説明

黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物およびこれを用いた成形品

【課題】レーザー溶着特性に優れたポリエステル樹脂組成物および、レーザー溶着により強固に接着した成形品を提供する。
【解決手段】(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)強化充填材0〜100重量部、(c)紫色の着色剤0.01〜1重量部、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物0.01〜5重量部配合してなる、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物に関する。特に、他の樹脂部材とレーザー溶着により強固に接着できる、黒色のレーザー溶着用樹脂組成物に関する。
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、電気特性、耐熱性その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂は結晶化速度が速いため射出成形用に好適に用いられる。近年、その多様な用途の中には、車両用電装部品(コントロールユニットなど)、各種センサー部品、コネクター部品等のように、電気回路部分を密封する製品にも展開が進んできた。密封する工法としては、接着剤、超音波溶着、熱板溶着、レーザー溶着などが行われてきた。しかしながら、接着剤による工法は、硬化するまでの時間ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題がある。また、超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージ、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。一方、レーザーによる溶着は、非接触で摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少ない。
【0003】
ここで、車両用電装部品、センサー部品、コネクター部品など電気回路を密封する製品は、黒色に着色される場合が多い。しかしながら、カーボンブラックや酸化鉄系の顔料に代表される黒系の着色剤を配合した樹脂組成物は、レーザー光の透過性が非常に低く、レーザー出力を上げると、レーザー入射側表面での溶融、発煙、接合界面での異常発熱による気泡などの不具合が発生したり、さらに、樹脂の劣化物などによる異物やヘイズによって透過率が低下する場合もある。そのため、黒系着色剤を配合した樹脂組成物は、レーザー透過側部材には使用できないという問題点があった。
【0004】
これらの問題を解決するため、黄色顔料とバイオレット顔料の2種の顔料を樹脂に配合した、レーザー光に半透明な黒色のポリエステル樹脂組成物(特許文献1)や、アントラキノン染料およびモノアゾ錯体染料を含有するレーザー透過性黒色着色剤を含む、レーザー光透過性着色熱可塑性樹脂組成物(特許文献2)、少なくとも2種の着色剤を使用したレーザー透過溶接が可能な熱可塑性樹脂組成物(特許文献3)が開示されている。しかしながら、これらは、いずれも黒色にするために、2種以上の着色剤を使用しおり、複雑な調色工程を必要とする。
一方、特許文献4には、近赤外線吸収性化合物として、アントラキノン、ペリレン、メチン系などの着色剤を用いることが記載されているが、透過側、すなわち、レーザーを照射する側の樹脂組成物については、何ら記載も示唆もない。
【0005】
【特許文献1】特許第3737926号公報
【特許文献2】特表2004−517995号公報
【特許文献3】特表2003−517075号公報
【特許文献4】特開2003−183524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、レーザー溶着特性に優れた黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(以下、「本発明のポリエステル樹脂組成物」ということがある)、および、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いた成形品および該成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、紫色の着色剤1種類とサリチル酸アミド構造を有する化合物を併用することにより、複雑な調色工程を経ることなく、黒色の色相を発現させ、さらに透過率をも向上させることができ、溶着特性に優れた黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、要旨は以下の通りである。
(1)(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)強化充填材0〜100重量部、(c)紫色の着色剤0.01〜1重量部、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物0.01〜5重量部配合してなる、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記ポリエステル樹脂組成物からなる厚み1.5mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上である、(1)に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
(3)(a)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである、(1)または(2)に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
(4)(b)強化充填材がガラス繊維である、(1)〜(3)のいずれかに記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
(5)(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物が、下記式(I)で表される化合物である、(1)〜(4)のいずれかに記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
式(I)
【化1】

