黒鉛材料
【課題】高強度かつ高密度であるとともに、加工性に優れた黒鉛材料を提供すること、及びこのような黒鉛材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
【解決手段】多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料及びその製造方法に関し、特に放電加工用電極や電子部品用治具等の精密に加工される部材に適した黒鉛材料に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材料は、化学的安定性、耐熱性、加工性等に優れていることから、放電加工用電極、電子部品のガラス封着やロウ付け用の治具等、多くの分野にわたって使用されている。近年、家電製品や自動車部品の小型化に伴い、そのダイキャスト成形やプラスチック成形に使用される金型に薄いリブや溝、細ピン、細穴等の精密加工を施すことが行われている。こうした精密な金型を作製するために、精密な加工ができる黒鉛材料からなる放電加工用電極が要求されるようになってきている。
【0003】
放電加工用電極として黒鉛材料を使用して、電極を破損することなく薄いリブ等の精密な形状に放電加工をするためには、黒鉛材料がある程度の強度を持っていることが必要である。また、加工される金型の寸法精度を高めるため、黒鉛材料が放電加工による熱、外力により変形しないことが重要である。
【0004】
このような用途に適した高強度かつ高密度の黒鉛材料としては、原料としてメソカーボンマイクロビーズを使用することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、高密度かつ高強度の黒鉛材料を製造する別の方法として、原料に特定のβレジン成分量、灰分、水分、揮発分、固定炭素、及び平均粒子直径を持つメソカーボンマイクロビーズを用いて、冷間プレスにて成形し、所定の温度で焼成及び黒鉛化処理をすることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献1及び2に記載の製造方法により得られる黒鉛材料は、高強度かつ高密度であるため、薄いリブ等の形状に加工しても折損しにくいという利点がある。
【特許文献1】特開平1−97523号公報
【特許文献2】特開平4−240022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2のような従来の黒鉛材料は、高強度かつ高密度であるため、加工時の刃物の切削抵抗が大きく、チッピングが発生しやすいという問題がある。また、刃物の切削抵抗が高いために、薄いリブ、細ピンの加工を行う場合は、反力によって黒鉛材料に反りが発生して厚み、太さの精度が低下する。さらには、エンドミルやドリルを使用してコーナーRの小さな枠の内面や底面、細い溝、深い細穴等を加工する場合も、エンドミルやドリルが反り、精度の高い加工ができないばかりか、刃物の折損の原因となっている。
【0006】
これらの問題を防止するためには、刃物による1回の切り込み量を小さくすることで原理的には可能であるが、このためには刃物の送り速度を小さくしたり、刃物の回転数を大きくするといった対策をとる必要がある。このような方法では高速回転しても芯ブレの発生しない剛性の高い高性能の加工機、刃物を用いる必要があり、加工に時間をかかる。
【0007】
さらに、従来の黒鉛材料を仕上げ加工用の放電加工用電極に用いる場合、一般に黒鉛材料はショア硬度が大きくなるにつれて電極消耗が小さくなる関係があるため、黒鉛化の温度が低いショア硬度の高い黒鉛材料が好まれていたが、ショア硬度が高い黒鉛材の場合、切削抵抗が高く、刃物の消耗も早いといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、高強度かつ高弾性率であるとともに、加工性に優れた黒鉛材料を提供すること、及びこのような黒鉛材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、特定の組織をもった黒鉛材が、薄いリブ、細ピン、狭い溝、細穴等の精密な加工において、刃物を折損させることなくかつ精度良く加工できることを見出した。すなわち、上記課題の解決手段は以下のとおりである。
【0010】
(1)多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
(2)かさ密度が1.78〜1.86g/cm3であることを特徴とする上記(1)に記載の黒鉛材料。
(3)放電加工用である上記(1)又は(2)に記載の黒鉛材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る黒鉛材料は、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であり、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布した微細構造を有しているので、高強度かつ高弾性率であるとともに、加工性に優れている。従って、本発明に係る黒鉛材料を放電加工用電極として薄いリブ等の精密加工する際にも、黒鉛材料や刃物を破損することなく精度良く加工できる。また、本発明に係る黒鉛材料は、微細な加工が可能な上に放電加工時の消耗が小さいため、微細なパターンを持った金型を容易に作成することができ、仕上げ加工における放電加工用電極としても有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る黒鉛材料の実施形態について詳細に説明する。
本発明に係る黒鉛材料は、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有している。この黒鉛材料の断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔は、6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下である。つまり、黒鉛材料の中に分布する気孔が十分に小さく、かつ、黒鉛材料の単位体積あたりに存在する気孔数が充分に多い。このため、切削時に大きな粒子単位で脱落することなく、平滑な加工面が得られる。また、黒鉛材に施される通常の加工の形状に対して気孔が非常に小さいため、粒子の脱落に起因する細ピン加工における折れ、薄いリブの切削加工における割れや穴あき等の発生を低減することができる。
【0013】
また、本発明に係る黒鉛材料は、断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下である。断面に現れる気孔の平均扁平率を0.55以下とすることにより、加工時における刃物による圧縮強度に対して黒鉛材料の弾性率が大きくなり、加工時に生じる切削屑を小さくすることができる。すなわち、刃物の切削抵抗が小さく、加工がしやすい。
