説明

黒色石英ガラスおよびその製造方法並びにそれを用いた部材

【課題】 実質的に金属不純物を含まず、透明石英ガラスと同等の曲げ強度、熱膨張率、放射率等を有する遮光性黒色石英ガラスを提供し、このガラスは、光学部品、半導体製造装置用遮光性部材や赤外線熱遮蔽/放射部材として有用である。
【解決手段】 平均粒径が0.05〜1μmの結晶質炭素微粒子が0.05〜2重量%分散されてなる密度が2.15〜2.21g/cmのシリカガラスであって、厚さ1mmにおいて200〜10000nmの波長域の透過率が1%以下である黒色石英ガラスであり、このガラスは、平均粒径が0.1〜1μmで50ppm以上の水酸基を含有する非晶質シリカ粉末と平均粒径0.05〜1μmの結晶質炭素微粒子とを、炭素微粒子添加量がシリカ粉末重量に対して0.05〜2重量%となるように混合・成形後、1100℃〜1500℃で焼結することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色石英ガラスに関するものである。また、その黒色石英ガラスを用いた分光セル等の光学部品、半導体製造装置用の遮光部材、赤外線熱吸収/蓄熱部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、その紫外域から赤外域にわたる良好な光透過性や低熱膨張性を生かして分光セルなどの光学分野に用いられている。従来この分野において、局所的な遮光が必要な部位には、石英ガラスに微量の遷移金属酸化物を添加した黒色ガラスが用いられ、透明石英ガラスと熱圧着等により接合するなどして光学セルが製造されている。しかしながら近年、光学セルの微細化/薄型化が進んでおり従来の黒色ガラスでは遮光性が不足する場合が生じており、より遮光性が高く、透明石英ガラスと容易に接合できる黒色石英ガラスが求められている。
【0003】
また石英ガラスは高耐熱性、化学的高純度等の特長も有し、半導体製造用の治具などにも多く用いられている。しかしながら近年、半導体製造プロセスの熱処理工程において、赤外光を素通しする透明石英ガラスによる加熱ロスが問題となっている。また、赤外光を用いた加熱プロセスにおいて、加熱対象物以外を赤外線照射から遮蔽する部材も必要になっている。このことから、赤外線を効果的に遮蔽し、断熱性に優れ、かつ急速加熱冷却時の熱衝撃にも耐え、しかも工程汚染の原因となる金属不純物を含有しない黒色石英ガラスの開発が求められている。
【0004】
従来、シリカを主成分とする黒色ガラスとして以下のようなものが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1では、石英ガラス中に金属元素化合物を添加した黒色石英ガラスが提案されている。しかしながらこの種の黒色ガラスは遮光性が十分でない場合があり、また含有する金属成分が工程汚染を引き起こすおそれがあることから半導体製造分野に適用することは困難が伴った。
【0006】
又、特許文献2では、石英ガラス粉体と炭素形成先駆物質の混合物をアンモニアと反応させた後、発泡させて作製した相対密度の低い黒色石英ガラスが提案されている。しかしながら、このような多孔質なガラスは、本発明が目的とする用途に対して気密性や機械的強度が十分でなかった。
【0007】
更に、特許文献3では、シリカ粉末に炭素源となりうる有機結合材を添加し、熱処理により分解し炭素を生成した後、焼成により炭素をガラスネットワーク中に固溶させた黒色石英ガラスが提案されている。しかしながら、この様な炭素が固溶したオキシカーバイドガラスは硬度や高温粘性が上昇するなど通常の石英ガラスと異なった機械的、熱的物性を有することが知られている。また、熱膨張率も変化すると考えられ、通常の透明石英ガラスと接合あるいは嵌合させて用いることは困難を伴った。
【0008】
又、特許文献4には、ガラス中に体積割合で0.1%〜30%の着色粒子を分散させた着色ガラス焼結体が提案されているが、その発明の課題は、ガラスマトリックス中に埋入された着色粒子により、漏洩光を遮蔽することであり、本発明が目指しているような構造部材への応用性については定かではなかった。
【0009】