式(I)中、R1、R2はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリール基、またはこれらが結合した環状構造(該環状構造の炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18である)を表し、Xは単結合または炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは単結合、n価の炭素原子数1〜30の炭化水素基または複素環基を表し、mは0または1である。nは1〜3であり、nが2以上の場合、Rを中心とした構造は対称であっても非対称であってもよく、それぞれのR1、R2、mは同一であっても異なっていてもよい。
(6)(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物が、下記式(II)で表される化合物である、(5)に記載の黒色レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
式(II)
【化2】

式(II)中、R3〜R6はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R’は炭素原子数1〜20の直鎖状のアルキレン基または炭素原子数6〜30のアリーレン基を表す。
(7)レーザー透過側の部材に用いられる、(1)〜(6)のいずれかに記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を、前記樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させてなる成形品。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を、該樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させる工程を含む成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、レーザー溶着特性に優れた黒色のポリエステル樹脂組成物が得られた。また、本発明の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、部材同士がより強固に接着した成形品を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本発明における「黒色」の樹脂組成物とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、カーボンブラックを0.6重量部配合してなる樹脂組成物を成形して得られる、厚み2mmの成形品のL***表色系による色相を基準とした時の色相の差(色差:ΔE)が10以下であることをいい、好ましくは5以下であることをいう。
【0011】
<(a)ポリエステル樹脂>
本発明で採用する(a)ポリエステル樹脂としては、公知のポリエステル樹脂を広く用いることができる。(a)ポリエステル樹脂は、2種以上を併用してもよい。
(a)ポリエステル樹脂として、好ましくは、ジカルボン酸またはその誘導体と、ジオールとからなるポリエステル樹脂である。
【0012】
ジカルボン酸またはその誘導体としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、および、脂肪族ジカルボン酸、ならびに、これらの低級アルキルまたはグリコールのエステルが好ましく、芳香族ジカルボン酸またはこの低級アルキル(例えば、炭素原子数1〜4)あるいはグリコールのエステルがより好ましく、テレフタル酸またはこの低級アルキルエステルがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸およびセバシン酸等が好ましい例として挙げられる。
これらのジカルボン酸またはその誘導体は、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ジオールとしては、脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよび芳香族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールとしては、好ましくは、炭素原子数2〜20の脂肪族ジオールであり、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールおよび1,8−オクタンジオールを好ましい例として挙げることができる。
脂環式ジオールとしては、好ましくは、炭素原子数2〜20の脂環式ジオールであり、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロールおよび1,4−シクロヘキサンジメチロールを好ましい例として挙げることができる。
芳香族ジオールとしては、好ましくは、炭素原子数6〜14の芳香族ジオールであり、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよびビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンを好ましい例として挙げることができる。
これらのジオールは、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明の(a)ポリエステル樹脂は、ヒドロキシカルボン酸、単官能成分、および/または三官能以上の多官能成分を有していてもよい。
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸およびp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸が好ましい例として挙げられる。
単官能成分としては、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸およびベンゾイル安息香酸が好ましい例として挙げられる。
三官能以上の多官能成分としては、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロールおよびペンタエリスリトールが好ましい例として挙げられる。
【0015】
(a)ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)がより好ましく、テレフタル酸を唯一のジカルボン酸単位とし、1,4−ブタンジオールを唯一のジオール単位とするポリブチレンテレフタレート単独重合体がさらに好ましい。本発明でいうPBT樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオールの50モル%以上を占めることをいう。PBT樹脂は、さらに、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸の割合が70モル%以上のものが好ましく、90モル%以上のものがより好ましい。また、ジオール単位中の1,4−ブタンジオールの割合は、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。このようなPBT樹脂を用いることにより、機械的性質および耐熱性がより向上する傾向にあり好ましい。
