説明

(NH2(R2))および/または水素の製造方法

NH2(R2)の製造方法は、金属水素化物を一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物と反応させることを含む。上記一般式において、M1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み;0<n≦4;R2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み;xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNH2(R2)および/または水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は潜在的に有用な燃料であると広く考えられており、すなわち水素は様々な再生可能資源から製造可能であり、また燃料電池に用いれば、汚染物質や温室効果ガスのほぼゼロエミッションが期待できる。しかし、水素を主なエネルギー担体として開発し利用するには、多くの重大な科学的および技術的課題を解決する必要がある。
【0003】
通常、水素を貯蔵するには液体水素とガスボンベが必要である。しかし、水素を液化または圧縮するためには、相当のエネルギーを加える必要がある。またこれらの技術には重大な安全上の懸念がある(高圧および液体水素のボイルオフ)。
【0004】
アンモニアは例えば水素担体として用いられることが知られており、複数のその化学的および物理的性質によりアンモニアはこのような目的に特に適している。例えば、アンモニアは水素の重量密度が高く(17.6wt%)、また大量に用いることができる。しかし、化学的水素貯蔵物としての液体アンモニアの貯蔵には複数の問題がある。例えば、アンモニアは熱膨張係数が高く、周囲条件における蒸気圧が高く、水との反応性が高く、また空気中に放出されるとその蒸気は毒性が高い。
【0005】
アンモニアを固体状態で貯蔵することができれば、複数のこれらの問題、具体的には熱膨張、蒸気圧および反応性の問題が軽減されるだろう。
【0006】
国際公開WO 2006/012903には固形アンモニア貯蔵物質が開示されている。この文献は水素の貯蔵を目的としたものではないが、ヘキサミンMgCl2(NH36を生成する、MgCl2とアンモニアの室温での反応が記載されている。このアンモニアは可逆的に吸着、脱着されうる。脱着は150℃で始まり、完全なアンモニアの脱着は400℃で起こる。MgCl2(NH36の重量アンモニア密度は51.7%であり、その水素密度は9.1wt%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO 2006/012903
【発明の概要】
【0008】
驚いたことに、一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物、特にLiBH4(NH3nが、アンモニアおよび/または水素を貯蔵および製造する改良法の提供に使用することができることが見出された。ここでM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、0<n≦4、R2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、
【0009】
したがって、本発明は、金属水素化物を一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物と反応させることを含むNH2(R2)の製造方法であって、
ここでM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、製造方法を提供する。
【0010】
本発明の他の態様においては、一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を−20から150℃の温度にて加熱することを含むNH2(R2)の製造方法であって、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4;
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、方法が提供される。
【0011】
1がLiを含む時、本方法は好ましくは20〜60℃の温度における加熱を含む。
【0012】
1が1つまたは複数のNa、K、Rb、Csを含む時、本方法は好ましくは−20〜60℃の温度における加熱を含む。
【0013】
1が1つまたは複数のBe、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含む時、本方法は好ましくは40〜150℃の温度における加熱を含む。
【0014】
NH22または水素の脱着温度をまた、母材をゼオライトおよび他のメソ多孔性材料中に封入することによって上昇させてもよい。
【0015】
ここに規定された各態様は、そうでないと明示されていない限り、他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは好都合であると示された特徴は、好ましいまたは好都合であると示された他の特徴と組み合わせることができる。
【0016】
