説明

1,4−ベンゾチアゼピン誘導体並びにその製造方法及びその用途

【課題】心不全、狭心症又は心筋梗塞の治療又は予防に有用な新規1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【解決手段】次の一般式〔I〕


〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩にある。この新規1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩は、穏やかに、冠血管を拡張させると共に、心筋への酸素供給量を増加させ、且つ心筋の酸素消費量を減らす性質を有しており、心不全、狭心症又は心筋梗塞の治療薬又は予防薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを含む哺乳動物に対し、冠血管拡張作用及び心拍数減少作用を有する新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関し、心不全の治療薬又は予防薬として有用で、且つ狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患などにおいて、冠動脈の拡張による心筋への酸素供給を高めることにより、および、心筋虚血及び心筋障害を改善又は解消する新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
また、本発明は、ヒトを含む哺乳動物に対し、冠動脈を拡張させる機能を有する新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関し、心不全又は心筋虚血の治療または予防に有効な新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
さらに本発明は、労作による狭心症(労作狭心症)や冠攣縮による狭心症(冠攣縮狭心症)の治療または予防に有用な新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関する。
さらにまた、本発明は冠動脈を拡張させる機能及び心筋の酸素消費量を減らす機能を併せ持つ新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩に関し、特に、1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含む、心筋梗塞の治療薬又は予防薬に関する。
また、本発明は、新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩、特に、1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、心筋の収縮、弛緩を周期的に繰り返し、全身の組織、臓器に血液を送り、また血液を循環させるポンプとして働いている。心筋が収縮、弛緩を行うには、心筋への酸素や栄養の供給が必要である。心筋への酸素及び栄養の供給は左右の冠動脈によって行われている。心筋は左右の冠動脈を通して酸素、栄養が供給され、この酸素、栄養を消費して、収縮、弛緩を行っている。健康人では心筋への酸素供給と心筋での酸素消費は平衡状態にある。
【0003】
心筋の酸素消費量は心筋の収縮力及び心拍数に依存しており、心筋の収縮力及び心拍数が増えると心筋の酸素消費量は増加し、これらが減ると心筋の酸素消費量は減少する。一般に、心筋の酸素消費量は心拍数と平均血圧の積(ダブルプロダクト)に比例するとされているから、心拍数の増加、血圧の増加は、心筋の酸素消費量を高めることになる。激しい運動時には、心筋の酸素消費量は、平常の3−4倍となり、心筋の酸素供給量もそれに対応して3−4倍となる。例えば、入浴や掃除などの日常労作、精神的な興奮、交感神経の緊張状態、発熱などでも心筋の酸素消費量は増加する。
【0004】
心筋の酸素消費量に対して心筋への酸素供給量が足りなくなると、両者の平衡が崩れ、心筋虚血となる。心臓の重量は成人では通常280−310グラム前後であり、男は女に比べ心臓は重い。心筋の肥大は、高血圧や大動脈弁狭窄症では左心室に起こり、肺高血圧では右心室に肥大が起こる。また原因不明とされている特発性肥大型心筋症では、心筋の肥大は、両心室に起こる。これらの疾患では、心肥大により心筋の酸素消費量が増加している。入浴や掃除などの日常労作、精神的な興奮、交感神経の緊張状態、発熱などで血圧が上昇し、心拍数が増えると心筋の酸素消費量はさらに増加する。このような場合、心筋への酸素供給量よりも、心筋の酸素消費量が増加することとなって、心筋への酸素供給量に対する心筋の酸素消費量の平衡が崩れ、心筋は虚血に陥り、心不全あるいは狭心症又は心筋梗塞患者に心筋障害を起こす。