説明

2−アミノビフェニレンの製造方法

本発明は、式(I)[式中、nは0、1、2または3であり、R1は水素、シアノまたはフッ素であり、それぞれのR2は互いに独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオより選択される]の2-アミノビフェニレンを製造する方法に関する。本発明はさらに、このような2-アミノビフェニレンのピラゾールカルボキシアミドを製造する方法に関する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I:
【化1】

【0002】
[式中、
nは0、1、2または3であり、
R1は水素、シアノまたはフッ素であり、
それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオより選択される]
の2-アミノビフェニルを調製する方法に関する。
【0003】
本発明はまた、前記の2-アミノビフェニルのピラゾールカルボキシアミドを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
式Iの2-アミノビフェニルは、特に殺菌剤として有用なアリールおよびヘタリールカルボキシアミドの重要な前駆体である。このような殺菌剤は、例えば、WO 2006/087343、WO 2005/123690、EP 0589301およびEP 0545099に開示されている。その代表例としては、ボスカリド(boscalid)(2-クロロ-N-(4'-クロロビフェニル-2-イル)ピリジン-3-カルボキシアミド)およびビキサフェン(bixafen)(N-(3',4'-ジクロロ-5-フルオロビフェニル-2-イル)-3-(ジフルオロメチル)-1-メチルピラゾール-4-カルボキシアミド)が挙げられる。
【0005】
式Iの置換2-アミノビフェニルの調製には、WO 97/33846に記載される方法が有用であることが見いだされている。この方法は、2-ニトロクロロベンゼンとハロゲン置換芳香族ボロン酸とのカップリングにより対応する置換2-ニトロビフェニルを生成し、次いでこれを還元して2-アミノビフェニルを得る反応に基づく。しかしながら、これは多段階合成経路であり、その結果、時間および費用がかかる。例えば、この反応には、ボロン酸の供給(典型的には、ハロゲン化芳香族から出発して、グリニャール化合物、ボロン酸エステルおよびそれに続く加水分解を経る3段階で調製される)ならびに最後のニトロ官能基の水素化の両方が必要である。
【0006】
根岸カップリングとして知られるハロゲン化芳香族化合物と有機亜鉛とのパラジウム触媒クロスカップリングが以前から公知である(E. Negishi et al., J. Org. Chem. 1977, 42; E. Negishi in "Metal-catalyzed Cross-Coupling Reactions; F. Diederich, P. J. Stang (eds.) Wiley-VCH, Weinheim, 1998, p. 1821)。比較的反応性の低い塩素化芳香族化合物の根岸カップリング方式による反応は個々の事例に関して報告されている(C. Dai, G. C. Fu, J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2719)。
【0007】
今日まで、2-アミノビフェニルの調製のために、特に反応性の高いヨードアニリン誘導体のみを出発物質とする根岸カップリングが使用されてきた。例えば、2-または3-ヨードアニリンおよび3-ヨードアントラニロニトリルとアリール亜鉛ヨウ化物との反応が知られている(N. Jeong et al., Bull. Korean Chem. Soc. 2000, 21, 165; J. B. Campbell et al., Synth. Comm. 1989, 19, 2265)。しかしながら、高いカップリング収率を達成するためには、大過剰の有機亜鉛および5〜6 mol%のパラジウム触媒を使用する必要があり、そのため、多くの応用におけるこれらの方法の経済的な意義が大きく限定されている。
【0008】
Knochel et al., J. Org. Chem. 2008, 73, 8422にも同様に、パラジウム触媒クロスカップリングによるアミノビフェニルの合成にアリール亜鉛ヨウ化物を使用することが記載されている。塩化アリールが好適でないことが見いだされたため、彼らがこの目的に使用するハロゲン化アリール成分は臭化アリールである。さらに、ここでも、記載された合成には大過剰の有機亜鉛が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2006/087343
【特許文献2】WO 2005/123690
【特許文献3】EP 0589301
【特許文献4】EP 0545099
【特許文献5】WO 97/33846
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】E. Negishi et al., J. Org. Chem. 1977, 42
【非特許文献2】E. Negishi in "Metal-catalyzed Cross-Coupling Reactions
【非特許文献3】F. Diederich, P. J. Stang (eds.) Wiley-VCH, Weinheim, 1998, p. 1821
【非特許文献4】C. Dai, G. C. Fu, J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2719
【非特許文献5】N. Jeong et al., Bull. Korean Chem. Soc. 2000, 21, 165
【非特許文献6】J. B. Campbell et al., Synth. Comm. 1989, 19, 2265
【非特許文献7】Knochel et al., J. Org. Chem. 2008, 73, 8422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、置換2-アミノビフェニルを調製するための、およびそれから誘導されるピラゾールカルボキシアミドを調製するための、簡単な方法で実施でき、かつ工業規模で実施可能な方法を提供することであった。これらの方法は、さらに、費用が安価で、選択的反応に基づくものでなければならない。そこで、より反応性が低いが、対応する2-ブロモアニリンと比べてより入手しやすく、かつ/または安価な2-クロロアニリンから出発する置換2-アミノビフェニルの合成経路を見いだすことも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的は、以下に詳細に説明する方法により達成される。
【0013】
本発明は、上に定義した通りの式Iの置換2-アミノビフェニルを調製する方法であって、以下の工程:
(i) 式IIのアニリン化合物と式IIIの有機亜鉛化合物とを、
【化2】

【0014】
[式中、
HalおよびHal'はそれぞれ独立して臭素または塩素であり、
n、R1およびR2はそれぞれ上に定義した通りであり、
XはNH2またはX1もしくはX2基であり、
【化3】

