説明

(1S,2R)−ミルナシプランの合成方法

本発明は、(1S,2R)−ミルナシプランの薬学上許容される酸付加塩の合成方法であって、下記の一連の工程:(a)フェニルアセトニトリルと(R)−エピクロルヒドリンを、アルカリ金属を含有する塩基の存在下で反応後、塩基性処理を行い、次いで酸性処理を行い、ラクトンを得る工程、(b)該ラクトンを、ルイス酸−アミン複合体の存在下でMNEt(ここで、Mはアルカリ金属を表す)またはNHEtと反応させてアミド−アルコールを得る工程、(c)該アミド−アルコールを塩化チオニルと反応させて塩素化アミドを得る工程、(d)該塩素化アミドをフタルイミド塩と反応させてフタルイミド誘導体を得る工程、(e)該フタルイミド誘導体のフタルイミド基を加水分解して(1S,2R)−ミルナシプランを得る工程、および(f)(1S,2R)−ミルナシプランを好適な溶媒系で、薬学上許容される酸の存在下で塩化する工程を含んでなる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、(1S,2R)−ミルナシプランの不斉合成法ならびに主要な(1S,2R)鏡像異性型の塩素化中間体に関する。
【0002】
背景技術
ミルナシプラン(milnacipran)は、鬱病の処置において推奨されるセロトニン−ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する抗鬱薬である(FR2508035号公報)。
【0003】
多くのラセミ化合物合成が文献に記載されている(欧州特許第0377381号公報、欧州特許第0200638号公報、欧州特許第1757597号公報、欧州特許第1767522号公報、欧州特許第1845084号公報、欧州特許第1770084号公報、Shuto S. et al., J. Med. Chem. 1995, 38, 2964-2968)。
【0004】
さらに、最近、鏡像異性体(1S,2R)−ミルナシプランがラセミ混合物よりも活性が高いことが実証された(Viazzo P. et al., Tetrahedron Lett. 1996, 37, 26, 4519-4522)。
【0005】
この鏡像異性体を富化形態で得るための最初の方法は、ラセミ混合物からの鏡像異性体の分離または分割であった(Bonnaud B. et al., J. Chromatogr. 1985, 318, 398-403)。しかしながら、このような方法は、生成物の少なくとも半分の損失があることから工業的に費用効果は高くない。その後、鏡像異性体的に富化されたミルナシプランを製造するために鏡像選択的合成が開発された(Doyle M. P. and Hu W. Adv. Synth. Catal . 2001, 343, 299-302、 Roggen H. et al., Bloorg. Med. Chem. 2007, 17, 2834-2837、 Shuto S. et al., Tetrahedron Lett. 1996, 37, 641-644、 Wang X.-Q. et al., Chinese journal of Pharmaceuticals 2004, 35, 259-260、 WO2005/118564号公報)。
【0006】
しかしながら、これらの合成のほとんどのものは試薬として、その毒性および爆発に至る場合があるその不安定性のために工業上検討することが難しいと思われるアジ化ナトリウムを用いる。従って、より安全でより経済的であり、かつ、より効率的な(1S,2R)−ミルナシプランの新たな合成方法の多大な必要性がなお存在する。
【0007】
よって、より詳細には、本発明の目的は、下記式(I)で表されるの(1S,2R)−ミルナシプランの薬学上許容される酸付加塩の合成方法であって:
【化1】

下記の一連の工程を含んでなる方法である:
(a)フェニルアセトニトリルと、(R)−エピクロルヒドリンとを、アルカリ金属を含有する塩基の存在下で反応後、塩基性処理を行い、次いで酸性処理を行い、下記式(II)で表されるラクトンを得る工程:
【化2】

(b)前記工程(a)で得られたラクトン(II)を、ルイス酸−アミン複合体(ここで、アミンはジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N,N’−ジメチルピペラジン、およびヘキサメチレンテトラミンから選択される)の存在下で、MNEt(ここで、Mはアルカリ金属を表す)またはNHEtと反応させて、下記式(III)で表されるアミド−アルコールを得る工程:
【化3】

(c)前記工程(b)で得られた式(III)で表されるアミド−アルコールを塩化チオニルと反応させて、下記式(IV)で表される塩素化アミドを得る工程:
【化4】

(d)前記工程(c)で得られた式(IV)で表される塩素化アミドを、カリウム塩などのフタルイミド塩と反応させて、下記式(V)で表されるフタルイミド誘導体を得る工程:
【化5】

