説明

1−ヒドロキシ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法

1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法であって、ステップ(ii)からなる方法。ステップ(ii):塩化メチルマグネシウムを用いて3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。得られる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の調製に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。この生成物は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の製造において反応中間体として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、及びその薬剤学的に許容可能な塩は、耳鳴症や眼震症といった疾患および症状を患う患者の持続的な治療のための有用な薬剤である。
【0003】
これらの薬剤を調製する複数の方法が既に知られている。
【0004】
一の方法においては、市販のイソホロンを、次の反応スキームによる5つのステップからなる一連の反応(反応シーケンス)により、ネラメキサンに変換する(W.Danyszら; Current Pharmaceutical Design, 2002, 8, 835-843)。
【化1】

【0005】
上記反応シーケンスの第一ステップにおいては、塩化銅触媒を用いたヨウ化メチルマグネシウムの共役付加によって、イソホロン(1)を3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)に変換する。目標化合物の収率は78重量%である。
【0006】
第二ステップ(ステップ(ii))においては、ヨウ化メチルマグネシウムを用いて3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)を1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサノール(3)に変換する。
【0007】
また、イルゲンソンスら(European Journal of Medicinal Chemistry, 35, 555-565 (2000))は、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンと、ハロゲン化メチルマグネシウムとの反応により1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを製造することを開示している。前記生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製された。
【0008】
前記反応シーケンスの第三ステップにおいては、クロロアセトニトリルによりリッター反応にて、前記シクロヘキサノール(3)を1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(6)に変換する。
【0009】
続く第四ステップにおいては、酢酸中にてチオ尿素でもってアミド(6)中のクロロアセトアミド基を開裂させる。反応シーケンスの最後である第五ステップにおいては、得られたアミンを塩酸でもって酸性化することで、塩酸塩型の1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)(7)を生成させる。
【0010】
国際公開WO99/001416は、ヨウ化アルキルマグネシウムを用いてアルキルシクロヘキサノールを調製することを開示している。
【0011】
米国特許US4126140は、テトラヒドロフラン中にて、イソホロンと塩化メチルマグネシウムとを反応させることにより1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサ-1,3-ジエンを調製することを開示している(実施例1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO99/001416
【特許文献2】米国特許US4126140
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】W. Danyszら、Current Pharmaceutical Design, 8, 835-843 (2002).
【非特許文献2】Jirgensonsら、European Journal of Medicinal Chemistry, 35, 555-565 (2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一の目的は、経済的な工業規模での有利な実施を可能とする、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製方法を提供すべく、上述の反応シーケンスにおける一つ一つの反応ステップのうちの一つまたは複数について、改良を加えることにある。他の目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を製造する過程で生成する、廃棄物および/または未反応物質(すなわち、これらの少なくとも一方)の量を最小化することである。さらなる目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩についての、収率および/または選択性および/または生成物の品質(すなわち、これらのうちのいずれか、または任意の組み合わせ)につき、最適化または改善することである。特には、本願は、上記のステップ(ii)について、すなわち、3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサノンから1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンへ変換する反応について、改良を加えようとするものである。このような改良された方法は、経済的な工業規模でネラメキサン、またはその薬剤学的に許容可能な塩を有利に製造する上での必要条件であると考えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの改良された合成法に関する。この化合物は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、またはその薬剤学的に許容可能な塩を製造する際の反応中間体である。
【0016】
具体的には、本発明は、ステップ(ii)からなる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの調製法に関する。:
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【0017】
一実施形態において、ステップ(ii)にて、塩化メチルマグネシウムとエーテルとを含む混合物を、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンと反応させる。
【0018】
他の一実施形態において、ステップ(ii)にて、塩化メチルマグネシウムとエーテルとを含む混合物に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを添加する。
【0019】
一実施形態において、前記エーテルはテトラヒドロフランである。
【0020】
一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとテトラヒドロフランとを含む混合物を、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとを含む混合物に添加する。
【0021】
一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンの1モル当量当たり、1.2〜1.75モル当量の塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0022】
一実施形態において、温度を0℃から30℃の範囲内、または15℃から25℃の範囲内に維持する。
【0023】
本発明は、また、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンから1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンへの変換のために塩化メチルマグネシウムを使用することに関する。
【0024】
前記使用についての一実施形態において、塩化メチルマグネシウムをテトラヒドロフランに溶解する。