【0015】
ここで、
Arは、場合によりC1〜C4-アルキルおよびC1〜C4-アルコキシより選択される1、2または3個の置換基を有するフェニルであり、
R3およびR4はそれぞれ独立してC1〜C6-アルキルである]
パラジウムと1種以上の錯体配位子とを含むパラジウム触媒の存在下で反応させる工程、
ならびに、式IIにおいてXがX1またはX2基である場合、
(ii) 工程(i)で得られた生成物を式Iの2-アミノビフェニルに変換する工程
を含む、前記方法を提供する。
【0016】
本発明の方法には一連の利点が存在する。例えば、本発明の方法により、安価に、良好から非常に良好な収率で、かつ高い選択性で、式Iの2-アミノビフェニルを調製することが可能になる。特に、本発明により、比較的反応性の低いクロロアニリン化合物II(Hal = Cl)から2-アミノビフェニルを調製することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の文脈において、総称的に使用される用語は、それぞれ以下の通りに定義される。
【0018】
接頭辞Cx〜Cyは、個々の事例において、可能な炭素原子の数を示す。
【0019】
用語「ハロゲン」は、いずれの場合にも、フッ素、臭素、塩素またはヨウ素、特にフッ素、塩素または臭素を意味する。
【0020】
用語「C1〜C4-アルキル」は、1〜4個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、ブチル、1-メチルプロピル(sec-ブチル)、2-メチルプロピル(イソブチル)または1,1-ジメチルエチル(tert-ブチル)を意味する。
【0021】
用語「C1〜C6-アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基を意味する。その例は、C1〜C4-アルキルに関して言及した基に加えて、ペンチル、ヘキシル、2,2-ジメチルプロピル、2-メチルブチル、3-エチルブチル、4-メチルペンチルおよびそれらの位置異性体である。
【0022】
本明細書において使用される、およびC1〜C4-フルオロアルコキシおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオにおけるフルオロアルキル単位において使用される用語「C1〜C4-フルオロアルキル」は、1〜4個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基であって、これらの基の一部または全部の水素原子がフッ素原子により置換されているものを表す。その例は、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、1-フルオロエチル、2-フルオロエチル、2,2-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロプ-1-イル、1,1,1-トリフルオロプロプ-2-イル、ヘプタフルオロイソプロピル、1-フルオロブチル、2-フルオロブチル、3-フルオロブチル、4-フルオロブチル、4,4,4-トリフルオロブチル、フルオロ-tert-ブチル等である。
【0023】
用語「ハロメチル」は、その水素原子の一部または全部がハロゲン原子により置換されているメチル基を表す。その例は、クロロメチル、ブロモメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、クロロフルオロメチル、ジクロロフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ジブロモメチル、トリブロモメチル、クロロブロモメチル、ジクロロブロモメチル、クロロジブロモメチル等である。
【0024】
用語「C1〜C4-アルコキシ」は、1〜4個の炭素原子を有し、酸素原子を介して結合する直鎖または分枝鎖飽和アルキル基を意味する。C1〜C4-アルコキシの例は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、1-メチルエトキシ(イソプロポキシ)、n-ブトキシ、1-メチルプロポキシ(sec-ブトキシ)、2-メチルプロポキシ(イソブトキシ)および1,1-ジメチルエトキシ(tert-ブトキシ)である。
【0025】
用語「C1〜C4-フルオロアルコキシ」は、1〜4個の炭素原子を有し、酸素原子を介して結合する直鎖または分枝鎖飽和フルオロアルキル基を表す。その例は、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、1-フルオロエトキシ、2-フルオロエトキシ、2,2-ジフルオロエトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、ペンタフルオロエトキシ、3,3,3-トリフルオロプロプ-1-オキシ、1,1,1-トリフルオロプロプ-2-オキシ、1-フルオロブトキシ、2-フルオロブトキシ、3-フルオロブトキシ、4-フルオロブトキシ等である。
【0026】
用語「C1〜C4-アルキルチオ」は、1〜4個の炭素原子を有し、硫黄原子を介して結合する直鎖または分枝鎖飽和アルキル基を意味する。C1〜C4-アルキルチオの例は、メチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、1-メチルエチルチオ(イソプロピルチオ)、n-ブチルチオ、1-メチルプロピルチオ(sec-ブチルチオ)、2-メチルプロピルチオ(イソブチルチオ)および1,1-ジメチルエチルチオ(tert-ブチルチオ)である。
【0027】
用語「C1〜C4-フルオロアルキルチオ」は、1〜4個の炭素原子を有し、硫黄原子を介して結合する直鎖または分枝鎖飽和フルオロアルキル基を表す。その例は、フルオロメチルチオ、ジフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルチオ、1-フルオロエチルチオ、2-フルオロエチルチオ、2,2-ジフルオロエチルチオ、2,2,2-トリフルオロエチルチオ、1,1,2,2-テトラフルオロエチルチオ、ペンタフルオロエチルチオ、3,3,3-トリフルオロプロプ-1-イルチオ、1,1,1-トリフルオロプロプ-2-イルチオ、1-フルオロブチルチオ、2-フルオロブチルチオ、3-フルオロブチルチオ、4-フルオロブチルチオ等である。
【0028】
用語「アリール」は、6〜14個の炭素原子を有する芳香族炭素環基を意味する。その例としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アズレニル、アントラセニルおよびフェナントレニルが挙げられる。アリールは、好ましくはフェニルまたはナフチルであり、特にフェニルである。
【0029】
用語「ヘタリール」は、O、NおよびSより選択される1〜4個のヘテロ原子を有する芳香族基を意味する。その例は、O、SおよびNより選択される1、2、3または4個のヘテロ原子を有する5および6員ヘタリール基、例えば、ピロリル、フラニル、チエニル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジルおよびトリアジニルである。
【0030】
式I、Ia、Ib、IIIおよびIVの化合物において、nは、好ましくは1、2または3であり、特に好ましくは3である。nが1である場合、R2は好ましくはビフェニルまたは亜鉛結合に対してパラまたはメタ位に存在し、nが2または3である場合、R2は好ましくはビフェニルまたは亜鉛結合に対してパラおよびメタ位に存在する。
【0031】
式I、Ia、Ib、IIおよびIVの化合物において、R1は好ましくは水素またはフッ素であり、特に好ましくは水素である。
【0032】
式I、Ia、Ib、IIIおよびIVの化合物において、R2は好ましくはフッ素、C1〜C4-アルキルまたはC1〜C4-フルオロアルキルであり、特に好ましくはフッ素である。
【0033】
式IIIの化合物において、Hal'は好ましくは塩素である。
【0034】
式IIの化合物において、Xは好ましくはX1またはX2であり、ここで、X1およびX2の定義において、ならびに式(Ia)および(Ib)の化合物において、置換基Arは好ましくは無置換フェニルであり、置換基R3およびR4は好ましくはそれぞれメチルである。
【0035】
式IVおよびVの化合物において、R5は好ましくはメチルまたはフルオロメチルであり、特に好ましくはメチル、ジフルオロメチルまたはトリフルオロメチルである。
【0036】
本発明の第1の実施形態において、式II、IIaおよびIIbの化合物における可変基Halは臭素である。
【0037】
本発明の第2の、好ましい実施形態において、式II、IIaおよびIIbの化合物における可変基Halは塩素である。
【0038】
以下に説明する本発明の変換は、そのような反応に通常使用される反応容器中でおこない、反応は連続式、半連続式またはバッチ式に設定し得る。一般に、個々の反応は大気圧でおこなう。しかしながら、反応を減圧または高圧でおこなってもよい。
【0039】
置換2-アミノビフェニルIを調製するための本発明の方法の工程(i)における変換は根岸クロスカップリングである。反応は、出発化合物、すなわち、アニリン化合物IIおよび有機亜鉛化合物III、ならびにパラジウム触媒を、好ましくは溶媒中で、適切な反応条件下で接触させることにより実施する。
【0040】
一般に、工程(i)は温度制御下でおこなう。根岸カップリングは、典型的には、攪拌および加熱装置を備えた密閉または非密閉反応容器で実施する。
【0041】
原則として、反応物質は、任意の所望の順序で互いに接触させることができる。例えば、最初にアニリン化合物IIを、場合により溶媒に溶解もしくは分散して容器に入れ、次に有機亜鉛IIIと混合することもできるし、逆に、最初に有機亜鉛IIIを、場合により溶媒に溶解または分散して容器に入れ、次にアニリン化合物と混合することもできる。あるいは、2種の反応物質を同時に反応容器に加えることもできる。パラジウム触媒は、一方の反応物質の添加の前または後に、または一方の反応物質と一緒に、溶媒中でまたはバルクで、加えることができる。
【0042】
まず有機亜鉛IIIを、好ましくは溶媒中で、反応容器に入れ、次いでパラジウム触媒、または活性触媒を形成することができるパラジウム源と1種以上の錯体配位子、およびアニリン化合物IIを加えることが適切であることが見いだされている。
【0043】
好適な溶媒は、個々の事例において選択された特定の反応物質および反応条件により決定される。一般に、化合物(II)および(III)の変換の溶媒として、非プロトン性有機溶媒を使用することが有利であることが見いだされている。ここで有用な非プロトン性有機溶媒としては、例えば、脂肪族C3〜C6エーテル、例えばジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルイソブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテルおよびtert-ブチルエチルエーテル、脂肪族炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタン、ならびに石油エーテル、脂環式炭化水素、例えばシクロペンタンおよびシクロヘキサン、脂環式C3〜C6エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフランおよびジオキサン、芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびメシチレン、単鎖ケトン、例えば、アセトン、エチルメチルケトンおよびイソブチルメチルケトン、アミド、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、またはこれらの溶媒の相互の混合物が挙げられる。
【0044】
工程(i)の変換のための溶媒は、好ましくは、少なくとも1種のエーテル、特に脂肪族もしくは脂環式C3〜C6エーテル、または少なくとも1種の前記エーテルと少なくとも1種のアミド、特にN-メチルピロリドンとの混合物を含む。前記の溶媒は、好ましくは溶媒の総量の70重量%以上、特に90重量%以上を占める。しかしながら、炭化水素、特に芳香族炭化水素により前記溶媒を希釈することも可能であり、炭化水素の割合は、好ましくは溶媒の総量の30重量%以下、特に10重量%以下である。前記混合物の中でも、テトラヒドロフランとN-メチルピロリドンとの混合物が特に好ましく、この場合、好ましくは有機亜鉛IIIをTHF中で最初に反応容器に入れた後、パラジウム触媒とN-メチルピロリドンとを、一緒にまたは連続的に加えて、その後、アニリン化合物IIを加える。XがNH2であるアニリン化合物IIの変換の場合、テトラヒドロフランとN-メチルピロリドンとの重量比は、好ましくは5:1〜1:7の範囲、より好ましくは3:1〜1:4の範囲である。XがX1またはX2であるアニリン化合物IIの変換の場合、テトラヒドロフランとN-メチルピロリドンとの重量比は、好ましくは15:1〜1:1の範囲、より好ましくは10:1〜3:1の範囲である。
【0045】
本発明の方法の工程(i)において使用する溶媒の総量は、典型的には、1 molの有機亜鉛IIIに対して100〜3000 gの範囲であり、好ましくは150〜2000 gの範囲である。
【0046】
本質的に無水の、すなわち1000 ppm未満の水含有量、特に100 ppm以下の水含有量を有する溶媒を使用することが好ましい。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、工程(i)において、式IIのアニリン化合物は、XがNH2である場合、いずれの場合にも1 molの式IIIの有機亜鉛に対して、0.1〜1 mol、より好ましくは0.3〜0.9 mol、特に0.5〜0.8 molの量で使用する。それに対して、XがX1またはX2である場合、アニリン化合物IIは、いずれの場合にも1 molの有機亜鉛IIIに対して、好ましくは0.5〜1.5 mol、より好ましくは0.7〜1.3 mol、特に0.9〜1.1 molの量で使用する。
【0048】
既に述べた通り、好ましい実施形態において、工程(i)における変換のために、まず有機亜鉛IIIを溶媒に溶解または分散して反応容器に入れる。この目的で、有機亜鉛は、直接使用することも、in situ形成することも可能である。in situ形成は、典型的には公知の方法と同様に、例えば、Fu et al., J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2721に記載される通りに、有機亜鉛IIIの有機金属前駆体と、およそ等モル量の亜鉛塩、好ましくは塩化亜鉛または臭化亜鉛、特に塩化亜鉛とのトランスメタル化により実施する。ここで使用される有機金属前駆体は、好ましくは対応する有機リチウム化合物または対応する有機マグネシウムグリニャール化合物である。これらの好ましい前駆体化合物の構造は、式IIIの「Hal'Zn」置換基を「Li」または「Hal''Mg」[ここで、Hal''は、好ましくは塩素または臭素である]により置き換えることにより導き出すことができる。in situ形成のための反応は、好ましくは溶媒(一般に前記非プロトン性溶媒のうちの1つであり、より好ましくはエーテル、特にTHFである)中でおこなわれる。典型的には、前駆体化合物を、一般に10〜50℃、好ましくは15〜35℃の温度で、1〜60分間、好ましくは5〜30分間に渡り亜鉛塩と反応させる。このようにして得られた、典型的には溶媒中に存在する有機亜鉛IIIを工程(i)において反応させる。
【0049】
工程(i)の反応メカニズムは、根岸クロスカップリングに提案されているメカニズムと一致するのではないかと考えられる。これによれば、第1段階の酸化的付加において、触媒からのパラジウム(0)がアニリン化合物IIのR-Hal結合の中に挿入されることにより有機パラジウム(II)錯体が形成される。第2段階において、有機亜鉛化合物IIIの有機基がパラジウム(II)に転移する。次の段階のトランス/シス異性化において、パラジウム錯体中に新しく挿入された2つの有機配位子が、それらが互いにシス位になるように再配置される。最後の段階の還元的脱離において、2つの基が、パラジウム(II)のパラジウム(0)への還元を伴うC-C結合の形成により互いにカップリングする。
【0050】
上に説明したように、工程(i)において、遊離アミノ官能基を有するアニリン化合物II(XがNH2である)、または、本発明の好ましい実施形態において、保護されたアミノ官能基を有するアニリン化合物II(XがX1もしくはX2のいずれかである)のいずれかを使用する。後者は、遊離NH2基を有するアニリン化合物IIのイミン誘導体IIaまたはアミジン誘導体IIb:
【化4】