(e)前記工程(d)で得られた式(V)で表されるフタルイミド誘導体のフタルイミド基を加水分解して、(1S,2R)−ミルナシプランを得る工程、および
(f)前記工程(e)で得られた(1S,2R)−ミルナシプランを好適な溶媒系で、薬学上許容される酸の存在下で塩化する(salification)工程。
【0008】
本発明において「薬学上許容される」とは、一般に安全、無毒で、かつ生物学的にもその他の点でも望ましく、そして、獣医学的使用ならびにヒト医薬使用に許容される医薬組成物の製造に有用であるものを表す。
【0009】
化合物の「薬学上許容される酸付加塩」は、本発明において、本明細書で定義されるように薬学上許容される塩、親化合物の所望の薬理活性を有する塩、および化合物の薬学上許容される酸の付加により得られる塩を表すことを意味する。
【0010】
「薬学上許容される酸」は、特に、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、およびリン酸などの無機酸、または酢酸、ベンゼン−スルホン酸、安息香酸、カンファー−スルホン酸、クエン酸、エタン−スルホン酸、フマル酸、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2−ヒドロキシエタン−スルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタン−スルホン酸、ムコン酸、2−ナフタレン−スルホン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、酒石酸、p−トルエン−スルホン酸、トリメチル酢酸、およびトリフルオロ酢酸などの有機酸を意味する。好ましくは、これは塩酸である。
【0011】
工程(a)
この工程は以下の一連の反応に相当する。
【化6】

