説明

(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法

【課題】 (Z)−7−テトラデセン−2−オンを簡便かつ工業的に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】
1,3−ジブロモプロパンを出発物質とし、1,3−ジブロモプロパンと1−オクチンから1−ブロモ−4−ウンデシンを製造する第一工程と、1−ブロモ−4−ウンデシンから3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンを製造する第二工程と、3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンから7−テトラデシン−2−オンを製造する第三工程と、7−テトラデシン−2−オンから(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する第四工程を逐次実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セマダラコガネ(Anomala orientalis Waterhouse)の幼虫は、主に芝の根を食害し、ゴルフ場などで大きな被害を与えている。幼虫は地中で活動しているため、殺虫剤を使った防除では、薬剤が地中まで届きにくく効果的に被害を抑えることが困難である。そこで、殺虫剤の効果が十分得られる地表付近で活動する成虫期に防除することが極めて重要となる。成虫期を的確に知るためには、性フェロモンを使った発生予察が効果的である。
【0003】
セマダラコガネの性フェロモンは1993年に単離、構造決定され、(Z)−7−テトラデセン−2−オンと(E)−7−テトラデセン−2−オンの2種類であることが明らかとなっている。(Journal of Chemical Ecology, 20[7], 1705−1718, 1994)
【0004】
(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法としては、(製法1)(Z)−7−トリデセン−1−オールを出発原料に(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する方法(Journal of Chemical Ecology, 20[7], 1705−1718, 1994)、(製法2)5−カルボキシペンチルトリフェニルホスホニウムブロミドにメチルリチウムを用いたWittig反応により、(E)及び(Z)−7−テトラデセン−2−オンの混合物を得る方法(特開平6−239705号公報)、(製法3)1−オクチンのリチウム塩を出発原料として(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する方法(Naturwissenschaften 80, 86−87, 1993)、(製法4)酸化反応にクロム酸を使用して、(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する方法(特開2000−229962号公報)、(製法5)ワッカー酸化反応を用いて、(Z)−7−テトラデセン−2−オンを得る方法(特開2004−300111号公報)等が知られている。
【特許文献1】特開平6−239705号公報
【特許文献2】特開2000−229962号公報
【特許文献3】特開2004−300111号公報
【非特許文献1】Journal of Chemical Ecology, 第20巻, 第7号, 1705−1718頁, 1994年
【非特許文献2】Naturwissenschaften 第80巻, 86−87頁, 1993年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製法1は、高価な原料を使用しているという問題点、製法2は、シス−トランス比の制御が困難であり工業生産に適さないという問題点、製法3は副反応が多いという問題点、製法4は、原料が高価であり、工程数が7工程と長く、発がん性があるクロム酸を使用するという問題点をそれぞれ有する。また、製法5は、各工程でシリカゲルを用いたクロマトグラフィーによる精製をしているため工業生産には適さないという問題点と高価な6−ブロモ−1−ヘキセンを出発物質に使用しているという問題点を有する。
【0006】
本発明は、従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、クロマトグラフィーによる精製をすることなく、安価な原料を使って、(Z)−7−テトラデセン−2−オンを簡便かつ工業的に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0008】
第一に、1,3−ジブロモプロパンを出発物質とすることを特徴とする(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
第二に、1,3−ジブロモプロパンと1−オクチンから1−ブロモ−4−ウンデシンを製造する第一工程と、1−ブロモ−4−ウンデシンから3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンを製造する第二工程と、3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンから7−テトラデシン−2−オンを製造する第三工程と、7−テトラデシン−2−オンから(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する第四工程から構成されることを特徴とする、(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
第三に、前記第二工程で3−オキソブタン酸エチルを用いて増炭反応を行うことを特徴とする、上記第二に記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
第四に、前記第三工程でアルカリ加水分解、脱炭酸を行うことを特徴とする、上記第二または第三に記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