【0051】
[式中、R1、R3、R4、ArおよびHalはそれぞれ上に定義した通りである]
である。
【0052】
化合物Iを調製するための本発明の方法において、遊離アミノ官能基を有するアニリン化合物IIを使用することは、保護された化合物IIaまたはIIbと比べて、必要な合成工程が2段階少ない点で有利である。一方は遊離アミノ官能基を有するアニリン化合物からの式IIaのイミン誘導体または式IIbのアミジン誘導体への変換であり、もう一方は本発明の方法の工程(ii)におけるアミノ基の解放である。一方、保護された化合物IIaまたはIIbを使用することは、遊離アミンII(X = NH2)の使用と比較して、驚くべき利点を有する。例えば、工程(i)における遊離アミンの反応では、特に比較的高い温度において(これは使用する反応物質または使用するパラジウム触媒の反応性が比較的低いために必要となる可能性がある)、ある条件下では収率が低下し、望まれない副産物の生成が増加する。それに対して、工程(i)における化合物IIaまたはIIbの反応では、一般に高い収率が得られ、顕著な副産物の生成もない。触媒活性を有するパラジウムが最初に酸化的に挿入されるハロゲン-炭素結合のオルト位にある保護されたアミノ官能基の嵩高さが、触媒プロセスの最後の段階においてパラジウムの配位子圏(ligand sphere)からの離脱を加速するのではないかと考えられる。
【0053】
式IIIの有機亜鉛化合物および式IIaおよびIIbのイミンまたはアミジン誘導体化アニリン化合物は公知であり、通常の方法により調製することができる。例えば、有機亜鉛IIIは、上記の通りにトランスメタル化により、好ましくは対応する有機リチウムおよび有機マグネシウム化合物から得ることができる。イミンIIaは、対応するアニリン化合物IIを場合により置換されたベンズアルデヒドと反応させることにより有利に得ることができる。アミジンIIbを調製するためには、対応するアニリン化合物IIを、好ましくは特定のジアルキルホルムアミドの活性化された誘導体、特にジアルキルホルムアミドのアセタールと反応させる。
【0054】
本発明の方法の工程(i)における化合物IIと化合物IIIとの反応に適したパラジウム触媒は、パラジウムが0または2の酸化状態を有するパラジウム化合物である。
【0055】
酸化状態0を有するパラジウム化合物の例は、パラジウム(0)-配位子錯体、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、テトラキス(ジフェニルメチルホスフィン)パラジウム(0)またはビス(DIPHOS)パラジウム(0)、または適切な場合には支持された金属パラジウムである。金属パラジウムは、好ましくは不活性支持体、例えば、活性炭、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウムまたは炭酸カルシウムにより支持される。金属パラジウムの存在下での反応は、好ましくは好適な錯体配位子の存在下で実施する。
【0056】
酸化状態2を有するパラジウム化合物の例は、パラジウム(II)-配位子錯体、例えば、パラジウム(II)アセチルアセトネートまたは式PdX2L2[式中、Xはハロゲンであり、Lは特に下で言及するの配位子のうちの1つである]の化合物、ならびにパラジウム(II)塩、例えば酢酸パラジウムまたは塩化パラジウムである。
【0057】
パラジウム触媒は、完成したパラジウム錯体の形で、またはプレ触媒として反応条件下で好適な配位子と共に触媒活性化合物を形成するパラジウム化合物として、使用することができる。
【0058】
プレ触媒としてパラジウム(II)塩を使用する場合、好ましくは、好適な錯体配位子、特に以下に特定する錯体配位子の存在下で反応を実施する。この目的に有用なパラジウム(II)塩は、例えば、塩化パラジウム(II)、塩化ビスアセトニトリルパラジウム(II)および酢酸パラジウム(II)である。この目的に塩化パラジウム(II)を使用することが好ましい。
【0059】
本発明の方法の工程(i)における変換に好適な錯体配位子は、例えば、下記の式VIおよびVII:
【化5】

