説明

(E,E)−ファルネシルアセトンの調製方法

高温での酸性触媒の存在下におけるネロリドールとイソプロペニルメチルエーテルとの反応、および分画蒸留による単離を特徴とするE−ファルネシルアセトンの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、香味料および芳香剤産業において興味深い化合物であり、ならびに薬学的および栄養的に興味深い化合物、例えばβ−ゼアカロテンの中間体であるE/E−ファルネシルアセトン(2,6,10−トリメチル−2,6,10−ペンタデカトリエン−14−オン)の調製方法に関する。
【0002】
CH260081号明細書には、0〜5℃で、NaOEtの存在下、ジケテンによるネロリドールからそのアセチルアセテートへの転換、5mmの圧力および190〜200℃の温度での脱カルボキシル化、そして2.5mmでの精留によるファルネシルアセトンの調製が記載されている(収率45.7重量%)。あるいは、乾燥KCOの存在下、150〜160℃でMe−アセトアセテートおよびネロリドールを10時間加熱する。さらなるKCOの添加後、水、アルコールおよびアセトンを除去しながら、この温度で混合物を再び10時間加熱する。残渣の分画蒸留によって、ファルネシルアセトンが60重量%の収率で得られる。
【0003】
−18℃でのエーテル中でのPBrによるネロリドールからファルネシルブロミドへの処理、Et−ファルネシルアセトアセテートが得られるナトリウムアセト酢酸エステルによる濃縮、ならびにファルネシルアセトンおよびファルネシル酢酸が得られるBa(OH)水溶液によるケトン開裂については、A.Calieziら(Helv.Chim.Acta 35,1649−55[1952])に記載されている。
【0004】
I.N.Nazarovら(Izvestiya Akademii nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya 1957,1267−70;Chem.Abstr.52:34658[1958])によると、第3級ビニルアルコール、例えばネロリドールから不飽和ケトンへの転換は、次の3つの手順、(1)ハロゲン化水素HXによって処理し、ハロゲン化アリルを形成して、これをナトリウムアセト酢酸エステルで処理すること、(2)140〜190℃でのアセト酢酸エステルによるアルコールの処理、または(3)ジケテンによるアルコールの処理によって達成することができる。最良の結果は方法(3)によって得られ、60〜65重量%の収率で不飽和ケトンが得られた。
【0005】
これらの方法の不利な点は、廃物、特に塩が形成されること、収率が低いこと、および立体特異性が低いことである。圧力(6追加気圧、N)、125℃で16時間、酸性条件(リン酸またはp−トルエンスルホン酸)での第3級ビニルカルビノール、例えば、ネロリドールおよびイソプロペニルメチルエーテル(IPM)からのγ,δ−不飽和カルボニル化合物、例えば、ファルネシルアセトンのより都合のよい合成については、独国特許第1193490号明細書、ならびにSaucyおよびMarbetによるHelv.Chim.Acta 50,2091−2095(1967)に記載されている。
【0006】
J.Zhangら(Huaxue Shijie 45,86−88(2004);Chem.Abstr.146:296095(2006))は、Carroll転位、Grignard反応および触媒水素化によって、リナロールからファルネシルアセトンを50.9重量%までの収率で合成した。廃物および低い収率を伴うことを考慮すると、これはあまり経済的ではなく、比較的高価な手順である。
【0007】
ファルネシルアセトンには4種類の立体異性体(E/E、E/Z、Z/E、Z/Z)が存在するが、上記の参考文献ではいずれも、最終生成物の立体的性質に関するいかなる情報も記載されていない。いずれも、E/E−ファルネシルアセトンの立体特異的調製については開示されていない。ファルネシルアセトンの立体的な性質の差異は、香味料および芳香剤産業における異性体の使用に関して重要である。本発明の課題は、少なくともいくらかのt/aの工業的規模で、高収率のE/E−ファルネシルアセトンの経済的な立体特異的合成を見出すことであった。
【0008】
これは、酸性触媒の存在下でネロリドールをイソプロペニルメチルエーテル(IPM)と反応させること、そして分画蒸留によって純粋なE/E−ファルネシルアセトンを反応混合物から単離することによって達成される。したがって、本発明は、酸性触媒の存在下でネロリドールをIPMと反応させること、そして分画蒸留によってE/E−ファルネシルアセトンを単離することによるE/E−ファルネシルアセトンの調製方法に関する。したがって、少なくとも90%の立体純度でE/E−ファルネシルアセトンを得ることができる。
【0009】
また本発明は、そのように得られた/入手可能なE/E−ファルネシルアセトン、本発明の方法に従って得られた/入手可能なE/E−ファルネシルアセトンの、特に広義での香料における香味料または芳香剤成分、およびカロチノイド調製のための中間体としての使用にも関する。
【0010】
出発物質、E/Z−ネロリドールまたはE−ネロリドールおよびイソプロペニルメチルエーテルは、商業的に入手可能な製品である。E−ネロリドールは、商業的に入手可能なE/Z−ネロリドールから分画蒸留によって得ることもできる。
【0011】
酸性触媒は、好ましくは、反応混合物のネロリドールに対して適切に0.01〜0.5、好ましくは0.2モル%の量のリン酸である。リン酸をそのままではなく、アセトンなどの適切な有機溶媒中で、好ましくは10〜30重量%の濃度で使用することが都合よい。しかしながら、硫酸などの他のミネラル酸、およびp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリクロロ酢酸またはシュウ酸などの強有機酸も使用可能であるが、あまり好ましくない。
【0012】
この反応は、100〜200℃の温度範囲において、8〜20時間で、好ましくは120〜180℃で、より好ましくは140〜160℃で、約16時間の全反応時間で適切に実行される。
【0013】
この反応は、気圧および還流下で、または閉じた反応器中、過圧下で、所望であれば、不活性雰囲気、例えば窒素下で実行可能である。さらには、この反応は、ネロリドール1モルに対して2.5〜5.0、好ましくは3.8より多いモル範囲の過剰量のIPMを用いて実行される。通常通り、サンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーによってそれらを分析することによって、反応終了を決定することができる。
【0014】