【0014】
上記のような黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係は以下のメカニズムによるものと推察される。
黒鉛材料は、切削される際に、刃物の進行方向に圧縮力が働く。この時、刃物の進行に伴って蓄えられた歪みエネルギーが、破壊に必要なエネルギーを超えたときに切削される。平滑な加工面を得るためには、細かな切削粉を出しながら加工することが必要であり、大きな歪みエネルギーを蓄える前に破壊が起こることが重要である。
大きな歪みエネルギーを蓄えないためには、圧縮強度が小さく、弾性率が大きいことが重要であり、つまり、切削される粒子の直径は、圧縮強度/弾性率と正の相関があると言える。以上より、切削される粒子の直径が小さい(きめの細かい)加工面を得るためには、所定の圧縮強度のもとでは、より弾性率が大きい黒鉛材料が有利であることがわかる。
【0015】
次に、黒鉛材料の弾性率と気孔の形状との関係について説明すると、一般に黒鉛材料の弾性率は以下のKnudsenの経験式で示される。
E(P)=E(0)exp(−bP)
(E(P):弾性率、P:気孔率、b:経験定数)
経験定数bは気孔の形状に強く依存しており、気孔の形状が球形の場合には、その値が小さく、扁平回転楕円体から亀裂状の気孔形状になるに従って急激にその値が大きくなることが知られている(「新・炭素材料入門」、炭素材料学会編)。従って、弾性率を大きくするためには、その形状が丸い(扁平率が小さい)黒鉛材料が有利であることがわかる。
以上より、黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係が導かれると考えられる。すなわち、気孔の形状が丸い(すなわち、観察断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下となる)ことにより、黒鉛材料の弾性率を大きくすることができるので、きめ細かな加工面を得ることができ、加工性に優れた黒鉛材料が得られる。
【0016】
次に、圧縮強度に関しては、気孔が扁平回転楕円体や、亀裂状の気孔であっても、圧縮荷重がかかることによって気孔は潰れるように作用するため、気孔の形状は大きな影響を与えない。圧縮強度に対しては気孔率の影響の方が大きいことがわかる。
気孔率が小さいと、圧縮強度が高くなりすぎ切削されにくくなり、加工面の凹凸が大きくなる。気孔率が大きいと、圧縮強度を小さくできるものの、軟らかい黒鉛材料となるため、微細な加工を施しても、折れたり割れやすくなる。また放電加工においても消耗しやすくなる。
【0017】
黒鉛材料の気孔率と、かさ密度とは相関が高く、同一の原材料を使用し、同一の黒鉛化処理を施した場合、同一の気孔率であれば、ほぼ同一のかさ密度となる。
本発明では、主にピッチを出発原料として、ピッチコークスを経る成分や、直接炭素化、黒鉛化される成分があるものの、出発原料と黒鉛化処理温度は限られた範囲内で行われているため、本発明に係る黒鉛材料のかさ密度は、好ましい範囲が存在しその値は1.78〜1.86g/cm3である。なお、本発明におけるかさ密度は、体積、質量を測定することにより得られる。
【0018】
本発明において、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率は、黒鉛材料を電子顕微鏡等で観察することにより算出することができる。具体的には、まず黒鉛材料の切断面をCP(クロスセクションポリッシャ)法により加工する。作製した断面にフラットミリング処理(45°、3分)を施した後、FE−SEMにて観察することにより得られる。
また、撮影した画像の解析は、画像解析ソフト(Image J 1.37)を用いて2値化した後、個々の空隙(断面に現れる気孔)の面積を算出する。個々の空隙について楕円フィットを行い、その長軸、短軸の値から扁平率を算出する。
尚、扁平率とは、空隙(断面に現れる気孔)にフィットされた楕円の(長軸−短軸)/長軸のことである。
【0019】
なお、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定には、上記のようにSEMを使用することが望ましい。ミクロンオーダーの気孔の形状を判別するのに充分な解像度が得られる上、粒子部分は単一の濃度の灰色、気孔部分は気孔の深さに応じて深い気孔の場合は黒色、浅い気孔の場合は白色に表示され、明確に気孔と粒子を区別することができるからである。
【0020】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定は、樹脂埋めされていない黒鉛材料を用いることが好ましい。黒鉛材料を樹脂埋めすると、黒鉛材料内部に存在する開気孔に樹脂が封止されて、正しい気孔の個数及び形状を判別することができないからである。
【0021】
最大気孔直径(長軸)は、20μm以下であることが好ましい。最大気孔直径が20μm以下であることにより、切削時に気孔に沿ってクラックが進展するため、細ピンでは折れ、薄いリブの切削加工においては割れ、穴あきの原因となる。
最大気孔直径も前記と同様にSEMで観察した断面から測定することができる。なお、SEMの断面観察から得られた気孔の直径は、水銀圧入式ポロシメータ等で得られる気孔及び黒鉛粒子の直径とは異なる。前者は、実際の大きさが計測されるのに対し、後者は連続気孔の入口部分の直径が計測される。
【0022】
本発明に係る黒鉛材料のショア硬度は、55〜80の範囲であることが好ましい。ショア硬度が55を下回ると、放電加工時に粒子の脱落が大きくなり、電極消耗がはげしくなるため放電加工用電極には適していない。ショア硬度が80を超えると、電極の切削加工時、刃物の切削抵抗が大きくなるため、刃物の消耗が早い上に、加工時に材料が折損したりかけたりしやすくなるからである。
ショア硬度は、JIS Z2246により、測定することができる。
【0023】
本発明に係る黒鉛材料の固有抵抗値は、1000〜2300μΩcmであることが好ましい。固有抵抗は黒鉛材料のショア硬度と相関し、固有抵抗が低くなると黒鉛材料が軟らかくなる。1000μΩcm以下の場合、ショア硬度が55を下回り、電極消耗が著しくなる。この場合、細かなパターンを加工して電極として使用しても、電極の消耗がはげしくなるため、その加工精度を金型に転写することができない。固有抵抗が2300μΩcm以上の場合、放電加工用電極として使用した場合、異常放電等が発生し、被加工物の加工面に凹凸が発生しやすくなることがある。
固有抵抗値は、JIS R7222 電圧降下法により、測定することができる。
【0024】
本発明の黒鉛材料は、特に仕上げ加工用放電加工電極に好適に使用することができる。粗加工は、金型を大雑把に加工するものであり、特に細かな加工が施されることはない。本発明の黒鉛材料は、最終の仕上げ加工において必要とされる細かな精度の高いパターンの加工を施すことができる。