【0060】
[式中、R6〜R12はそれぞれ独立して、C1〜C8-アルキル、C5〜C8-シクロアルキル、アダマンチル、アリール-C1〜C2-アルキル、フェロセニルまたはアリール(アリールは場合によりC1〜C4-アルキル、C1〜C4-アルコキシ、フッ素または塩素により置換されている)であり、Aはフェロセンジイルまたは直鎖C2〜C5-アルカンジイル(後者は場合によりC1〜C8-アルキルまたはC3〜C6-シクロアルキルにより置換されており、かつ、場合により無置換のもしくは置換された1もしくは2個の単環式もしくは二環式環の一部である)である]
の単座または二座ホスフィンである。
【0061】
特に、式VIIの化合物におけるAは、C2〜C4-アルキレン、C0〜C1-アルキレンフェロセニル、1,1'-ビフェニル-2,2'-ジイルまたは1,1'-ビナフチル-2,2'-ジイルであり、ここで、最後の4個の基は場合によりC1〜C8-アルキルまたはC1〜C4-アルコキシにより置換されていてもよく、また、C2〜C4-アルキレンはさらに、C3〜C7-シクロアルキル、アリールおよびベンジルより選択される1個以上の置換基を有してもよい。これに関して、C2〜C4-アルキレンの1〜4個の炭素原子は、C3〜C7-シクロアルキル環の一部であってもよい。ここでアリールはナフチルまたは場合により置換されたフェニルである。アリールは、好ましくはフェニルまたはトリルであり、より好ましくはフェニルである。C0〜C1-アルキレンフェロセニルは、特にフェロセンジイル(ここで、2個のリン原子のうちの1個がそれぞれフェロセンのそれぞれのシクロペンタジエンに結合する)、またはメチレンフェロセニル(ここで、リン原子の1個がメチレン基を介してシクロペンタジエンに結合し、第2のリン原子が同じシクロペンタジエンに結合し、メチレン基は場合によりC1〜C4-アルキルより選択される1または2個のさらなる置換基を有してもよい)である。
【0062】
本発明の変換に好ましい式VIの単座錯体配位子は、R6、R7およびR8がそれぞれ場合により置換されたフェニルであるもの、例えば、トリフェニルホスフィン(TPP)、ならびにR6、R7およびR8がそれぞれC1〜C6-アルキル、C5〜C8-シクロアルキルまたはアダマンチルであるもの、例えば、ジ-1-アダマンチル-n-ブチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン(TtBP)、メチルジ-tert-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンおよび2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニルである。さらに、亜リン酸エステル、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(A. Zapf et al., Chem. Eur. J. 2000, 6, 1830を参照されたい)を使用することも可能である。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(i)における反応に使用する錯体配位子は、式VIIの二座錯体配位子を含む。式VIIの二座配位子の中でも特に好ましい配位子は、式VIII:
【化6】

【0064】
に相当するものである。式中、R9〜R12はそれぞれ上に定義した通りであり、好ましくはそれぞれ独立して、場合によりメチル、メトキシ、フッ素および塩素より選択される1〜3個の置換基を有するフェニルである。R13およびR14はそれぞれ独立して、水素、C1〜C8-アルキルまたはC3〜C6-シクロアルキルであり、またはR13およびR14は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、場合によりC1〜C6-アルキルにより置換された3〜8員環を形成する。R13およびR14は好ましくはそれぞれ独立して、メチル、エチル、1-メチルエチル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルより選択される。好ましい式(VIII)の化合物の例は、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジメチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-エチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジエチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-プロピルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-エチル-2-プロピルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジプロピルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-ブチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-エチル-2-ブチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-プロピル-2-ブチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジブチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-シクロプロピルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-シクロブチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-シクロペンチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-メチル-2-シクロヘキシルプロパンである。特に好ましい式(VIII)の化合物の例は、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジメチルプロパンおよび1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-エチル-2-ブチルプロパンである。
【0065】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(i)の変換における錯体配位子として使用する配位子は、少なくとも1種のN-複素環カルベン(NHC配位子として知られる)を含む。これらは、特に、例えば、G. A. Grasa et al., Organometallics 2002, 21, 2866に記載される反応性錯体配位子である。NHC配位子は、イミダゾリウム塩、例えば、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-4,5-H2-イミダゾリウムクロリドと塩基からin situで生成し、パラジウム(0)化合物(特にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)またはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)タイプのパラジウム(0)化合物)またはパラジウム(II)塩(例えば、酢酸パラジウム(II))の存在下で好適な触媒に変換される。しかしながら、(NHC)パラジウム(II)錯体塩、特に(1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)(3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリドをあらかじめ調製し、それらを単離した後、あらかじめ形成された触媒として本発明のクロスカップリングに使用することも可能である(S. P. Nolan, Org. Lett. 2005, 7, 1829およびM. G. Organ, Chem. Eur. J. 2006, 12, 4749を参照されたい)。
【0066】
本発明の反応のために、使用するNHC配位子は、好ましくは立体障害のあるイミダゾール-2-イリデン化合物、特に、イミダゾール環の1および3位に嵩高いR15およびR16置換基を有する式IXの化合物である。ここで、好ましくは、R15およびR16はそれぞれ独立してアリールまたはヘタリールであり、それらはそれぞれ無置換であるか、1、2、3または4個の置換基を有し、ここで、置換基は好ましくはC1〜C8-アルキルおよびC3〜C7-シクロアルキルより選択される。特に好ましいR15およびR16置換基は、2および6位に、好ましくは分枝鎖C1〜C6-アルキル基を有するフェニル基である。
【化7】

