説明

(メタ)アクリル系重合体の製造方法

【課題】ラクトン環構造の含有率が高い(メタ)アクリル系重合体の製造方法において、得られる重合体の溶媒への不溶化を抑制するとともに、成形性に優れる(メタ)アクリル系重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、一般式(1)で表される単量体:25〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2〜40質量%、および、メタクリル酸メチルを含有する残部からなる単量体混合物を重合させることを特徴とする。


[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル系重合体の製造方法に関するものであり、より詳細には、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表される(メタ)アクリル系重合体は、透明性、表面光沢、耐候性に優れ、また、機械的強度、成形加工性、表面硬度のバランスがとれているため、光学材料として、特に光学フィルムとして好適に使用されている。しかしながら、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は100℃前後であることから、耐熱性が要求される分野での使用は困難である。特に、液晶表示装置、プラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイなどの表示装置関連の光学部材として(メタ)アクリル系重合体を使用する場合には、耐熱性が不足し、寸法変化や表示むらなどが生じる。そこで、(メタ)アクリル系重合体の耐熱性および表面硬度を改良するために、(メタ)アクリル系重合体分子鎖にラクトン環構造を導入することが検討されている(特許文献1〜6)。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系重合体する製造方法には、一般に、メタクリル酸メチルとラクトン環形成性単量体とを重合溶媒中で共重合する工程、得られた共重合体を脱アルコール反応(環化縮合反応)して、分子鎖にラクトン環構造を形成させる環化縮合工程、得られた重合体混合溶液から、重合溶媒、環化縮合によって副生したアルコールなどを除去する脱揮工程が含まれる。
【特許文献1】特開2000−230016号公報
【特許文献2】特開2001−151814号公報
【特許文献3】特開2002−60424号公報
【特許文献4】特開2005−146084号公報
【特許文献5】特開2006−96960号公報
【特許文献6】特開2006−171464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(メタ)アクリル系重合体の耐熱性や表面硬度を向上するために、ラクトン環形成性単量体の含有率を高くすると、重合体を脱アルコール化する際に重合体の重合溶媒への溶解性が低下する。その結果、(メタ)アクリル系重合体が不溶化して溶媒から分離し、ベントタイプ押出機などで重合溶媒を脱揮する工程に送液する際に送液量が不安定になり、脱揮時にベントアップが多発し安定した運転ができなかったり、あるいは、配管内に不溶化した(メタ)アクリル系重合体がつまるという問題が生じる。このような問題は、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体を工業的に生産していく上で重要な課題である。さらに、(メタ)アクリル系重合体分子鎖中のラクトン環構造の含有率が高くなると、流動性が低下してフィルムへの成形が難しくなるという問題が生じる。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラクトン環構造の含有率が高い(メタ)アクリル系重合体の製造方法において、得られる重合体の溶媒への不溶化を抑制するとともに、成形性に優れる(メタ)アクリル系重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することのできた本発明の(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、一般式(1)で表される単量体(以下、単に「ラクトン環形成性単量体」と称する場合がある):25質量%〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2質量%〜40質量%、および、メタクリル酸メチルを含有する残部からなる単量体混合物を重合させることを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
【0008】
すなわち、本発明は、メタクリル酸メチルとラクトン環形成性単量体に加えて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)を2質量%〜40質量%含有する単量体混合物を用いれば、得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の重合溶媒への不溶化が抑制され、また、得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体が、成形性にも優れることを見出したところに要旨がある。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)としては、メタクリル酸ブチルが好適である。前記ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、重合により得られた重合体を脱アルコール反応させて、重合体の分子鎖にラクトン環構造を形成することにより得ることが好ましい。また、前記重合は、芳香族系炭化水素溶媒中で行うことが好ましい態様である。本発明では、ラクトン環形成性単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)とを含有し、残部がメタクリル酸メチルのみからなる単量体混合物を重合することも好ましい態様である。
【0009】
本発明において「(メタ)アクリル系重合体」という用語は、アクリル系重合体、メタクリル系重合体、または、アクリル系重合体とメタクリル系重合体の混合物の総称として使用し、「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸、メタクリル酸、または、アクリル酸とメタクリル酸の混合物の総称として使用する。(メタ)アクリル酸エステルについても同様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラクトン環構造の含有率が高い(メタ)アクリル系重合体の製造方法において、得られる重合体の溶媒への不溶化を抑制するとともに、成形性に優れる(メタ)アクリル系重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、一般式(1)で表される単量体:25〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2〜40質量%、および、メタクリル酸メチルを含有する残部からなる単量体混合物を重合させることを特徴とする。
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20(好ましくは、炭素数1〜4)の有機残基を表す]
【0014】
まず、本発明において使用する前記一般式(1)で表される単量体について説明する。前記一般式(1)で表される単量体は、重合体にラクトン環を形成するためのラクトン環形成性官能基を導入するためのものであり、ヒドロキシル基とエステル基とを有する。
【0015】
前記一般式(1)で表されるラクトン環形成性単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0016】
単量体混合物に含有される一般式(1)で表される単量体の含有率は、25質量%以上、27.5質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以下、37.5質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0017】
単量体混合物に含有される一般式(1)で表される単量体の含有率が低すぎると、得られる(メタ)アクリル系重合体の耐熱性が不足する傾向があり、含有率が高すぎると、重合反応時またはラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られたフィルムの可撓性が低下することがあるからである。
【0018】
次に、本発明で使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)について説明する。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、および、アルキル鎖の炭素数が2〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル鎖の炭素数が3〜8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル鎖の炭素数が4〜6個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。アルキル基の炭素数を多くすることによって、得られる重合体の溶媒への不溶化を好適に抑制することができ、アルキル基の炭素数を少なくすることによって、(メタ)アクリル系重合体中への共重合性が高くなる。
