説明

黒色インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像が得られ、画像中の筋状ムラ及びメンテナンス時のノズル傷の発生が防止された黒色インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックと、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料と、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料と、水不溶性樹脂の粒子と、水とを含有し、前記カーボンブラックの含有比率を組成物総量に対して1.0質量%〜2.0質量%とし、全顔料の合計量を組成物総量に対して1.8質量%〜3.5質量%として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックを含有する黒色インク組成物、並びにこれを用いたインクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに設けられた多数のノズルからインクを液滴状に吐出することにより、多種多様な記録媒体に対して高品位の画像を記録できること等から広く利用されている。
【0003】
例えば、インクの含有成分の1つである着色剤には顔料が広く用いられており、顔料は水等の媒質中に分散されて用いられる。顔料を分散させて用いる場合、分散させたときの分散粒径や分散後の安定性、サイズ均一性、吐出ヘッドからの吐出性、及び画像濃度などが重要であり、これらを向上させる技術の検討が種々行なわれている。
【0004】
また一方、普通紙などに記録を行なうにあたって、画像濃度以外にも、画像の品質の点で、特に画像中にスジ状等のムラが発生する場合があり、特にインクジェット記録を高速化した場合に顕著に現れる傾向がある。具体的には、シャトルスキャン方式ではなく、1回のヘッド操作で記録可能なシングルパス方式で高速記録する場合に、画像中にスジ状にムラが出やすく、そのムラは黒色の中間調(グレー色調)の画像を形成する場合に特に目立つ。
【0005】
また、シングルパス方式で高速記録する場合には、記録幅のインクジェットヘッドを使用するが、インクの吐出量が幅方向に色相のムラが出やすく、そのムラも無彩色である黒色の中間調(グレー色調)の画像を形成する場合に特に目立つ。
【0006】
インクジェット記録用のインクに用いられる顔料のうち、黒色系の顔料としてはカーボンブラックが広く用いられている。また、カーボンブラック(以下、CBと略記することがある。)と共に、シアン顔料等のCB以外の他の顔料を併用する技術も知られている。
【0007】
カーボンブラック(CB)を含有するインクに関連して、カーボンブラックと共にシアン顔料及びマゼンタ顔料を含有するニュートラルブラックインクやブラックインクセットが開示されており(例えば、特許文献1〜2参照)、黄色や褐色を帯びた画像色調が改善され、色再現性に優れることが示されている。
さらに、分散剤不存在下で水に分散可能な表面処理ブラック顔料分散液とマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散体とシアン顔料含有ポリマー微粒子分散体とイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体と樹脂エマルジョンとを含む黒インクが開示されており(例えば、特許文献3参照)、画像の光沢性、吐出性等に優れるとされている。
【0008】
他方、顔料は硬い粉末であるために、インクを吐出するノズルのメンテナンスのために拭き取る際に、ノズル表面を傷つけやすいといった問題がある。顔料の中でも、特にカーボンブラックを含有するインクを用いた場合、有機顔料を用いたカラーインクと比較してよりノズル表面を傷付けやすい傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−213505号公報
【特許文献2】特開2003−55592号公報
【特許文献3】特開2009−132766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の技術に示されるように、カーボンブラックと共にシアン顔料やマゼンタ顔料等の黒色以外の顔料を併用する技術は提案されているものの、ただ単にカーボンブラックに他色を混合するのみでは色の再現性にある程度の効果が期待されるに過ぎず、シングルパス方式で高速記録するような場合にスジ状に発生するムラや色相のムラの防止を図ることまでは難しい。
【0011】
また、カーボンブラックを用いたインクは、ノズル傷の発生が他の有機顔料を用いた場合に比べて悪化する傾向がある。このノズル傷は、カーボンブラックの含有比率を下げることで改善されるが、カーボンブラックの含有比率を単に下げようとすると、所望とする黒色濃度が維持できず、例えばグレー色調としたときの色味も変化して黄色がかった色調しか得られない。
【0012】
顔料のほかにポリマー粒子などのインク成分が増えた場合、画像中に占めるカーボンブラックの比率が相対的に低くなり、隠蔽率が低下するため、黄色味等の色相の変化が現れやすい。そのため、画像中のスジ状のムラやメンテナンス性を改善しながら、黄色味の少ない所望の黒色もしくはグレー色等の中間色調までは実現するに至っていない。
【0013】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像が得られ、画像中の筋状ムラ、画像中の色相ムラ及びメンテナンス時のノズル傷の発生が防止された黒色インク組成物及びインクセット、並びに、ノズル表面の傷付きを少なく抑えながら、筋状ムラ、色相ムラの発生を防ぎ、黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像を形成する画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックと、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料と、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料と、水不溶性樹脂の粒子と、水とを含有し、
前記カーボンブラック(未被覆のカーボンブラック)の含有比率が、組成物総量に対して1.0質量%以上2.0質量%以下であり、全顔料の合計量が、組成物総量に対して1.8質量%以上3.5質量%以下である黒色インク組成物である。
<2> 前記水不溶性樹脂の粒子の含有量が、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料の合計量より多い前記<1>に記載の黒色インク組成物である。
<3> 少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料の合計量に対する前記水不溶性樹脂の粒子の含有量の比率(水不溶性樹脂の粒子量/被覆された顔料の合計量)が1.0超 4.0以下である前記<1>又は前記<2>に記載の黒色インク組成物である。
<4> 前記水不溶性樹脂の粒子が、自己分散ポリマー粒子である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物である。
<5> 前記水不溶性樹脂の粒子は、Tgが100℃以上である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物である。
【0015】
<6> 更に、固体湿潤剤を含有する前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物である。
<7> 前記固体湿潤剤が、尿素、尿素誘導体、及びこれらの混合物から選択される前記<6>に記載の黒色インク組成物である。
<8> 更に、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたイエロー顔料を含有する前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物である。
<9> 前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物と、前記黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液と、を有するインクセットである。
<10> 前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の黒色インク組成物を、記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、前記黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液を、記録媒体に付与する処理液付与工程と、を有する画像形成方法である。
<11> 前記インク付与工程は、ピエゾ式インクジェット法で黒色インク組成物を付与する前記<10>に記載の画像形成方法である。
<12> 更に、前記インク付与工程及び前記処理液付与工程を経て形成された画像を加熱して前記記録媒体に定着させる加熱定着工程を有する前記<10>又は前記<11>に記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像が得られ、画像中の筋状ムラ、画像中の色相ムラ及びメンテナンス時のノズル傷の発生が防止された黒色インク組成物及びインクセットを提供することができる。また、
本発明によれば、ノズル表面の傷付きを少なく抑えながら、筋状ムラ、色相ムラの発生を防ぎ、黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像を形成する画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の黒色インク組成物、並びにこれを用いたインクセット及び画像形成方法について詳細に説明する。
【0018】
本発明において、「メンテナンス」には、インクジェット記録用インク組成物を吐出する記録用ヘッド及びその吐出性能を所期の状態もしくはそれに近い状態に保ち、持続することに加え、記録用ヘッドを洗浄(クリーニング)してより良好な状態に整備、保守することが含まれる。
【0019】
<黒色インク組成物>
本発明の黒色インク組成物(以下、単に「インク組成物」ということがある。)は、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックと、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料と、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料と、水不溶性樹脂の粒子と、水と、を少なくとも含んで水系に調製され、水不溶性樹脂で被覆されていないカーボンブラックの組成物総量に対する含有比率を1.0質量%〜2.0質量%とし、全顔料の合計量の組成物総量に対する比率を1.8質量%〜3.5質量%として構成したものである。
本発明の黒色インク組成物は、必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0020】
本発明においては、黒色インクを構成する黒色系の着色剤としてカーボンブラック(CB)を含有する場合に、CBと共にシアン顔料及びマゼンタ顔料を含み、CB、シアン顔料、及びマゼンタ顔料の各々の粒子表面の少なくとも一部をそれぞれ水不溶性樹脂で被覆すると共に、特にヘッドノズルの表面を傷つけやすいカーボンブラックの比率を下げ、ヘッドノズル表面を傷つけ難い樹脂粒子を含ませ、さらに全顔料の合計質量がインク全量に対して所定比率となるように顔料量を調整した構成とすることで、メンテナンス時にはヘッドノズルの表面への傷の発生を少なく抑えながら、例えばシングルパス方式で高速に黒もしくはグレー色等の中間調色の画像等を形成したときには、画像中の筋状ムラや色相ムラの発生が抑制され、黒もしくは中間調色の画像の色味変化が抑えられた無彩色の画像が得られる。
このように、カーボンブラック(CB)を、筋状ムラの発生防止とヘッドノズルの表面の傷付き防止のために減らすが黒濃度や無彩色の色再現性を維持できる範囲で含有し、これにシアン顔料及びマゼンタ顔料を、樹脂被覆して全顔料量が所定範囲となる範囲で含有することにより、CB減量に伴なう色味変化(黄着色)及び画像中の筋状ムラの発生が抑えられ、またメンテナンスで拭き取る際に生じやすいヘッドノズルの表面の傷付きが防止される。シングルパスにおける上記色相ムラについては、インクジェットヘッドからの吐出の僅かなばらつきによるもので、吐出量(画像網点率)を変化しても色相が変動しないようにCB量、全顔料量を所定範囲に調整することで抑制することができる。また、CBを減らすのみならず、CB、シアン顔料、及びマゼンタ顔料を水不溶性樹脂で覆い、水不溶性樹脂の粒子を含有することで、ノズル表面の傷の発生がより軽減される。
【0021】
(樹脂被覆カーボンブラック)
本発明の黒色インク組成物は、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラック(以下、樹脂被覆CB又は樹脂被覆カーボンブラックともいう。)の少なくとも一種を含有する。この樹脂被覆CBは、カーボンブラック(CB)の粒子表面の一部又は全部が水不溶性樹脂で被覆された粒子であり、インク組成物中に分散状態にして含有される。
【0022】
−カーボンブラック−
カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたもの、具体的にはファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
カーボンブラックの具体例として、Raven7000,Raven5750,Raven5250,Raven5000 ULTRAII,Raven 3500,Raven2000,Raven1500,Raven1250,Raven1200,Raven1190 ULTRAII,Raven1170,Raven1255,Raven1080,Raven1060,Raven700(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上、キャボット社製)、Color Black FW1, Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black4(以上、デグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.45,No.47,No.52,No.900,No.2200B,No.2300,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0023】
−水不溶性樹脂−
カーボンブラック(CB)を覆う水不溶性樹脂としては、例えば、〔1〕以下に示す一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)とを含むポリマー、〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー、等を挙げることができる。
ここで「不溶性」とは、25℃の水系媒体にポリマーを混合したときに、水系媒体に溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として10質量%以下であることをいう。
【0024】
〔1〕一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)とを含むポリマー
【0025】
このポリマーは、一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、イオン性基を有する繰り返し単位の少なくとも一種とを含み、必要に応じて、更に、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の疎水性繰り返し単位や、非イオン性の官能基等を持つ親水性繰り返し単位などの他の構造単位を含むことができる。
【0026】
<(a)一般式(1)で表される繰り返し単位>
【化1】

【0027】
一般式(1)において、Rは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表し、Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。なお、Lで表される基中の*印は、主鎖に連結する結合手を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Arは、芳香環から誘導される1価の基芳香環を表す。
【0028】
前記一般式(1)において、Rは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表し、好ましくはメチル基を表す。
【0029】
は、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lがフェニレン基を表す場合、無置換が好ましい。Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0030】
は単結合、又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としては、好ましくは炭素数1〜30の連結基であり、より好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、更に好ましくは炭素数1〜20の連結基であり、特に好ましくは炭素数1〜15の連結基である。
