説明

黒米発酵食品

【課題】
ストレスによる皮膚機能や消化器系の機能における機能低下に対して、優れた改善効果を有する食品を提供する。
【解決手段】
炊飯された黒米に米こうじを加えて発酵させたことを特徴とする黒米発酵食品とする。黒米発酵食品は、粥状や液状とすることで、ストレスによる皮膚の再生力低下と消化器系の機能低下をより改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒米を含有する食品に関し、更に詳しくは、ストレスによる皮膚機能や消化器系の機能における機能低下などを改善する黒米発酵食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代はストレス社会ともいわれ、生活環境や職場環境の多様化、人間関係の複雑化により、家庭、仕事、対人関係等にストレスを感じることが多くなっている。人は、このような外部環境からの刺激(ストレス)に対して、神経・内分泌・免疫系を介して体の恒常性を維持しているが、そのストレスにより肉体的、精神的健康を害することがある。
【0003】
過度な刺激や過剰な刺激を生体が受けると、交感神経系や内分泌系がその刺激(ストレス)に反応して、副腎皮質ホルモンのみならず、その他多くのホルモンのバランス、自律神経のバランスを崩し、その結果、胃潰瘍、感染症の発症、皮膚機能や免疫能の低下、環境機能の亢進などを来す。その一例に、過密下で飼育され、ストレスを受けている動物の摂餌量、免疫能が低下することが知られている。
【0004】
感染症とは、細菌側の病原性と宿主側の防衛力等が複雑に絡み合って病気として発現し様々な病態を呈する疾患であるが、人を含めた動物の感染防御力は、その免疫能や皮膚と粘膜の状態に大きく依存している。
【0005】
特に、消化器系の不調、例えば、消化不良や便秘、腹部痛等はストレスや食生活に関係しているといわれ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、ストレスや暴飲暴食による胃酸過多や胃液不足が原因で胃腸の粘膜がただれた状態になる。ストレスの胃粘膜に及ぼす影響は、よく研究されているが、消化器系、粘膜免疫系の最大の器官である腸管に関しては、精神ストレスが及ぼす影響がほとんど分かっていない。
【0006】
一方、黒米は、古代米とも言われ、古代から作られ食べられている米である。黒米は、玄米の糖の部分にアントシアニン系の黒色の色素を含む黒い米であり、滋養強壮の作用があり、虚弱体質の改善に効果があるとされ、更に胃腸を丈夫にしたり(保護し、その働きを助けたり)、造血作用もあると言われている。
【0007】
近年、この黒米の効果が見直され、白米に混ぜて炊く以外に、粉末化して麺やパンの生地に混ぜたりして利用されている。その他黒米を含む食品として、粉末化した黒米を粥に含有させる即席黒粥粉末が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−298947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ストレスによる皮膚再生力の低下や消化器系の機能低下への黒米の作用は未だに議論されていない。
そこで、本発明は、ストレスによる皮膚再生や消化器系の機能低下について、食品による改善手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、炊飯された黒米を発酵させた食品とすることでストレスによる皮膚再生力の機能低下や消化器系の機能低下を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、炊飯された黒米に米こうじを加えて発酵させたことを特徴とする黒米発酵食品に関する。本発明において、黒米は粥状にして発酵させることが好ましい。また、発酵時間は2乃至3時間であることが好ましい。
更に本発明は、炊飯された黒米を発酵させ、この発酵させた黒米に水を加えて攪拌することにより液状としたことを特徴とする黒米発酵食品に関する。この場合、発酵時間は12時間程度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の黒米発酵食品は、ストレスによる消化器系の機能低下などを改善する効果を有しており、この黒米発酵食品を経口投与することにより皮膚再生能力の改善効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る黒米発酵食品について詳細に説明する。