第五に、前記第二工程と第三工程を経てケトンを簡便に導入することを特徴とする、上記第二から第四のいずれか1つに記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
【0009】
本発明の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法は図1に示すように、第一工程から第4工程からなる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
第一工程は、出発物質である1,3−ジブロモプロパンに対して、1−オクチンとn−ブチルリチウム(n−BuLi)から調製される1−オクチニルリチウムを反応させる。1−オクチンを溶媒に溶かし、−30℃〜5℃の温度でn−BuLiのヘキサン溶液を滴下した後、15分〜1時間撹拌する。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、n−ヘキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ジメチルイミダゾール(DMI)等を用いることができる。n−BuLiの使用量は、1−オクチンに対して、1〜1.5当量の範囲である。この反応溶液に1,3−ジブロモプロパンを滴下し、続いてHMPAを滴下した後に、自然に室温まで昇温させながら12時間から20時間撹拌する。1,3−ジブロモプロパンの使用量は1−オクチンに対して1〜2当量の範囲であり、また、HMPAの使用量は溶媒に対して10%容量〜100%容量の範囲である。氷水浴で冷やし、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終了させる。室温に戻してヘキサンで抽出し、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液等で洗浄し、減圧濃縮する。残渣を蒸留して、1−ブロモ−4−ウンデシンを得ることができる。また、1,3−ジブロモプロパンを出発物質にすることにより安価に製造することができ、工業生産に適している。
【0011】
第二工程は、3−オキソブタン酸エチルを使用して増炭反応を行う。溶媒中に水素化ナトリウム(NaH)を加え、5分〜10分撹拌する。溶媒としては、THF、DMF、DMSO等を用いることができる。NaHの代わりとしては、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウム−t−ブトキシドを用いることができる。この溶液に3−オキソブタン酸エチルをゆっくりと滴下する。滴下後、10〜30分間撹拌する。次に、溶媒に溶解させた1−ブロモ−4−ウンデシンを滴下した後に、反応溶液を40℃〜60℃に加熱し、2時間〜6時間撹拌する。この反応溶液を室温まで冷却した後に、希塩酸を加えて反応を終了させる。エーテルで抽出した後に、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液等を使って洗浄することにより、3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンを得ることができる。NaHの使用量は、3−オキソブタン酸エチルに対して1〜1.5当量の範囲であり、3−オキソブタン酸エチルの使用量は1−ブロモ−4−ウンデシンに対して1〜1.5当量の範囲である。
【0012】
第三工程は、アルカリ加水分解と脱炭酸を行う。3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンを溶媒に溶かし、−5℃〜5℃の範囲で水酸化カリウムを加える。溶媒は水とメタノールの混合溶媒を用い、比率は水:メタノール=10:1〜1:10の間である。水酸化カリウムの代わりとしては、水酸化ナトリウムを用いることができる。反応溶液を室温まで徐々に昇温させて、12時間から20時間撹拌する。水酸化カリウムの使用量は3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンに対して1〜1.5当量である。反応溶液にヘキサンと水を加えて撹拌し、水層を取り出す。水層をヘキサンで洗浄した後に、水層に濃塩酸を少しずつ加えて、酸性にする。この水層をエーテルで抽出後、水、飽和塩化ナトリウム水溶液等で洗浄し、濃縮する。得られた残渣を100℃〜120℃に加熱し、1時間〜4時間撹拌する。室温まで冷やし、エーテルを加えて希釈し、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等で洗浄することにより、7−テトラデシン−2−オンを得ることができる。
【0013】
第二工程から第三工程にかけての反応で、ケトン部を容易に導入することができる。ケトン部の導入には従来、クロム酸による酸化やワッカー酸化が用いられていたが、いずれも有害な重金属を使用する。本発明によれば、有害な重金属を使用することなく、また、クロマトグラフィーによる精製の必要もなくケトン部を導入することができる。
【0014】
第四工程は、接触水素添加反応を用いて、選択的にシスの二重結合を変換する。パラジウム−硫酸バリウム(Pd−BaSO)、キノリン、メタノールを混合した懸濁液に7−テトラデシン−2−オンを加える。この懸濁液を−5℃〜10℃に冷却し、反応容器内を水素で置換する。水素雰囲気下で、1時間〜4時間激しく撹拌する。パラジウム−硫酸バリウムの使用量は、7−テトラデシン−2−オンに対して1%重量〜5%重量であり、キノリンの使用量は、7−テトラデシン−2−オンに対して50%重量〜200%重量である。反応終了後、反応液を濾過し、濾液を希塩酸で希釈し、エーテルで抽出する。有機層を希塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液等で洗浄し、濃縮することによって、(Z)−7−テトラデセン−2−オンを得ることができる。
【0015】
第一工程では、蒸留により精製し、第二工程から第四工程では、精製することなく、(Z)−7−テトラデセン−2−オンを純度95%以上で製造できる。
【発明の効果】