【0067】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(i)における変換のために、錯体配位子として、少なくとも1種の前記のNHC配位子および場合により少なくとも1種の別の共配位子を有するパラジウム錯体を使用する。このような共配位子は、例えば、環に少なくとも1個の窒素原子を有するヘタリール、特にピリジル(無置換であるか、ハロゲン、C1〜C6-アルキルおよびC1〜C8-アルコキシより選択される1、2または3個の置換基を有する)より選択される。このような共配位子の具体的な例は、3-クロロピリジルである。
【0068】
本発明の特に好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(i)における変換のために、トリ-tert-ブチルホスフィン、メチルジ-tert-ブチルホスフィン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2,2-ジメチルプロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィニル)-2-エチル-2-ブチルプロパンおよび1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデンより選択される錯体配位子を使用する。
【0069】
本発明の方法においてパラジウム化合物をプレ触媒として好適な配位子と共に使用する場合、一般に0.5〜5モル等量の前記の錯体配位子を1当量のパラジウム(II)塩またはパラジウム(0)化合物と混合する。パラジウム化合物に対して1〜3モル等量の錯体配位子を使用することが特に好ましい。
【0070】
本発明の方法において、パラジウム触媒は、使用する有機亜鉛化合物IIIの量に対して、好ましくは0.001〜5.0 mol%、好ましくは0.01〜1.0 mol%、特に0.1〜0.5 mol%の量で使用する。
【0071】
工程(i)の反応温度は、いくつかのファクター、例えば使用する反応物質の反応性および選択されたパラジウム触媒のタイプにより決定され、当業者が個々の事例において例えば簡単な予備試験により決定することができる。一般に、本発明の方法の工程(i)における変換は、0〜200℃の範囲、好ましくは10〜130℃の範囲、特に25〜130℃の範囲、より好ましくは30〜65℃の範囲の温度でおこなう。使用する溶媒、反応温度および反応容器が排気口を有するかどうかに依存して、反応の間に圧力は一般に1〜6 bar、好ましくは1〜4 barとなる。
【0072】
本発明の方法の工程(i)における変換により得られた反応生成物は、XがNH2であるアニリン化合物IIを使用した場合、式Iの2-アミノビフェニルである。得られた反応混合物の後処理は、一般に酸水溶液を用いて、すなわち、反応混合物を酸の水溶液に接触させることにより実施する。鉱酸、特に塩酸の水溶液を、一般に1〜25重量%、好ましくは5〜15重量%の濃度で使用することが好ましい。場合により、酸水溶液の添加の前または後に、固体の形で得られたパラジウム触媒を例えば濾過により除去する。式Iの2-アミノビフェニルは、一般に、このようにして得られた水性反応混合物から有機溶媒により抽出し、次いで有機溶媒を除去することにより単離することができる。一般に、抽出を実施する前に、酸性化された水性反応混合物に塩基、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより、pHを塩基性の領域、好ましくは9〜13の値に調節すると有利である。次に、このようにして単離した2-アミノビフェニルIを、使用のために保管するか、例えばさらなる反応工程における使用に直接送り込むか、またはその前にさらに精製することができる。さらに精製するために、当業者に公知の1つ以上の方法、例えば、再結晶、蒸留、昇華、ゾーンメルティング、溶融結晶化またはクロマトグラフィーを使用することが可能である。
【0073】
それに対して、本発明の方法の工程(i)においてXがX1またはX2であるアニリン化合物IIを使用した場合、反応生成物としてビフェニル化合物IaまたはIbが得られ、これを、後処理をおこなった後、またはおこなわずに、本発明の方法の工程(ii)に使用することができる。後処理は、典型的には水性または非水性手段により実施する。水性の後処理のためには、一般に、反応混合物を場合により酸性化された水溶液と接触させる。酸性化された水溶液は、好ましくは鉱酸、特に塩酸の希水溶液であって、0.001〜5重量%、特に0.1〜3重量%の濃度を有する。場合により、水溶液の添加の前または後に、固体の形で得られたパラジウム触媒を例えば濾過により除去する。このようにして得られた水性反応混合物から、一般に有機溶媒により抽出し、次いで有機溶媒を除去することにより、式IaまたはIbのビフェニル化合物を単離することができる。非水性の後処理には、反応混合物を、場合により例えば活性炭により処理した後、一般に、例えば珪藻土により濾過し、濾液から溶媒を除去することにより生成物を単離する。水性または非水性の後処理の後、このようにして得られたビフェニル化合物IaまたはIbを、本発明の方法の工程(ii)に直接使用することも、他の用途に送り出すことも可能である。あるいは、これをさらなる使用のために保管してもよく、または、まず当業者に公知の方法を用いてさらに精製してもよい。
【0074】
化合物IaおよびIbは新規であり、同様に本発明の主題の一部を形成する。
【化8】

【0075】
[式中、n、R1、R2、R3、R4およびArは、それぞれ上に定義した通りである]
好ましい式Iaの化合物において、nは1、2または3であり、それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオまたはC1〜C4-フルオロアルキルチオ、特に、フッ素、C1〜C4-アルキルまたはC1〜C4-フルオロアルキルである。好ましい式Ibの化合物において、nは1、2または3であり、それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオまたはC1〜C4-フルオロアルキルチオ、特にフッ素、C1〜C4-アルキルまたはC1〜C4-フルオロアルキルである。特に好ましい式IaまたはIbの化合物において、nは1、2または3であり、それぞれのR2はフッ素である。R1は、特に水素またはフッ素である。Arは特にフェニルである。R3およびR4は特に、それぞれメチルまたはエチルである。特に好ましい式Iaの化合物は、2-フェニルメチリデンアミノ(3',4',5'-トリフルオロ)ビフェニルであり、特に好ましい式Ibの化合物は、N,N-ジメチル-N'-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)-ホルムアミジンである。
【0076】
置換2-アミノビフェニルIを調製するための本発明の方法の工程(ii)において、工程(i)により得られた反応生成物に、一般に、加水分解条件下で、存在するイミンまたはアミジン基をアミノ基に変換する反応をおこなう。典型的には、工程(ii)は温度制御下でおこない、また、好ましい実施形態において、還流冷却器および加熱装置、および場合により蒸留装置を取り付けた反応容器中でおこなう。
【0077】
工程(i)により得られた反応生成物が化合物Iaである場合、一般に、加水分解は、例えばT. Nozoe et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 1989, 62, 2307に記載される通りに、酸性条件下でおこなう。好ましい実施形態において、加水分解には、鉱酸、特に塩酸の水溶液を、一般に好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜10重量%の濃度で使用する。酸を加えた後、混合物を25〜100℃、特に50〜90℃の温度に、典型的には30分〜10時間、特に1〜5時間加熱する。工程(i)の後に溶媒を除去した場合には、あらかじめ混合物を好ましくは極性有機溶媒中に取る。化合物Iaの加水分解反応の後に得られた反応混合物は、当業者に公知の方法により後処理する。例えば、Ar基がフェニルである場合、まず放出されたベンズアルデヒドを水との共沸混合物として蒸留により除去し、水性の残渣を、場合によりpHを調節した後、有機溶媒により抽出することができる。
【0078】
工程(i)により得られた反応生成物が化合物Ibである場合、加水分解は酸または塩基のいずれかを加えることにより実施する。塩基による加水分解は、例えば、A. I. Meyers et al., Tetrahedron Lett. 1990, 31, 4723に記載される反応と同様におこなうことができる。酸による加水分解には、鉱酸、特に硫酸の水溶液を、一般に0.5〜5モル、好ましくは1〜3モルの水溶液として使用することが好ましい。酸を加えた後、混合物を25〜100℃、特に50〜90℃の温度に加熱して、化合物1bを完全に、または実質的に完全に変換させる。工程(i)の後に溶媒を除去した場合には、場合によりあらかじめ混合物を好ましくは極性有機溶媒中、例えばブタノール中に取る。化合物Iaの加水分解反応の後に得られた反応混合物は、当業者に公知の方法により後処理する。例えば、R3およびR4基が例えばそれぞれメチルである場合、最初に、水不溶性有機溶媒を用いる抽出により、放出されたジメチルホルムアミドから式Iの加水分解生成物を取り出す。この場合、特に、工程(i)および/または(ii)において水混和性溶媒を使用している場合には、抽出の前に、例えば蒸留により、溶媒の少なくとも一部を除去することが有利であり得る。
【0079】
あるいは、工程(ii)において、化合物Ibのアミジン基のアミノ官能基への変換は、例えば、L. Lebeau et al., J. Org. Chem. 1999, 64, 991に記載される方法を用いて、水素化により実施することもできる。
【0080】
工程(ii)において化合物IaまたはIbの加水分解の後処理の後に得られた置換2-アミノビフェニルの粗生成物に対して、さらなる精製のために、1種以上の当業者に公知の方法、例えば、再結晶、蒸留、昇華、ゾーンメルティング、溶融結晶化またはクロマトグラフィーをおこなうことができる。
【0081】
本発明はさらに、式IV:
【化9】

【0082】
[式中、
n、R1およびR2はそれぞれ上に定義した通りであり、
R5はメチルまたはハロメチルである]
の化合物を調製する方法であって、本発明の方法により式Iの2-アミノビフェニルを提供し、次いで、式Iの2-アミノビフェニルを式V:
【化10】