【0016】
本発明におけるPBT樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールが1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃の測定で0.5〜3.0dl/gであることが好ましく、0.5〜1.5dl/gであることがより好ましく、0.6〜1.3dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度を0.5dl/g以上とすることにより、機械的性質を優れたものとすることができ、3.0dl/g以下とすることにより、流動性を保ち、成形加工がより容易になる。さらに、2種以上の固有粘度のPBT樹脂を併用し、上記範囲内の固有粘度としても良い。
【0017】
(a)ポリエステル樹脂を製造する場合、公知の方法を広く採用できる。例えば、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とからなるPBT樹脂の場合、直接重合法およびエステル交換法のいずれの方法も採用できる。直接重合法は、例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを直接エステル化反応させる方法であり、初期のエステル化反応で水が生成する。エステル交換法は、例えば、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用する方法であり、初期のエステル交換反応でアルコールが生成する。直接エステル化反応は原料コスト面から好ましい。
また、ポリエステル樹脂は、原料供給またはポリマーの払い出し形態について、回分法および連続法のいずれの方法で製造してもよい。さらに、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0018】
<(b)強化充填材>
本発明で用いる(b)強化充填材は、特に定めるものではなく、繊維状、板状、粒状の強化充填材およびこれらの混合物を広く採用できる。
繊維状の強化充填材としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカアルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維が挙げられる。
板状の強化充填材としては、例えば、ガラスフレーク、マイカ(雲母)、タルク、ワラストナイト、金属箔が挙げられる。
粒状の強化充填材としては、例えば、セラミックビーズ、クレー、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。
本発明においては、上記(b)強化充填材の中でも、繊維状の強化充填材が好ましく用いられる。
【0019】
(b)強化充填材の形状が繊維状である場合、その平均繊維径は、特に制限されないが、1〜100μmが好ましく、2〜50μmがより好ましく、3〜30μmがさらに好ましく、5〜20μmが特に好ましい。このような繊維径のものを採用することにより、機械的性質をより優れたものとすることができる。また、平均繊維長は、特に制限されないが、0.1〜20mmが好ましく、1〜10mmがより好ましい。平均繊維長を0.1mm以上とすることにより、繊維状の強化充填材による補強効果がより効果的に発現され、平均繊維長を20mm以下とすることにより、(a)ポリエステル樹脂との溶融混練や強化ポリエステル樹脂組成物の成形がより容易になる。
【0020】
本発明で用いる(b)強化充填材は、ポリエステル樹脂と強化充填材の親和性を増し界面密着性を向上させ、界面における空隙形成による不透明化要因を排除、低減するために表面処理されているものが好ましく、シランカップリング剤およびエポキシ樹脂で表面処理されているものがさらに好ましい。
シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系のものが挙げられる。これらの中では、アミノシラン系が好ましい。アミノ系シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。表面処理剤中のシランカップリング剤の含有量は、0.1〜8重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。
エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂が好ましい。表面処理剤中のエポキシ樹脂の含有量は1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
(b)強化充填材に用いられる表面処理剤に含有される成分としては、アミノシラン系カップリング剤と、ノボラック型エポキシ樹脂の組み合わせが特に好ましい。表面処理剤をこのような構成とすることにより、アミノシラン系カップリング剤の無機官能基は(b)強化充填材表面と、アミノシラン系カップリング剤の有機官能基はエポキシ樹脂のグリシジル基と、エポキシ樹脂のグリシジル基は(a)ポリエステル樹脂と、それぞれ反応性に富み、(b)強化充填材と(a)ポリエステル樹脂との界面密着力が向上する。この結果、本発明の樹脂組成物の機械的性質および耐加水分解性が向上し、さらには、界面での空隙形成による不透明化が低減するため、透過率も向上する傾向にある。
【0021】
(b)強化充填材に用いられる表面処理剤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、その他の成分、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤および撥水剤などを含めることができる。
表面処理剤での処理方法としては、例えば、特開2001−172055号公報、特開昭53−106749号公報等に記載の方法のように、表面処理剤により予め表面処理しておくこともできるし、本発明の樹脂組成物調製の際に、未処理の(b)強化充填材とは別に表面処理剤を添加して表面処理することもできる。
(b)強化充填材に対する表面処理剤の付着量は、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜2重量%がさらに好ましい。0.01重量%以上とすることにより、機械的強度がより効果的に改善される傾向にあり、5重量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、経済的である。
