説明

(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩の製造方法

【課題】下記式(1)で示される(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩を高効率で、高収率かつ高純度に精製することができ、しかも、有機溶媒の残渣をより少なくできる製造方法を提供する。


【解決手段】(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩を水中で晶析させることを特徴とする(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗アレルギー作用を示す医薬品となる(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】

【0004】
で示される(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(以下、「ベポタスチンベシル酸塩」とする場合もある)は、抗ヒスタミン剤として使用されている。そして、ベポタスチンベシル酸塩は、中枢神経に対する刺激、又は抑圧といった二次的効果が最小限に抑えられるという特徴を有しており、アレルギー性疾患用途の医薬品(原薬)として有用な化合物である。
【0005】
ベポタスチンベシル酸塩のような原薬は、医薬品の活性成分であり、含まれる不純物により薬害等を生じるおそれがあるため、非常に高純度であることが求められている。そして、上記のように有用なベポタスチンベシル酸塩は、工業的な観点から、より大規模なスケールで効率よく、安全に合成できる手法の開発が望まれている。
【0006】
従来、ベポタスチンベシル酸塩は、下記式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
で示される(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(以下、「ベポタスチンフリー体」とする場合もある)を一ベンゼンスルホン酸塩とした後、晶析を行うことで製造されている。
【0009】
具体的には、酢酸エチル中でベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを反応させ、一旦、脱水濃縮を行った後、酢酸エチル中で晶析させ、次いで、得られた結晶をアセトニトリル中で再度、晶析させることにより、ベポタスチンベシル酸塩を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。また、他の方法として、アセトニトリル中でベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物との塩を形成させ、そのまま、ベポタスチンベシル酸塩をアセトニトリル中で晶析させる方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−198784号公報
【特許文献2】国際公開第2008/153289号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1,2の方法に従えば、比較的、高純度でベポタスチンベシル酸塩を製造することができる。
【0012】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の方法では、晶析に使用する溶媒量がベポタスチンベシル酸塩1gに対して、8〜40mlであり、その量が非常に多かった。そのため、特に、ベポタスチンベシル酸塩を大量に生産する場合には、溶媒の使用量をより低減できる方法の開発が望まれていた。
【0013】
また、特許文献1に記載の方法では、ベンゼンスルホン酸一水和物を添加した後、一旦脱水濃縮を行う必要があり、また、酢酸エチル中で結晶が析出するまでに時間がかかり、効率的ではないという問題点があった。
【0014】
さらに、上記特許文献1、2に記載の方法では、毒性の高いアセトニトリルを最終晶析溶媒として使用するため、残留溶媒としてアセトニトリルがベポタスチンベシル酸塩に残留する懸念があった。そのため、晶析溶媒には、なるべく、安全性の高い溶媒の使用が望まれていた。
【0015】
従って、本発明の目的は、安全な晶析溶媒を使用し、かつその使用量も低減することができ、さらに、より高純度、高収率で生産性よくベポタスチンベシル酸塩を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、ベポタスチンベシル酸塩の精製において、水を用いて晶析を行った場合、少ない溶媒量で高収率、かつ高純度でベポタスチンベシル酸塩が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記式(1)
【0018】