【0025】
他の態様において、本発明は、ステップ(ii)からなる、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩(例えば塩酸塩またはメシラート)の調製法に関する。:
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【0026】
一実施形態において、前記塩化メチルマグネシウムは塩化エチルマグネシウムを含有しない。
【0027】
一の態様において、本発明は、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩を実質的に含まない、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩に関する。また、場合によっては、任意選択で1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩をも実質的に含まないものに関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、それ以上精製することなく上述の反応シーケンスにおける次のステップ(iii)で使用するのに十分な純度の生成物が高収率で得られるということが、期せずして明らかとなった。すなわち本発明の方法によれば、本願の背景技術のセクションで述べたネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を生産する公知の方法が簡略化される。本発明の方法は、経済的な工業規模で有利に実施され得る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンから1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。
【0030】
具体的には、本発明は、ステップ(ii)からなる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの調製法に関する。:
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【0031】
塩化メチルマグネシウムはグリニャール試薬である。前記塩化メチルマグネシウムは、マグネシウムと塩化メチルとを反応させることにより製造することができる。
【0032】
通常、ステップ(ii)の反応は溶媒中で実施する。
【0033】
一実施形態において、前記溶媒はエーテルを含有するか、またはエーテルである。
【0034】
エーテルは、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、またはテトラヒドロフランから選択することができる。
【0035】
一実施形態において、前記エーテルはテトラヒドロフランである。
【0036】
本発明の方法の一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに塩化メチルマグネシウムを添加する。
【0037】
他の一実施形態において、塩化メチルマグネシウムに3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを添加する。
【0038】
一実施形態において、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのテトラヒドロフラン溶液に、塩化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液を添加する。
【0039】
他の一実施形態において、塩化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのテトラヒドロフラン溶液を添加する。
【0040】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中における塩化メチルマグネシウムの濃度は、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとのトータルの量を基準として、15〜30重量%または20〜25重量%である。
【0041】
一実施形態において、テトラヒドロフラン中のおける塩化メチルマグネシウム濃度は、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとのトータルの量を基準として、23重量%である。
【0042】
したがって、一実施形態において、塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとを含む混合物と、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとテトラヒドロフランとを含む混合物とを反応させる。
【0043】
一実施形態において、1モル当量の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン当たり、1モル当量よりも多い(例えば1.1〜2.0モル当量の)塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0044】
他の一実施形態において、1モル当量の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン当たり、1.2〜1.75モル当量の塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0045】
一実施形態において、塩化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのテトラヒドロフラン溶液を添加する。塩化メチルマグネシウムの量は、1モル当量の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン当たり1.2〜1.75モル当量である。
【0046】
一実施形態において、前記変換は、温度の管理・調整が可能であるようにして実施する。
【0047】
一実施形態において、前記変換は、温度が比較的狭い温度範囲に維持され得るようにして実施する。
【0048】
一実施形態において、ステップ(ii)の変換は、−5℃から30℃、0℃から30℃、0℃から25℃、0℃から20℃、5℃から20℃、10℃から25℃、または15℃から25℃の温度にて実施する。
【0049】
選択した温度範囲を維持することができる場合には、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンに対して前記グリニャール試薬を比較的迅速に添加することができる。続いて起こる反応は、通常、比較的速く進行する。この反応は、通常、使用する反応温度に依存して3時間または2時間で、または1時間だけでも終了し得る。
【0050】
この反応の後に、過剰分のグリニャール試薬を分解すべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解すべく、反応後の反応混合物を水で処理するのであっても良い。
【0051】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの形成を助けるべく、塩酸といった酸、またはアンモニウム塩を添加する。
【0052】
一実施形態において、形成された有機層を水層から分離する。次に揮発性有機化合物を減圧下で除去することにより、前記有機層を濃縮することができる。残留物が粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンである。
【0053】
一実施形態において、ステップ(ii)で形成された1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、適当な有機溶媒(例えば塩化メチレン、トルエンまたは石油エーテル)でもって上記の水性混合物につき抽出を行うことによって得られる。抽出後、この溶媒を蒸留により除去する。粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを含有する残留液を、精製せずにそのまま反応シーケンスのステップ(iii)に用いることができる。
【0054】
他の一実施形態において、抽出後に前記抽出物を公知の方法により乾燥(脱水)することができる。例えば硫酸ナトリウムによって抽出物を乾燥することができる。この硫酸塩をろ過により分離した後、前記溶媒を蒸留により除去することもできる。粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを含有する残留液を、精製せずにそのまま反応シーケンスのステップ(iii)に用いることができる。
【0055】
通常、ステップ(ii)における、目標化合物1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は高い。