【0022】
本発明における(b)強化充填材の材質としてはガラスが好ましい。具体的には、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス粉末である。なかでも、好ましくは屈折率1.550〜1.600、より好ましくは屈折率1.560〜1.600であるガラスを用いることができる。屈折率1.560〜1.600の該ガラスは、通常、ポリエステル樹脂に使用されるEガラス(屈折率1.550)を構成する組成成分からB23およびF2成分を除き、MgO、TiO2、ZnO等の成分の割合を増加したもので、該ガラスを採用することにより、本発明の樹脂組成物のレーザー透過性をより向上させることが可能となる。
また、本発明で採用するガラスは、機械的強度、剛性付与の観点からガラス繊維が好ましく、長繊維タイプ(ロービング)のものや短繊維タイプ(チョップドストランド)のものがより好ましく用いられる。
【0023】
上記(b)強化充填材の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し0〜100重量部であり、好ましくは5〜70重量部であり、さらに好ましくは10〜50重量部である。配合量を100重量部以下とすることにより、成形品表面への強化充填材の浮きをより抑えやすい傾向にあり、レーザー溶着界面の溶着性をより効果的に向上させることができ好ましい。
【0024】
<(c)紫色の着色剤>
本発明のポリエステル樹脂では、(c)紫色の着色剤を配合する。本発明では、使用する着色剤を1種とすることができるため、複雑な調色が不要であり、調色工程の削減が可能で経済的である。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の着色剤を添加することを排除するものではない。
【0025】
紫色の着色剤とは、Color Indexによる分類で、Violetで表されるものをいう。例えば、耐熱性の高いメチン系染料(C.I. Solvent Violet 49)、アントラキノン系染料(C.I. Solvent Violet 13、C.I. Solvent Violet 36、C.I. Solvent Violet 37)、ペリレン系染料(C.I.Pigment Violet 29)が好ましい例として挙げられる。これらの着色剤の中でも、メチン系染料が好ましい。メチン系染料は、(a)ポリエステル樹脂との親和性に優れ、耐熱性も高いため、レーザー溶着部位の退色や熱劣化が少なく、成形品の溶着性、耐紫外線老化性をさらに高めることが可能である。
メチン系染料の種類は、特に定めるものではなく、メチン基(−CH=)を1つ以上有する染料であり、例えば、メチン染料、ポリメチン染料、アゾメチン染料、シアニン染料などが挙げられる。メチン系染料の中でも、耐熱性および耐紫外線老化性が良好で、昇華性の少ないものが好ましく、特に好ましいのは、耐紫外線老化性に優れるC.I. Solvent Violet 49である。
【0026】
本発明の(c)紫色の着色剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部であり、好ましくは0.03〜0.8重量部であり、より好ましくは0.05〜0.5重量部である。(c)紫色の着色剤の配合量を0.01重量部以上とすることにより、樹脂組成物に黒色の色相を与え、かつ十分な耐熱性、耐紫外線老化性を付与することができ、配合量を1重量部以下とすることにより、ポリエステル樹脂への分散性を良好とし、成形品表面へのブリードアウトや機械的強度の低下を抑制することができ好ましい。
【0027】
<(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物>
本発明の樹脂組成物には、得られる樹脂組成物を黒色にするために、(c)紫色の着色剤とともに、サリチル酸アミド構造を有する化合物を配合する。(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物としては、その種類は特に定めるものではないが、得られる樹脂組成物に十分な黒色を与えるためには、好ましくは、分子量180〜800のものが好ましく、300〜800のものがより好ましい。また、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物は樹脂組成物の製造、成形時の取り扱い性や、樹脂組成物中の分散性の点から、融点が50〜350℃の化合物が好ましい。
本発明で採用する(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物は、ポリエステル樹脂と相溶性があり、耐熱性に優れるものが好ましく、具体的には、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物はいずれも白色の粉末である。
【0028】
式(I)
【化3】

式(I)中、R1、R2はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリール基、またはこれらが結合した環状構造(該環状構造の炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18である)を表し、Xは単結合または炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは単結合、n価の炭素原子数1〜30の炭化水素基または複素環基を表し、mは0または1である。nは1〜3であり、nが2以上の場合、Rを中心とした構造は対称であっても非対称であってもよく、それぞれのR1、R2、mは同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
式(I)中、R1及びR2が結合した環状構造の場合、前記のR1及びR2が結合し環状を形成したものであれば特に制限はないが、R1及びR2が結合しているベンゼン環との縮合環構造として、例えば、2,3−ジヒドロイデン、インデン、1,2,3,4、−テトラヒドロナフタレン、ナフタレン等の構造を形成してなるものが挙げられる。
【0030】
上記式(I)で表される化合物としては、例えば、下記式(III)〜(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
式(III)
【化4】

【0032】
式(IV)
【化5】

【0033】
式(V)
【化6】

【0034】
式(VI)
【化7】

式(VI)中、Y1、Y2はそれぞれ、水素原子、メチル基またはメトキシ基を表し、Y3は水素原子またはヒドロキシル基を表す。