【0019】
前記アルキル鎖の炭素数が2〜18個のアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル;または、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられる。これらのエステル基を有する単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、得られる重合体の溶媒への不溶化を好適に抑制できるという観点から、メタクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0020】
単量体混合物に含有される前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)の含有率は、2質量%以上、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、40質量%以下、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0021】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)の含有率が低すぎると、得られる重合体が重合溶媒に不溶化する傾向が強まり、含有率が高すぎると、所望の耐熱性が得られなくなる場合があるからである。
【0022】
本発明において重合させる単量体混合物は、一般式(1)で表される単量体:25〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2〜40質量%、および、メタクリル酸メチルを含有する残部からなる。
【0023】
前記残部は、メタクリル酸メチルのみからなることが好ましい態様であるが、必要に応じて、下記一般式(2)で表される単量体、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、または、紫外線吸収性重合性単量体などを含有してもよい。
【0024】
【化3】

【0025】
[式中、R3は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、または、−CO−R4基を表し、Acはアセチル基を表し、R4は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
【0026】
前記一般式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。特に、前記一般式(2)中、Xがアリール基である単量体としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、オクタクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンを用いることが特に好ましい。
【0027】
前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
【0028】
前記紫外線吸収性重合性単量体としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー、トリアジン系紫外線吸収性モノマーなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーとしては、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
【0029】
次に、上述した単量体混合物の重合について説明する。
【0030】
重合温度や重合時間は、使用する単量体の割合に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、好ましくは、重合温度が0℃〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80℃〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0031】
本発明では、単量体混合物の重合を溶媒中で行うことが好ましい態様である。前記重合溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられ、重合体が着色しない点で、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の溶剤を使用することが好ましく、トルエンを使用することがより好ましい。
【0032】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0033】
重合を行う際には、重合反応混合物中に生成する重合体の濃度を70質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましく、55質量%以下とすることがさらに好ましい。重合体の濃度を70質量%以下に制御することによって、重合反応混合物の粘度が低くなるので、取り扱いが容易になる。一方、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。
【0034】
重合溶媒を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
【0035】
添加する重合溶媒としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶媒と同じ種類の溶媒であってもよいし、異なる種類の溶媒であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶媒を用いることが好ましい。また、添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0036】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶媒が含まれているが、溶媒を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶媒を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶媒を再添加してもよい。溶媒添加による重合反応混合物の温度低下を引き起こさない点や、重合体の濃度低下による生産性を下げない点で、重合終了後には溶媒を添加しない方がより好ましい。
【0037】
重合工程で得られた重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。重合工程で得られた重合体は、続くラクトン環化縮合工程において、脱アルコール反応されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
【0038】
重合体にラクトン環構造を導入するための脱アルコール反応は、加熱により、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0039】
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、エステル交換により形成された環構造として、好ましくは、下記式(3):
【0040】
【化4】

【0041】
[式中、R5、R6およびR7は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20(好ましくは、炭素数1〜4)の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]で示されるラクトン環構造を有する。
【0042】
重合体を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
【0043】
環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0044】
あるいは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。有機リン化合物を触媒として用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができると共に、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0045】
使用可能な有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
【0046】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
【0047】
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
【0048】
環化縮合反応を溶媒の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、環化縮合反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0049】
脱揮工程とは、溶媒、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