【0025】
次に、本発明に係る黒鉛材料の製造方法について説明する。本発明に係る黒鉛材料は、ピッチに炭素質微粉を添加し混練した後、熱処理を加えて400〜500℃で熱処理をしながら揮発分調整を行い、二次原料を得る。次に得られた二次原料を、粒径の細かい微粉を除去する機能を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粒度調整をしながら粉砕し、二次原料粉を得る。次に、冷間等方圧成形(CIP成形)により直方体に成形し、焼結炉にて約1000℃で焼成し、さらに黒鉛化炉にて約2500℃で黒鉛化処理を行い、本発明の黒鉛材料が得られる。
【0026】
本発明に使用するピッチとは、石炭系や石油系のピッチのことであり、これらの混合物であってもよい。これらの原材料のうち、石炭系のピッチを使用するのが望ましい。石炭系のピッチの場合は、光学的異方性が発達しにくく、(結晶が針状に発達しにくく)高強度で、高弾性の黒鉛材料を得ることができる。
【0027】
本発明に使用するピッチの軟化点は、50℃以下であることが望ましい。50℃以上であると、混練時の粘度が上昇し製造が非常に困難となる。
本発明に使用する炭素質微粉は、メソフェースの発達する際の核となるものであり、カーボンブラック、黒鉛微粉、生ピッチコークス微粉、仮焼ピッチコークス微粉等の炭素質のものを使用することができる。微粉のサイズとしては、5μm以下のものが望ましい。5μm以上の微粉を使用すると混練して得られた二次原料を粉砕する際の粒度分布の制御が困難となり、粒度分布の粗い側が増えるからである。ピッチへの添加量としては、3〜10%重量であることが望ましい。10重量%を超えて添加するとピッチの粘度が上昇し、製造が非常に困難となる。3重量%以下の場合にはコークスのモザイク組織が十分に発達できない。
【0028】
上記原材料の熱処理は、JIS8812で測定される揮発分が6〜12%になるよう温度、時間を調整され二次原料が得られる。揮発分が6%未満の場合には、粒子間の接着が十分に得られないため、密度の低い黒鉛材料しか得ることができない。12%以上の場合には、焼成時に内部から発生する炭化水素ガスの量が多く、割れやすい上、蓄積したガスが大きな気孔を形成する。
【0029】
上記原材料を熱処理し得られた二次原料は、粒度を制御しながら粉砕され、得られた二次原料粉からは、微粉末は取り除かれている。粉砕の方法は、内部分級機を備えた粉砕機を用いる方法や、粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントを用いる方法、粉砕機で粉砕された原材料を精密気流分級機で別個に粒度調整する方法等がある。
微粉末が含まれる二次原料粉を用いた黒鉛材料は、焼成時に発生するガスが放出されにくくなり、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0030】
二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定されるメジアン径(DP−50:50%積算直径)が5〜10μmであるが好ましい。通常粒子間に存在する気孔はシャープなエッジを持った扁平率の大きな気孔である場合が多く、粒子の大きさが大きい場合、気孔のサイズと形状とが相乗効果を示し、弾性率の低下が大きくなる。メジアン径が10μm以上である場合、弾性率が低下し本発明の黒鉛材料を得ることができない。また、メジアン径が5μm以下である場合、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0031】
また二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定される粒度分布の範囲が1μm〜80μmであることが好ましい。1μm以下の原材料が含まれると、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。80μm以上の粒子が含まれると、大きな粒子の外周部や大きな粒子どうしの界面近傍に扁平な気孔ができやすくなる上、気孔の数も少なくなり、平均断面積も低下する。
レーザー回折式粒度測定器としては、例えば、堀場製作所製LA−750を使用することができる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
1.黒鉛材料の製造
(実施例1〜2)
軟化点40℃の石炭系ピッチ95重量部にたいし、平均2μmに粉砕した仮焼コークス5重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて415℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に内部分級機を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下及び80μm以上の粉は含まれていなかった。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0034】
(比較例1)
内部分級機を持たない粉砕機で粉砕したこと以外は実施例1〜2と同様の方法で黒鉛材料を製造した。尚、製造の途中で得られた二次原料粉は、精密気流分級等の操作を行っておらず、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に80μm以上の粉は含まれていなかったが、1μm以下の粉が9.3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0035】
(比較例2)
軟化点80℃の石炭系ピッチ35重量部にたいし、平均14μmに粉砕した仮焼コークス65重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて250℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントで過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下の粉は含まれていなかったが、80μm以上の粉が約3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0036】
2. 特性評価
以下の項目を測定し、上記で得られた黒鉛材料の特性評価を行った。
(かさ密度・ショア硬度・固有抵抗値)
上記で作製した黒鉛材料からφ8×60mmテストピースを抜き、かさ密度、ショア硬度、固有抵抗を前記方法にて測定、算出した。
【0037】
(断面に現れる気孔の個数・平均面積・平均扁平率)
以下の手順で、断面に現れる気孔の個数、平均面積・平均扁平率を算出した。