本発明中に用いられる金属水素化物は、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、第一遷移元素(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)、第二遷移元素(Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd)、および第三遷移元素(La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg)の、1つまたは複数の水素化物を含む。好ましくは、金属水素化物は1つまたは複数のLiH、NaH、KH、RbH、CsH、BeH2、MgH2、CaH2、SrH2およびBaH2を含む。より好ましくは、金属水素化物はLiHを含む。本発明中に用いられる金属水素化物の選択は、NH22または水素を放出する温度に影響する可能性があることは理解されるであろう。
【0017】
好ましくはM1x(BH4y(NH2(R2))nと金属水素化物の比は1:0.01〜1:10、より好ましくは1:0.05〜1:5である。
【0018】
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物は、ここに記載したように、水素貯蔵、および/またはアンモニア(ここでR2=−H)貯蔵化合物または貯蔵組成物とみなすことができる。ここでM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、0<n≦4、R2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。
【0019】
本発明者らは、このような化合物が、有用なアンモニアおよび水素貯蔵物質として機能することができる、特に好都合な特性を有することを見出した。これらの化合物は高い重量NH2(R2)および水素貯蔵密度を有する。NH2(R2)および/または水素が適切な低温および圧力状態下で、例えば燃料電池用に放出されうる。さらにこれらの吸着および脱着速度は速く、NH2(R2)の吸着および脱着は可逆的である。
【0020】
さらにこのような化合物を貯蔵物質として利用する利点には、この化合物を安価に、入手しやすい物質から低エネルギーの調製方法を用いて作ることができることが挙げられる。これらは概して一般に微量の不純物による中毒に抵抗性があり、また通常荷電および非荷電状態で熱伝導率がよい。
【0021】
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される本発明の化合物は好ましくは固形である。ここに記載されたM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含む。本発明の一実施形態において、M1はLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaまたはScである。より好ましくは、M1はLiまたはNaである。最も好ましくは、M1はLiである。
【0022】
他の実施形態において、M1は少なくとも70%モル比のLiを含み、残りは1つまたは複数のNa、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScである。例えば、M1は(Li0.7Na0.3+を含むことができる。好ましくは、M1は少なくとも80%モル比のLiを含み、残りは1つまたは複数のNa、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScである。より好ましくは、M1は少なくとも90%モル比のLiを含み、残りは1つまたは複数のNa、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScである。最も好ましくは、M1は少なくとも95%モル比のLiを含み、残りは1つまたは複数のNa、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScである。
【0023】
1がLiを含む本発明の一実施形態において、このLiに10%以下(全重量のLiについて)の1つまたは複数のNa+、K+、Rb+、Cs+を添加してもよい。M1がLiを含む他の実施形態において、このLiに20%以下(全重量のLiについて)の1つまたは複数のBe2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、La3+、Al3+、Ga3+、Sc3+を添加してもよい。
【0024】
本発明者らは、NH2(R2)および水素の吸着および脱着温度を、M1の選択によって変更できることを見出した。
【0025】
2は1つまたは複数の−H、アルキルおよび芳香族置換基を含む。より好ましくは、R2は−Hを含む。このアルキルは1〜10個またはそれ以上の炭素を有する直鎖または分枝アルキルであることが好ましい。R2が芳香族置換基であるとき、6個以上の炭素を有することが好ましい。
【0026】
本発明者らは、NH2(R2)および水素の吸着および脱着温度がまた、NH2(R2)の選択によって変更できることを見出した。
【0027】
金属水素化物がLiBH4(NH3n、ここで0<n≦4、と反応するように、本発明の一実施形態においてM1はLi、0<n≦4およびR2は−Hを含む。本発明者らは、LiBH4(NH3n、ここで0<n≦4、は高効率の周囲温度(約40〜60℃未満での)アンモニア貯蔵物質、および高重量密度、高温(約200〜300℃での)水素貯蔵物質であることを見出した。
【0028】
一般式:M1x(BH4y(NH2(R2))nを有する化合物は、複数の経路によって合成できる。
【0029】
例えば、過剰のガス状アンモニアを、乾燥M1x(BH4y上に不活性(アルゴンガス)環境中室温で流すことができる。
1x(BH4y(s)+過剰のNH3(g)