このようにして起こった心不全、心筋障害に対し、冠動脈を拡張させる機能と、心筋の酸素消費量を減らす機能を併せ持つ薬剤が、心不全、狭心症又は心筋梗塞の治療薬、予防薬となるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、心不全、狭心症又は心筋梗塞の患者に対しては、冠血管を拡張させる薬剤、心筋収縮力を減少させる薬剤、心拍数を減少させる薬剤、例えば、β遮断薬やCa2+拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル)が、その治療に使用されている。しかし、これらの薬剤の使用において、例えば、β遮断薬の使用は、心筋収縮力を低下させ、心筋の酸素消費を減らすが、過量であると心不全を起す危険があり、また、冠血管を逆に収縮させ、心筋虚血を逆に悪化させることとなるので問題とされている。又、過量のβ遮断薬の使用は、急激な血圧低下を起こし、それに伴う反射的な心拍数増加により、心筋の酸素消費量を逆に増加させることとなって問題である。さらに、ジルチアゼムやベラパミルなどのCa2+拮抗薬の使用も心筋収縮力を低下させる作用を有するが、しかし、過量であると、β遮断薬と同じく、心収縮力を低下させ、心不全を惹起する危険があり、また、急速に投与すると、末梢血管を拡張させ、血圧を低下させ、反射性の交感神経興奮による心拍数の増加をきたすこととなり、この心拍数の増加は心筋の酸素消費量を増加させることとなり、結果として心筋虚血を起こすので、問題とされている。
【0006】
また、冠動脈に75%以上の有意の狭窄がある場合にも、冠動脈血流量が減少し、心筋の酸素供給量が減少する。そのような有意の狭窄を有する人が運動をした場合、心拍数及び血圧が増加し、心筋の酸素消費量が増え、心筋への酸素供給量に対する心筋の酸素消費量の平衡が崩れ、心筋が虚血となる。これが労作狭心症の起こる理由である。又、冠動脈に攣縮が起こり、冠血流量が減った場合にも心筋への酸素供給量が減少し、狭心症が起こる。これが冠攣縮狭心症の起こる理由である。このような冠攣縮狭心症の場合にも、冠動脈を拡張させる機能及び心筋の酸素消費量を減らす機能を併せ持つ薬剤は、これら狭心症の治療薬、予防薬として使用できる。
【0007】
また、冠動脈に有意な狭窄がある場合、例えば、陳旧性心筋梗塞がある場合、心筋虚血により心不全を起こす。冠動脈を拡張させる機能及び心筋の酸素消費量を減らす機能を併せ持つ薬剤は、心筋の仕事量を減らすので、心不全の治療薬、予防薬として使用できる。
【0008】
ところで、冠血管を拡張させ、心筋収縮力を減少させ、且つ心拍数を減少させる薬剤であるβ遮断薬、Ca2+拮抗薬の使用は、循環器専門医でも投与量の加減が難しく、一般には低用量から使用することが勧められており、高用量の投与は危険とされている。そのため、血管拡張作用、心収縮抑制作用、心拍低下作用を有する薬剤は、その作用が穏やかな薬剤が安全面から求められている。
本発明は、冠血管を拡張させ、心筋収縮力を減少させ、且つ心拍数を減少させる作用が穏やかな薬剤を提供することを目的としている。
【0009】
本発明者らは、次の一般式〔I〕
【化4】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される新規な1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩(以下、本発明の化合物という)を提供し、本発明の化合物が、冠動脈を拡張させる作用、心筋への酸素供給量を増加させ、心筋拡張機能を増強させる作用を合わせ持つものであり、何れの作用も穏やかであることを発見した。
本発明は、本発明の化合物を、心不全を改善する薬剤として提供するものである。
また、本発明は、本発明の化合物を、高血圧や大動脈弁狭窄症における左室肥大、特発性肥大型心筋症、肺高血圧に伴う右室の肥大などの心筋の酸素消費量が多い患者や、冠動脈に有意の狭窄または冠攣縮を起こす狭心症、特に、狭心症患者の心筋虚血を治療又は予防する薬剤として提供するものであり、さらに、本発明は、本発明の化合物を、冠動脈に有意の狭窄があり心不全を起こす虚血性心不全患者に対して、安全な望ましい治療薬または予防薬として提供するものである。
さらに、本発明は、本発明の化合物の4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩の製造方法を提供するものであり、さらにまた、本発明は、本発明の化合物の4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明は、本発明の化合物、即ち、次の一般式〔I〕
【化5】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩にある。
【0011】
また、本発明の化合物は、次の式〔II〕
【化6】