本発明の黒米発酵食品は、黒米とこうじからなり、炊飯された黒米にこうじを加え発酵させることにより、黒米を糖化させることを特徴とする。
【0012】
黒米は、前述した如く玄米の糖の部分にアントシアニン系の黒色の色素を含む黒い米である。アントシアニンは抗酸化物質として知られるポリフェノールの一種で、血管を保護して動脈硬化を予防する働きや、老化や発ガンの抑制に関係する抗酸化作用がある。その他にも黒米は、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンE、鉄、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などバランスの取れた栄養成分が含まれている。
従って、黒米には滋養強壮の作用があり、虚弱体質の改善に効果があるとされ、更に胃腸を丈夫にしたり(保護し、その働きを助けたり)、造血作用もあると言われている。
【0013】
こうじは、米、麦、大豆などを蒸してこうじ菌を繁殖させたものであり、本発明において、黒米の発酵の主因を為す。本発明の黒米発酵食品では、これらこうじを単独又は組み合わせて用いることができるが、黒米を発酵させるという点から、同種の米からつくられた米こうじを用いることが好ましい。
【0014】
黒米に米こうじを添加する温度は65℃以下が好ましい。65℃より高い温度で添加すると、米こうじの酵素が失活して好ましくない。黒米を発酵させる温度としては、50〜65℃が好ましい。50℃より低い温度で発酵させると酵素が働きにくく、65℃より高い温度になると酵素が失活してしまうため、好ましくない。
また、黒米に加える米こうじの量は、製造する黒米発酵食品の種類や態様に応じて任意に調製すればよく、例えば、粥状の黒米発酵食品とする場合は、黒米の20〜40重量%、甘酒様の液状とした黒米発酵食品とする場合は、黒米の150〜170重量%の米こうじを加えればよい。
【0015】
次に、粥状の黒米発酵食品を例に取り本発明の黒米発酵食品の製造工程を説明する。
まず、黒米を水洗いし、60分程度浸水する。水切り後、8〜9倍容量の水を加えて1時間程度加熱攪拌して粥状の黒米食品とする。その後、55度付近まで冷却し黒米の30重量%の米こうじを加える。55度前後で温度を維持し2〜3時間加熱攪拌して発酵させる。2時間より加熱攪拌の時間が少ないと発酵不足で好ましくなく、3時間を超えて加熱すると発酵が進み過ぎるため、好ましくない。
その後80度まで加熱して米こうじの発酵を停止させ、粥状の黒米発酵食品とする。
【0016】
その他、液状の黒米発酵食品とする場合の製造方法は、黒米を4〜5倍容量の水で炊飯した後、50度付近まで冷却し黒米に対して約160重量%の米こうじを加え、50℃の温度を維持した状態で12時間程度静置し発酵させる。その後、約1/3量の水を加え、ミキサー等で混合して液状の黒米発酵食品とする。
【0017】
このように炊飯した黒米を発酵により糖化させた黒米発酵食品には高い抗ストレス作用があり、これを経口投与することにより、ストレスによる皮膚再生力低下及び免疫機能低下の改善効果が期待できる。
【0018】
なお、本発明の黒米発酵食品は、所望に応じて他の成分を含むことができ、例えば、溶液を均一に保つために澱粉を加えることができる。
【0019】
本発明の黒米発酵食品は、加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)により殺菌処理することもでき、その場合でも抗ストレス作用が見られる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の黒米発酵食品を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例になんら限定されるものではない。
【0021】
(試験例1:黒米の皮膚再生能力と免疫力における効果)
以下に示す方法に従って、黒米のストレスによる皮膚再生力の低下と消化器系の機能低下の改善作用を調べた。
<被検動物>
HOS:HR−1ヘアレスマウス(12週齢、24‐26g、雌)
<試験群>
普通飼育群:普通飼育(5匹/ゲージ)、普通飼料摂取
対照群 :過密環境飼育(15匹/ゲージ)、普通飼料摂取
黒米摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、黒米混合飼料(3%)摂取