【0050】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0051】
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは200℃〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0052】
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931hPa〜1.33hPa(700mmHg〜1mmHg)、より好ましくは798hPa〜66.5hPa(600mmHg〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0053】
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0054】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは200℃〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0055】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931hPa〜1.33hPa(700mmHg〜1mmHg)、より好ましくは798hPa〜13.3hPa(600mmHg〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0056】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
【0057】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
【0058】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0059】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0060】
前述したように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0061】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0062】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
【0063】
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶媒とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、環化縮合反応に適した溶媒を添加して得られた混合物を意味する。
【0064】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられ、重合体が着色しない点で、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に使用した溶媒と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、溶媒添加による重合反応混合物の温度低下を引き起こさない点や、重合体の濃度低下による生産性を下げない点で、重合終了後には溶媒を添加しない方がより好ましい。
【0065】
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体の質量に対して、好ましくは0.001質量%〜5質量%、より好ましくは0.01質量%〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01質量%〜1質量%、特に好ましくは0.05質量%〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜300℃、より好ましくは50℃〜250℃であり、加熱時間は、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは2時間〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が300℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0066】
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100℃〜350℃、より好ましくは150℃〜300℃であり、加熱時間は、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは2時間〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が350℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0067】
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
【0068】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0069】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150℃〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0070】
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶媒を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)に溶媒を添加するなどのその他処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0071】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0072】
本発明において、重合体の分子鎖にラクトン環構造を形成した後、環化触媒を失活させることも好ましい態様である。環化触媒が残存していると、得られたラクトン環含有重合体を成形している際に、わずかに残存している未環化部分の環化反応が起こる。その結果、アルコールが発生して成形品中に気泡やシルバーストリークが発生して外観が低下するおそれがあるからである。
【0073】
一般に、環化触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるには、塩基性物質を用いて中和すればよい。それゆえ、この場合に用いられる失活剤としては、塩基性物質であって、熱加工時に樹脂組成物を阻害する物質などを発生しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、金属塩、金属錯体、金属酸化物などの金属化合物が挙げられる。ここで、金属化合物を構成する金属としては、重合体の物性などを阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛、アルミニウム、スズ、鉛などの両性金属;ジルコニウム;などが挙げられる。これらの金属のうち、樹脂の着色が少ないことから、典型金属元素が好ましく、アルカリ土類金属や両性金属が特に好ましく、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛が最も好ましい。金属塩としては、樹脂への分散性や溶剤への溶解性より、好ましくは有機酸の金属塩であり、特に好ましくは有機カルボン酸、有機リン化合物、酸性有機イオウ化合物の金属塩である。有機カルボン酸の金属塩を構成する有機カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸などが挙げられる。
【0074】
有機リン化合物の金属塩を構成する有機リン化合物としては、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。酸性有機イオウ化合物の金属塩を構成する酸性有機イオウ化合物としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトンなどが挙げられる。
【0075】
他方、環化縮合触媒が塩基性物質である場合には、例えば、有機リン化合物などの酸性物質を用いて、反応後に残存する触媒を失活させればよい。いずれの場合にも、これらの失活剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、失活剤は、固形物、粉末、粒状体、分散体、懸濁液、水溶液など、いずれの形態で添加してもよく、特に限定されるものではない。
【0076】
失活剤の添加量は、使用した環化縮合触媒の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル系重合体の質量を基準にして、好ましくは10ppm〜10,000ppm、より好ましくは50ppm〜5,000ppm、さらに好ましくは100ppm〜3,000ppmである。失活剤の添加量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不充分となり、成形品中に泡やシルバーストリークが入ることがある。逆に、失活剤の添加量が10,000ppmを超えると、失活剤の作用が飽和すると共に、必要以上に失活剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