(a)試料荒研磨
上記で作製したテストピースを約5mm厚の円柱状に切断し、両面をGATAN社製治具MODEL623及びSiC性耐水研磨紙#2400を用いて試料両面の整面処理を実施した。次に真鍮性の試料台に固定した。
(b)CP加工
JEOL製SM09010を使用し、加速電圧6kVでCP加工を行った。
(c)ミリング
日立ハイテク社製フラットミリング装置E−3200を使用し、加速電圧5kV、0.5mA、試料傾斜角45°、ミリング時間3分で、Arミリング処理を行った。
(d)FE−SEM観察
上記により作製した試料を日立ハイテク社製超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 S−4800を使用し加速電圧2kVで観察した。
(e)画像解析
アメリカ国立衛生研究所製解析ソフトImageJ1.37を使用し、上記で得られたSEM画像を解析した。このときの観察倍率は2000倍で、ノイズ低減処理を施した後、平面部/空隙(気孔)部の2値化処理を実施した。尚、空隙(気孔)の解析対象は、空隙(気孔)か否かの判断が可能な0.2μmを超えるものとした。
画像解析ソフト(ImageJ)で2値化することにより得られた空隙(気孔)部に対して、面積計測、最適楕円フィッティングを実施すると共に個数をカウントし、上記処理より得られた値から断面に現れる気孔の個数、平均面積、平均扁平率を算出した。
【0038】
(圧縮強度)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0039】
(弾性率)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0040】
3.性能評価試験
実施例及び比較例により得られた黒鉛材料をφ70×100mm程度の丸棒に加工した。加工は、切込深さ1mm、送り速度1mm/回転にて旋盤で行った。旋盤の回転数は120rpmとした。刃物は京セラ製TNGG160408R-A3を使用した。
こうして得られた切削屑を集め、多段の振動篩にかけ、メジアン径(DP−50:50%積算直径)を測定した。なお、多段の振動篩では、測定に使用できる篩の数が有限であるため、正確なメジアン径の数値を得ることは困難であるが、50重量%の通過した最下段の篩の目開きに対する通過量と、50重量%の通過できなかった最上段の篩の目開きに対する通過量から補間してメジアン径の値を得た。得られたDP−50の値より黒鉛材料の加工性を評価した。その値の小さい方が加工性に優れており、カケ、チッピングが少ないと判断される。実施例及び比較例の加工性の評価結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
表2に示すように、本発明に範囲に含まれる実施例1及び2の黒鉛材料は、比較例1及び2と比較して切削屑が小さいので、より精密な加工が可能であり、加工性に優れていることがわかる。
また、図5a〜c及び図6a〜cに示す断面写真から、本発明に係る黒鉛材料は比較的サイズが小さい丸い形状の気孔が均一に多数分布しているのがわかる。これに対し、図7a〜c及び図8a〜cに示す比較例の黒鉛材料は、気孔が丸いものが少なく、比較的大きなものが多く存在していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、微細な加工を施してもカケ、チッピング等を起こしにくく、微細なパターン、細穴、ピン、リブ等を持った放電加工用電極や、電子部品用治具等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】実施例1において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図1b】実施例1において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図2a】実施例2において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図2b】実施例2において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図3a】比較例1において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図3b】比較例1において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図4a】比較例2において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図4b】比較例2において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図5a】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図5b】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図5c】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図6a】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図6b】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図6c】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図7a】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図7b】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図7c】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図8a】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図8b】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図8c】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料及びその製造方法に関し、特に放電加工用電極や電子部品用治具等の精密に加工される部材に適した黒鉛材料に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材料は、化学的安定性、耐熱性、加工性等に優れていることから、放電加工用電極、電子部品のガラス封着やロウ付け用の治具等、多くの分野にわたって使用されている。近年、家電製品や自動車部品の小型化に伴い、そのダイキャスト成形やプラスチック成形に使用される金型に薄いリブや溝、細ピン、細穴等の精密加工を施すことが行われている。こうした精密な金型を作製するために、精密な加工ができる黒鉛材料からなる放電加工用電極が要求されるようになってきている。