中でも、最も好ましくは、炭素数1〜25(より好ましくは1〜10)のアルキレンオキシ基、イミノ基(−NH−)、スルファモイル基、及び、炭素数1〜20(より好ましくは1〜15)のアルキレン基やエチレンオキシド基[−(CHCHO)−,n=1〜6]などの、アルキレン基を含む2価の連結基等、並びにこれらの2種以上を組み合わせた基などである。
【0031】
Arは、芳香環から誘導される1価の基を表す。
Arで表される1価の基の芳香環としては、特に限定されないが、ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、ヘテロ環が縮環した芳香環、又は2以上のベンゼン環が縮環した芳香環が挙げられる。
【0032】
前記「炭素数8以上の縮環型芳香環」は、少なくとも2以上のベンゼン環が縮環した芳香環、少なくとも1種の芳香環と該芳香環に縮環して脂環式炭化水素で環が構成された炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0033】
前記「ヘテロ環が縮環した芳香環」とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は、5員環又は6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は、複数のヘテロ原子を有していてもよい。この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。
芳香環が縮環したヘテロ環の具体例としては、フタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0034】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類を挙げることができる。
【0035】
本発明において、主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性の構造単位では、芳香環は連結基を介して水不溶性樹脂の主鎖をなす原子と結合され、水不溶性樹脂の主鎖をなす原子に直接結合しない構造を有するので、疎水性の芳香環と親水性構造単位との間に適切な距離が維持されるため、水不溶性樹脂と顔料との間で相互作用が生じやすく、強固に吸着して分散性がさらに向上する。
【0036】
更には、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、下記のモノマーなどを挙げることができる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
前記(a)一般式(1)で表される繰り単位中のArとしては、被覆された顔料の分散安定性の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、アクリドン、又はフタルイミドから誘導される1価の基であることが好ましい。
【0041】
前記繰り返し単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(1)で表される繰り返し単位のポリマー中における含有割合は、ポリマーの全質量に対して、5〜25質量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜18質量%の範囲である。この含有割合は、5質量%以上であると、白抜け等の画像故障の発生を顕著に抑制できる傾向となり、また、25質量%以下とするとポリマーの重合反応溶液(例えば、メチルエチルケトン)中での溶解性低下による製造適性上の問題が生じない傾向となり好ましい。
【0042】
<他の疎水性繰り返し単位>
ポリマー〔1〕は、疎水性構造単位として、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と共に他の疎水性繰り返し単位を更に有していることが好ましい。他の疎水性繰り返し単位としては、例えば、親水性構造単位に属しない(例えば親水性の官能基を有しない)例えば(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類、主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位、等に由来の構造単位を挙げることができる。これらの構造単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。このように一般式(1)で表される繰り返し単位と後述の親水性繰り返し単位との中間に位置する性質を有する繰り返し単位を有していることにより、顔料分散させた際の分散性、分散安定性をより高めることができる。
【0043】
前記(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートが好適に挙げられ、中でもアルキル部位の炭素数が1〜5のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましく、特にメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましい。
前記(メタ)アクリルアミド類としては、例えば、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
前記スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Bocなど)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、及びα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
前記ビニルエステル類としては、例えば、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、及び安息香酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられる。中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0044】
<(b)イオン性基を有する繰り返し単位>
イオン性基を有する繰り返し単位としては、カルボキシル基、スルホ基、ホスホネート基などのイオン性基を有するモノマーに由来する繰り返し単位が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、及びビニルエステル類等の、イオン性官能基を有するビニルモノマー類を挙げることができる。イオン性基を有する繰り返し単位は、対応するモノマーの重合により導入できるが、重合後のポリマー鎖にイオン性基を導入したものでもよい。
【0045】
これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸に由来の繰り返し単位単位が好ましく、アクリル酸由来の構造単位もしくはメタクリル酸由来の構造単位のいずれか又は両方を含むことが好ましい。
【0046】
このポリマー〔1〕は、(b)イオン性基を有する繰り返し単位の割合がポリマー全質量の15質量%以下であって、イオン性基を有する繰り返し単位として少なくとも(メタ)アクリル酸由来の構造単位を含む態様が好ましい。
(b)イオン性基を有する繰り返し単位の含有量がポリマー全質量の15質量%以下であると、分散安定性に優れる。中でも、(b)イオン性基を有する繰り返し単位の割合は、分散安定性の観点から、5質量%以上15質量%以下が好ましく、7質量%以上13質量%以下がより好ましい。
【0047】
このポリマー〔1〕は、水性のインク組成物中において安定的に存在することができ、例えばインクジェットヘッド等での凝集物の付着、堆積を緩和し、付着した凝集物の除去性にも優れる。このような観点から、前記(a)一般式(1)で表される繰り返し単位以外の疎水性構造単位、及び前記「(b)イオン性基を有する繰り返し単位」以外の他の親水性構造単位をさらに有していてもよい。
【0048】
<親水性繰り返し単位>
前記他の親水性構成単位としては、非イオン性の親水性基を有するモノマーに由来の繰り返し単位が挙げられ、例えば、親水性の官能基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、及びビニルエステル類等の、親水性の官能基を有するビニルモノマー類を挙げることができる。
【0049】
「親水性の官能基」としては、水酸基、アミノ基、(窒素原子が無置換の)アミド基、及び後述のポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0050】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位を形成するモノマーとしては、エチレン性不飽和結合等の重合体を形成しうる官能基と非イオン性の親水性の官能基とを有していれば、特に制限はなく、公知のモノマーから選択することができる。具体的な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、アミノプロピルアクリレート、アルキレンオキシド重合体を含有する(メタ)アクリレートを好適に挙げることができる。
【0051】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、対応するモノマーの重合により形成することができるが、重合後のポリマー鎖に親水性の官能基を導入してもよい。
【0052】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、アルキレンオキシド構造を有する親水性の構造単位がより好ましい。アルキレンオキシド構造のアルキレン部位としては、親水性の観点から、炭素数1〜6のアルキレンが好ましく、炭素数2〜6のアルキレンがより好ましく、炭素数2〜4のアルキレンが特に好ましい。また、アルキレンオキシド構造の重合度としては、1〜120が好ましく、1〜60がより好ましく、1〜30が特に好ましい。
【0053】
また、非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、水酸基を含む親水性の繰り返し単位であることも好ましい態様である。繰り返し単位中の水酸基数としては、特に制限はなく、水不溶性樹脂の親水性、重合時の溶媒や他のモノマーとの相溶性の観点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0054】
ポリマー〔1〕としては、親水性繰り返し単位と疎水性繰り返し単位(前記一般式(1)で表される構造繰り返しを含む)との組成は各々の親水性、疎水性の程度にも影響するが、親水性繰り返し単位の割合が15質量%以下であることが好ましい。このとき、疎水性繰り返し単位は、水不溶性樹脂の質量全体に対して、80質量%を超える割合であるのが好ましく、85質量%以上であるのがより好ましい。
親水性繰り返し単位の含有量が15質量%以下であると、単独で水性媒体中に溶解する成分量が抑えられ、顔料の分散などの諸性能が良好になり、インクジェット記録時には良好なインク吐出性が得られる。
【0055】
親水性繰り返し単位の好ましい含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、0質量%を超え15質量%以下の範囲であり、より好ましくは2〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは5〜15質量%の範囲であり、特に好ましくは8〜12質量%の範囲である。
【0056】
芳香環の水不溶性樹脂中に含まれる含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、27質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。中でも、15〜20質量%であるのが好ましく、17〜20質量%の範囲がより好ましい。芳香族環の含有割合が前記範囲内であると、耐擦過性が向上する。
【0057】
以下、ポリマー〔1〕の具体例(Mw:重量平均分子量)を列挙する。但し、本発明においては、下記に限定されるものではない。
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5[質量%])
・フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6[質量%])
・フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6[質量%])
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5[質量%])
・ベンジルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(60/30/10[質量%])
・(M−25/M−27)混合物/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(15/75/10[モル比]、Mw49400、酸価65.2mgKOH/g)
・(M−25/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(18/69/13[モル比]、Mw41600、酸価84.7mgKOH/g)
・(M−28/M−29)混合物/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(15/85/10[モル比]、Mw38600、酸価65.2mgKOH/g)
・(M−28)/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/73/7[モル比]、Mw45300、酸価45.6mgKOH/g)
【0058】
〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー
【0059】
このポリマー〔2〕は、吐出安定性、洗浄性を発現させる観点で好ましい水不溶性ポリマーである。このポリマー〔2〕のうち、スチレン系マクロマー(d)由来の構成単位を含む水不溶性グラフトポリマーであることが更に好ましい。水不溶性グラフトポリマーは、塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位と疎水性モノマー(e)由来の構成単位を含むポリマーを主鎖に有し、スチレン系マクロマー(d)由来の構成単位を側鎖に有することが好ましい。このような水不溶性ポリマーとしては、塩生成基含有モノマー(c)(以下、(c)成分ともいう)、スチレン系マクロマー(d)(以下、(d)成分ともいう)及び/又は疎水性モノマー(e)(以下、(e)成分ともいう)を含むモノマー混合物(以下、モノマー混合物ともいう)を共重合してなる水不溶性ビニル系ポリマーが好ましい。
【0060】
(塩生成基含有モノマー(c))
塩生成基含有モノマー(c)は、得られる分散体の分散安定性を高める等の観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。(c)成分としては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
【0061】
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミノ基含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0062】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコネート等が挙げられる。
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出性等の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましい。
【0063】
(スチレン系マクロマー(d))
スチレン系マクロマー(d)(以下、単に「マクロマー」ともいう。)は、着色剤(特に、顔料)との親和性を高めることで、顔料を含有した水不溶性ポリマー粒子の分散安定性を高める等の観点から用いられる。スチレン系マクロマー(d)としては、数平均分子量が500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000で、片末端に不飽和基等の重合性官能基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。(d)成分のマクロマーとしては、顔料との親和性を高める観点からグラフト鎖が疎水的であることが好ましい。
なお、(d)成分の数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、溶媒として50ミリモル/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定する。
【0064】
スチレン系マクロマーとは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー由来の構成単位を有するマクロマーを意味する。スチレン系モノマーの中ではスチレンが好ましい。スチレン系マクロマーは、例えば、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体、及び片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。片末端に存在する重合性官能基は、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、これらを共重合させることで、スチレン系マクロマー由来の構成単位を有する水不溶性グラフトポリマーを得ることができる。
