説明

1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンの製造方法

【課題】ハロアルカンを製造する方法、より詳細には1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパン(HCC−250fb)の製造方法を提供する。
【解決手段】 この方法は(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合すること;(b)ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該均質な混合物をハロアルケン及び/又はアルケン出発物質と反応させること;及び(c)前記生成物流れからハロアルカン生成物を回収することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年10月11日付けで出願された米国特許仮出願60/850,910を優先権として主張し、その開示は参照により本明細書中に援用される。
本発明はハロアルカンを製造する方法に関するものであり、より詳細には、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパン(HCC−250fb)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)などの有用なハロアルカンを製造する付加反応は当技術分野において知られている。一般的に、この反応において、四塩化炭素などのハロゲン化された化合物を、触媒の存在下、かつ、ハロアルカン反応物より長い主鎖を有するハロアルカン生成物を形成するのに十分な条件下で、塩化ビニル単量体(VCM)などのオレフィン化合物に付加する。次に、蒸留などの慣用的な手法を用いて、ハロゲン化された生成物を、反応物、触媒及び副生物から分離することにより回収する。
【0003】
この方法は広範囲に利用されてはいるが、いくつかの短所を有しており、中でも深刻なものは、この方法を連続運転に容易には適用できない点である。この問題は、大部分は、ハロゲン化生成物を生成物流れから回収することに起因する。このような回収はたびたび触媒を破壊し、このために触媒の再循環能力が低下する。例えば、Kototaらの非特許文献1は、触媒として銅塩化物及びCu[(CH−CN)]ClOが共触媒であるn−ブチルアミンと錯体を形成する銅塩を使用して、四塩化炭素及び塩化ビニルからHCC−240faを製造するバッチ処理を開示する。ハロゲン化生成物を回収するために、触媒及び共触媒は水洗処理で除去するが、この処理により触媒が破壊される。触媒の破壊によって、触媒の再循環は不可能である。しかし、触媒の再利用は商業的に実現可能な連続工程において重要である。
【0004】
他の回収工程は製造工程に中断させ、それにより、連続工程を複雑にしたり全体的に工程の失敗を招いたりする。例えば、生成物流れを蒸留してハロアルカンを反応物及び触媒から分離することにより回収を行う従来の工程において、揮発性の大きい共触媒は放出除去される傾向があり、これによって蒸留塔には固形の触媒が残るようになる。最終的には、工程を止めなければならず、触媒を蒸留塔から除去し、ろ過して、別の容器に物理的に移し、そこで共触媒と混合して、また反応に戻さなければならない。工程を中断させることに加えて、これらの回収段階は反応工程における所要コスト及びその複雑性を加重させる。
【0005】
ハロアルカン生成物の回収に関連した短所のほか、従来の付加反応は選択性が低い傾向がある。例えば、Kotoraらの非特許文献2は、共触媒としての2−プロピルアミンと共に塩化第一銅錯体触媒を利用して、四塩化炭素及び塩化ビニルからHCC−240をバッチ式で製造することを開示している。しかし、報告されたHCC−240の収率は71%にすぎない。また、Zhiryukinaらの非特許文献3は、Fe(CO)−エタノール触媒を利用して四塩化炭素及び塩化ビニルからHCC−240を製造するバッチ式の工程を開示している。この工程における報告されたHCC−240の収率は25%である。前述した開示されている全ての方法は生産性の低いバッチ式の工程であり、HCC−240に対する選択性が低いという点で不都合であるまた、Zhiryukinaらの方法は毒性の強い触媒を使用するために更に不都合である。
【0006】
したがって、HCC−240faのようなハロアルカンを高収率で製造するための効率的で経済的な連続方法に対するニーズが存在する。また、HCC−240faは、HFC−245faを製造するための市販原料であり、この物質を製造する代替技術の開発に対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kotota et al., “Addition of Tetrachloromethane to Halogenated Ethenes Catalyzed by Transition Metal Complexes,”77 J. Molec. Catal., 51-60 (1992)
【非特許文献2】Kotora et al., “Selective Additional of Polyhalogenated Compounds to Chlorosubstituted Ethenes Catalyzed by a Copper Complex,”React. Kinet. Catal. Lett., 415-19 (1991)