【0016】
以上、詳しく説明したように、本発明によれば、シリカゲルを用いたクロマトグラフィーで精製することなく、また、安価な出発物質を使用して、簡便にかつ工業的に高純度の(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を用いて、図1を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0018】
(第一工程)
1−オクチン(125g)をTHF(700ml)に溶かし、氷水浴で冷やし、撹拌した。この溶液にn−BuLiのヘキサン溶液(1.6M溶液)(710ml)をゆっくりと滴下し、滴下後30分間撹拌した。反応液に1,3−ジブロモプロパン(228g)を滴下し、続いてHMPA(200ml)を滴下した。滴下後、氷水浴を外し、室温まで自然に昇温させながら、16時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終了させ、ヘキサンで3回抽出し、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を減圧蒸留(77℃〜80℃/1Torr)して1−ブロモ−4−ウンデシン(128g,化学純度=99.0%)を得た。
【0019】
(第二工程)
DMSO(1500ml)が入った反応容器にNaH(40g)を加え、3−オキソブタン酸エチル(153g)をゆっくりと滴下した。滴下後、15分間さらに撹拌し、1−ブロモ−4−ウンデシン(210g)のDMSO(100ml)溶液を滴下した。滴下後、50℃に加熱し、4時間撹拌し、室温まで冷却した後に希塩酸を加えて、反応を終了させた。エーテルで3回抽出し、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、濾過し、濾液を減圧濃縮することにより、3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オン(323g)を得た。
【0020】
(第三工程)
3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オン(323g)にメタノール(480ml)と水(360ml)を加え、氷水浴で冷やし、水酸化カリウム(43.7g)を加えた。室温まで徐々に昇温させながら18時間撹拌した。反応溶液にヘキサン(約500ml)と水(約500ml)を加え撹拌した。水層を取り出し、ヘキサンで洗浄し、水層に濃塩酸(138g)を少しずつ加えて、酸性にした。この水層をエーテルで3回抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を100℃〜110℃に加熱し、2時間、加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、エーテル(約600ml)を加え、炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、濾過し、濾液を減圧濃縮することにより、7−テトラデシン−2−オン(112g,化学純度=97.9%)を得た。
【0021】
(第四工程)
パラジウム−硫酸バリウム(1.96g)とキノリン(112g)とメタノール(1500ml)を混合した懸濁液に7−テトラデシン−2−オン(112g)を加えた。この懸濁液を氷水浴で冷却し、反応容器内を水素で置換した。水素雰囲気下、激しく撹拌し2時間後ガスクロマトグラフィーで反応の終了を確認した。濾過し、濾液を減圧濃縮し、残渣に1N希塩酸(約400ml)を加えた。エーテルで3回抽出し、有機層を希塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム、飽和塩化ナトリウムの順に洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、濾過し、濾液を減圧濃縮することにより、(Z)−7−テトラデセン−2−オン(111g,化学純度=96.5%)を得た。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジブロモプロパンを出発物質とすることを特徴とする(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
【請求項2】
1,3−ジブロモプロパンと1−オクチンから1−ブロモ−4−ウンデシンを製造する第一工程と、1−ブロモ−4−ウンデシンから3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンを製造する第二工程と、3−エトキシカルボニル−7−テトラデシン−2−オンから7−テトラデシン−2−オンを製造する第三工程と、7−テトラデシン−2−オンから(Z)−7−テトラデセン−2−オンを製造する第四工程から構成されることを特徴とする、(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
【請求項3】
前記第二工程で3−オキソブタン酸エチルを用いて増炭反応を行うことを特徴とする、請求項2に記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
【請求項4】
前記第三工程でアルカリ加水分解、脱炭酸を行うことを特徴とする、請求項2または3に記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。
【請求項5】
前記第二工程と第三工程を経てケトンを導入することを特徴とする、請求項2から4のいずれか1つに記載の(Z)−7−テトラデセン−2−オンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143865(P2008−143865A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334853(P2006−334853)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(391020584)富士フレーバー株式会社 (16)
【Fターム(参考)】