→室温→M1x(BH4y(NH2(R2))n(s)
【0030】
あるいは、乾燥M1x(BH4yを−68℃で不活性(アルゴンガス)環境中、乾燥液体アンモニアで処理してもよい。
1x(BH4y(s)+過剰のNH3(l)
→−68℃/アルゴン→M1x(BH4y(NH2(R2))n(s)
【0031】
ここに記載した金属水素化物の存在下でのNH2(R2)の製造方法は、0〜400℃の温度範囲で行われることが好ましい。より好ましくは、0〜100℃、100〜150℃、150〜200℃、または200〜400℃の温度範囲で行われる。最も好ましくは、0〜50℃の温度範囲で行われる。しかし、NH2(R2)を製造する本発明の方法において用いられる温度は、用いられる出発化合物および金属水素化物の具体的組成によって変化することは理解されるであろう。
【0032】
金属水素化物の存在下におけるアンモニア放出に必要な温度は、概して金属水素化物が存在しない場合より低い。
【0033】
本発明のNH2(R2)の製造方法は、NH2(R2)を低温で製造できるという有利性を有する。先行技術の方法では概して150℃より高い温度が必要であるのに対し、NH2(R2)をM1x(BH4y(NH2(R2))nから約−20℃という低温で放出させることができる。
【0034】
ここに記載した、M1x(BH4y(NH2(R2))nを金属水素化物と直接混合することによる水素の製造方法は、0〜400℃の温度において行われることが好ましい。より好ましくは、0〜100℃、100〜200℃、200〜300℃、または300〜400℃の温度範囲において行われる。最も好ましくは、0〜100℃の温度範囲において行われる。しかし、水素を製造する本発明の方法において用いられる温度は、出発化合物の具体的組成およびどの金属水素化物が用いられるかによって変化することは理解されるであろう。
【0035】
本発明の化合物がLiBH4(NH3nである場合、LiBH4(NH3nを275〜350℃に加熱したとき、水素の放出が高まることが観測されうる。何らかの特定の理論に制約されるものではないが、さらなる水素放出は、LiBH4(NH3n(0<n≦4)が加熱されたときに製造されるLi4BN310の分解の結果であると思われる。
LiBN310の分解は以下のようになるだろう。
Li4BN310⇔Li3BN2+0.5Li2NH+0.5NH3+4H2
あるいは、下記の反応が起こるかもしれない:
Li4BN310+0.5LiBH4⇔1.5Li3BN2+6H2
これらの反応はともに275〜350℃の間で起こり、その結果水素を放出すると思われる。
【0036】
ここに記載した一般式:M1x(BH4y(NH2(R2))nを有する化合物は好ましくは、その組成に応じて−20〜200℃で安定型で貯蔵することができる。
【0037】
本発明の一実施形態において、金属水素化物(例えばLiH、NaH、MgH2)はM1x(BH4y(NH2(R2))n(例えばLiBH4(NH3n)と同じ容器中で反応し水素を製造する。好ましくは、M1x(BH4y(NH2(R2))nと金属水素化物のモル比は1:3〜1:n、より好ましくは1:3〜l:2n、最も好ましくは、1:3〜1:(2n−3)、ここで0≦n≦4、である。
【0038】
何らかの特定の理論に制約されるものではないが、下記の反応はLiBH4(NH3nがLiHと反応するときに起こると考えられる:
a)LiBH4(NH3)'4'+3LiH
⇔50℃⇔Li4BN310+NH3+3H2
b)LiBH4(NH3)'4'+5LiH
⇔50℃⇔Li4BN310+2LiH+NH3+3H2
⇔200℃⇔Li4BN310+Li2NH+2H2
⇔270〜350℃⇔Li3BN2+1.5Li2NH+0.5NH3+4H2
【0039】
反応温度は、LiBH4(NH3n、ここで0<n≦4、において、いくらかのLiが、1つまたは複数のNa、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含む金属と化学的に置換することにより制御されうることは理解されるであろう。例えば、LiBH4(NH3n中にいくらかのMgを含めば、NH3が化合物から外れるときの温度が上昇する。
【0040】
本発明の他の実施形態において、水素を2段階の工程で製造することができる。一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を20〜60℃で加熱することによって、NH2(R2)を製造することができる。ここでM1は1つまたは複数のNa、K、Li、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Al、GaおよびScを含み、0<n≦4、R2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。製造されたNH2(R2)はさらに金属水素化物と反応し水素が製造される。
【0041】
この実施形態において、NH2(R2)と金属水素化物のモル比は好ましくは1:1である。
【0042】
何らかの特定の理論に制約されるものではないが、下記の反応は、LiBH4(NH3nがまず加熱されてNH3を外し、さらに製造されたNH3が別の容器中でLiHと反応するときにおこると考えられる:
LiBH4(NH34+熱(54C)⇔LiBH4(s)+4NH3(g)
4NH3+8LiH⇔4Li2NH+8H2
【0043】
ここに記載した水素の2段階製造方法において、第1ステップは−20〜200℃の温度範囲において行われ、第2ステップは50〜300℃の温度範囲において行われることが好ましい。
【0044】