【0035】
上記式(I)で表される化合物の中でも、ポリエステル樹脂への分散性に優れている点で、下記式(II)で表される化合物がより好ましく、中でも高分子量のものが特に好ましい。
【0036】
式(II)
【化8】

式(II)中、R3〜R6はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R’は炭素原子数1〜20の直鎖状のアルキレン基または炭素原子数6〜30のアリーレン基を表す。
【0037】
上記(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部であり、より好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。
(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物の配合量を0.01重量部以上とすることにより、得られる樹脂組成物に黒色の色相を与えることができ、5重量部以下とすることにより、ポリエステル樹脂への分散性を良好とし、機械的強度の低下を抑制することができ好ましい。また、本発明の(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物は、重金属不活性効果も有しており、例えば、(a)ポリエステル樹脂中に含まれる重合触媒由来の微量重金属による樹脂の劣化も防止可能である。
【0038】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、(a)ポリエステル樹脂の重合途中またはポリエステル樹脂重合後、本発明の樹脂組成物を調製する際に添加することができる。さらに、(a)ポリエステル樹脂に所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤等を配合してもよい。
【0039】
酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物の耐熱老化性をより効果的に改良し、色調、引張強度、伸度などの機械的物性の保持率をより向上させる効果を有する。該酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、およびリン系酸化防止剤より選ばれる1種以上の酸化防止剤を配合することが好ましい。
酸化防止剤の配合量は、合計配合量が(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜2重量部であり、より好ましくは0.03〜1.5重量部である。
【0040】
フェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤をいい、中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個または2個の炭素原子が、炭素原子数4以上の置換基により置換されている酸化防止剤をいう。炭素原子数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素−炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0041】
フェノール系酸化防止剤としては、p−シクロヘキシルフェノール、3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−(1,3,5−トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス[2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル]ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、チオビス(β−ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0042】
本発明におけるイオウ系酸化防止剤とは、イオウ原子を含有する酸化防止剤をいい、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することができる。
イオウ系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0043】
本発明におけるリン系酸化防止剤とは、リン原子を有する酸化防止剤をいい、P(OR)3構造を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基などであり、3個のRは同一でも異なっていてもよく、任意の2個のRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。酸化防止剤の配合量を0.001重量部以上とすることにより、酸化防止効果がより良好に発揮され、酸化防止剤の配合量を1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が低化するのを抑止しやすい傾向にするとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0045】
熱安定剤としては、本発明の樹脂組成物の滞留時の熱安定性をより効果的に改良し、色調、機械的物性の低化をより抑制する効果を有するものが好ましい。該熱安定剤としては、例えば、有機リン化合物が挙げられ、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物および有機ホスホナイト化合物等が好ましく、中でも有機ホスフェート化合物がより好ましい。また、有機リン化合物は、2種以上を併用してもよい。 有機ホスフェート化合物としては、下記式(VII)で表される長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物が、加熱安定性に優れているため好ましい。
【0046】
式(VII)
【化9】

式(VII)中、R7およびR8は、各々独立して、炭素原子数8〜30のアルキル基を表す。
【0047】
上記式(VII)中のR7またはR8が表す炭素原子数8〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられるが、中でも炭素原子数が12〜25、さらには15〜20のものが好ましい。
【0048】