【0083】
[式中、R5は上に定義した通りであり、Wは脱離基である]
の化合物によりN-アシル化して式IVの化合物を得ることを含む、前記方法を提供する。
【0084】
適切で好ましい化合物Iに関して、上述の内容を完全に参照する。
【0085】
化合物Iを、アミド形成のための通常使用される先行技術の方法により式IVのピラゾールカルボキシアミドに変換する。
【0086】
一般に、本発明のアミノビフェニルIのN-アシル化のために、使用される試薬Vは、カルボン酸、またはアミド形成が可能なカルボン酸誘導体、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物もしくはエステルである。したがって、脱離基Wは、典型的には、ヒドロキシ、ハロゲン、特に塩素または臭素、-OR7基または-O-CO-R8基(ここで、R7およびR8置換基の定義は以下に説明する)である。
【0087】
試薬Vをカルボン酸(W = OH)の形態で使用する場合、反応はカップリング試薬の存在下でおこなうことができる。好適なカップリング試薬(活性化剤)は当業者に公知であり、例えば、カルボジイミド、例えば、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)およびDCI(ジイソプロピルカルボジイミド)、ベンゾトリアゾール誘導体、例えば、HBTU((O-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)およびHCTU(1H-ベンゾトリアゾリウム-1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-5-クロロテトラフルオロボレート)、ならびにホスホニウム活性化剤、例えば、BOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、Py-BOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジンホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)およびPy-BrOP(ブロモトリピロリジンホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)より選択される。一般に、活性化剤は過剰に使用する。ベンゾトリアゾールおよびホスホニウムカップリング試薬は一般に塩基性の媒体中で使用する。
【0088】
好適なカルボン酸Y-COOH[式中、Yは化合物Vのピラゾール環である] の誘導体は、2-アミノビフェニルIと反応してアミドIVを与えることができるすべての誘導体、例えば、エステルY-C(O)-OR7(W = OR7)、酸ハロゲン化物Y-C(O)X[式中、Xはハロゲン原子である](W = ハロゲン)、または酸無水物Y-CO-O-OC-R8(W = -O-CO-R8)である。
【0089】
酸無水物Y-CO-O-OC-R8は対称無水物Y-CO-O-OC-Y(R8 = Y)または非対称無水物(ここで、-O-OC-R8は、反応に使用される2-アミノビフェニルIにより容易に置換され得る基である)のいずれかである。カルボン酸Y-COOHと共に好適な混合無水物を形成することができる好適な酸誘導体は、例えばクロロギ酸エステル、例えばクロロギ酸イソプロピルおよびクロロギ酸イソブチル、またはクロロ酢酸エステルである。
【0090】
好適なエステルY-COOR7は、好ましくはC1〜C4-アルカノールR7OH[式中、R7はC1〜C4-アルキルである]、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ブタン-2-オール、イソブタノールおよびtert-ブタノールから誘導されるものであり、メチルおよびエチルエステル(R7 = メチルまたはエチル)が好ましい。また、好適なエステルは、C2〜C6-ポリオール、例えば、グリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトールおよびソルビトールから誘導されるものであり、グリセリルエステルが好ましい。ポリオールエステルを使用する場合、混合エステル、すなわち異なるR7基を有するエステルを使用することも可能である。
【0091】
あるいは、エステルY-COOR7はいわゆる活性エステルであり、これは、正式には酸Y-COOHと活性エステル形成性アルコール、例えば、p-ニトロフェノール、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミドまたはOPfp(ペンタフルオロフェノール)との反応により得られる。
【0092】
あるいは、N-アシル化に使用する試薬Vは、別の従来の脱離基W、例えば、チオフェニルまたはイミダゾリルを有してもよい。
【0093】
上記の式Vの試薬を用いる本発明のN-アシル化は、公知の方法と同様におこなうことができる。
【0094】
化合物IのN-アシル化に、ハロゲン化カルボニルV、特に脱離基Wが塩素または臭素であるもの、より好ましくは塩素であるものを使用することが好ましい。この目的で、1 molの化合物Iあたり、好ましくは0.5〜4 mol、特に1〜2 molの酸塩化物を使用する。
【0095】
典型的には、酸塩化物VによるアミノビフェニルIのN-アシル化は、塩基、例えばトリエチルアミンの存在下でおこない、この場合1 molの酸塩化物あたり、一般に0.5〜10 mol、特に1〜4 molの塩基を使用する。
【0096】
式IVの化合物は、しばしば、最初に対応する化合物Iを塩基と共に、好ましくは溶媒中で、反応容器に入れ、約-30℃〜50℃、特に0℃〜25℃の範囲の温度で、酸塩化物を場合により溶媒に溶解して段階的に加えることにより調製される。典型的には、その後温度を上げて、例えば、0℃〜150℃、特に15℃〜80℃の範囲の温度で反応を続ける。
【0097】
しかしながら、アシル化は塩基を加えずにおこなうことも可能である。この目的で、二相系でアシル化をおこなう。これらの相の1つは水相であり、第2の相は少なくとも1種の本質的に水非混和性の有機溶媒をベースとする。好適な水性溶媒および好適な基本的に水非混和性の有機溶媒はWO 03/37868に記載されている。この参照文献には、塩基を用いないアシル化法のためのさらなる好適な反応条件が一般論として記載されている。
【0098】
本発明のN-アシル化反応で得られた反応混合物の後処理および式IVの化合物の単離は、通常の方法により、例えば水による抽出、溶媒の除去(例えば減圧下で)、またはこれらの手段の組合せにより実施する。さらなる精製は、例えば、結晶化、蒸留またはクロマトグラフィーにより実施することができる。
【0099】
本発明の方法により、第1に、2-アミノビフェニルIを、複雑な方法を用いることなく、良好から非常に良好な収率で、かつ高い選択性で得ることが可能になり、第2に、2-アミノビフェニルから誘導されるカルボキシアミドIVを、容易に、かつ、一般に定量的に得ることができる。
【実施例】
【0100】
A. 式IIIの有機亜鉛化合物および類似のグリニャール化合物の調製
以下の実施例は、例として、本発明の方法に使用する有機亜鉛化合物および類似の有機マグネシウム化合物(グリニャール化合物)を調製する方法を示すことを目的とする。
【0101】
A.1 3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミド
窒素またはアルゴンにより不活性化された反応器に、まずマグネシウムの削りくず(83.2 g;3.42 mol)を入れ、次いで無水の安定化されていないテトラヒドロフラン(THF、1646.2 g)を加えた。この懸濁液に、3,4,5-トリフルオロブロモベンゼン(30 g;0.14 mol)を25℃の温度で攪拌しながら滴加し、反応の開始を待った。反応の開始は、温度が自発的に約32℃まで上昇することにより確認できる。次に、さらなる3,4,5-トリフルオロブロモベンゼン(571.9 g;2.71 mol)を、25〜35℃の温度で、5時間以内に計り入れた。反応を完了させるために、25〜30℃で2時間攪拌を続けた。その後、反応混合物を濾過し、濾取された過剰のマグネシウムを少量のTHFにより洗浄し、洗浄液を濾液と混合した。このようにして調製されたTHF溶液の3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミドの含有量を、使用した3,4,5-トリフルオロブロモベンゼンが完全に変換したと仮定して計算すると、1.1〜1.2 mmol/g溶液であった。
【0102】
A.2 3,4,5-トリフルオロフェニル亜鉛ブロミド
3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミドの調製と同様の反応により、マグネシウムの削りくずをリーケ亜鉛(Rieke zinc)に置き換えて、3,4,5-トリフルオロフェニル亜鉛ブロミドのTHF中の約1 M溶液を得た。
【0103】
B 式IIaおよびIIbのN-誘導体化2-アニリン化合物の調製
以下の実施例は、例として、本発明の方法に使用するアニリン化合物IIのイミンまたはアミジン誘導体を調製する方法を示すことを目的とする。
【0104】
B.1 1-フェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼンの調製
98% 2-クロロアニリン(781 g;6 mol)および98%ベンズアルデヒド(659.6 g;6 mol)をエタノール(832 g)に溶解し、溶液を8時間還流下で沸騰させた(加熱装置を90℃に調節した)。次に、反応溶液をロータリーエバポレーターにより85℃および20 mbarで濃縮した後、蒸留装置により分留した。主な留分は142℃および1.3 mbarで留出した。1048 gの生成物が99%の純度で得られた。
【0105】
EI-MS [m/z]: 215 [M]+;
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ= 7.0 (d, 1H); 7.1 (t, 1H); 7.23 (dd, 1H); 7.4 (d, 1H); 7.45-7.5 (m, 3H); 7.93 (d, 2H); 8.34 (s, 1H) ppm;
13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ= 118.9; 126.3. 127.8; 128.8; 129.1; 129.4; 130.1; 131.8; 35.9; 149.6; 162.1 ppm。
【0106】
B.2 N,N-ジメチル-N'-(2-クロロフェニル)ホルムアミジンの調製
98% 2-クロロアニリン(195 g;1.5 mol)および98%ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(228.2 g;1.8 mol)をトルエン(300 g)に溶解し、溶液を4時間加熱還流した。この時間中に、内部温度は96℃から77℃に低下した。その後、15 gの留分を除去し、この時間中に内部温度は84℃に再上昇した。最後に、反応溶液をロータリーエバポレーターにより90℃および5 mbarで濃縮し、得られた褐色のオイル(270.5 g)をカラム蒸留により分留した。主な留分は120℃および1.4 mbarで留出し、生成物を>99%の純度で含んでいた(GCスペクトルの面積パーセンテージを用いて測定した)。
【0107】
EI-MS [m/z]: 182 [M]+;
1H NMR (500 MHz, DMSO):δ= 2.9 (s, 6H); 6.85-6.95 (m, 2H); 7.1-7.16 (m, 1H); 7.34 (d, 1H); 7.58 (s, 1H) ppm;
13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ= 33.9; 120.8; 122.5; 127.2; 127.4; 129.4; 149.1; 153.6 ppm。
【0108】
C 遊離アミノ基を有する式IIのアニリン化合物からの式Iの環置換2-アミノビフェニルの調製
以下の実施例は、例として、式IIの2-ハロアニリンを出発物質として、本発明の方法により式Iの置換2-アミノビフェニルを調製する方法を示すことを目的とする。両方の実施例において、有機亜鉛は、対応するグリニャール化合物からin situ形成される。
【0109】
C.1 2-ブロモアニリンからの3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルの調製