【非特許文献3】Zhiryukina et al.,“Synthesis of Polychloroalkanes With Several Different Chlorine-Containing Groups,”1 Izv. Akad. Nauk SSR. Ser, Khim. 152-57 (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はなによりも前述のニーズを満足させるためになされたものである。特に、本発明は、新規な触媒及び共触媒系に関し、また、触媒及び共触媒を、例えば、CClなどの反応物のひとつに溶解させて均質な混合物を形成するという新規な概念に関するものである。その後、この混合物は、好ましくは、特に固形物非含有反応において、例えばVCMのような別の反応物と共に反応領域に供給する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハロアルカンを製造するための方法であって:
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合する段階;
(b)ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該均質な混合物を、ハロアルケン出発物質、アルケン出発物質、又はハロアルケン出発物質及びアルケン出発物質の両方と反応させる段階;及び
(c)前記生成物流れからハロアルカン生成物を回収する段階
を含む、前記方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、ハロアルカンを製造するための方法であって:
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合する段階;
(b)ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該均質な混合物を、ハロアルケン出発物質、アルケン出発物質、又はハロアルケン出発物質及びアルケン出発物質の両方と反応させる段階;
(c)前記(b)段階のハロアルカン生成物流れをフラッシュ蒸留させて、ハロアルカン生成物、未反応ハロアルカン出発物質、及び未反応ハロアルケン出発物質を前記触媒及び共触媒の混合物から分離する段階;及び
(d)該触媒及び共触媒の混合物を前記(a)段階に再循環させる段階を含む、前記方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラフルオロプロパンと3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを製造するための方法であって:
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合する段階;
(b)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該混合物を、ハロアルケン出発物質及び/又はアルケン出発物質と反応させる段階;
(c)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパンを前記生成物流れから回収する段階;及び
(d)1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラフルオロプロパンと3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを生成するのに適切な条件下で、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパンをフッ化水素と反応させる段階
を含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、HCC−240faを製造するための本発明の方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ハロゲン化アルカンを高収率で製造する高選択性の方法であって、未反応物質を再循環させることができる前記方法を提供する。より具体的には、本発明は、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパン(HCC−250fb)を製造するための方法を提供する。HCC−240faは、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3−テトラフルオロプロパン、及び3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンを製造するための原料として使用することができる。
【0014】
本方法は、溶媒の存在下又は不存在下で行うことができ、その際、触媒及び共触媒をハロアルカン反応物中に溶解して均質な混合物を形成し、続いて、この混合物をハロアルケン反応物と共に反応領域に供給する。本方法は、最も好ましくは、固形物を含まない反応である。これは、反応物及び/又は触媒の性質によって、又はろ過やデカンテーションなどにより固体を除去することによって、簡単に達成できる。反応後、反応器の溶出物を蒸留、好ましくはフラッシュ蒸留させて、ハロアルカン反応生成物(例えば、HCC−240fa又はHCC−250fb)、任意の未反応ハロアルカン出発物質(例えば、CCl)、及び、任意の未反応ハロアルケン又はアルケン出発物質(例えば、VCM又はエチレン)を触媒/共触媒の混合物から分離する。次に、触媒/共触媒の混合物を、好ましくは、触媒製造タンクに混合物として再循環させる。本方法は、バッチ又は連続的な系で行うことができる。また、製造のための系を閉じた系として、任意の未反応ハロアルカン出発物質及びハロアルケン出発物質又はアルケン出発物質を実質的に完全に再循環させることができる。