【0003】
放電加工用電極として黒鉛材料を使用して、電極を破損することなく薄いリブ等の精密な形状に放電加工をするためには、黒鉛材料がある程度の強度を持っていることが必要である。また、加工される金型の寸法精度を高めるため、黒鉛材料が放電加工による熱、外力により変形しないことが重要である。
【0004】
このような用途に適した高強度かつ高密度の黒鉛材料としては、原料としてメソカーボンマイクロビーズを使用することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、高密度かつ高強度の黒鉛材料を製造する別の方法として、原料に特定のβレジン成分量、灰分、水分、揮発分、固定炭素、及び平均粒子直径を持つメソカーボンマイクロビーズを用いて、冷間プレスにて成形し、所定の温度で焼成及び黒鉛化処理をすることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献1及び2に記載の製造方法により得られる黒鉛材料は、高強度かつ高密度であるため、薄いリブ等の形状に加工しても折損しにくいという利点がある。
【特許文献1】特開平1−97523号公報
【特許文献2】特開平4−240022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2のような従来の黒鉛材料は、高強度かつ高密度であるため、加工時の刃物の切削抵抗が大きく、チッピングが発生しやすいという問題がある。また、刃物の切削抵抗が高いために、薄いリブ、細ピンの加工を行う場合は、反力によって黒鉛材料に反りが発生して厚み、太さの精度が低下する。さらには、エンドミルやドリルを使用してコーナーRの小さな枠の内面や底面、細い溝、深い細穴等を加工する場合も、エンドミルやドリルが反り、精度の高い加工ができないばかりか、刃物の折損の原因となっている。
【0006】
これらの問題を防止するためには、刃物による1回の切り込み量を小さくすることで原理的には可能であるが、このためには刃物の送り速度を小さくしたり、刃物の回転数を大きくするといった対策をとる必要がある。このような方法では高速回転しても芯ブレの発生しない剛性の高い高性能の加工機、刃物を用いる必要があり、加工に時間をかかる。
【0007】
さらに、従来の黒鉛材料を仕上げ加工用の放電加工用電極に用いる場合、一般に黒鉛材料はショア硬度が大きくなるにつれて電極消耗が小さくなる関係があるため、黒鉛化の温度が低いショア硬度の高い黒鉛材料が好まれていたが、ショア硬度が高い黒鉛材の場合、切削抵抗が高く、刃物の消耗も早いといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、高強度かつ高弾性率であるとともに、加工性に優れた黒鉛材料を提供すること、及びこのような黒鉛材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、特定の組織をもった黒鉛材が、薄いリブ、細ピン、狭い溝、細穴等の精密な加工において、刃物を折損させることなくかつ精度良く加工できることを見出した。すなわち、上記課題の解決手段は以下のとおりである。
【0010】
(1)多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
(2)かさ密度が1.78〜1.86g/cm3であることを特徴とする上記(1)に記載の黒鉛材料。
(3)放電加工用である上記(1)又は(2)に記載の黒鉛材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る黒鉛材料は、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であり、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布した微細構造を有しているので、高強度かつ高弾性率であるとともに、加工性に優れている。従って、本発明に係る黒鉛材料を放電加工用電極として薄いリブ等の精密加工する際にも、黒鉛材料や刃物を破損することなく精度良く加工できる。また、本発明に係る黒鉛材料は、微細な加工が可能な上に放電加工時の消耗が小さいため、微細なパターンを持った金型を容易に作成することができ、仕上げ加工における放電加工用電極としても有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る黒鉛材料の実施形態について詳細に説明する。
本発明に係る黒鉛材料は、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有している。この黒鉛材料の断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔は、6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下である。つまり、黒鉛材料の中に分布する気孔が十分に小さく、かつ、黒鉛材料の単位体積あたりに存在する気孔数が充分に多い。このため、切削時に大きな粒子単位で脱落することなく、平滑な加工面が得られる。また、黒鉛材に施される通常の加工の形状に対して気孔が非常に小さいため、粒子の脱落に起因する細ピン加工における折れ、薄いリブの切削加工における割れや穴あき等の発生を低減することができる。
【0013】
また、本発明に係る黒鉛材料は、断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下である。断面に現れる気孔の平均扁平率を0.55以下とすることにより、加工時における刃物による圧縮強度に対して黒鉛材料の弾性率が大きくなり、加工時に生じる切削屑を小さくすることができる。すなわち、刃物の切削抵抗が小さく、加工がしやすい。
【0014】
上記のような黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係は以下のメカニズムによるものと推察される。
黒鉛材料は、切削される際に、刃物の進行方向に圧縮力が働く。この時、刃物の進行に伴って蓄えられた歪みエネルギーが、破壊に必要なエネルギーを超えたときに切削される。平滑な加工面を得るためには、細かな切削粉を出しながら加工することが必要であり、大きな歪みエネルギーを蓄える前に破壊が起こることが重要である。
大きな歪みエネルギーを蓄えないためには、圧縮強度が小さく、弾性率が大きいことが重要であり、つまり、切削される粒子の直径は、圧縮強度/弾性率と正の相関があると言える。以上より、切削される粒子の直径が小さい(きめの細かい)加工面を得るためには、所定の圧縮強度のもとでは、より弾性率が大きい黒鉛材料が有利であることがわかる。