スチレン系マクロマー中、スチレン系モノマー由来の構成単位の含有量は、顔料分散性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
スチレン系マクロマーとして市販品を用いてもよく、この場合、例えば、東亜合成株式会社製の(商品名)AS−6、AS−6S、AN−6、AN−6S、HS−6、HS−6S等が挙げられる。
【0065】
(疎水性モノマー(e))
疎水性モノマー(e)は、耐水性着色剤の分散安定性向上、遊離ポリマー量の低減等の観点から用いられ、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、芳香環含有モノマー、及び下記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を構成し得るモノマー及びその化合物等が挙げられる。
【0066】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、メチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジブチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ドデシル(メタ)アクリルアミドなどの、炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
芳香環含有モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等の炭素数6〜22の芳香族炭化水素基を有するビニルモノマーが好ましく挙げられる。
なお、本明細書にいう「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0067】
【化5】

【0068】
一般式(1)又は(2)において、Rは水素原子又は置換基を表す。R〜Rのうちの1つはWと結合する単結合を表し、それ以外のものは各々独立に水素原子又は置換基を表す。Jは*−CO−、*−COO−、*−CONR10−、*−OCO−、メチレン基、フェニレン基、又は*−CCO−を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合又は2価の連結基を表す。Aはヘテロ環基を表す。Qは、炭素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。*−は、主鎖に連結する結合手を表す。
【0069】
〜Rの置換基としては1価の置換基が挙げられる。1価の置換基(以下、Zとする)の例として、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基、シリル基、シリルオキシ基などが挙げられる。また、これら置換基は更に、前記置換基Zより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
【0070】
上記の中でも、Rは、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、又はアリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)が好ましく、さらに好ましくは水素原子又はアルキル基である。
【0071】
また、R〜RのうちWと結合する単結合以外を表すものは、好ましくは水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヘテロ環基であり、
更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、より好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0072】
前記一般式(1)及び(2)中、Jとしては、*−CO−、*−CONR10−、フェニレン基、*−CCO−が好ましく、*−CCO−がより好ましい。R10は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基が好ましく、その好ましい範囲は置換基Zで説明したアルキル基、アリール基の好ましい範囲と同義である。
【0073】
前記一般式(1)及び(2)中、Wは単結合又は2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、例えば、イミノ基、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレン、デシレンなどが挙げられる。)、アラルキレン基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基であり、例えばベンジリデン、シンナミリデンなどが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン、クメニレン、メシチレン、トリレン、キシリレンなどが挙げられる。)、*−(CR1112NHCONH−、*−(CR1112CONH−等が挙げられる。*は主鎖側で結合する部位を表す。ここで、R11及びR12は各々独立に水素原子又は置換基を表し、好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基であり、さらに好ましくは水素原子又はアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。複数存在するR11及びR12は互いに同一でも異なっていてもよい。nは正の整数を表し、好ましくは1〜10であり、より好ましくは2〜5である。これらの中でも、*−(CR1112NHCONH−、*−(CR1112CONH−、イミノ基が好ましく、イミノ基がより好ましい。
【0074】
Wは、好ましくは、単結合、アルキレン基又はアリーレン基であり、より好ましくは単結合又はアルキレン基である。さらに好ましくは単結合である。
Wはさらに置換基を有していてもよく、そのような置換基としては前記Zで説明した基が挙げられる。また、Wは上述の2価の連結基を複数組み合わせて構成されたものでもよい。また、Wはその中にエーテル結合を有していることも好ましい。
【0075】
前記一般式(1)中、Aはヘテロ環基を表す。ヘテロ環基とは、ヘテロ環化合物から水素原子を1つ取り除いた1価の基をいう。
で表されるヘテロ環基としては、色材(特に顔料)を構成しうるヘテロ環基であることが好ましい。van−der−waals相互作用により顔料との親和性が高いヘテロ環基を有することで顔料との吸着性が良好となり、安定な分散体を得ることができる。
ヘテロ環基を構成するヘテロ環化合物としては、分子中に水素結合基を少なくとも1つ有するものが好ましく、チオフェン、フラン、キサンテン、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、キノフタロン等が挙げられる。これらのうち、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、アントラキノン、及びフタルイミドが特に好ましい。
これらのヘテロ環基は、顔料に類似するヘテロ環基であることが特に好ましい。具体的には、キナクリドン系顔料に対してはアクリドン、及びアントラキノン等から選択される1種以上が本発明においては特に好適に用いられる。水不溶性ポリマーと色材との吸着を強固にし、インク溶媒に使用する溶剤種や量に関わらず、ポリマーの、色材からの遊離を低減することができる。
【0076】
前記一般式(2)中、Qは、炭素原子(詳しくは−C=C−の2つの炭素原子)とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。その原子群としては炭素、窒素、酸素、ケイ素、リン、及び/又は硫黄によって構成される環であり、好ましくは炭素、窒素、酸素、及び/又は硫黄であり、さらに好ましくは、炭素、窒素、及び/又は酸素であり、より好ましくは炭素及び/又は窒素である。これらの原子群により構成されるQは飽和であっても不飽和であってもよく、置換可能である場合、置換基を有していてもよい。その置換基としては前記Zで説明した基と同義である。
【0077】
一般式(2)中、Wと結合する環構造基(R〜Rを有するアリール基とQとからなる環構造基)の例としては、置換基を有してもよい下記式(i)〜(vi)のいずれかで表される環構造基が挙げられる(式中、*はWと結合する部位を意味する。)。これらの中でも、置換基を有してもよい下記式(i)、(ii)又は(iii)で表される環構造基が好ましく、置換基を有してもよい下記式(i)で表される環構造基がより好ましい。
【0078】
【化6】

【0079】
前記一般式(2)で表される構成単位(繰り返し単位)は、下記一般式(3)で表されるものであることが好ましい。
【0080】
【化7】

【0081】
前記一般式(3)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R〜R、J及びWは、前記一般式(2)におけるR〜R、J及びWと同義であり、好ましい範囲も同様である。
〜Rが置換基を表す場合、その置換基としては前記Zで説明した基が挙げられる。R〜Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0082】
前記一般式(3)で表される繰り返し単位は、下記(a)、(b)、(c)又は(d)の置換基の組合せが好ましく、下記(b)、(c)又は(d)の組合せがより好ましく、下記(c)又は(d)の組合せがさらに好ましく、下記(d)の組合せが特に好ましい。下記*−は、主鎖と結合する結合手を表す。
(a)Jは、*−CO−、*−CONR10−、フェニレン基、又は*−CCO−基であり、R10は、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。Wは、単結合、イミノ基、アルキレン基、又はアリーレン基である。Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に、単結合、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。
【0083】
(b)Jは、それぞれ独立に、*−CCO−、*−CONR10−、又はフェニレン基であり、R10は水素原子又はアルキル基である。Wは、イミノ基、単結合、又はアリーレン基である。Rは水素原子又はアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0084】
(c)Jは*−CCO−又は*−CONR10−であり、R10は水素原子である。Wはイミノ基又は単結合である。Rは水素原子又はアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0085】
(d)Jは*−CCO−である。Wはイミノ基である。Rは水素原子又はアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは水素原子である。
【0086】
以下に、前記一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
【化8】

【0088】
以下、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
【化9】

【0090】
(e)成分としては、着色剤(特に、顔料)の分散性向上、遊離ポリマー量を低減する観点から、芳香環含有モノマー、及び水不溶性ポリマーとして用いる際にヘテロ環を含有する繰り返し単位を構成し得るモノマーが好ましく、中でも本発明の黒色インク組成物として用いる際に、着色剤(特に、顔料)の分散性を向上させ、遊離ポリマーを低減させる等の観点から、上述した水不溶性ポリマーとして用いる際にヘテロ環を含有する繰り返し単位を構成し得るモノマー(以下、e−1と表記する)成分が好ましい。
【0091】
(e)成分中における(e−1)成分の含有量は、遊離ポリマーの低減、及び印字濃度、並びに耐擦過性向上等の観点から、(e)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
【0092】
芳香環含有モノマーとしては、スチレン系モノマー(e−2)成分が好ましく、スチレン及び2−メチルスチレンが更に好ましい。(e)成分中における(e−2)成分の含有量は、印字濃度、耐擦過性向上等の観点から、(e)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
【0093】
また、(e)成分としては、着色剤分散性向上等の観点から、芳香環含有モノマーが好ましく、中でも(メタ)アクリル酸のアリールエステル(e−3)成分が好ましく、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基を有する(メタ)アクリレート、又は、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。このようなモノマーとしては、具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。(e)成分中の(e−2)成分の含有量は、着色剤分散性等の観点から、(e)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
上記(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、(e−1)成分と(e−2)成分、(e−2)成分と(e−3)成分、あるいは(e−1)成分と(e−2)成分とを併用することも好ましく、遊離ポリマーの低減の観点からは、(e−1)成分と(e−2)成分、(e−2)成分と(e−3)成分を組み合わせることがより好ましく、(e−1)成分と(e−2)成分を組み合わせることが最も好ましい。
【0094】
本発明においては、上記(c)、(d)、(e)各成分を含むモノマー混合物は、更に水酸基含有モノマー(f)(以下、(f)成分ともいう)を含有することが好ましい。
(f)成分は、分散安定性を高めるものである。(f)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0095】
上記モノマー混合物は、更に、下記式(A)で表されるモノマー(g)(以下、(g)成分ともいう)を含有することができる。
CH=C(R)COO(RO) ・・・(A)
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは平均付加モル数を示し、1〜60、好ましくは1〜30の数である。)
(g)成分は、インク組成物の吐出安定性を高め、連続印字してもヨレの発生を抑制する等の優れた効果を発現するものである。
前記式(A)において、R又はRが有してもよいヘテロ原子としては、それぞれ独立に例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子又は硫黄原子が挙げられる。
で示される基の代表例としては、炭素数6〜30の芳香族基、炭素数3〜30のヘテロ環基、又は炭素数1〜30のアルキレン基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。Rで示される基の代表例としては、炭素数6〜30の芳香族基、又は炭素数3〜30のヘテロ環基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。R及びRは2種以上を組合わせたものであってもよい。置換基としては、芳香族基、ヘテロ環基、アルキル基、ハロゲン原子、又はアミノ基等が挙げられる。
【0096】
としては、炭素数1〜24の置換基を有していてもよいフェニレン基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキレン基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキレン基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキレン基が好ましく挙げられる。RO基の特に好ましい具体例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基又はこれらオキシアルキレンの1種以上からなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基やオキシフェニレン基が挙げられる。
としては、フェニル基、炭素数1〜30、好ましくは分岐鎖を有していても良い炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基又はヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が好ましく挙げられる。Rのより好ましい例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、(イソ)ブチル基、(イソ)ペンチル基、(イソ)ヘキシル基等の炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0097】