【特許文献1】特許第3156733号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第2743982号(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−281430号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003−146676号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、実質的に金属不純物を含有せず、透明石英ガラスと同等の機械的、熱的特性、言い換えれば、同等の曲げ強度、硬度、熱膨張率、熱伝導率などを有する、高遮光性黒色石英ガラス、その製造方法を提供することである。
【0011】
また別の課題は、前記黒色石英ガラスを用いて作製した分光セルなどの光学部品、半導体製造装置用の遮光性部材や赤外線熱吸収/蓄熱部材などの黒色石英ガラス製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、石英ガラス中に結晶質炭素微粒子を分散させてなる系において目標とする物性を有する黒色石英ガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の黒色石英ガラスは、シリカ重量に対して0.05〜2重量%の結晶質炭素を含有するが、その存在形態としては、平均粒径が0.05〜1μmの結晶炭素微粒子がシリカマトリックス中に固溶することなく均一に分散した構造を有している。また、当該ガラスの密度は2.15〜2.21g/cm、かつ70MPa以上の高い曲げ強度を有し、熱膨張係数が透明石英ガラスと同等の3×10−7〜9×10−7−1であることを特徴とする。
【0014】
次に本発明の黒色石英ガラスの製造方法について説明する。
【0015】
本発明の黒色石英ガラスの製造法は非晶質シリカと結晶質炭素との混合粉末を成形し、シリカと炭素を反応あるいは固溶させること無く、緻密に焼結させることに特徴がある。一般に、シリカと炭素は高温域においてCOやSiO等のガスを発生する分解反応を生じやすいことが知られているが、本発明では原料として用いるシリカ及び炭素粉末を適切に選定することでこの分解反応を抑制し緻密な焼結体を得ることを可能にした。
【0016】
本発明の黒色石英ガラスに使用される結晶質炭素微粒子としては、焼成時のシリカとの反応を抑制するために、少なくともその粒子表面層が結晶化した炭素原料を用いることが望ましい。炭素添加量はシリカ重量に対して0.05〜2重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。0.05重量%未満では十分な遮光性が得られず、2重量%を超えると焼結が阻害され、機械強度の低下やパーティクル発生の原因となったり、熱膨張率が増大するなどの弊害を生じる。炭素微粒子の平均粒径は、均質かつ緻密な焼結組織を得るため、また同一添加量でより高い光遮蔽性能を得るために、0.05〜1μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.07〜0.5μmである。平均粒径0.05μm未満の炭素粉末を用いた場合、焼結時のシリカとの反応が生じ緻密な焼結体が得にくくなり、1μmを超えると十分な遮光性を得るのに必要な炭素添加量が増加し、焼結体の機械特性を低下させる。
【0017】
本発明の黒色石英ガラスに使用する非晶質シリカ原料には、水酸基含有量の多い微粉末を用いることが好ましい。シリカ粉末中の水酸基量が多いと焼成温度を低下させる効果があり、炭素とシリカの反応を抑制し緻密な焼結体が得やすくなる。水酸基含有量としては、50ppm以上が目安である。非晶質シリカ粉の平均粒径は0.1〜1μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6μmである。0.1μm未満では粉末が嵩高くなり成形が困難になり、1μmを超えると焼結に必要な温度が上昇し、シリカと炭素を反応させることなく緻密化することが困難になる。この様なシリカ粉末は、例えば四塩化珪素の高温加水分解法で得られる合成石英ガラスや、珪石を酸水素炎中で熔融して得られる有水熔融石英ガラス、あるいは珪素のアルコキシドを加水分解した後焼成して得られる合成シリカ粉などを所望の粒径に粉砕して得ることが出来る。または、所定粒径の珪石、不定形シリカ、金属珪素などの粉末を酸水素バーナーなどの火炎中に供給して製造される、多量の水酸基を含有した球状シリカ粉を用いることも出来る。シリカ粉末の純度に関しては特に制限は無く、用途に合わせて適宜選択することが出来る。
【0018】