で示される4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩(以下、本発明の化合物〔II〕という)とすることができる。
【0012】
さらに、本発明の化合物は、次の式〔III〕
【化7】

で示される4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩(以下、本発明の化合物〔III〕という)とすることができる。
【0013】
さらに加えて、本発明は、本発明の化合物の一種以上を有効成分として含むことを特徴とする心不全、狭心症又は心筋梗塞の治療薬又は予防薬にあり、特に、本発明の化合物〔II〕及び本発明の化合物〔III〕の中の化合物の1種または2種以上を有効成分として含むことを特徴とする心不全、狭心症又は心筋梗塞の治療薬又は予防薬にある。
【0014】
さらにまた、本発明は、次の式〔IV〕
【化8】

で示される化合物の4−{3−[4−ベンジルピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(以下、化合物〔IV〕という)をラット又はイヌに投与し、化合物IVが投与されたラット又はイヌの代謝産物から本発明の化合物〔II〕を分離することを特徴とする本発明の化合物〔II〕の4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩の製造方法にある。さらに加えて、本発明は、化合物〔IV〕の4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル〕プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンが投与されたラット又はイヌの代謝産物から、本発明の化合物〔III〕を分離することを特徴とする本発明の化合物〔III〕の4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩の製造方法にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、本発明の化合物が、緩やかに冠動脈を拡張させる作用、緩やかに心拍数を低下させる性質を有し、また、心筋への酸素供給量を増加させると共に心筋の酸素消費量を減らす性質を合わせ持つので、従来、治療や予防が難しいとされていた、高血圧や大動脈弁狭窄症における左室の肥大、特発性肥大型心筋症、肺高血圧に伴う右室の肥大などの心筋の酸素消費量が多い患者及び冠動脈に有意の狭窄または冠攣縮を起こす狭心症、特に、狭心症患者の心筋虚血を治療又は予防する薬剤、さらに冠動脈に有意の狭窄があり、心不全を起こす虚血性心不全患者に対して、安全で望ましい治療薬または予防薬とすることができる。
本発明の化合物、特に、本発明の化合物〔II〕又は〔III〕は、夫々、単独で又はそれらの混合物として、さらに他の薬剤と併用して、経口、舌下、貼付、静脈内投与が出来るが、冠動脈内に注入し、診断的に冠動脈攣縮を誘発した後の攣縮の解除、検査中の冠攣縮の予防、ならびに治療に用いることができる。
さらにまた、狭心症、特に、狭心症における心筋虚血を治療または予防するために、又は、心不全、特に、虚血性心不全に対して、安全で望ましい治療または予防をするために、β遮断薬やCa2+拮抗薬と併用することにより、β遮断薬やCa2+拮抗薬の使用量を減じることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、本発明の化合物、即ち、次の一般式〔I〕
【化9】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩を提供するものである。
前記本発明の化合物の一種以上、特に、本発明の化合物〔II〕の4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン若しくはその薬学的に許容しうる塩、又はこれら、本発明の、前記一般式〔I〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体若しくはその薬学的に許容しうる塩の一種以上を有効成分として含有する狭心症、心筋梗塞の治療または予防する薬剤、さらに、心不全に対して安全で望ましい治療薬又は予防薬とすることができる。
【0017】
本発明の化合物は、塩基性の窒素原子を有しているので、この位置において、酸付加塩を形成するが、この酸付加塩は薬学的に許容されるものであるべきであるから、前記一般式〔I〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体の薬学的に許容される塩も本発明の範囲内のものである。このような本発明の化合物における薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又は硝酸塩等の無機酸付加塩;シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩又はアスコルビン酸塩等の有機酸付加塩;アスパラギン酸塩又はグルタミン酸塩等のアミノ酸付加塩がある。しかし、これらに限定されるものではない。又、場合によっては含水物あるいは水和物であってもよい。
【0018】
前記式[II]又は[III]で示される本発明の化合物は、経口、舌下、貼付、静脈内投与が出来るが、冠動脈内に注入し、診断的に冠動脈攣縮を誘発した後の攣縮の解除、検査中の冠攣縮の予防、ならびに治療に用いられる。
さらにまた、このような治療や予防に、β遮断薬やCa2+拮抗薬と併用することにより、β遮断薬やCa2+拮抗薬の使用量を減じることができる。
【0019】
本発明の化合物〔II〕の4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩は、ラット又はイヌに、次の式〔IV〕
【化10】