【0015】
本発明の方法における第一段階(a)において、触媒及び共触媒を、混合物を生成するのに適切な条件下でハロアルカン出発物質と混合する。本発明で有用な触媒としては、金属イオン及び中性の金属種が挙げられる。適切な触媒としては、第一銅の塩、有機金属銅(I)化合物、鉄線、鉄の削りくず(iron shavings)、鉄の粉末、及び鉄塩化物が挙げられる。第一銅の塩及び有機金属銅(I)化合物の例としては、これらに限定されないが、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅、シアン化第一銅、硫酸第一銅、及びフェニル第一銅が挙げられる。本発明で有用な鉄粉末は、好ましくは、純粋な金属鉄の微粉末であり、特に粒子のサイズが325メッシュより小さいものが好ましい。塩化第一銅又は鉄粉末は触媒として利用することが好ましい。
【0016】
本発明で有用な共触媒は、使用する触媒と錯体を形成でき、且つこの触媒を溶液化できる有機リガンドである。適切なリガンドとしては、これらに限定されないが、tert−ブチルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、2−プロピルアミン、ベンジルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、及びそれらの組合せなどの有機アミンが挙げられる。好ましい有機アミンは、tert−ブチルアミンである。別の態様では、共触媒は、これらに限定されないが、アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、フェニルアセトニトリル、及びそれらの組合せなどをはじめとするニトリルであってもよい。好ましいニトリルはアセトニトリルである。別の態様として、共触媒は、これらに限定されないが、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ジメチルホルムアミド、及びそれらの組合せなどをはじめとするアミドであってもよい。ヘキサメチルホスホルアミドが最も好ましいアミドである。また、アミン、ニトリル、アミド、ホスフェート(単数)、及びホスフェート(複数)の組合せが適している。共触媒はキレート剤であり、また溶媒として役割をすることができる。
【0017】
溶媒は固体触媒の溶解を助けることができる。溶媒を使用する場合、溶媒は共触媒としての役割をすることも好ましい。有用な溶媒として、非限定的に、ニトリル化合物が挙げられる。本発明において有用な触媒、共触媒及び溶媒は商業的に入手可能である。
【0018】
本発明において有用な触媒及び共触媒は触媒−共触媒系を形成する。好ましい触媒−共触媒系において、触媒はCuClであり、共触媒は、アセトニトリル(CHCN)、tert−ブチルアミン(t−Bu−NH)、n−ブチルアミン(n−Bu−NH)、sec−ブチルアミン(sec−Bu−NH)、ベンジル−アミン(ベンジル−NH)、エタノール−アミン、ピリジン、又はトリ−n−ブチルアミン(n−BuN)である。別の好ましい触媒−共触媒系において、触媒は、鉄の粉末、又は鉄線、及び/又は塩化第二鉄であり、共触媒は、HMPA、トリブチルホスファイト((BuO)P)、トリクロロエチルホスファイト((ClCHCHO)P)、トリフェニルホスファイト((PhO)P)、トリブチルホスフェート、又はトリフェニルホスフェートである。より好ましくは、触媒−共触媒系は、塩化第一銅/tert−ブチルアミン、塩化第一銅/アセトニトリル、鉄粉末/ヘキサメチルホスホルアミド、又は鉄粉末/トリブチルホスフェートである。最も好ましくは、塩化第一銅/tert−ブチルアミン、又は、鉄粉末/トリブチルホスフェートを使用する。
【0019】
本発明の方法に有用なハロアルカンは、式Cで表示されるものであり、ここでnは1ないし200の整数、好ましくは、1ないし20の整数、最も好ましくは、1ないし4の整数であり、Xは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、又はこれらの混合物であり、m及びpは、それぞれ独立的に0ないし2n+2であり、ただしm+p=2n+2を満たさなければならない。ハロアルカンの例としては、これらに限定されないが、四塩化炭素(CCl)、1,1,1−トリクロロエタン、ジクロロフルオロメタン、1,1,1−トリクロロトリフルオロエタン、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、及びヘキサクロロエタンが挙げられる。このような有用なハロアルカン出発物質は商業的に入手可能である。
【0020】
本発明の方法に有用なハロアルケン及びアルケンは、式Cで表示されるものであり、ここでnは2ないし200の整数、好ましくは、2ないし20の整数、最も好ましくは、2ないし4の整数であり、Xは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、又はこれらの混合物であり、y及びzは、それぞれ独立的に0ないし2nであり、ただしy+z=2nを満たさなければならない。ハロアルケン及びアルケンの例としては、これらに限定されないが、エチレン、プロピレン、ブチレン、塩化ビニル、1,1−ジクロロエテン、トリクロロエテン、テトラクロロエテン、クロロフルオロエテン、1,2−ジクロロエテン、1,1−ジクロロ−ジフルオロエテン、1−クロロ−1−プロペン、2−クロロ−1−プロペン、1−クロロ−1−ブテン、及び2−クロロ−1−ブテンが挙げられる。このような有用なハロアルケン及びアルケン出発物質もまた商業的に入手可能である。