より好ましくは、第1ステップは−20〜100℃、20〜80℃、20〜60℃または40〜60℃の温度範囲において行われる。
【0045】
より好ましくは、第2ステップは50〜250℃、50〜200℃、50〜150℃または100〜150℃の温度範囲において行われる。
【0046】
しかし、本発明の水素の製造方法において用いられる温度は、出発化合物の具体的組成およびどの金属水素化物が用いられるかによって変化することは理解されるであろう。
【0047】
本発明の方法を燃料電池中で行うことができる。特に、ここに記載した化合物の水素貯蔵物質としての使用には、公知の水素貯蔵物質よりも多くの利点がある。例えば、固形状態で、例えば−20〜200℃で(具体的組成に応じて)、不活性雰囲気下で安全に便利に輸送することができる。さらに、金属水素化物を存在させずにM1(BH4)(NH22nを加熱して(NH22nを製造するとき、M1(BH4)を回収し、(NH22nと反応させてM1(BH4)(NH22nを再生することができる。
【0048】
本発明の他の態様においては、水素の製造装置が提供される。その装置は、
金属水素化物を含む貯蔵手段と、
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を含む収容手段と、
金属水素化物が一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nの化合物と接触する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。
【0049】
一実施形態において、本装置はさらに反応容器、金属水素化物を貯蔵手段から反応容器に移す手段、および化合物を収容手段から反応容器に移す手段を備えることができる。
【0050】
他の実施形態において、本装置はさらに前記金属水素化物を貯蔵手段から収容手段に移す手段を備えることができる。
【0051】
他の実施形態において、本装置はさらに一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nの前記化合物を収容手段から貯蔵手段に移す手段を備えることができる。
【0052】
本装置はさらに燃料電池、および製造された水素を燃料電池に移す手段を備えることができる。
【0053】
本発明の他の態様において、水素の製造装置が提供される。前記装置は、
金属水素化物を含む貯蔵手段と、
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を含む収容手段と、
前記化合物を加熱しNH2(R2)を製造する手段と、
製造されたNH2(R2)が金属水素化物と接触する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。
【0054】
一実施形態において、本装置はさらに第一反応容器、および一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nの前記化合物を収容手段から第一反応容器に移す手段を備えることができる。本化合物を前記反応容器中で加熱しNH2(R2)を製造することができる。
【0055】
本装置はさらに金属水素化物を第一反応容器に移す手段を備えることができる。製造されたNH2(R2)をそして、そのまま反応容器中で金属水素化物と反応させ水素を製造することができる。
【0056】
または、本装置はさらに第二反応容器、第一反応容器中で製造された前記NH2(R2)を第二反応容器に移す手段、および金属水素化物を貯蔵手段から第二反応容器中に移す手段、を備えることができる。
【0057】
本装置はさらに燃料電池、および製造された水素を燃料電池に移す手段、を備えることができる。
【0058】
本発明のさらなる態様においては、断熱熱ポンプが提供される。前記断熱熱ポンプは、
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物の収容手段と、
前記化合物を加熱しNH2(R2)を製造する手段と、
エネルギーを前記NH2(R2)から移す手段と、
前記製造されたNH2(R2)をリサイクルして前記出発化合物を再形成する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される。
【0059】
以下で本発明を、単なる一例として、下記の実施例および図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】より大きなLiBH4(NH3n相である組成式LiBH4(NH34のシンクロトロンX線回折データである。
【図2】組成式LiBH4(NH34およびLiBH4(NH32の両LiBH4(NH3n相のシンクロトロンX線回折データである。
【図3a】LiBH4のFTIRスペクトルである。
【図3b】組成式LiBH4(NH34であるLiBH4(NH3n相のFTIRスペクトルである。
【図4】組成式LiBH4(NH34であるLiBH4(NH3n相の固体NMRスペクトルである。
【図5】LiBH4(NH3n相(n=2および4)の温度走査シンクロトロンX線回折データである。
【図6】組成式LiBH4(NH34であるLiBH4(NH3n相の230および301の回折ピークの温度走査シンクロトロンX線回折データである。
【図7】組成式LiBH4(NH32であるLiBH4(NH3n相の400の回折ピークの温度走査シンクロトロンX線回折データである。
【図8】LiHと混合したときの組成式LiBH4(NH34であるLiBH4(NH3n相の230および301の回折ピークの温度走査シンクロトロンX線回折データである。