(g)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(前記式(A)におけるpが1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)、メトキシポリプロピレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(p=1〜30、その中のエチレングリコール部分は1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
【0098】
前記(f)、(g)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社製の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G,90G,230G,日本油脂株式会社製のブレンマーシリーズ、PE−90,200,350,PME−100,200,400,1000、PP−1000,PP−500,PP−800,AP−150,AP−400,AP−550,AP−800,50PEP−300,50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
前記(a)〜(g)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
前記(c)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量は次のとおりである。
(c)成分の含有量は、得られる着色剤(特に、顔料)を含有した水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜40質量%、特に好ましくは3〜20質量%である。
(d)成分の含有量は、着色剤(特に顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%である。
(e)成分の含有量は、着色剤(特に、顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは5〜98質量%、より好ましくは10〜60質量%である。
(c)成分の含有量と(d)成分と(e)成分の合計含有量との質量比((a)/[(b)+(c)])は、得られるインク組成物の吐出性等の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0100】
(d)成分の含有量は、吐出性、分散安定性の観点から、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは7〜30質量%である。
(e)成分の含有量は、吐出性、分散安定性等の観点から、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
(c)成分と(d)成分との合計含有量は、水中での分散安定性等の観点から、好ましくは6〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
また、(c)成分と(e)成分の合計含有量は、水中での分散安定性、吐出性等の観点から、好ましくは6〜75質量%、より好ましくは13〜50質量%である。
(c)成分と(d)成分と(e)成分との合計含有量は、水中での分散安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60質量%、より好ましくは7〜50質量%である。
【0101】
ポリマー〔2〕は、塩生成基含有モノマー(e)由来の塩生成基を有している場合は、中和剤により中和して用いる。中和剤としては、水不溶性ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、コリンヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の塩基が挙げられる。水不溶性ポリマーの中和度は、好ましくは10〜200%、より好ましくは20〜150%、特に好ましくは50〜150%である。
中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式により、
{[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]}×100
また、塩生成基がカチオン性基である場合、下記式により、
[[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの質量(g)/(36.5×1000)]]×100
求めることができる。
また、酸価やアミン価は、水不溶性ビニルポリマーの構成単位から算出する方法、あるいは適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して滴定する方法により求めることができる。
【0102】
本発明における水不溶性樹脂の酸価としては、顔料分散性、保存安定性の観点から、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
なお、酸価とは、水不溶性樹脂の1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JIS K 0070、1992)記載の方法により測定されるものである。
【0103】
本発明における水不溶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量(Mw)で3万以上が好ましく、3万〜15万がより好ましく、更に好ましくは3万〜10万であり、特に好ましくは3万〜8万である。分子量が3万以上であると、分散剤としての立体反発効果が良好になる傾向があり、立体効果により顔料へ吸着し易くなる。
また、数平均分子量(Mn)では1,000〜100,000の範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000の範囲程度のものが特に好ましい。数平均分子量が前記範囲内であると、顔料における被覆膜としての機能又はインク組成物の塗膜としての機能を発揮することができる。ポリマー〔1〕は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
【0104】
また、本発明における水不溶性樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)としては、1〜6の範囲が好ましく、1〜4の範囲がより好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、インクの分散安定性、吐出安定性を高められる。
【0105】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて溶媒THFにて検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算することにより求められる分子量である。
【0106】
本発明における水不溶性樹脂は、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、沈殿重合、塊状重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は、回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行なうことができる。重合の開始方法は、ラジカル開始剤を用いる方法、光又は放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば、鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
前記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の種々の有機溶剤が挙げられる。溶剤は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、水との混合溶媒として用いてもよい。重合温度は、生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常は0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行なうことが好ましい。反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は1〜100kg/cmであり、特に1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。得られた樹脂は、再沈殿などの精製を行なってもよい。
【0107】
樹脂被覆CBにおいて、カーボンブラック(CB)と水不溶性樹脂(r)との比率(CB:r)は、質量比で100:25〜100:140が好ましく、より好ましくは100:25〜100:50である。比率(CB:r)は、水不溶性樹脂が100:25の割合以上であると分散安定性と、擦性が良化する傾向にあり、水不溶性樹脂が100:140の割合以下であると、分散安定性が良化する傾向がある。
【0108】
また、樹脂被覆CBの分散物における粒子径(体積平均径)としては、50〜120nmが好ましく、60〜100nmがより好ましく、70〜90nmが更に好ましい。粒子径が50nm以上であると安定性の悪化を抑制できる傾向となり、120nm以下であると打滴特性が良好となり、記録画像の白抜け発生を抑制する傾向となる点で好ましい。
また、前記粒子径の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ分散物を2種以上を混合して用いてもよい。
なお、樹脂被覆CBの分散物の粒子径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定される値である。
【0109】
樹脂被覆CBは、水不溶性樹脂及びカーボンブラック等を用いて従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。例えば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、又は特開平11−43636号の各公報に記載の方法により製造することができる。具体的には、特開平9−151342号及び特開平10−140065号の各公報に記載の転相乳化法と酸析法等が挙げられる。
【0110】
樹脂被覆CBが、カーボンブラックを水不溶性樹脂で被覆した粒子である場合、分散安定性の点で、カーボンブラックを転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆してなる形態である場合が好ましい。
前記転相乳化法は、基本的には、自己分散能又は溶解能を有する樹脂と顔料との混合溶融物を水に分散させる自己分散(転相乳化)方法である。また、この混合溶融物には、上記の硬化剤又は高分子化合物を含んでなるものであってもよい。ここで、混合溶融物とは、溶解せず混合した状態、溶解して混合した状態、又はこれら両者の状態のいずれの状態を含むものをいう。「転相乳化法」のより具体的な製造方法は、特開平10−140065号に記載の方法が挙げられる。
転相乳化法及び酸析法のより具体的な製造方法は、特開平9−151342号、特開平10−140065号の各公報に記載の方法が挙げられる。
【0111】
本発明におけるインク組成物において、樹脂被覆CBは、水不溶性樹脂を用いて下記工程(1)及び工程(2)を含む方法により樹脂被覆されたCB(顔料)の分散物を調製する調製工程を設けて得ることができる。また、本発明の黒色インク組成物は、調製工程で得られた樹脂被覆CBの分散物を水及び有機溶媒と共に用いて水性インクとする方法により調製することができる。
工程(1):水不溶性樹脂、有機溶媒、中和剤、カーボンブラック、及び水を含有する混合物を攪拌等により分散して分散物を得る工程
工程(2):前記分散物から前記有機溶媒を除去する工程
【0112】
攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー、ビーズミル等の分散機を用いることができる。
【0113】
なお、有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられ、その詳細については下記の水不溶性樹脂の粒子の項で述べる。また、中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、特定共重合体が水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。中和剤の詳細については、後述する。
【0114】
前記工程(2)では、前記工程(1)で得られた分散物から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで、顔料の粒子表面が共重合体で被覆された樹脂被覆顔料粒子の分散物を得ることができる。得られた分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、ここでの有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。
より具体的には、例えば、(1)アニオン性基を有する共重合体又はそれを有機溶媒に溶解した溶液と塩基性化合物(中和剤)とを混合して中和する工程と、(2)得られた混合液に顔料を混合して懸濁液とした後に、分散機等で顔料を分散して顔料分散液を得る工程と、(3)有機溶剤を例えば蒸留して除くことによって、顔料を、アニオン性基を有する特定共重合体で被覆し、水性媒体中に分散させて水性分散体とする工程とを含む方法である。
なお、より具体的には、特開平11−209672号公報及び特開平11−172180号公報の記載を参照することができる。
【0115】
本発明において、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機、超音波ホモジナイザーなどを用いて行なうことができる。
【0116】
本発明の黒色インク組成物中におけるカーボンブラックの含有比率(カーボンブラックを被覆する水不溶性樹脂を含まない)としては、黒色インク組成物の全質量に対して、1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲とする。カーボンブラックの含有比率が1.0質量%未満であると、含有量が少なすぎて所望の黒濃度を維持することができない。また、カーボンブラックの含有比率が2.0質量%を超えると、画像に筋状ムラが生じやすく、またメンテナンス時におけるヘッドノズル表面への傷つきを防止することができない。
上記の中でも、画像中の筋状ムラ及びヘッドノズルの傷付きの発生防止の観点から、カーボンブラックの含有比率は、1.2質量%以上1.8質量%以下がより好ましく、1.3質量%以上1.7質量%以下が特に好ましい。
【0117】
(樹脂被覆シアン顔料)
本発明の黒色インク組成物は、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料の少なくとも一種(以下、樹脂被覆シアン顔料ともいう。)を含有する。樹脂被覆シアン顔料は、シアン顔料の一部又は全部が水不溶性樹脂で被覆された粒子であり、インク組成物中に分散状態にして含有される。
【0118】
−シアン顔料−
シアン顔料として、C.I.ピグメント・ブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、(銅)フタロシアニン顔料が好ましく、特にC.I.ピグメント・ブルー15:3が好ましい。上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0119】
−水不溶性樹脂−
シアン顔料を覆う水不溶性樹脂としては、前記カーボンブラックを覆う水不溶性樹脂と同様のものを挙げることができる。具体的には、〔1〕既述の一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)と(好ましくはアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位と)を含むポリマー、又は〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー、等を挙げることができ、これらの好ましい態様も同様である。
ここでの「不溶性」は、25℃の水系媒体にポリマーを混合したときに、水系媒体に溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として15質量%以下であることをいう。耐擦性をより向上し、媒体同士の色転写を抑制させる観点からは、前記溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として10質量%以下であることが好ましい。前記ポリマー〔1〕及び〔2〕の詳細については既述した通りである。
【0120】
樹脂被覆シアン顔料は、分散安定性の点で、シアン顔料が転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆されてなる形態が好ましい。転相乳化法については既述の通りである。
【0121】
本発明の黒色インク組成物中におけるシアン顔料の含有比率としては、前記CBに対して、1質量%〜50質量%の範囲が好ましい。シアン顔料の含有比率が1質量%以上であると、カーボンブラックを減量した分の色調変化(黄着色)を補って所望の色調、色濃度を維持することができる。また、シアン顔料の含有比率が50質量%以下であると、カーボンブラックに対するシアン顔料が多くなり過ぎず、所望の黒色相が得られる。