上記式(VII)で表される、長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物の具体例としては、ジオクチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソオクチルホスフェート、ジノニルホスフェート、ジイソノニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ドデシルホスフェート、ジトリデシルホスフェート、ジイソトリデシルホスフェート、ジテトラデシルホスフェート、ジヘキサデシルホスフェート、ジオクタデシルホスフェート、ジエイコシルホスフェート、ジトリアコンチルホスフェート等が挙げられる。中でも、ジテトラデシルホスフェート、ジヘキサデシルホスフェート、ジオクタデシルホスフェートが好ましい。
【0049】
有機リン化合物の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば0.01〜1重量部、さらには0.05〜0.5重量部、特には0.08〜0.3重量部であることが好ましい。有機リン化合物の配合量を0.01重量部以上とすることにより、加熱時および滞留時の熱安定性の向上効果がより発揮されやすい傾向にあり、配合量を1重量部以下とすることにより、加熱時や滞留時の熱安定性以外の性能に悪影響を及ぼしにくくなる傾向にある。
【0050】
難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムが挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物が挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物が挙げられる。これらの難燃剤は2種以上併用してもよい。
難燃剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは、0.1〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。難燃剤の配合量を0.1重量部以上とすることにより、難燃性をより効果的に発現することができ、50重量部以下にすることにより、物性、特に機械的強度をより高く保つことができる。
【0051】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の(a)ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、などの熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
これらの樹脂の配合量は、(a)ポリエステル樹脂中の50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物は、該樹脂組成物からなる厚み、1.5mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。
【0053】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。上記(a)ポリエステル樹脂、(c)紫色の着色剤、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物の各成分および必要に応じて(b)強化充填材ならびに他の添加剤を、混練機に一括して供給してもよいし、(a)ポリエステル樹脂に他の配合成分を順次供給してもよい。(b)強化充填材を配合する場合は、混練時に強化充填材が破砕するのを抑制するため、押出機の途中から供給することが望ましい。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。例えば、(a)ポリエステル樹脂の一部に所定の配合比率より多い(c)紫色の着色剤を練り込んだマスターペレットを予め調整し、これを残りの配合成分と溶融混合押出して所定の配合比率とすることによっても、本発明における樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
本発明の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形法を適用することができる。この場合、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂材料に好適である。特に、2つの部材の一方または両方に本発明の樹脂組成物を用いることにより、レーザー溶着によって、部材同士を強固に接着させることができる。従って、本発明の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物は、2以上の樹脂部材を有する成形品の製造に好ましく用いることができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。
レーザー溶着では、レーザー透過性のある部材を透過したレーザー光が、レーザー吸収性のある部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本発明の樹脂組成物は、着色しているにも関わらずレーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部材として好ましく用いることができる。ここで、該レーザーが透過する部材の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、用途、組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0056】
本発明のレーザー溶着に用いるレーザー光源としては、例えば、Arレーザー(510nm)、He−Neレーザー(630nm)、CO2レーザー(10600nm)などの気体レーザー、色素レーザー(400〜700nm)などの液体レーザー、YAGレーザー(1064nm)などの固体レーザーや、半導体レーザー(655〜980nm)等が利用できる。ビーム品質、コストの点で、半導体レーザーが好ましく用いられる。また、溶着相手材の種類によって、適宜レーザー種を選択することもできる。
【0057】
より具体的には、例えば、本発明の樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、本発明の樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。この時、必要によりレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは本発明の樹脂組成物(A)からなる部材中を透過し、樹脂組成物(B)からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって本発明の樹脂組成物(A)からなる部材側にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして部材同士を溶着された成形品は、高い接合強度を有する。尚、本発明における成形品とは、少なくとも2以上の部材が溶着されたものをいい、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0058】