【化3】

【0019】
で示される(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩を水中で晶析させることを特徴とする(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高収率、かつ高純度でベポタスチンベシル酸塩を得ることができる。具体的には、水を晶析溶媒として使用することにより、70%以上の収率、かつ99.80%以上の純度のベポタスチンベシル酸塩を製造することができる。なお、この純度は高性能液体クロマトグラフィー(以下、HPLCとする)で測定した際の面積%の値である。
【0021】
しかも、精製段階の最終工程で水による晶析を行えば、有機溶媒フリーのベポタスチンベシル酸塩を製造することができ、安全性も高めることができる。
【0022】
また、本発明によれば、晶析溶媒として酢酸エチル、あるいはアセトニトリルを使用した場合と比較して、遥かに少ない溶媒量でベポタスチンベシル酸塩の純度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(ベポタスチンベシル酸塩)を水中で晶析させることを特徴とするものである。以下、順を追って説明するが、先ず、晶析の対象物となるベポタスチンベシル酸塩(以下、粗ベポタスチンベシル酸塩とする場合もある)について説明する。
【0024】
(粗ベポタスチンベシル酸塩)
本発明おいて、晶析の対象となるベポタスチンベシル酸塩(粗ベポタスチンベシル酸塩)は、公知の方法で製造できる。粗ベポタスチンベシル酸塩としては、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とから製造されたものを対象とすることができる。
【0025】
上記ベポタスチンフリー体は、特に制限されるものではなく、公知の方法で製造することができる。例えば、上記特許文献1に記載されている通り、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸エチルを水酸化ナトリウム等の塩基の存在下、エタノール等の溶媒を用いて室温で加水分解することにより製造できる。
【0026】
また、ベンゼンスルホン酸一水和物は、市販にものをそのまま、場合によっては精製したものを使用することができる。
【0027】
ベポタスチンベシル酸塩は、上記ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを接触させ、塩を形成することにより製造できる。ベンゼンスルホン酸一水和物の使用量は、実質的にベポタスチンフリー体と1対1で塩が形成される範囲で使用すればよい。具体的には、使用するベポタスチンフリー体1モルに対して、1モル以上のベンゼンスルホン酸一水和物を使用することが好ましい。なお、ベンゼンスルホン酸一水和物は、湿体であり、正確な秤量が困難であること、および該水和物の添加による水分量の増加を考慮すると、少し過剰の量を使用することが好ましく、ベポタスチンフリー体1モルに対して、1〜5モル使用することがより好ましく、さらに、1〜2モル使用することが好ましい。
【0028】
上記ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを接触させて塩を形成するには、水、又は有機溶媒中で両者を接触させることが好ましい。また、必要に応じて、水、および有機溶媒の混合溶媒を使用することもできる。
【0029】
水を使用した場合には、そのまま、該水中でベポタスチンベシル酸塩の晶析を行えばよく、効率よく晶析を実施できる。この場合、水中で両者を接触させて得られるベポタスチンベシル酸塩が、晶析の対象となる粗ベポタスチンベシル酸塩に該当する。
【0030】
また、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とは有機溶媒中で接触させることもできる。使用可能な有機溶媒を例示すると、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステル類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類を挙げることができる。これらの中でも、アセトン、またはアセトニトリルを使用した場合には、それら溶媒中でベポタスチンベシル酸塩を結晶化させ易いため、操作性を向上することができ、さらには純度の高いものを得ることができる。特に、アセトニトリル中で両者を接触させ、粗ベポタスチンベシル酸塩を結晶化(晶析)させることにより、純度を高くすることができる。
【0031】
なお、水を使用して両者を接触させる場合、収量、操作性等を考慮すると、ベポタスチンフリー体1gに対して、水を3〜5ml使用することが好ましい。また、上記有機溶媒を使用して両者を接触させる場合、使用する溶媒に応じて適宜決定すればよいが、収量、操作性を考慮すると、通常、ベポタスチンフリー体1gに対して、有機溶媒を3〜15ml使用することが好ましい。