【0015】
次に、黒鉛材料の弾性率と気孔の形状との関係について説明すると、一般に黒鉛材料の弾性率は以下のKnudsenの経験式で示される。
E(P)=E(0)exp(−bP)
(E(P):弾性率、P:気孔率、b:経験定数)
経験定数bは気孔の形状に強く依存しており、気孔の形状が球形の場合には、その値が小さく、扁平回転楕円体から亀裂状の気孔形状になるに従って急激にその値が大きくなることが知られている(「新・炭素材料入門」、炭素材料学会編)。従って、弾性率を大きくするためには、その形状が丸い(扁平率が小さい)黒鉛材料が有利であることがわかる。
以上より、黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係が導かれると考えられる。すなわち、気孔の形状が丸い(すなわち、観察断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下となる)ことにより、黒鉛材料の弾性率を大きくすることができるので、きめ細かな加工面を得ることができ、加工性に優れた黒鉛材料が得られる。
【0016】
次に、圧縮強度に関しては、気孔が扁平回転楕円体や、亀裂状の気孔であっても、圧縮荷重がかかることによって気孔は潰れるように作用するため、気孔の形状は大きな影響を与えない。圧縮強度に対しては気孔率の影響の方が大きいことがわかる。
気孔率が小さいと、圧縮強度が高くなりすぎ切削されにくくなり、加工面の凹凸が大きくなる。気孔率が大きいと、圧縮強度を小さくできるものの、軟らかい黒鉛材料となるため、微細な加工を施しても、折れたり割れやすくなる。また放電加工においても消耗しやすくなる。
【0017】
黒鉛材料の気孔率と、かさ密度とは相関が高く、同一の原材料を使用し、同一の黒鉛化処理を施した場合、同一の気孔率であれば、ほぼ同一のかさ密度となる。
本発明では、主にピッチを出発原料として、ピッチコークスを経る成分や、直接炭素化、黒鉛化される成分があるものの、出発原料と黒鉛化処理温度は限られた範囲内で行われているため、本発明に係る黒鉛材料のかさ密度は、好ましい範囲が存在しその値は1.78〜1.86g/cm3である。なお、本発明におけるかさ密度は、体積、質量を測定することにより得られる。
【0018】
本発明において、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率は、黒鉛材料を電子顕微鏡等で観察することにより算出することができる。具体的には、まず黒鉛材料の切断面をCP(クロスセクションポリッシャ)法により加工する。作製した断面にフラットミリング処理(45°、3分)を施した後、FE−SEMにて観察することにより得られる。
また、撮影した画像の解析は、画像解析ソフト(Image J 1.37)を用いて2値化した後、個々の空隙(断面に現れる気孔)の面積を算出する。個々の空隙について楕円フィットを行い、その長軸、短軸の値から扁平率を算出する。
尚、扁平率とは、空隙(断面に現れる気孔)にフィットされた楕円の(長軸−短軸)/長軸のことである。
【0019】
なお、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定には、上記のようにSEMを使用することが望ましい。ミクロンオーダーの気孔の形状を判別するのに充分な解像度が得られる上、粒子部分は単一の濃度の灰色、気孔部分は気孔の深さに応じて深い気孔の場合は黒色、浅い気孔の場合は白色に表示され、明確に気孔と粒子を区別することができるからである。
【0020】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定は、樹脂埋めされていない黒鉛材料を用いることが好ましい。黒鉛材料を樹脂埋めすると、黒鉛材料内部に存在する開気孔に樹脂が封止されて、正しい気孔の個数及び形状を判別することができないからである。
【0021】
最大気孔直径(長軸)は、20μm以下であることが好ましい。最大気孔直径が20μm以下であることにより、切削時に気孔に沿ってクラックが進展するため、細ピンでは折れ、薄いリブの切削加工においては割れ、穴あきの原因となる。
最大気孔直径も前記と同様にSEMで観察した断面から測定することができる。なお、SEMの断面観察から得られた気孔の直径は、水銀圧入式ポロシメータ等で得られる気孔及び黒鉛粒子の直径とは異なる。前者は、実際の大きさが計測されるのに対し、後者は連続気孔の入口部分の直径が計測される。
【0022】
本発明に係る黒鉛材料のショア硬度は、55〜80の範囲であることが好ましい。ショア硬度が55を下回ると、放電加工時に粒子の脱落が大きくなり、電極消耗がはげしくなるため放電加工用電極には適していない。ショア硬度が80を超えると、電極の切削加工時、刃物の切削抵抗が大きくなるため、刃物の消耗が早い上に、加工時に材料が折損したりかけたりしやすくなるからである。
ショア硬度は、JIS Z2246により、測定することができる。
【0023】
本発明に係る黒鉛材料の固有抵抗値は、1000〜2300μΩcmであることが好ましい。固有抵抗は黒鉛材料のショア硬度と相関し、固有抵抗が低くなると黒鉛材料が軟らかくなる。1000μΩcm以下の場合、ショア硬度が55を下回り、電極消耗が著しくなる。この場合、細かなパターンを加工して電極として使用しても、電極の消耗がはげしくなるため、その加工精度を金型に転写することができない。固有抵抗が2300μΩcm以上の場合、放電加工用電極として使用した場合、異常放電等が発生し、被加工物の加工面に凹凸が発生しやすくなることがある。
固有抵抗値は、JIS R7222 電圧降下法により、測定することができる。
【0024】
本発明の黒鉛材料は、特に仕上げ加工用放電加工電極に好適に使用することができる。粗加工は、金型を大雑把に加工するものであり、特に細かな加工が施されることはない。本発明の黒鉛材料は、最終の仕上げ加工において必要とされる細かな精度の高いパターンの加工を施すことができる。
【0025】
次に、本発明に係る黒鉛材料の製造方法について説明する。本発明に係る黒鉛材料は、ピッチに炭素質微粉を添加し混練した後、熱処理を加えて400〜500℃で熱処理をしながら揮発分調整を行い、二次原料を得る。次に得られた二次原料を、粒径の細かい微粉を除去する機能を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粒度調整をしながら粉砕し、二次原料粉を得る。次に、冷間等方圧成形(CIP成形)により直方体に成形し、焼結炉にて約1000℃で焼成し、さらに黒鉛化炉にて約2500℃で黒鉛化処理を行い、本発明の黒鉛材料が得られる。
【0026】