100 mlのガラス製フラスコに、まず塩化亜鉛(4.8 mmol)のトルエン溶液(0.5 M)を入れ、そこに3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミド(4.5 mmol;1 gの溶液あたり1.15 mmol)のTHF溶液を25℃の温度で加えた。20分間攪拌した後、N-メチルピロリドン(6.8 g)を反応溶液に加えた。さらに5分後、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボレート(18.2 mg)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(18.2 mg)および2-ブロモアニリン(0.54 g;3 mmol)を加えた。次に、反応溶液を25℃の温度で5時間攪拌した。その後、反応混合物を10重量%塩酸に加え、塩化ナトリウム溶液によりpHを12に調節した後、混合物をジエチルエーテルにより抽出した。
【0110】
有機相のガスクロマトグラフィー分析により、主生成物である3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルが、反応物質である2-ブロモアニリンならびに副生成物である1,2,3-トリフルオロベンゼンおよび3,4,5,3',4',5'-ヘキサフルオロビフェニルに対して、44:3:39:3の比で存在することが示された。使用したグリニャール化合物が主生成物および上記の2種の副生成物のみを形成したと仮定すると、これは2-ブロモアニリンに対して55%の収率となる。
【0111】
C.2 2-クロロアニリンからの3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルの調製
100 mlのガラス製フラスコ中で、3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミド(4.5 mmol;1 gの溶液あたり1.15 mmol)のTHF溶液を、25℃の温度で、固体の塩化亜鉛(0.9 g;6.4 mmol)に加えた。30分間攪拌した後、12.7 mlのN-メチルピロリドンを反応溶液に加えた。さらに15分後、(1,3-ビス-(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)(3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド(27 mg)を加え、さらに15分後に2-クロロアニリン(0.51 g;4 mmol)を加えた。このようにして得られた反応溶液を25℃の温度で2時間攪拌した後、4時間加熱還流した。その後、重さを量った反応混合物の試料を、メスフラスコ中で1 mlの10%塩酸により加水分解し、アセトニトリルおよび水を標線まで加えた。このようにして得られた標準溶液の分析を定量HPLCによりおこない、反応混合物が2.6 mmolの3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルを含むことが示された。これは2-クロロアニリンに対して65%の収率に相当する。
【0112】
D 式IIaおよびIIbのアニリン誘導体からの式IaおよびIbのN-誘導体化2-アミノビフェニルの調製およびそれに続く加水分解による遊離アミノ基を有する2-アミノビフェニルの生成
以下の実施例は、例として、式IIaおよびIIbのN-誘導体化2-ハロアニリンを出発物質として、本発明の方法により式IaおよびIbのN-誘導体化2-アミノビフェニルを調製し、次いで、場合により加水分解により対応する式Iの2-アミノビフェニルに変換する方法を示すことを目的とする。
【0113】
D.1 フェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼンからの2-フェニルメチリデンアミノ-3',4',5'-トリフルオロビフェニルの調製
750 mlの反応器中で、塩化亜鉛(20 g;0.147 mol)およびTHF(76 g)の混合物を30℃の温度に加熱した。次に、3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミド(0.133 mol)のTHF溶液(1 gの溶液あたり1.15 mmol)を加えた。10分間攪拌した後、(1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)(3-クロロピリジル)パラジウム(II)クロリド(462 mg)を25℃の温度で加えた。さらに5分後、反応混合物にN-メチルピロリドン(30 g)を加え、さらに10分後に99%フェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼン(29 g;0.133 mol)を加えた。その後、混合物を50℃に加熱し、この温度で6時間攪拌した。後処理のために、水(300 g)、濃塩酸(22 g)およびジエチルエーテル(300 g)を加えて、分液ロート中で混合した。次に、有機相を除去し、水相をジエチルエーテル(300 g)によりもう一度抽出した。有機相を合わせてロータリーエバポレーターにより濃縮して、暗色のオイルを得た。これはすぐに結晶化した(81.3 g)。
【0114】
ガスクロマトグラフィー分析により、2種類の生成物が81:19の比で存在することが示された。これは、イミン誘導体、2-フェニルメチリデンアミノ-3',4',5'-トリフルオロビフェニル、およびそれから形成された加水分解生成物、3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルであった。GC分析における高い方のピークの同定は、3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルおよびベンズアルデヒドから独立してイミン誘導体を合成することにより確認された。
【0115】
イミン誘導体は定量HPLC分析の条件下で完全に加水分解されて3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルとなるので、ビフェニルカップリング生成物の総収量は、定量HPLCにより3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルについて測定された123 mmolの値となった。これは、使用したフェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼンに対して、92%の収率に相当する。
【0116】
EI-MS [m/z]: 311 [M]+;
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ= 7.05 (d, 1H); 7.1-7.2 (m, 2H); 7.25-7.3 (m, 1H); 7.32-7.5 (m, 5H); 7.76-7.82 (d, 2H); 8.45 (s, 1H) ppm;
13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ= 114.25; 118.95; 126.36; 128.90; 128.94; 129.54; 129.88; 131.66; 132.62; 135.65; 136.14; 138.89; 149.49; 150.62; 160.64 ppm。
【0117】
D.2 フェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼンからの3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルの調製
1 lの反応器中で、塩化亜鉛(20 g;0.147 mol)およびTHF(29 g)を30℃の温度に加熱した。次に、3,4,5-トリフルオロフェニルマグネシウムブロミド(0.133 mol)のTHF溶液(1 gの溶液あたり1.15 mmol)を加えた。10分間攪拌した後、(1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)(3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド(462 mg)を25℃の温度で加えた。さらに5分後、N-メチルピロリドン(30 g)を反応混合物に加え、さらに10分後に99% フェニルメチリデンアミノ-2-クロロベンゼン(29 g;0.133 mol)を加えた。その後、混合物を50℃に加熱し、この温度で6時間攪拌した。後処理のために、3.4 gの活性炭を加え、得られた懸濁液を1時間攪拌した後、珪藻土により濾過した。フィルターケーキをTHF(200 g)により洗った後、濾液をロータリーエバポレーターにより50℃の温度で5 mbarに減圧して濃縮した。残った残渣に水(200 g)および濃硫酸(28 g)を加えた。混合物を80℃の温度で3時間攪拌し、放出されたベンズアルデヒドを水との共沸混合物として蒸留により除去した。次に、水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを2.8に調節し、トルエン(200 g)を加えた。相を分離した後、水相をトルエン(200 g)によりもう一度抽出し、有機相を合わせて水(100 g)により洗浄し、ロータリーエバポレーターにより80℃および5 mbarで濃縮して、暗色のオイル(26.7 g)を得た。これは放置すると結晶化した。
【0118】
定量HPLCによる分析により、形成されたオイルの86.4重量%が3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルであることが示され、これは78%の収率に相当する。
【0119】
D.3 N,N-ジメチル-N'-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)ホルムアミジンの調製および3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルへの加水分解
1 lの反応器に、まず3,4,5-トリフルオロフェニル亜鉛ブロミドのTHF溶液(132.2 g;1 M)を入れ、THF(104.9 g)により希釈した。その後、(1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)(3-クロロピリジルパラジウム(II)ジクロリド(461.8 mg)を25℃の温度で加えた。さらに5分後にN-メチルピロリドン(29.9 g)を、さらに10分後にN,N-ジメチル-N'-(2-クロロフェニル)ホルムアミジン(24.4 g;0.133 mol)を混合物に加えた。その後、混合物を50℃に加熱し、この温度で6時間攪拌した。25℃の温度で一晩放置した後、混合物をさらに1時間加熱還流し、再度25℃に冷却した。後処理のために、2.5 gの活性炭を加えて混合物を一晩攪拌し、珪藻土により濾過した。フィルターケーキをさらに200 gのTHFにより洗浄した。
【0120】
合わせた濾液(387.8 g)中のN,N-ジメチル-N'-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)ホルムアミジンの割合は、定量HPLCによる分析によれば、8.4重量%であり、これは89%の収率に相当する。
【0121】
濾液中に存在するN,N-ジメチル-N'-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)ホルムアミジンの同定は、3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニルおよびジメトキシメチルジメチルアミンからの独立した合成により確認された。
【0122】
EI-MS [m/z]: 278 [M]+;
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ= 2.88 (s, 3H); 3.0 (s, 3H); 6.95 (d, 1H); 7.02 (t, 1H); 7.2-7.3 (m, 2H); 7.4-7.5 (m, 2H); 7.6 (s, 1H) ppm;
13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ= 33.71; 39.21; 114.01; 114.25; 119.67; 122.15; 129.87; 130.65; 137.17; 137.41; 149.62; 149.27; 153.04。
【0123】
加水分解による変換のために、粗生成物をn-ブタノールに溶解し、硫酸水溶液(2 M)を加えた後、加熱還流した。3,4,5-トリフルオロ-2'-アミノビフェニル生成物がn-ブタノール溶液として得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中、
nは0、1、2または3であり、
R1は水素、シアノまたはフッ素であり、
それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオより選択される]
の置換2-アミノビフェニルを調製する方法であって、以下の工程:
(i) 式IIのアニリン化合物と式IIIの有機亜鉛化合物とを、
【化2】