尚、樹脂組成物(B)からなる部材は、少なくとも樹脂を含み、且つ、本発明の樹脂組成物(A)からなる部材と溶着可能なものであれば特に制限されない。樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂などが挙げられ、相溶性が良好な点から、特にポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂組成物(B)は1種または2種以上の樹脂から構成されていてもよい。さらにまた、本発明の樹脂組成物(A)であってもよい。
樹脂組成物(B)に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものも好ましい。さらに、樹脂組成物(B)に、光吸収剤、例えば着色顔料等を添加含有させることにより、その吸収特性を発現させてもよい。前記着色顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の樹脂組成物(B)により好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は2種以上組み合わせて使用してもよい。
光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0059】
本発明で得られた一体成形品は、高い溶着強度と、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[各種測定方法]
(1)光線透過率
表1に記載の各樹脂組成物を、射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で、大きさ13mm×128mmの平板であって、その厚みが、それぞれ、1.5mmおよび2mmである2種類の平板を成形した。
これらの平板について、それぞれ、可視・紫外分光光度計(島津製作所社製:UV−3100PC)で光線透過率を測定した。光線透過率は、近赤外領域960nmの透過光強度と入射光強度の比を百分率で表した。
【0062】
(2)レーザー溶着強度試験
図1に示すように試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。1は(1)で作製した試験片を、2は接合する相手材である樹脂組成物(B)からなる試験片((1)と同様に作製)を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
【0063】
上記(1)光線透過率測定で使用した試験片1(13mm×128mm、厚み2mmの平板)をレーザー透過側とし、後述する樹脂組成物(B)からなる試験片2をレーザー吸収側として、両試験片を重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、一括照射タイプの日本エマソン社製、IRAM−300を使用し、レーザー光波長は960nm、溶着スポットは3mm×6mm、圧力は4.8MPaの条件でレーザーを照射した。レーザー照射時間は、試験片1が強化充填材を含まない場合は13sec、強化充填材を含む場合は17secとした。
レーザー溶着強度測定は、引張試験機(インストロン社製5544型)を使用し、溶着して一体化された試験片1と2を、その長軸方向の両端をクランプで挟み、引張速度は5mm/secで引張って評価した。レーザー溶着強度は、溶着部の引張せん断破壊強度で示した。
【0064】
(3)黒色度
(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c3)カーボンブラック0.6重量部を配合し、後述する実施例1と同様の製法で樹脂組成物を製造し、上記(1)光線透過率測定用の平板と同様にして13mm×128mm、厚み2mmの平板を作製した。得られた平板の色相をL***表色系で評価し、これを黒の基準とした。
上記各樹脂組成物を射出成形して得られた上記(1)光線透過率測定用厚み2mmの平板の色相を測定し、黒色基準との色相の差(色差:ΔE)を評価した。ΔEが小さい方が、黒色度が良好と判断した。
測定は、分光測色計(コニカミノルタ社製:CM−3600d)を使用し、ΔEは以下の式に従って求めた。
ΔE=((ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2
【0065】
[樹脂組成物の原材料]
(a)ポリエステル樹脂
(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5008」、固有粘度[η]=0.85dl/g
(a2)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「商品名:ノバデュラン(登録商標)5020」、固有粘度[η]=1.20dl/g
【0066】
(b)強化充填材
(b1)Eガラス繊維:表面処理剤で処理されてなるチョップドストランド、日本電気硝子社製、「商品名:ECS03T−187」、繊維径13μm、カット長(繊維長)3mm、屈折率(nd)1.555
(b2)高屈折率ガラス繊維:表面処理剤で処理されてなるチョップドストランド、旭ファイバーグラス社製、平均繊維径15μm、カット長(繊維長)3mm、屈折率(nd)1.585
【0067】
(c)着色剤
(c1)メチン系染料:C.I.Solvent Violet 49、クラリアント社製、「商品名:Polysynthren Violet G」
(c2)アントラキノン系染料:C.I.Solvent Violet 36、ランクセス社製、「商品名:Macrolex Violet 3R」
(c3)カーボンブラック:三菱化学(株)製、「商品名:MA600B」
【0068】
(d):サリチル酸アミド構造を有する化合物:下記式(III)で表される化合物、ADEKA社製、「商品名:アデカスタブCDA−6」
【0069】
式(III)
【化10】

【0070】
酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「商品名:Irganox1010」、分子量1178。
【0071】
[樹脂組成物(B)]
後述する比較例4の樹脂組成物に、(c3)カーボンブラックを(a1)ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し0.6重量部配合したものを用いた。