本発明に使用するピッチとは、石炭系や石油系のピッチのことであり、これらの混合物であってもよい。これらの原材料のうち、石炭系のピッチを使用するのが望ましい。石炭系のピッチの場合は、光学的異方性が発達しにくく、(結晶が針状に発達しにくく)高強度で、高弾性の黒鉛材料を得ることができる。
【0027】
本発明に使用するピッチの軟化点は、50℃以下であることが望ましい。50℃以上であると、混練時の粘度が上昇し製造が非常に困難となる。
本発明に使用する炭素質微粉は、メソフェースの発達する際の核となるものであり、カーボンブラック、黒鉛微粉、生ピッチコークス微粉、仮焼ピッチコークス微粉等の炭素質のものを使用することができる。微粉のサイズとしては、5μm以下のものが望ましい。5μm以上の微粉を使用すると混練して得られた二次原料を粉砕する際の粒度分布の制御が困難となり、粒度分布の粗い側が増えるからである。ピッチへの添加量としては、3〜10%重量であることが望ましい。10重量%を超えて添加するとピッチの粘度が上昇し、製造が非常に困難となる。3重量%以下の場合にはコークスのモザイク組織が十分に発達できない。
【0028】
上記原材料の熱処理は、JIS8812で測定される揮発分が6〜12%になるよう温度、時間を調整され二次原料が得られる。揮発分が6%未満の場合には、粒子間の接着が十分に得られないため、密度の低い黒鉛材料しか得ることができない。12%以上の場合には、焼成時に内部から発生する炭化水素ガスの量が多く、割れやすい上、蓄積したガスが大きな気孔を形成する。
【0029】
上記原材料を熱処理し得られた二次原料は、粒度を制御しながら粉砕され、得られた二次原料粉からは、微粉末は取り除かれている。粉砕の方法は、内部分級機を備えた粉砕機を用いる方法や、粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントを用いる方法、粉砕機で粉砕された原材料を精密気流分級機で別個に粒度調整する方法等がある。
微粉末が含まれる二次原料粉を用いた黒鉛材料は、焼成時に発生するガスが放出されにくくなり、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0030】
二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定されるメジアン径(DP−50:50%積算直径)が5〜10μmであるが好ましい。通常粒子間に存在する気孔はシャープなエッジを持った扁平率の大きな気孔である場合が多く、粒子の大きさが大きい場合、気孔のサイズと形状とが相乗効果を示し、弾性率の低下が大きくなる。メジアン径が10μm以上である場合、弾性率が低下し本発明の黒鉛材料を得ることができない。また、メジアン径が5μm以下である場合、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0031】
また二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定される粒度分布の範囲が1μm〜80μmであることが好ましい。1μm以下の原材料が含まれると、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。80μm以上の粒子が含まれると、大きな粒子の外周部や大きな粒子どうしの界面近傍に扁平な気孔ができやすくなる上、気孔の数も少なくなり、平均断面積も低下する。
レーザー回折式粒度測定器としては、例えば、堀場製作所製LA−750を使用することができる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
1.黒鉛材料の製造
(実施例1〜2)
軟化点40℃の石炭系ピッチ95重量部にたいし、平均2μmに粉砕した仮焼コークス5重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて415℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に内部分級機を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下及び80μm以上の粉は含まれていなかった。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0034】
(比較例1)
内部分級機を持たない粉砕機で粉砕したこと以外は実施例1〜2と同様の方法で黒鉛材料を製造した。尚、製造の途中で得られた二次原料粉は、精密気流分級等の操作を行っておらず、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に80μm以上の粉は含まれていなかったが、1μm以下の粉が9.3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0035】
(比較例2)
軟化点80℃の石炭系ピッチ35重量部にたいし、平均14μmに粉砕した仮焼コークス65重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて250℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントで過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下の粉は含まれていなかったが、80μm以上の粉が約3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0036】
2. 特性評価
以下の項目を測定し、上記で得られた黒鉛材料の特性評価を行った。
(かさ密度・ショア硬度・固有抵抗値)
上記で作製した黒鉛材料からφ8×60mmテストピースを抜き、かさ密度、ショア硬度、固有抵抗を前記方法にて測定、算出した。
【0037】
(断面に現れる気孔の個数・平均面積・平均扁平率)
以下の手順で、断面に現れる気孔の個数、平均面積・平均扁平率を算出した。
(a)試料荒研磨
上記で作製したテストピースを約5mm厚の円柱状に切断し、両面をGATAN社製治具MODEL623及びSiC性耐水研磨紙#2400を用いて試料両面の整面処理を実施した。次に真鍮性の試料台に固定した。
(b)CP加工
JEOL製SM09010を使用し、加速電圧6kVでCP加工を行った。
(c)ミリング
日立ハイテク社製フラットミリング装置E−3200を使用し、加速電圧5kV、0.5mA、試料傾斜角45°、ミリング時間3分で、Arミリング処理を行った。
(d)FE−SEM観察
上記により作製した試料を日立ハイテク社製超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 S−4800を使用し加速電圧2kVで観察した。
(e)画像解析