[式中、
HalおよびHal'はそれぞれ独立して臭素または塩素であり、
n、R1およびR2はそれぞれ上に定義した通りであり、
XはNH2またはX1もしくはX2基であり、
【化3】

ここで、
Arは、場合によりC1〜C4-アルキルおよびC1〜C4-アルコキシより選択される1、2または3個の置換基を有するフェニルであり、
R3およびR4はそれぞれ独立してC1〜C6-アルキルである]
パラジウムと1種以上の錯体配位子とを含むパラジウム触媒の存在下で反応させる工程、
ならびに、式IIにおいてXがX1またはX2基である場合、
(ii) 工程(i)で得られた生成物を式Iの2-アミノビフェニルに変換する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
XがX1またはX2基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1が水素またはフッ素であり、R2がフッ素であり、nが2または3である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Hal'が塩素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(i)を、その中にエーテルが存在する有機溶媒中でおこなう、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒がエーテルとN-メチルピロリドンとの混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式IIIの有機亜鉛化合物が、対応するグリニャール化合物からin situ形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
パラジウムが酸化状態0または2のパラジウムである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
錯体配位子が式VIの単座ホスフィンおよび/または式VIIの二座ホスフィン:
【化4】

[式中、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して、C1〜C8-アルキル、C5〜C8-シクロアルキル、アダマンチル、アリール-C1〜C2-アルキル、フェロセニルまたはアリールであって、アリールは場合によりC1〜C4-アルキル、C1〜C4-アルコキシ、フッ素もしくは塩素により置換されており;Aはフェロセンジイルまたは直鎖C2〜C5-アルカンジイルであって、後者は場合によりC1〜C8-アルキルまたはC3〜C6-シクロアルキルにより置換されており、かつ、場合により1もしくは2個の無置換もしくは置換された単環系もしくは二環系環の一部である]
を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
錯体配位子が、少なくとも1種の式IX:
【化5】

[式中、R15およびR16はそれぞれ独立してアリールまたはヘタリールであり、ここで、アリールおよびヘタリールはそれぞれ無置換であるか、C1〜C8-アルキルおよびC3〜C7-シクロアルキルより選択される1、2、3または4個の置換基を有する]
のイミダゾリリデン化合物を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式IaまたはIb:
【化6】

[式中、
nは0、1、2または3であり、
R1は水素、シアノまたはフッ素であり、
それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオより選択され、
Arは、場合によりC1〜C4-アルキルおよびC1〜C4-アルコキシより選択される1、2または3個の置換基を有するフェニルであり、
R3およびR4はそれぞれ独立してC1〜C6-アルキルである]
の化合物。
【請求項12】
nが1、2または3であり、R1が水素またはフッ素であり、それぞれのR2がフッ素であり、Arがフェニルであり、R3およびR4がそれぞれメチルである、請求項11に記載の式IaまたはIbの化合物。
【請求項13】
2-フェニルメチリデンアミノ(3',4',5'-トリフルオロ)ビフェニルである、請求項11に記載の式Iaの化合物。
【請求項14】
N,N-ジメチル-N'-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)ホルムアミジンである、請求項11に記載の式Ibの化合物。
【請求項15】
式IV:
【化7】

[式中、
nは0、1、2または3であり、
R1は水素、シアノまたはフッ素であり、
それぞれのR2は独立して、シアノ、フッ素、C1〜C4-アルキル、C1〜C4-フルオロアルキル、C1〜C4-アルコキシ、C1〜C4-フルオロアルコキシ、C1〜C4-アルキルチオおよびC1〜C4-フルオロアルキルチオより選択され、
R5はメチルまたはハロメチルである]
のピラゾールカルボキシアミドを調製する方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載される通りに式Iの2-アミノビフェニルを調製すること、およびそれに続いて式Iの2-アミノビフェニルを式V:
【化8】

[式中、R5は上に定義した通りであり、Wは脱離基である]
の化合物によりN-アシル化して式IVの化合物を得ることを含む、前記方法。
【請求項16】
Wがヒドロキシまたはハロゲンである、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2012−518030(P2012−518030A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550564(P2011−550564)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052033
【国際公開番号】WO2010/094736
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】