【0077】
失活剤を添加するタイミングは、(メタ)アクリル系重合体を製造するにあたり、環化縮合反応により環構造が形成された後であり、かつ得られた(メタ)アクリル系重合体が熱加工される前である限り、特に限定されるものではない。例えば、(メタ)アクリル系重合体の製造中に所定の段階で失活剤を添加するか、あるいは、(メタ)アクリル系重合体を製造した後、(メタ)アクリル系重合体、失活剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;(メタ)アクリル系重合体、その他の添加剤などを加熱溶融させておき、そこに失活剤を添加して混練する方法;(メタ)アクリル系重合体を加熱溶融させておき、そこに失活剤、その他の添加剤などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
【0078】
本発明の環含有(メタ)アクリル系重合体に、種々の添加剤を添加することも好ましい態様である。前記添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0079】
前記紫外線吸剤としては、例えば、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−デシル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)―4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2,2´−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0080】
添加剤の含有量は、所望の特性に応じて適宜決定すればよいが、例えば、環含有(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
<ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の物性>
本発明の製造方法により得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、重量平均分子量が好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
【0082】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0083】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体が充分に高い耐熱性を有している。
【0084】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
【0085】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
【0086】
ラクトン環含有メタ(アクリル系)重合体は、ガラス転移温度(Tg)が好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。なお、ガラス転移温度(Tg)の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは180℃、より好ましくは170℃、さらに好ましくは160℃、さらに好ましくは150℃である。なお、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた値である。
【0087】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1,500ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が2,000ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となることがある。
【0088】
ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、透明性を要求される用途では、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、透明性を要求される用途に使用できないことがある。
【0089】
≪ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の用途および成形≫
本発明の製造方法により得られたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を備えるので、その用途としては、例えば、看板・ディスプレイ、弱電・工業部品、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスク、その他ミラー、文具、テーブルウェアなどの雑貨類と極めて多岐にわたっているが、これらの用途のうち、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクなどが特に好ましい。
【0090】
本発明の製造方法により得られたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。成形可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、ファイバーなどが挙げられる。成形方法としては、従来公知の成形方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0091】
<フィルムの製造>
以下、特に好ましい用途であるフィルムを一例として、本発明の製造方法により得られたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体からフィルムを製造する方法について詳しく説明する。
【0092】
本発明のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体からフィルムを製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0093】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
【0094】
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0095】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0096】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0097】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
【0098】
前記ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。本発明のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
【0099】
延伸温度は、フィルム原料である(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、(メタ)アクリル系重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0100】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0101】
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
【0102】
なお、前記ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0103】
本発明の製造方法により得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムは、その厚さが好ましくは5μm〜500μm、より好ましくは5μm〜350μm、さらに好ましくは20μm〜200μm、さらに好ましくは30μm〜150μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、他の部品に貼着して耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが500μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、他の部品に貼着する際に水系接着剤を使用した場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
【0104】
本発明の製造方法による得られる(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムと他の部品との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0106】
[評価方法]
<ダイナミックTG>