反応混合物から、減圧下、好ましくは0.1ミリバール未満、より好ましくは0.03〜0.02ミリバールでの分画蒸留によって、所望のE/E−ファルネシルアセトンを主留分として単離する。都合がよいことに、酸性触媒は、塩基性有機または無機化合物、例えば、酢酸ナトリウムの添加によって中和され、そして所望により、分画の前に低沸点成分と同様に除去される。
【0015】
E/Z−ネロリドールのリン酸触媒C延長によって、ファルネシルアセトン(FA)の以下の4種の異性体の混合物が、蒸留(低および高ボイラーから分離)後、全異性体で89〜91%の収率で得られることがわかった:E/E−FA:34%;(5Z,9E)−FA+(5E,9Z)−FA:49%(この2種の異性体は、ガスクロマトグラフィーによって分離できない);Z/Z−FA:17%。E−ネロリドールの相当するC延長によって、2種の異性体、E/E−FAおよび(5Z,9E)−FAの約60:40%の混合物が、蒸留(低および高ボイラーから分離)後、全異性体で86〜88%の収率で得られた。
【0016】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に例示する。
【0017】
[実施例1]
E−ネロリドールからのE/E−ファルネシルアセトンのリン酸接触調製。
ジャケット付き電熱および水冷システム、圧力センサーおよびステンレス鋼プロペラを備えた1.0リットルのステンレス鋼バッチ反応器(Medimex−High Pressure)に、アセトン中18重量%のHPO溶液1.2885g(2.37ミリモル、0.3モル%)とE−ネロリドール179.5g(0.790モル)の混合物を添加した。225gのイソプロペニルメチルエーテル(IPM、3.01モル、3.81当量)を添加した。撹拌下(500rpm)、混合物を2時間以内で160℃まで加熱した。16時間の全反応時間後、反応混合物を25℃まで冷却し、減圧下、反応器から吸引し、そして30分間、酢酸ナトリウム2gと一緒に撹拌した。5μのTeflon膜上での濾過後、40℃のRota ベイパーで2段階(ポンプで10ミリバールおよび0.05ミリバール)で低ボイラーを除去した。粗製生成物(収率93.1%、選択性0.94)を、PT 100、磁気撹拌器、Liebig冷却器、Anschutz Thieleセパレーター、冷却トラップおよび油浴中の高真空ポンプを備えた500mlの2つ口丸底フラスコで蒸留した。140℃の浴温度、125〜127℃の内部温度、118〜122℃のヘッド温度、および0.03〜0.02ミリバール(ポンプで)の絶対圧で、86%の収率でE/E−および(5Z,9E)−ファルネシルアセトンの混合物が得られた。E/E−および(5Z,9E)−ファルネシルアセトンの混合物の前留分は、それぞれ、67〜140℃、44.5〜123℃、27.3〜111℃および0.03ミリバール(ポンプで)で、3.7%の収率で得られた。主留分および前留分の合計収率89.7%、選択性0.9)。(5Z/9E)−ファルネシルアセトンから蒸留によってE/E−ファルネシルアセトンを分離した。Hおよび13C−NMR分光法によって生成物を特徴づけた。純度はガスクロマトグラフィーによって決定した。
E/E−FA 300MHz 13C−NMR(CDCl):δ(ppm,TMS)=208.8,136.4,135.0,131.3,124.4,124.0,122.5,43.8,39.7,39.6,29.9,26.8,26.5,25.5,22.5,17.7,16.0(2C).
【0018】
[実施例2]
実施例1に記載されたものと同様の方法で、199gのE−ネロリドール、1.38gの触媒溶液、および3.15当量のIPMから開始して、89.8%の収率、選択性0.90(粗製)、ならびに87.4%の収率、選択性0.87(主留分および前留分の合計、低および高ボイラーの分離後)で、E/E−および(5Z,9E)−ファルネシルアセトンの混合物を得た。
【0019】
[実施例3]
実施例1に記載されたものと同様の方法で、224.4gのE−ネロリドール、1.56gの触媒溶液、および2.5当量のIPMから開始して、88.2%の収率、選択性0.88(粗製)、ならびに86.1%の収率、選択性0.86(主留分および前留分の合計、低および高ボイラーの分離後)で、E/E−および(5Z,9E)−ファルネシルアセトンの混合物を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温での酸性触媒の存在下におけるネロリドールとイソプロペニルメチルエーテルとの反応、および分画蒸留による単離を特徴とするE/E−ファルネシルアセトンの調製方法。
【請求項2】
E−ネロリドールをイソプロペニルメチルエーテルと反応させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ネロリドールおよびイソプロペニルメチルエーテルのモル量、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性触媒がアセトン溶液中のリン酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
0.1ミリバール未満の絶対圧力下での反応混合物の分画蒸留によって純粋なE/E−ファルネシルアセトンが得られる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも90%の立体純度でE/E−ファルネシルアセトンが得られる請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって調製されたE/E−ファルネシルアセトン。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られた/入手可能なE/E−ファルネシルアセトン。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られた/入手可能なE/E−ファルネシルアセトンの香味料または芳香剤成分としての使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られた/入手可能なE/E−ファルネシルアセトンのカロチノイド調製における中間体としての使用。

【公表番号】特表2010−535730(P2010−535730A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519414(P2010−519414)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059601
【国際公開番号】WO2009/019132
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】