上記の中でも、シアン顔料の含有比率は、上記同様の観点から、前記CBに対して、10質量%以上45質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下が更に好ましい。
【0122】
(樹脂被覆マゼンタ顔料)
本発明の黒色インク組成物は、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料の少なくとも一種(以下、樹脂被覆マゼンタ顔料ともいう。)を含有する。樹脂被覆マゼンタ顔料は、マゼンタ顔料の一部又は全部が水不溶性樹脂で被覆された粒子であり、インク組成物中に分散状態にして含有される。
【0123】
−マゼンタ顔料−
マゼンタ顔料としては、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料等が挙げられる。
好ましい具体例としては、C.I.ピグメント・レッド48,57,122,184,188,C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられ、キナクリドン顔料が好ましく、特にC.I.ピグメント・レッド122、及びC.I.ピグメント・バイオレット19が好ましい。上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる他、2種以上の固溶体を併用することができる。
【0124】
−水不溶性樹脂−
マゼンタ顔料を覆う水不溶性樹脂については、前記シアン顔料と同様に、前記カーボンブラックを覆う水不溶性樹脂と同様のものを挙げることができる。
具体的には、〔1〕既述の一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)と(好ましくはアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位と)を含むポリマー、又は〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー、等を挙げることができ、これらの好ましい態様も同様である。
なお、「不溶性」は、25℃の水系媒体にポリマーを混合したときに、水系媒体に溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として15質量%以下であることをいう。耐擦性をより向上し、媒体同士の色転写を抑制させる観点からは、前記溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として10質量%以下であることが好ましい。前記ポリマー〔1〕及び〔2〕の詳細については既述した通りである。
【0125】
樹脂被覆マゼンタ顔料は、分散安定性の点で、マゼンタ顔料が転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆されてなる形態が好ましい。転相乳化法については既述の通りである。
【0126】
本発明の黒色インク組成物が樹脂被覆マゼンタ顔料を含む場合、黒色インク組成物中における樹脂被覆マゼンタ顔料の含有比率としては、前記樹脂被覆CBに対して、1質量%〜70質量%の範囲であることが好ましい。樹脂被覆マゼンタ顔料の含有比率が1質量%以上であると、カーボンブラックを減量した分の色調変化(黄着色)を補って所望の色調、色濃度を維持できると共に、カーボンブラックの減量が図れるので、画像中の筋状ムラ及びメンテナンス時のノズル傷の発生防止効果が大きい。また、マゼンタ顔料を併用することによる色の視認性が下がって色写りをより効果的に抑制することができる。樹脂被覆マゼンタ顔料の含有比率が70質量%以下であると、カーボンブラックに対するマゼンタ顔料が多くなりすぎず、所望の黒色相が得られる。
上記の中でも、樹脂被覆マゼンタ顔料の含有比率は、上記同様の観点から、20質量%以上65質量%以下が、中間調を表現する際の黒色相の色味変化を抑制させる点でより好ましく、さらに色移りを抑制する点で、35質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
【0127】
前記樹脂被覆CB、前記樹脂被覆シアン顔料、及び前記樹脂被覆マゼンタ顔料に用いられる水不溶性樹脂は、一般には顔料構造に合わせて顔料ごとに互いに異なるポリマーであってもよいし、同じポリマーであってもよい。
【0128】
(樹脂被覆イエロー顔料)
本発明の黒色インク組成物の好ましい態様として、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたイエロー顔料の少なくとも一種(以下、樹脂被覆イエロー顔料ともいう。)を含有する。樹脂被覆イエロー顔料は、イエロー顔料の一部又は全部が水不溶性樹脂で被覆された粒子であり、インク組成物中に分散状態にして含有される。
【0129】
−イエロー顔料−
イエロー顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,14C,16,17,24,34,35,37,42,53,55,65,73,74,75,81,83,93,95,97,98,100,101,104,108,109,110,114,117,120,128,129,138,150,151,153,154,155,180等が挙げられる。イエロー顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる他、2種以上の固溶体を併用することができる。
【0130】
−水不溶性樹脂−
イエロー顔料を覆う水不溶性樹脂については、前記シアン顔料や前記マゼンタ顔料と同様に、前記カーボンブラックを覆う水不溶性樹脂と同様のものを挙げることができる。
具体的には、〔1〕既述の一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)(好ましくはアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位と)とを含むポリマー、又は〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー、等を挙げることができ、これらの好ましい態様も同様である。
なお、「不溶性」は、25℃の水系媒体にポリマーを混合したときに、水系媒体に溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として15質量%以下であることをいう。耐擦性をより向上し、媒体同士の色転写を抑制させる観点からは、前記溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として10質量%以下であることが好ましい。前記ポリマー〔1〕及び〔2〕の詳細については既述した通りである。
【0131】
樹脂被覆イエロー顔料は、分散安定性の点で、イエロー顔料が転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆されてなる形態が好ましい。転相乳化法については既述の通りである。
【0132】
本発明の黒色インク組成物の好ましい態様として樹脂被覆イエロー顔料を含む場合、インク組成物中における樹脂被覆イエロー顔料の含有比率としては、前記樹脂被覆CBに対して、1質量%〜70質量%の範囲であることが好ましい。樹脂被覆イエロー顔料の含有比率が1質量%以上であると、カーボンブラックを減量した分の色調変化(黄着色)を補って所望の黒濃度を維持でき、またカーボンブラックの減量により、画像中の筋状ムラ及びメンテナンス時のノズル傷の発生防止効果が期待される。また、樹脂被覆マゼンタ顔料の含有比率が70質量%以下であると、カーボンブラックに対するイエロー顔料が多くなりすぎず、所望の黒色相が得られる。
上記の中でも、樹脂被覆イエロー顔料の含有比率は、上記同様の観点から、20質量%以上65質量%以下が、中間調を表現する際の黒色相の色味変化を抑制させる点でより好ましく、さらに色移りを抑制する点で、35質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
【0133】
前記樹脂被覆CB、前記樹脂被覆シアン顔料、前記樹脂被覆マゼンタ顔料、及び樹脂被覆イエロー顔料に用いられる水不溶性樹脂は、一般には顔料構造に合わせて顔料ごとに互いに異なるポリマーであってもよいし、同じポリマーであってもよい。
【0134】
樹脂被覆シアン顔料、樹脂被覆マゼンタ顔料、及び樹脂被覆イエロー顔料の各粒子において、シアン顔料(cy)又はマゼンタ顔料(mz)又はイエロー顔料(ye)と水不溶性樹脂(r)との比率(cy:r又はmz:r又はye:r)は、質量比で100:25〜100:140が好ましく、より好ましくは100:25〜100:60である。比率(cy:r又はmz:r又はye:r)は、水不溶性樹脂が100:25の割合以上であると、これら顔料を混合した黒色インク組成物の分散安定性、及び吐出安定性に優れ、水不溶性樹脂が100:140の割合以下であると、長期に渡る吐出安定性、及びノズル部材に付着したインクの除去・洗浄が容易になる(メンテナンス性に優れる)点で有利である。
【0135】
本発明の黒インク組成物中に含まれるシアン顔料(cy)、マゼンタ顔料(mz)、及びイエロー顔料(ye)の合計量(cy+mz+ye)とカーボンブラック(cb)との比率〔cb:(cy+mz+ye)〕は、色相の点で、100:40〜100:90が好ましく、100:50〜100:80がさらに好ましく、更には加えて下記の式を満たしていることが好ましい。
mz≧cy>ye
このとき、シアン顔料とマゼンタ顔料との比率(cy:mz)は、色相とその変動を抑制する点で、100:100〜100:160が好ましく、100:120〜100:140であることが更に好ましい。
【0136】
本発明の黒色インク組成物中に含まれる全顔料の合計量(質量)は、黒色インク組成物の総量(質量)に対して、1.8質量%以上3.5質量%以下の範囲とする。顔料全体の量が1.8質量%未満であると、所望とする色濃度や色相が得られない。また、顔料全体の量が3.5質量%を超えると、画像中の筋状ムラが現れやすく、メンテナンス時のヘッドノズル部の傷の発生を回避することができない。
中でも、画像中の筋状ムラ及びノズル部の傷の発生防止効果をより高める観点から、黒色インク組成物の総量に対する全顔料の合計量は、2.0質量%以上3.3質量%以下が好ましく、2.2質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。
【0137】
(水不溶性樹脂の粒子)
本発明の黒色インク組成物は、水不溶性樹脂の粒子の少なくとも一種を含有する。水不溶性樹脂の粒子を、顔料を覆う前記水不溶性樹脂以外に含有することにより、インク組成物の記録媒体への定着性及び画像の耐擦過性をより向上させることができる。また、後述の処理液を用いて画像形成するときには、処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に凝集してインク組成物が増粘することで、インク組成物を固定化する機能を有する。
【0138】
ここでの水不溶性樹脂とは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、インクの連続吐出性及び吐出安定性が向上する観点から、その溶解量は好ましくは5g以下であり、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0139】
水不溶性の樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などの樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0140】
水不溶性の樹脂粒子としては、吐出安定性及び顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性樹脂粒子が好ましい。自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身の官能基(特に酸性基又はその塩)により、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーをいう。
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
自己分散性樹脂においては、インク組成物に含有されたときのインク定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散性樹脂であることが好ましい。
【0141】
自己分散性樹脂の乳化又は分散状態、すなわち自己分散性樹脂の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性樹脂を溶媒(例えば、水溶性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性樹脂が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0142】
また、自己分散性樹脂における安定な乳化又は分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で、少なくとも1週間安定に存在し、沈殿の発生が目視で確認できない状態であることをいう。
【0143】
また、自己分散性樹脂における乳化又は分散状態の安定性は、遠心分離による沈降の加速試験によっても確認することができる。遠心分離による、沈降の加速試験による安定性は、例えば、上記の方法により得られたポリマー粒子の水性分散物を、固形分濃度25質量%に調整した後、12000rpmで一時間遠心分離し、遠心分離後の上澄みの固形分濃度を測定することによって評価できる。
遠心分離前の固形分濃度に対する遠心分離後の固形分濃度の比が大きければ(1に近い数値であれば)、遠心分離によるポリマー粒子の沈降が生じない、すなわち、ポリマー粒子の水性分散物がより安定であることを意味する。本発明においては、遠心分離前後での固形分濃度の比が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。
【0144】
自己分散性樹脂は、分散状態としたときに水溶性を示す水溶性成分の含有量が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性成分が10質量%以下とすることで、ポリマー粒子の膨潤やポリマー粒子同士の融着を効果的に抑制し、より安定な分散状態を維持することができる。また、水性のインク組成物の粘度上昇を抑制でき、例えば水性のインク組成物をインクジェット法に適用する場合に、吐出安定性がより良好になる。
ここで水溶性成分とは、自己分散性樹脂に含有される化合物であって、自己分散性樹脂を分散状態にした場合に水に溶解する化合物をいう。前記水溶性成分は自己分散性樹脂を製造する際に、副生又は混入する水溶性の化合物である。
【0145】
水不溶性樹脂の主鎖骨格としては、特に制限はなく、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)が挙げられる。中でも、特にビニルポリマーが好ましい。
【0146】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0147】
自己分散性樹脂の粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0148】
前記「親水性の構成単位」は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0149】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0150】
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0151】
自己分散性樹脂の粒子は、自己分散性と処理液を用いて画像形成する際の処理液接触時における凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜100mgKOH/gであるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、30〜90mgKOH/gであることがより好ましく、35〜65mgKOH/gであることが特に好ましい。特に、酸価は、25mgKOH/g以上であると、自己分散性の安定性が良好になり、100mgKOH/g以下であると凝集性が向上する。
【0152】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0153】
本発明における芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0154】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0155】
前記環状脂肪族基含有モノマーは、環状脂肪族炭化水素に由来する環状脂肪族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましく、環状脂肪族基含有(メタ)アクリレートモノマー(以下、脂環式(メタ)アクリレートということがある)がより好ましい。
脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換又は置換された脂環式炭化水素基(環状脂肪族基)を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、前記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。