重合体(または重合体溶液もしくはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量5mg〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー200mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/s以下に制御)
【0107】
<重合体の熱分析>
重合体の熱分析は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50mL/minの条件で行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
【0108】
〈重量平均分子量〉
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム、クロロホルム溶媒)のポリスチレン換算により求めた。
【0109】
〈メルトフローレート〉
メルトフローレートは、JIS K7210に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
【0110】
[ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の製造]
<実施例1:ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体1>
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量1000Lの反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)30質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15質量部、メタクリル酸n−ブチル(BMA)5質量部、トルエン50質量部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.03質量部を添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.06質量部とトルエン0.7質量部からなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105℃〜111℃)で溶液重合を行い、開始剤溶液の滴下後さらに2時間かけて熟成を行った。
【0111】
得られた重合体(1A)の重量平均分子量は195000であり、重合反応率は96.2%であった。また、重合体(1A)中のMHMAの構造単位の含有率は、30.2質量%で、MMA構造単位の含有率は、59.9質量%、BMA構造単位の含有率は9.9質量%であった。
【0112】
得られた重合体溶液に、環化触媒としてリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学社製、Phoslex A−8)0.1質量部を加え、還流下、約85〜105℃で2時間、環化縮合反応(重合体を分子内脱アルコール反応させ、重合体分子内にラクトン環構造を形成させる反応)を行った。
【0113】
次いで、得られた重合体溶液を、熱交換器に通して220℃まで昇温し、バレル温度250℃、回転数170rpm、減圧度13.3hPa〜400hPa(10mmHg〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で、15kg/hの処理速度で導入し、押出機内で環化縮合反応と脱揮処理を行った。その際、第一フォアベントと第二フォアベントとの中間で、オクチル酸亜鉛(日本化学産業社製、ニッカオクチックス亜鉛18%)9.8質量部、チバ・スペシャリティケミカルズ社製Irganox1010、0.8質量部、旭電化工業社製アデカスタブAO−412S0.8質量部、トルエン88.6質量部からなる溶液を0.46kg/hの速度で液注した。前記脱揮操作により、透明なペレット(1B)を得た。得られたペレット(1B)の重量平均分子量は128000であり、ガラス転移温度は133℃、メルトフローレートは12.4g/10分であった。
【0114】
得られたペレット(1B)を、φ65mm、L/D=32、ユニメルトスクリューを有するベント付き単軸押出機に仕込んだ。ペレット(1B)の温度は、ホッパーに加温した除湿空気を送風することにより、60℃に加温した。またホッパー下部に窒素導入菅を設けて、押出機内に窒素ガスを導入した。ベント口から13hPa(10mmHg)にて吸引を行いながら、ペレット(1B)をユニメルトスクリューにて(約45kg/hの速度で)溶融混練した。溶融混練後、ギアポンプを用いて、濾過面積0.75m 濾過精度5μmのリーフディスクフィルタに通し、幅600mmのTダイより、110℃の冷却ロール上に押出成形し、未延伸フィルム(1C)を作製した。シリンダー、ギアポンプ、フィルタおよびTダイの温度を260℃に設定した。
【0115】
なお、未延伸フィルム(1C)からサンプルを切り出し、光学特性を測定したところ、面内位相差値は、8.9nm(100μmあたりでは、2.4nm)、厚さ方向の位相差値は13.0nm(100μmあたりでは、3.5nm)、全光線透過率は92%、ヘイズは0.4%であった。また。測定したフィルム厚さは370μmであり、ガラス転移温度は133℃であった。
【0116】
<比較例1:ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体2>
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量1000Lの反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)35質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15質量部、トルエン50質量部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.03質量部を添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.06質量部とトルエン0.7質量部からなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105℃〜111℃)で溶液重合を行い、開始剤溶液の滴下後さらに2時間かけて熟成を行った。
【0117】
得られた重合体(1A)の重量平均分子量は206000であり、重合反応率は95.9%であった。また、重合体(1A)中のMHMAの構造単位の含有率は、30.0質量%で、MMA構造単位の含有率は、70.0質量%であった。得られた重合体溶液に、環化触媒としてリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学社製、Phoslex A−8)0.1質量部を加え、還流下、約80〜105℃で2時間、環化縮合反応(重合体を分子内脱アルコール反応させ、重合体分子内にラクトン環構造を形成させる反応)を行った。反応終了後、溶媒を含んだ重合体混合物とトルエンを主成分とする溶媒とに分離していた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、得られる重合体の溶媒への不溶化を抑制するとともに、成形性に優れる(メタ)アクリル系重合体の製造方法を提供することができる。そのため、本発明は、透明性や耐熱性などが要求される光学用途において使用される(メタ)アクリル系重合体の製造方法として、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される単量体:25〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2〜40質量%、および、メタクリル酸メチルを含有する残部からなる単量体混合物を重合させることを特徴とする(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【化1】

[式中、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
【請求項2】
前記メタ(アクリル酸)アルキルエステルとして、メタクリル酸ブチルを用いる請求項1に記載の(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合により得られた重合体を脱アルコール反応させて、重合体の分子鎖にラクトン環構造を形成する請求項1または2に記載の(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記単量体混合物を芳香族系炭化水素溶媒中で重合させる請求項1〜3のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項5】
残部として、メタクリル酸メチルのみからなるものを使用する請求項1〜4のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−51951(P2009−51951A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220421(P2007−220421)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】