【0032】
ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物を接触させる方法としては、両者を混合して接触させればよい。具体的には、ベポタスチンフリー体を水や有機溶媒に分散させ、その分散体(該ベポタスチンフリー体が溶解した溶液の場合もある)にベンゼンスルホン酸一水和物の結晶(湿体)を添加して混合してもよいし、該結晶(湿体)を反応器に仕込んだ後、反応器に該分散体を加えて混合してもよい。また、ベンゼンスルホン酸一水和物を水や有機溶媒に溶解させた溶液と、ベポタスチンフリー体を水や有機溶媒に分散させた分散体とを混合することもできる。この場合、両者を添加する順序は、特に制限されるものではなく、溶液に分散体を添加してもよいし、分散体に溶液を添加することもできる。また、反応器に両者を同時に加えることもできる。
【0033】
ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを接触させて塩を形成させる際の温度は、特に制限はないが、1〜40℃、特に5〜25℃とするのが好ましい。また、塩を形成させるために要する時間は、通常、30分〜3時間である。
【0034】
このようにしてベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを接触させることにより、ベポタスチンベシル酸塩を製造することができる。得られたベポタスチンベシル酸塩は、水を使用して製造した場合には、そのまま水中でベポタスチンベシル酸塩を晶析させることができる。また、有機溶媒を使用して製造した場合には、溶媒を留去して得られた濃縮物を粗ベポタスチンベシル酸塩とすることもできるし、該有機溶媒中で結晶化させ、得られた結晶を粗ベポタスチンベシル酸塩とすることもできる。有機溶媒中で結晶化させることにより、より高純度の粗ベポタスチンベシル酸塩が得られるが、この場合、有機溶媒は、アセトン、またはアセトニトリルを使用することが好ましく、特にアセトニトリルを使用することが好ましい。
【0035】
なお、本発明において、粗ベポタスチンベシル酸塩は、特に制限されるものではないが、水、および有機溶媒を除き、通常、99.0〜99.8%の純度のものを対象とすることが好ましい。また、本発明の方法は、有機溶媒を含む粗ベポタスチンベシル酸塩を対象とする場合に効果的である。
【0036】
本発明においては、上記のような方法で得られた粗ベポタスチンベシル酸塩を水中で晶析させることを特徴とする。次に、この水、晶析条件等について説明する。
【0037】
(水、晶析条件)
本発明においては、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを水中で接触させた場合には、そのまま、水中でベポタスチンベシル酸塩を晶析させることができる。この場合、晶析したベポタスチンベシル酸塩の結晶は、そのまま分別することもできるし、再度、該水中で溶解させ、冷却してベポタスチンベシル酸塩を水中で晶析させることもできる。さらには、より高純度のベポタスチンベシル酸塩を得るために、晶析した結晶を取り出し、その結晶を粗ベポタスチンベシル酸塩として、再度、水で再結晶(水中で晶析)することもできる。
【0038】
一方、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを有機溶媒中で接触させた場合には、有機溶媒を留去し、得られた濃縮物(粗ベポタスチンベシル酸塩)を水に溶解させ、該水中でベポタスチンベシル酸塩を晶析させることにより、純度の高いものを得ることができる。また、有機溶媒中で粗ベポタスチンベシル酸塩の結晶を析出させ、得られた結晶(粗ベポタスチンベシル酸塩)を水に溶解させ、該水中で晶析させることもできる。何れの場合も、粗ベポタスチンベシル酸塩に含まれる有機溶媒は少ない方が好ましく、通常、粗ベポタスチンベシル酸塩中、0.1〜25質量%程度であることが好ましい。この範囲の有機溶媒量であれば、水中での晶析に悪影響を与えることがなく、しかも、晶析後、分取したベポタスチンベシル酸塩中の有機溶媒残渣を少なくすることができる。
【0039】
本発明においては、ベポタスチンベシル酸塩を水中で晶析させることが特徴である。他の溶媒、例えば、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを接触させる際に例示した有機溶媒を晶析溶媒とした場合には、ベポタスチンベシル酸塩が結晶となり難い。また、有機溶媒の中でもアセトン、またはアセトニトリルを晶析溶媒として使用した場合には、ベポタスチンベシル酸塩を結晶化させることができるが、この場合、得られた結晶からアセトン、またはアセトニトリルを高度に除去する必要があった。これに対し、本発明においては、水を使用するため、安全性の点で有利であり、さらに、ベポタスチンベシル酸塩を結晶とし易く、高純度のものを容易に製造できる。