「アルカリ金属を含有する塩基」とは、本発明の意味において、式RMで表される塩基を意味する:
[式中、
Mはアルカリ金属、特に、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはリチウム(Li)を表し、かつ
Rは、水素原子、アルキル(ブチルまたはヘキシルなど)、アルコキシ(ターチオブチルオキシ(tertiobutyloky)、またはNR基を表し、Rは水素原子、アルキル(イソプロピルなど)、またはSi(CH基を表す]。
【0012】
「アルキル」とは、本発明の意味において、1〜6個の炭素原子を含んでなる飽和、直鎖状、または分枝状の炭化水素鎖を意味する。特に、これはブチル、ヘキシル、またはイソプロピル基であろう。
【0013】
「アルコキシ」とは、本発明の意味において、酸素原子を介して分子の残りの部分と結合する、上記で定義されたアルキル基を意味する。特に、これは(ターチオブチルオキシ(tertiobutyloxy)基であろう。
【0014】
アルカリ金属を含有する塩基は特に、NaH、NaNH、カリウム、またはリチウムヘキサメチルジシラザン(KHMDSまたはLiHMDS)、ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、ナトリウム、またはカリウムターチオブチレート(tertiobutylate)、またはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)から選択されるものである。有利には、これはNaHまたはNaNHであり、好ましくは、これはNaNHであろう。
【0015】
その後の塩基性処理では、化合物(3)のニトリル官能基をカルボン酸に加水分解して化合物(4)を得ることが可能である。NaOHまたはKOH、特にNaOHなどのアルカリ金属水酸化物は、この処理に特に好適である。
【0016】
さらに、酸性処理では、ヒドロキシル酸誘導体(4)をラクトン(II)へと環化することが可能である。この処理に特に好適な酸は塩酸、特に、例えば25%の水溶液である。
【0017】
工程(a1)、(a2)、および(a3)は、有利には、中間生成物(3)および(4)を単離することなく、同じ反応槽で行われる(ワンポット法(one-pot method)と呼ばれる方法)。これらの条件下では、有利には、これらの3工程で同じ単一の溶媒が用いられ、好ましくは、これはトルエンであり、しかしながら有利には、工程(a2)および(a3)の塩基と酸は水溶液の形態で導入される。
【0018】
工程(b)
「アルカリ金属」とは、より詳しくは、ナトリウム、カリウム、およびリチウムを意味する。
【0019】
MNEtは、特にNHEtをアルカリ金属アルコキシドと反応させることによって得ることができる。次に、MNEtは有利にはin situで、すなわち、NHEtとアルカリ金属アルコキシドの二つの試薬を、ラクトンを含有する反応媒体に加えることによって形成されるであろう。
【0020】
「アルカリ金属アルコキシド」とは、本発明の意味において、式Alk−O−M(式中、Mは上記で定義されたアルカリ金属を表し、Alkは1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を含む飽和、直鎖状、または分枝状の炭化水素鎖を表す)の化合物を意味する。これは特に、MeONa、MeOK、EtONa、またはさらにはEtOKであろう。
【0021】
M=Liの場合、LiNEtは、NHEtにブチルリチウムなどのリチウム誘導体を付加することによって形成され得る。この場合、LiNEtは好ましくは、ラクトンを含有する反応媒体に導入される前に予め作製される。
【0022】
「リチウム誘導体」とは、本発明の意味において、特に、式Alk’Li(Alk’は、1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を含む飽和、直鎖状、または分枝状の炭化水素鎖を表す)の誘導体を意味する。これは特にブチルリチウムである。
【0023】
「ルイス酸」とは、本発明の意味において、電子二重項(erectron doublet)を受け入れることができ、従って、ラクトン(II)のカルボニルC=Oの酸素原子と複合体を形成することができる化学物質を意味する。これを用いれば、ラクトンのカルボニルを活性させることができ、従って、これへの求核化合物(NHEt)の付加が促進され得る。特に、ルイス酸はAlClであってもよい。
【0024】
好ましくは、この工程はジエチルアミンおよび複合体AlCl−NHEtの存在下で行われるであろう。
【0025】
この工程は特に、ルイス酸の存在下でNHEtを用いる場合を含め、溶媒としてのトルエン中で行うことができるが、AlClなどのルイス酸の存在下で、ラクトンと、トルエンとの間にFriedel−Craftsアシル化反応が予想されている。
【0026】
好ましくは、この工程はNHEtおよびルイス酸としてのAlClの存在下で行われるであろう。
【0027】
工程(c)
この塩素化工程中に塩酸が生じる。この化合物を次の工程の前に除去することが重要である。トルエンなどの溶媒を使用することにより、反応媒体の濃縮によって、その除去が容易となり得る。実際、トルエンを用いると、その沸点が高いために、塩化メチレンなどの溶媒よりもより容易に共蒸発によって塩酸を除去することが可能である。
【0028】
工程(d)
この工程は有利にはフタルイミドのカリウム塩を用いて行うであろう。この反応は有利には溶媒としてのトルエン中で行うことができる。
【0029】
工程(e)
フタルイミド誘導体を第一級アミンに加水分解するこの工程は有利には、ヒドラジン、メチルアミンなどのアルキルアミン、またはエタノールアミンなどのヒドロキシアルキルアミンと反応させることにより行われる。
【0030】
「アルキルアミン」とは、本発明の意味において、式Alk”NH(Alk”は、1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を含む飽和、直鎖状、または分枝状の炭化水素鎖を表す)のアミンを意味する。特に、これはメチルアミンである。
【0031】
「ヒドロキシアルキルアミン」とは、本発明の意味において、式HO−R−NH(Rは、1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を含む飽和、直鎖状、または分枝状の炭化水素鎖を表す)のヒドロキシル−アミンを意味する。特に、これはエタノールアミンである。
【0032】
好ましくは、この工程はエタノールアミンの存在下で行われるであろう。
【0033】
この工程は有利には、トルエンなどの溶媒中で行われてもよい。しかしながら、ヒドラジン、アルキルアミン、またはヒドロキシアルキルアミンは水溶液の形態で加えてもよい。
【0034】
工程(f)
この工程によれば、前工程(e)で得られた(1S,2R)−ミルナシプランを塩化すると同時に結晶化とその後の濾過によって(1S,2R)−ミルナシプランの酸付加塩を精製および単離することが可能である。
【0035】
好ましくは、この工程は(1S,2R)−ミルナシプラン塩酸塩を形成するために塩酸の存在下で行われるであろう。
【0036】
有利には、この塩化に用いる溶媒系はトルエンを含んでなり、好ましくは、トルエン、酢酸イソプロピル、およびイソプロパノールの混合物であろう。
【0037】
好ましくは、この混合物は溶媒系が溶媒全量に対して以下の組成を有するであろう:
-0〜50容量%(体積百分率)、有利には30〜40容量%のトルエン、
-40〜90容量%、有利には50〜80容量%の酢酸イソプロピルおよび
-5〜25容量%、有利には10〜20容量%のイソプロパノール。
【0038】
特に、工程(a)〜(e)は有利には、トルエンなどの同じ単一の溶媒を含んでなる反応媒体中で行われるであろう。
【0039】
実際、工程全体(最後の塩化工程以外)に同じ単一の溶媒を用いることによって、化合物を製造する手順が簡単になり、工程ごとに溶媒を変更しなくてもよい限りにおいて、そのコストを削減することが可能である。従って、これらの条件下では、たとえ以降の工程の適切な進行に厄介となり得るいくつかの不純物を除去するために抽出工程が行われる場合があるとしても、反応中間体を単離する必要はない。
【0040】
よって、本発明者らは、予期しないことに、この一連の反応全体が工程(a)〜(e)に関しては同じ単一の溶媒、好ましくはトルエンを用いて行われ得ることを見出した。
【0041】
これらの条件下では、工程(a)〜(d)、好ましくは(a)〜(e)で得られたいずれの中間生成物も反応媒体から単離しないことが有利であろう。よって、得られた中間生成物は常に反応媒体における溶液、好ましくはトルエン中にあり、決して乾燥形態または準乾燥形態で単離されないであろうと理解される。しかしながら、特に抽出工程の後は反応媒体を濃縮するための工程が行われる場合があるが、特にコストと利便性の理由で反応媒体を乾燥蒸発させないことが有利であろう。これは中間体精製工程中にさらなる生成物の損失を避けるという付加的な利点を持つ。
【0042】
よって、このようの方法を用いれば、(1S,2R)−ミルナシプランを、少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%の鏡像体過剰率(enantiomeric excess)(ee)で、出発生成物として用いる(R)−エピクロルヒドリンに対して有利には40%より高い、好ましくは45%より高い収率で得ることが可能である。
【0043】
本発明の目的はまた、特に合成中間体としての(1S,2R)鏡像異性型の下記式(IV)で表される化合物である:
【化7】