【図9】LiHと混合したときの組成式LiBH4(NH32であるLiBH4(NH3n相の400の回折ピークの温度走査シンクロトロンX線回折データである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0061】
「以下の実施例中で用いるLiBH4(NH3nの調製」
LiBH4(NH3nを複数の経路で合成することができる。
例えば、過剰のガス状アンモニアを不活性(アルゴンガス)環境中、室温で乾燥LiBH4上に流すことができる(反応式1参照)。
<反応式1>
LiBH4(s)+過剰のNH3(g)→室温→LiBH4(NH3n(s)
【0062】
特に、LiBH4(シグマアルドリッチ)をシュレンク管に入れ、真空ラインを取り付け10-3mbarまで排気することができる。そしてアンモニアガス(シグマアルドリッチ)をLiBH4上に12時間流し、過剰のアンモニアを動的真空により除き、さらに系にアルゴンガスを流入させる。
【0063】
または、乾燥LiBH4を乾燥液体アンモニアと−68℃で不活性(アルゴンガス)環境中処理してもよい(反応式2参照)。
<反応式2>
LiBH4(s)+過剰のNH3(l)
→−68℃/アルゴン→LiBH4(NH3n(s)
【0064】
例えば、LiBH4をシュレンク管に入れ、真空ラインを取り付け、10-3mbarまで排気し、そしてドライアイス/イソプロパノール浴中−68℃まで冷却することができる。そしてアンモニア(シグマアルドリッチ)ガスをLiBH4試料上へ液化させ、2時間反応させる。そして過剰のアンモニアを動的真空により除き、さらに系にアルゴンガスを流入させる。反応前後の物質はすべて酸素含量0.1ppm未満の精製アルゴングローブボックス中で取り扱った。
【0065】
「LiBH4(NH3nの特性解析」
LiBH4(NH3nを複数の方法、例えば、中性子回折、シンクロトロンX線回折、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法およびマジック角回転(MAS)核磁気共鳴(NMR)分光法によって特性解析することができる。
【0066】
中性子回折データには、試料を、NH3およびLiBH4の代わりに、ND3および11BエンリッチLiBD4から調製した。これらの試料を不活性な、アルゴン雰囲気グローブボックス中でバナジウム缶に入れ密封し、ラザフォード・アップルトン・ラボラトリー(Rutherford Appleton Laboratory)でGEM回折計を用いてデータを収集した。
【0067】
X線回折データには、試料を窒素雰囲気グローブバッグ中でホウケイ酸ガラスキャピラリー中に入れ密封し、グルノーブル(Grenoble)のESRFでID31回折計を用いてデータを収集した。
【0068】
「シンクロトロンX線研究I」
<合成>
反応(1)から得られた縮合相の試料(S1)からのX線回折データを図1に示す。ここで新しい相(相A)、組成LiBH4(NH34、は少量の未反応のLiBH4と共に同定される。相Aの結晶学的解析および指標付けはTOPASプログラムを用いて行われ、格子定数a=9.62Å、b=13.7504Åおよびc=4.442Åを有する空間群Pmmm中で斜方晶系相であることが明らかとなった。
【0069】
反応(2)から得られた縮合相の試料(S2)からのX線回折データを図2に示す。少量の未反応のLiBH4と共に2つの相の存在が示されており、一つは上記の相Aと同定され、もう一つは組成式LiBH4(NH32(相B)である。相Bの結晶学的解析および指標付けを再度TOPASプログラムを用いて行い、格子定数a=14.3424Å、b=5.969Åおよびc=4.464Åを有する空間群Pmmm中で斜方晶系相であることが明らかとなった。
【0070】
<FTIR>
フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルは、液体窒素冷却MCTB検出器を備えたNicolet Magna FTIRを用いて、相AおよびBのKBr錠試料から分解能2cm-1で得られた。アンモニア吸着前のLiBH4のFTIRスペクトルは、BH2変角振動に対応する1126cm-1のピーク、およびB−Ht(末端)伸縮振動に対応する2225cm-1、2238cm-1、2291cm-1および2386cm-1のピークを示した(図3a)。アンモニア吸着後のLiBH4のスペクトル(図3b)は、BH2変角振動が2つのピークに分裂して1122cm-1と1131cm-1に生じ、3つのB−Ht伸縮振動が2218cm-1、2311cm-1、2386cm-1に、LiBH4の2238cm-1の吸収が2233cm-1および2275cm-1の2つのピークに分裂して生じることを示し、このことはアンモニア種の配位によるものと思われる。新たな1197cm-1および3600〜3200cm-1領域のピークは吸着されたアンモニアのN−H振動に帰属される。
【0071】
<NMR>
固体11B NMRスペクトルは400MHz Varian Inova分光計により測定された。試料を3.2mm o.d.のローターにつめ、マジック角で10〜15KHzの速度で回転した。0.4〜1.4μsのパルス幅でデータを得た。未処理のLiBH4のプロトンデカップル固体11B NMRスペクトルは約−41.0ppmに単一中心遷移を与えるが、それはアンモニア吸着後(図4)は−40.4ppmに認められるので、ホウ素とアンモニア間に結合が形成されていないことを意味する。
【実施例1】
【0072】
「シンクロトロンX線回折研究II」
<温度走査アンモニア脱着>