【0156】
脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、及びビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。
前記脂環式炭化水素基は、更に置換基を有してもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキル又はアリールカルボニル基、及びシアノ基等が挙げられる。また、脂環式炭化水素基は、さらに縮合環を形成していてもよい。本発明における脂環式炭化水素基としては、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
【0157】
脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0158】
これらのうち、自己分散性樹脂粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0159】
自己分散性樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0160】
自己分散性樹脂は、例えば、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)に由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0161】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリルエステル系モノマー;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。
【0162】
自己分散性樹脂の粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCの詳細については、既述した通りである。
【0163】
自己分散性樹脂の粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)あるいは環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)を共重合比率として自己分散性樹脂粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位、あるいはイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はアダマンチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はジシクロペンタニル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が30〜90であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0164】
以下、水不溶性樹脂粒子を形成する水不溶性樹脂の具体例を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
【0165】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
B−21:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(20/72/8)、ガラス転移温度:180℃、I/O値:0.44
B−22:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/52/8)、ガラス転移温度:160℃、I/O値:0.50
B−23:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(20/62/10/8)、ガラス転移温度:170℃、I/O値:0.44
B−24:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(20/72/8)、ガラス転移温度:160℃、I/O値:0.47
【0166】
前記水不溶性樹脂の粒子としては、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、又はこれらの混合物の粒子が好適である。
前記スチレンアクリル樹脂としては、例えば、既述の自己分散性樹脂の粒子に関して挙げた、スチレンを共重合成分として含むアクリル系樹脂が挙げられ、好ましい態様も既述の通りである。具体例としては、前述のB−06、B−09、B−13、B−14が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0167】
本発明における水不溶性樹脂の粒子として、インク組成物の連続吐出性及び吐出安定性をより高める観点から、前記ウレタン樹脂の粒子が好ましい。また、ウレタン樹脂は、アクリル系ポリマーに比べて光分解による劣化が起こり難いため、ウレタン樹脂を含むインク組成物で形成された画像は耐光性に優れる。
ウレタン樹脂の粒子としては、下記UP−1〜UP−4で表されるウレタン樹脂の少なくとも1種を含む粒子が好適である。
【0168】
【化10】

【0169】
前記UP−1〜UP−4において、Rは脂肪族基又は芳香族基である。Rは−(CH)−COOH又は−(CHCHO)−CHであり、mは1〜10の整数であり、pは1〜100の整数である。XはNH又はOである。nは任意の整数である。
【0170】
UP−1〜UP−4で表されるウレタン樹脂は、樹脂中に架橋結合が存在する態様が好ましい。このことにより、ウレタン樹脂の粒子の剪断安定性が向上する。また、UP−1〜UP−4で表されるウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の粒子の安定性が向上する観点から、酸性基を含む態様が好ましい。
【0171】
UP−1〜UP−4で表されるウレタン樹脂及びその好ましい態様を製造する方法としては、特に制限されないが、例えば、特開2006−241457号公報に記載の製造方法が好適である。すなわち、イソシアネート化合物とアニオン界面活性剤とを含むエマルションを調製し、そこに二官能性、三官能性又は多官能性の反応剤を添加して撹拌し、ウレタン樹脂を生成させる製造方法である。
【0172】
この水不溶性樹脂は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、該ポリマー(好ましくは酸価が25〜100であり、より好ましくは酸価が30〜90であり、更に好ましくは酸価が35〜65である)のカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物(分散体)として調製されたものであることが好ましい。すなわち、水不溶性樹脂粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
・工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
・工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0173】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0174】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
【0175】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。水不溶性樹脂粒子が解離性基としてアニオン性の解離基(例えばカルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性樹脂粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0176】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0177】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0178】
自己分散性樹脂の粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で10nm〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、10nm以上であると製造適性が向上し、1μm以下であると保存安定性が向上する。
また、自己分散性樹脂の粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、自己分散性樹脂の粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0179】
水不溶性樹脂の粒子のガラス転移温度(Tg)は、耐メンテナンス性と、メンテナンス後の吐出性の観点から、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。Tgの上限値は、特に制限はないが190℃が望ましい。
【0180】
黒色インク組成物は、水不溶性樹脂の粒子を、組成物中に含有される被覆された全顔料の合計量(質量)より多く含有している態様が好ましい。被覆された顔料量に対する樹脂粒子の量が増え、顔料、ひいてはカーボンブラックの黒色インク組成物(固形分)中における相対量が低くなるため、画像に生じる筋状ムラが減少し、またメンテナンス時にはノズル表面の傷の発生がより軽減される。
中でも、水不溶性樹脂の粒子の含有量の全顔料の合計量に対する比率(水不溶性樹脂の粒子量/被覆された全顔料合計量)が、1.0以上5.0以下である場合が好ましく、1.2以上4.0以下である場合がより好ましい。
【0181】
水不溶性樹脂の粒子の黒色インク組成物中における含有量としては、黒色インク組成物の総量(質量)に対して、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上9質量%以下がより好ましく、3質量%以上9質量%以下がさらに好ましい。水不溶性樹脂の粒子の含有量が0.5質量%以上であることで、相対的に顔料量が減ることになり、筋状ムラの発生が抑えられた画像を形成しやすく、メンテナンス時の傷付きが効果的に防止される。また、水不溶性樹脂の粒子の含有量が10質量%以下であることで、長期に亘る吐出安定性の点で有利である。
【0182】
(固体湿潤剤)
本発明の黒色インク組成物は、更に、固体湿潤剤の少なくとも一種を用いて構成されることが好ましい。湿潤剤とは、保水機能を有し、25℃で固体の水溶性化合物を意味する。
【0183】
固体湿潤剤としては、例えば、尿素、尿素誘導体、ピロリドン誘導体、下記の一般式1で表されるアルキルグリシン若しくはグリシルベタイン、及び糖類などが挙げられる。固体湿潤剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0184】
尿素誘導体の例としては、尿素の窒素上の水素をアルキル基、もしくはアルカノールで置換した化合物、チオ尿素、チオ尿素の窒素上の水素をアルキル基、もしくはアルカノールで置換した化合物等が挙げられ、具体的には、N−メチル尿素、N,N−ジメチル尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、又はジエチルチオ尿素等が挙げられる。
【0185】
ピロリドン誘導体の例としては、ピロリドンの窒素上の水素をアルキル基、又はアルカノールで置換した化合物が挙げられ、具体的には、2−メチルピロリドン、N−メチルピロリドン、N−オクチルピロリドン、N−ラウリルピロリドン、又はβ−ヒドロキシエチルピロリドン等が挙げられる。
【0186】
アルキルグリシンとしては、下記一般式1で表される化合物が挙げられる。一般式1において、R及びRはそれぞれ独立に直鎖又は分岐の炭素数1〜5のアルキル基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。
NCHCOOM ・・・一般式1
アルキルグリシンの例としては、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N,N,N−トリメチルグリシン、N−エチル−N−メチルグリシン、N,N−ジエチルグリシン、N−イソプロピル−N−メチルグリシン、N−イソプロピル−N−エチルグリシン、N,N−ジイソプロプルグリシン、N,N−ジブチルグリシン、N−ブチル−N−メチルグリシン、又はN−ブチル−N−エチルグリシンなどが挙げられる。この中でも、インクの起泡が少なく、吐出安定性が高く、メンテナンス性に優れる点で、N,N,N−トリメチルグリシンが好ましい。
【0187】
糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類があげられ、具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース、などが挙げられる。
ここで、多糖類とは、広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、及びセルロースなど、自然界に広く存在する物質が含まれる。
また、糖類の誘導体としては、前記糖類の還元糖(例えば、糖アルコール)及び酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸、アミノ酸、チオ糖など)が挙げられる。特に糖アルコールが好ましく、中でもマルチトール、ソルビトール又はキシリトールが好ましい。
ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(分子量350000)として市販されているものを使用することができる。
【0188】
尿素、尿素誘導体、ピロリドン誘導体、及び糖類は、水素結合性が高いため、インクの乾燥防止効果が高いほか、水不溶性樹脂のように、疎水性の高いポリマー粒子を含んだインクがノズルに固着した場合であっても、容易に洗浄、除去することができる。理由としては定かでないが、水不溶性樹脂の有する塩生成基と固体湿潤剤とが水素結合を介して相互作用し、固着したインクが再分散しやすくなったものと推測される。また、水不溶性樹脂の有する塩生成基と、上記のような固体湿潤剤との水素結合性の相互作用が、インクの泡立ち抑制に寄与するものと推測される。
【0189】
また、一般式1で表されるアルキルグリシン若しくはグリシルベタインを用いた場合も、本発明における水不溶性樹脂のように、疎水性が高いポリマー粒子を含んだインクがノズルに付着した場合であっても、容易に洗浄、除去することができる。インクの乾燥、濃縮の過程で塩析し水不溶性ポリマー粒子間の凝集が起こり、水不溶性ポリマーがノズル部材へ固着することを抑制するものと考えられる。
【0190】
上記の中でも、保湿機能が高く、インク残渣の除去がし易い点で、尿素、尿素誘導体、一般式1で表されるアルキルグリシン若しくはグリシルベタイン、マルチトール、ソルビトール、及びキシリトールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、更に尿素及び尿素誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0191】
特に、尿素及び尿素誘導体は、高いハイドロトロピック性を有しているため、水不溶性樹脂の洗浄性(再分散性)を向上させる助剤としての作用が有している点から好適に用いられる。
【0192】
固体湿潤剤の黒色インク組成物中における含有量は、インク残渣の除去性(洗浄性)の観点からは、インク全質量に対し、5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、5〜10質量%が特に好ましい。
【0193】
黒色インク組成物において、水不溶性樹脂及び全顔料に対する固体湿潤剤の含有量の比(固体湿潤剤の質量/(水不溶性樹脂+顔料)の質量)は、0.01以上であることが好ましく、0.1〜3.0がより好ましく、0.5〜2.0が最も好ましい。
【0194】
(水)
本発明の黒色インク組成物は、水を含有することができる。水の含有量は、特に制限はないが、10〜99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0195】
(その他成分)
本発明の黒色インク組成物は、上記成分に加え、必要に応じて添加剤などの他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。具体的には、特開2007−100071号公報の段落番号[0153]〜[0162]に記載のその他の添加剤などが挙げられる。
【0196】
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。表面張力調整剤の含有量は、インクジェット方式で良好に打滴するために、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。表面張力は、例えば、プレート法を用いて25℃で測定することができる。
【0197】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)やオルフィンE1010(日信化学工業(株)製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦過性をより良化することもできる。