【0021】
使用する具体的なハロアルカン及びハロアルケン/アルケン、ならびに、使用する触媒、共触媒、及び反応条件は、所望の生成物に依存することになる。例えば、HCC−240faの製造のために、好ましいハロアルカン供給材料は、テキサス州ダラスのOccidental Chemical Corp.から入手可能な四塩化炭素であり、好ましいハロアルケンは、ペンシルベニア州ピッツバーグのPPG Industriesから入手可能な塩化ビニルである。1,1,1,3,3−ペンタクロロブタンの製造のために、好ましいハロアルケン供給材料は2−クロロ−1−プロペンである。
【0022】
触媒及び共触媒は、ハロアルカン出発物質及びハロアルケン出発物質の反応に触媒作用を及ぼすのに十分な量で使用する。一般的に、使用する量は、触媒対共触媒のモル比で約0.01:1ないし約500:1、好ましくは、約1:1ないし約100:1である。銅対t−ブチルアミンのモル比は、約0.05:1ないし約20:1、好ましくは、約0.02:1ないし1.0:1、より好ましくは、約0.1:1ないし約0.7:1である。鉄粉末対トリブチルホスフェートのモル比は、約0.05:1ないし約500.0:1、好ましくは、約1.0:1ないし約100.0:1、より好ましくは、約1.5:1ないし約10:1である。反応混合物中における触媒の好ましい濃度は、約0.001ないし約20重量%、好ましくは、約0.01ないし約10重量%、より好ましくは、約0.1ないし約5重量%である。一般的に、ハロアルカン対ハロアルケンのモル比は、約0.02:1ないし約50:1である。ハロアルケン対ハロアルケン又はアルケンのモル比は、好ましくは、約0.1:1ないし約4.0:1、より好ましくは、約1:1ないし約3:1である。
【0023】
本発明の方法において、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合して混合物を製造する。この混合物を形成するために、触媒は、ハロアルケン出発物質及び/又は共触媒を含有している混合タンク(触媒製造タンク)に添加してもよい。別の態様では、共触媒は、触媒及びハロアルカンを含有している混合タンクに添加してもよい。最も好ましくは、触媒及び共触媒を、まず混合タンク内で混合し、ここにハロアルカンを添加して混合物を形成する。この段階の間、混合タンクの温度は、反応器の温度より高くても低くてもよいが、反応器の温度と同じ温度に維持することが好ましい。その後、混合タンクの内部又は外部にあるろ過装置を利用して、触媒/共触媒/ハロアルカン混合物をろ過して、均質な混合物を形成する。結果として得られる均質な混合物は、ハロアルケン又はアルケンと共に所望な反応温度の反応器に供給し、これによって、ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、混合物をハロアルケン又はアルケン出発物質と反応させる。この方法は、溶媒の存在下又は不存在下で行うことができる。有用な溶媒としては、CHCN(共触媒でもある)及び他のニトリルが挙げられる。溶媒の不存在下では、過剰な量のハロアルカン反応物、例えばHCC−240faの形成のためにCClを使用することが好ましい。
【0024】
反応器は、試薬の蒸気圧下で撹拌すると共に、約40℃ないし約180℃の温度、好ましくは、約85℃ないし約150℃の温度に加熱する。反応は、好ましくは、ハロアルケン又はアルケンの転化が95%以上達成するまで行い、一般的には、約0.01ないし約24時間、好ましくは、約1ないし約12時間の滞留時間の間行う。本方法の次の段階において、ハロアルカン生成物流れをフラッシュ蒸留させて、未反応ハロアルカン(例えば、CCl)及びハロアルケン又はアルケン(例えば、VCM又はエチレン)供給材料とハロアルカン反応生成物(例えば、HCC−240fa又はHCC−250fb)を含む「頂部」流れを除去する一方、触媒/共触媒の混合物は残留させる。蒸留は、当技術分野においてよく知られている一つ又はそれより多い蒸留塔で行うことができる。好ましくは、フラッシュ蒸留は次の2段階で行う:すなわち、まず所定の圧力下で、好ましくは、真空下で、反応温度より低い温度でフラッシュ蒸留を行って、ハロアルカン反応生成物を除去し、続いて、より低い圧力でもう一度減圧フラッシュ蒸留を行って、あらゆる未反応ハロアルカン、及び/又は、ハロアルケン又はアルケンを除去する。「底部」流れは、混合タンクに送り戻して反応器に再循環する。蒸留した未反応ハロアルカン、及び、ハロアルケン又はアルケンは反応器に再循環してもよい。
【0025】