【0040】
本発明で使用される水は、精製水、超純水、蒸留水、イオン交換水、水道水などが何ら制限なく使用できる。水の使用量としては、不純物の除去効率、およびバッチ当たりの収量の点から、粗ベポタスチンベシル酸塩に含まれるベポタスチンベシル酸塩1gに対して、0.7〜70mlとすることが好ましく、さらには、0.7〜35mlとすることが好ましい。ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物とを水中で接触させた場合にも、ベポタスチンベシル酸塩を晶析させる前に、水の量が上記範囲となるように調製することが好ましい。
【0041】
なお、晶析時には、高純度のベポタスチンベシル酸塩を得、後処理を簡略化するためには、水のみを使用することが好ましい。ただし、晶析に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒が含まれてもよい。例えば、ベポタスチンフリー体とベンゼンスルホン酸一水和物との接触を有機溶媒中で行った場合、得られた粗ベポタスチンベシル酸塩には有機溶媒が含まれる場合がある。本発明においては、この粗ベポタスチンベシル酸塩に含まれる有機溶媒を除外するものではない。そのため、粗ベポタスチンベシル酸塩が溶解し、ベポタスチンベシル酸塩を晶析する水には、水100質量部に対して、上記に例示した有機溶媒を好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは13質量部以下の範囲で含んでもよい。
【0042】
本発明においては、粗ベポタスチンベシル酸塩が水に溶解した水溶液を調製し、次いで、水を留去、あるいは水溶液を冷却することにより、ベポタスチンベシル酸塩の過飽和状態を形成し、水中で結晶化させる。高純度、および高いバッチ当たりの収量を確保するためには、上記水溶液調製時にその温度を40℃〜70℃まで昇温し、水溶液が均一溶液となった後、該水溶液を冷却することが好ましい。冷却速度はあまり速いと純度が向上せず、あまり遅くても効率的ではないため、好ましくは1〜50℃/hr、さらに好ましくは5〜40℃/hrで冷却する。この際、ベポタスチンベシル酸塩が晶析し難い場合には、種結晶を添加することもできる。
【0043】
また、水溶液を冷却した際の最終到達温度は、純度、および生成効率の観点からは、水溶液が凍結しない温度以上30℃以下とすることが好ましく、さらには0〜30℃とすることが好ましく、特に1〜15℃とするのが好ましい。最終到達温度で1〜2時間保持することにより高純度のベポタスチンベシル酸塩を高収率で回収することができる。
【0044】
以上のようにして水中で晶析させたベポタスチンベシル酸塩の結晶は、公知の方法、具体的には、ろ過や遠心分離などにより固液分離した後、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などの乾燥処理を行うことにより、単離することができる。
【0045】
本発明の方法によれば、水中でベポタスチンベシル酸塩を晶析するため、安全性の高いものを得ることができる。本発明の方法の後に、他の有機溶媒で晶析したり、カラム処理してベポタスチンベシル酸塩を精製することもできるが、本発明の方法は、ベポタスチンベシル酸塩を製造するに際し、最終精製工程に適用させることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
まず、ベポタスチンフリー体のHPLC測定条件について説明する。
【0048】
(ベポタスチンフリー体HPLCの測定条件)
装置:WATERS社製2695−2996−2489
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:225nm)
カラム:GLサイエンス社製 商品名 Inertsil ODS−3、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径5μm)
カラム温度:40℃ 一定温度
サンプル温度:25℃ 一定温度
移動相A:りん酸ニ水素カリウム4.9gを水1800mlに溶かし、アセトニトリル20mlを加え、10%りん酸を加えてpH3.8に調整する。
移動相B:りん酸ニ水素カリウム4.2gを水800mlに溶かし、アセトニトリル1200mlを加え、10%りん酸を加えてpH3.8に調整する。
移動相の送液:移動相A、および移動相Bの混合比を表1に示すように変化させて濃度勾配制御し、サンプルを分析した。移動相A、移動相Bの合計流量は1.2ml/分とした。
表1にグラジエントの溶媒組成をまとめた。
【0049】
【表1】

【0050】
(上記HPLC分析による結果)