【0056】
一実施形態において、粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は、90重量%と100重量%との間の範囲内である。
【0057】
一実施形態において、前記粗生成物中における目標化合物1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの含量は、ガス液体クロマトグラフィーを用いた測定で、94重量%以上である。
【0058】
一実施形態において、得られた粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを、例えば蒸留またはクロマトグラフィーによりさらに精製することができる。
【0059】
しかし、グリニャール試薬として塩化メチルマグネシウムを用いて得られる前記粗製目標化合物は高純度であるので、前記反応シーケンスの次ステップ(背景技術のセクションに記載の第三ステップ)においては前記目標化合物を粗生成物のままで、すなわち、蒸留精製もクロマトグラフィー精製もされていないか、または全く未精製の生成物のままで用いることができる。
【0060】
したがって、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンから1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンへの変換に塩化メチルマグネシウムを使用することは、臭化メチルマグネシウムおよびヨウ化メチルマグネシウムをそれぞれ使用するよりも有利である。このことは、具体的には、高収率が達成可能であることと、得られた化合物を背景技術のセクションに記載の反応シーケンスにおいて粗生成物のままで利用し得ることとに関係する。このことは、特に工業的な実施の観点から有利である。
【0061】
したがって、本発明は、3,3,5,5-テトラチルシクロヘキサノンから1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンへの変換に塩化メチルマグネシウムを使用することにも関連する。
【0062】
このような使用についての一実施形態において、塩化メチルマグネシウムをテトラヒドロフランに溶解する。
【0063】
本発明の方法にしたがって調製した1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の調製に用いることができる。
【0064】
したがって、他の態様において、本発明は、ステップ(ii)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製法に関する。
【0065】
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【0066】
本願開示の目的において、用語「薬剤学的に許容可能な塩」とは、ネラメキサン塩であてって、哺乳類生物(例えばヒト)へ投与された際に、生理学的に許容できるものであって、有害な反応を通常はもたらさないものをいう。用語「薬剤学的に許容可能な塩」は、通常、哺乳類生物、特にヒトに対する使用について、連邦政府または州政府の規制当局により承認されたもの、または、米国薬局方もしくは他の一般に承認された薬局方のリストに掲載されたものを意味する。
【0067】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンからその薬剤学的に許容可能な塩への変換は、従来の方式により、該塩基と、1モル当量以上の選択された酸とを不活性な有機溶媒中にて混合することにより実現される。前記塩の単離は、塩の溶解度が低い非極性溶媒(例えばエーテル)によって沈殿を誘導するといった、当分野の公知技術により行われる。非毒性であって所望の薬理活性と実質的に干渉しない限り、前記塩の特質は、決定的に重要なものではない。
【0068】
薬剤学的に許容可能な塩の例は、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、及び、これらと同様の酸でもって形成される塩である。
【0069】
さらなる薬剤学的に許容可能な塩には次のような酸の付加塩が含まれるが、これらに限定されない。すなわち、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、フマル酸、酒石酸、安息香酸、炭酸、桂皮酸、マンデル酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p-アミノサリチル酸、2-フェノキシ安息香酸、及び2-アセトキシ安息香酸といった酸でもって形成される酸付加塩が含まれる。
【0070】
一実施形態において、上記実施形態のいずれか一つに従ってステップ(ii)を実施する。
【0071】
<副生成物として生成し得る1-ヒドロキシ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサン>
一実施形態において、ステップ(ii)の副生成物として1-ヒドロキシ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンが形成され得る。この生成物は、例えばガスクロマトグラフィー分析によって検出することができる。
【0072】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンの生成は、ステップ(ii)においてメチル基ではなくエチル基が3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのカルボニル基に付加されたことに起因するものでありうる。
【0073】
一実施形態において、前記副生成物の生成は、使用したメチルマグネシウム・グリニャール試薬にエチルマグネシウム・グリニャール試薬(例えば塩化エチルマグネシウム)がコンタミネーションしたことに起因するものでありうる。
【0074】
一実施形態において、塩化エチルマグネシウムのようなエチルマグネシウム・グリニャール試薬を含有しない、精製したメチルマグネシウム・グリニャール試薬を使用することによって、前記副生成物の生成を抑制または防止し得る。
【0075】
一実施形態において、塩化メチルマグネシウムに含まれる塩化エチルマグネシウムは、塩化メチルマグネシウムと塩化エチルマグネシウムとを基準として1重量%未満であるか、0.5重量%未満であるか、または0.1重量%未満である。
【0076】
一実施形態において、ステップ(ii)で得られた粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンから前記副生成物を除去しなくてもよい。
【0077】
ステップ(ii)で1-ヒドロキシ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンが形成されうる。この形成後、このテトラメチルシクロヘキサンは、背景技術のセクションの反応シーケンスで述べた1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと同様の反応を行う。クロロアセトニトリルとの反応によって、対応するリッター反応生成物が生ずる。次に、このリッター反応の生成物は、チオ尿素を用いて対応するアミンに変換され、このアミンは、酸性化された後に、該アミンの塩に変換される。
【0078】
すなわちステップ(ii)で得られた生成物から出発してネラメキサンまたはその塩の合成を実施する場合、それぞれの副生成物として1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩が形成され得る。
【0079】
一実施形態において、塩形成前に1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを精製することによって、目標化合物ネラメキサンから前記副生成物を除去することができる。一実施形態において、蒸留により前記副生成物を除去することによって前記アミンを精製することができる。
【0080】
他の一実施形態において、酸性化後に得られる前記ネラメキサン塩を精製する。一実施形態において、適当な溶媒を用いた再結晶化ステップによって前記塩を精製することができる。
【0081】
一実施形態において、前記1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキシルアミン塩はメシラートであり、再結晶化によって除去される塩は1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンメシラートである。一実施形態において、再結晶化に用いる溶媒はアニソールである。
【0082】