2KごとにシンクロトロンX線回折データを取りながら、試料S2を室温(295K)から325Kまで加熱した。このデータを図5に示す。図6は相A(組成式LiBH4(NH34)の230および301の回折ピークを強調したこれらのデータの拡大である。これらのデータから相Aはほぼ317Kで分解し、319Kで完全に分解していることが明らかである。これは下記反応式;
LiBH4(NH34(s)→319K→LiBH4(s)+4NH3(g)
による相Aからのアンモニアの消失と一致し、したがってアンモニア脱離温度319K(46℃)に相応する。
【0073】
図7は温度に応じた相B(組成式LiBH4(NH32)の400の回折ピークを示す。相Bの分解は相Aの分解よりもかなり緩やかであることが明らかである。組成式LiBH4(NH34の物質(A)からアンモニアが消失して、LiBH4(NH32(B)が生じることが予測されるように、たとえ相Aが分解前に相Bに変化しても、相Aの分解温度(319K)の後も相Bの分解は引き続きゆっくり進むので、これは明らかである。図7の詳細な検討から、相Bは319Kと321Kの間で極めて少量の分解しかないことが示唆される。これはこの温度で相Aが相Bへ変換することと一致し、新しく生成した相Bが分解物と置換し、その結果、全体としてほとんどまたはまったく分解しないということ一致する。温度に応じた相Bの減少から図7において、327K(54℃)で完全に分解することが明らかに確認される。この分解は下記反応式;
LiBH4(NH32(s)→327K→LiBH4(s)+2NH3(g)
による相Bからのアンモニアの消失と一致する。327Kを超えてS2の加熱を続けるとキャピラリーが破裂した。
【0074】
したがって、LiBH4のアンミン(LiBH4(NH3n、0<n≦4)は、そのMgCl2対と等価またはより大きな重量アンモニアおよび水素密度を有し、明らかにそれよりかなり低い温度でアンモニアを脱離する。
【実施例2】
【0075】
「シンクロトロンX線回折研究IV」
<低温での水素製造>
約50℃でのLiBH4(NH34からの水素製造の証拠。
LiBH4とガス状アンモニアの反応(1)により製造された相A(LiBH4(NH34)を水素化リチウムと十分に混合し、アルゴン雰囲気下、50℃、100℃、150℃および200℃で加熱した。各温度におけるシンクロトロンX線回折研究により下記の反応;
LiBH4(NH3)'4'+4LiH
→Li4BN310+0.5LiNH2+0.5LiH+0.5NH3+.5H2
が起こり、重量水素密度が5.76wt%であることが示される。
【0076】
観測された反応は完全には進行しておらず、加えられた水素化リチウムの量に応じて化学量論的に異なる生成物を与え;
LiBH4(NH3)'4'+5LiH→Li4BN310+Li2NH+4H2
この場合、理論上最大の重量水素密度は6.2wt%であり、
LiBH4(NH3)'4'+3LiH→Li4BN310+NH3+3H2
この場合、理論上最大の重量水素密度は5.3wt%である。
【0077】
温度走査シンクロトロンX線回折データにおける組成LiBH4(NH34の230と301のピーク(図8)および組成LiBH4(NH32の400のピーク(図9)の解析から、LiH存在下での分解温度に有意な変化があることが分かる。LiH存在下ではLiBH4(NH34相およびLiBH4(NH32相ともに316K(43℃)で完全な分解が認められるが、それに対しLiHが存在しなければn=4で319K(46℃)、n=2で327K(54℃)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水素化物を一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物と反応させることを含むNH2(R2)の製造方法であって、
ここでM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、製造方法。
【請求項2】
金属水素化物を一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物と反応させることを含む水素の製造方法であって、
ここでM1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、製造方法。
【請求項3】
金属水素化物が1つまたは複数のLiH、NaH、KH、RbH、CsH、BeH2、MgH2、CaH2、SrH2、BaH2、ScH3、AlH3、GaH3、InH3、SnH4、SbH5、およびPbH4、BiH3を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属水素化物がLiHを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
金属水素化物が1つまたは複数の第一遷移元素(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)、第二遷移金属(Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd)および第三遷移元素(La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg)の水素化物を含む、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
2が水素である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