で示される化合物の4−{3−[4−ベンジルピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(以下、化合物IVという)を投与し、得られた尿及び糞に、水を加えてホモジネートし、その上清を、逆相カラムを使用する高速液体クロマトグラフィーにより成分分離した。本発明の化合物〔II〕の保持時間は30〜35分であり、分離された成分は、マススペクトロメトリーにより、質量荷電比(m/Z)は441であった。
本発明の化合物〔III〕の4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩は、ラット又はイヌに前記化合物〔IV〕で示される化合物を投与し、得られた尿及び糞に、水を加えてホモジネートし、その上清を、本発明の化合物〔II〕と同じ手法で、逆相カラムを使用する高速液体クロマトグラフィーにより成分分離した。本発明の化合物〔III〕の保持時間は28〜32分であり、分離された成分は、マススペクトロメトリーにより、分子量は、質量荷電比(m/Z)は457であった。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の一実施例をあげて、本発明について更に具体的に説明するが、本発明は、ここでの例示及び説明により、何ら限定されるものではない。
実施例1
【0021】
本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の冠動脈拡張作用についての試験
ブタ心臓を購入し、雌雄の区別無く使用した。予め、95%の酸素(O)及び2、5%の二酸化炭素(CO)を飽和させて氷冷したクレブス・ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)液に摘出された心臓を浸けて運搬し、外径2.5−3mmの冠動脈前下行枝を摘出した。同じ栄養液で1晩冷蔵庫に保存し、翌日、幅3mmの内皮除去短冊(オープンリング)標本を作製し、37℃の温度で、95%の酸素(O)及び5%の二酸化炭素(CO)を飽和させて氷冷したクレブス・ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)液で満たした臓器浴(organ bath)10ml中に懸垂した。一方を固定し他方を、アイソメトリック トランスデューサ(Isometric transducer)(T7−8−240,T7−30−240オリエンテック)に接続し、張力用アンプで張力の変化を記録した。1.5g負荷下で120分間安定させた後、KCl(40mM)を投与し、収縮が最大に達したら洗い出し(wash out)を行い、この洗い出しを15分間隔で4回行った。安定したKClの収縮が得られた後に、生理食塩水(saline)に溶解したKCl(30mM)を添加し、持続的な収縮を得た後、ジメチルスルホキシド(DSMO)で溶解した本発明の化合物〔II〕又は〔III〕を、0.01〜100μMまで累積的に投与した。
試験の結果:対照では冠動脈の弛緩作用は0%であった。しかし、本発明の化合物〔II〕又は〔III〕は、濃度依存的に、ブタ摘出冠動脈を弛緩させる作用を示した。前値を100%とし、冠動脈の最大収縮を50%弛緩させるための本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の濃度(EC50%)は7.7μM、15μMであった。
実施例2
【0022】
本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の収縮能力低下作用についての試験
エスエルシーハートレー(SLCHartley)系、雄性モルモット(900−1200g)を使用した。頭部打撲後、頚動脈を切断し、放血致死させた後、開胸し、心臓を摘出した。右心房を心室より切離し、右心房標本を作製した。これを、31℃で、95%の酸素(O)及び5%の二酸化炭素(CO)含有する気体の通気下のクレブス・ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)液で満たした臓器浴(Organ bath)20ml中に懸垂し、一方を固定し、アイソメトリック トランスデューサ(isometric transducer)(TB−651−T:日本光電工業)に接続した。右心房標本は自発収縮を指標として薬物の作用を評価した。張力は張力用アンプ(EF601G)を介してレコーダー(RECTIGRAPH−8K日本電気三栄)に記録した。0.5〜1.0gの負荷下で60−90分間安定させた後、ジメチルスルホキシド(DSMO)に溶解した本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の0.01−100μMを累積的に投与した。被験物質を含まない、クレブス・ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)溶液を対照とした。投与前値を100%として、最大収縮を50%抑制させる濃度(IC50値)を求めた。
試験結果:対照群では、自発収縮の抑制は9%であった。本発明の化合物〔II〕又は〔III〕は、濃度依存的に、モルモット右心房の自発収縮の大きさを抑制する作用を示した。前値の収縮振幅の最大値を100%とし、これを50%抑制する、本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の濃度(IC50)は各々20μM、24μMであった。
実施例3
【0023】
本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の心拍数低下作用についての試験