【0044】
この化合物は有利には、90%より高い、好ましくは95%より高い、一層好ましくは98%より高い鏡像体過剰率で得られる。
【0045】
本発明は、以下の限定されない例に照らせばよりよく理解することができるであろう。
【実施例】
【0046】
(1S,2R)−ミルナシプラン塩酸塩は、最終生成物41kgを基準として、以下のスキームおよび操作手順に従って合成される。
【化8】

【0047】
工程1〜4
28kgのナトリウムアミド(682モル)を400Lのトルエンに懸濁させた後、強い攪拌下で、10Lのトルエンに希釈した85.5kgのフェニルアセトニトリル(729.5モル)を0〜5℃の温度で注ぐ。この反応媒体を10℃で少なくとも1時間攪拌する。20Lのトルエン中、27kgのキラルエピクロルヒドリン(292モル)の溶液を、温度を10℃に維持しながら加える。注ぎ終わったところで、この媒体を少なくとも2時間攪拌する。この反応媒体を、温度を5〜40℃に維持しながら240Lの水溶液に注ぐことによって加水分解を行う。得られた溶液を濃縮した後、115kgの30%ソーダを加え、ニトリル官能基の加水分解を可能とするために、この媒体を95℃まで加熱する。媒体を190Lのトルエンで2回洗浄する。トルエン相を除去し、270Lのトルエンを加えた後に水相を回収し、25%塩酸溶液で1〜2の間のpHまで酸性化する。次に、この媒体を60℃まで少なくとも3時間加熱する。デカンテーションの後、ラクトンを含有するトルエン相を140Lの水で洗浄し、10%炭酸ナトリウム溶液で8〜9の間のpHまで中和し、次いで、再び140Lの水で洗浄する。得られたトルエン相を120Lの容量まで濃縮する(38kgのラクトン(218モル)を含有)。
【0048】
工程5
34kgの塩化アルミニウム(255モル)を240Lのトルエンに懸濁させ、38.3kgのジエチルアミン(523.5モル)を、温度を15〜30℃に維持しながら加える。先に得られたラクトン濃縮物(38kg)を、25℃に維持した媒体に注ぐ。この反応媒体を少なくとも1時間30分攪拌する。沈殿の形成が見られる。
【0049】
この反応媒体を345Lの水で加水分解し、次いで、濾過助剤を加えた後に濾過する。
【0050】
デカンテーション後、有機相を235Lおよび175Lの水で2回洗浄し、次いで、110Lのアミド−アルコール濃縮物が得られるまで濃縮する。
【0051】
工程6:
25℃にて強い攪拌下、この濃縮物に24.7kgの塩化チオニル(207モル)を1時間以内に注ぐ。温度を50℃に制限し、この反応媒体を真空濃縮する。62Lのトルエンを2回加えた後にこの濃縮操作を2回繰り返して塩素化アミドの濃縮物を得る。
【0052】
工程7
前工程で得られた塩素化アミド濃縮物を、カリウムフタルイミドの懸濁液(155Lのトルエン中、51.9kgのカリウムフタルイミド(280モル))に注ぎ、この媒体を85℃まで少なくとも3時間加熱する。反応媒体を45℃まで冷却し、130Lの水で2回洗浄する。デカンテーション後、得られたトルエン相は約74kgのフタルイミド−アミド(196.5モル)を含む。
【0053】
工程8
強い攪拌下、92.4kgのエタノールアミン(1513モル)をフタルイミド−アミドのトルエン溶液に導入し、この媒体を82.5℃まで2時間加熱する。冷却し、247Lのトルエンを加えた後、この反応媒体を225Lの塩水20%NaCl水溶液で洗浄する。水相を52Lのトルエンで2回逆抽出した後、トルエン相を合わせ、225Lの塩水20%NaCl溶液で2回洗浄する。デカンテーション後、185Lの水をトルエン相に加え、媒体を25%塩酸で2〜3のpHまで酸性化する。デカンテーション後、酸性有機相を再び74Lの水で抽出する。その後、有機相を除去する。合わせた水相を、20%ソーダ水溶液で12〜13の間の塩基性pHまで戻した後、370Lおよび150Lのトルエンで2回抽出する。合わせた有機相を80Lの水で洗浄した後、濃縮する。
【0054】
工程9
トルエン濃縮物に283Lの酢酸イソプロピルと48.4Lのイソプロパノールを加える。この有機溶液に、30℃でイソプロパノール中5Nの塩酸溶液を3〜4のpHとなるまで注ぐ(約30Lの溶液)。この酸性溶液の導入中、塩酸塩が沈殿し、この媒体を10℃まで冷却し、この温度で少なくとも2時間維持する。この懸濁液を濾過し、56Lの酢酸イソプロピルで3回洗浄する。得られた生成物を70℃で真空乾燥させる。41kgの(1S,2R)−ミルナシプラン塩酸塩(145モル)が得られ、すなわち、キラルエピクロルヒドリンに対して49.6%の収率である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される(1S,2R)−ミルナシプランの薬学上許容される酸付加塩の合成方法であって:
【化1】