非晶質シリカ粉末と結晶質炭素微粒子との混合は炭素粒子を凝集の無い状態で均一に分散させることが出来れば良く、攪拌型混合機、ボールミル、ロッキングミキサー、V型混合機などの一般的な混合装置を用い、乾燥粉末の状態で混合しても良くまたスラリー状態での混合でもよい。次に、このようにして得られた混合粉末を所望の形状に成形する。成形方法としては、セラミックスの成形に通常用いられる金型プレス成形、冷間静水圧プレス法、鋳込み成形法等のいずれを用いることも可能である。
【0019】
成形体の焼成は、炭素粒子の酸化とシリカ粒子の結晶化を防ぐため、真空中あるいは不活性ガス中などの無酸素状態で行う。焼結温度としては1100〜1500℃であることが好ましく、さらに好ましくは1200〜1400℃である。1100℃未満ではシリカ粉末の焼結が十分に進まず、1500℃を越えるとシリカ粉末と炭素微粒子の反応が著しく低密度の焼結体となってしまう。また、ホットプレス法や熱間静水圧プレスなどの加圧焼結法を用いることも高密度の焼結体を得るのに有効であり、その場合も1100〜1500℃の焼結温度を選ぶことが好ましい。
【0020】
このようにして得られた黒色石英ガラスは、紫外から赤外にわたる全波長域の光に対して高い遮蔽能を有し、光学分野全般において有用である。また、極めて高い光遮蔽性能を有するのみならず、熱膨張率が透明石英ガラスとほぼ同等であり透明石英ガラスとの接合が可能であるため、石英ガラス製の光学分析用セルを作製するのに好適である。
【0021】
本発明で得られる黒色石英ガラスは金属不純物を含有せず、かつ透明石英ガラスと同等の十分な機械強度と熱衝撃耐性を有している。加えて、本黒色ガラスは高い赤外吸収率と0.85以上の高い放射率をも有している。この様な特性から、半導体製造に用いる熱処理装置の部材に好適である。例えば、ウェハー熱処理装置において、加熱用の赤外線を透過させる面以外の部分を本発明の黒色石英ガラスで構成することにより炉外に放射される熱を効率的に遮蔽し、エネルギー効率の向上と炉内温度分布の均一化が可能となる。また、赤外ランプを用いてウェハーを急速に昇温する熱処理装置において、赤外光の吸収効率が低いSiウェハーに代わり赤外線を効率的に吸収し、遠赤外線を放射あるいは熱伝導によりSiウェハーを効率的に昇温させる試料台あるいは面上発熱体として用いることが出来る。
【0022】
また、本発明で得られる黒色石英ガラスは、金属汚染を生じない炭素で着色されており、肉眼や光学センサーによる認識が容易である。半導体製造工程で用いられる石英ガラス部材の識別、位置決めなどに有用であり、自動搬送システムに対応することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、実質的に金属不純物を含有せず、透明石英ガラスと同等の機械的、熱的特性を有する高遮光性黒色石英ガラスおよびその製造方法を提供することができる。
【0024】
また、前記黒色石英ガラスを用いて作製した分光セルなどの光学部品、半導体製造装置用の遮光性部材や赤外線熱吸収/蓄熱部材などの黒色石英ガラス製品を提供することができる。
【実施例】
【0025】
本発明をさらに詳細に説明するために、以下の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
表1に示す試料は、特に記載がなければ以下の手順で製造した。石英粉を酸水素火炎中で熔融することによって作製した水酸基量が170〜200ppmである熔融石英ガラスを平均粒径が0.3μmとなるように粉砕したシリカ粉と、所定の粒径のグラファイト粉末とを、溶媒を用いずボールミル混合した。得られた混合粉末を金型プレス成形により成形し、真空雰囲気中で焼成を行った。
【0027】
表1中の試料特性は以下のように測定した。焼結体の密度はアルキメデス法により測定した。透過率は試料を厚さ1mmに加工し、厚さ方向の透過率を分光光度計を用いて測定し、200〜10000nmの波長域で最も高い数値を記載した。曲げ強度は試料を4mm×3mm×40mmに加工し、JISR1601に基づき4点曲げ法により測定した。熱膨張係数はレーザー熱膨張計により真空中で測定した。放射率は試料を50mm×50mm×2mmに加工し、210℃にて赤外線放射計により測定した。
【0028】
NO.2〜5、8、9、12、15、16、19、20では、密度は2.15〜2.21g/cmであり、厚さ1mmにおいて200〜10000nmの波長域の透過率が1%以下であり、70MPa以上の高い曲げ強度を有し、熱膨張係数が透明石英ガラスと同等の3×10−7〜9×10−7−1であり、放射率が0.85以上の黒色石英ガラスが得られた。