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0198】
本発明の黒色インク組成物の粘度は、インクの付与をインクジェット方式で行なう場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて20℃で測定することができる。
また、本発明の黒色インク組成物のpHは、インク安定性と凝集速度の観点から、7.5〜10が好ましい。pHは25℃で通常用いられるpH測定装置により測定される。
【0199】
本発明の画像形成方法では、前記インク組成物(及び必要に応じて他の色相のインク組成物)と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液とを含むインクセットを用いて画像形成する形態が好ましい。インクセットは、インク組成物や処理液を一体的に若しくは独立に収容したインクカートリッジとして用いることができ、取り扱いが便利である等の点で好ましい。インクセットを含むインクカートリッジは、当該技術分野で公知であり、公知の方法を適宜用いてインクカートリッジにすることができる。
【0200】
<インクセット>
本発明のインクセットは、既述の本発明の黒色インク組成物と、該黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液と、を設けて構成されたものである。本発明のインクセットは、既述の黒色インク組成物が用いられるので、黄色味の少ない黒もしくは中間調色(例えばグレー色)の画像が得られ、形成された画像は例えばシングルパス方式で高速形成したときでも、筋状ムラや色相ムラの発生及びメンテナンスでのヘッドノズルの傷付きの発生が抑えられるので、長期に亘り色味変化の少ない無彩色の高品質画像が得られる。
なお、インク組成物の詳細については、既述の通りである。
【0201】
本発明における処理液は、前記黒色インク組成物と接触したときに凝集体を形成できる水性組成物であり、具体的には、黒色インク組成物と混合されたときに、黒色インク組成物中の着色粒子(顔料、水不溶性樹脂の粒子等)などの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含有する。また、処理液は、必要に応じて、さらに他の成分を用いて構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット法による画像形成を高速化でき、高速で画像形成してもスジ状等のムラの発生が少なく、解像度の高い画像が得られる。
【0202】
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有する。インクジェット法で吐出された前記インク組成物に処理液が混合することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0203】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体組成物が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃)が3〜5である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0204】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0205】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0206】
本発明における処理液は、上記酸性化合物に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
処理液中の酸性化合物の含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい
【0207】
また、高速凝集性を向上させる処理液の好ましい一例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液も挙げることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0208】
金属の塩の処理液中における含有量としては、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0209】
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mの範囲が好ましく、20〜45mN/mの範囲がより好ましく、25〜40mN/mの範囲がさらに好ましい。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0210】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、既述の本発明の黒色インク組成物を、記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液を、記録媒体に付与する処理液付与工程と、を設けて構成されている。本発明の画像形成方法は、必要に応じて、さらに例えば、インクの付与により形成されたインク画像を加熱して記録媒体に定着させる加熱定着工程などの他の工程を有していてもよい。
既述の黒色インク組成物が用いられるので、メンテナンス時にヘッドノズル表面の傷付きを抑えながら、長期に亘って、黄色味の少ない無彩色で筋状ムラが抑えられた高画質な画像が得られる。
【0211】
−処理液付与工程−
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液を記録媒体上に付与する。本工程で用いる処理液の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述の通りである。
【0212】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、後述するインク付与工程における通りである。
【0213】
処理液付与工程は、後述するインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程の後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インクを付与する前に、予めインク中の色材(好ましくは顔料)を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインクを付与して画像化する態様が好ましい。これにより、画像形成を高速化でき、高速化しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0214】
処理液の付与量としては、インクを凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0215】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インクが付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0216】
上記加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0217】
−インク付与工程−
インク付与工程は、記録媒体上にインクジェット法で前記インク組成物を付与して黒画像を記録する。本工程で用いるインク組成物の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述の通りである。
【0218】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、電圧の印加により機械的歪を発生する圧電素子を利用してインクを吐出させるピエゾインクジェット方式、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
なお、インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0219】
本発明におけるインクジェット法としては、ピエゾインクジェット方式が好適である。本発明の黒色インク組成物又はこれを含むインクセットとピエゾインクジェット方式とを組み合わせることで、インクの連続吐出性及び吐出安定性がより向上する。
ピエゾインクジェット方式において、圧電素子の歪形態は、撓みモード、縦モード、シアモードのいずれでもよい。圧電素子の構成及びピエゾヘッドの構造は、特に制限なく公知の技術を採用できる。
【0220】
インクジェット法により記録を行なう際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式のほか、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式を適用することができる。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができる。また、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
【0221】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、0.2〜10pl(ピコリットル)が好ましく、0.4〜5plがより好ましい。また、画像記録時におけるインクの最大総吐出量としては、10〜36ml/mの範囲が好ましく、15〜30ml/mの範囲が好ましい。
【0222】
−加熱定着工程−
本発明においては、インク付与工程後に、記録媒体上のインクを加熱定着する加熱定着工程を更に設けることが好ましい。加熱定着工程は、処理液及びインクの付与により記録された画像を加熱して記録媒体に定着させる。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の耐擦過性をより向上させることができる。そのため、本発明の画像形成方法においては、加熱定着工程を設けることが好ましい。
【0223】
加熱は、画像中の水不溶性樹脂の粒子Aの最低造膜温度(MFT)以上の温度で行なうことが好ましい。MFT以上に加熱されることで、粒子が皮膜化して画像が強化される。
加熱と共に加圧する場合、加圧時における圧力は、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0224】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等で加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0225】
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1mm〜10mmである。
【0226】
前記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(又は離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0227】
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
【0228】
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0229】
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0230】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法において画像を形成する記録媒体としては、特に制限はなく、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙やインクジェット用の専用紙などを用いることができる。
【0231】
塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、上市されているものを入手して使用できる。具体的には、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しらおい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
本発明においては、塗工紙はインク吸収の遅い材料であるが、このような材料を用いた場合でも、耐擦過性に優れ、記録媒体間での画像転写(色写り)の発生が抑制された画像を、高速に記録できるといった効果をより奏し得る点で、塗工紙が好ましい。
【実施例】
【0232】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0233】
[合成例]:水不溶性ポリマー1の合成
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加え、窒素雰囲気下で72℃に加熱した。これに、メチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.86g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応させた後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.40gを溶解した溶液を加え、80℃に昇温し、4時間加熱した。得られた反応溶液を大過剰量のヘキサンに2回再沈殿させ、析出した樹脂を乾燥させることにより、96gの水不溶性ポリマー1を得た。
得られたポリマーの組成をH−NMRで確認すると共に、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は43300であった。さらに、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、64.6mgKOH/gであった。
【0234】
(樹脂被覆カーボンブラック分散体Aの作製)
以下の組成中の成分を混合し、ビーズミルでφ0.1mmジルコニアビーズを用いて3〜6時間分散した。続いて、得られた分散体を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、カーボンブラック濃度が15.0質量%となるよう樹脂被覆カーボンブラック分散体Aを調製した。
<樹脂被覆カーボンブラック分散体Aの組成>
・カーボンブラック ・・・10.0部
(NIPEX180−IQ、degussa社製)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂)・・・5.5部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・7.7部
・イオン交換水 ・・・96.3部
【0235】
(カーボンブラック分散体Bの作製)
水溶性分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、分子量8500、酸価215mgKOH/g)5部、ジメチルアミノエタノール2.0部、及びイオン交換水78.0部を70℃で攪拌混合して溶解した。次いで、この溶液に、カーボンブラック(NIPEX180−IQ、degussa社製)15部を添加してプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散することにより、カーボンブラックの含有量が15質量%のカーボンブラック分散体Bを調製した。
【0236】
(樹脂被覆シアン顔料分散体Aの作製)
前記樹脂被覆カーボンブラック分散体Aの作製において、組成を以下に示す組成に代えたこと以外は、樹脂被覆カーボンブラック分散体Aの作製と同様にして、シアン顔料濃度が15質量%の樹脂被覆シアン顔料分散体Aを調製した。
<樹脂被覆シアン顔料分散体Aの組成>
・PB15:3顔料粉末 ・・・10.0部
(大日精化社製、フタロシアニンブルーA220)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂)・・・4.0部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・5.6部
・イオン交換水 ・・・98.7部
【0237】
(シアン顔料分散体Bの作製)
前記カーボンブラック分散体Bの作製において、カーボンブラックをPB15:3顔料粉末(大日精化社製 フタロシアニンブルーA220)に代えたこと以外は、カーボンブラック分散体Bの作製と同様にして、シアン顔料含有量が15質量%のシアン顔料分散体Bを作製した。
【0238】
(樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Aの作製)
前記樹脂被覆シアン顔料分散体Aの作製において、組成を以下に示す組成に代えたこと以外は、樹脂被覆シアン顔料分散体Aの作製と同様にして、マゼンタ顔料濃度が15質量%の樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Aを作製した。
<樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Aの組成>
・PR122顔料粉末 ・・・10.0部
(Cromophtal Jet Magenta DMQ、チバ・ジャパン社製)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂)・・・3.0部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・4.2部