下記の一連の工程を含んでなる、方法:
(a)フェニルアセトニトリルと、(R)−エピクロルヒドリンとを、アルカリ金属を含有する塩基の存在下で反応後、塩基性処理を行い、次いで酸性処理を行い、下記式(II)で表されるラクトンを得る工程:
【化2】

(b)前記工程(a)で得られたラクトン(II)を、ルイス酸−アミン複合体(ここで、アミンはジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N,N’−ジメチルピペラジン、およびヘキサメチレンテトラミンから選択される)の存在下で、MNEt(ここで、Mはアルカリ金属を表す)またはNHEtと反応させて、下記式(III)で表されるアミド−アルコールを得る工程:
【化3】

(c)前記工程(b)で得られた式(III)で表されるアミド−アルコールを塩化チオニルと反応させて、下記式(IV)で表される塩素化アミドを得る工程:
【化4】

(d)前記工程(c)で得られた式(IV)で表される塩素化アミドを、カリウム塩などのフタルイミド塩と反応させて、下記式(V)で表されるフタルイミド誘導体を得る工程:
【化5】

(e)前記工程(d)で得られた式(V)で表されるフタルイミド誘導体のフタルイミド基を加水分解して、(1S,2R)−ミルナシプランを得る工程、および
(f)前記工程(e)で得られた(1S,2R)−ミルナシプランを好適な溶媒系で、薬学上許容される酸の存在下で塩化する工程。
【請求項2】
工程(a)〜(e)が同じ単一の溶媒を含んでなる反応媒体中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒がトルエンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)〜(d)、好ましくは工程(a)〜(e)で得られるいずれの中間生成物も反応媒体から単離されない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)がNHEtおよびルイス酸としてのAlClの存在下で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
加水分解工程がヒドラジン、メチルアミンなどのアルキルアミン、またはエタノールアミンなどのヒドロキシアルキルアミンと反応させることにより行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(1S,2R)−ミルナシプラン塩酸塩を得るために塩化工程(f)が塩酸の存在下で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
塩化工程(f)がトルエンを含んでなる溶媒系で行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
溶媒系が、トルエン、酢酸イソプロピル、およびイソプロパノールの混合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶媒系が溶媒全量に対して以下の組成を有する、請求項9に記載の方法:
-0〜50容量%、有利には30〜40容量%のトルエン、
-40〜90容量%、有利には50〜80容量%の酢酸イソプロピル、および
-5〜25容量%、有利には10〜20容量%のイソプロパノール。
【請求項11】
(1S,2R)鏡像異性型の下記式(IV)で表される化合物:
【化6】


【公表番号】特表2012−516307(P2012−516307A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546850(P2011−546850)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051045
【国際公開番号】WO2010/086394
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】