ベンゼンスルホン酸:約2分にピークが観察される。
(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体):約20分にピークが観察される。
(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸エチル:約42分にピークが観察される。
【0051】
次に、ベンゼンスルホン酸の定量方法について説明する。
(HPLC条件(ベンゼンスルホン酸の定量))
装置:WATERS社製2695−2996−2489
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:GLサイエンス社製 商品名 Inertsil ODS−3、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径5μm)
カラム温度:40℃ 一定温度
サンプル温度:25℃ 一定温度
移動相:酢酸アンモニウム7.7gを水1000mlに溶かし、アセトニトリル500mlを加え、酢酸20mlを加える。
流速:1.0ml/分
ベンゼンスルホン酸:約2分にピークが観察される。
【0052】
(定量(測定法))
先ず、ベンゼンスルホン酸0.01mol/l〜0.1mol/lの溶液を調製し、上記HPLC分析により検量線を作成した。実施例、比較例で得られたベポタスチンベシル酸塩20mgを3mlの移動相に溶かし、上記HPLC分析を行った。検量線によりベンゼンスルホン酸とベポタスチンフリー体の比を求めた。
【0053】
なお、以下の実施例、比較例において、ベポタスチンベシル酸塩のHPLC純度は、ベンゼンスルホン酸とベポタスチンフリー体が1:1の割合で存在することを確認し、そのベンゼンスルホン酸の量を考慮して(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の純度を換算して求めた値である。
【0054】
製造例1
(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸エチルの合成
(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシピペリジン2.45g(8.09mmol)をアセトン19.6mlに溶解し、4−ブロモブタン酸エチル1.89g(9.71mmol)と炭酸カリウム1.34g(9.71mmol)を加えて、窒素雰囲気下5時間加熱還流攪拌した。原料の消失を確認後、反応液を室温まで冷却して不溶物を濾別し、濾液を減圧下で濃縮して油状物の(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸エチル3.67g(収率99.3%)を得た。
【0055】
製造例2(ベポタスチンフリー体の製造)
(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体)の合成
製造例1で得られた(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸エチル3.67gをエタノール22.0mlに溶解し、5N水酸化ナトリウム水溶液1.6mlを加えて室温で1時間攪拌した。原料の消失を確認した後、氷冷下1N塩酸16.2mlを加えて中和した。反応混合物を減圧下で濃縮し、残渣をクロロホルムで2回抽出した。抽出に使用したクロロホルムを全て合わせ、水で洗浄し、減圧下で濃縮して油状物の(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体)2.78g(HPLC純度99.339%、収率88.4%)を得た。
【0056】
実施例1
製造例2で得られた(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体)0.87g(2.24mmol)を蒸留水2.61mlに溶解し、ベンゼンスルホン酸一水和物0.43g(2.46mmol)を加えて室温で30分間攪拌すると結晶が析出した。反応液(水溶液)を60℃に昇温し結晶を溶解させた後、系内(水溶液)を10℃/hrで5℃まで冷却し、さらに5℃で1時間攪拌を行い、結晶を析出させた。得られた結晶をろ過し、真空で12時間乾燥し、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(ベポタスチンベシル酸塩)の白色結晶0.87g(収率71.0%)を得た。HPLCにより純度を確認したところ、99.879%であった。
【0057】
実施例2
実施例1の蒸留水を水道水に代えて行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(ベポタスチンベシル酸塩)の白色結晶0.88g(収率71.5%)を得た。HPLCにより純度を確認したところ、99.877%であった。