1がLiである、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
反応が0から400℃の温度範囲で行われる、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
反応が275から350℃の温度範囲で行われる、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を−20から150℃の温度にて加熱することを含むNH2(R2)の製造方法であって、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4;
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、方法。
【請求項11】
前記化合物を40から60℃の温度で加熱する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1または3〜11のいずれか一つに記載の方法を用いて製造された前記NH2(R2)の金属水素化物を反応させることを含む、水素の製造方法。
【請求項13】
金属水素化物が1つまたは複数のLiH、NaH、KH、RbH、CsH、BeH2、MgH2、CaH2、SrH2、BaH2、ScH3、AlH3、GaH3、InH3、SnH4、SbH5、およびPbH4、BiH3を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属水素化物がLiHを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
金属水素化物が1つまたは複数の第一遷移元素(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)、第二遷移金属(Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd)および第三遷移元素(La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg)の水素化物を含む、請求項12〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
燃料電池中で行われる、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
水素の製造装置であって、
金属水素化物を含む貯蔵手段と、
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を含む収容手段と、
金属水素化物が一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nの化合物と接触する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、製造装置。
【請求項18】
さらに燃料電池、および製造された水素を燃料電池に移す手段を備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
水素の製造装置であって、
金属水素化物を含む貯蔵手段と、
一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物を含む収容手段と、
前記化合物を加熱しNH2(R2)を製造する手段と、
製造されたNH2(R2)が金属水素化物と接触する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、製造装置。
【請求項20】
さらに燃料電池、および製造された水素を燃料電池に移す手段を備える、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
断熱熱ポンプであって、一般式M1x(BH4y(NH2(R2))nで表される化合物の収容手段と、
前記化合物を加熱しNH2(R2)を製造する手段と、
エネルギーを前記NH2(R2)から移す手段と、
前記製造されたNH2(R2)をリサイクルして前記出発化合物を再形成する手段と、を備え、
1は1つまたは複数のLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Al、GaおよびScを含み、
0<n≦4、
2は−H、アルキルおよび芳香族置換基を含み、
xおよびyは電気的中性を維持するように選択される、断熱熱ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−542576(P2009−542576A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518950(P2009−518950)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002558
【国際公開番号】WO2008/007068
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(507187802)ザ サイエンス アンド テクノロジー ファシリティーズ カウンシル (15)
【氏名又は名称原語表記】THE SCIENCE AND TECHNOLOGY FACILITIES COUNCIL
【住所又は居所原語表記】Harwell Innovation Campus, Rutherford Appleton Laboratory, Chilton, Didcot, Oxon OX11 0QX, UNITED KINGDOM
【Fターム(参考)】