エスエルシーハートレー(SLCHartley)系、雄性モルモット(900−1200g)を使用した。頭部打撲後、頚動脈を切断し、放血致死させた後、開胸し、心臓を摘出した。右心房を心室より切離し、右心房標本を作製した。これを、31℃、95%の酸素(O)及び5%の二酸化炭素(CO)を含有する気体の通気下のクレブス・ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)液で満たした臓器浴(Organ bath)の20ml中に懸垂し、一方を固定し、他方をアイソメトリック トランスデューサ(isometric transducer)(TB−651−T:日本光電工業)に接続した。右心房標本については、自発性収縮による拍動数をレコーダー(RECTIGRAPH−8K日本電気三栄)に記録した。ジメチルスルホキシド(DSMO)に溶解した本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の0.01−100μMを累積的に調べた。
検出結果:対照群では、右心房の心拍数の抑制は出来なかった。本発明の化合物〔II〕又は〔III〕で示される化合物は、濃度依存的に、モルモット右心房の1分間あたりの心拍数を抑制する作用を示した。前値を100%とし、最大収縮を50%抑制する本発明の化合物〔II〕又は〔III〕の濃度は8.1μM、23μMであった。
【0024】
以上の3実施例から本発明の化合物〔II〕又は〔III〕は、冠血管を拡張する作用、心収縮を減らす作用及び心拍数を抑制する作用があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の式〔I〕で示される化合物は、心筋酸素消費量の低下、冠血管拡張作用を併せ持つことを特徴としている。そのため、心不全の治療薬、予防薬として役立つ。また、冠血管を拡張させることにより心筋酸素供給量を増加させ、心筋酸素消費量を減らすことから心筋虚血を軽減させ、狭心症又は心筋梗塞の治療薬、予防薬として役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式〔I〕
【化1】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
請求項1に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩が、4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩であることを特徴とする請求項1に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
請求項1に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩が、4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容される塩であることを特徴とする請求項1に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含むことを特徴とする心不全の治療薬又は予防薬。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含むことを特徴とする狭心症の治療薬又は予防薬。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含むことを特徴とする心筋梗塞の治療薬又は予防薬。
【請求項7】
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンの哺乳動物の代謝産物を、前記哺乳動物の排泄物から液体クロマトグラフィにより分離することを特徴とする次の一般式〔I〕
【化2】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法。
【請求項8】
4−[3−(4−ベンジルピペリジン−1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンをラット又はイヌに投与し、一定時間後に排泄された排泄物を水と混合し、この混合液に、有機溶媒を加えて溶解後、精製し、濃縮し、該濃縮物に有機溶媒及び水を加えて、液体クロマトグラフィにより、次の一般式〔I〕
【化3】

〔式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。〕で示される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法において、液体クロマトグラフィにより分離される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体が、4−{3−[4−(4−ヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンであることを特徴とする請求項7又は8に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法において、液体クロマトグラフィにより分離される1,4−ベンゾチアゼピン誘導体が、4−{3−[4−(2,4−ジヒドロキシベンジル)ピペリジン−1−イル]プロピオニル}−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンであることを特徴とする請求項7又は8に記載の1,4−ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の製造方法。

【公開番号】特開2010−195759(P2010−195759A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68872(P2009−68872)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(599138320)
【Fターム(参考)】