【0058】
実施例3
(アセトニトリル中での粗ベポタスチンベシル酸塩の製造)
製造例2で得られた(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体)0.87g(2.24mmol)をアセトニトリル7.83mlに溶解し、ベンゼンスルホン酸一水和物0.43g(2.46mmol)を加えて室温で30分間攪拌すると結晶が析出した。結晶をろ別してアセトニトリルを留去した。得られた粗ベポタスチンベシル酸塩は、HPLC純度99.772%、アセトニトリルを18.7質量%含んでいた。
【0059】
(水中での晶析)
前記粗ベポタスチンベシル酸塩1.5gに蒸留水を3.48ml加え、得られた水溶液を60℃に昇温し粗ベポタスチンベシル酸塩を完全に溶解させた後、該水溶液を10℃/hrで5℃まで冷却し、さらに5℃で1時間攪拌を行い、結晶を析出させた。得られた結晶をろ過し、真空で12時間乾燥させ、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(ベポタスチンベシル酸塩)の白色結晶0.86g(収率70.2%)を得た。HPLCにより純度を確認したところ、99.921%であった。結果を表2に示した。
【0060】
実施例4
(アセトン中での粗ベポタスチンベシル酸塩の製造)
製造例2で得られた(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチンフリー体)0.87g(2.24mmol)をアセトン7.83mlに溶解し、ベンゼンスルホン酸一水和物0.43g(2.46mmol)を加えて室温で30分間攪拌すると結晶が析出した。結晶をろ別してアセトンを留去した。得られた粗ベポタスチンベシル酸塩は、HPLC純度99.329%、アセトンを18.3質量%含んでいた。
【0061】
(水中での晶析)
前記粗ベポタスチンベシル酸塩1.5gに蒸留水を3.48ml加え、得られた水溶液を60℃に昇温し粗ベポタスチンベシル酸塩を完全に溶解させた後、該水溶液を10℃/hrで5℃まで冷却し、さらに5℃で1時間攪拌を行い、結晶を析出させた。得られた結晶をろ過し、真空で12時間乾燥させ、(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(ベポタスチンベシル酸塩)の白色結晶0.87g(収率71.0%)を得た。HPLCにより純度を確認したところ、99.812%であった。結果を表2に示した。
【0062】
比較例1〜8
実施例3で製造したアセトニトリル中で製造した粗ベポタスチンベシル酸塩を晶析の対象とした。表2に有機溶媒の種類、その使用量、粗ベポタスチンベシル酸塩を溶解させた際の温度(昇温後の温度、表2には加熱温度とした)で粗ベポタスチンベシル酸塩の晶析を試みた。溶媒の使用量は、粗ベポタスチンベシル酸塩と有機溶媒を混合し、加熱温度まで昇温した際に均一な溶液となる最小量を記載した。また、表2において、結晶析出欄に○としたものは、結晶が得られたものを指し、×としたものは、結晶が得られずオイル状物となったものを指す。
【0063】
なお、その他の条件、溶液の冷却速度、到達温度、その温度における保持時間、攪拌条件、ろ過、および乾燥条件等は実施例3と同様の操作を行った。
【0064】
【表2】

【0065】
比較例9〜16
実施例4で製造したアセトン中で製造した粗ベポタスチンベシル酸塩を晶析の対象とした。表3に有機溶媒の種類、その使用量、粗ベポタスチンベシル酸塩を溶解させた際の温度(昇温後の温度、表3には加熱温度とした)で粗ベポタスチンベシル酸塩の晶析を試みた。溶媒の使用量は、粗ベポタスチンベシル酸塩と有機溶媒を混合し、加熱温度まで昇温した際に均一な溶液となる最小量を記載した。また、表3において、結晶析出欄に○としたものは、結晶が得られたものを指し、×としたものは、結晶が得られずオイル状物となったものを指す。
【0066】
なお、その他の条件、溶液の冷却速度、到達温度、その温度における保持時間、攪拌条件、ろ過、および乾燥条件等は実施例4と同様の操作を行った。
【0067】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で示される(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩を水中で晶析させることを特徴とする(S)−4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩の製造方法。

【公開番号】特開2011−195500(P2011−195500A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63958(P2010−63958)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】