【0022】
<黒米混合飼料の作製>
黒米225g(1合)を水洗いし、60分浸水した。水切り後、2倍容量の水(360ml)を加えて炊飯、10分間の蒸らし、放冷後、凍結乾燥した。その後、粉末化し、普通飼育飼料に3重量%の割合で混合し黒米混合飼料を作製した。
【0023】
上記普通飼育群、対照群及び黒米摂取群の被検動物へアレスマウスをそれぞれケージ(760cm2)内で飼育した。餌は普通飼育群及び対照群には普通飼料を、黒米摂取群には上記作製した黒米混合飼料を自由に摂取させた。6日目に、それぞれ背部の血流量をレーザードップラー計(商品名「PIMII」,Lisca社製)で測定し、更に6日目の糞からIgA ELISA Kit(商品名「Mouse IgA ELISA Quantitation Kit」,BETHYL社製)を用いて免疫IgA量を測定した。結果を表1に示す。
続いて、7日目に各マウスにテープストリッピング(皮膚にテープを貼り、剥がす行為)を10回行い背部の一部に障害を与えた後、その部位の経表皮水分蒸散量(回復率)をその後4日間連続で皮膚水分蒸散量測定装置(商品名「Tewameter TM 210」,Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。結果を併せて表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1からわかるように、対照群に、ストレス的な兆候(摂餌量の低下、体重減少、皮膚再生能(回復率)の低下)が認められた。また、皮膚血流量の低下も起きていた。黒米混合飼料を与えた黒米摂取群は、対照群と比較して摂餌量および体重が増加する傾向を示した。また、皮膚再生能(回復率)も対照群と比較して改善された。更に、免疫IgA量が増加し、免疫力が向上していることがわかった。
上記結果から、黒米にストレスで低下する皮膚再生能力と免疫力に有効な効果が得られることがわかった。
【0026】
(実施例1:黒米発酵食品の皮膚再生能力と免疫力における効果)
本発明の黒米発酵食品のストレスによる皮膚の再生力低下と消化器系の機能低下の改善効果を調べた。
<粥状の黒米発酵食品の作製>
黒米260gを水洗いし、60分間浸水した後、水切りし、水1800gを加え1時間加熱攪拌により炊飯した。
55度まで冷却後、米こうじ80gを加えた。55度前後となるように加温した状態で2時間攪拌し、発酵させた。その後80度まで加熱し、粥状の黒米発酵食品を作製した。
更に、前記粥状の黒米発酵食品250gを加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)により、120℃で25分殺菌した殺菌済み粥状黒米発酵食品を作製した。
<液状の黒米発酵食品の作製>
黒米320gを水洗いし、60分浸水した。水切り後、水1200gを加えて炊飯した。炊飯後50度まで冷却し黒米320gに対して米こうじを520g加え、50度で12時間保温状態に保った。その後、680gの水を加え、ミキサーで混合して甘酒様の液状とした黒米発酵食品を作製した。
【0027】
<被検動物>
HOS:HR−1ヘアレスマウス(12週齢、24‐26g、雌)
<試験群>
普通飼育群:普通飼育(5匹/ゲージ)、普通飼料摂取
対照群 :過密環境飼育(15匹/ゲージ)、普通飼料摂取
粥状黒米発酵食品(未殺菌)摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、
粥状黒米発酵食品(未殺菌)混合飼料(3%)摂取
粥状黒米発酵食品(殺菌済)摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、
粥状黒米発酵食品(未殺菌)混合飼料(3%)摂取
液状黒米発酵食品摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、
液状黒米発酵食品混合飼料(3%)摂取
<混合試料の作製>
上記作製した粥状黒米発酵食品、殺菌済みの粥状黒米発酵食品、並びに液状黒米発酵食品を凍結乾燥して粉末化し、普通飼育飼料に3重量%の割合で混合して、粥状黒米発酵食品(未殺菌)混合飼料、粥状黒米発酵食品(未殺菌)混合飼料及び液状黒米発酵食品混合飼料を作製した。
【0028】