【0029】
NO.1では炭素添加量が少なく、十分な遮光性が得られなかった。NO.6では炭素添加量が多く、焼結が阻害され、緻密な焼結体を得ることができなかった。
【0030】
NO.7では炭素の平均粒径が小さく、シリカとの反応が生じ、緻密な焼結体が得られなかった。NO.10では炭素の平均粒径が大きく、十分な遮光性が得られなかった。
【0031】
NO.11ではシリカ原料として、気相法によって作製した平均粒径0.03μmの粉末を使用した。シリカの平均粒径が小さいため、密度の高い成形体を作製できず、焼結体には多数の気泡が残存した。NO.13ではシリカの平均粒径が大きく、緻密な焼結体が得られなかった。
【0032】
NO.14では焼結温度が低く、緻密な焼結体が得られなかった。NO.17では焼結温度が高く、シリカと炭素の反応が生じ、同じく緻密な焼結体が得られなかった。
【0033】
NO.18では炭素原料として、アモルファス炭素を用いた。シリカと炭素の反応が生じ、緻密な焼結体は得られなかった。
【0034】
NO.19ではシリカ原料として、四塩化珪素を酸水素火炎中で加水分解することによって作製した水酸基量が972ppmである合成石英ガラスを、平均粒径が0.3μmとなるように粉砕した粉末を用いた。
【0035】
NO.20ではシリカ原料として、微粉砕した珪石を酸水素バーナーの火炎中に供給して作製した平均粒径が0.3μmの球状シリカ粉末を用いた。
【0036】
NO.21ではシリカ原料として、石英粉を電気炉を用いて熔融することによって作製した水酸基量が11ppmである熔融石英ガラスを、平均粒径が0.3μmとなるように粉砕した粉末を用いた。NO.19と同焼成条件では焼結が十分に進行せず、緻密な焼結体が得られなかった。また、焼成温度を高めた場合、シリカと炭素の反応が生じ、同じく緻密な焼結体は得られなかった。
【0037】
NO.3で作製した試料と市販の透明合成石英ガラスを用いて光学分析用セルを以下の手順で作製した。黒色石英ガラスと透明石英ガラスとを所定の形状に切断後、研磨し、5kg/cmの圧力をかけながら1100℃に加熱して接合を行った。接合に際し、変形や割れ、接合むらは発生せず、光学分析用セルを作製することが可能であった。なお、NO.3及び透明石英ガラスの熱膨張係数はそれぞれ5.8×10−7−1と5.6×10−7−1であり、極めて近い数値であった。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.05〜1μmの結晶質炭素微粒子が0.05〜2重量%分散されてなる密度が2.15〜2.21g/cmのシリカガラスであって、厚さ1mmにおいて200〜10000nmの波長域の透過率が1%以下である黒色石英ガラス。
【請求項2】
曲げ強度が70MPa以上、室温〜1000℃での熱膨張係数が3×10−7〜9×10−7−1かつ0.85以上の放射率を有することを特徴とする請求項1記載の黒色石英ガラス。
【請求項3】
平均粒径が0.1〜1μmで50ppm以上の水酸基を含有する非晶質シリカ粉末と平均粒径0.05〜1μmの結晶質炭素微粒子とを、炭素微粒子の添加量がシリカ粉末重量に対して0.05〜2重量%となるように混合し、成形した後、1100℃〜1500℃の範囲で焼結させることを特徴とする請求項1または請求項2項記載の黒色石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の黒色石英ガラスを用いた分析用光学セル。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の黒色石英ガラスを用いた半導体製造装置用の遮光性部材。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の黒色石英ガラスを用いた半導体製造装置用の赤外線遮蔽部材。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の黒色石英ガラスを用いた半導体製造装置用の赤外線放射性部材。

【公開番号】特開2006−27930(P2006−27930A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206457(P2004−206457)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】