本発明の方法の最後の段階においては、蒸留による粗生成物の精製工程を提供する。約5ないし約200mmHgの圧力及び約50℃ないし約150℃の温度で分別減圧蒸留を行って生成物を回収する。この精製段階をトリブチルホスフェートのようなトリアルキルホスフェート、又は他の金属キレート化合物の存在下で行うと、精製生成物の蒸留収率が大きく向上することを発見した。何らかの特定的な理論によって括ることを望むものではないが、トリブチルホスフェートはハロアルカン生成物の分解を防止する作用をすると考えられる。したがって、好ましい実施形態において、精製段階はハロアルカン収率を高めるのに十分な量の金属キレート化合物を添加することを含む。5重量%のトリブチルホスフェートを使用することが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、前述した方法は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を製造するために実施し、(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を組合せ;(b)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該混合物をハロアルケン出発物質と反応させ;(c)次いで、前記生成物流れから1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを回収し;そして(d)1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを生成するのに適切な条件下で、前記1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させる。この実施形態において、ハロアルカン出発物質は、好ましくは、四塩化炭素を含み、ハロアルケン出発物質は、好ましくは、塩化ビニルを含み、触媒/共触媒系は、好ましくは、塩化第一銅/tert−ブチルアミン又は鉄粉末/トリブチルホスフェートを含む。
【0027】
本発明の別の好ましい実施形態において、前述した方法は、1,1,1,3−テトラフルオロプロパン及び3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを製造するために実施し、(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を組合せ;(b)1,1,1,3−テトラクロロプロパン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該混合物をアルケン出発物質と反応させ;(c)前記生成物流れから1,1,1,3−テトラクロロプロパンを回収し;そして(d)1,1,1,3−テトラフルオロプロパン及び3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを生成するのに適切な条件下で、前記1,1,1,3−テトラクロロプロパンをフッ化水素と反応させる。この実施形態において、ハロアルカン出発物質は、好ましくは、四塩化炭素であり、アルケン出発物質は、好ましくは、エチレンであり、触媒/共触媒系は、好ましくは、塩化第一銅/tert−ブチルアミン又は鉄粉末/トリブチルホスフェートである。この反応により、フッ化水素との反応条件に依存して、1,1,1,3−テトラフルオロプロパンと3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの両方が多様な収率で製造される。フッ化水素が液相で反応する場合、1,1,1,3−テトラフルオロプロパン生成物の収率は、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン生成物の収率より大きくなる。フッ化水素が気相で反応する場合は、1,1,1,3−テトラフルオロプロパン生成物の収率は、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン生成物の収率より小さくなる。
【0028】
一種又はそれより多いハロアルケン出発物質及び一種又はそれより多いアルケン出発物質を含む複数の反応を同じ反応容器中で一緒に行って、複数の反応生成物を形成してもよい。例えば、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質の均質な混合物は、一種又はそれより多いハロアルカン生成物(例えば、ハロアルケン出発物質から生成された1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、及び/又は、アルケン出発物質から生成された1,1,1,3−テトラクロロプロパン)を生成するのに適切な条件下で、ハロアルケン出発物質(例えば、VCM)及びアルケン出発物質(例えば、エチレン)の両方と一つの反応器中で反応させてもよい。
【0029】
本発明の方法及びその用途について以下の実施例を通じてより明確に説明する。また、米国特許第5,902,914号及び第6,187,987号の開示は参照により本明細書中に援用する。
【実施例】
【0030】
実施例1
150℃に加熱したモネルオートクレーブにおいて、1.8gの塩化第一銅(0.018モル)及び230gのアセトニトリル(5.6モル)を431gの四塩化炭素(2.8モル)と混合して混合物を形成する。このアセトニトリルは溶媒としても役割をする。溶液中には固体CuClが残り、これをデカンテーションにより混合物から除去する。その後、98g(1.57モル)の塩化ビニルモノマーを、四塩化炭素を含有するこの混合物に添加して反応させる。反応時間は10時間であり、初期圧力は約220psigである。HCC−240が95モル%選択率で生成され、VCM転化率は95モル%である。HCC−470(CClCHCHClCHCHCl)及びHCC−240db(CClCHClCHCl)が副産物として形成される。
【0031】
実施例2