上記普通飼育群、対照群、粥状黒米発酵食品(未殺菌)摂取群、粥状黒米発酵食品(殺菌済)摂取群、及び液状黒米発酵食品摂取群の被検動物へアレスマウスをそれぞれケージ(760cm2)内で飼育した。餌は、普通飼育群及び対照群には普通飼料を、粥状及び液状黒米発酵食品摂取群には上記作製した混合飼料を自由に摂取させた。
6日目に、それぞれ背部の血流量をレーザードップラー計(商品名「PIMII」,Lisca社製)で測定し、更に6日目の糞からIgA ELISA Kit(商品名「Mouse IgA ELISA Quantitation Kit」,BETHYL社製)を用いて免疫IgA量を測定した。結果を表2に示す。
続いて、7日目に各マウスにテープストリッピング(皮膚にテープを貼り、剥がす行為)を10回行い背部の一部に障害を与えた後、その部位の経表皮水分蒸散量(回復率)をその後4日間連続で皮膚水分蒸散量測定装置(商品名「Tewameter TM 210」,Courage+Khazaka製)を用いて測定した。結果を併せて表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2からわかるように、黒米に米こうじを加えた黒米発酵食品は、普通飼育群及び対照群に比べて1日目の皮膚の再生能力が高く、ストレスによって低下する皮膚の再生能力を有意に改善させることがわかった。また、対照群と比べて免疫IgA量が増加しており、ストレスによる皮膚再生と消化器系の機能低下の改善効果があることがわかった。
【0031】
(参考例1:黒米発酵食品粉末の抽出物による皮膚再生能力と免疫力における効果)
<試料の調製>
実施例2で作製した粥状黒米発酵食品(未殺菌)を凍結乾燥して得た粉末50.0gを、50%メタノール500mlを用いて溶媒抽出し、得られた抽出物と残渣を減圧濃縮した。その後水をそれぞれ1000ml加え、凍結乾燥した後、粉末化した。
【0032】
<被検動物>
HOS:HR−1ヘアレスマウス(12週齢、24‐26g、雌)
<試験群>
普通飼育群:普通飼育(5匹/ゲージ)、普通飼料摂取
対照群 :過密環境飼育(15匹/ゲージ)、普通飼料摂取
粥状黒米発酵食品(抽出物)摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、
粥状黒米発酵食品(抽出物)混合飼料(1.5%)摂取
粥状黒米発酵食品(残渣)摂取群:過密環境飼育(15匹/ゲージ)、
粥状黒米発酵食品(残渣)混合飼料(1.5%)摂取
<混合飼料の作製>
上記作製した粥状黒米発酵食品の抽出物と残渣を粉末化したものを、普通飼育飼料に1.5重量%の割合で混合して、粥状黒米発酵食品(抽出物)混合飼料、及び粥状黒米発酵食品(残渣)混合飼料を作製した。
【0033】
上記普通飼育群、対照群、粥状黒米発酵食品(抽出物)摂取群及び粥状黒米発酵食品(残渣)摂取群の被検動物に対して実施例1と同様の実験を行った。飼育後6日目の糞より測定した免疫IgA量、及び飼育後7日目に行ったテープストリッピングによるその部位の経表皮水分蒸散量(回復率)をその後4日間連続で測定した結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3の結果より、粥状の黒米発酵食品の抽出物と残渣のどちらにも有意な効果がみられたが、特に残渣に高い回復能がみられた。また、免疫IgA量も対照群と比較してどちらも多く、皮膚再生と免疫機能の回復能力があることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯された黒米に米こうじを加えて発酵させたことを特徴とする黒米発酵食品。
【請求項2】
粥状の黒米を発酵させたことを特徴とする請求項1に記載の黒米発酵食品。
【請求項3】
発酵時間が2乃至3時間であることを特徴とする請求項2に記載の黒米発酵食品。
【請求項4】
発酵させた黒米に水を加えて攪拌することにより液状としたことを特徴とする請求項1に記載の黒米発酵食品。
【請求項5】
発酵時間が12時間程度であることを特徴とする請求項4に記載の黒米発酵食品。

【公開番号】特開2007−189951(P2007−189951A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11380(P2006−11380)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(594163109)
【出願人】(596038881)いなば食品株式会社 (2)
【Fターム(参考)】