・イオン交換水 ・・・102.3部
【0239】
(マゼンタ顔料分散体Bの作製)
前記シアン顔料分散体Bの作製において、PB15:3顔料粉末をPR122顔料粉末(Cromophtal Jet Magenta DMQ、チバ・ジャパン社製)に代えたこと以外は、シアン顔料分散体Bの作製と同様にして、マゼンタ顔料の含有量が15質量%のマゼンタ顔料分散体Bを作製した。
【0240】
(樹脂被覆イエロー顔料分散体Aの作製)
前記樹脂被覆シアン顔料分散体Aの作製において、組成を以下に示す組成に代えたこと以外は、樹脂被覆シアン顔料分散体Aの作製と同様にして、イエロー顔料濃度が15質量%の樹脂被覆イエロー顔料分散体Aを作製した。
<樹脂被覆イエロー顔料分散体Aの組成>
・PY74顔料粉末 ・・・10.0部
(Hansa Brilliant Yellow 5GX03、クラリアント社製)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂)・・・4.3部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・6.0部
・イオン交換水 ・・・99.2部
【0241】
(イエロー顔料分散体Bの作製)
前記シアン顔料分散体Bの作製において、PB15:3顔料粉末をPY74顔料粉末(Hansa Brilliant Yellow 5GX03、クラリアント社製)に代えたこと以外は、シアン顔料分散体Bの作製と同様にして、イエロー顔料の含有量が15質量%のイエロー顔料分散体Bを作製した。
【0242】
(自己分散性ポリマーC−1の水性分散物の調製)
機械式攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2L三口フラスコに、メチルエチルケトン540.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内の温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製)2.16gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」1.08g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。さらに、「V−601」0.54g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温してさらに2時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=20/72/8[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体は、重量平均分子量(Mw)が61000であり、酸価が52.1mgKOH/gであった。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で算出した。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて行なった。酸価は、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により求めた。
【0243】
次に、上記樹脂溶液588.2gを秤量し、イソプロパノール165g、1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液120.8mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水718gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保って溶媒を留去した。更に、反応容器内を減圧して、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を留去し、固形分26.0質量%の自己分散性ポリマーC−1(樹脂粒子)の水性分散物を得た。
【0244】
−自己分散性ポリマーC−2〜C−3の水性分散物の調製−
前記自己分散性ポリマーC−1の水性分散物の調製において、モノマーの種類と比率を下記のようにそれぞれ変更したこと以外は、自己分散性ポリマーC−1の水性分散物と同様にして、自己分散性ポリマーC−2〜C−3の水性分散物を調製した。
【0245】
・自己分散性ポリマーC−2:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸(=54/35/5/6[質量比])
上記調整において得られた共重合体は、重量平均分子量(Mw)が60000で、酸価が39.1mgKOH/gであった。水性分散物の固形分は25質量%であった。
・自己分散性ポリマーC−3:n−ブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/スチレン/アクリル酸共重合体(=30/55/10/5[質量比])
上記調整において得られた共重合体は、重量平均分子量(Mw)が58000で、酸価が38.9mgKOH/gであった。水性分散物の固形分は25質量%であった。
【0246】
自己分散性ポリマーC−1〜C−3のガラス転移温度の実測値(測定Tg)を下記表1に示す。測定Tgは、下記の方法で測定した。
<測定Tg>
固形分で0.5gの樹脂粒子の水性分散物を50℃で4時間、減圧乾燥させ、ポリマー固形分を得た。得られたポリマー固形分を用い、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によりTgを測定した。測定条件は、サンプル5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、以下の温度プロファイルで2回目の昇温時の測定データのDDSCのピークトップの値を測定Tgとした。
30℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
120℃→−50℃(50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
【0247】
【表1】

【0248】
上記のようにして得られた自己分散性ポリマーの水性分散物を用いて、下記表2に示す組成を有するインクを調液し、さらに0.2μmのメンブレンフィルターで濾過することによりインクA〜Vを作製した。表2中の各成分の添加量はいずれも、インク全量に対する量[質量%]である。
【0249】
【表2】

【0250】
前記表2中の成分の詳細は下記の通りである。
・CAB−O−JET300:キャボット社製の自己分散型カーボンブラック(固形分濃度:15質量%)
・オルフィンE1010:日信化学(株)製のノニオン系界面活性剤
・JONCRYL 586:ジョンソンポリマー社製水溶性ポリマー(固形分濃度:30質量%)
・カルナバワックス:セロゾール524、中京油脂(株)製
【0251】
(処理液の調製)
下記組成となるように各成分を混合することで、処理液を調製した。処理液の物性は、粘度2.6mPa・s、表面張力37.3mN/m、pH1.6であった。なお、表面張力の測定は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で行ない、粘度の測定は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で行なった。また、pHは、25℃にて測定した。
<組成>
・マロン酸(和光純薬工業社製) ・・・15.0質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業社製)・・・20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤)・・・ 1.0質量%
・イオン交換水 ・・・64.0質量%
【0252】
<画像記録及び評価>
−1.画像記録−
GELJET GX5000プリンターヘッド(リコー社製のフルラインヘッド)を備えた評価用プリンタを用意し、これに繋がる貯留タンクを上記で得たインクA〜Vにそれぞれ詰め替えた。記録媒体としては、特菱アート両面N(水吸収係数Ka=0.21mL/m・ms1/2;三菱製紙(株)製)を準備した。
【0253】
そして、特菱アート両面Nを、記録時の副走査方向となる所定の直線方向に500mm/秒で移動可能なステージ上に固定し、これに上記の処理液をワイヤーバーコーターで2.0g/mとなる量にて塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。その後、GELJET GX5000プリンターヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と同一平面上で直交する方向(主走査方向)に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向が75.7°傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量2.8pL、吐出周波数24kHz、解像度1200dpi×1200dpi、ステージの移動速度50mm/sの吐出条件にてライン方式で吐出し、ベタ画像を印字した。印字直後、60℃で3秒間乾燥させ、更に60℃に加熱された一対の定着ローラ間を通過させ、ニップ圧0.25MPa、ニップ幅4mmにて定着処理を実施し、画像サンプルを得た。
続いて、ステージの移動速度を50mm/sから100mm/s、250mm/sに変更し、打滴量が上記と同じになるように吐出周波数を変更した条件にて吐出し、それぞれ画像サンプルを作成した。
なお、定着ローラは、内部にハロゲンランプが内装されたSUS製の円筒体の芯金の表面がシリコーン樹脂で被覆された加熱ロールと、該加熱ローラに圧接する対向ロールとで構成されたものである。
【0254】
−2.評価−
(1)耐メンテナンス試験
前記表2に示すインクを用い、各インクについてそれぞれ画像を連続1000枚出力に相当する量を吐出した後、ヘッドノズルの表面に洗浄液を付与し、ワイピングクロス(東レ株式会社製、トレシーMKクロス)により洗浄液とともにインク汚れを取り去った。この作業を3000回繰り返した後に、ヘッド表面を顕微鏡で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:ほとんど傷は認められなかった。
B:僅かに傷が認められたが、実用上支障のない程度であった。
C:傷付きがみられ、実用上許容できない程度であった。
D:傷付きが顕著であった。
【0255】
(2)吐出性試験
前記表2に示すインクを用い、上記耐メンテナンス試験の前後において、下記の吐出性試験を行なった。
画像記録において、記録媒体に「画彩 写真仕上げPro」(富士フイルム株式会社製)を使用し、処理液の塗布とその直後の乾燥を行なわず、定着ローラーへの通過はしないで、吐出周波数12kHzで75×24000dpiの線画像を描画した。続いて、ドットアナライザDA−6000(王子計測機器株式会社製)を用いて線の中心値を計測し、各線のずれ量の標準偏差σを算出し、下記の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
A:σが2μmより小さく非常に良好であった。
B:σが2μm以上5μm未満であり実用上支障のない程度であった。
C:σが5μm以上7μm未満で、実用上許容できない程度であった。
D:σが7μm以上であった。
【0256】
(3)画像の筋ムラ
前記表2に示すインクを用い、1200dpi×1200dpiの100%ベタ画像を形成し、下記の評価基準にしたがって目視にて評価した。
<評価基準>
A:画像中に筋ムラはほとんど認識できなかった。
B:画像中に僅かな筋ムラが認められたが、実用上許容できる範囲であった。
C:画像中に筋ムラが現れ、実用上許容できない範囲であった。
D:画像中の筋ムラが顕著であった。
【0257】
(4)画像の色相変動
前記表2に示すインクを用いて1200dpi×1200dpiの10%〜100%まで10%毎のベタ状グレー画像を形成し、各グレー画像のL値(L,a,b)をX−rite社製のSpectroEyeで計測した。非画像部(記録メディア)のL値(L,a,b)も同様に計測し、それらの計測値からグレー画像と非画像部の色差(ΔEab)を計算し、下記の評価基準にしたがって評価した。また、色差(ΔEab)は、下記式により算出した。
ΔEab={(a−a+(b−b}1/2
<評価基準>
A:ΔEabが3より小さく色相変動が小さく良好であった。
B:ΔEabが3〜4の範囲であって実用上許容できる範囲であった。
C:ΔEabが5〜7の範囲であって実用上許容できない範囲であった。
D:ΔEabが7より大さく色相変動が顕著であった。
【0258】
(5)画像濃度
前記表2に示すインクを用いて1200dpi×1200dpiの100%のベタ画像を形成した。その画像の画像濃度(Dv:Visual Density)をX−rite社製のSpectroEyeで計測し,下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:Dvが1.8より大きく良好であった。
B:Dvが1.5〜1.8の範囲であって実用上許容できる範囲であった。
C:Dvが1.5より小さく実用上許容できない範囲であった。
【0259】
【表3】

【0260】
【表4】

【0261】
前記表4に示すように、本発明では、黄色味の少ないグレー画像が得られ、形成された画像は筋ムラの発生が抑えられており、画像品質に優れていた。また、メンテナンスのために拭き取る操作を行なった際に生じやすいヘッド表面の傷つきの発生も低減された。
これに対し、比較例では、グレー画像が黄色みを帯びてしまい、また画像中には筋状のムラが発生し、画像品質の点で実施例に比べて大きく劣っていた。また、メンテナンス後のヘッド表面には傷付きが認められ、黒色インク使用による耐性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックと、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料と、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料と、水不溶性樹脂の粒子と、水とを含有し、
前記カーボンブラックの含有比率が、組成物総量に対して1.0質量%以上2.0質量%以下であり、全顔料の合計量が、組成物総量に対して1.8質量%以上3.5質量%以下である黒色インク組成物。
【請求項2】
前記水不溶性樹脂の粒子の含有量が、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料の合計量より多い請求項1に記載の黒色インク組成物。
【請求項3】
前記被覆された顔料の合計量に対する前記水不溶性樹脂の粒子の含有量の比率(水不溶性樹脂の粒子量/被覆された顔料の合計量)が1.0超4.0以下である請求項2に記載の黒色インク組成物。
【請求項4】
前記水不溶性樹脂の粒子が、自己分散ポリマー粒子である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の黒色インク組成物。
【請求項5】
前記水不溶性樹脂の粒子は、Tgが100℃以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の黒色インク組成物。
【請求項6】
更に、固体湿潤剤を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の黒色インク組成物。
【請求項7】
前記固体湿潤剤が、尿素、尿素誘導体、及びこれらの混合物から選択される請求項6に記載の黒色インク組成物。
【請求項8】
更に、少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆されたイエロー顔料を含有する請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の黒色インク組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の黒色インク組成物と、
前記黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液と、
を有するインクセット。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の黒色インク組成物を、記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、
前記黒色インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液を、記録媒体に付与する処理液付与工程と、
を有する画像形成方法。
【請求項11】
前記インク付与工程は、ピエゾ式インクジェット法で黒色インク組成物を付与する請求項10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
更に、前記インク付与工程及び前記処理液付与工程を経て形成された画像を加熱して前記記録媒体に定着させる加熱定着工程を有する請求項10又は請求項11に記載の画像形成方法。


【公開番号】特開2012−72270(P2012−72270A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217823(P2010−217823)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】