アメリカ国立衛生研究所製解析ソフトImageJ1.37を使用し、上記で得られたSEM画像を解析した。このときの観察倍率は2000倍で、ノイズ低減処理を施した後、平面部/空隙(気孔)部の2値化処理を実施した。尚、空隙(気孔)の解析対象は、空隙(気孔)か否かの判断が可能な0.2μmを超えるものとした。
画像解析ソフト(ImageJ)で2値化することにより得られた空隙(気孔)部に対して、面積計測、最適楕円フィッティングを実施すると共に個数をカウントし、上記処理より得られた値から断面に現れる気孔の個数、平均面積、平均扁平率を算出した。
【0038】
(圧縮強度)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0039】
(弾性率)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0040】
3.性能評価試験
実施例及び比較例により得られた黒鉛材料をφ70×100mm程度の丸棒に加工した。加工は、切込深さ1mm、送り速度1mm/回転にて旋盤で行った。旋盤の回転数は120rpmとした。刃物は京セラ製TNGG160408R-A3を使用した。
こうして得られた切削屑を集め、多段の振動篩にかけ、メジアン径(DP−50:50%積算直径)を測定した。なお、多段の振動篩では、測定に使用できる篩の数が有限であるため、正確なメジアン径の数値を得ることは困難であるが、50重量%の通過した最下段の篩の目開きに対する通過量と、50重量%の通過できなかった最上段の篩の目開きに対する通過量から補間してメジアン径の値を得た。得られたDP−50の値より黒鉛材料の加工性を評価した。その値の小さい方が加工性に優れており、カケ、チッピングが少ないと判断される。実施例及び比較例の加工性の評価結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
表2に示すように、本発明に範囲に含まれる実施例1及び2の黒鉛材料は、比較例1及び2と比較して切削屑が小さいので、より精密な加工が可能であり、加工性に優れていることがわかる。
また、図5a〜c及び図6a〜cに示す断面写真から、本発明に係る黒鉛材料は比較的サイズが小さい丸い形状の気孔が均一に多数分布しているのがわかる。これに対し、図7a〜c及び図8a〜cに示す比較例の黒鉛材料は、気孔が丸いものが少なく、比較的大きなものが多く存在していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、微細な加工を施してもカケ、チッピング等を起こしにくく、微細なパターン、細穴、ピン、リブ等を持った放電加工用電極や、電子部品用治具等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】実施例1において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図1b】実施例1において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図2a】実施例2において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図2b】実施例2において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図3a】比較例1において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図3b】比較例1において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図4a】比較例2において使用した2次原料粉の粒度分布のグラフである。
【図4b】比較例2において使用した2次原料粉の粒度分布の数値である。
【図5a】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図5b】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図5c】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図6a】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図6b】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図6c】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図7a】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図7b】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図7c】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図8a】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図8b】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図8c】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
【請求項2】
かさ密度が1.78〜1.86g/cm3であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料。
【請求項3】
放電加工用である請求項1又は2に記載の黒鉛材料。
【請求項1】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料であって、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下であることを特徴とする黒鉛材料。
【請求項2】
かさ密度が1.78〜1.86g/cm3であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料。
【請求項3】
放電加工用である請求項1又は2に記載の黒鉛材料。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【公開番号】特開2008−303108(P2008−303108A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151661(P2007−151661)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
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