95℃に加熱したモネルオートクレーブにおいて、2.5gの塩化第一銅(0.025モル)及び5.2gのt−ブチルアミン(0.07モル)を634gの四塩化炭素(4.1モル)と混合して混合物を形成する。溶媒は使用しない。溶液内には固体CuClが残り、これをデカンテーションにより混合物から除去する。その後、119g(1.9モル)の塩化ビニルモノマーを四塩化炭素混合物に添加して反応させる。反応時間は10時間であり、初期圧力は約220psigである。HCC−240が93モル%選択率で生成され、VCM転化率は66モル%である。HCC−470(CClCHCHClCHCHCl)及びHCC−240db(CClCHClCHCl)が副産物として形成される。
【0032】
実施例3
図1に示すように、触媒製造タンクに約10kgの鉄粉末と1.3kgのCClを添加する。このタンクは撹拌機を備え、10kgの鉄粉末及び1.3kgのCClを添加した後、タンクを100℃に加熱する。次に、9.2kg/hrのCCl、0.24kg/hrのトリブチルホスフェート、及び0.29kg/hrの塩化第二鉄をタンクに添加して混合する。混合溶液をタンク排出口側に設けられたろ過スクリーンに通過させ、100℃に制御した反応器に供給する。分離供給ラインを利用して3.8kg/hrの塩化ビニルを反応器に直接供給する。反応器の圧力を約7kg/cmに維持する。反応器から出た粗生成物はフラッシュ蒸留塔に供給する。フラッシュ蒸留塔は弱い減圧条件で稼動する。フラッシュ蒸留塔のオーバーヘッドを分別分離塔(図1のCCl塔参照)に供給し、この分離塔で未反応CCl及び塩化ビニルを蒸留して反応器に戻す。触媒及び共触媒を含有するフラッシュ蒸留塔の底部物は、混合タンク(すなわち、図1の触媒製造タンク)に再循環される。CCl塔の底部物は、別の分別分離塔(すなわち、HCC−240生成物塔)に供給される。精製されたHCC−240は、HCC−240生成物塔のオーバーヘッド流れから蒸留物として分離される。重質副産物は、生成物塔の底部及び触媒再循環ラインの重質物パージから系の外部に取り出される。CCl及びVCDの収率はそれぞれ90%より大きい。HCC−470(CClCHCHClCHCHCl)及びHCC−240db(CClCHClCHCl)が副産物として形成される。
【0033】
実施例4
塩化ビニルをエチレンに代えたことを除いて、実施例3に説明したものと同じ反応器系、また同じな量のCCl原材料、触媒、及び共触媒を使用する。使用した「モル/hr」で示したエチレンの当量は、塩化ビニルの当量と同じである。この方法により高品質の1,1,1,3−テトラクロロプロパンが製造される。CCl及びエチレンの収率は共に90%より高い。
【0034】
本発明の好ましい実施形態を本明細書中に特定的に説明してきたが、当業者であれば、本発明の精神と範囲が逸脱することなく種々の変更と修正が可能であることは容易に認識するだろう。本発明の特許請求の範囲は、開示した実施形態、本明細書中に説明したあらゆる代替態様、及びそれらのすべての均等物を包含するよう解釈するよう意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合すること;
(b)ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該均質な混合物をハロアルケン出発物質、アルケン出発物質、又は、ハロアルケン出発物質及びアルケン出発物質の両方と反応させること;及び
(c)前記生成物流れからハロアルカン生成物を回収すること
を含むハロアルカンを製造する方法。
【請求項2】
前記混合物は、実質的に固形物を含まない混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロアルカン生成物は、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロブタン、1,1,1,3−テトラクロロプロパン、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロアルカン出発物質は四塩化炭素を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ハロアルケン出発物質は、塩化ビニル、2−クロロ−1−プロペン、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルケン出発物質はエチレンを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記触媒はCuClを含み、前記共触媒は、CHCN、t−Bu−NH、n−Bu−NH、エタノール−アミン、ピリジン、sec−Bu−NH、ベンジル−NH、n−BuN、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記触媒は金属Feを含み、前記共触媒は、ヘキサメチルリン酸アミド、(BuO)P、(ClCHCHO)P、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、(PhO)P、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ハロアルカン出発物質は式Cで表示され、ここでXはハロゲンであり、nは1ないし200の整数であり、m及びpはそれぞれ独立して0ないし2n+2(ただし、m+p=2n+2)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ハロアルケン出発物質は式Cで表示され、ここでXはハロゲンであり、nは2ないし200の整数であり、y及びzはそれぞれ独立して0ないし2n(ただし、y+z=2n)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