他の一実施形態において、塩化メチルマグネシウムといったグリニャール試薬を使用してイソホロンから3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを調製して、ステップ(ii)で出発物質として使用する場合、この3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンにもエチル化合物がコンタミネーションとして含まれることが考えられる。3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンへの3-エチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキノサンの混入は、メチル基ではなくエチル基がイソホロンに付加されて、対応するシクロヘキサノンが生成することに起因するものでありうる。このシクロヘキサノンは、以降の反応において3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサノンと同様の反応を行う。塩化メチルマグネシウムとの反応によって、1-ヒドロキシ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンが生成する。クロロアセトニトリルとの反応によって、対応するリッター反応生成物が生成する。次に、この生成物は、チオ尿素を用いて対応するアミン(1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサン)に変換され、該アミンが酸性化された後に、該アミンの塩に変換される。
【0083】
1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンは二つのキラル中心を持つため、二つのジアステレオマーが生成する。この化合物の生成の抑制または防止と、該化合物の除去とは、それぞれ1-ヒドロキシ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンについて上述した方法によって行うことができる。
【0084】
したがって、一態様において、本発明は、1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩を実質的に含まない、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩に関する。また、場合によっては、1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩をも実質的に含まないものに関する。
【0085】
用語「実質的に含まない」は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩と上記の副生成物とのトータルの量を基準として、該副生成物の量が0.5重量%未満であることを指す。
【0086】
本発明の工程による粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は約100%である。粗生成物は、それ以上精製せずとも、上述の反応シーケンスにおける次のステップ(iii)に使用するのに十分な純度である。したがって、本発明の方法によれば、本願の背景技術のセクションで述べたネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を生産する公知の方法が簡略化される。本発明の方法は、経済的な工業規模で有利に実施し得る。
【実施例】
【0087】
93gの塩化メチルマグネシウムと、372gのテトラヒドロフランとの撹拌混合物に、153gのテトラヒドロフラン中の153gの3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン混合物を滴下により添加する。この混合物の温度が5℃と15℃との間に維持されるように滴下速度を選択する。滴下による添加が終了した後、この混合物をさらに60分間撹拌する。次に、希釈した塩酸が、過剰の塩化メチルマグネシウムを分解するべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解するべく、添加される。この混合物について、石油エーテルで二回抽出を行う。これら二回の抽出物を合わせ、溶媒を蒸留して除去する。粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は定量的な値である(170g)。前記粗生成物中の目標化合物の含有量は、約95重量%である(ガス液体クロマトグラフィーを用いた測定による)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップ(ii)からなる、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法。:
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【請求項2】
ステップ(ii)にて、塩化メチルマグネシウムとエーテルとを含む混合物を、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンと反応させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩化メチルマグネシウムとエーテルとを含む混合物に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを添加することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記エーテルがテトラヒドロフランである請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
塩化メチルマグネシウムとテトラヒドロフランとを含む混合物に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとテトラヒドロフランとを含む混合物を添加する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
1モル当量の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン当たり1.2から1.75モル当量の塩化メチルマグネシウムを使用する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
温度が0℃から30℃の範囲内、または15℃から25℃の範囲内に維持されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換するための薬剤であって、塩化メチルマグネシウムからなる薬剤。
【請求項9】
塩化メチルマグネシウムがテトラヒドロフランに溶解されたものである請求項8の薬剤。
【請求項10】
下記ステップ(ii)からなる、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する方法。:
ステップ(ii):塩化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【請求項11】
請求項2〜7のいずれかに記載の方法に従ってステップ(ii)を実施する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記塩化メチルマグネシウムが塩化エチルマグネシウムを含有しない、請求項1〜7及び請求項10〜11のいずれかに記載の方法、または請求項8または9に記載の薬剤。
【請求項13】
1-アミノ-1-エチル-3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩を実質的に含まないものであり、また、場合によっては1-アミノ-3-エチル-1,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサンまたはその塩をも実質的に含まない、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩。

【公表番号】特表2012−531385(P2012−531385A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516583(P2012−516583)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003919
【国際公開番号】WO2011/000536
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(509295413)メルツ・ファルマ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲーアーアー (14)
【Fターム(参考)】