とする割合を決める。図3の実施例において、系統に送電する電力の内で燃料源が複数有る場合に、再生エネルギーである黒液に依存する割合を決定することができる。
【0057】
以上のように、蒸気タービンを駆動する蒸気量の増加により発電効率を増加させるとともに、発電した電力を送電系統で搬送することで、国内外に対して再生エネルギーを起源とする電力量の増加を認定して貰える。
【0058】
(実施例3)
次に、図2のシステムを、図1のシステムに改造する改造方法について説明する。
【0059】
製紙工場の生産ラインに、第二の蒸気発生手段を新たに設ける。次に、第二の蒸気発生手段で発生する蒸気を生産過程の加熱蒸気として用いるよう改造する。
【0060】
例えば、第二の蒸気発生手段として、ボイラーを設置し、そのボイラーからの蒸気を、生産過程の1つであるエバポレーター8に供給するよう構成する。このように、簡易な設備の追加方法によって、容易に改造することが出来る。
【0061】
更に、図1や図3に示すようなシステムに必要な種々の部位を改造し、図1や図3に示すようなシステムを得ることが出来る。つまり、簡易な設備の追加による容易な改造方法によって、図1や図3に示すようなシステムを得ることが出来、経済性に優れたシステム構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施例を適用した製紙工場の機器構成。
【図2】製紙工場における生産工程を示す図。
【図3】本発明の一実施例を適用した製紙工場の機器構成。
【符号の説明】
【0063】
1…チップサイロ、2…チップ予熱装置、3…自動原料供給装置、4…浸透ベッセル、5,31…蒸解釜、6…熱回収装置、7…密閉加圧型ドラム洗浄機、8,35…エバポレーター、9,33…スクリーン、10…中濃度ハイシェポンプ、11…漂白工程、12…抄紙工程、13,36…黒液回収ボイラー、14…回収工程、15…ガスタービン、16…排熱回収ボイラー、17…蒸気タービン、18…復水器、19…変圧器、20,21…バルブ、22…天然ガス炊きボイラー、23…所内用蒸気タービン、24…混合ヘッダー、25…所外用蒸気タービン、26,27…計器、32…洗浄工程、34…漂白設備、37…蒸気タービン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材から紙を生産する生産過程で生成される黒液を燃焼させて蒸気を発生させる黒液回収ボイラーと、該黒液回収ボイラーからの発生蒸気で駆動する蒸気タービンと、該蒸気タービンによって駆動される発電機と、該黒液回収ボイラー又は該蒸気タービンからの蒸気を該生産過程の加熱蒸気として利用する黒液利用発電システムにおいて、
排熱回収ボイラーを備えた重油,灯油または天然ガスを燃料源とするガスタービン発電設備を設け、
該排熱回収ボイラーで発生する蒸気を該生産過程の加熱蒸気として用い、前記黒液回収ボイラーからの発生蒸気の大部分を前記蒸気タービンの発電に利用するよう構成し、
前記発電機の電力が黒液を起源とする電力であることが明確になるように、前記黒液回収ボイラーと、該第二のボイラーと、該蒸気タービンとを構成したことを特徴とする黒液利用発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の黒液利用発電システムにおいて、
前記ガスタービン発電設備で発生した電力の少なくとも一部を、木材から紙を生産する生産工場内電力として使用するよう構成したことを特徴とする黒液利用の発電システム。
【請求項3】
木材から紙を生産する生産過程で生成される黒液を燃焼させて蒸気を黒液回収ボイラーにより発生させる第一の蒸気発生工程と、該第一の蒸気発生工程で発生した蒸気を蒸気タービンに供給して該蒸気タービンによって発電機を駆動する工程とを含む黒液利用発電方法において、
ガスタービン発電設備の排熱回収ボイラーにより蒸気を発生させる第二の蒸気発生工程と、該第二の蒸気発生工程で発生した蒸気を前記生産過程の加熱蒸気として用いるように前記生産過程の設備に供給する工程と、前記黒液回収ボイラーからの発生蒸気の大部分を前記蒸気タービンの発電に利用する工程とを含み、
前記発電機の電力が黒液を起源とする電力であることが明確になるように、前記第一の蒸気発生手段と、該第二の蒸気発生手段と、該蒸気タービンとを構成して該発電機を駆動することを特徴とする黒液利用発電方法。
【請求項4】
請求項3に記載の黒液利用発電方法において、
前記ガスタービン発電設備で発生した電力の少なくとも一部を、木材から紙を生産する生産工場内電力として使用するよう生産工場内に供給することを特徴とする黒液利用発電方法。
【請求項5】
木材から紙を生産する生産過程で生成される黒液を燃焼させて蒸気を発生させる黒液回収ボイラーと、該黒液回収ボイラーで発生した蒸気を供給して駆動する蒸気タービンと、前記黒液回収ボイラーで発生した蒸気の一部を前記生産過程の加熱蒸気用として前記生産過程に供給する蒸気系統とを有する黒液利用発電システムの改造方法において、
排熱回収ボイラーを備えた重油,灯油または天然ガスを燃料源とするガスタービン発電設備を新たに設置し、該排熱回収ボイラーで発生する蒸気を前記生産過程の加熱蒸気として用い、かつ前記黒液を燃焼させて発生させた蒸気の大部分を前記蒸気タービンの発電に利用するよう改造し、
前記発電機の電力が黒液を起源とする電力であることが明確になるように、前記黒液回収ボイラーと、前記排熱回収ボイラーと、該蒸気タービンとを構成することを特徴とする黒液利用発電システムの改造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−198390(P2007−198390A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117925(P2007−117925)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【分割の表示】特願2003−64321(P2003−64321)の分割
【原出願日】平成15年3月11日(2003.3.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】