【0072】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
(a1)および/または(a2)のポリブチレンテレフタレート樹脂と、(c1)〜(c3)のいずれかの着色剤、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物、酸化防止剤を表1に示した比率となるように配合し、タンブラーで20分間混合した。シリンダー温度を250℃に設定した2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30C、バレル9ブロック構成)を用い、得られた原料混合物をホッパーへ供給し溶融混練した。(b1)または(b2)の強化充填材を配合する場合は、ホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給し、溶融混練した。得られた樹脂組成物を用い、上述した評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示したように、着色剤として(c1)または(c2)の紫色の着色剤を使用し、さらに(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物を配合することにより、黒色であって、かつ、レーザー透過性、およびレーザー溶着性に優れた樹脂組成物が得られることが明らかとなった。本発明の樹脂組成物を使用することにより、他の部材と容易に強固なレーザー溶着が可能である。さらに、本発明においては、使用する着色剤が1種であるため、複雑な調色が不要であり、調色工程の削減が可能で経済的である。
【0075】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、レーザー透過性、レーザー溶着特性に優れているため、特に、車両用電装部品、センサー部品、コネクター部品などの電気回路を密閉する部品などに好適に用いることが可能である。
また、本発明の樹脂組成物を用いることにより、溶着可能な製品厚みの範囲が広がり製品設計の自由度を大きくすることができ、さらに、レーザー照射強度や走査速度等のレーザー溶着条件の幅をも広げることができ、部材同士がより強固に接着した成形品を提供することが可能になる。このような成形品は工業的に広く利用され、その価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の実施例におけるレーザー溶着強度試験方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 試験片1
2 試験片2
3 レーザー照射箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)強化充填材0〜100重量部、(c)紫色の着色剤0.01〜1重量部、(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物0.01〜5重量部配合してなる、黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂組成物からなる厚み1.5mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上である、請求項1に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
(a)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである、請求項1または2に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(b)強化充填材がガラス繊維である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物が、下記式(I)で表される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
式(I)
【化1】

式(I)中、R1、R2はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリール基、またはこれらが結合した環状構造(該環状構造の炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18である)を表し、Xは単結合または炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは単結合、n価の炭素原子数1〜30の炭化水素基または複素環基を表し、mは0または1である。nは1〜3であり、nが2以上の場合、Rを中心とした構造は対称であっても非対称であってもよく、それぞれのR1、R2、mは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
(d)サリチル酸アミド構造を有する化合物が、下記式(II)で表される化合物である、請求項5に記載の黒色レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
式(II)
【化2】

式(II)中、R3〜R6はそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R’は炭素原子数1〜20の直鎖状のアルキレン基または炭素原子数6〜30のアリーレン基を表す。
【請求項7】
レーザー透過側の部材に用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を、前記樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させてなる成形品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の黒色のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(A)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(B)からなる部材を、該樹脂組成物(A)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させる工程を含む成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−222831(P2008−222831A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62034(P2007−62034)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】