該生成物流れは前記触媒の一部及び前記共触媒の一部を含み、前記方法は、前記触媒及び前記共触媒を前記生成物流れから回収及び再循環することを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記触媒及び前記共触媒は触媒と共触媒の混合物として回収及び再循環される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合する工程;
(b)ハロアルカン生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該均質な混合物を、ハロアルケン出発物質、アルケン出発物質、又は、ハロアルケン出発物質及びアルケン出発物質の両方と反応させる工程;
(c)前記(b)工程のハロアルカン生成物流れをフラッシュ蒸留させて、ハロアルカン生成物、未反応のハロアルカン出発物質、及び未反応のハロアルケン出発物質を前記触媒及び共触媒の混合物から分離する工程;及び
(d)前記触媒及び共触媒の混合物を前記(a)工程に再循環する工程
を含むハロアルカンを製造する方法。
【請求項14】
前記ハロアルカン生成物は、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロブタン、又はそれらの組合せを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
(a)均質な混合物を生成するのに適切な条件下で、触媒、共触媒、及びハロアルカン出発物質を混合すること;
(b)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパンの生成物流れを生成するのに適切な条件下で、該混合物をハロアルケン出発物質及び/又はアルケン出発物質と反応させること;
(c)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパンを前記生成物流れから回収すること;及び
(d)1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラフルオロプロパンと3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを生産するのに十分な条件下で、前記1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラクロロプロパンをフッ化水素と反応させること
を含む、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン及び/又は1,1,1,3−テトラフルオロプロパンと3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの組合せを製造する方法。
【請求項16】
前記ハロアルカン出発物質は四塩化炭素を含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ハロアルケン出発物質は、塩化ビニル、2−クロロ−1−プロペン、又はそれらの組合せを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】
前記アルケン出発物質はエチレンを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項19】
前記触媒はCuClを含み、前記共触媒は、CHCN、t−Bu−NH、n−Bu−NH、エタノール−アミン、ピリジン、sec−Bu−NH、ベンジル−NH、n−BuN、又はそれらの組合せを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
前記触媒は金属Feを含み、前記共触媒は、ヘキサメチルリン酸アミド、(BuO)P、(ClCHCHO)P、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、(PhO)P、又はそれらの組合せを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
前記ハロアルカン生成物はフラッシュ蒸留により前記生成物流れから回収する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項22】
前記生成物流れは前記触媒の一部及び前記共触媒の一部を含み、前記方法は、前記触媒及び前記共触媒を前記生成物流れから回収及び再循環することを更に含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項23】
前記触媒及び前記共触媒は触媒と共触媒の混合物として回収及び再循環される、請求項22に記載の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−506848(P2010−506848A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532545(P2009−532545)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/080883
【国際公開番号】WO2008/045910
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】